最強の目を持つハンター 怒りの頂   作:kurutoSP

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5話

「あ、あぁぁぁぁぉぁぁ!」

 

 飛行船が順調に目的地まで飛び、次の試験会場であるトリックタワーが目視できる距離まで来たところで、朝食をとっていた受験生たちはいきなり聞こえてきた叫び声に、眠気を飛ばされる。

 

 なんだなんだと声の出所を探す彼らだが、誰が叫んだのかを知ると、そそくさと飯を腹に詰め込み、この場を去ろうとする。

 

「えっと、俺たち何かしたかな?」

 

「ほっとけ。あの女に関わるとろくなことがねぇ」

 

 ゴンは食堂に入った瞬間に叫ばれ、初日のことを思い出すと、隣のキルアの陰に隠れる。一方、盾にされた彼も、昨日の出来事を思い出し嫌そうな顔をすると、食堂から出る受験生をぬって、まだ朝食をとっていたクラピカとレオリオのテーブルまで行く。

 

「何やったんだお前ら」

 

「何もしてねーよ」

 

 彼女の奇行を見ていたレオリオは、奇声と同時に入ってきた彼らにフォークを突きつける。しかし明らかな濡れ衣にキルアはそのフォークの先端を曲げてしまう。

 

「おまっ!これ、飯が食えなくなるだろうが」

 

 一方、クラピカは至って冷静で、目の前の朝食を全て腹に収めたあと、食事を楽しそうに待っているゴンに話しかける。

 

「それで、どうなんだ?」

 

「うーん?何もしてないと思うんだけどなぁ」

 

 困り果てる彼を見て、クラピカも昨日の彼女の言動を思い返す。

 

「彼女の方に何かあったのかもしれないな」

 

「考えているところ悪いけどさ。あんなイカレの考えなんて考えるだけ無駄だぜ」

 

「まあ、俺もそう思うぜ」

 

 彼女について語るキルアの嫌そうな声に、曲がったフォークに悪戦苦闘しながらレオリオが同意する。

 

「それもそうか」

 

 クラピカも苦笑しつつ頷き。次の試験について彼等と語らうことがまだ建設的だと判断し、他の三人に今見えているタワーについて尋ね、他の三人もそれに乗っかり、彼女のことを無視することにしたのだった。

 

 無視された彼女はというと、頭を抱えてテーブルに突っ伏していた。

 

『しまったぁぁぁぁぁ。昨日何で私は寝てしまったんだ。原作通りに進んでいたなら、ネテロが二人と戯れていたはず。それもライセンスをくれるというとってもお得な遊びだったのにィィィ。ああ』

 

 彼女はゴンの顔を見て、こんな面倒な試験を受けなくてもライセンスを取れた可能性に思い至り、逃した魚の大きさに悲鳴をあげたのだ。

 

 しかし、そもそもの話だが、そんな魚など最初からいなかったのは明白なのである。

 

 彼女が言う通り、ネテロの戯れ。ゴンとキルアに対して、ボールを取れたら、ハンターにしてあげるというふざけた提案が原作にて出たのも、彼ら二人が念能力も使えないヒヨッコであり、万が一も存在しないからこそのおふざけ。

 

 つまり、彼が遊べる存在でしかしない提案である。戦闘能力が高く、念をつかえ、発も分からない存在に対して、如何にネテロといえど、そこまで舐めプなどしないであろう。

 

 だが、そこまで考えが至らない彼女は、皮算用をして、この手に入ったかもしれない物の大きさに嘆き、そして何故こんなミスをしたのかと、悲しみを怒りに変える。

 

「腹立ってきた!」

 

 目の前に残っている朝食をガツガツと食べ、皿がカラになると追加注文をする。どうやらやけ食いすることにした彼女は、あと少しで試験が始まるのを忘れているようだった。

 

 

 

 

 

「受験生諸君。3時試験会場、トリックタワーへようこそ。放送ですまないが、このトリックタワーでの試験官を務めるブラックリストハンターのリッポーだ。諸君らの前に私が顔を出すのはこの試験が合格した後になるだろう」

 

 放送が流れたのは、受験生達が飛行船から途轍もなく高いタワーのてっぺんに降りて、飛行船が去って行くのを見送た時のことだった。

 

「私もこのタワーの管理で暇では無いのでさっさと説明をしよう。君たちが今立っているその場所はトリックタワーと呼ばれるハンター協会が所有する建造物だ。そしてルールはこのタワーを降りて一階にたどり着くこと、それだけだ。ただし、制限時間は今から72時間とする。では死なないように頑張ってくれたまえ」

 

 受験生たちは説明が終わると一度はタワーの端に向かい、そこからタワーの側面を見て、地面に垂直な側面を確認し、ただタワーが極めて垂直に立っていることを理解し、元の位置に戻る。

 

 ゴン達も、タワーの端まで向かって下を見る。

 

「うっわー!高いね」

 

 ゴンは下に雲が見えるその光景に、純粋に驚いていたが、同様に見ていたほか三人は、タワーの側面を観察していた。

 

「いけるか?」

 

「そう思うかいレオリオ」

 

「俺は無理な方に一票だな」

 

「いやいや!だがよう。このタワーのてっぺんには入り口が無いんだぜ。なら、ここの側面を降りるしかねえってことじゃねえか。意外とよ」

 

 レオリオはしゃがんで側面の感覚を確かめるように触り、立ち上がると、ゆっくりと片足を側面に降ろそうとする。

 

「このっ!や、やめろ、うわぁぁぁぁぁ!」

 

「「「「……………」」」」

 

 レオリオより先にその考えに至った一人の受験生が複数の巨大な人面鳥に啄まれ、側面から剥がれ落ち、空中でキャッチされると何処かへ連れ去られてしまった。

 

 それを見ていたレオリオは急いで体ごと引き戻し、倒れこむ。

 

「意外と?さすがレオリオ。俺は無理だけど」

 

「ばばば馬鹿言っちゃいけねーぜ。どう考えても死ぬ!」

 

 キルアのツッコミに、地面に突っ伏すレオリオは猛然と首を横に振る。

 

「うーん。でもどうすればいいんだろう?」

 

 見えぬ突破口にゴン達が頭を悩ませている間、同じように下を覗いている彼女もまた、悩んでいた。

 

「腹が重い。はっ吐きそう」

 

 朝のやけ食いで気分を悪くしていた。

 

「ここで試験官が不可能だと思っていた経路を最短で降りるのが最もかっこ良いのに、腹が重くて、今降りたら途中で吐く!」

 

 ならば、さっさと今ここで吐いてしまえばいいのだが、それをしたら自分がこのハンター試験において築いてきた最強の自分という印象が崩れ去ることを懸念して、ただ口を押さえてプルプルと震えるのみ。

 

 もう十分みっともなく、そして皆の印象も最強ではなく、ヒソカと比べても最凶であることから、無駄な抵抗なのだが、彼女はここから1時間以上もその場でうずくまっていた。

 

 

 

 

 静かなトリックタワーの頂上でようやく胃の中を消化し終えた彼女は、周りをくるりと見渡し、膝をつく。

 

「誰もいない。これじゃあ、私の強さが伝わらない。クソ!」

 

 このあと、タワーの側面から降りようと考えていただけに、オーディエンスが誰一人いないこの場で、悪態をつくも、聞いてるのは眼下の森のどこかで不気味に鳴く怪鳥だけである。

 

「仕方がないか」

 

 深呼吸をして、怒りを納めると、躊躇なくその足を前に出す。両足が地面から離れると、身体は自由落下を開始するが、彼女は黙って落ちはしない。

 

「よっ、ほっ、と!」

 

 軽い掛け声とともに、彼女の両足はトリックタワーの僅かな凹凸に足を掛け、階段を降りるかのように、手すら使わずに下へ下へと降りて行く。

 

「「「キシャァァ!」」」

 

 順調に降りていた彼女だが、やはり犠牲になった男の時と同じように、人面鳥が彼女に向けて飛んでくる。それを見て、普通なら地を這う人間は己が飛べぬことを絶望するだろう。しかし、彼女は喜んだ。

 

「困難を捻り潰して進んでこそ最強!」

 

 男を落としたように鳥たちはその鉤爪やくちばし(?)で突こうとするが、男の時はゆっくりとロッククライミングしていたため、簡単に引っ掛蹴られたが、彼女は壁を歩いている。それも下に垂直に降りるのではなく、時たま左右にもずれるため、鳥たちは彼女の動きについてこれない。

 

「ククク。私を止められるものなど、いない!」

 

 鳥たちは餌に向けて直行したはいいもの、中々彼女に攻撃できない。それどころか、その巨体が仇となり、ぶつかり合って、攻撃が不発することの方が多い。彼女はそんな鳥頭を嘲笑い、更に降りるスピードをあげる。

 

「キシャァァ!」

 

 彼女が勝ち誇って入られた時間は短かった。たしかに、彼らは人よりも賢くはないのかもしれない。しかし、厳しい自然を生き抜き、群れをなして狩をする程度に、賢いのもまた事実である。

 

 彼らは群れて攻撃することに意味が無いことを理解したら、今度は軽く距離を置き、1匹ずつ、巨体の利を活かして突進してきた。

 

 もちろん、その程度の攻撃を避けられない彼女ではない。軽く避けて、代わりに壁を食わせてやる。

 

「ふ、ちょろ、へっ!く、この、この野郎!舐めるなぁぁぁぁぁ!」

 

 彼女は無様にも顔面を壁で強打した鳥を笑おうとして、次々と鳥たちが突っ込んでくるのを見て、顔を引きつらせる。しかし、彼女は降りるスピードを下げることなどしない。鳥如きに妥協するようなことはあってはならない。その一心で彼女は吠え、その攻撃を捌き続ける。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁぁぁぁ!」

 

 しかし、吠えた彼女の声に反応して、森からどんどんと人面鳥が彼女に向けて飛んできては攻撃をするため、攻撃の密度はどんどんとあがり、それに従い、彼女は回避を優先せざるを得なくなり、降りるスピードがおちていく。

 

 そんな、華麗に捌いて降りる理想と乖離し始めている現実に苛立ちを貯め始め、ついに避けられない攻撃が来た時、彼女は怒りを爆発させる。

 

「無駄だって言ってるだろうがぁぁぁぉぁあ!」

 

 複数羽で飛んでくる人面鳥は、彼女の逃げ場を塞ぐようにそのでかい顔面で範囲攻撃を仕掛けるが、彼女はその両手にいつの間にか握っていた二刀のサーベルで斬り殺す。

 

 斬り殺された鳥は、死してなお、その巨体を持って、慣性の法則という物理法則に従い彼女に迫るが、死んだことにより、鳥たちの軌道が僅かにずれ、攻撃に穴が発生する。その穴に彼女は体をねじ込んで無傷で回避する。

 

「どうだ!私がさい…、あっ!」

 

 彼女は一方的に攻撃されるという事態にフラストレーションを溜め、なぜ自分が今まで回避に専念していたのかを忘れ、その分厚い毛皮を絶ち、その肉を斬るために思いっきりサーベルを振るった。その結果としては、元々留まることが不可能なため、彼女は常に移動して、その体が潰れたトマトにならぬよう、重力に抗っていたのだ。そんな中、両手足を使うのならその場に何とかとどまれる程度の凹凸で、攻撃に移ればどうなるか。それは傾く彼女の体が全てを物語っていた。

 

 答えは攻撃による重心の変化で、壁から体が離れるである。

 

「キシャアア」

 

 鳥たちは遂に自分たちの狩場に落ちた餌の存在に、我先にと飛びつく。

 

「この程度ぉぉ!」

 

 彼女は既に数秒間落下して、十分速度が出ている己の体を止めるべく、サーベルに周をして、壁に突き立てる。

 

 ハサミが紙を割くように、面白い様にサーベルが壁を切り裂き、そして折れる。

 

「もう一丁」

 

 折れたサーベルを即座に捨てて、彼女はもう一本のサーベルを突き立てる。今度も壁を簡単に切り裂き、一本目でだいぶ速度を殺せていたのか、今度は折れることなく止まる。

 

 こうして、地面に赤い液体をぶちまけることを避けた彼女だが、彼女がこの行動をとっている間にも鳥たちは彼女に近づき、攻撃を繰り出している。

 

「ああ~!畜生やってやる。ここで皆殺しだァァァァァァ!」

 

 彼女は片手しか使えない状態で、迫りくる鳥たちと長いこと戦う羽目になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女が欲しかった試験官の驚きと一番を獲得したヒソカは、残りの時間を持て余し、トランプタワーを作っては崩しと、一人で遊んでいた。

 

「第三号!402番、所要時間12時間2分」

 

 そこに、自分が今最も興味のある女性が来たことに彼は自分が出た時の様に、壁の凹みを見るが、ぐるりと半円状に配置されたレンガの扉はどこも開いてはいない。しかし、放送を信じるならば、ゴールしているはずと首を傾げるヒソカの背後で扉が開く音がした。

 

「なるほど♦」

 

 外に出る扉が開き、そこから血まみれの彼女が折れた刀身を持って現れたことにより、ヒソカは彼女が何をしたのかを理解する。

 

 一方彼女は、退屈しのぎに遊んでいるヒソカをその目で確認すると、あれだけ苦労したのに、まっとうに攻略したヒソカよりもクリアが遅かったことが信じられず、この理不尽な結果に、ここの試験官の試験内容にケチをつけ始める。

 

「クソ!獣臭い。本当に最悪だ。ヒソカに負けてるし、この試験を作った奴は頭がイカレてるとしか言いようがない」

 

「よっしゃあ~!一番のりだぜ~」

 

「第四号!294番ハンゾー、所要時間12時間3分」

 

 そんな不機嫌な彼女のちょうど真正面のゲートが開き、ハンゾーが出てきて、その彼女の目の前で喜びをあらわにした後、周りを見てガッカリする。

 

「ノォォォ、なんてこった、まさか四番だなんて、というか上で吐き気で悶絶していたアホ女よりも遅いだなんて屈辱だぁぁぁ」

 

「喧嘩売ってんのか禿!いちいち癪にさわるなぁ、そんなに私を怒らせたいか、そうなんだろ!そうだと言えよ。というかそうなんだな!なら遠慮せず、死ね!」

 

「ちょっまっ、ぎゃあぁぁぁぁぁ」

 

 爆弾の前で火遊びをしたらどうなるか子供でも分かるような馬鹿な行為をしたハンゾーは、彼女の飛び蹴りを頭に食らい吹き飛ぶ。その様子は、闇夜に浮かぶ満月のようであり、薄暗い広間ではよく輝いていた。

 

 煩いのが沈黙したおかげで、室内は静寂に包まれる。

 

「そんな目で見つめられるとゾクゾクしちゃう♥」

 

 ヒソカは、静かに自分を睨む彼女の視線に興奮しながらも、トランプを構える。彼女はトランプを構えたヒソカを見て笑う。

 

「暇だし、今お前を殺すことにした。最高にすっきりとしそうだ」

 

 彼女の殺意が高まった時、ヒソカからトランプが飛ぶ。

 

「最高に楽しもうか♠」

 

「望むところだ」

 

 投げられたすべてのトランプをわざと受け取る彼女と彼女が投げた折れた刀身を指で摘まむヒソカ、二人して笑い合うのである。

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