一夏の友人は常識人の夢を見る   作:hggj

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第十六話

 学年別トーナメントの日程は恙無く進み、午後に入ってから二回戦目が始まると、一夏とシャルルは安定して三回戦に駒を進めた。

 オタクとラウラの試合は、二回戦最終試合となり、コレが学年別トーナメントの初日最終試合になる。

 注目のコンビの試合とあって、その実力を見てみようと言う生徒は多く、アリーナには一年生のみならず、他学年からも観戦希望者が集まった。

 その注目の試合、誰もが開始を今か今かと待ち構えるアリーナでは、全員の視線が中央に向けられており、その視線の先には機体を展開した四人が立っていた。

 

「・・・箒氏が相手で御座ったか」

 

「・・・」

 

 アリーナ中央のオタクとラウラ、箒とそのペアの生徒の四人はあまたの視線に晒されながら地上で試合開始の時を待っている。

 特に私語などは禁止されておらず、暇を持て余したオタクが話し掛けるが、箒からの返事は無かった。

 

「曹長」

 

 箒にシカトされてオタクが嘆息しようとした寸前、隣のラウラがオタクに声を掛ける。

 

「なんで御座るか?」

 

 オタクが相方の少女に応じると、ラウラは箒を指差して尋ねた。

 

「この女は篠ノ之博士の関係者だそうだな」

 

「そうらしいで御座る。確か妹君だそうで」

 

「・・・」

 

 オタクの返答に暫く考え込む様子を見せたラウラは、顔を上げてオタクに命じる。

 

「曹長、この女はお前に任せる。そっちのもう一人の方が歯ごたえがありそうだ」

 

「・・・っき、貴様・・・っ!」

 

 ラウラの物言いに、箒は余程腹に据えかねたのか、それまでの無言を破って憎しみの籠もった目でラウラとオタクを睨む。

 

「少佐殿www正直は美徳で御座るが、オブラートに包んで下されwww」

 

 ラウラには別に箒を煽ろうと言う気は無く、ただ単に思った事を素直に言っただけなのだが、オタクは、それを分かっていながらも敢えて箒に対して挑発と取れるようにラウラを窘めた。

 オタクの扱うダンボールは御世辞にも高性能とは言い難く、また、オタク自身の技量は優秀な部類だが、それは、実戦経験と過去の訓練、本人の努力故の物であり、単純な才能という観点で見れば、この場の四人の内で一番劣っている。

 専用機を持っている事で、他の生徒よりも操縦時間を長く取れると言うアドバンテージが無ければ、オタクの実力というのは然程高い物では無く、現状でも一つの分野に焦点を絞れば、オタクと同程度かそれ以上の能力を持つ同学年の生徒はそう少なくは無いのだ。

 

「曹長ならば十分に撃破可能だろう?」

 

「それは否定しないで御座るwww」

 

「ならば実行しろ」

 

「アイアイ、マムwww」

 

 オタクは自分の技量と言う物をかなり正確に掴んでいる。

 目の前の箒は、ISのセンスではオタクを凌駕し、また、剣道の高い技量と実績も知っており、だからこそ、オタクは決して油断はせず、侮らず、全力で相手を倒す。

 その為ならばルール上で禁止されていない事は全て行うし、少しでも有利になると思えば徹底して相手の弱点を突く。

 

「・・・貴様、私を侮った事を後悔させてやる・・・っ!」

 

「www侮ってなどいないで御座るよwwwただ、過大にも過小にも評価しないだけで御座るwww」

 

「殺す!!」

 

 箒が強い言葉で宣言すると同時に、試合開始がアナウンスで伝えられ、最速の反応で飛び出した箒が居合の要領でオタクに斬り掛かった。

 

「オッフw」

 

 試合開始と同時に地面を蹴って飛び出した箒の一太刀は、それは見事な一撃だった。

 腰だめから横凪に振り抜かれた刀身は、一筋の光となり、正に一閃してオタクに襲い掛かった。

 巻き藁を前にした居合ならば、間違いなく一刀の下に両断していただろう。

 剣道の試合ならば胴の判定で一本になっていだだろう。

 繰り出した箒自身も会心の一撃だと自讃するほどの素晴らしい一太刀は、オタクの胴を薙いで大幅にシールドを削る。

 

「筈だった」

 

「っ!」

 

 刃がオタクのダンボールを薙ぐ直前、確かにオタクを捉えたと確信した箒の一撃は、オタクが上昇した事で容易く躱されてしまう。

 箒のISでの戦闘経験の少なさ故か、彼女は剣道では有り得ない空に飛ぶと言う回避方法を失念して面食らった表情で、回避された事に戸惑った。

 もしも、箒が冷静さを残していれば、こんな事にはならず、もっとじっくりとオタクの動きを見極めながら隙を突いたはずだ。

 少なくとも、普段通りであれば刀を振り抜いたままで動きを止める等と言うミスは犯さなかった。

 

「残心を怠っているで御座るよwww」

 

 そう言いながらオタクはアサルトライフルの銃口を向けて三点射を見舞う。

 回避で飛びながらフルオートで指切りの三点射を行うオタクの射撃の腕前は、即座の照準も反動の制御も見事な物で、三年生の生徒や教師達は声を上げて驚いた。

 

「っ!」

 

 だが、同じ瞬間に驚くべき事はもう一つ起こっていた。

 箒はオタクが引き金を引くと同時に、人間の限界付近の反応で射撃を躱して見せ、正眼に刀を構えてオタクを見据えたからだ。

 

「箒氏www人間じゃねぇwww」

 

 内心で驚愕するオタクは、決して箒に動揺を悟られない様に、余裕を見せながら箒と同じ地面に降り立ち、油断無くライフルを構えて、銃口と銃剣の鋒を箒に向ける。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「っつぇああああ!!」

 

 数秒の無言の後、箒が雄叫びを上げて刀を振り上げてオタクに迫る。

 思いっきりの良さと無意識にスラスターを使ったダッシュは、操縦時間の少なさから考えれば称賛に値する物で、コレならば一回戦突破も頷ける実力だった。

 

「www」

 

 だが、それで簡単に詰められる様なオタクでは無い。

 箒が前に出ると同時にオタクが回避行動を取る。

 箒が今まで相手してきた生徒達は真っ直ぐに後へと下がっていたのだが、オタクは他の生徒とは異なり、下がると同時に右に身体をずらし、同時にオタクは二回続けて三点射を見舞った。

 

「くっ!」

 

「www」

 

 箒は、この反撃にも何とか対応するが完璧とは行かず、二発の直撃を喰らってしまう。

 オタクが右に避けたのは箒が刀を上段に構えていたからであるが、それは、剣士が上段の構えを取ると左腕が邪魔になって死角が出来ると言う事を知っていたからである。

 

「クッソ!」

 

 更に、オタクは箒を中心に右に旋回しながら射撃を浴びせ続ける。

 イラだち混じりに悪態を着く箒は、刀を正眼に構え直してオタクからの射撃を回避するが、全てを完璧に回避すると言う訳には行かず、数発の被弾は免れなかった。

 

「卑怯だぞ!!男らしく戦え!!」

 

「デュフフフwwwそんな馬鹿な事をする訳がないで御座るwww卑怯汚いは敗者の戯れ言で御座るwww」

 

 このまま行けば、箒の機体はエネルギーの全てを消費して戦闘不能になるだろう。

 オタクは下手なリスクなど犯さず、このまま箒を封殺して戦いを終わらせるつもりでいた。

 

「くっ!」

 

「デュフフフwww」

 

 誰もが勝敗は決したと確信した。

 箒は己の未熟さとオタクとの実力の差を思いしり、オタクは油断無く最後の瞬間まで箒を狙い続ける。

 だが、一人だけ、この場にいない一人だけが、このまま終わる事を許さなかった。

 

「っ・・・!」

 

 突然の事だ。

 突然、オタクの射撃が止んだ。

 

「っ!なにっ!?」

 

 射撃が止んだ事に箒は呆然としてオタクを見るが、オタクは慌てて銃を操作する。

 マガジンを手動でリリースし、レシーバーを叩いて本体を振り、再びマガジンを挿入してコッキングレバーを動かす。

 排莢不良か給弾不良か、はたまた撃鉄不良による弾詰まりかチープアモによる焼き付けか、何にせよオタクは最大の隙を見せてしまった。

 

「曹長!!」

 

「っ!しまっ!?」

 

 銃の操作に夢中になりすぎて、ラウラの声が届くまで箒から目を離して注意を怠ってしまうい、その一瞬の間に箒の接近を許してしまったのだ。

 

「はああああ!!」

 

「ぐおっ!?」

 

 上段から振り下ろされた刀は、オタクの脳天を狙って一閃される。

 オタクは咄嗟に、手に持っていた銃を両手で頭上に掲げ、銃身の通ったアッパーレシーバー前部で剣撃を受けた。

 アサルトライフルはこの一撃で銃身部分まで刃が通り、完全に使用不能になる。

 シールドエネルギーもこの攻撃で幾分減ってしまい、オタクはダメージを受けると同時にメインアームを失う事になった。

 

「っぇええええええ!!」

 

 箒は一端手を引いて刀をライフルから抜くと、再び上段から斬り付けようと振りかぶる。

 その箒の動きを見て、先程同様に防御しようとオタクはライフルを掲げて箒の攻撃に対応するが、それこそが箒の狙いだった。

 

「甘いっ!!」

 

「くっ!・・・ぐぅぅううう!!」

 

 箒の面は完全なるフェイクで、振りかぶった刀を一瞬で退き、ガラ空きのオタクの胴に刃を叩きつけた。

 

「まだまだっ!!」

 

 左から右へと振り抜いた刀を、箒は切り返して逆袈裟に切り上げて更にオタクのエネルギーを削る。

 この時点でオタクのエネルギー残量は三分の一を切り、後一撃、強力な攻撃を喰らえばオタクの敗北となる所だ。

 

「チェストォォオオオオオオオ!!!」

 

 トドメを刺そうとする箒は気合いを入れて刀を振り下ろすが、ここで箒は詰めの甘さを露呈してしまった。

 

「っ!」

 

 最後の一撃と言わんばかりに気合いの入った箒の一撃は、大振りになってしまい、その黄金の隙にオタクは身体を滑り込ませる。

 

「っらああ!!」

 

 オタクは箒の懐に入って首に手を回して組み付くと、強力な膝蹴りを見舞う。

 

「くっ!離せ!!」

 

「はっ!!」

 

 組み付いて箒が抵抗する状態で、オタクは容赦なく膝蹴りを二発食らわせ、更に箒の右手を取ると自分の右腕を脇から肩に絡めてかち上げ、そのまま一本背負いで投げ飛ばして距離を取る。

 

「ショットガン!!」

 

 無意識の内にオタクは叫びながら格納領域からショットガンを取りだして構える。

 ブルパップのオートマチックショットガンは、引き金を引くと同時に最初に装填されているバックショットを撃ち出した。

 セレクターはフルオートの位置にあるため、そのまま次弾が撃発される筈なのだが、先程同様に銃が不良を起こして使い物にならない。

 

「ちいっ!!」

 

 オタクの銃の様子がおかしいと見るや、箒は、再び刀を構えてオタクに肉迫しようと動く。

 対するオタクも先程の轍は踏むまいと、手にしていたショットガンを放り棄てて、旧式のライフルを取り出した。

 箒とてエネルギーの残量は少なく、攻撃を受ければ敗北は必死の状況であり、両者は互いに後一撃と言う段階でアリーナ中央でにらみ合う。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 箒は疑問に思った。

 何故、オタクが撃ってこないのかと、もしかして撃てないのではと、そう思った箒はオタクに向けて声を掛ける。

 

「・・・何のつもりだ」

 

「気紛れで御座るwww」

 

 箒の訝しげな問い掛けに対して、オタクは普段の調子を崩さずに答えながら、右手で掴んだグリップを右の腰に当て左手でハンドガードを掴む。

 射撃では無く、近接戦を挑もうと言うオタクの様子に箒はオタクが撃たないのでは無く撃てないのだと言う確信を得た。

 

「フン・・・後悔するなよ」

 

「デュフフフwwwするわけないで御座るwww」

 

 銃剣を構えるオタクは堂に入って自信満々としているが、箒に取っては近接戦ならば敵では無かった。

 今現在の箒は剣の腕に関して言えば同年代で最強に等しく、多少リーチで劣っていようとも簡単に遅れを取るような事は無い。

 普段の通りのオタクの反応も不安を悟られまいとするブラフだと箒は判断した。

 空の戦いはラウラが一方的に相手を追い詰め、猫が鼠をいたぶるが如く一方的に蹂躙している。

 

「貴様を倒して、もうボーデヴィッヒも倒す。次に進むのは私だ!」

 

「出来るで御座るかな?」

 

「私が勝つ!!」

 

 宣言と同時に箒が飛び出し、オタクに斬り掛かる。

 銃剣を巧みに操るオタクは、何とか箒の攻撃に耐えるが、素人目に見ても明らかに箒が優勢で、オタクは防戦一方だ。

 

「はああああ!!」

 

「ぬっ!?」

 

 銃剣で箒の攻撃を受け続けるオタクはドンドン押し込まれ、箒が気合いを入れた一撃を放つと、遂には銃剣が耐えきれずに半ばから折れてしまう。

 

「コレで終わりだ!!」

 

 衝撃で銃を跳ね上げられたオタクは、何とか手は離さずにいたが、その所為で余計に隙が大きくなってしまい、不可避に攻撃を叩きつけようと箒が刀を振り上げた。

 刀の刃が迫る中、誰もがオタクの敗北を確信する中、オタクは口角を上げて嗤った。

 

「計画通り」

 

「・・・っ!」

 

 オタクの笑顔を見た瞬間、箒は全身が粟立って悪寒を感じる。

 次の瞬間、ダンボールの太腿のカバーが開くと、開いたカバーの内側で爆発が起こり、衝撃が箒を遅った。

 

「カハッ!!」

 

 余りの衝撃で、箒は後に吹き飛ばされて刀を取り落とし、肺の中の空気が全て吐き出された。

 

「っあ・・・ああ!」

 

 酸欠気味でフラつく頭が、一挙に流れてきた酸素で覚醒すると、ISのセンサーで拡大表示されたオタクがライフルを構えているのが見える。

 

「ああ・・・」

 

 観念したように小さく声を漏らした瞬間、箒の胸に20mmの砲弾が撃ち込まれてシールドエネルギーの全てが消費された。

 

「・・・」

 

 その直後にはラウラも勝負を決めて試合が終了し、ラウラとオタクは控え室に戻り、後には撃破された二人だけが残された。

 

 

 

 

 

 

「すみませぬ少佐殿」

 

「いや、そんな事より何があった」

 

 控え室に入るなり、オタクはラウラに頭を下げて謝罪するが、ラウラは直ぐに許して事情を尋ねる。

 あの試合中、オタクは二度も銃の故障を起こしているが、ラウラには直ぐに異変に気が付く所が出来た。

 

「やはり少佐殿は誤魔化せませんか」

 

「当たり前だ。まあ、私もショットガンで気が付いたのだがな」

 

「www」

 

 戦闘中に銃身や部品の加熱で動作不良を起こす事は十分に考えられる事であり、ラウラもその件を攻めるつもりは無いのだが、ショットガンに関しては明らかに異常だった。

 

「曹長は銃の手入れを怠る様な奴では無い。取り出したばかりの銃で二発目・・・最初の給弾で不良を起こすのも明らかにおかしい」

 

「分かりますか・・・」

 

 ラウラに言われたオタクは、回収して置いた不良を起こした銃をラウラに見せる。

 

「このアサルトライフルですが、実は何の不良も起こしておりませぬ」

 

「何?」

 

「この通り弾詰まりも焼き付けも起こしておりませんし、排莢不良も起こしておりませんでした」

 

「では、何が・・・」

 

「このアサルトライフルは電動でボルトを動かして、モータ駆動の巻き上げ機でマガジン内の弾薬を給弾する方式で御座る」

 

「チェーンガンの様な物か」

 

 基本的には外動力で動く為、反動やガス圧を利用する機構は備わっておらず、手動のコッキングは排莢不良時の強制排出と装填を行うために着いている。

 撃発不良の場合には電動で動くボルトによって強制的に不発弾薬が排出されるため、考えられる使用不能は焼き付けくらいの物で、他の場合は手動で対応できるのだ。

 

「今回起こったのは、電動ボルトが動かなくなったので御座るが、ハード面には問題は御座らん」

 

「と言う事は、ソフト・・・ソフトキルでも受けたのか?」

 

 オタクの説明を聞いたラウラが思い当たる要因を言うが、オタクは首を振って答える。

 

「いや、箒氏にはその様な装備は見餓えられなかったで御座るし、性格的にも考え辛いで御座る」

 

「では・・・」

 

「恐らくハッキングで御座る」

 

 そう言ってショットガンを取り出すと、同じ様にラウラに見せる。

 

「此方も同じく電動で御座る。初弾は装填済みだったから撃てたので御座ろうが、装填機構が死んでいるから二発目は撃てなかったので御座る」

 

「成る程な・・・しかし、ハッキングとは一体何処の誰が」

 

「デュフフフwwwまあ、世の中には可笑しな人間も居ると言う事で、本日は解散しましょうで御座るwww」

 

 そう言って話を閉めると、オタクは待合室を後にした。

 早めの夕食を取ったオタクは、一夏達が居ない事に少し寂しさを感じつつ、何時ものベンチに言って懐から取り出したタバコを咥える。

 

「・・・あのクソアマぁ・・・!」

 

 オタクには分かっていた。

 誰が邪魔をしたのか、誰がハッキングを掛けたのか、試合中の時点で知っていた。

 

「・・・この落とし前・・・如何着けてくれようか・・・」

 

 人前では決して見せない様な憎悪に満ちた表情のオタクは、一本目を吸いきるなり次のタバコを咥えて火を着けた。

 人首から貰ったマルボロの最後の一本を、今度はじっくりと吸う。

 

「散々な試合だったな」

 

「んあっ?」

 

 背後から声を掛けられたオタクが振り向くと、そこには、火の着いていないタバコを咥えた千冬がいた。

 

「火を貸せ」

 

「・・・」

 

 千冬に言われるままにジッポーを出すオタクは、右手を伸ばして火を点し、そのジッポーの火に千冬が顔を近づけてタバコをに着火する。

 

「・・・ふう」

 

「・・・」

 

「ボーデヴィッヒとは上手くやっている様だな」

 

「まあ、ぼちぼちと」

 

「・・・ハッキングの件は、此方でも掴んでいる。お前はあの状況で良くやったな」

 

「教師らしく褒めてくれますか・・・」

 

「まあな・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 暫しの無言が二人の間に流れる。

 火を着けたばかりのタバコが、その半分ほどが燃え尽きるまで、何も言わずに前を見たままでいると、千冬が再び口を開く。

 

「最後のあの攻撃・・・」

 

「どうかしたか?」

 

「あの太腿の奴は何だ?」

 

「ああ・・・アレはこの前新しく着けた自己鍛造弾だ。指向性散弾よりも射程が長いし、対装甲能力も高まった」

 

 爆薬レンズによる平面爆轟波とミスナイ・シャルディン効果による爆轟波の集中による圧力で爆発成形侵徹体が形成され、それによって装甲を貫徹する成形炸薬弾の一種である。

 モンロー・ノイマン効果を利用する従来の成形炸薬とは違い、発射される金属ライナーは直径の500倍程度の距離までは十分にエネルギーを保っており、エネルギー効率も高い。

 本来は砲弾や爆弾などの弾頭に使用して発射するのだが、今回は太腿に直接収納した状態から至近距離の敵に対してライナーをぶつける形で使用している。

 

「また、物騒な物を持ってきたな」

 

「ISは絶対防御(笑)があるから大丈夫でしょう?」

 

「まあ、そう言う事になっている」

 

 千冬は若干言葉を濁すと、一度紫煙を吸い込んで息を吐き、再び口を開く。

 

「あの銃は何か狙いがあったのか?まさかリーチだけで選んだわけでは無いだろう」

 

 ダンボールの格納領域にはアサルトライフルはもう一挺格納してあり、一発だけ撃つのならばアサルトライフルでも良かった筈だ。

 その千冬の疑問に対してオタクは、隠しもせず答える。

 

「あのライフルはアサルトライフルとは作動方式が違う。あのライフルはガス圧方式で、撃発も手動トリガーの機械撃発な物でね」

 

「・・・確かに、それならばハッキングの心配は無いか」

 

「それに、アサルトライフルよりも強力な弾薬を使っているんだ」

 

 ライフルの弾薬が20×110mmUSNなのに対して、アサルトライフルは20×102mmで、威力としては銃身長の関係もあって若干だが、ライフルの方が強力なのである。

 初弾の発射が可能なのはショットガンで分かっていたが、より確実に箒を仕留めるために、仕留め損なった場合に次弾を撃てる様にと言う事も考えて、ライフルを選択したのだった。

 

「明日はこんな事が無い事を祈りたいね・・・」

 

「・・・友人としては耳が痛いが、出来る限りの事はしよう。貴様は私の生徒なのだからな」

 

「同い年の生徒と先生か・・・何かエロいな」

 

「・・・貴様、生徒に手を出せば犯罪だからな」

 

「分かってますよ」

 

 この日は、二人がベンチを離れるのは同時だった。

 吸い終えたタバコを携帯灰皿に入れて、ベンチから立ち上がると、二人は反対方向へと無言で歩き出して、オタクは眠りに着いた。


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