ぐらさい日記   作:長之助

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探偵助手、何してるんですか?

「今回のゲストは探偵バロワの助手、サーヤさんです」

 

「サーヤです、よろしくお願いします」

 

「いやほんと、真面目だねぇ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 グランはサーヤに優しい笑みを浮かべながら、前回と前々回の事を思い出していた。怪盗シャノワールと探偵バロワ。お互いが終生のライバルなせいか、割と似たような部分があった。真面目にやってくれていたのは2人とも事実なのだが、真面目の軸がズレているのがグランにとってはよく覚えていることである。

 

「ところでサーヤって運動はできるの?」

 

「へ? ま、まぁ先生を追いかける為にある程度鍛えましたけど……? それがどうかしたんですか?」

 

「いや、走るの慣れてるとかなんだったらそれでいいんだけど」

 

 この時、サーヤはグランのこの言動を推理した。なぜ唐突に運動のことを聞いたのか、と。バロワは元軍人、運動もできるし体力もかなりある方である。

 そしてシャノワール。彼はバロワから逃げ切ることの出来る足と体力、そしてトリックの技術を持っている。

 そこからサーヤは答えを導き出していく━━━

 

「……なるほど、私が先生達に追いつけていないと思ってるんですね?」

 

「……そうそう! そういう事!」

 

 サーヤは答えを導けたと心の中でガッツポーズをしていた。謎を解くのは、彼女も好きなのである。

 但し、今回グランはそのような意図があって聞いた訳では無い。無論、ちゃんと追いつけているか? と気になったことはあるがサーヤの性格を考えたら、何とかして追いつこうとしているのは明白である。だから、そこは聞かなくてもわかることなのだ。

 気になったのは、彼女が女性ドラフだからこそ出てくる特徴によるものだ。はっきり言えば遠回しのセクハラである。気づかれなかっただけマシなので、グランはサーヤの勘違いに乗る事にしたのであった。

 

「さて、そんな助手サーヤにも色々なお便りが届いています」

 

「き、緊張しますね……」

 

「緊張も回答のスパイスという事で1通目『眼鏡かけてるのに虫眼鏡使うんですか?』」

 

「目、目が悪い人はみんなそうなりますよ!!」

 

「まぁ虫眼鏡は小さいものを見るものであって、普通のメガネは視力の補強だしなぁ」

 

 同じ眼鏡と言っても、使い方で別れてくる。虫眼鏡と普通の眼鏡は全く別の使い方をするものなので、同時に使っていてもおかしなことは何もないのだ。

 

「そういう事です!」

 

「でも眼鏡かけてる子が虫眼鏡かけてるのは可愛いと思う」

 

「かわっ!?」

 

 一気に顔を真っ赤にするサーヤ。あまり言われ慣れていないだけなのかもしれないが、可愛いと言って顔を真っ赤にするところがグラン的にはさらに可愛さを呼んでいた。

 

「さて、真っ赤になったので2通目に行きましょう『探偵事務所は儲かってますか?』」

 

「え、えーっと……」

 

「顔の次はお財布が真っ赤な事情か……」

 

「はい……火の車です……」

 

 バロワ探偵事務所、バロワの経営する探偵事務所と名の通りである。しかし、実態はあまりにも依頼がこなくて経営するだけでもいっぱいいっぱいの状態である。

 

「それでもやり続けられてるから、実績は固まってきてるんだろうなぁ……」

 

「まぁ、ココ最近はシャノワールとの激闘が広まってるのか依頼も多くなってきてます」

 

「給料は?」

 

「前は滞ることがありましたが……最近は、何とか……」

 

「お財布が火の車なんて言ってる場合じゃねぇな……」

 

「こ、これでもマシになったんですよ!?」

 

 グランも出会い当初から気になってはいたのだ。グランサイファーに乗船する際、そして騎空士としての依頼の報酬を見た時の驚きよう……それらを踏まえると、あまりお金に満足しているとは言えないのではないか、と。

 

「……探偵と騎空士、どっちが儲けてる……?」

 

「……」

 

 目を伏せるサーヤ。どうやら、騎空士として生活している方が儲かっているようだ。

 

「せ、先生には今まで滞っていた分の給料は渡されました……」

 

「つまり……」

 

 最早サーヤも認めていることなのだろう。儲かっているのは騎空士の方だと。確かに、基本的に自分から受けに行く騎空士と待ちの姿勢の探偵では、前者の方が儲けることが多いだろう。世知辛いその事実を認識した時、グランは涙を流していた。

 

「な、なんで泣いてるんですか!?」

 

「世の中の世知辛さに……」

 

 騎空士と言えど金がいる、探偵といえど金がいる。世の中の金の必要さにグランは涙を流すしかなかった。

 

「食品が値上がりした時とか大変でしょ」

 

「あぁ……確かに……そう言えば、ここは人が多いから食費だけでも馬鹿にならないのでは……?」

 

「まぁねぇ……値上がりした時とかは結構きついかも」

 

 仮にいつもみんな食べているものが10円ほど値上がりした場合、既に200人近い数のグランサイファーはその食材一つだけで2000円上がってしまう。

 しかも、一人前の料理で1つ以上使う可能性もあるので実際はかなりの出費になる。

 

「食費も馬鹿にならないからね……最近食堂班にはエコ料理の実践をしてもらってるよ」

 

「エコ料理、ですか?」

 

「そうそう、まぁ食材を余すところなく食べようねって話なんだけど……これが意外と上手くいく」

 

「その話聞かせてもらっても?」

 

「別にいいけど、時間もあるからまた後でね」

 

「はい!!」

 

 このままだと食費談義がはじまってしまいそうだったので、グランは一旦その話を別のところに置いてもらってから、最後のお便りへとかかる。

 

「3通目『趣味は読書らしいですけど、どんな本でも読むんですか?』」

 

「えぇ、それはもう沢山!!」

 

「ルナールが書いてるような?」

 

「読みますね」

 

 即答だった。時々シャノワールとバロワの話をする時にラブレターとか、そういったちょっとアレな意味合いを持ちかねない言葉のチョイスをしているとグランは思っていたが……ルナールが呼んでいる耽美絵のようなものまで網羅しているとは驚きだった。

 

「……本当に色々読むんだ」

 

「読書は知識を貯めてくれますからね」

 

「好き嫌いはない感じ?」

 

「はい、漫画も小説もちょっとあれなものまで全部網羅しています!」

 

「ホラーは?」

 

「……」

 

 無言になるサーヤ。恐らく彼女のことだから読まないことは無いはずだが、ホラーが別段得意という話も特に聞かないので、なぜだか葛藤に悩まされているような印象を受ける。

 

「まぁとりあえず好き嫌いなく読むことはいい事だよ」

 

「で、ですよね!」

 

「となると……ルナールとは個人的に付き合いとかしてる感じなの?」

 

「はい、いつも本を買わせてもらってます!」

 

「そうなんだ……」

 

 絵柄で好き嫌いをわけないのは、いいことである。ルナールの絵は、本人も認めていることだがどうしても魔物のような絵になってしまうのだ。ココ最近は、絵の矯正が出来ているのか人に見えてくるようになってきている。

 

「因みに、ルナールさんが書いた魔物本もありますよ」

 

「あれもか……」

 

 生活の為に、ルナールは一時的に魔物図鑑を書いていたことがある。躍動感に溢れるものであり、シェロカルテからも絶賛されるものだったりしている。

 今は魔物絵は書いていないが、知る人ぞ知る逸品という扱いである。

 

「あれちょっと欲しかったんだよな……」

 

「今度一緒に読みます?」

 

「お、いいね」

 

 魔物に興味が無いわけじゃない。狩る側に回っているからこそ、知っておきたいこともあるという話である。

 

「そう言えば、ルナールの心の師匠が書いた本も合ったっけ」

 

「はい、そちらも買わせていただいてます」

 

 因みに、ルナールの心の師匠はルナールの書いた魔物図鑑に感銘を受けて今は耽美絵を書くのをやめて『マモモノ』というジャンルを書いている。魔物の擬人化本である。

 お互いがお互いに心の師匠化しているためか、今2人はかなり親密な仲になっているようだ。

 

「あの2人が技術を教えあって、教えあってる仲で技術を高め合う……新ジャンルの開拓はやはり辞められません!」

 

「……」

 

 ふとグランは思った。『騎空団に入る前からこの調子だと、環境はだいぶやばかったのではないだろうか』と。

 

「……まぁ、今が良ければいいか」

 

「はい?」

 

「いや、なんでもないこっちの話」

 

「はぁ……?」

 

 サーヤは不思議そうな顔をしているが、グランがなんでもないと言ったのを信じたのかこれ以上追求することは無かった。

 

「さて、そろそろ時間なので今回はここまでです」

 

「ではまた後で話し合いましょう!」

 

「おうけい、というわけでご視聴ありがとうございました。また次回この番組でお会いしましょう。さようなら」

 

「依頼があるならバロワ探偵事務所に! 是非!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もやしは炒めても炒めなくてもうまい」

 

「分かります」

 

 番組が終わってから、謎の料理トークを始め出す2人。グランのザンクティンゼル生活秘話から、サーヤが学ぶべきことは多かったようだ。

 

「虫食べてたって本当ですか?」

 

「そこまで生活貧困じゃなかったよ? ちょっと田舎ってだけで食べ物は虫とかじゃなかったよ?」

 

「じゃあ木の幹ですか?」

 

「ザンクティンゼルをなんだと思ってるの?」

 

「とてつもなく強いおばあさんがいる世紀末島」

 

「最後に突っ込みたいのにあながち間違ってないから何も言えない」

 

 前言撤回、実は特に料理関係の話題というわけでもなかった。というよりも、サーヤの発想にグランが追いついていなかった。

 

「でも実際結構田舎だからそう思われるのも仕方ないのかもしれない」

 

「そう言えば種族構成みたいなのってどうだったんですか?」

 

「ヒューマンしか見た事なかったかも、ドラフとかエルーンとか……見覚えがないなぁ」

 

 ふと故郷のことを思い出すグラン。思い出そうとしている中で、ふとした違和感に襲われる。

 

「おかしい、5年くらいたった気がするのに実は1年も経ってなかったりしない?」

 

「そこら辺はあまり考えない方がいいと思います」

 

「そうかな……そうかも……」

 

 少し踏み込んでは行けない領域の話に入りかけながらも、グランはサーヤと会話を続ける。続けていく中で、ほんの話題にシフトしていく。

 

「今度どんな本読みたい?」

 

「恋愛小説とかですかね」

 

「ルナールに書いてもらうか」

 

「え、耽美絵を看極めようとしているんじゃないんですか?」

 

「いや、情報として地の文が書けるようになりたいとか言ってたし」

 

「漫画と小説はまるまる違いますよ……?」

 

 結局、このあとはグランとサーヤでお互いで本を借り合い、読み終わった時に返しあってからまた借り合う……といった繰り返しを続けていく結果となった。

 

「では私おすすめの推理小説、大事にしてくださいね」

 

「そっちこそ……俺の秘蔵本達を頼んだぞ……」

 

「男の人の秘蔵ってエッチなものって聞いた記憶あるんですけど、実際どうなんですか?」

 

「さすがに異性に渡せるほど俺は上級者じゃないから」

 

 こうしてグランとサーヤは無事本の同好会へと成り立ったのであった。その後同好会のメンバーが徐々に増えていったのは……また別の話である。




多分腐ってないと思いたい
あとアンケ出しました、次の話書き終えて投稿するまでが投票範囲です

偶には長編とか書いて欲しい

  • はい(ギャグノリ)
  • はい(シリアス)
  • いいえ

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