ハンター1次試験会場に一人の女性が静謐な佇まいで立っていた。
その女性は黒髪をザックバランに肩で揃え、その左目には眼帯がしてあった。しかし、むさ苦しい男どもや見た目が変なものが普通に闊歩しているこの空間において、彼女の姿は普通すぎた。もしくは中二病を患っているようにしか見えない、微笑ましい姿にも見えるかもしれない。その印象は彼女が身につける無骨な5本のサーベルがより助長している。
そんな彼女は物静かに試験開始時間を待っていたのだが、そんな明らかに浮きそうな彼女に注目している者はいなかった。
だからであろう、静かに立っていると思われいた彼女の足が段々と小刻みに震え始め、そのこめかみに力が入り始めたのを気づく者もいなかった。
「ジメジメして、むさ苦しい」
彼女は腰に挿すサーベルの柄に片手をあてる。
誰も注目していない彼女から不穏な空気が立上入り始めた頃、会場はざわめき始め、彼女の静謐な空間を壊し、男の絶叫が彼女の鼓膜を震わせる。
「うるさい、汚い、邪魔。3つで人生終了だっ!」
いつの間にか彼女の手には抜き身のサーベルが握られていた。
そして刀身につく赤い液体を軽く払い落とし、鞘に納たその時、彼女のそばで両腕を失くして騒いでいた男の体がゆっくりと地面に倒れる。
周囲の人間はさけんでいた男がいきなり黙りこくり、ゆっくりと倒れ伏したことに、何が起きたのかと倒れる男を見ていたのだが、彼らは男が地面に倒れ伏すのと同時にその胴体と頭が離れたのを見て驚愕する。
誰もがこの男に注目していたのに、誰もがこの男がいつ死んだのか気づけなかった。いや、死んだのはおそらく静かになったときだと推測できるが、誰が、どうやって殺したのかがまったくわからなかった。
ハンター試験で人死が出るのは珍しくない。そして、ここにいる人間は皆自一般人ではない。だからこそ、人が死んだことにはそこまで驚かなくても、その方法がわからないことには驚愕を示してしまう。これは、いつでも自分の命が危険にさらされる可能性があるだけに、彼らは必死になって下手人を探す。正義感ではなく、自分の身を守るためにも、どんなやつなのか、味方にできるのか、弱点など、少しでも情報を得て、試験を有利に進めるために探すのだ。
そして、皆が男の死体のそばにいる一人の女性に目を向けるのである。
見た目からは人を殺したようには見えないが、彼女の足元にはサーベルを振るい血を払った後が地面に残っており、更に彼女が男の転がった頭に近づいていたため、彼らは彼女に訝しげに、されど警戒を怠らずに注目する。
その注目する人の中にはある四人組がいた。
その四人は初めてこのハンター試験を受けに来たゴン、クラピカ、レオリオとハンター試験ベテランという怪しすぎるほどいい笑顔で彼らに近づき、助言をくれたトンパがいた。
少しばかり時間が戻るが、この四人は男が腕をなくす現場を見ていた。
「ねえ、トンパさん、あの人は?」
「44番奇術師ヒソカだな、あいつは去年合格確実と言われながら、気にくわない試験官を半殺しにして失格した奴だ、他にも20人ちかくの受験生を再起不能にしてるやばいやつだ。」
「おいおいそんな奴が今年もハンター試験を受けてるのかよ!」
「ハンター試験の受験資格はこの会場にたどり着くことだ。指名手配されたという明確な犯罪者出ない限り、誰でもハンター試験は受けられる。諦めろ」
「なんでそんなに冷静なんだお前は」
「やつは危険だが、近づかなければいい話だ」
「そりゃそうだがよ。おい、ゴンも何か言ってやれ。……ゴン?」
クラピカのあまりに冷静な態度にレオリオはゴンに同意を求めようとしたが、そのゴンから返事がなく、ゴンが自分のことをいきなり無視するような少年じゃないことを知っているだけに、彼はゴンの方を見て、その真剣な表情を見て何かあったことを知り、息を潜め、ゴンに近づく。
「何があったゴン」
「あの男の人がさっき死んだ」
「なっ!誰にだ」
「レオリオ落ち着け。ゴン、誰がやったか分かるか?」
「分からない。でも多分あの人だと思う」
ゴンの指差す方に一人の女性が死体のそばに立っていた。
「おい。あいつは誰だ」
レオリオがこのハンター試験に最も詳しいトンパに質問するも、質問されたトンパは戸惑っていた。
「すまねえが、あれはおそらく新人だ。どんなやつかは知らねえ」
トンパの戸惑いをレオリオは新人だったからかという理由で片付けたが、当のトンパは彼女が新人なことに戸惑っていたのではない、彼女がいつこの試験会場について、どのくらいの間この試験会場にいたのかが、ずっと会場に目を配らせていたのに分からなかったのだ。
トンパ、レオリオ、ゴン、クラピカはどんな奴なのか知るために、彼女を見る。
一方の多数の視線にさらされた彼女は、その視線の煩わしさにイライラを強く感じており、このイライラという名のストレスをどう発散しようかと考え、足元にちょうどよいボールがあるのに気がつく。
彼女はそれを思いっきり蹴る。そこに躊躇など微塵もなく、頭からメキャという何かが壊れる音が出たと思うとその頭は不自然に人がいなくなった空間を走る。
いきなりの暴挙に皆が驚き、そして飛んだ方向を目でおい、顔をひきつらせる。
ここで、この試験会場がどんな場所かを軽く説明しておく。この試験会場は地下にあり、出入り口はエレベーターの一つのみで閉鎖された空間である。広さはそこそこ広いが、その広さも受験生が400人を超えると、地下の空間はギュウギュウとまでは行かないまでも、歩けば人の動きを意識しなければぶつかってしまう程度の人がおり、誰もいない空間が大きくできるのは不自然な場所なのだ。
では何故、そんな不自然な空間が生まれているのかは、皆の視線がボールを追いかけてたどり着いたひとりの男が原因である。
その男、名をヒソカと言う。
彼女をイラつかせた男の両腕を切り外した、トンパ曰く危険人物である。
もちろんトンパで無くとも彼の危険性を知らないものはこの試験会場にはいない。
そんな男がいる方向に人がいるかと言うといる訳がない。誰もが関わりたくないため、モーゼの如く彼に道を譲り、不自然な空間が出来上がるのだ。
誰もが固唾を呑んで見守る中、その殺人ボールは正確にヒソカの後頭部を狙い、ぶつかる前に何かに阻まれたように静止し、不思議なことに彼が振り返るのと同じくして不自然な軌道を描き彼の右手に収まる。
「危ないなぁ♥」
誰もが知る危険人物と、見て分かる危険人物の視線が交じり合う。
『どうしてこうなった!』
彼女は世の理不尽を噛みしめながら、怒りに支配されそうな脳を落ち着かせるように自分の行動を振り返る。
彼女はカッとなり、目の前の男を斬ったことを後悔した。
「ちっ、しまった余計汚れた、クソ」
目の前で怒りに油を注ぐ存在にサーベルを振り下ろしたまでは良かったのだが、彼女はサーベルを振るう対象が余りの雑魚く、そしてストレス解消のためである為、そこまでやる気がなく、少しでもストレス発散が出来れば程度に男の頭を斬ったもんだから、血がドバドバと出たことにより、とっさに避けはしたものの、靴が血塗れになったことに更なる怒りを感じていた。
彼女はため息を吐くと、死体を、特に喚き己を最も不快にした頭部をきっと見つめ、足でリズムを刻む。
彼女は何かを閃いた。
「ボールはお友達!」
彼女は記憶に引っかかる言葉を何となく言って、自身が持ってしまった日本人としての感性に従い、迷惑をかけないように誰もいない空間のど真ん中に、最高の蹴りを叩き込む。
鈍い音が気に食わないが、このゴミをしっかりと捨てるという社会人として当然なこと、そしてポイ捨てされたゴミを拾いなおしてゴミ箱に捨てるという道徳的に良いことをしたというあまりにもふざけた行動に達成感を感じた彼女は、とても気持ちいい気分に浸っていた。
ところが、その気分を台無しにするよな強烈なオーラを感じ、視線をねっとりとしたオーラの元に向ける。
「あれ?おかしいな」
彼女は原作屈指の危険人物ヒソカに見つめられていることにもの凄く動揺するのであった。
彼女はヒソカがなぜ自分に対して興味を持っているのか微塵も分からなかったのだ。
「危ないなぁ♠︎こんなことをするなんて、教育が必要かな♥」
ヒソカは自身に物が飛んできた方を見た。青い軍服に2本ずつサーベルをクロスさせるように計四本背中に差し、その上更に腰にもサーベルを帯刀する女性がいた。
その女性はヒソカから見てもかなりの
好印象だった。
だからこそ、先に手を出すことなく、その手に持つものを指先でくるくると器用に回しつつ少女の出方を窺った。
ヒソカが見守る中、その件の女性、つまり彼女はゆがめた口を開く。
「私はいつだって常識人。だから変態に教育をされる必要なんてない」
その場の誰もがヒソカが手に持つものと、彼女の足元の死体を何度も見て、最後に彼女の顔を見る。
「それはそれは、でも、こんなプレゼントを貰っても困るんだけど♣︎」
ヒソカは自分の手に持つモノを軽く彼女の方に放る。
しかし、彼女に放られたモノはかなりのスピードを持ち、軽くはなったモノとは思えない威力を孕んでいた。
周りの人間はヒソカの手から生首が消えたように見えた。そして次の瞬間、キンという金属音と共に地面にどちゃと何かが落ちる音が響き、彼らは音の方向を見て、驚く。
左右に真っ二つにされた生首が彼女の後方で地面を汚していたのだ。
「何のこと?私はこんな醜悪なプレゼントをするほど悪趣味じゃないんだけど?それとも喧嘩売ってる?」
彼女は自分が切り捨てたものが何であったのか本当に分からずに、持っている原作の知識から、あのヒソカだしという結論を得て、喧嘩を売られたのだと鞘から少しほど刃をのぞかせる。
一方のヒソカは彼女の発言を挑発と受け取り、その顔を愉悦に歪ませる。
「へえ♥なら、やろうか♦」
とたん、二人の発する尋常でない気配が膨らみ、周囲の人間に襲い掛かる。
そのプレッシャーは凄まじく。このハンター試験会場にたどり着くことが出来る猛者たちであっても容易に耐えられるものではない。ハンター試験が始まる前に二人目三人目と意識を手放す離脱者が現れることになる。それほどのプレッシャーであるのだ。
それは事の成り行きを見守るゴン達主人公組も例外ではない。
ゴン、クラピカ、レオリオ、トンパはそれそれ症状の重さに違いはあれど、一様に満足に立ってられなくなった。
「買った!」
大きな声ではないが、この場の誰もに彼女の声が聞こえ、彼らにかかる圧が最高潮に高まった時、一次試験を開始を示す音が鳴り響く。
彼らは重圧から解放され、隙を晒すことをいとわずに地に尻を着け呆け、そして波乱のハンター試験が開けようとしているのを深く心に刻み込む。
彼らの目には、到底武器とは呼べない、されど死神の鎌の様に濃い死の気配を漂わせるトランプを、そして彼女はサーベルをお互いの首まで15センチの所で止めていた。
「絶対に殺す」
「楽しみだよ♥」
物語はいきなり暴走し始める。決められたレールを走ることなく、ただ、彼女の怒りのままに、何処までも歪み、戻ることなく、加速するのである。