一夏の友人は常識人の夢を見る   作:hggj

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第十一話

 土日を挟んだ月曜日、新たな1週間の始まりに真耶の驚くべき言葉が放たれた。

 

「転校生のシャルル・デュノアさんです」

 

 色白に金髪の華奢な身体の転校生は、一夏と同じく良く似合う男性用の制服を身に纏っていた。

 

「フランスから来ました。シャルル・デュノアです。よろしく御願いします」

 

 その後に起こった事は想像に難くなく、窓硝子が割れんばかりの黄色い悲鳴が響き、戸惑うような転校生と驚いて眼を見開くオタク、喜色満面の一夏と、三者三様の男子の顔が見ることが出来た。

 

「俺、織斑一夏って言うんだ。よろしくな」

 

「うん、知ってるよ」

 

 転校生シャルルの世話係に任命された一夏は、早速と声を掛けて三人目の同胞を歓迎する。

 世界的な有名人でもある一夏に自己紹介をされて、シャルルは笑いながら応じる。

 

「僕の事はシャルルって呼んでよ」

 

「ああ!じゃあ、俺の事も一夏って呼んでくれ」

 

 見目麗しい二人の遣り取りを、教室の女生徒達は、眩しい物を見る様に眺める。

 

「いいわ~滾るわ~」

 

「夏×シャル・・・いや、ここは敢えてのシャル×夏か・・・」

 

「一夏くんのヘタレ攻めも良いですね」

 

「いや、先生、ここは王道に一夏くんの強気攻めも良いでしょう」

 

 大分、教室内の腐界化が進んでいる様子で、ここに千冬が居れば間違いなく出席簿が飛んできた事だろう。

 だが、残念ながら千冬は今はここには居らず、教室の中はカオス化する一方だった。

 

「・・・」

 

 誰も彼もが浮かれ騒ぐ教室内に在って、ただ一人だけ異様なほどに静かで平静を保つ人物が居た。

 ソレこそが我らがオタクその人であり、転校生に対しても一切興味を持たずにスマホの画面に集中している。

 

「ああ、そうだ紹介するよ。もう一人の男子の小田だ」

 

 一夏がシャルルにオタクの事を紹介するが、オタクはやはり顔を上げずにスマホに集中する。

 

「あ~・・・小田?」

 

 反応の返ってこないオタクを訝しんで再び声を掛けると、突然オタクが声を上げて立ち上がった。

 

「フ~!!ハハハッ!!」

 

「!!」

 

「!!」

 

 余りの事に一夏とシャルルが驚くが、そんな事は全く気にしないオタクは、更にヒートアップして叫び声を上げた。

 

「キタコレ!!キタコレで御座る~!!」

 

「お、小田っ!?」

 

「コイコイコイコイコイコイコイ!!」

 

 見れば、オタクは奇声を上げながらもスマホを両手で確りと握り、親指を忙しなく動かして何かのゲームをしている様だった。

 そして、遂にオタクは右手でスマホを握ってガッツポーズを決めて一際大きな声で叫んだ。

 

「ウィー!!!」

 

「テキサスロングホーン!?」

 

 随分懐かしい言葉を思わず叫ぶ真耶、何が何やらと着いていけないシャルル、頭を抱えてグッタリとする一夏、狂乱の教室に乱入者が現れるのはこの僅か2秒後の事で、その乱入者とは、隣の教室の鈴の事だった。

 

「ちょっとアンタ!!チート使ったでしょうチート!!」

 

「デュフフフwww言いがかりは止して頂きたいwww実力で御座るよwwwじwつwりょwくwww」

 

「?」

 

 気になったシャルルがオタクの持っていた手まほの画面を覗くと、そこには大きく描かれたWINの文字と、ゲームの画面だった。

 

「可笑しいわよ!!なんであの距離で当てられるのよ!!絶対にチートよ!!」

 

「伊達にFPS歴長くないで御座るwwwこんなの楽勝で御座るwww」

 

「あ、コレ今人気のヤツだ」

 

「・・・まったく・・・千冬ねえが居たら怒るぞ・・・」

 

 目を覆った一夏が呟いた瞬間、ぞくりと冷たい殺気の様な物を感じ、ゆっくりと後を振り向いた。

 

「安心しろ。もう怒っている」

 

「げぇ!千冬ねえ!!」

 

 言うが早いか、千冬の出席簿が一夏の脳天に突き刺さり、序で鈴の側頭部に叩きつけられた。

 

「っ~~~~!」

 

「ぬあああああ・・・!」

 

 千冬の存在に気が付いたオタクは、ゆっくり千冬に向いて口を開く。

 

「ジャーンwジャーンwジャーンwww」

 

「誰が関羽だ」

 

 こんな時でも煽りを忘れなかったオタクは、千冬の素手の拳骨を顎に受けて床に仰向けに倒れた。

 

「貴様等何時まで巫山戯ている。さっさと授業の準備をしろ。一時限目はIS実習だ」

 

「え~と・・・僕は如何したら・・・」

 

「笑えば良いと思うで御座るよ・・・」

 

「あっ、それも知ってる」

 

 シャルルの呟きを最後に全員が移動を開始した物の、結局五分ほど授業の開始時間が遅れつつ、一時限目がグラウンドで始まった。

 千冬の言うとおりIS実習が一時限目なのだが、今回は二組との合同授業となり、普段の倍の人数が集まっている。

 この時、漸く正気に戻ったオタクは、転校生に自己紹介のために声を掛けた。

 

「www申し遅れたで御座るwww拙者の名は」

 

「知ってるよ?」

 

「おほっ?」

 

「オダ君って言うんでしょ?」

 

「オッフwwwデュノア氏www」

 

「何?」

 

 シャルルがオタクの名前を言うと、オタクは嗤いながら言葉を返す。

 

「拙者の名前を間違っているで御座るwww」

 

「ええっ!?そうなの!?」

 

「www拙者の名前はオダでは無くオタと言うので御座るwww」

 

 衝撃の事実、オダでは無くオタだったオタク、フルネームだとオタタクで有り、名前からして生まれついてのオタクだった。

 

「ご、ゴメンね」

 

「いいで御座るwww間違いは誰にでもあるで御座るwww」

 

「ありがとう」

 

 間違いを笑って許したオタクに対して、シャルルが輝く笑顔で礼を言うと、オタクは発作の様に心臓を抑えてしゃがみ込んだ。

 

「オッフwwwデュノア氏の笑顔に浄化される所で御座ったwww」

 

「・・・オタ×シャル・・・シャル×オタか・・・?」

 

「あのオタク、割と受けが多い希ガス」

 

 何処にでも湧くホモォの恐怖に身の毛がよだつ感覚に襲われる男子三人だが、一夏に関しては別の衝撃を受ける。

 

「退いて下さ~い!!」

 

「上から来るぞ!!」

 

「っ!!」

 

 オタクが警告を発し、一夏が空を見上げると目の前にはISを纏った真耶が迫っており、誰もが予想したとおりに押し潰されて羨ましい事になる。

 

「デュフフフwww一夏氏www何と裏山けしからんwww」

 

「一夏ぁああ!!」

 

「一夏さん!!」

 

「ちょっと待てぇえ!!俺は悪くない!!」

 

 理不尽な怒りを一夏に対してぶつけるセシリアと鈴は、それぞれが専用機を展開して一夏に向かう。

 

「これどうしたら良いのかな」

 

 如何すれば良いのか分からずシャルルは、一夏の事を心配する様に呟いて、隣のオタクに眼を向ける。

 しかし、オタクから返ってきた言葉は一夏の助けになるような物では無かった。

 

「大丈夫で御座るデュノア氏wwwアレがジャパニーズハーレムラブコメと言うもので御座るwww一夏氏に取っては日常茶飯事だから気にしなくても大丈夫で御座るwww」

 

「そうなんだ・・・アレがジャパニーズラブコメ・・・」

 

 この後、真耶がその実力の一端を見せ付けて鈴とセシリアの二人を相手に完封勝利して見せて、千冬の言葉で締めくくられると、1年初の実機を使った実習が始まる。

 

「各専用機持ち班に分かれて実習を始めろ。先ずは歩行からだ」

 

 千冬が言うなり、生徒達は二つに分かれると一夏とシャルルの元に殺到した。

 

「う~むw清々しいほどに誰も来ないで御座るwww」

 

「見てないで手伝え!小田!」

 

「www無理で御座るwww」

 

「オタくん!助けてよ!」

 

「オッフwただ今www」

 

「おいっ!!」

 

 オタクは一夏の助けを求める言葉を一蹴し、その次に掛けられたシャルルの言葉に直ぐさま反応して駆けつけた。

 一夏の抗議の言葉も何のその、オタクはシャルルの元に駆けつけるなり、身体をくの字に曲げて右手を差し出した。

 

「拙者も第一印象で決めていたで御座るwww」

 

「え、ええっ!?」

 

「コイツ・・・平然と裏切りやがった・・・」

 

「やはりオタ×シャル」

 

 戸惑いの声を上げるシャルルと、焦り叫ぶ一夏、やはり辺りが混沌としてくると、千冬が声を上げて生徒達を律する。

 

「貴様等好い加減にしろ!」

 

 この千冬の言葉によって初めて二人に殺到していた女生徒は解散し、専用機持ちの生徒の元に分散して集まる。

 

「デュフフフwwwやはり拙者は一人で御座るwww」

 

 ソレでもオタクの元に来る生徒は居らず、コレに関しては千冬も予想が着いていたのか、何も言わずに見ない振りをする。

 

「真耶てんてー」

 

「な、何ですか?」

 

「拙者暇で御座るwww」

 

「そうみたいですね・・・」

 

 オタクに声を掛けられた真耶も如何反応して良いのか分からず、苦笑いしてみるしか無い。

 真耶からも芳しい反応を得られなかったオタクは、余りにも暇すぎるが為に、用意されていた打鉄に乗り込んでみた。

 

「オッフwwwダンボールより動きやすいで御座るwww」

 

 普段よりも動きやすく、また視界の位置が高い事に新鮮な驚きを観じつつ、暫く歩いてみた後、何を思ったのかオタクは打鉄を纏ったままで踊り出した。

 

「フォー!!」

 

 某キングオブポップスの様な無駄にキレッキレのダンスを見て、千冬は溜息を吐いて額を抑え、真耶は如何して良いか分からず戸惑うばかりだ。

 

「無駄に上手い・・・」

 

 何時の間にか、オタクに視線が集中し始めて、ソレを感じ取ったオタクは動きを止めて直立不動の姿勢を取る。

 そこから、首を上下させてリズムを取り始めると、軽くジャンプして着地と同時に激しく踊り出した。

 

「ハァwドッコイショーwドッコイショーwwwソーランwソーランwww」

 

「ぶふっ!!」

 

「な、なんでソーラン節・・・!」

 

 余りにも予想外過ぎるオタクの行動に、見ていた生徒の何人かが堪えきれずに笑い出してしまった。

 

「ヤ~レンwソーランwソーランwソーランwwwハイハイwww」

 

「クッソ!こんな事でクッソっ!」

 

「無駄にキレが・・・!」

 

 このオタクの奇行は千冬の拳骨で留められるまで続き、合同授業を狂乱の渦へと陥れた。

 

 

 

 

 

 

「千冬ねえ、凄い怒ってたぞ」

 

 午前の授業が終了し、一夏とオタクが何時も通り昼食を取ろうとすると、シャルルもソレに着いて行こうと動く。

 

「僕も連れてって貰っても良いかな?」

 

「いいとも~www」

 

「懐かしいな・・・」

 

 男子三人、仲良く食堂へと向かおうとするが、そこに箒が一夏を連れて行こうとして、一悶着起こり、最終的には何時ものメンバーで一緒に食事を取る事になる。

 

「こう言う時に空気を読めないのが一夏氏の一夏氏たる所以ですなwww」

 

「まあ、普通はあそこで一緒に食べ様なんていわ無いよね・・・」

 

 オタクとシャルルは隣り合って座って購買で買ってきたパンを食べながら、目の前で繰り広げられている一夏を中心とした弁当の食べさせ会いを眺める。

 

「しかし、オタくんはよく食べるね」

 

「wwwコレでも少ない方で御座るwww」

 

 紙袋一杯に入った大量の惣菜パンを、掃除機の様に次々と口の中に放り込むオタクに対して、シャルルはナポリタンドッグをゆっくりと食べる。

 実に対照的な二人の姿は、容姿以外を見れば親子の様にっも見えるかも知れない。

 

「デュノア氏は何故、今まで表に出てこなかったので御座るか?」

 

「えっ!?え、え~と・・・何でだろうね?」

 

「・・・何故で御座ろうかwwwまあ、大して重要な事では無いで御座るなwww」

 

「と、ところで、オタくんはアニメが好きなの?」

 

「デュフフフwww拙者のライフワークで御座るwww」

 

 あからさまに話題を逸らそうとオタクに尋ねるシャルルに対して、オタクは嬉々として自身の趣味について語り出す。

 

「実は僕もアニメが好きなんだ」

 

「オッフwwwこんな所に同志がwww」

 

 あからさまにテンションの上がったオタクは、自分の見てきた様々な作品について語りだし、シャルルも黙って話を聞いた。

 ついつい好きな事に着いて饒舌になりすぎるオタクの気持ち悪い習性を遺憾なく発揮するオタク。

 そんなオタクに対してもイヤな顔一つしないシャルル。

 オタクは内心で、シャルルの事を天使か何かでは無いかと思い始めていた。

 

「小さい頃はどんなアニメを見ていたの?」

 

「色々で御座るが、再放送のキテレツ大百科はよく見ていたで御座るwww分かるで御座るか?」

 

「え~キテレツ大百科か~・・・」

 

「分からないなら大丈夫で御座るwww」

 

「・・・そんなの全然分からないなり~」

 

「オッフwww知ってるwww知っているで御座るwww」

 

「えへへ」

 

「何か、二人で盛り上がってるな・・・」

 

 怨めしそうに、一夏がオタクとシャルルに話し掛けると、オタクは何時も通りに嗤いながら返す。

 

「www拙者、デュノア氏が気に入ったで御座るwww」

 

「お、俺の事は遊びだったのか!?」

 

「勘違いしないでおくれwww一夏氏も大事で御座るwww」

 

「小田!!」

 

「一夏氏www」

 

 突然始まった謎の寸劇、箒セシリア鈴の三人の冷たい視線が二人に突き刺さり、慌てふためくシャルル可愛い。

 

「まあ、オタクとシャルルの仲が良いなら良い事だな」

 

「拙者、たまに恋に落ちそうになるで御座るwww」

 

「うえぇえ!?」

 

「だが男だ」

 

「ソレが良いwww」

 

「えええええ!?」

 

「シャルルは一々反応が面白いな」

 

「一夏氏、ここで謎のサドッ気を発揮www」

 

「も、もう!からかわないでよ!」

 

 一夏とオタクによって弄られるシャルルは、怒った様に頬を膨らませて顔を背けるが、ソレがまた一夏の嗜虐心をくすぐる。

 オタクとの付き合いで、段々と一夏も悪い方向に染まりつつある事が判明した箒達三人は、早急にオタクをどうにかするべきだと改めて確信し、不本意ながらも共同戦線を張る事になる。

 騒がしい昼休みを過ごしつつ、オタクと一夏は学生生活を謳歌するのだった。

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