ぐらさい日記   作:長之助

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世紀の大怪盗、その程度かい?

 いつも通りのそれっぽいBGMを流しながら、グランは今日のゲストと相対していた。因みに今回の衣装は妙に武器ばかりを装備しており、全体的に刺々しい見た目となっている。近い見た目でいえば、ホーリーセイバーが武器を鎧中に付けていると言ったところだろうか。

 そしてそんな格好をする理由としては、目の前のゲストにあるのだが━━━

 

「今日のゲストは怪盗シャノワールです」

 

「おや、私には『さん』を付けないのかい?」

 

「いやなんか、さん付けよりこっちの方がらしいじゃん?」

 

「確かに……私は誰かに『さん』を付けられる事に多分違和感しか感じないだろうからね」

 

「そういうこと。ところで、なんか今日番組内でするみたいだけど?」

 

「そうだねぇ……この番組中、私が団長から何かを奪うっていうのはどうだい?」

 

 指を鳴らして挑発するシャノワール。グランはそれに対して不敵に笑みを返すだけである。

 

「ふ……やれるものならやってみるといい、ただし俺からそう簡単にものを奪えると思うなよ?」

 

 格好をつけているグランだったが、そのズボンはベルトがないせいか綺麗に床に落ちていた。格好をつけても格好のせいで格好が付かない状態である。

 

「ベルトを初めから奪われていることに気づかないなんて、これは随分と簡単に奪えそうだ」

 

「ふ……俺が気づいていないとでも? そのベルトは()()()()のさ……」

 

「おや、負け惜しみかい?」

 

「いいや? 負け惜しみじゃないさ……だってほら、こういうことすると大体犯人の後ろにリーシャが現れるからさ」

 

「おっと落ち着き給えよ秩序の騎空団の人、私は別に団長のことを狙っているとかそういうのではなくてだね、ただのイタズラでこうしただけであって別に大した意味は無いんだ本当だ」

 

「凄まじい弁解速度だ……」

 

 突如現れるリーシャ。真昼間なのに、窓から陽の光が差し込んでいるにも関わらず、その顔は闇に染まっていた。珍しくシャノワールも冷や汗を描きながら必死に弁解していた。

 その弁解が今は通じたのか、リーシャは気づけば部屋から姿を消していた。

 

「……さて、仕切り直していきましょう……で? まさかベルトを奪うので終わり?」

 

「そういう訳では無いさ、因みに私は既にそのものを奪っている。番組の前の諸君は、何が奪われたか答えてみるといい」

 

「因みに俺は予めわかっているぞ、ベルトじゃないからな」

 

 2人してカメラに向かって指を鳴らして、この番組にあるまじきクイズを提出していた。そして2人はそのまま何事も無かったかのように進行していった。

 

「さて、このままお便り紹介と参りましょうか」

 

「いいねぇ」

 

「では一通目『手品のレパートリーを教えてください』」

 

「……ん?」

 

「シャノワールの手品のレパートリー聞いてるから、早く教えてあげて」

 

 送ってきたのは子供だろうか、それともからかいたいだけの大人だろうか。シャノワールはそれを考え始めたが、直ぐに辞める。別にどっちでも意味が無いからだ。

 問題なのはそれに乗っかったグランの方である。

 

「いや、私は手品師ではなくて怪盗で……」

 

「レパートリーを教えろって言ってんだ」

 

「……くっ……私は手品師ではない……だが、まぁ……技術を応用すればできないことは無い」

 

「お? どんな奴?」

 

「ここに帽子があるだろう?」

 

 つけていた帽子を外し、上下逆さまにするシャノワール。そこに短い杖を数回当てる。グランは読んでいた、これは有名な帽子からハトを出す手品だと。

 

「ふふ……まぁ有名なやつを少しアレンジしたものさ」

 

「出てくるのがエヴィとか?」

 

「さすがにそれは出さないが……例えばこんなのを」

 

 そこからゆっくりと現れるもの……それは妙にデフォルメ化されている目から光をなくしているルリアだった。グランは悟った。あ、このルリアやばい方のルリアだと。

 

「しまえシャノワール」

 

「まぁこれは例の機械技師君が作ったロボットだけどね」

 

「ジュルリア」

 

「なんか鳴いてるんだけど、怖いんだけど?」

 

 帽子を元に戻し、シャノワールは被り直す。あのメカチビルリアが帽子の中に入ってるのかと思うと、グランはどうも悪い予感しかしていなかった。

 

「まぁ、しがない手品しか出来ないよ、こちらにはね」

 

「そうか……まぁ、あれでいいか……これ以上恐怖を煽られたくはないし……」

 

「懸命な判断だと思うよ」

 

「じゃあ二通目『変装技術、どうやってるんですか?』」

 

「どうやってる……曖昧で答えに悩むね」

 

「まぁ技術漏洩だしな」

 

 シャノワールは嫌っているが、彼の変装技術はかなりの制度の高さを誇っている。自分よりも身長が下のハーヴィンなどは難しい様だが、それ以外なら基本的に見た目は完璧に変装しきるためだ。

 

「まぁ技術漏洩しない範囲で私が教えられるのは、相手の特徴をよく見て、聞いておくこと……だ」

 

「と言うと?」

 

「顔まで似せてくるとなると、特殊な技術が必要になってくるが……それ以外なら簡単に似せることが可能だ」

 

「ほう」

 

「そうだね……例えば、髪が長い女性なら色まで合わせた上でそのカツラを被る。胸が大きいのなら柔らかいもので詰め物をする。後は肌だと誤認しやすいように肌色の薄い生地を纏っておく……と言った具合かな」

 

 当たり前といえば当たり前の話だ。見た目を似せなければそもそも話にならないのだから。しかし、よく見ての部分が見た目だったとするならば、今度はよく聞くの部分の説明がある。

 

「それと、口癖や喋り方とかも考えておかないといけない」

 

「というと?」

 

「例えば、お淑やかな人ならゆったりと……激しい人なら荒々しく……ちゃんと性格も見極めておかないといけないよ」

 

「まぁ、喧嘩上等な性格のやつが静かに喋ってたら違和感だもんなぁ……これは極論だけどさ」

 

「まぁそんなイメージで構わないさ」

 

 例えばグレアがツバサのようにオラついていたり、ツバサがグレアのように基本的にお淑やかだったら違和感しかないだろうという話である。

 

「まぁこれ以上は語れないかな」

 

「ところでさ」

 

「ん?」

 

「声ってどうやって似せるんだよ、1回というか結構な頻度で女性に変装してたよね自分」

 

 声はなんとか高くしていたようだが、それは元々シャノワール自身の声が比較的高いものだからだ。声の低い男性が仮に声の高い人物に化ける場合、どうするのだろうか。

 

「まぁ……声に関しては頑張って欲しいという他ないね」

 

「あ、やっぱりそんな感じなのか」

 

「まぁ、自分にできない変装をすることは滅多にないだろうけど」

 

「ほう、というと?」

 

「ハーヴィン達はハーヴィンにしか変装できない、ドラフの男性はドラフ、ドラフの女性もまた同じだ。

 エルーンもエルーンにしか変装できない……ヒューマンは、何とかハーヴィンとドラフの男性以外になら変装は可能だと思うよ」

 

 まぁ確かに、とグランは納得を示す。ドラフの男性はデカい、身長は基本的に2mを超えている人物がほとんどだ。しかも、ドラフ属には特有の角がある。それを踏まえて考えると、同じ角のあるドラフ属にしか変装できないというのも理解できるのだ。

 エルーンもしかり、ヒューマンもしかり、である。

 

「ではそろそろ3通目『手品師っぽい格好の意味は?』」

 

「私は怪盗シャノワール、怪盗だがその存在をアピールするためにこの格好が必要だと判断した迄さ」

 

「まぁお前自分のアピールの仕方すごいもんな」

 

 キャサリンとは違い、目立ちまくることを信条とする。そしてその上で逃げ切っているのだ。言動がふざけていたりするようにも見えるが、何だかんだ実力はかなり高い方である。

 

「まぁそもそも怪盗は犯罪なんだけど」

 

「ふふ、私も夜煙も……それをわかった上で行っているのさ。まぁ、夜煙に関しては怪盗かつ義賊と言った方がわかりやすいかもしれないがね?」

 

「ま、その格好は目立つけど暗いところだと姿を消すのに便利そうだしな、黒いし」

 

「金色の装飾も入っているけどね」

 

 目立つのか目立たないのかよく分からないが、まぁ服装にも気を使っているというのは、怪盗としては当たり前なのかもしれない。軽装に軽装を重ねていくキャサリンもそうだが、怪盗は衣装に気をつけるというのが当たり前ということのようだ。

 

「因みに、団長も義賊の格好があっただろう?」

 

「あぁうんあるけど」

 

「あれもあれで目立つから、『そういう仕事』がしたくなった時とかに使うと快感だよ、ははは」

 

「まぁ俺団長だから? 犯罪なんてしないし?」

 

「どの口がそれを言うのかな、ちょっと頭の中見てみたいよ」

 

「勘弁してくれ、頭の中見られたら本音が爆発しちゃうだろ」

 

「今以上に? 逆に興味深いな」

 

 最早勢いだけの会話を続けるグランとシャノワール。グランはもとより、シャノワールはそれに乗っかっているだけのようにも思えている。

 

「……っと、もうこんな時間か」

 

「おや……もう時間が来てしまったか。楽しい時間はいつも終わりが早く感じてしまうね」

 

「それに関しては同意しかない」

 

「さて、ここで冒頭に出したクイズだが……答えがわかった人は団長室に来て欲しい」

 

「俺に答えを伝えてくれたら、まぁ褒美として飴ちゃんをやろう」

 

 そう言いながら、袋に包まれた飴玉を見せるグラン。それはちょっと高級なお菓子のお店のものであった。

 

「という訳で、本日のご視聴ありがとうございました。また次回この番組でお会いしましょう、さようなら」

 

「私に盗んで欲しいものがあるなら、私を見つけてご覧。きっと叶えてあげるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、何人かが部屋に訪れて飴玉が渡されていた。しかしどうしても分からないというものに対して、グランはこうヒントをさずけている。

 

「バウタオーダって、あの格好で指鳴らせるのかな」

 

 このヒントで理解するもの、余計に困惑するもの。多種多様な反応を返しているが、何だかんだそのまま時間だけが過ぎていった。誰が答えを誰かに教える……ということが起こらなかったのか、1人わかったらまた1人……という展開にはなっていなかった。

 まぁそもそも高級店の飴玉に釣られない人だっているのだから当たり前なのだが。

 

「ふふ、実に好調だね」

 

「もういっその事『シャノワールのクイズタイム』みたいな番組やれば?」

 

「それも案外いいかもしれないね」

 

「前向きに検討してくれるのありがたいよ」

 

 試しに出したクイズが思いのほか好調だった為に、2人とも満足気な表情を浮かべながら楽しそうにしていた。

 その実に楽しそうな表情を見ながら、シャノワールも余計に楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「さて……また新しい回答者が現れたようだ」

 

「今度は……」

 

「シャノワァァァァァァァァあああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアルッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」

 

「おや、あの名探偵くんの様だ」

 

「帰った帰った、怪盗と探偵がいたらこの部屋無茶苦茶になる」

 

「ではお言葉に甘えて……ドロン」

 

 この2人の追いかけっこ……いつまで続くのだろうかと思いながら、グランは次の回答者を待つのであった。




答えはなんでしょうか

偶には長編とか書いて欲しい

  • はい(ギャグノリ)
  • はい(シリアス)
  • いいえ

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