ぐらさい日記   作:長之助

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ビビビの敏感シスターズ

「さて、今回の依頼の確認をします」

 

 グランはアンスリアと共にとある場所に来ていた。それは、とある富豪が経営する個人的な会場だった。

 

「私がここで舞を披露すればいいのよね?」

 

「うん、これ以上ないってくらい客を魅了してもらっても構わない」

 

 得意げに微笑むアンスリア。グランもそれに合わせて親指を立ててサムズアップをする。

 

「でも、怪盗さんの方は1人でいいのかしら?」

 

「あー、大丈夫大丈夫」

 

 怪盗……夜煙、つまりキャサリンの事なのだが……今回、彼女も依頼に参加している。と言っても別の依頼なのだが、なんの偶然か依頼内容こそ別だが向かう場所は同じという奇妙な偶然が起こっていた。これをグランは好機と捉えて、同時に依頼をこなすことを思いついたのである。

 

「にしても、まさかこんな偶然が起きるなんてなぁ……」

 

「えぇ、結構奇妙な事よね」

 

 実は、今回グランは特に依頼に関係ないのだ。アンスリアの護衛として来ており、依頼に関してはアンスリア個人を指定したものとなっている。

 アンスリア側の依頼は、急遽休んだ人物の代わりとして舞を躍ること。そしてキャサリン側の依頼は、アンスリアに依頼した富豪の家からとあるものを盗むこと、である。

 

「でも、何を盗むつもりなのかしら? グランは知っているんでしょう?」

 

「知ってるけど教えない、今はまだ言えないからさ……まぁ助っ人は呼んであるよ。主に……アンスリアに依頼した人対策としてさ」

 

 キャサリンが盗むとあるもの……それは、契約書である。この家に働きに来た人物を違法な契約によって縛る契約書。ただの契約書ではなく、それを書いてしまうと紙に宿った魔力によって魔法的に縛られてしまうというものである。

 それがある限り、契約した人達は陰口を言うことすら許されない。そんなものを許す訳には行かないので、キャサリンは働いている者達の親御さん達から依頼された……ということなのである。

 

「アンスリア、絶対に依頼書に名前書くなよ?」

 

「えぇ、わかってるわ」

 

 キャサリンが盗むとはいえ、書いてしまえばなにをされたかわかったものじゃない。故に、今回は特に念入りに作戦メンバーを決めているのだ。

 

「でも……今回の依頼で人数割いてない?」

 

「大丈夫だ、強力者もいるって言っただろ?」

 

 今回、富豪が違法なことをしているというのは既にわかっていたことである。アンスリアの依頼だけなら断ることも出来たが、キャサリンの依頼もあれば、同時に行う事で油断を誘うということも可能なのだ。

 

「キャサリンは嫌がるけど、今回盗む側のメンバーとしてシャノワールとタッグを組むように依頼してる。それに、依頼者を逮捕するために秩序の騎空団のメンバーと……全空捜査局のリックにも頼んである。

 さらにアンスリアの護衛で俺、ステージの中には客として紛れ込んでるフェードラッヘ組とソーンを除いた十天衆組、ソーンとシルヴァで外から依頼者を視認する役割も持たせてある。

 しかもその2人の邪魔はさせないようにソーンには錬金術師組、シルヴァにはマナリア組を配置してある」

 

「……重装備ね」

 

「念には念を入れて、だよ。実際みんな快く受け入れてくれたし」

 

 一応言っておくが、契約書で縛ること以外は本当にただの一般人である。それに関してもちゃんとした調査を行って判明している事だ。だが、グランはそれに対して本気で挑んでいた。

 更にいうと、予め他のメンバーを使って建物内の地図も把握済みである。こちらはザーリリャオーとミラオルがやってくれている。

 

「さて、どうやってあの男を沈めてやろうか……」

 

「グラン、顔が怖い怖い」

 

「おっと失礼……さて、そろそろ依頼開始の時間だ。頼むぞアンスリア」

 

「えぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンスリアが舞を踊り始めてしばらくしてから。グランたちは特に変わった様子もないことに、少し違和感を感じていた。

 

「ねぇねぇ団長ちゃん」

 

「シエテ……? どしたの」

 

「ちょーっと……違和感があってね。あんまりにも何も起こらなさすぎる」

 

「確かに……アンスリアはずっと舞を踊ってるし……あそこに依頼者もいる」

 

「幻術で見せてる幻覚って訳じゃないみたいだしね」

 

 シエテと共に、この奇妙な違和感をどうにも出来ないでいるグラン。少しだけ、作戦の変更を行う。

 

「シエテ、オクトーと一緒に裏手に回って欲しい」

 

「了解、任せてよ」

 

 2人なら問題ないだろうと、グランは指示を出して2人を裏手に回す。その違和感に気づいたアンスリアは、ほんの一瞬……たった一瞬だけ動きが止まったが、すぐに舞を再開するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん……警備員も誰もいないなんて……実に馬鹿らしいわね」

 

「今回……予告状も二人分出しておきながらこうなのだから、確かに馬鹿だ」

 

 こちらは怪盗二人組。最適な侵入経路、最短経路、そして部屋の錠前のピッキング……これ以上無いくらいに効率的に進めている。あっという間に、2人は契約書を手に入れていた。

 

「ふむ……随分簡単に手に入ったものだ……」

 

「……偽物って線は?」

 

「いいや、これは本物さ。契約書がもう一種類あった……なんて話だったら、こんな簡単に手に入れてもわかるんだけれど」

 

 シャノワールが推理する。確かに契約書が本物なのは、キャサリンでも分かることである。だが、あまりにも簡単に手に入りすぎて少し拍子抜けしていた所なのだ。

 

「もう一種類……」

 

「ありえない話ではないと思うが……」

 

 2人は少し考える。だが、この契約書だけでも逮捕するには十分な代物であることは間違いがない。

 もう一種類探すか、はたまたすぐに戻ってこれを渡すか……考えるまでもないのが答えである。

 

「……けれど」

 

「2人戻ってもしょうがない」

 

「じゃあ私が残るわ」

 

「いいや、ここは変装能力が高い僕に任せてくれ」

 

「じゃあお願い」

 

 適材適所、シャノワールの変装技術は女に化けてもあまり違和感のないものに仕上がってしまう。残る方としては適任なのだ。

 そして、キャサリンは契約書を受け取って急いで建物から脱出する。

 

「さて……では僕も頑張るとしようか」

 

 全空捜査局や秩序の騎空団と協力する怪盗なんて前代未聞なのだが、しかしそんな前代未聞の騎空団に依頼してしまったこの富豪に対して、同情……では無く滑稽だと嘲笑う気持ちの方がでかいシャノワールなのであった。

 そして、脱出したキャサリンは━━━

 

「……うーん」

 

 何故か道に迷っていた。来る時の道をたどっているはずなのだが、何故か全然違う場所に来てしまっていたのだ。

 

「1度入ったら出られない? いや、そうじゃない……ここの建造物にそんな魔法がかかっている気配はなかった」

 

 では一体どういう事なのか。頭の中で素早く自問自答を繰り返していき……キャサリンは入る前と今とで1つの違いに気がついた。そう、契約書だ。

 

「……かかってる魔法は一つだけじゃない。この契約書を手に持ってたら、外に出られなくなる……? と言うよりも、正しい道がわからなくなると言った方が正しいわね……」

 

 故に警備員も必要ないのだ。なぜなら、持った時点で脱出は限りなく不可能になっているのだから。

 

「随分と姑息な真似してくれるわね本当に……」

 

 だが、迷宮を歩かされている訳では無い。ただ方向が分からなくなって正しい道が選択できない……ただそれだけの魔法なのだ。限りなく不可能なのであって、確実な不可能ではないのだ。

 要するに、ここでキャサリンが撮るべき行動はただ1つ。

 

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 要するに、脳筋プレイを行おうという話なのである。世の中には、こういった手法を取る方が早いということもある。というわけで、キャサリンは闇雲にスタートに戻るのを決意するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおお! アンスリアァァァァァァァァアアアアアアア!!」

 

 熱狂的なファンの声を聴きながら、アンスリアは一礼をする。舞は終わり、台からおりる算段となっている。だが、それよりも早く富豪がアンスリアのいる団に上がる。

 

「ありがとうアンスリアさん、よければここで働いてくださいませんか?」

 

「あら、お誘いは嬉しいのだけれど……私既に先約がいるのよ」

 

「まぁまぁそう言わずに……」

 

 ふと、グランは思い出した。この男は人を縛る魔法が得意なのだと。そして、人を縛るのは何も紙の契約書出なくてもいいということに気がついた。

 要するに、今アンスリアは言葉で縛られかけている。それに気づいたので即座にドクターにジョブチェンジして、一瞬でなんか煙の出てる薬を錬成する。

 

「これでも喰らえ……!」

 

 そして、その液体が入った注射器を首元に目掛けて投げる。クリーンヒットにより突き刺さり、中の液体が注入されていく。

 

「あべべべべべべべべべべべべべ」

 

「え、え……」

 

「あー、はいはいどいてどいて……あーこれダメですね、すぐ病院行きましょうねはい」

 

「え、え……」

 

 困惑しているアンスリア。しかし、グランは敢えて無視して他の従業員と共に富豪を運んでいく。そして、そのまま会場から出ていってしまう。

 

「……で、では……今回はこの辺りで……終わりよ……」

 

 そして、最終的にはアンスリアが無理やり閉める形となって終わるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇグラン? 見てたけど貴方、何を打ち込んだの?」

 

「わからん、とりあえずジョブチェンジした時に持ってる色とりどりの液体を適当に混ぜたら出来た」

 

「えぇ……」

 

 降りてきたソーンと話をしながら、グランは全員と落ち合っていた。唯一まだ居ないのはシエテ、オクトー、キャサリンの3人である。

 

「いやぁ! ごめんごめん遅れちゃったよ!!」

 

「2人がいて助かったわ……」

 

「どうやら、道に迷わされていたようでな」

 

 そして、その3人もタイミングよく戻ってきていた。そして、いつの間にやらいたシャノワールの手にはもう一種類……とは言わず5種類くらいの資料があった。

 

「まさか、これだけ資料があるとは思わなかったよ」

 

「まぁ俺としては従業員全員富豪に従わされていただけで、訳を話したら全員協力してくれたことが1番予想外だったよ」

 

 全員の先頭にたちながら、グランは歩き続けていく。その後を団員達が追っていく。

 

「……でも、流石に私1人放置はひどいわよ」

 

「いや、ほんとごめん」

 

「駄目よ、言葉だけじゃあ許さないんだから」

 

 珍しく頬をふくらませて怒っているアンスリア。グランは頭をかいて、どう許してもらおうか考えて……1番いいと思う意見を抽出する。

 

「じゃあ今度デートしよう」

 

「えっ!?」

 

 アンスリアが1番驚き、そして周りの女性陣は皆固まっていた。いきなりこの言葉からはいるのだから、ある意味当たり前といえば当たり前なのだが。

 

「え、ダメ?」

 

「だ、だめじゃない……」

 

 顔を真っ赤にしながら、受け入れるアンスリア。因みに、その後行ったデートでは何故か2人で1緒にラーメン食って本読んでいっしよに寝るだけの生活だったという。

 尚、アンスリア本人は嬉しかったのと……その話は別にするほどのことでもないので割愛させていただくのであった。




リアル事情により遅れました。

偶には長編とか書いて欲しい

  • はい(ギャグノリ)
  • はい(シリアス)
  • いいえ

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