一夏の友人は常識人の夢を見る   作:hggj

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第十三話

「おい、起きろ」

 

「んむ?」

 

 朝、HR中にもかかわらず惰眠を貪っていたオタクは、聞き慣れない少女の声によって起こされ、ゆっくりと瞼を開いて前を見れば、銀髪の謎の少女が片目で睨んでいる事に気が付いた。

 

「・・・誰で御座ろうか」

 

 思わず尋ねるオタクだったが、次の瞬間に左の頬に鋭い痛みが走り、それが目の前の少女に平手打ちされた事に依る物だと気が付くと、立ち上がって少女に向かった。

 

「ぶ、ぶったね・・・!」

 

 まさか自分がこの台詞を言う事になろうとは思い寄らないオタクだったが、次の言葉を続けることが出来ない。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 二人の身長差は、正に大人と子供ほどもあり、如何して良いか分からない二人が無言でにらみ合うと、少女がオタクに告げる。

 

「・・・しゃがめ」

 

「・・・」

 

 オタクは、若干期待しつつも言われたとおりに膝を曲げて屈み、少女の身長に合わせてやる。

 そして、その次の瞬間に、オタクが期待していたもう一撃の張り手がオタクの右の頬を捉えた。

 

「・・・二度もぶった・・・親父にもぶたれた事無いのに!」

 

「・・・あ、甘ったれるな軟弱者!」

 

「イヤそれ違うで御座る!」

 

 一体、何を見せられているのだろうかと言う気持ちになるクラスメイト、名作のワンシーンの再現をしようとした友人に頭痛がしてきた一夏、何となく元ネタは分かるが詳しくは見ていないシャルル、多様な反応が教室内で見受けられて、カオス化するが、そんな事を気にせずに渦中の二人は言葉を交わした。

 

「・・・もしや、貴様は織斑一夏では無いのか?」

 

「www違うで御座るwww一夏氏は隣の人物で御座るwww」

 

 まさかの人違いであると言う事実に気が付いた少女は、気まずそうにオタクを見上げて言った。

 

「・・・その・・・すまない」

 

「デュフフフwww気にしないで御座るwww拙者の方こそ、お陰であのシーンが再現出来たで御座るwww」

 

「ああ・・・そうか・・・所で、あの続きはどう言う・・・」

 

 少女が言い掛けたところで、この教室の主と言うべき教師が扉を開け、ナチュラルにオタクの後頭部を叩いて座らせてHRをさっさと終わらせてしまう。

 件の少女は、千冬によって職員室まで引き摺られて行ってしまい、オタクは少女の名前も知ることは出来なかった。

 

「大丈夫?タク」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

 シャルルに声を掛けられたオタクは、直ぐに顔を上げて無事である事を伝える。

 普段よりも後頭部が盛り上がっている様な気がしたシャルルだが、それは取り敢えず気にしないことにして、オタクと話を続ける。

 

「あの子とは知り合いなの?」

 

「www拙者にあんな美少女の知り合いはいないで御座るwww冗談キツいで御座るwww」

 

「初対面であの対応かよ・・・」

 

 自分の身代わりで叩かれる事になった友人を労り礼を述べなければと思う一方で、何処までもフリーダムな友人の姿に、やるせなささえも感じる一夏は、思わず目を覆って呟いた。

 

「www所で、あのロリッ子は誰で御座るか?」

 

 オタクが疑問に思った少女の名を尋ねると、一夏がそれに答える。

 

「確か・・・ラウラ・ボーデヴィッヒって言ってたな」

 

「ラウラ氏で御座るか・・・名前から察するにドイツ人で御座るな」

 

「うん、ドイツの代表候補生だって」

 

「好い加減、このクラスもお代表候補が集中しすぎで御座るなwww」

 

 それは確かにと周りも心中でオタクの言葉に同意しつつ、口には出さなかった。

 

「所で、シャルルはオタクの事を名前で呼ぶようになったのか?」

 

「うん、僕から名前で呼びたいって言ったんだ」

 

「www別に許可を求める程の事でも無かったで御座るwww」

 

「・・・そうか」

 

 シャルルとオタクの二人が仲良くなる事に、謎のジェラシーを感じる一夏は、自身の思いに戸惑いつつ笑い合う二人を眺めた。

 

「いいわ~尊いわ~」

 

「まさかの三角関係キタコレ!」

 

「授業を始めるぞ。席に着け」

 

 一夏を眺めながらクラスの女子達が妄想力を高める中、千冬が声を掛けながら教室に入り、教壇に着く。

 

「・・・」

 

 最近、胃痛に悩まされる様になってきた千冬は、弟と仲良くしろとオタクに言うべきか、女子達を取り締まるべきか、それとも弟の思考を正すべきか、密かに思い悩むのは誰にも知られる事は無かった。

 その後の授業自体はつつがなく進み、昼休みに入って、午後も何事も無ければと思いながら内心嘆息する千冬を余所に、オタクは教室を出てトイレへと向かう。

 しかし、それを呼び止める者が現れた。

 

「おい」

 

「オッフwww雉も撃ちに行けないとはwww」

 

「?・・・何を言っているのか分からんが・・・まあ、良い」

 

 本人の意志など知った事かと言わんばかりの態度で、オタクを引き留めるのは、件の転校生ラウラ・ボーデヴィッヒだ。

 彼女は、オタクを引き留めて振り向かせると勝手に話を始めてしまう。

 

「先程はすまなかった」

 

 案外、律儀にオタクに頭を下げて謝罪するラウラに、オタクは軽く手を振って謝罪を受ける

 

「気にしなくても良いで御座るよ。誰しも間違いは有るで御座るwww」

 

 至極大人な対応をするオタクに、ラウラは息を吐いて顔を上げ、少し安心したような表情を見せる。

 

「余り上位者に頭を下げられると居心地が悪いで御座るwww少佐殿」

 

「・・・貴様も軍人か?」

 

「今は陸曹長で御座るwww」

 

 今のオタクは陸上自衛隊陸曹長として任官している事に成っており、所属は中央即応集団隷下である。

 

「陸曹長・・・Sergeant Majorか」

 

 自衛隊の曹長は、諸外国軍に置ける上級曹長相当の階級で、自衛隊内で最上級の下士官階級で、オタクは、このIS学園卒業後には部内選抜として陸上自衛隊幹部候補生学校に進む事が決定しており、それまでは陸曹長の階級を名乗る事に成っている。

 ダンボールが陸上自衛隊の装備品であり、武装も基本的に陸上自衛隊の物や試験装備を使う事、一応元自衛官である事等から、今のオタクの身分が決定したわけだが、本人の希望は完全に無視した形である。

 

「貴様も苦労しているようだな・・・」

 

「デュフフフwwwそれなりに楽しんでもいるで御座るwww」

 

「フンッ・・・ここの連中と来たら、ISを玩具かアクセサリーかと勘違いしている様なやつばかりだ。全く嘆かわしい」

 

 ラウラは、ISの扱いについてかなり不満を持っているらしく、どう言う訳か初対面のオタクに愚痴をこぼした。

 

「拙者はどうとも言えないで御座るなwww、ISが玩具扱いならそれに越した事もないで御座るし、かと言って安易に扱うべきでも無いと思っているで御座るwww」

 

「・・・どう言う事だ?」

 

「一応、アラスカ条約で兵器として扱わないと言う建前もあるで御座るし、兵器というのは使われていない時にこそ真の価値が有るので御座るwwwそれは国が平和だという証拠で御座るwww」

 

「・・・それもそうだな・・・私は軍人として少し軽率だったかも知れん・・・」

 

「少佐殿はマダマダ若いで御座るwwwコレからで御座るよwww」

 

「そう言ってくれるか・・・」

 

 通り過ぎる女生徒の多くが事案、援交、(21)、等という単語を思い受けベている事など露とも知らず、傍から見ると非常に怪しい関係に見える二人は、同じ様な歴史を持つ二つの国の軍人と国防組織の一員としての身分を持つ物同士だからなのか、妙に打ち解けて意気投合していた。

 

「そう言えば・・・」

 

「如何してで御座るか?少佐殿」

 

 ふと思い出した様に、ラウラがオタクに尋ねる。

 

「曹長はやはりガ○ダムが好きなのか?」

 

「ガン○ムは好きで御座るよwwwまあ、俄で御座るがwwwそう言う少佐殿もしているので御座るなwww」

 

「ああ、私の副官がニッポンのアニメーションを好んでいてな」

 

 と言う、ラウラの言葉を聞いて、オタクは遠くドイツに居ると言うラウラの副官に勝手なシンパシーを感じ、何れ相まみえたい物だと心中で思う。

 

「そう言えば、その副官のクラリッサが妙な事を言っていたな・・・」

 

「なんで御座るか?」

 

「私の事を希に代行殿とか、大隊指揮官殿とか妙な呼び方をしてくるのだ」

 

「・・・」

 

 その言葉を聞いて、オタクの中の副官のイメージがオリジナルな笑顔で固定されてしまう。

 

「・・・やはり、会わない方が良さそうだな」

 

「?何か言ったか?」

 

「www何でもないで御座るwww」

 

 そろそろ我慢していた尿意が限界を迎えそうになり、オタクはラウラの前を辞して遠く離れた唯一の男子トイレへと向かう。

 校舎内の男子トイレは職員用トイレの一つを使う事に成っている為、三人の男子生徒は一々職員室近くの職員用トイレまで移動せねばならず、元々男子トイレなど存在しないから仕方が無いと思いつつも、不満には感じている。

 

「オッホwシャルル氏では御座らんかwww」

 

「えっ!た、タク?如何したの?」

 

「wwwトイレで御座るwwwシャルル氏もそうで御座ろう?」

 

「う、うん・・・そうなんだけど」

 

「ならば一緒に参ろうwww連れションで御座るwww」

 

「そ、そうだね・・・」

 

 トイレの前でシャルルに会ったオタクは、そのままシャルルも一緒に連れて男子トイレへと入る。

 オタクは僅かにシャルルの言葉の歯切れが悪い事に気が付きつつも、特に気には止め無かった。

 男所帯での生活が長く、同性での遠慮という物が無いオタクに取って、馴れない事に戸惑っている位にしか思わなかったのだ。

 

「しかし、元は女子トイレだと思うとwww少し興奮してくるで御座るなwww」

 

「え!?そ、そうだね・・・」

 

 トイレの中は元女子トイレと言うだけあって、男性用小便器など存在せず、大きめの手洗い場と四つ並んだ個室だけが存在する薄ピンク色の空間である。

 実は、一夏とオタクが初めてこのトイレを使った時は甘い花の香りの芳香剤に少し戸惑い、未だに些か馴れないのは、二人だけの秘密で有る。

 

「では、拙者はコッチへ」

 

 オタクは、シャルルに一言言って一番手前の個室に入り、後に残されたシャルルは、暫し戸惑いながら一番奥の個室に入る。

 シャルルが個室に入って暫くすると、水を流す音がトイレ内に響き、オタクがシャルルに声を掛けた。

 

「シャルル氏は流しながらするタイプで御座るかwww」

 

「え!?う、うん、そうだよ!」

 

「珍しいで御座るなwww」

 

「そ、そうかなフランスでは皆こうするよ?」

 

「そうなので御座るかwww」

 

 何故、声が上ずっているのだろうと疑問に思うオタク、そして妙に水を流すのが長く、それがずっと水洗のスイッチを押し続けているからだと思い至ると、オタクはシャルルに声を掛けた。

 

「シャルル氏」

 

「何かな?」

 

「人それぞれだとは思うで御座るが、余り流しすぎるのは少し問題な気がするで御座るよ?」

 

「あ、あははは・・・そうだね、気を付けるよ」

 

 それから、用を足し終えたオタクは水で流して個室から出るが、シャルルはまだ出てくる気配が無い。

 別に待っている必要は無いのだが、一緒に入っておきながら、置いて出ると言うのも変な気がしたオタクは、シャルルが出るのを待つ事にする。

 しかし、それにしてもシャルルの用を足す時間というのは妙に長い気がしてもいた。

 すると、シャルルの入って居る個室からまたもや奇妙な音が聞こえる。

 

「・・・シャルル氏」

 

「もう、なに?タク」

 

「シャルル氏は小の方でもトイレットペーパーを使うので御座るか?」

 

「え!?」

 

 シャルルが大便をしていた様子は無く、ならば小便をしていると言うのが普通の考えだが、それにしてはトイレットペーパーを巻き取る音が聞こえてきたのは奇妙過ぎる。

 一体、何に使うのかと思ってシャルルにな尋ねれば、シャルルもあからさまに動揺して言葉に詰まり、コレは何か怪しいとオタクは感じる。

 

「シャルル氏?」

 

「え、え~と・・・その・・・」

 

 やはり言葉に詰まって真面な返答は返って来ない。

 が、その瞬間、オタクははたと一つの可能性に気が付いた。

 その思いついた可能性が事実ならば、確かに辻褄が合う。

 

「シャルル氏」

 

「え~とえ~と・・・その・・・」

 

「いや、すまなかったで御座るシャルル氏」

 

「え!?」

 

「拙者、デリカシーに欠けていたで御座る・・・シャルル氏の置かれている状況に思い至らず申し訳ない」

 

「え、~と、もしかして気付かれちゃった?」

 

「・・・この事は内緒にしておくで御座る」

 

「・・・」

 

 重い沈黙が個室の扉を隔てた二人の間に落ちて、暫くの間の無言が二人を支配する。

 

「その・・・僕・・・僕は・・・!」

 

「言わなくて良い!」

 

 シャルルが何かを言おうとした瞬間、オタクが珍しく声を荒げて制止した。

 

「良いんだ・・・言わなくて良いんだ」

 

「タク・・・」

 

「大丈夫だ。俺達は友達じゃあないか・・・それに俺はお前よりも年上で人生経験は豊富なつもりだ・・・流石にこんな経験は初めてだが」

 

「・・・騙すつもりは無かったんだ」

 

「分かってる。お前がそう言う奴じゃ無いって言う事は分かってる」

 

「・・・」

 

「我慢・・・出来なかったんだろ?」

 

「うん・・・うん?」

 

 優しい声色のオタクの言葉に、シャルルが頷きながら肯定の言葉を発するが、その直ぐ後にシャルルは違和感に気が付く。

 

「タク?我慢って?」

 

「分かっている・・・そりゃ・・・初めての女子トイレ・・・もとい元女子トイレだ・・・思春期男子なら我慢できなくて当然だ・・・恥じる事は無い」

 

 オタクは思い至ったのだ、シャルルがナニをしていたのか、興奮した思春期男子がトイレの個室に入って用を足す以外で紙を使う事など、一つしか無い。

 オタクは、無遠慮で無神経な己を恥、そして、恥を掻かせてしまった友人に対して申し訳ない気持ちで一杯になった。

 

「その・・・すまなかったな・・・俺も考えが足りなかった・・・」

 

「え~と・・・」

 

「本当に申し訳ないと思っている・・・その・・・先に出るな・・・お前はゆっくりとすると良い」

 

 そう言い残してオタクはトイレから出ると、一度後を振り向いて再び前を向く。

 そこへ、丁度一夏がやって来て声を掛けた。

 

「よう、今出た所か?」

 

「そうで御座るwww」

 

「そうか・・・じゃあ、俺も・・・」

 

 そう言ってトイレの中へ入ろうとする一夏を、オタクは前に割り込んで止める。

 

「何だよ」

 

「・・・今は・・・今は、中には入らないで欲しいで御座る」

 

「何でだ?」

 

「今、中にはシャルル氏がいるので御座る」

 

「それで?」

 

「・・・察してくれ」

 

「・・・あ、ああ~・・・そう言う・・・」

 

「事で御座る・・・くれぐれも」

 

「分かってるよ。知らない振りをすれば良いんだろ」

 

 男同士、同じ境遇の者同士で通じ合った二人は、未だシャルルが中に残る男子トイレに背を向け、そっと離れていった。

 一夏は仕方が無いと、急いで寮まで走って用を足し、オタクは昼食を取ろうと食堂へ向かい、その後三人が集まった時は、オタクと一夏はシャルルには何も言わず、しかし、温かい眼差しで迎えた。

 

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