最強の目を持つハンター 怒りの頂   作:kurutoSP

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4話

 ハンター、それは怪物・財宝・賞金首・美食・遺跡・幻獣など、稀少な事物を追求することに生涯をかける人々の総称である。つまり、一口にハンターという存在を語るのは難しい。しかし、それでもひとつだけ言える事がある。それはプロハンターとそうでないものの差は簡単に埋まるものではないという事であろう。それは戦闘を主とする賞金首ハンターではない、例えば美食ハンターにも言える事であろう。

 

 

 

 第二次試験を開始する銅鑼の音が鳴り、目の前の建造物の扉がひらく。受験生達は、開いた扉の先に様々な調理台と奥にいる大男とそれに比べると小柄な女性を発見する。

 

「サッサと入りな!落とされたいの」

 

 いきなりの女性の声に受験生達は目の前の二人が試験官であると判断し、そして落とされたくないので慌てて試験官の前に進みでる。

 

「また、随分と多いね。まあ、ここで落とせばいいか。まず一次試験合格おめでとうと言っておくわ。じゃあ二次試験に入るわよ。ブハラ!」

 

 女性は思ったよりも多くの受験生の数にゲンナリしつつも、一次試験を突破した面々におざなりな拍手をすると、その人数に関心しているブハラを睨み、怒鳴りつける。

 

 一喝されたブハラだが、女性との付き合いが長いのか、気にせず説明を始める。

 

「オレはブハラ。美食ハンターで、君たちの二次試験の最初の試験官だ。オレからのお題は豚の丸焼き。この森に住む豚なら何でも構わない。試験はオレの腹が一杯になるまで」

 

 美食ハンターという言葉に数人の受験生は侮りの視線を向け、他の受験生達は美食ハンターなので難しい料理でも作らされるのかと考えていただけに、豚の丸焼きという簡単な料理に余裕の表情を浮かべる。

 

 そんな受験生を不快げにみる女性は、思いっきり自分の近くにある銅鑼を鳴らす。

 

「ほら始まり!チンタラしてたらブハラの腹がいっぱいになるわよ」

 

 突然の開始宣言と、早い者勝ちな試験内容に慌てて走り出す受験生の背を見て笑いを堪える女性にブハラは呆れていた。

 

「メンチ、オレのお腹はたったあれだけの受験生が狩る豚程度じゃあ満腹に何てならないよ」

 

「いいじゃない。試験官も人間よ。それも理解せずに馬鹿にしてくるやつを優遇するわけ無いじゃない。それに意地が悪いのどっちかしら?あの森に住む豚なんてあの一種類しかいないじゃない」

 

 笑いかけるメンチに対してブハラも笑いかえす。

 

「逆に豚の餌にならなければいいけどな」

 

 二人して受験生の苦労を想像して含み笑いをする。

 

「はい。丸焼き一丁」

 

「「へ?」」

 

 二人の前に現れた彼女により、その顔はなんとも間抜けであった。

 

 

 

 

 少し時間は遡り、受験生達が開かれる扉の向こう側を見ていた頃、彼女はというと、既に森の中で、豚と対面していた。

 

「ブキー」

 

 人よりも大きい吠える豚の群れを前にして彼女は不敵にも笑っていた。

 

「これで私が圧倒的な一位。試験官の驚く顔が目に浮かぶ」

 

 彼女は珍しく上機嫌だった。試験内容も知っているからこそ、自分の実力を分かりやすく示す機会であるからだ。

 

 豚達は、自分の縄張りに入る小さな生物に怒り心頭であり、その特徴的な大きく硬い鼻で彼女を圧殺せんと迫る。

 

「今の私は機嫌がいい。戯れてやるよ豚ども」

 

 手に持つのは一本のサーベル。突進してくる巨体には爪楊枝みたいで頼りない。されど、刻一刻と近づく巨体に対して、ただ不敵に笑う。

 

「ほーら、まず1匹2匹」

 

 豚達は、目の前の人が消えて戸惑いつつも、止まらぬ体にブレーキをかけつつ、周囲を見ようとして、止まらぬ仲間に訝しむ。

 

「「「プギー!!!」」」

 

 止まらぬ仲間は、その足をもつれさせ、転がるようにして木にぶつかり、その巨体を制止させる。豚達はその止まった仲間の姿を見て動揺し、叫び出す。その仲間は首から大量の血液を流しつつ死んでいた。

 

 彼らの強みはその巨体による突進。突進時にはその体の正面は硬い鼻という盾に守られ、突進している彼らを狩るのは困難極まりない。だが、止まってしまえば、それはただの大きな豚である。

 

「そら、さらにもう2匹」

 

 声が空から聞こえる。そう思い上を向いた豚だが、彼らの頭上に誰もいない。そうして最後の1匹が視線を戻すと、残ったのは自分一人であるのを死んだ仲間を見て理解せざるを得ない。

 

 豚はようやく恐怖して後ずさる。自分達が餌だと思った生物が、手を出してはならぬ生態系の頂点であることを理解して、後ずさり、逃げようとする。

 

「賢いね。でも残念。気づいた時にはもう遅い」

 

 豚は自分の視界が縦に真っ二つにズレている不思議な光景に疑問を感じ、死んだ。

 

「うん。運ぶのはこいつにしよう。真っ二つの死体なんてカッコいいじゃん」

 

 彼女は真っ二つの豚の足を掴み、鼻歌を歌いながら、その途中で見つけた川で、彼女はついでとばかりに魚を捕獲して会場に戻った。

 

 

 

 

「驚いた!もう狩ってきたなんて」

 

 ブハラは既に目の前に焼かれた豚があることに驚いていたが、それよりも、鼻ごと縦に真っ二つの豚に、そこから測れる彼女の実力により驚いていた。

 

 そんな予想通りのブハラの顔にさらに上機嫌になら彼女の顔は次のメンチの言葉にヒビが入る。

 

「まぁ、すごいけど不合格」

 

「へ?」

 

 惚ける彼女の顔を見ながら、メンチは呆れたように真っ二つにされた焼き豚を指差す。

 

「ブハラのお題は丸焼き。あんたのは豚に一手間加えた焼き豚」

 

「なっ!似たようなもんだろうが!」

 

「料理舐めてんの!料理には決まった調理法がある!つまり調理法が違えばそれは見た目や味が似たようが別物よ!舌確かなの?」

 

 メンチは自分の舌を彼女に見えるように出して、わざわざ舌を指差す。

 

「あん」

 

「やんの」

 

 彼女がサーベルの柄に手をやると、メンチはそれに反応して背中にしまっている包丁に手をやる。

 

 一触即発の場で、ブハラは呑気に彼女の焼き豚を食べていた。

 

 バリボリ

 

「何あんたは呑気に食べてんのよ!」

 

 当然のように、短気なメンチはブハラに対して、そのうるさい食事に文句を言う。

 

『隙ありだ、馬鹿女が!腕の一本くらい覚悟しろ』

 

 彼女は明確な隙を見つけて一歩足を前に進めようとする。殺さなくても、試験官に攻撃する時点で失格になるのだが、メンチに敵意を持ちすぎたため、合格するという目的を忘れかけていた。

 

「うん、美味しい。合格」

 

「ちょ!ブハラ」

 

「……………チッ」

 

 全て食べたブハラが合格を出したことにより、彼女は当初の目的を思い出し、取り敢えず矛を収め、それでも怒りが完全に収まらないので、舌打ちをしてその場を去る。

 

 去って行く彼女を睨みながら、メンチはブハラに文句を言う。

 

「試験問題を守れない輩に合格を言い渡すんじゃないよ」

 

「メンチは厳しすぎるんだよ。別に料理の出来を審査するのが目的ではなく、洞察力と推理力を見たいんだし、その点彼女はあの豚を始末しているんだから合格でいいでしょ。それに、彼女のオーラは洗練されてた。他の受験生ならともかく、あそこで戦闘になるのは避けれるなら避けた方がいいと思ったしね」

 

「あたしが負けるって言いたいわけ」

 

「そうじゃなくて、44番も同じようなことをしでかすかもしれないから」

 

 メンチはこの試験会場にて最もイラつく視線をよこしてきた変態を思い浮かべ、顔をしかめる。

 

「……………そうね。でも、私の試験には口出しさせないわよ!」

 

 少しばかりまずい状態になったメンチに、ブハラは頭に手をやるが、一旦自分の試験に集中することにした。

 

 

 

 

 狩って来た豚を全部完食したブハラに、クラピカはその有り得ない現象にショックを受けている間に、ブハラは豚を持ってきた皆に合格をいいわたし、それを聞いたメンチはようやく自分の番かと、座っていたソファから立ち上がる。

 

「私のお題は握り寿司よ」

 

 メンチはこの場の誰も知らないであろうお題をだす。普通なら理不尽だが、そこはそれ、試験であるため、彼女は自分の目の前には、醤油瓶と小皿、そして薬味を置いていた。

 

『よし、これなら合格貰った』

 

 一方、全く原作と変わらぬ流れにほくそ笑む彼女は、主人公一行に視線を向ける。そうして、特にレオリオに期待して見ていると、期待通り、彼はクラピカの助言を叫んでしまう。

 

「魚!」

 

 全員がそれに反応し、川に魚を取りに走って行った。

 

「あんたは行かなくていいの」

 

 メンチは全員が出てからしばらくしても全く動かない彼女を見て、挑発するように問いかけたが、その問いに答える代わりに不敵な笑みを見せつけ、いつの間にかもっていた魚を空中に投げた。

 

「ちょ、何してんの!」

 

 いきなりの食べ物への蛮行を見て叫んだメンチだったが、次の瞬間、光の線が魚にはしり、皿の上にいつの間にか準備されていたひとにぎりのシャリの上にその身が乗った。

 

「どうぞ、召し上がれ」

 

「食えるわけねえだろアホが」

 

 彼女が、自信をもって出した寿司は一瞬のうちに投げ捨てられた。あまりのメンチの早業に、さすがの彼女も反応出来ずに少しの間、呆然とした。しかし、即座に土にまみれた自身の一品を見てメンチにサーベルを突きつける。

 

「この馬鹿女が!私を馬鹿にしてる?寿司の形は完璧だし、ネタは完璧に切ったから断面も完璧、流石にシャリはそこまでではないなしても、見た目も、ネタの食感も悪くないと思うんだけど、それを捨てるとは、何様のつもりだ!」

 

 試験を合格したいなら普通は試験官の印象をよくしようとするものだが、すっかりそんなことを怒りで遥か彼方へと追いやった彼女は、試験官への罵倒を隠すことすらしない。もちろんそんなことをすれば、短気なメンチは簡単にキレる。

 

「ナチュラルに試験官を罵倒したんじゃないわよ、そんなに落ちたいわけ、というか、そもそもこのネタ、見た目をよくするためにわざと皮を残したのだろうけど、鱗くらい取りなさいバカ、さらにあんたのそのサーベル、綺麗だけど、豚やら人やら斬って来たもんだろうが!普通にばっちいわよ。さらに言えば、骨が残ってる。切る場所間違えてるし、そもそもなんでこの魚なの!あそこの川魚は特殊で、寄生虫が住み着いている魚なんてこれ以外ないのに、それをなんで生でだす!せめて炙ってだせ、このイカレ女。これでも文句ある。文句あるなら買うよ!」

 

メンチは目の前のサーベルを包丁で跳ね上げ、こちらを睨む彼女を睨み返す。

 

 文句の付けようが無いほど彼女は不利であったが、ここまでボロクソに言われてはただでは引き下がれない。彼女は目の前の女を殺す覚悟を決めようとしたところに、横から頭に特徴的なモミジをつけた忍者であるハンゾーがやって来て、料理をメンチに差し出す。

 

「あんたの番は終了だ、次は俺のを頼む」

 

 いきなり邪魔して来た男を当然のように斬ろうとした彼女だが、そのもみじを見て殺意を押し込める。

 

『時間切れか。どうせ合格は最終的に出来るしもういいか』

 

 彼女はこの後の流れを思い出し、一旦引き下がる。そしてメンチも、試験官から斬りかかるわけにもいかず、目の前の料理に集中する。

 

「形はさっきのと同等だけど、鱗や骨が残ってるなんてミスはなさそうね、はむ、もぎゃもぎゅ、...失格、もう一度あんたもやり直し、あの女と然程変わらないわね」

 

「なっ、んなばかな!」

 

 この時ハンゾーは自分以外に握り寿司を知っている人間なんかいないと思っていただけに、自分より先に寿司をもって行かれたのもあり、とても焦っていた。つまり、やらかしてしまったのだ。

 

「飯を一口サイズの長方形に握ってワサビをのせ、その上に魚の切り身を乗せるだけの簡単な料理たろうが、こんなの誰が作っても関係無いだろうが、そこのバカみたいに料理の初歩すらできんやつとは違うんだぶるち」

 

「お前だけにはバカと言われる筋合いは無い!次言ったら殴る」

 

「ちょっとあんた、そいつがバカなのはわかるけど、もう殴った後に言ってもしょうもないし、そもそも地面に顔が埋まってたら聞こえないわよ」

 

 哀れハンゾー。本当に哀れである。確かに彼は愚かだったが、彼がやり直しになった要因の一つは彼女であるには間違いなく。集中しているメンチの舌は職人モードとでもいうべき状態に入りかけていただけに、彼が合格する確率は原作の状態よりも更に低いものとなっていたのだ。なのに、彼女によって地面から生えている状態の彼は本当に哀れである。

 

 

 

 

 この後、結局、美食ハンターとして採点するメンチを満足させるものなど一人も現れるはずもなく、めでたく合格者0人となった。そんなふざけた試験結果は、この自体を予想していたサトツのファインプレーにより、ハンター協会会長のネテロがとりなし、クモワシの卵を取る試験にかわった。

 

「じゃあ、試験の説明をするわ」

 

 場所を移動した彼らは、大きく煮え立つ釜を見ながらも、谷の目の前に立つメンチに意識を向ける。

 

「と言っても説明なんか殆ど無いのだけれど、クモワシは見ての通り、崖の間に蜘蛛の巣の様に糸を張り巡らせて卵を産む習性があるの。だからこの谷から飛び降りて卵を捕ったら、此処に戻ってくるだけよ」

 

「なっ!ふざけてるのか!」

 

 谷を覗き込んだ受験生の一人が、不可能だと文句を言うが、メンチはそれに取り合わずに、崖から飛び降りる。

 

 谷から離れて様子を見ていた受験生達も慌てて崖から落ちていったメンチがどうなったのか見に行く。メンチはクモワシの巣の糸にぶら下がり、片手で卵を取っていた。

 

「どうやって上がってくるつもりだ?もしかして川でも泳ぐのか?」

 

 一人の受験生が、下を流れる激流の川を見て、皮肉たっぷりに言うが、他の受験生もその言葉に同意しているのか、固唾を呑んで見守る。見守られているメンチは目を閉じ、何かを待っていた。

 

「よし」

 

 短く小さく呟くと、糸から手を離し、落下する。受験生の殆どが、この時本当に川を泳いで登るのかと戦慄したが、彼らは下から吹く突風に煽られ、目を開けられなくなる。

 

「こんなもんよ!」

 

 自分たちの上から声が聞こえる。その事実に受験生達は視線を下から上へと上げる。メンチは突風により、自分たちの上空を飛んでいた。

 

「よっと、以上よ。丁寧に解答まで見せてあげたんだから、文句を言うはずないわよね」

 

 確かにメンチの行動通りすれば卵を得られるのだろうが、それを実行できるかどうかはまた別の話であり、メンチの視線に耐えられず、目を逸らす半数以上の受験生達。そしてもう半数はやれば出来ると、飛び込む。メンチは飛び込まない半数以上の受験生に美食ハンター舐めんなよとガンを飛ばしつつ、その中に彼女を見つけ、嬉しそうに近づく。

 

「おや。あれだけ私に対して大口叩いて、喧嘩売ってた割に、この程度で足がすくんで動けないのかしら」

 

 嘲笑われた彼女はメンチに対して、逆に笑って見せた。

 

「くだらない。自分の力だけでこの程度のことがこなせないから、美食ハンターなんて言う最強からほど遠い逃げの役職に拘ってられるんだろうね。全く見下げたプライドだ」

 

「よーし。その喧嘩かってやるわよ!」

 

「落ち着いてメンチ」

 

 包丁を両手に装備し、臨戦態勢のメンチをブハラが抑える。そんなメンチに対して、彼女はもう一度鼻で笑うと、谷まで歩いて行き、そのまま谷に飛び降りた。

 

「そのままシネェェェェ!」

 

「メンチ。会長の前、会長の前だから!もう少し本音を押さえて」

 

 彼女が下りてから少しして、先行していた受験生達が、この谷特有の風に乗り、卵を抱えて戻ってくる。その中に彼女の姿は無い。メンチはそのことに喜ばない。彼女のことは大っ嫌いだが、その実力を見誤るようではハンターなどやっていけない。気になったメンチは谷を覗き込むと、そこには未だにぶら下がっている彼女がいた。

 

「助けてあげようか!」

 

 メンチは何故、あの風で戻ってこなかったのか不思議に思いながらも、彼女を煽る。メンチの声が聞こえたのか、糸にぶら下がっていた彼女は上を向き、不敵に笑う。

 

 彼女は不安定な糸の上でバランスを取り、片手で勢いをつけ、ぶらぶらと前後に揺れると、取っていた卵を上空に放り投げる。

 

「なっ!もったいない」

 

 メンチは思わず、その食べ物を無駄にする行為に対して怒鳴りつけ、その卵の行方を目で追ってしまう。

 

「へ?」

 

 メンチは自分の目が信じられなかった。数秒卵の行方を見ていたため、彼女の行動を見ていなかったが、それでも、あの宙ぶらりんの状態から彼女がどうやって空中に投げ出された卵をキャッチできるのかが理解できなかった。

 

 メンチが呆けている間も、彼女は動き続ける。卵を抱えた彼女はそのまま崖を垂直に駆ける。もう訳が分からない。そうしてメンチが混乱している間にも、彼女はメンチのすぐ横に降り立つ。

 

「楽勝」

 

 気分爽快。誰が見ても、彼女の顔は心の内を余すことなく表現しきっていた。

 

 こうして受験生108名から、66名の脱落者を出し、彼女を含めた42名が合格した。

 

 

 

 

 

 

 こうしてハンター試験一日目は終了し、次の三次試験は翌日、別の場所で行うことを会長の口から直接説明された受験生達は、用意された飛行船に乗る。

 

 会長のネテロは今回の試験で、幾人かの受験生に目を付けていた。その中には、未だ茫然自失としながら、ブハラに支えられ、飛行船に乗り込んでいるメンチが突っかかっていた彼女も含まれている。

 

 ネテロは、皆が飛行船に乗り終わるまでの間、谷を覗き、先ほどの出来事を思い返していた。

 

 ネテロは彼女に興味津々だった。メンチは確かに美食ハンターである為、同じ一つ星でも賞金首ハンターと比べればその戦闘能力は劣る。されどその実力は、協会のハンター全600人の中でも上位に位置するのは確かであり、そんなメンチを弱者だと言い張る彼女の次なる行動が気になっていた。

 

『さてどうする?風を利用せずにこの崖を片手で登るのは至難。そして、片手ではぶら下がることしか出来まい。さあ、どうするかのう』

 

 楽し気に次の行動を待っていたネテロは、卵を放り投げ、片手を自由にした彼女が次にどうするのかを見ていた。

 

 彼女は、前後左右に揺れながら、自由になった片手で腰のサーベルを抜くと自分を支えてくれる糸を斬ったのだ。もちろん、糸を掴む彼女は重力に従い下方に向かうのだが、前後に揺れていたおかげで、弧を描くように彼女は糸を掴んだまま崖の表面に足を着地させると、抜いたサーベルにオーラを纏わせ、やすやすと崖にサーベルを突き立て、姿勢を一旦安定させると、卵の現在地を確認し、崖の僅かなでっぱりに足を掛け、平坦な地面であるかのように卵に向けて駆け、反対の崖にジャンプするついでに卵をキャッチすると、また崖に足をかけて疾走し、息を荒げることもなく、汗1つ掻かずメンチの傍に立ったのだ。

 

 ネテロは驚愕した。彼女が一切発を行わず、足にした凝とサーベルにした周のみで登り切ったのだ。つまり、彼女は特別な能力なしに、素の目の良さで、最適な足場を見つけ、それでも不安定な足場で一切バランスを崩すことなく、落ち続ける卵に意識を割きつつも、その全ての行為を一瞬のうちに行い、あまつさえ、走って見せたのだ。

 

 ネテロは全ての受験生が飛行船に乗り、ビーンズに呼ばれるまでの間、谷間で切れたクモワシの糸が風に流されそよぐ様子を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 飛行船に乗った彼女は、彼女を恐れて誰もいなくなった部屋で一人鏡を見つめていた。鏡を見つめる無表情の彼女は怒りの表情すら宿して居らず、その漆黒の瞳は鏡に映る自分をじっと見ている。

 

 日が暮れ、明かりも付けない部屋は当然の様に暗くなる。彼女は暗くなった部屋で、そっと顔の眼帯を外す。

 

「最強の証。私が持ってる唯一無二の私。貴方のではない強き私の象徴。貴方に壊された私であり、壊れた私があなたを殺して奪ったモノだ。彼の目だろうと今は私の。彼の様に私は怒りを制御できない。でもそれでいい。彼と私は違う。でも、最強でなくてはならない。貴方に全てを捨てられた私は、貴方の全てを捨てる」

 

 そっと、鏡に映るウロボロスの刺青に触れ、その鏡の目を砕く。

 

 凪いでいた彼女の表情は既に憤怒に支配されたいた。

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