文章力劣化してますね
ともあれ、読んでいってください!
「ばか、頑張りすぎた」
「すみません……」
病院の一室で、可憐は点滴に繋がれていた。可憐が倒れた原因は熱中症であり、1泊の入院は必要だそうだ。
「あの、お店は……?」
「海の家は生徒会長と雨さんが引き続きお手伝いをしてくれています。すみません、可憐ちゃんには無理をさせてしまいました……」
神崎は申し訳なさそうに頭を下げる。
「そ、そんな……謝らないでください。わ、私がやりたくてやって、それで倒れただけなんです……皆には迷惑を……」
「いや、これは俺の責任だ。俺がちゃんと休ませときゃ、こんなことにはならなかった」
今回は完全に俺の判断ミスだ。
「それをいうなら、私にも責任はあります。ですから、いいんですよ?」
「でも──」
可憐は黙り込んでしまう。
「可憐ちゃん……」
神崎は静かにベッドサイドへ腰を下ろし、可憐の手をそっと握った。
「可憐ちゃんは楽しくて頑張りすぎちゃったんです。だったら、いいじゃないですか」
「私はただ、はしゃいで……みんなに迷惑をかけただけなんです」
可憐の声は震えていた。
「いいですか? 努力した人を責めるなんてことはできないですし、そんなことをする人を私は軽蔑します。責める相手が、たとえ自分自身だったとしてもです」
神崎は続ける。
「それでも、可憐ちゃんが自分を責めるのであれば、私は可憐ちゃんを本気で怒りますからね?」
冗談ぽく言ってはいるが、おそらく本気であろう。その揺るぎない物言いは、育ちの良さと確かな芯を感じさせた。
「……ありがとうございます」
「でも、どうしても誰かのせいにしたいのであれば、涼也さんのせいにしちゃってください。休憩に行かせないなんてどうかしてますよ、まったく」
「ごもっともで……」
ぐうの音が出ないとはこのことである。俺はそれ以上何も言えないのであった。
それからしばらくして、俺は病院を出た。神崎は可憐を心配して、入院に付き添うこととなった。合流した雨にもその説明を行う。
「で、海の家の方はどうだったんだ?」
「そっちは滞りなかったんだけど……」
雨は言い淀む。
「仕事中に聞いた話なんだけど、どうやら今日の朝方に妙な事件があったらしい」
「妙な事件? なにがあったんだ?」
「なんでも、今日の朝方、ふらふらと海へ向かって歩いていた観光客が何人かいたらしい。崖から飛び降りようとしたところを地元住民に止められたそうだよ。飛び降りようとした当の本人達は何故そんなことをしようとしたのかは曖昧らしい」
「それって……」
「おそらく、間違いないだろうね。この海……というか、この地域一帯なんだけど、少し嫌な気配を感じるんだ」
「ばか! なんでそれを早く言わないんだ!」
「可憐嬢もいたからね。それに、確証はなかったんだ。気のせいかもしれないとも思っていたしね」
そういえば、気配というのは勘と言っていたな……
「それでその気配ってのは?」
「会長の言っていた人魚が関わってるかもしれない。ただ、それ以上はなんとも言えないね」
「で、その会長はどこにいるんだよ?」
「それが、気づいたらいなくなっていてね……」
あの人の神出鬼没はどうにかならないものなのか。
「しかたない、とりあえずその気配が強そうな場所に行くしかないだろ。案内できるか?」
「もちろんさ」
雨はそう言うと歩き出す。俺も黙ってその背中を追うのだった。
既に帰路に着く海水浴客を横目に、俺たちは砂浜を歩く。日は沈みかけ、空はオレンジ色をしていた。
波が寄せては返す音だけが、静かに耳へ届く。
雨は迷いなく砂浜を進み、そのまま人の姿もまばらな岩場へと足を向けた。
足元は砂から岩へと変わり、歩くたびに靴底がごつごつと音を立てる。海水浴場の賑わいは次第に遠ざかり、聞こえるのは潮騒だけになっていた。
「この先だよ」
雨が指さした先には、岩壁にぽっかりと口を開けた小さな洞窟があった。
「いかにもって感じだな」
中へ足を踏み入れると、外の熱気が嘘だったかのようにひんやりとした空気が肌を撫でる。洞窟の片側には海水が流れ込み、波が岩肌を叩くたび、白い飛沫が闇へ溶けていく。天井から滴る水滴が、潮騒に混じって静かな音を刻んでいた。
「そういえば、この辺りの伝承を海の家の店長から聞いたんだ」
「伝承?」
それは初耳だ。有名な伝承ならおそらく神崎が調べていただろうが、民間に伝わる伝承のようだ。
「昔、この町には人魚が住んでいたらしい。その肉を食べれば不老不死になれるという噂が広まり、世界中から人々が押し寄せたそうだ」
世界中から──。たった一匹の人魚のために、そこまで人は欲に駆られるものなのか。
「結局、人魚は捕らえられ、殺されてしまった。そして、その血肉は大勢の者たちに分け与えられた」
思わず足が止まりそうになる。人魚という存在よりも、それを奪い合う人間の方がよほど恐ろしい。
「食ったヤツらは不老不死になったのか?」
「いや。誰一人として不老不死にはならなかったらしい。それどころか、人魚の肉を口にした者たちは、ほどなくして姿を消したとも、謎の死を遂げたとも伝えられている」
洞窟に響く潮騒が、その話の不気味さをより際立たせる。
「祟りってことか。いかにも伝承らしい」
「だから今では、『人魚の肉を食べると祟られる』なんて言い伝えも残っているみたいだね」
そんな話をしている間に、やがて通路は大きく開け、洞窟の最奥と思われる空間へと辿り着いた。
岩壁に囲まれたその場所の奥は海へと繋がっており、寄せては返す波が静かに岩肌を濡らしている。ここより先に道はなく、海だけが洞窟の向こうへと続いていた。
その一角では、長い黒髪をかすかな潮風に揺らし、巫女服をまとった女性が、年月を感じさせる石造りの祠と静かに向き合っていた。
こちらの気配に気づいたのか、女性はゆっくりと振り返る。
「待ちくたびれたぞ。随分と遅かったな」
「……涼也、下がって」
雨は俺の前へ一歩踏み出し、祠へ視線を向けたまま静かに身構えた。
張り詰めた空気の中、波が岩肌を打つ音だけが洞窟に反響していた。
いかがでしょうか
次回か、次次回あたり海編は終わると思います。