一夏の友人は常識人の夢を見る   作:hggj

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第十五話

 特に何事も無く時は過ぎ、当日に成って学年別トーナメントの対戦表が発表された。

 

「一夏氏とは三回戦で当たる様ですな」

 

「奴が勝ち上がって来られればな」

 

 ご都合主義的に一回戦で当たると言う事は無く、約束の戦いは互いに勝ち上がった三回戦目に持ち越され、ラウラは少し不満げにオタクの言葉に応えた。

 

「デュフフフwww一夏氏ならば勝ち上がるで御座るよwww」

 

「何故、言い切れる」

 

「一夏氏もアレで弱い訳では御座らんからな」

 

「・・・」

 

 散々に言われる一夏だが、専用機持ちで彼自身も抜群と言える程のセンスを持っており、そんじょそこらの相手にはそうそう負ける事も無い。

 経験値の少なさと調子に乗りやすいと言う欠点も在るが、そこはシャルルと組む事で緩和され、更に言えば、接近戦オンリーの弱点もペアによってカバーされている。

 客観的に言って、セシリアと鈴が不在の今の状況では優勝候補筆頭格と言えるだろう。

 

「まあ良い。奴を叩きのめせるのならば、それに越した事は無い」

 

 自分が負ける等とは微塵も思っていない口ぶりのラウラをオタクは微笑ましく見詰めて、それから対戦表に目を移しながら言う。

 

「さて、初戦は拙者達の様で御座るwww大口叩いて置いて負けると言う事が無い様にするで御座るwww」

 

 何時も通りのオタクに対して、ラウラは言葉を返す。

 

「我々に敗北は有り得ない」

 

 不貞不貞しくも頼もしい言葉を口にして、ラウラは背を向けてアリーナへと向かう。

 オタクもその後に続いて歩き出し、二人揃ってアリーナの控え室へと移動した。

 

「五分で片を着けるぞ」

 

「イエスマムで御座るwww」

 

 移動の道中、廊下を歩くラウラが振り向かずに言葉を発すると、オタクも直ぐさま答えた。

 全く似ていない凸凹な二人は、しかし、息はぴったりで廊下を歩き、試合までの一時間を控え室で打ち合わせに費やした。

 そして、その時が来た。

 

「手筈通りに行くぞ」

 

「www立ち会いは強く、後は流れでで御座るなwww」

 

 時間が来た事を告げられた二人がアリーナに出ると、中央に対戦相手の二人の姿が見えた。

 打鉄とラファールを纏った対戦相手の二人は一年二組の生徒のペアだったらしく、オタクとラウラが近づくと口を開いて言った。

 

「良くも鈴さんを酷い目に遭わせてくれたわね」

 

「専用機持ちだからって私達を舐めない事ね」

 

 オタクとしては若い子が微笑ましい事をやっていると言う風に思って黙っていたのだが、ラウラは違った。

 

「ふん・・・貴様等の様な雑魚が幾ら集まろうと敵では無い。あの女も所詮は私よりも弱かったと言うだけに過ぎん」

 

 あからさまな挑発の言葉を吐き出すラウラは、実に涼しい顔をしており、それが余計に精神を逆なでて目の前の二人をイラつかせる。

 

「キレちまったよ・・・表出ろやぁ・・・ああん?」

 

「テメェ・・・ベッコベコにしてやンよ・・・」

 

 明らかに女の子のしていい顔では無い二人は、ヤンキー漫画みたいな台詞を言い出した。

 そんな二人をみて、ラウラはオタクに向いて言った。

 

「曹長」

 

「なんで御座る?」

 

「五分で片を付けろと言ったが訂正だ」

 

「?」

 

「二分で終わらせろ」

 

 良い笑顔でオタクに言うと、それを聞いていた対戦相手の二人は額に青筋を浮かべて吼える。

 

「やってミロやごらぁ!!」

 

「・・・てめー・・・ハラワタ引きずり出してその口に突っこんでやっからよォ・・・!!」

 

「弱い犬ほど良く吠えるとは良く言ったものだ。野蛮人め」

 

 今にも噛み付いてきそうな程に激昂した二組、平静のまま自然体で構えるオタクとラウラ、そんな四人が向かい会うアリーナに試合開始を告げるゴングが鳴った。

 

「待ってたぜぇ!!この時をよぉ!!」

 

 開始と同時に飛び出したのは打鉄を纏った女生徒だった。

 彼女は大振りの刀を振りかざすと一目散にラウラに向かい、その刀を振り下ろす。

 

「ふん・・・」

 

 しかし、そんなテレフォンパンチを喰らう様なラウラでは無く。

 ラウラは最小限の動きで攻撃を躱すと、自身も近接武器の構えて反撃に出る。

 

「テメェは私が相手だ!この豚ぁ!!」

 

 ラファールを纏うもう一人は両手にサブマシンガンを展開し、オタクに狙いを付けて引き金を引く。

 高速の連射で殺到する弾丸は、しかし、オタクのダンボールを捉える事は出来ずにアリーナの障壁に当たって弾け、その間にオタクはアサルトライフルを取り出しながら高速で地上スレスレを飛ぶ。

 

「待てや!!豚ぁ!!」

 

「www待たないで御座るよwww悔しければ追い付いてみれば良いで御座るwww」

 

「っ!ぶぅたぁああああ!!」

 

 片や空中で接近戦をするラウラと打鉄、片や地上スレスレで高速の射撃戦を行うオタクとラファール、傍目から見れば、二組が優位に立つ一方的な展開にも見えるが、その実、オタクに対してもラウラに対しても、二人は先手を取りながらも全く打撃を与える事が出来ていなかった。

 

「くっ!この豚、逃げるのだけは上手ぇ!」

 

「デュフフフwwwそろそろ反撃に出るで御座るよwww」

 

 戦闘開始から三十秒、逃げてばかりのオタクは呟くと同時に反撃に移る。

 

「!?」

 

 うつ伏せに近い体勢での水平飛行をしていたオタクは、突如として身を返して仰向けに成り、バック飛行で追い掛けてきていたラファールに向きあう。

 

「っ!」

 

「遅いで御座るwww」

 

 予想だにしていなかったオタクの行動に、ラファールの反応が一瞬遅れ、それを見逃さなかったオタクは、容赦なく20mm弾を叩き込んだ。

 回避行動を取り始めて身体が動くまでの凡そ一秒の間に、三発の20mm弾がラファールの機体の左側を捉え、その衝撃によって動きが鈍る。

 

「クッソがあああ!!」

 

 思わずと言った風に悪態を吐くラファールを纏った女生徒だが、その悪態が命取りに成ってしまう。

 

「www」

 

 極限の状況下での的確な判断が求められる戦いに置いて、不必要な悪態を吐いた女生徒は、その直後に更に三発の直撃を受けた。

 ISとしてオーソドックスな性能のラファールだが、強力な20mm砲弾の直撃は大きな痛手と成り、かなりのシールドエネルギーを消費させられる。

 

「っ・・・!」

 

 ここに来て、漸く女生徒は己の判断の拙さを思いしり、同時に目の前の相手の巧みさを知った。

 全ては余りにも遅く、女生徒が次の手を考えようとした頃には、既に目の前にオタクが迫っており、アサルトライフルの先端に取り付けられた銃剣の鋒が目に写る。

 

 

 

 

 

 

「・・・凄いな」

 

「そうだね」

 

 一夏とシャルルの見ている目の前で、今まさに試合終了を告げるアナウンスが流れ、一切の被弾も許さなかったオタクとラウラの二人が控え室へと戻って行く。

 時間にして2分にも満たない僅かな試合時間は、余りにも隔絶した二人の実力を見せ付けるのに十分な物であり、アリーナには歓声では無く響めきが広がっている。

 

「正直、タクがあそこまで強いのは予想外だったかな」

 

「ああ・・・ラウラとはあの時戦ってみて強さは十分分かってたし、小田とも模擬戦はよくやってたけど・・・コレは予想以上だ」

 

 中距離での射撃戦をベースとした戦法をとるオタクの戦い方は、一夏にとっては幾度も苦渋を舐めさせられた物であるが、それでも傾向が分かるのならば希望はあると践んでいた。

 最近ではオタクとの模擬戦でも十分に対抗できていた自信はあったし、シャルルもオタクの戦い方は理解して対策は練っていた。

 だが、オタクはその二人の自信と対策をあっさりと上回ってみせたのだ。

 

「・・・次は俺達の番だ」

 

「うん、気持ちを切り換えて行こう」

 

 オタク達と戦う以前に負けていては格好も付かない。

 一夏は、取り敢えず二人との勝負の事は頭の隅に追いやって、目の前の自分の第一試合に臨むことにする。

 自分に言い聞かせるために口を吐いた言葉に、シャルルも前向きに返して立ち上がり、二人は揃って選手の控え室へ向かう。

 ISスーツに身を包み、自信の専用機を展開して待機していた二人は、教師からの開始準備の言葉を受けてアリーナの中央に飛び出した。

 

「一夏、準備は良い?」

 

「ああ、何時でも大丈夫だ」

 

 呼吸を合わせて目の前の対戦相手を見据える一夏とシャルル。

 対戦相手は二人とも打鉄を選択しており、分かりやすく近接刀を構えて試合開始の時を待っている。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 両者共に緊張感が高まり、アリーナの観戦席が静まり返ると、試合開始のアナウンスが流れた。

 

「っつああああ!!」

 

 開始と同時に、速攻を掛けたのは一夏だった。

 

「はあっ!!」

 

 高速で一直線に突っ込んだ一夏は、対面する相手に雪片を上段から振り下ろす。

 それに対する女生徒は下段から近接刀を振り上げて迎え撃ち、一夏の雪片を弾いて距離を取る。

 

「まだまだっ!!」

 

 猪突猛進と言う言葉の通り、一夏は後に引いた相手を追い掛けて、再び上段から雪片を振り下ろし、それに反応して見せた女生徒も応じて激しい剣戟の応酬を演じる。

 

「っ!」

 

「うおおおおおお!!」

 

 長らく剣道の道からそれていたとは言え、一夏とて、嘗ては一角の実力者として一目を置かれ、幼馴染みによって再び剣を取った者だ。

 幾分錆び付きはすれど、身体に染み付いていた動きは徐々に精彩を取り戻し、如実に実力を付けていた。

 

「くっ!?」

 

 荒々しくも真っ直ぐで澄んだ剣撃が女生徒と打鉄を襲い、徐々に徐々に動きに着いていけなくなった。

 剣の道を志す者として、理不尽さを感じる女生徒は口惜しくも一夏の動きを止める手段として鍔迫り合いを選択し、隙を突いて一夏の懐に飛び込んで雪片に刀を合わせて力を込める。

 

「良いぜ!ソッチがその気ならっ・・・!」

 

 鍔迫り合いに持ち込まれた一夏は、敢えてそれに受けて立って力を込め、女生徒と打鉄と押し合いを始める。

 

「く、くうっ!!」

 

「おおおおおおお!!」

 

 機体のパワーの差が如実に反映された鍔迫り合いは、一夏の白式が一方的に相手を押し、女生徒は自ら挑んだ押し合いに負けて一方的に圧力に耐えるしか無かった。

 

「はあっ!!」

 

 この、鍔迫り合いの最中、シャルルの射撃から逃れたもう一人の女生徒は、相棒を救おうと動きだす。

 鍔迫り合いに集中している一夏の背後に着いて刀を抜くと、下段に刀を構えながら一夏に迫って急襲し相方の助けに入る。

 それが命取りに成るとも知らずに。

 

「つぇあああ!!」

 

「えっ!?きゃああああ!!」

 

 一夏は打鉄が背後から迫るのを察知すると、待っていたとばかりに全力で目の前の相手を押して弾き飛ばし、振り向いて自身に迫る相手に相対する。

 

「動きが丸見えだ!!」

 

 出力で言えば、IS学園でも屈指の機体である白式を打鉄を相手にして、ただ圧倒される程度で済む筈など無かった。

 勢いに乗った打鉄は、操縦者の拙さも相まって、動きを止める事も出来ず、カウンターを受ける事を分かっていながらも何も出来なかった。

 一夏は、最初からコレを狙っていたのだ。

 

「っ!」

 

「取ったぁああああ!!」

 

 一夏は零落白夜を発動する。

 自身のエネルギーを攻撃に還元して強力な威力を生み出す最強の一撃は、ただの刀で受け止められる物などでは無く。

 打鉄は一刀の下に斬り伏せられて、全てのエネルギーを失った。

 

「くっ!このぉおお!!」

 

 相棒の敗北を目の前にして、残るもう一人の女生徒は声を上げて一夏に反撃を試みる。

 最早勝敗は決したも同然で、自身に勝利の道は残されていないと言う事位は分かっていた。

 それでも、自力でこの学園に入って見せたエリートとしての矜持と、今の社会に置ける絶対的な勝者である女としての意識が、せめて一矢、せめて一太刀と身体を突き動かした。

 

「こんのぉおおお!!」

 

 恐らくは、今までの経験の中で一番上手く機体を操作できていたと言う認識が、彼女自身に有っただろう。

 他の一般の生徒の中でも、かなり上位の部類に入る程に卓越していた事も事実だっただろう。

 だが、それでも、今の状況は彼女の目的の完遂のそれを許す事は無かった。

 

「残念だったね」

 

 彼女の耳に、男性としては高い声がヤケに強く響くと、次の瞬間には全身を衝撃が突き抜けて地面に叩きつけられた。

 

「っか!?」

 

 あと一歩、寸での所で一夏に一太刀をと言う所で、シャルルが目の前に現れ、至近距離でショットガンによる射撃を受けたのだ。

 

「っ!」

 

 アリーナの地面に身体を打ち付け、自信が巻き起こした土煙で視界を遮られた女生徒は、尚も自力で起きて刀を構える。

 エネルギーの残量は雀の涙程しか残っておらず、まだ終わっていない事が奇跡の様な状況だが、それでも彼女はまだ立っていた。

 

「まだっ!」

 

 終わっていない。

 そう言いたかった彼女は、土煙が晴れると同時に、目の前に突き出された銃口を目にして悟った。

 奇跡は二度は起きなかったのだと。

 

「コレで終わりだよ。よく頑張ったね」

 

 優しく労う様な称賛の言葉は、しかし、とても非情で容赦の無い終わりを告げる言葉だった。

 

「・・・っ!」

 

 自信を見下ろして銃口を向ける彼は、何と美しい顔立ちだろうかと、そして、何と残酷な人物だろうかと、涙に霞む視界の中で思いながら最後の一撃を受けた。

 

 

 

 

 

 

「何分だ」

 

「・・・六分程で御座るな」

 

 観戦していたオタクにラウラが尋ねると、オタクは試合終了までに掛かった時間を答える。

 

「その程度か」

 

 それだけ言うと、ラウラは観戦席を立ってアリーナから出ていってしまった。

 

「・・・」

 

 正直言えば、オタクも概ねラウラと同じ様な感想を抱いている。

 言ってしまえば、一夏とシャルルは、操縦時間も戦闘経験も機体性能も何もかもが勝っているにも関わらず、それだけの時間を掛けてしまっているのだ。

 特に、一夏は学園で最も高性能で一番火力の高い機体に乗っているのにも係わらず、その一撃を当てるのに、あの様な罠を張らなければ成らないと言う事を見せ付けてしまっている。

 それは、小手先の技術に頼らなければ成らないと言う事に他ならず、ともすれば地力が足りていないと言う事を現していた。

 

「・・・少佐殿は甘くは無いぞ」

 

 このままではラウラに勝つことは出来ないと言う様に、オタクは一人呟いて、次の試合に目をやった。

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