それは人というにはあまりにも醜すぎた。
大きく 。
分厚く。
重く。
そして脂ぎりすぎた。
それはまさに肉塊だった。
「どうもwww拙者www二人目の男性IS操縦者(笑)になったで御座るwww」
織斑一夏は、友人に教えられていたコピペの改変を頭に浮かべながら、草を生やす男の言葉に耳を傾ける。
低いのか高いのか判断に苦しむ声で話し、自分と同じデザインの筈の、今にも弾け飛びそうな制服に身を包んだ男は汗の滲んだバンダナを頭に巻いて冷たい視線に晒され続けていた。
「おっふwww予想通りの冷たい視線wwwありがとう御座いますwww!」
「え~・・・」
童顔の副担任の戸惑った声に反応したのか、一人の女生徒が右手を挙手して発言した。
「あ~・・・名前は、何ですか?」
「おっふwww拙者とした事が名乗るのを忘れていたで御座るwww」
男は尚も草を生やしながら自身が自己紹介を終えていない事に気が付いて口を開いた。
「お控ぇなすって」
いきなり草を生やすのを止めたかと思えば、男は中腰になって左手を腰に当て、右手の平を見える様に上に向けながら差し出して仁義を切り始めた。
「手前、生まれも育ちも東北が岩手県南、北上川が辺で産湯を浸かり、故郷の温もりに育てられて十五年、数奇な運命に導かれながら流れ流れて、この地に参上仕り候。姓は小田、名は宅。人呼んでオタクと申します」
再び空気が凍り付いた。
今の盛岡の気温よりも低いのでは無いかと思われるほどの雰囲気の中、小田宅は教室を見回して口を開いた。
「エターナルwwwフォースwwwブリザードwww」
「お前が死ね!!」
「ザオリクッ!?」
小田宅、省略してオタクの言葉の直ぐ後、織斑千冬の出席簿が振るわれて、オタクの後頭部を捉えた。
「うごおおお・・・!」
余りの痛みのためか、草を生やす余裕すら無く蹲って後頭部を抑えるオタクに、四十余りの冷たい視線と、ただ一つの同情の視線が向けられた。
「・・・と言うわけだ。このクラスには二人の男子生徒が編入される事になった」
この後、千冬の強引なまとめでHRが締めくくられると、一夏は蹲るオタクの下へと足を向けた。
「あ~・・・大丈夫か?」
「デュフフフwwwありがとうで御座るwww」
手を差し伸べる一夏に礼を言いながら、立ち上がるオタクは、並んでみると随分大きな身体をしており、背丈だけでも見上げる様な長身だった。
ただ、横幅も一夏の倍はあろうかと言うもので、厚みに至っては三倍はありそうな程だ。
一体体重は幾らほどあるのだろうか、等と疑問に思いつつ、一夏は唯一の同性の生徒に向かって言葉を続ける。
「アニメとか好きなのか?」
明らかに偏見だった。
ここに来てから、オタクがアニメに関する発言はしてはいなかったのだが、思わず尋ねた言葉は明らかな偏見と言える物になってしまった。
言ってみてから、一夏は己の言葉の至らなさを恥じるが、オタクは全く気にした風も無く答えた。
「デュフフwww勿の論で御座るよ織斑氏www」
明らかな偏見であった一夏の発言だが、同時に事実でもあったらしく、オタクは笑いながら一夏の言葉を肯定した。
「何だよその呼び方は」
「コレは失礼wwwお気に召しませんでしたかな?」
オタクの一夏に対する呼び方に、不満を覚えたのかと、心配になるオタクだが、その心配が杞憂であると直ぐに証される。
「俺の事は名前で呼んでくれ」
「・・・分かったで御座る。一夏氏www」
この短いやり取りの間、一夏はこの男の事が妙に気に入っていて、オタクと一緒ならばコレからの学園生活にも希望が持てると確信した。
一方のオタクの方は、今までに無いタイプの人種である一夏に対して少し困惑しつつも、悪い人間では無いと判断を下し、一夏と同じく友人関係を築く事が出来ると確かに思っていた。
「一夏」
そんな二人の間に割って入るように、ポニーテールの少女が現れて、一夏に声を掛けた。
「おお箒か」
「ちょっと来い」
目の前で青春の一幕の様な光景を見せられながら、オタクは少女に腕を引かれて行く一夏を見送り、それから自身の席を探して着席する。
周りのクラスメイト達の視線は、あからさまには向けられてはいない物の、時折、怪訝そうにオタクの方に幾人かの視線が向けられた。
そんな情況下に在るにも関わらず、オタクは一向に気にした様子無く、何処から取りだしたのか分からない、ライトノベルを取りだして読み耽った。
「もし、よろしくて?」
オタクがライトノベルを読み始めて、数分か十数分かが経過した頃、一人の女生徒がオタクに近づいて声を掛けた。
金髪の日本人離れした顔立ちをした少女は、気位の高そうな風にオタクに呼び掛けた。
「オッフwww拙者にもフラグがwww」
「フ、フラグ?・・・何を仰っているか分かりませんが・・・まあ、良いですわ。貴方、今のご自分の状況を理解しておいででして?」
聞き慣れない喋り方と言葉に面食らいながらも、金髪の少女はオタクに向けて続けて言葉を投げ掛けた。
しかし、オタクが少女の方を向く事は無く、尚も手元の文字列と行間に眼を走らせる。
その、自身を全く省みないオタクの態度に金髪の少女は強く怒りを感じて声を荒げてしまった。
「なんて無礼な方なんでしょう!この、わたくしが声を掛けて差し上げていると言うのに、顔を上げる事もしないなんて!」
何処か態とらしい様な言葉遣いでオタクを批難する声を上げる少女に、周りからの視線が集まり、それがやがてオタクに対しての不快感や嫌悪感を示した物に変わって行く。
その状況に気分を良くした少女は、更にオタクに言葉を続けた。
「全く、この国の殿方は礼儀という物がなっておりませんわ!普通は人が声を掛けたなら応じると言うのが礼儀では御座いません事?」
そこまで言って、漸くオタクは本から眼を離して少女の方を向いた。
常人の数倍は脂肪の着いた脂ぎった顔を少女に向けると、オタクは開口一番に言った。
「今は拙者は読書をしているので御座るよwwwテッサたんは、それも分からないので御座るか?www」
相も変わらず、草を生やしながら応じたオタクの言葉は少女の神経を余計に逆撫でた。
「一体、何を仰っているのですか貴方は!それにわたくしはテッサなどと言う名前では御座いません!」
「と言われましてもwww拙者、貴女のお名前を存じ上げない物でwww」
「まあ!わたくしの名前も知らないなんて、なんて残念な方なのでしょう!」
大仰に驚いた風にオタクに向かって言った少女は、それから続けて自身の名を名乗る。
「わたくしの名はセシリア・オルコットですわ。そう言えば貴方の様な方でも、お分かりになるでしょう?」
ドヤ顔の見本の様な表情で言って見せる、セシリア・オルコットであったが、そんな事は知らんとオタクが言葉を返す。
「ぷっぷーwww自分の名前が常識みたいに言うなんてwww自尊心高過ぎワロタwww」
思わずと言った風に、オタクの言葉を聞いた教室内の幾人かが噴き出すように笑いを堪え、至極尤もな正論を返されたセシリアは、実に理不尽にオタクに怒りを向けた。
「あ、貴方、これ程わたくしを虚仮にして、只で済むと思っておいででして?」
「www」
「何がおかしいんですの!」
「可笑しくもなるで御座るwwwそんな、テンプレな台詞を恥ずかしげも無く言う人がいるなんてwww」
最早、今にも燃え上がるのでは無いかと言うほどに顔を赤くして怒りを顕わにするセシリアだったが、予鈴に反応して仕方ないと自身の席に戻って行った。
「ふう・・・ヤレヤレだぜwww」
そんな風にオタクが呟くと同時に、教室に一夏と少女が入ってきて席に着き、それに続いて織斑千冬が教壇に立った。
入学初日から授業があるらしく、オタクは分厚い辞典の様な教科書を取りだして授業を受ける姿勢を整えるが、暫くして一夏が教科書を持っておらず、間違って捨ててしまった事を白状すると、姉による体罰が一夏の身を襲う。
授業中は特にオタクも何かをするわけでも無く、大人しく授業を聞き、板書された事をノートに取りながら過ごしていたのだが、事は授業後のHRで起こってしまった。
「このクラスの代表を決めなければならん」
と織斑千冬が言うと、ノリの良い幾人かの生徒が織斑一夏を推薦すると発言し、一夏の抗議に耳を貸さない姉に向かって、今度は一夏がオタクを推薦すると言いだした。
「ふひっwwwコwレwはw予想外で御座るwww」
いきなりの事に草を生やすオタクが発言しようと挙手をした瞬間、窓際近くの席に座っていたセシリアから声が上がった。
「納得いきませんわ!」
この言葉の後、暫くセシリアによる不満の言葉が熟々と述べられ、それが日本に関する事にまで発展すると一夏が反論した。
「イギリスだって飯が不味い国、何年連続一位だよ!」
自分の先程までの発言を棚に上げる様に、一夏の発言に怒りを露わにして噛み付くセシリアは、遂に一夏に対して決闘を申し出るまでに発展してしまう。
当然の様に承諾する一夏であったのだが、その一夏に対する周囲の反応というのは、実に不愉快極まる物だった。
「織斑君、男が女に敵うはず無いじゃん」
「男と女が戦争したら男は三日も持たないって言うよ?」
「止めた方が良いよ、相手はイギリスの代表候補生だよ?敵うはず無いじゃん」
この時、一夏は周囲の嘲笑に対して不満を覚えるよりも悲しみを覚え、何よりも情け無い気持ちで一杯だった。
自身の生まれた国を馬鹿にされていながら、女だからと言う理由だけでセシリアに味方するような事を言うクラスメイト達に、同国の人間として恥ずかしいとすら感じたのだ。
「実に滑稽で御座るなwww」
そんな中で、ただ一人の同性のオタクの言葉を聞いた一夏は、更に悲しくなって鬱無意ってしまった。
しかし、その次の瞬間、オタクが続けて発した言葉に顔を上げて喜んだ。
「このクラスには日本人は拙者と一夏氏しか居ないようで御座るなwww」
「っ・・・小田」
それから、オタクは続けた。
「そもそもの話し、三日で男が負けるだの、男は女には勝てないだのと言うのは有り得ない話しですなwww」
「なっ!」
「諸君等は兵器という物を良く理解していない上に、過小に評価しすぎで御座るよwww」
オタクは笑って言いながら立ち上がると、言葉を続ける。
「この中にMBTの正面装甲厚を知っている人はいるで御座るかなwww」
オタクの発した言葉に、教室の女生徒達は互いに顔を見合わせて見るが、誰も答える事が出来ずにいる。
そんな、クラスメイト達をオタクは嘲笑って言った。
「具体的な数字は公表されていないで御座るが、凡そ200mm以上、対徹甲弾RHA換算で600mm程度と言われているで御座るwwwこの世に20cmの厚さの鉄板を両断出来る刃物が有るのなら見てみたい物で御座るなwww」
そう言われれば、何も言い返せなくなったクラスメイト達を一瞥して、オタクは更に言葉を重ねた。
「まあwwwそんな事は今は置いておくとして・・・祖国を馬鹿にされて言い返すどころか、声を上げた一夏氏を笑うなんて、到底、同国の生まれの者とは思えないで御座るな~w流石の拙者も草も生えないで御座るwww」
「・・・いや、生えてる生えてる」
「フヒヒwwwサーセンwww」
一夏の突っ込みに、頭を掻きながら笑って返すと、オタクはセシリアの方を向いた。
「良くも拙者の生まれた国を馬鹿にしてくれたで御座るなwww拙者、割と怒っているで御座るwww」
やはり笑いながら言うオタクだが、その言葉には言い知れぬ迫力が有り、思わずセシリアは気圧される様に後退ってしまう。
「そこまでにしろ馬鹿者」
「フヒヒwwwサーセンwww」
ここに来て、漸く口を挟んだ千冬に返すと、顔面に出席簿を喰らってオタクが床に沈んだ。
そして、オタクがのたうち回っている内に話しが纏められてしまい、オタクと一夏とセシリアの三人で模擬戦を行い決着を付ける事になった。
「オッフwww何というテンプレ展開www」