学年別トーナメント二日目、時刻は十三時丁度を数え、一年生第三回戦が行われる第三アリーナは、多くの観戦希望者が集まり、正に満員御礼だ。
その目的こそが、一年生で一番の注目のカード、オタクとラウラVS一夏とシャルルの実質の決勝戦だ。
数多の視線が降り注がれる中、遂に両チームが控え室を飛び出してアリーナ中央へと姿を現した。
6月の太陽が降り注ぎ、耳を劈く程の歓声が上がる中を四人は互いの姿を確認すると、アリーナ中央に集まって地上に降り立つ。
「逃げずに良く来たものだな。その意気は褒めてやろう」
出会い頭早々、ラウラが一夏に向かって挑発の言葉を投げ掛ける。
ラウラの言葉に対して、一夏は挑発に乗って怒る様な事は無く、悠々としてラウラに言葉を返す。
「ありがとよ。そんな風に挑発してくるのは俺が怖いからか?」
「面白い事言う。どうやら口だけは良く回る様だな」
目に見えそうな程に火花を散らす二人は、一切視線をずらさずに睨み合い、一触即発の空気を醸し出す。
それに対して、オタクとシャルルは、コレから試合をするのが信じられない程、和やかな雰囲気で相対す。
「やあ、タク」
「オッフwシャルル氏wwwお加減はいかがで御座るか?」
「う、うん、今日は大丈夫だよ。ありがとうね」
「www心配は当たり前で御座るwwwシャルル氏は拙者にとって大事な人で御座るからなwww」
「えっ!?」
「?どうかしたで御座るか?」
「だ、大事な人って・・・本当?」
「もちのろんで御座るwww大事な友人で御座るwww」
「あ、ああ~、そう言う・・・」
隣とは雲泥の差の様子の二人は、普段通りの言葉を言葉を交わす。
実に対照的な四人だったが、そんな四人に無線が入る。
『聞こえているか。そろそろ時間だ』
千冬のその言葉と同時に、両チームが私語を止め、表情を引き締めて距離を取る。
真剣その物の四人は、さっきまでとは打って変わって無言で試合開始の合図を待った。
その様子が観戦席の生徒達にも伝わったのか、アリーナがしんと静まり返り、誰かが喉を鳴らす音さえも聞き取れそうな程だった。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
コレまでに無い緊張感に、一夏は額に汗が伝わるのを感じた。
一夏が隣を見れば、普段はにこやかな愛嬌のある友人が真剣な表情で前を見据えており、正面を見れば、銀髪隻眼の対戦相手が鋭い眼差しで自分を事を見詰めてきている。
そして、少し視線をズラした先、一夏がもう一人の対戦相手に目を向ければ、普段飄々としているオタクが何時になく真剣な面持ちをしていた。
まるで自分が場違いな場所に来てしまっている様な、周りの人物達が何処か別の場所へと行ってしまったような、そんな不安感と心細さを感じて緊張する一夏は、不意にオタクの顔を見て拭きだした。
「くふっ!・・・」
「如何したの?一夏」
「いや、悪い、ちょっと前の事を思いだして」
「何を思いだしたの?」
シャルルが一夏に尋ねると、一夏は笑顔でシャルルに答える。
「前に酢豚にパイナップルを入れるかどうかの話を小田とした事があって、それで、鈴がその後に酢豚を作って来た時に小田がパイナップルが入って無いって言ったら、鈴が小田に酢豚を投げ付けたんだ」
「それで?」
「いや・・・それで小田の奴が何じゃこりゃーって叫んで、そしたら、そこを通り掛かった千冬姉が吹き出して、小田をしばいたんだよ」
話はそれだけだった。
特に何が面白いのかも分からない話に首を傾げるシャルルだが、一夏は何故か笑う。
そうして、一夏の緊張が解れると、一夏は再び目の前の相手に視線を向けて集中を高める。
そして、試合開始を告げるブザーが高らかに鳴り響いた。
「おおおおおおお!!
ブザーが鳴ると同時に一夏が雪片を上段に構えて飛び出す。
一夏の狙いは勿論の事ラウラで、ラウラの方も待ちかねたと言わんばかりに地面を蹴った。
「・・・」
「・・・」
そんな二人とは対照的に、シャルルとオタクは、試合が始まって入るにも係わらず一歩も動かずに黙って見つめ合う。
観戦席のの生徒達が何があったのかと言う風に少しざわめく中、口を開いたのはシャルルだった。
「如何する?タク」
「そうで御座るな・・・」
オタクは勿体ぶったように一度言葉を区切り、空を見上げて息を吐き、それから再びシャルルの方に向いて口を開く。
「拙者、まだシャルル氏には一度も勝てていなかったで御座るな」
「そうだっけ?」
「そうで御座るよwwwだから、まあ・・・男の子としては負けたままと言うのも癪に障るで御座るなwww」
「ふ~ん・・・そう言う物なのかな」
「・・・」
「・・・」
「・・・!」
「っ!」
互いに言葉を交わし、オタクの言葉にシャルルが呟いて、それからまた無言になる。
幾ばくかの沈黙の後、どちらからと言う事も無く、両者は同時に武器を出して右に飛んだ。
向きあった状態で輪を描くように右に旋回を続け、その間に照準を着けた互いの銃の引き金を引く。
「流石だね!タクの20mmを喰らったら不味いかもね!」
「オッフw拙者のはもう少し大きいで御座るよwww」
「それどう言う意味!?」
オタクは何時も通りのアサルトライフルを構え、シャルルはショットガンを二挺取り出して応戦する。
口径30mmのバックショットが装填されたフルオートマチックのショットガンは、オタクの使うものと比べて、コンパクトで取り回しやすく、40連発の多弾装で継戦能力に優れ、発射レートも毎分600発とかなり早い。
「タクって!ライフルの射撃は上手いよね!」
シャルルがオタクに対してショットガンを連射しながら言う。
銃口から吐き出された鉛球の嵐が、オタクのダンボールに目掛けて殺到し、その装甲とシールドエネルギーを削ろうとする。
「ありがとうで御座るwww」
オタクはシャルルの言葉に礼を言いつつも、鉛球の嵐を躱すために機動にブレーキを掛けてオーバーシュートを狙う。
その目論見は上手く行き、数発の鉛球が掠めるだけでオタクはダメージを避ける事が出来た。
しかし、シャルルはそれを呼んでいたかの如く、一気に距離を詰めて来て、至近距離でショットガンの引き金を引く。
「っあああ!!」
大ダメージを免れない様な状況で、オタクは咄嗟に左膝でシャルルの右手のショットガンを蹴り上げ、同時にアサルトライフルのハンドガードでシャルルの左手のショットガンを振り払う。
「ぬっ!」
「はあっ!!」
シャルルは右手の武器を失い、もう片方も銃口を外されて体勢を崩してしまう。
そこへオタクは、右手でライフルのグリップを握ったまま左手でアッパーハンドガードを掴んで、銃剣をシャルルに向けて突き出した。
「甘いよっ!」
オタクの攻撃に対しても、シャルルは冷静さを失わず、左手にナイフを取り出してオタクの攻撃を受け流し、オタクの腹を右脚で蹴って距離を取った。
「っ!」
反撃から一転して、再び攻撃を加えられる側に回ってしまったオタクは、シャルルの蹴りを食らって体勢を崩すと、直後に更なる衝撃を受ける。
オタクから距離を取ったシャルルが、オタクに向けてショットガンを撃ったのだ。
全く回避行動を取る暇も無かったオタクは、そのまま、三撃程シャルルの銃撃を受けてしまい、エネルギーを大きく削られてしまった。
「きっついな・・・」
何とか銃撃の嵐から抜け出して距離を取ったオタクは、ぼやきながらダメージのチェックを行う。
その間に、シャルルはショットガンのリロードを行い、空いた左手にグレネードランチャーを展開した。
「まだまだ行くよ!」
口径60mmの八連発リボルバーグレネードを構えると、シャルルはオタクに向けて連続で発射する。
「ぬおおおおお!!」
オタクは砲弾の着弾点から大きく距離を取りながら回避行動を取るが、完全にノーダメージと言う訳には行かず、幾分の破片を受けてエネルギーが更に減少する。
このシャルルによる爆撃の被害というのは、直接的なダメージのみならず、連続した爆発によって巻き上げられた粉塵が煙幕の効果を果たしてオタクの視界を奪う事にもなり、オタクは神経を研ぎ澄まして次の攻撃に備えた。
「次は何をするつもりだ・・・」
土煙に遮られた状況で、オタクはアサルトライフルを構えながら呟き、行動の予想を立てる。
セオリー通りならば、土煙が晴れて此方の姿が見えると同時にもう一度撃ってくるのが通常だが、そんな見え透いた手をシャルルが使うようには、オタクには思えない。
自分ならばと考えれば、オタクは接近しての攻撃を予想するが、ふと、先程のシャルルの爆撃に違和感を覚える。
「・・・何故、当たらなかった?」
シャルルほどの腕前ならば、もっと至近距離に着弾し、より大きなダメージを受けるのではと言う考えが浮かび、先程の場面を思い出す。
先程のシャルルの攻撃が自分を狙うと言うよりも、寧ろ敢えて広範囲に広がるように撃った物の様に思えたオタクは、額を冷たい汗が滴るのを感じた。
そして、次の瞬間、目の前に雪片を構える一夏が姿を現した。
「おおおおおおおお!!」
「ダニィッ!!?」
余りにも予想外な一夏の出現と、攻撃に驚いたオタクは声を上げて感情を顕わにし、しかし、それでも身体が反応して防御に回る。
「っつつ!!」
「はあああああああ!!」
振り下ろされた雪片の実刀を銃剣で上手く受け止めたオタクは、地面に膝を着いて歯を食いしばり、圧力を掛けてくる一夏に抵抗する。
「っ・・・!」
鍔迫り合いをしているだけで減っていくシールドエネルギーに歯がみして、オタクが行動に出た。
オタクは一夏の圧力に対して一瞬だけ全力で押し返すように力を込めると、直ぐに銃を引いて身を躱し、体勢を崩した一夏に足払いを掛ける。
「うあっ!?」
突如として抵抗を失った一夏は一気に前につんのめり、更に足を払われた事で地面に前のめりに倒れ込む。
一夏は、直ぐさま振り向いて身体を起こそうとするが、そこにはオタクの向けるアサルトライフルの銃口と銃剣の鋒があった。
「っ!」
オタクは、一夏に対して向けた銃の引き金を引き、銃撃を浴びせようとするが、一夏はその体勢のまま後ろ向きに飛び出し、追って飛んでく砲弾を躱しながらオタクから距離を取った。
「ちぃっ!」
チャンスを生かし切れなかった事に舌打ちして、オタクはショットガンを左手に展開すると、相棒のラウラの姿を探す。
「少佐殿!」
ラウラは、先程までオタクと戦っていたシャルルから一方的に攻撃を受けていた。
AICを展開してシャルルの放つ銃弾を受け止めたかと思えば、それを見たシャルルが直ぐに武器を変え、グレネードを撃ち込込み、近接信管を作動させてラウラにダメージを与えている。
それを見たオタクは直ぐさま動き出し、両手の銃をシャルルに向けて放ちながらラウラの元へと向かい、ラウラを支援した。
「少佐殿!」
「大事ない!」
爆風で体勢を崩していたラウラは、オタクが駆けつけて言葉を掛けると、直ぐさま起き上がって言葉を返す。
シャルルはオタクの射撃を受けると攻撃を止めて距離を取り、相棒の一夏と合流を果たした。
「曹長、状況は」
「エネルギー残量は4割、20mmを僅かに消費。少佐殿は?」
「残量7割、左の手刀を失った」
互いの状況の把握を済ませると、シャルル達に銃を向け続けるオタクに、ラウラが言葉を掛ける。
「曹長、客観的に見て此方の方が劣勢だ。敵の戦力を上方修正する」
「了解」
「コレから私はレールカノンで榴弾を放ったら、一気に肉迫する。援護を頼む」
ラウラがオタクに言うと、オタクは直ぐさま左手のショットガンを収納し、もう一挺のアサルトライフルを取り出して構えた。
「では、行くぞ!」
「アイアイマム!」
宣言通りにラウラが榴弾を放ち、その直後に残った右の手刀を構えて前に出る。
ラウラの放った砲弾は、二人には易々と買わされてしまうが、それによって一瞬だけ、シャルルと一夏の間に間が出来て、爆炎と土煙で二人の連携を阻害する。
「はああああああ!!」
雄叫びを上げるラウラの背後からは、オタクが二挺のアサルトライフルで援護射撃を行う。
一番危険度が高いと判断したシャルルに優先して制圧射撃を行い、シャルルからのラウラへの攻撃を予防し、ラウラが一夏との戦いに集中できるようにした。
「おっとぉっ!!」
シャルルとて、ただ黙って撃たれているだけでは無かった。
オタクに対抗してアサルトライフルを両手に持つと、オタクに向けて打ち返す。
シャルルのアサルトライフルは口径こそ55口径と劣る物の、発射速度では倍程度の速度を持っており、制圧射撃と言う点ではシャルルの方に分が有った。
残りのエネルギーの少ないオタクは、更なるダメージを受けるのを嫌い、シャルルに対しての射撃を続けながらも、回避の為に空に舞った。
「っち!・・・遅い・・・!」
アリーナの障壁のギリギリを反時計回りに飛びながらダンボールの速度の遅さに舌打ちするオタクは、徐々に近づいてくるシャルルに対する対抗策を考える。
そんな、オタクを嘲笑うかの如く、シャルルは右手でアサルトライフルの射撃を続けながら左手にグレネードを展開してオタクの進行方向上に榴弾を撃ち込む。
「おおっ!」
先程同様に一方的に追い詰められるオタクは、時折、背後に迫るシャルルに向かって射撃を行い、牽制して逃げるが、シャルルの方が一枚上手で、その距離は徐々に詰められていき、遂には直ぐ後まで距離を詰められる。
撃てば必中という距離にまでシャルルが近づいた瞬間、オタクは身体を翻してシャルルに向かい合う形で背面飛行の体勢を取った。
「っあ!」
「っ!」
目と目が合い、互いの白目までもが見える距離で、オタクとシャルルは己の銃を構えて引き金を引いた。
直後に銃口から吐き出される熱い鉛と銅の弾丸が、互いの機体を削るかと思う瞬間、オタクはスラスターの出力を下げて速度を落とす。
「!?」
高速で飛行する最中にオタクが速度を落とすと、その相対速度の差が大きくなり、シャルルとオタクは空中で縺れ合うように衝突した。
「捕まえたで御座るよ」
「っ!!」
オタクがシャルルに向かって言った直後、オタクはシャルルの纏うラファール・リヴァイブの左側のウィングを掴み、そこから自身のスラスターを目一杯に噴かせてアリーナの内壁に押し付けた。
「ぬああああ!!」
「くうっ!!」
高速で内壁に押し付けられたシャルルのラファールは、激しく火花を散らせながらガリガリと機体とシールドを削られる。
この時、ラファールと壁との間に強力な摩擦が出現し、速度は徐々に落ちて地面に近づいていく。
そして、遂にオタクの足が地面に近づき掛けた瞬間、オタクは機体の力を最大限に発揮してシャルルを引き落としながら地面に着地してその勢いのままに、シャルルを投げ飛ばした。
「きゃっ!」
悲鳴を上げるシャルルは、何とかして自身の姿勢を制御しようとするが、そのまま背中から地面に打ち付けられ、地面を削りながらアリーナの内壁に激突する。
「っつ~!」
衝撃に思わず呻くシャルルだが、その直後に自身に向けて飛んでくる4発のミサイルの存在に気付く。
回避しようと身体を動かすシャルルだったが、最初の1発を回避するのみで、後の3発はマトモに直撃し、周囲を土煙と爆煙で包まれて視界を失った。
「シャルっ!!」
一夏が相棒を心配して声を上げ、思わず爆音のした方を向いてしまうが、それは悪手だった。
「余所見している余裕が在るのか?」
「っ!しまっ!」
目の前のラウラから一瞬でも気を逸らしてしまったが最後。
一夏が視線を戻すと、目の前にはラウラの繰り出した手刀の鋒が迫って来ており、回避は不可能だった。
「ぐあっ!!」
手刀を受けて後に突き飛ばされた一夏に、更なる追撃で2本のワイヤーブレードが迫る。
「くっそぉおお!!」
持ち前の反射神経で体勢を立て直した一夏は、何とかワイヤーブレードを弾くが、その直後、背後にオタクが現れた。
「隙ありで御座るwww」
「っ!小田っ!!」
一夏の体勢は雪片を右上に振り上げた状態で、オタクが現れたのは一夏の右後ろ。
この体勢から刀を振って反撃に出る動きなど一夏には到底出来るはずも無く、また、ワイヤーブレードを弾いた直後の身体が伸びきって動きを取れない瞬間だった。
「っ!」
一夏には何も出来なかった。
ただ歯を食いしばってオタクの繰り出す攻撃に備えるしか無く、覚悟した衝撃が直ぐに一夏の右腋を襲った。
「ぐがっ!!」
アサルトライフルの銃剣で右腋を突き刺され、装甲とシールドのエネルギーを削られた。
「つああああ!!」
オタクの攻撃でダメージを負い、それでも身体を反転させてオタクに反撃を掛けようとする一夏に対し、オタクも銃剣を構えて迎え撃つ。
「一夏っ!」
ここでシャルルが一夏を助けようと高速で飛翔し、オタクの背後に迫ってショットガンを構えるが、そのオタクを護るようにラウラが割って入った。。
「はあああああああ!!」
「おおおおおおお!!」
オタクは両手のアサルトライフルの銃剣で一夏に応戦し、その背後に迫るシャルルには、ラウラがAICを発動して迎え撃った。
至近距離で攻撃を仕掛けようとしたシャルルはラウラのAICによって動きを止められ、その間にオタクは一夏の攻撃を右手で払いながら左手のライフルの銃剣を突き立て、更に一夏の腹を前蹴りして後に押した。
「曹長!」
「アイアイア!!」
シャルルを押し止めていたラウラがオタクに声を掛けると、オタクは心得たとばかりにシャルルの方へと向き直り、それとは反対にラウラが一夏の方を向いて身体を入れ替える。
「タクっ!」
「デュフフフwww」
拘束を解かれたシャルルだったが、勢いを失った状態で目の前にオタクを迎える事になり、シャルルが引き金を引く寸前、ダンボールの太腿部分が火を噴いた。
先日の箒との戦いで見せた物と同じ自己鍛造弾は、高速で金属ライナーを打ち出して、シャルルに襲い掛かる。
「うああああっ!!」
一瞬、ほんの一瞬の判断が、明暗を分かつ。
無意識に動いたシャルルの身体は、逃げるためにでは無く、前に出てオタクに向かう様に動き、その僅かな誤差が、ライナーの直撃を回避する事になった。
「だにぃ!!?」
放たれたライナーは、1発がシャルルのガードの為に構えられた右腕を捉えるが、もう1発はそれて避けられた。
タングステンの装甲すらも貫く程の破壊力を持つ自己鍛造弾の金属ライナーを受けたラファールの右腕は、表面の装甲と内部のフレーム、機械部分を完全に破壊してもぎ取られるが、ラファール自体の撃破には至らなかった。
「っ!コレでっ!!」
オタクの攻撃の直後、お返しとばかりにシャルルが声を上げて残りの左腕を突き出して攻撃態勢に入る。
オタクは、この後のシャルルの攻撃方法を知っていた。
極至近距離、から繰り出されるシャルルの持つ最高火力の攻撃は、以前にも受けた事が在ったからだ。
グレー・スケイル、第二世代屈指の破壊力を誇るパイルバンカー。
炸薬によって杭を打ち出し、その衝撃を余すこと無く相手に伝える最強の物理攻撃であり、相手と接している状態で無くては意味の無い、使い処の難しいその装備は、基本は相手の不意を突くのが一般的だが、全く存在を知らない相手との戦いなどそうそう起こる物では無い。
事前に調査されて知られている事の方が多い現状では、寧ろ、相手に存在を知られていても効果的に運用する方法こそが重要になる。
それは即ち、分かっていても回避する事の出来ないタイミングで使用すると言う事だ。
「ッッッツ!!」
完全に懐に入られたオタクは、アサルトライフルで反撃しようにも近すぎて使えず、こう言う時の為の内蔵兵器は、遂今し方、躱されたばかりだ。
自身の腹部に押し当てられる凶器に、刹那の時の中で敗北を覚悟するが、その構造が目に入り込んだ瞬間、オタクは右手のライフルを手放してシャルルの延ばされた腕を掴んだ。
「なっ!?」
シャルルが驚くと同時にグレー・スケイルが撃発され、そのリボルバーが回転して炸薬に点火される瞬間、リボルバーが動きを止めた。
「ぐおおお・・・!!」
衝撃と傷みに呻くオタクの右手は、確りとシャルルの切り札のシリンダーを掴んでおり、その回転する筈だったシリンダーにダンボールの親指が食い込んで回転を止めている。
「なんて無茶を・・・!」
「リボルバーの構造的な欠陥だ・・・!」
オタクを逃がさない様に、シャルルは半ばからもぎ取られた右腕を伸ばしてオタクの背中に回し、オタクは右手でシャルルの左腕を確りと掴む。
唯一自由になっているオタクの左腕は、ほぼ抱き付く形になっているシャルルに対しては何も出来ず、二人は完全な膠着状態に陥った。
「ここから如何する?」
「そっちこそ・・・後何が出来る」
「・・・」
シャルルの挑むような問い掛けに、オタクが同じく挑発を交えて答えると、シャルルは少し黙り込んだ。
その様子に疑問を覚えたオタクは、シャルルに声をかける。
「・・・如何した?」
「いや・・・タクって、普通に喋るとそんな感じなんだな~って」
普段はキャラ作りしていたオタクは、余裕が無くなると素に戻る事が在るが、今回のシャルルとの戦いは、途中からキャラを維持する余裕が無くなってしまい、遂に先程からは素の喋り方をしていた。
「何でキャラ作りなんてしてるの?」
「あんまりそこに突っ込まないでくれ」
互いに如何して良いか分からずに緊張感の欠片もない話をしていた時だった。
「っ!?」
「きゃっ!」
突然、一夏が吹き飛ばされてきて、二人にぶつかり、縺れ合いながら三人が土煙に覆われてしまう。
「っ~・・・!!」
土煙が晴れたところで、オタクは近くにいるであろう二人に攻撃を加えようと動くが、直ぐに異変に気付いて、その動きを止める。
「一夏!」
オタクにぶつかった一夏の纏う白式は激しく損傷しており、明らかに試合を続行できる状況では無く。
オタクは自主的に試合の中断の判断を下す。
「少佐!試合は続行不能だ・・・!?」
自分の相棒に試合中断を伝えようとしたオタクは、その異常な事態に言葉を失う。
「タクっ!」
「シャルル!緊急事態だ!!」
「っ!!」
ここに来て、復帰したシャルルも直ぐに異変に気が付いてオタクに声を掛けるが、オタクの声に更なる異常に気が付いた。
「何だありゃ・・・」
呟くオタクの視線の先には、そこに居るはずのラウラが居らず、その代わりにISの様な物を纏った黒い人形が立っていた。
何処か、オタクの知る人物の様なシルエットのその不気味な人形は、右手に人降るの刀を持ち、オタクの方を向いて動かずにただ立っていた。
「・・・ラウラが・・・」
「一夏!」
「・・・ラウラがいきなり・・・」
意識を取り戻した一夏が、説明する。
「ラウラを倒したと思ったら・・・いきなり、あの変なのに取り込まれたんだ・・・」
「大丈夫か?」
「・・・平気だ・・・それよりも、アレは俺が何とかする」
ボロボロの機体を引き摺る様にして立ち上がった一夏は、オタクの言葉に答えながら前に出る。
そんな一夏に、シャルルが制止の声を掛ける。
「無茶だよ!そんな状態じゃ・・・」
「ダメなんだ・・・アレは・・・アレだけはダメなんだ・・・!」
しかし、ここで白式に限界が訪れる。
白式が機体のダメージ過多によって状態の維持が困難になり、自動的に待機状態に戻ってしまう。
「ほら・・・やっぱり無理だよ」
シャルルが一夏を窘める様に言うが、それでも一夏は諦めずに目の前の謎のISを睨み続けた。
そんな一夏に、オタクが声を掛ける為に口を開く。
「本気か?」
「勿論」
「機体が出せなくてもか?」
「剣が一本あれば一撃で十分だ」
一夏の言葉を聞いて、オタクはシャルルに話し掛ける。
「シャルル」
「・・・何?」
「俺の残りのエネルギーを一夏にバイパスしてくれ。多分出来るだろ?」
「・・・気が乗らないけど」
「頼む・・・」
「・・・はあ」
諦めた様に溜息を吐いてシャルルは、自身の機体からコードを延ばすと、オタクに手渡す。
シャルルからのコードを受け取ったオタクは、そのままダンボールのソケットにコードを差し込み、エネルギーをシャルルに渡した。
「一夏・・・手を出して」
シャルルに言われるままに一夏は右手を差し出し、待機状態の白式にコードを繋げる。
オタクとシャルルの二人の残ったエネルギーが一夏に渡されると、ギリギリで雪片が部分展開できた。
「じゃあ、行ってくる」
「ああ、行ってこい」
「一回きりだから気を付けてね」
「ありがとう」
そう言って去って行く一夏の背を見送りながら、シャルルがオタクに話し掛けた。
「なんで行かせようと思ったの?」
「ああ・・・なんて言うか・・・男の子だからかな」
「何それ?」
「分からないか?・・・フランスと日本じゃ、やはり通じないのか?」
「えっ!?」
「・・・まあ、分かるかどうかは分からないが、男の子には根性を見せる時があるんだよ」
「そうなの?」
「ああ」
その後、一夏は謎の人形の攻撃を掻い潜って懐に入り、一刀の下に斬り伏せて、ラウラを救い出した。
「それにしても・・・」
「如何したの?」
「決着は着かなかったな・・・」
「ああ~・・・」
「今度こそ勝てるかと思ったんだけどな」
「まあ、元気出しなよ。また何時でも相手してあげるから」
「そうか」
そんな会話をしながら、オタクとシャルルはラウラを抱えて近づいてくる一夏を迎え、その後にアリーナに入ってきた教員に救助された。
ここの事件を理由に学年別トーナメントは中止となり、一学年最強の座は保留のままで終わった。