希望の星   作:まくランド

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聖を助け出した後のお話です。
主に寺の様子やナズ星のその後を想像して書きました。
まあ短めですが、楽しんで頂ければ幸いです。


希望の星 終編

あれから、一年が経った。

私たちは、聖輦船から作り直した命蓮寺で修行を積んでいる。

今では、一輪や村紗たちに加えて、封獣ぬえと、二ツ岩マミゾウという妖怪も新たに門徒となった。

巫女が飛倉を集めていたのは、ぬえが原因らしい。

なんでも、ぬえには正体を分からなくする能力があるらしく、その能力を飛倉に使うことで、巫女はそれを別のものだと勘違いしたそうだ。

あれほどがめつい巫女ならば、財宝にでも見えていたのだろうか。

まあ、とにかく、私たちは新しくなった命蓮寺で日々己を磨いている。はずなのだがーー

「一輪、また酒を飲みましたね。仏の教えに不飲酒戒というものがあります。酒に溺れていては、いつまでたっても悟りを開くことはできませんよ」

「村紗、貴女は人を溺れさせているようですね。それが貴女の性質である以上、仕方のないこととは分かっていますが、それを自律することこそ、妖怪として新たな境地に立つために必要なのですよ」

厳格な仏教徒である聖は身内にも容赦しない。どうやら、聖に情報を流した者がいるようだ。まあ、大体の見当はつくが。

「まったく貴女たちは・・・星を見習ったらどうですか?彼女は特に問題も起こさず、真面目に修行しているでしょう」

「でも聖、星は貴女を助ける時に、毘沙門天様から授かった宝塔を失くしていましたよ」

ちょっ!村紗さぁん!?

「本当ですか?星」

聖はにこやかに聞いてくる。声のトーンは全く表情にそぐわないが。

嘘をつけるような雰囲気でもない。

「あ、いや、まあ、そのー、はい」

「ちょっと詳しく聞きたいですね。そこに座りなさい」

観念して私も村紗たちの仲間入りをする。

彼女らがニヤついた顔でこっちを見ている。

あとで覚えておいてくださいね?

 

聖は最近復活した仙人と競い合っているようだ。村紗たちの情報を流したのはおそらく彼女だろう。好敵手がいることはいいことである。最近は少し仲良くなっているようにも見える。微笑ましい。

 

ナズーリンは、今は命蓮寺にはおらず、無縁塚に住んでいる。

聖を救出した後、彼女と話をした。

 

「ついに目的を果たしたね。ご主人」

「そうですね。これも全て貴女がいたからこそです。本当にありがとう、ナズーリン。それで、貴女はこれからどうするのですか?」

「ご主人の目的は果たしたし、毘沙門天様も、ご主人の働きを認めて、もうお目付けの必要はないと判断されたようだ。お寺で修行するのも性に合わないし、私はお宝でも探しながらのんびり過ごすよ」

「そうですか・・長い間支えてくれた貴女と離れるのは寂しいですが、仕方のないことですね」

「まあ、気が向いたら寺にも顔を出すさ。お宝が見つかったら山分けしてもいい」

「そうですか。では、また物を失くしたら貴女に依頼するとしましょう」

「ご主人・・・まだ懲りていないのかい?言っておくが、次宝塔を失くしたら、今度こそ毘沙門天様に報告するからね」

「あっはい。気をつけます」

「まあ、そうなったらまた私がお目付け役として、ご主人をより厳しく監視してあげるよ」

お互いに顔を見合わせて笑う。本当に、良い友人を持ったものだ。

「じゃあ、もう行くよ」

彼女は聖輦船から降りて、無縁塚の方へ飛んでいく。

「ナズーリン!貴女がいなければ聖を助けることはできませんでした!貴女には感謝しかありません!!ありがとうございます!!!」

私はありったけの声で叫んだ。

彼女はそれに、腕を振って応えた。そして、雲の向こうへと消えていった。

 

彼女はまだお寺には来ていない。お宝探しがあまり捗っていないのだろうか。

まあいい。

彼女とは千年の間苦楽を共にしたのだ。

数百年経ってもこの絆は変わらない。

 

 

 

あの日、彼女が私に希望をくれた。

それから私は、人々の希望として笑っていこうと決めた。

そして今、私は本当に心の底から笑って過ごすことができている。

ーーありがとう。

私は、誰に言うでもなく、一人呟いた。

空は雲ひとつなく、光に満ちていた。




希望の星、これにて完結です。
聖が封印された後、村紗や一輪と違って星だけは封印を免れたらしいですが、聖らを見殺しにしたことを後悔していたようなので、その葛藤を想像して、それを文にしてみた次第です。
また、星とナズーリンの関係性が複雑で、面白いと思ったのもあります。社長と、会長直属の部下といったところでしょうか。
書いててなかなか楽しかったですが、読んでくださった方々は楽しんでいただけたでしょうか。執筆を始めて日が浅いので、至らない点があれば、ご指摘くださるとありがたいです。
ではまた。

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