「ふむ……」
「そんな……」
「なぜだ……」
とある理由により団長室に集まったバロワ、シャノワール、サーヤ。しかし、三人が目にしたもののせいでバロワとシャノワールの間で逃走激が起こらないこととなってしまった。
「まさか、団長が部屋で血まみれになりながら気絶してるなんて……」
「これは事件だ!!」
倒れているグラン、血まみれとなったその姿は実に悲惨なこととなっていた……のたが、ここでサーヤが気づく。
「……これ、多分ケチャップじゃないですか?」
「何だと?」
「……さっきからやけにトマト臭いとは思っていたけど……なるほど、血ではなかったか……」
「では、なぜ逆にケチャップまみれに……? という謎が残ります」
部屋の中には、ケチャップを使うような食べ物は置いていなかった。無論、グランの下敷きになっているだろうとも考えたが、あるのはケチャップばかりであり入れ物すら見当たらない状態だった。
「ふむ……一旦団長から服を脱がせた方がいいんじゃないか?」
「か、怪盗シャノワール!? 何言ってるんですか!?」
シャノワールが真顔で言ったことにより、顔を真っ赤にするサーヤ。しかしバロワはシャノワールの言いたいことが理解出来たのか、上半身の服だけをぬがしていく。
「君にしては珍しく勘が冴えてないな」
「……あ、もしかして……服の内側に何か仕込んでた可能性、ですか?」
「その通りだ、しかしよく今の一言でわかったね?」
「軍時代の賜物だ、血糊を入れた袋を急所の上に重なるように仕込んで特訓したのさ。どうやって当たらないように反撃するか……とね」
「つまり……」
グランの服の内側……バロワが取り出したのは破裂した後の袋だった。中にケチャップが詰められていたことがよく分かるように、所々ケチャップが付着していた。
「……ふむ、やはりな。服の内側にケチャップを入れた袋が入っていた、倒れてしまった時に体と床ではさまり……そして破裂したと言ったところだろう」
「では……どうして倒れてしまったのでしょうか。倒れてしまって袋が破裂して気絶……では無いでしょうし……」
「どちらにしても、証拠を探さなければいけないかもね」
シャノワールは部屋をぐるりと見渡す。なにかおかしな所はないか、おかしなものが無いか……しかしよく訪れる団長室そのものであり、この部屋には特に以上は見つからなかった。
「おかしな所は何もない……つまり、現場はここではない可能性があります」
「ならばなぜここに倒れているかが問題だが……」
「ふむ……ならば聞きこみ調査などはどうだろう」
「なるほどな……まともなことを言うじゃないかシャノワール」
こうして、奇妙な3人組は聞きこみ調査をするために1度部屋を離れるのであった。勿論、団長であるグランはその場に置いていくことになっているのだが。
「ダンチョ? そういや、朝オレらがケチャップ入った袋渡してから見てないっすわ」
「やはりね……」
「何がやはりなんだ、シャノワール」
「状況証拠だけとはいえ、この事実なら恐らく真実までたどり着ける」
キッチンにて、ローアイン達に話を聞く三人。ここで得られた情報は、グランが朝ローアイン達にケチャップが入った袋を貰ったという事だけだった。
「聞かせてみろ」
「いいかい? まず私達はとある前提で動いてしまっている」
「とある前提……?」
サーヤが首を傾げる。シャノワールは1度頷いてから、ローアイン達にもらった紅茶を飲みつつ語り始める。
「まず人が倒れている……その事で『誰かに襲われた』という判断を無意識の内にしてしまっていた」
「……なるほど、団長さんが『勝手に倒れた』という見方もあるわけですね」
「……だとしたら、俺は思い当たる節があるな」
「何だい? その思い当たる節というのは」
「最近、彼は働き詰めだった。何度も徹夜をしているようで、あまり寝ていなかったことが見受けられる」
バロワはココ最近のグランの動向を語っていく。ここで段々とパズルのピースがハマっていくように、カチリカチリと事実が俺浮かび上がってきている。
「……なるほど、だいたい予想は着いた」
「そうですね……」
「俺もわかった……にしても、体調管理がままならないほど忙しいとなるのは……流石に古戦場とやらの闇の深さを垣間見た気がするな」
「確かに……私達は参加しなかったがね」
古戦場というものの闇の深さを感じながら、バロワ達は素直に黙祷を捧げる。
因みに事実はこうである。最近古戦場で疲れきっていたグラン、朝から何かしらの理由でケチャップを拝借、部屋に帰ってきた時についに体力の限界を迎えてバタンと倒れる……という結末だった。
「……それにしても、一体なんの為にケチャップそのものを……?」
「あー、なんか試してみたい食べ方があるとか言ってたんすよねぇ」
ローアイン達からそう聞かされる3人だが、当然のごとく頭の上にはてなマークを浮かべてしまう。ケチャップ単体でできる食べ方とは一体なんなのか? それだけが気になってしょうがなかったのであった。
「いや、何かケチャップ飲んだらいいみたいな話があって……」
「いやいや、普通に体壊しますよ!?」
その後、起きたグランに話を聞いたところ……ケチャップを飲むという活用方法に出ていたようである。それを聞いて、当たり前の話だが3人は呆れていた。
「いいかい? 君が体を壊せば、心配する人も多くなる……そうなったら仕事が手につかなくなってしまう可能性だってあるんだ」
「うぐ……」
「これに懲りたら、あまり無茶はしないように」
「はぁい……」
しょげるグラン。怒られてしょげていると言うよりかは、みなに心配をかけてしまったことに対する心配ということが判明した。
「……にしても、そのケチャップを飲むだなんてどこで仕入れた情報だい?」
「え? いやなんかの雑誌」
そう言ってグランは部屋を漁っていき、とある一冊の本を取り出していた。その本の題名は『ゴリラでもわかる健康の秘訣』と書かれていた。
「これこれ、ゴリラでも分かるってんだから正しいのかなって」
「……これ、確かデマを流すことで炎上するのを目的にしてることで有名な出版社のものですよ」
「え、まじ?」
「はい、今回の本もわざわざ本屋の方が燃やすくらいに不人気だそうで」
「そこまで!?」
まさか自分の仕入れた情報が間違っているとは思っておらず、かなりショックを受けるグラン。
その姿を見て流石に少しサーヤは同情するのであった。
「うぅ……まさか間違っていたなんて……」
「ま、まぁ……間違いは誰にでもありますよ」
そのフォローは果たして彼のフォローになっているのか微妙なところだが、彼は何とかなるだろう。簡単な事でやる気を取り戻す単純な性格なのだから。
「……にしても、どうやって飲むつもりだったんだいこれ……袋のままだけど?」
「いや、ストローさしてちゅーっと」
「紙パックのジュースみたいにして飲むんだね?」
「飲むよ?」
グランがケチャップを一体なんだと思っているのかは、グランにしか分からないことである。そして、そのその考えが古戦場の疲れからくるものなのかそれとも元からこういう考えに至りやすかったのかは……定かではないのだ。
「……せめてトマトジュースにした方がいい、俺でもケチャップを飲むのはダメだと理解できる」
「……まぁ、確かにその方がいいか……」
「……まさか、思いつかなかったのかね?」
「まったく」
これ以降、グランはバロワ達に諭されてトマトジュースを飲用することになる。但し、最初はケチャップを飲む目的だったので目的が迷走してしまっているのだが……疲れからか全く気づくことがなかったのであった。
「……それで一体、これはどういう状況なんですか」
そして事件から1週間ほど経過した頃、グランサイファーでとある物が流行っていた。
「いやぁ、ダンチョがあの袋で飲み物を飲むっていうのがどうにも他に伝わったみたくて……」
「クソ強津波レベルの勢いで周りに拡がったんす」
「グラサイマジで予想出来ないわ」
元々調味料を大量購入する際、器が勿体ないのででかい袋で代用していた……というものだったのだが、それがどういう訳か小型化&他の飲料を入れて飲むというものに流行っていった。
「ストロー要らずで飲めるっ! っていうのがどうにも受けがよくて」
「あぁ……飲み口みたいなのがあるのはそれが理由……」
「いやぁ、俺らもまじ便利グッズ販売しちゃったみたいっすねぇ……」
「子供にも人気だったり!」
小型の袋に着いたのみ口、その中には多種多様な飲料が詰められている。それを眺めながら、バロワはパイプに火をつけようとし……
「あ、喫煙禁止っす」
「す、すまない……」
ローアイン達に注意されていた。一応キッチンなので仕方ない話なのだが。あまりにもいきなりすぎる状況なので、仕方ないといえば仕方ないのだが。
「……あれ、俺も欲しいな」
「あ、いります? 注文受け付けてから作るんでちょーっと時間かかりますけど」
「くれるのか!?」
「うぃっす、無償で作らせて頂きまぁす」
まるで子供のように目を輝かせて、作ってもらえることに喜び始めるバロワ。その中で、サーヤは首を傾げていた。
「それにしても……なぜいきなり流行ったんでしょう? あれよりは大型とはいえ、砂漠で使うようなものがあるのに」
「大きさの問題じゃないかな。小さいということは、それだけ手軽に持って行けるってことだし」
「なるほど……」
「というわけで、私も貰ってくるよ」
「あ! わ、私も貰ってきます!」
こうして、3人は無事小さな飲み袋を手に入れる事が出来たのであった。因みに、流行の発端となった原因の人物……グランは今現在どうなっているかというと……
「うーん……また、爺さんかよ……」
古戦場の疲れもあり、数日は安静に休んでいるように言われたので現在安静中の身である。しかし、古戦場があまりにも苛烈過ぎたためか、寝ている間決まって古戦場の夢ばかり見るようになってしまったという。
「……古戦場で……爺さん……?」
「うーん……いつもお前かハデスやん……」
謎の寝言を発することも多く、その事に同室のビィは困惑ばかりするのであった。
ちなみにルリアはカタリナの部屋で寝ているという。幾ら魂を分け与えた存在とはいえ、モラルは守らないといけないのだから当たり前の話なのだが。
「うーん……うーん……!」
「グラン……おめぇ……もう忘れてゆっくり休めよ……」
古戦場が苛烈すぎて、忘れたくても忘れられない。その事実にビィは軽く同情するのであった。しかし同情するだけでは止められないし、そもそもグランが止まることを基本的にしない人物のため、古戦場に彼が向かうのを止める人物は誰もいないのであった。
次の話から長編行きます
何話になるかは不明
偶には長編とか書いて欲しい
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はい(ギャグノリ)
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はい(シリアス)
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いいえ