因みに、某ssは作者も好きです。
「ゲリラスリラ連れてってマニラ、口当たりが良いのはバニラ~・・・」
月曜日の朝、学園の廊下に妙に良い声の歌声が響く。
最早、校内の誰もが見慣れた存在のオタクが、大きな身体を揺らしながら上機嫌に歌って廊下を進む。
「アレ、コレ、ソレ、そう、だからCIAに言えよ!さっさと出てけってな!」
上機嫌で廊下を歩くオタクは、授業後の日課となっている自主練のためにアリーナへと向かう。
何時もは一夏も一緒なのだが、今日は一夏は幼馴染みの箒に拉致されてしまったために一人だ。
「www」
特に理由無く笑うオタクを、通り掛かった女生徒達は一瞥して直ぐに視線を元に戻す。
最早オタクの存在は、学園に取ってはありふれた日常の一部となっており、その奇行に態々注目する様な生徒も大分少なくなっている。
「デュフフフwww」
それにしても異常に上機嫌なオタクであるが、更衣室に入った瞬間、目の前に顔を俯かせるセシリアが現れて、思わず悲鳴を上げそうになる。
「静かに・・・」
セシリアは、素早く動いてオタクの口を封じ、更に薄暗い更衣室に引き込んで扉を閉めた。
この間、僅か1秒に満たない内に行われた早業である。
「・・・」
「い、一体何で御座るか?セシリア氏」
オタクは、室内に引き込まれた勢いで尻餅を着いてしまい、自身を見下ろす小柄な少女に、訳を尋ねる。
しかし、セシリアからの返事は無く、穏やかである筈なのに何処か鬼気迫る雰囲気の彼女に見下ろされるだけだった。
「・・・」
「・・・」
そうして暫く経って、好い加減に立ち上がろうとオタクが動いた瞬間、セシリアが口を開いた。
『貴方は・・・』
「なんで御座るか?」
『貴方は一夏さんの事をどう思っているのですか?』
非常に聞き取りやすいクイーンズイングリッシュで尋ねるセシリアに、オタクはその言葉の意味を少しだけ考えてから、言葉を返した。
『・・・何を仰っているのか理解が及ばない・・・』
『惚けないで下さい!・・・私は分かっているのですよ!』
『一体何かね』
『貴方が一夏さんの事を想っている事です!』
いきなりとんでもない事を母国語で口走るセシリアに、オタクは一瞬、思考がショートして絶句する。
『ニッポンにはDOUJINと言う文化があると聞いています。そして、そのDOUJINの中では、貴方の様な汚らしい大男が度々登場してきて悪事を働くと聞き及んでいます!』
セシリアは、オタクが何も言わないのを良い事に更に言葉を重ねてオタクを糺弾する。
『更に!貴方の様な男は、あろう事か思い人の居る相手を無理矢理に手込めにして、あまつさえ!その様子を見せ付ける事に快感を覚える倒錯者とも聞き及んでいますわ!』
「待て待て待て!ちょっと待て!」
『待ちません!!』
漸く思考が回復したオタクが声を上げるが、セシリアに一喝されて出鼻を挫かれてしまい、そこにセシリアが更に言葉を続ける。
『他にも!最近では女性の様な男性を手込めにするだけで無く、敢えて!敢えて!普通の男性を自分好みに調教してしまう恐ろしい殿方もいると聞き及んでいます!!』
「それは創作の話だ!」
『嘘を仰い!わたくしは全て存じておりますわ!貴方が、このDOUJINの中に出てくる様なNTR魔と呼ばれる人物だと!そして、貴方が一夏さんと織斑先生の二人で姉弟丼をしようとしていると!!』
興奮したセシリアは、何処からか数冊の同人誌を取り出して手で叩きながら、オタクに突き付ける。
『一端落ち着こう』
『いいえ!落ち着いてなどいられません!一夏さんの危機に落ち着ける筈など無いですわ!!』
全く話を聞こうとしないセシリアにオタクも如何して良いか分からなくなって、段々と泣きたい気持ちになった。
そんなオタクの内心などお構いなしと言うように、背柄シリアは尚も話を続ける。
『例えば!このDOUJIN、メ○ボ○茶○臭○ぎの本によれば!金髪の女性や茶髪の大和撫子の様な女性を始めとして、様々な女性をありとあらゆる方法で手込めにしています!!』
「いや・・・」
「此方のカ○ナ○スの本によると、細身の女性の様な男性を、薬物や腕力に任せて陵辱し!更に巧みな話術と心理的な圧力を持って洗脳までしています!!』
「あのな・・・だから・・・」
『それに、此方!サ○ク○ンの本では幼気な少女の弱味に付け込む様な卑劣な・・・』
突然、激しく言葉を吐き出していたセシリアの口が閉じられ、明らかに動揺した様に息を呑んだ。
一体如何したのかとオタクがセシリアを見ると、一冊の同人誌を見て震えているなが分かった。
『コレは・・・』
呟きながらマジマジとその同人誌を見るセシリアは、徐々に頬を朱に染めながらオタクを見やり、今度は真っ青に顔色を悪くする。
そして、手に持っていた同人誌を取り落として震えながら自分の両肩を抱く様にして身を縮こませる。
「おい、どうし・・・」
様子がおかしいセシリアにオタクが声を掛けると、セシリアはビクリと身体を跳ねさせて、後退る。
『ち、近づかないで下さい!』
「ハア?」
『だ、ダメですわ!』
「何がだ!」
『今のこの状況!、貴方、わたくしに乱暴するつもりですわね!そのDOUJINみたいに!』
「ちょっ・・・おまっ!」
意気なりとんでもない事を口走ったセシリアに、オタクが踏み出して抗議しようとすると、セシリアは有らん限りの声で悲鳴を上げた。
「う、うるせぇ!」
『や、止めて下さい・・・!わたくしには一夏さんと言う、心に決めた方が・・・』
完全に立場が逆転して、まるで本当に同人誌の中の様な光景になってしまった事で、セシリアは更に被害妄想を膨らませて、自身の貞操の危機に恐怖した。
「コレ・・・俺、悪くないよね・・・」
誰も答えないにもかかわらず、確認するように呟くオタク。
今この場に誰かが入ってきて、この光景を見れば、間違いなく誤解されそうな見た目ではあったが、それでもオタクは無実である。
『ああ・・・お母様・・・わたくしはこのまま、獣の様に猛り狂う殿方に、純血を散らされてしまいます・・・』
「妄想が激しすぎるだろ」
『きっと、途轍もない眼に遭わされるに違いありません・・・わたくしの手を掴んで組み敷いて、獣欲のままに処女を奪い、子供を孕むまで犯されるに違いありません・・・』
「嫌に具体的だな」
『ああ・・・天国のお母様・・・序でにお父様も・・・申し訳御座いません・・・オルコット家の血を汚してしまうセシリアをどうぞお叱り下さい・・・』
「俺と父親に失礼だと思わないのか?」
段々コント染みた遣り取りは、互いに独り言を言い合っているだけであり、既に亡き両親に懺悔の言葉を呟いたセシリアは、先程までと打って変わって眼を見開き、決意に満ちた表情で言い放つ。
『さあ!来なさい!決してわたくしの心は折れませんわ!例え、この身体をどれ程汚されようとも、心までは好きには出来はしませんわ!』
「勘弁してくれ・・・」
本格的に疲れた様子のオタクは、力無く呟いた。
その次の瞬間、ゆっくりと更衣室の扉が開け放たれ、薄暗い室内に光が差し込む。
「・・・」
「な、なな、何をしているんですか?」
『ああ・・・やりましたわ!助けが来ました!!』
扉を開けて二人を見た真耶は、顔を真っ赤にして尋ね、それからセシリアの声を聞いた瞬間に、頭から煙を吹き出して叫んだ。
「は、は、、破廉恥です!!」
「誤解だぁああ!!」
「全く・・・貴様は一々面倒事を起こさなければ気が済まないのか」
「俺は無実だ」
「・・・まあ、今回に関しては貴様に非が無いのは分かった」
アレから、騒ぎを聞いて駆けつけた千冬によってオタクは意識を刈り取られ、その後に事情聴取と監視カメラの映像を確認した事で無実が証明された。
「・・・オルコット」
「・・・はい」
「あまり面倒を起こすな」
「・・・申し訳御座いません」
オタクに非が無い事が分かり、両者の間で交わされた会話の内容からセシリアに非がある事が分かると、セシリアは千冬によってコッテリと絞られた。
「真耶」
「はい・・・」
「お前ももう少し冷静に行動しろ」
「はい・・・」
また、騒ぎを大きくした一助を担う真耶も千冬によって絞られ、始末書の提出が学年主任によって命じられた。
「まったく・・・それにしても、この大量の同人誌は何だ?」
「それは・・・」
「取り敢えずこの本は全て没収だ。それとオルコットは反省文の追加だ」
「はい・・・」
「拙者・・・悪くないのに」
拗ねたように呟くオタクの言葉に、千冬が言葉を返した。
「あんな疑われる様な状況を作ったお前にも責任は有る。それに密室に男女二人っきりと言う状況は客観的に見て誤解されても仕方が無い上に、監視カメラが無ければ、完全にアウトだ。コレからは気を付けろ馬鹿者」
「・・・」
千冬の言葉を最後に、オタクとセシリアは職員室を出て、暫くの間無言で佇んだ。
「その・・・」
「・・・」
「申し訳御座いませんでした・・・」
改めて、謝罪の言葉を述べるセシリアに対して、オタクは暫く黙ったままで何も返さなかったが、一つ息を吐くとセシリアに言葉を掛ける。
『以後は慎みを持って気を付けなさい。お嬢さん』
『はい・・・気を付けます』
偉く丁寧で古風な言い回しをしたオタクに、セシリアは神妙な面持ちで返した。
『うむ、であるならば、この話はここまでにしよう。』
そう締めくくったオタクは、廊下を歩き出して寮へと向かうが、その後をセシリアが続いて声を掛けてきた。
『所で貴方、随分と変な喋り方をしますわね』
『そうであろうか?私自身としては、実に平素で平常の言葉を述べているつもりであるが?』
『一々時代がかっていて古臭い言い回しや単語が多くて・・・何だか、御爺様かひい御爺様よりも昔の方と話しているみたいですわ』
そう告げられて、オタクははたと気付いて理由を言った。
『それは恐らく、私が英語を学ぶに当たって、模範として選択した本が古く格式高い物であるからに違いない』
『何を読んだのです?』
『ウィリアム・シェイクスピア、ジョン・ミルトン、オスカー・ワイルド、名著と呼ぶに相違ない文芸を用いた』
『ああ~』
納得したように声を漏らすセシリアは、こんな人間も居るのだと思い、オタクに対しての謎を深めたのだった。
「一応、他の喋り方も出来るで御座るwww」
「?」
オタクが前置きして少し黙ると、疑問符を浮かべるセシリアに言葉を投げ掛けた。
『おう。この腐れマ○コの阿婆擦れアマ。なに上の穴を開けてやがるんだ。口に突っ込んで欲しいのか。』
『もう良いですわ・・・』
『なに生意気に口でクソ垂れやがって。巫山戯た事抜かすと、そのデカケツをファックして垂れ流しになるまで使い倒すぞ!クソ娼婦の娘の淫売女』
英語で話すオタクは古風な言い回しの紳士風の話し方か、海兵隊仕込みのキタナいスラングしか喋られず、余計にオタクに対するナゾガ深まるだけだった。
「この方は普通に喋る事が出来ないのでしょうか・・・」