一夏の友人は常識人の夢を見る   作:hggj

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第二十話

 フランス南部地中海沿岸、フランス海軍の哨戒網を掻い潜り、空軍のレーダーにも見付からなかった三人は、暗闇の中に街灯りを見付けた。

 

「見えた!」

 

「ヨーロッパの灯で御座るwww」

 

 現在の三人の高度は、海面から僅か10mと言う超低空で、速度は陸地に近づいた事も有って時速150km程度まで落としていた。

 徐々に近づいてくる陸の灯りを前にして、不意に一夏が言った。

 

「所で、コレから如何するんだ?」

 

「デュフ?」

 

「・・・そう言えば」

 

 ここに来て、三人は思い至った。

 この後如何するかを全く決めていない事に、今気が付いたのだ。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「www」

 

 三人の間に嫌な沈黙が降りる。

 そうしている間にも陸は近付いてきている。

 だが、三人は黙ったままで進み続け、いよいよ上陸と言う時に、オタクが言葉を発した。

 

「私に良い考えがある」

 

 そう言って、ラウラと一夏に着いてくる様に言うと、オタクが先頭に立って速度を上げた。

 街灯りに対してやや北にズレながら進み、海岸直前で一気に高度を上げた。

 山の稜線を越えない程度にホップアップして、それから急降下を始めた。

 ラウラの故郷の魔王の如く、夜のフランスの空を一直線に流れて一際大きな敷地を持つ工場の様な場所へと向かう。

 そして、数秒後、オタクは敷地内のほぼ中央の広い道路に降り立った。

 

「ナイスランディングwww」

 

 ガリガリと言うけたたましい音と共に、足下のアスファルトを削りながら、100m程滑走して止まったオタクは、その直ぐ近くに降りたラウラを確認して、ある事に気が付いた。

 

「・・・一夏氏がいないで御座るwww」

 

 オタクが言うと、ラウラがそれに答えた。

 

「嫁なら、この先の建物に突っ込んで行ったぞ」

 

「オッフwww相変わらず、落ちるのが好きで御座るなwww」

 

 恐らく好きでやっている訳では無いと思うが、兎に角着地が下手な一夏は、何かにつけて物にぶつかったり、地面に激突する事が多い。

 

「査察はまだ来ていない様だな」

 

「その様で御座るな・・・」

 

 そう言いつつも、オタクはアサルトライフルとショットガンを取り出して構え、ラウラも手刀を構えて周囲を警戒した。

 

「・・・曹長」

 

「・・・なんで御座るか少佐殿」

 

「気付いているな?」

 

「勿論・・・どうやら、ここに用が有るのは拙者達だけでは無い様で御座るなwww」

 

 その次の瞬間、二人に対して激しい銃撃が始まった。

 

「っ!」

 

「www」

 

 二人は咄嗟に散開して飛び退いて、近くの倉庫らしき建物の物陰に隠れる。

 何者かの射撃に対して、直ぐさま火点を割り出したオタクがアサルトライフルで応射するが、襲撃者に打撃を与えた感触は感じられなかった。

 

「少佐殿は先に行くで御座るwww」

 

 オタクは謎の敵が射撃を止めて状況が膠着すると、直ぐさまラウラに声を掛けた。

 ラウラに先行する様に進めたのには、一夏を孤立させている現状を嫌い、また、今一状況にマッチしない使いづらいラウラを離脱させる思惑があった。

 

「大丈夫か?」

 

 先に行くように促すオタクを心配げに尋ねるラウラに対して、自信満々に答えた。

 

「モウマンタイで御座るよwww」

 

「・・・頼んだ」

 

 ラウラも、現状で自身が足手纏いになりかねないと言う事に気付いており、僅かながらに口惜しく思いながらも、愚を犯すのを避けてオタクの言に従った。

 ラウラからの返事を聞いて、オタクは直ぐさま物陰から身を乗り出して両手の銃の引き金を引いた。

 狙いなどは付けずに、敵の射撃の元と思われる地点に制圧射撃を加えて、ラウラの援護をしたのだ。

 

「今で御座るwww」

 

「すまない!頼んだぞ!」

 

 ラウラは、オタクに背を向けて夜の闇に向けて飛び込んで行き、それを確認したオタクは、暫くして射撃を止めて再び物陰に隠れた。

 

「さて・・・敵は何処の何奴だ?」

 

 オタクは冷静に頭を働かせて考える。

 先程の射撃からして、敵の数はそうは多くは無く、またそれ程離れてもいないと当たりを付けている。

 

「国連な訳は無い・・・フランス軍・・・違うな。なら、どっかのテロ屋・・・にしては装備が良い」

 

 思い当たる節は、全て自分で言って自分で否定した。

 そのどれもが余りにも可能性が低すぎて、言っていて自嘲の笑みを浮かべてしまう様な物だった。

 

『あ~あ~聞こえるかな?オタクくん』

 

 暗闇の中から何時ぞや聴いたスピーカー越しの女の声が響いてきて、オタクは眉間に皺を寄せて声を上げた。

 

「・・・このクソアマ!」

 

『ぶっぶ~そんな乱暴な言葉使いじゃぁ女の子にモテないぞオタクくん。あっ・・・そんなの関係無しにモテなかったね~ごめんごめんwww』

 

「人の笑い方パクってんじゃねぇよこの腐れアマ!」

 

 互いに姿を見せない状態で、尚も舌戦は続く。

 

「この間のハッキングと言い、よっぽど俺の事が嫌いなみたいだな」

 

『www気づいちゃった~?wwwそうなんだよね~束さんは君の事が大嫌いなんだ~www」

 

「奇遇だな。俺もお前の事が嫌いだよ」

 

『え~君と意見が合うなんて気持ち悪いな~思わず鳥肌が立っちゃったよ~www」

 

「なら、その皮膚剥いだらどうだ?二度と鳥肌が立たなくて済むぞ?序でに凶器みたいな顔が多少は増しになるだろう」

 

『www私不細工じゃねぇ~しwww美人さんだし~www』

 

「自分で自分の事を美人と言う女ほど痛い奴はいねぇなwwwお前友達居ないだろwww」

 

『・・・ッチ』

 

「如何した?図星突かれて何も言い返せないのか?www姉妹揃ってコミュ障ボッチとは流石だなwww」

 

『カッチーン・・・今のは流石の束さんも見過ごせないな~・・・ねえ・・・ちょっと頭冷やそうか?」

 

 次の瞬間、オタクの隠れていた倉庫に極太の光線が直撃して火柱が上がる。

 オタクは間一髪の所で攻撃を回避しており、煌々と輝く火柱の灯りで周囲を確認して、攻撃の主を見付けた。

 

「この前よりゴツくなってるな・・・」

 

 前回のゴーレムⅡと比べて、装甲が強化された機体は更に大きくなっており、両肩のビーム砲は前回の物よりも大型化されていて、威力はさっきの通り格段に上がっている。

 右手には大口径の機関砲を持ち、左手には前回同様にチェーンソーが備え付けてある。

 

『ふっふふ~ん!前よりも強くなったゴーレムⅡ改だよ~んwww君じゃあ倒すのは無理だねwww』

 

「・・・やってやろうじゃねぇか」

 

 篠ノ之束の言葉に、オタクはあからさまに闘志を燃やした。

 この二人、余程相性が悪いのか、互いの言葉の一つ一つに敏感に反応しては相手に対する憎悪と殺意を強めている。

 最早、水と油処では無く、濃硝酸と濃塩酸と言える程に不味い組み合わせだ。

 

『じゃあ、死んじゃえ』

 

 その言葉の後、ゴーレムⅡ改の攻撃が始まった。

 周りの物など気にしないと言わんばかりに両肩のビームを放ち、周囲の建物毎オタクを薙ぎ倒そうとする。

 

「っ!」

 

 しかし、オタクはこの砲撃を巧みな回避運動で躱すと、自身も反撃に出る。

 

「っらあ!!」

 

 取り敢えずアサルトライフルの連射を叩き込んで見るが、前回よりも強化された機体に対して20mm砲弾でさえ大した効果は無く、虚しく弾かれるだけだった。

 

「ッチ!」

 

 20mmが弾かれるや否や、オタクは直ぐさまスラスターを噴かして距離を取る。

 近づいて攻撃する事も一瞬考えはしたが、前回でさえ大した効果を上げなかったのだから、今回はより慎重に成らざるを得なかった。

 

『ニャッハッハ~!逃がさないよ~!』

 

 束の声が響くと、ゴーレムは右手の機関砲を構え、直後に強力な砲弾を嵐のように撃ち出してオタクを狙う。

 銃口から吐き出される機関砲弾はコンクリートの壁に当たれば風穴を開け、アスファルトの地面に当たれば爆ぜて凹凸を作り、樹木を掠めれば大きく抉って使い物に成らない燃えるゴミにした。

 

「30mm位だな・・・M230か?」

 

 オタクは機関砲の種類に当たりを付けつつ、建物を利用して隠れながら距離を離す。

 

「あのクソアマが馬鹿で助かった・・・」

 

 巧みな運動で束の攻撃から逃れたオタクは、独り言ちて対策を考える。

 

「残弾はまだ有るが・・・この程度じゃ利きそうに無いな・・・あの感じじゃミサイルも利かんだろうし、自己鍛造弾も口径が足りないな・・・」

 

 最早、万策尽きていると言えるほどに、オタクの武装では持て余す相手だった。

 

「何か・・・」

 

 そう言い掛けて、オタクはふと自分が隠れている建物の看板を見ると、ある単語が目にとまった。

 

「・・・実験装備・・・?」

 

 実験装備研究室、それが正しい建物の名前で有り、そこは、デュノア社が売り出す新装備の研究と試作を行っている場所だ。

 

「・・・行けるか?」

 

 と言った次の瞬間、オタクの目の前が爆ぜて、一瞬視界がホワイトアウトする。

 

「ぬおっ・・・!!」

 

 爆発の衝撃で弾き飛ばされたオタクに対して、巨大な人型の影が近づいてくる。

 

『み~つけた~』

 

「・・・」

 

『かくれんぼは、もう終わり?なら、次はプロレスごっこかな?』

 

 束の挑発する様な言葉に対して、オタクは身体を起こしながら言い返した。

 

「・・・へっ・・・どっちもお前が出来そうに無い遊びだ・・・独りぼっちのお前じゃ、出来ない事だなwww」

 

『・・・まだ、そう言う事が言えるんだ・・・』

 

 オタクの言葉に冷たい言葉を返しながら、束に操られたゴーレムがオタクの右腕を掴み上げて力を込める。

 

『わたしね~・・・実は、お人形遊びが大好きなんだ~・・・』

 

 そう束が言うと、ゴーレムの手に掴まれたダンボールの右腕が軋み始め、形状が変形し始める。

 

「ぐぅうううう!!」

 

 右腕を潰される寸前のオタクはそれでも声を上げまいと破を食いしばるが、無情にも、ゴーレムの力が更に上がる。

 

『アハハハハハ!!凄い顔だね~wwwまるで昔見た映画の主人公みたいwww!』

 

「っ!・・・悪趣味なクソアマめ・・・」

 

『う~ん?何か言ったかな?』

 

 オタクが吐き捨てる様に言うと、束はオタクの手を握る力を強めながら言葉を返した。

 

「ぐぁおおおおお!!」

 

 遂に耐えきれなくなってオタクが叫び声を上げる。

 そんなオタクをゴーレムを通して見ていた束は、笑い声を上げてオタクを振り回した。

 

『アハハハハハハハ!!やっぱりお人形さんは楽しいね~www・・・あっ!思い出したよ!昔見た映画、ランボーだ!』

 

 束は映画の名前を告げると、同時にオタクを地面に叩きつけた。

 

「グハッ!!」

 

 アスファルトに叩きつけられて、装甲が音を立てて凹み、完全に破壊された右腕の機械と装甲の中からは血の滲んだ腕が露出している。

 

「・・・クソったれ!!」

 

 オタクはこれ程に手ひどくやられていながらも戦意を失わず、残った左手のショットガンを構えてゴーレムに見舞う。

 

『今のは何?攻撃のつもりかな?』

 

 超至近距離であるにも関わらず、オタクの放った散弾は、しかし、全く効果は無く。

 束の馬鹿にした様な声が響くと、次の瞬間にオタクを強い衝撃と圧迫感が襲う。

 

「ぐあああ!!」

 

『そうそう・・・私、お散歩の時に虫けらを踏み潰すのも好きだったんだ~』

 

 ゴーレムは地面に仰向けになっていたオタクを踏みつけ、グリグリと地面に押し付けて、潰そうとしてくる。

 既にダンボールの真四角のボディーは完全にへしゃげて変形してしまい、塗装も剥げて地の鈍い金属の色が見えた。

 

『ねえ、今どんな気持ち?虫ケラみたいに踏みにじられて、このまま挽肉にされるのは、どんな気持ち?』

 

 意地悪く、悪辣な子供の様にオタクに声を掛けながら更に踏みつける力を強める束に、オタクは苦悶の表情を浮かべながら返す。

 

「死ね、このビッチ!!」

 

 オタクは有らん限りの力を振り絞って叫ぶと、太腿の自己鍛造弾を全弾発射する。

 突然の爆発に流石に体勢を崩したゴーレムは、一瞬だけオタクに乗せいていた右脚を上げてしまい、その隙を逃さなかったオタクは死力を振り絞って押し上げた。

 

「っらあああああ!!」

 

 オタクが立ち上がると同時に、ゴーレムが重々しい音と土煙を立てて地面に倒れる。

 

「っ!!」

 

 そして、オタクは、一縷の望みを掛けて半壊した実験装備研究室に飛び込んで、当たりを見回した。

 

「何か!何か無いか!?」

 

 焦って叫びながら見回すが、そこに有るのは先程のゴーレムの攻撃でスクラップと化した兵器だったものばかりで、使えそうな物が見当たらない。

 

『残念だったね~www』

 

 背後から、ゴーレムが起き上がってスピーカー越しの束の声が掛けられる。

 ゴーレムは両肩のビーム砲に紫色の光を集めて砲撃の準備を整えており、もはやオタクの命は風前の灯火だ。

 

「っ!!」

 

『ねえ、最後に言い残す事はあるかな?優しい束さんは辞世の句ぐらいは聞いてあげるよwww」

 

 勝利を確信して、束はそんな事を言って嗤う。

 それに対して、オタクは暗闇の中で、スクラップから何かを二つ拾い上げて振り向いて笑った。

 

「獲物を前に舌舐めずりは、三流のやる事だ間抜け」

 

 そう言ってオタクは左手で掴んだ物を構えて引き金を引いた。

 

『っ!?』

 

 一瞬、青白い稲妻の様な光が迸ると、二本のレールの間から眩い一条の光が走り、ゴーレムの胸を貫いた。

 

『なっ!?』

 

 束は驚きの声を上げつつも、ゴーレムを後に下がらせてオタクから距離を取り、直ぐにビーム砲を撃ってトドメを誘うとする。

 

「あめぇっ!!」

 

 ゴーレムの両肩のビームが迸る寸前、オタクはスモークを周囲に撒き散らして束を撹乱し、砲撃を躱した。

 

『っ!・・・隠れても無駄だよ!』

 

 束はミスを犯した。

 タダでさえ暗闇の中だと言うのに、更にスモークまで焚かれて視界が無いに等しいにもかかわらず、その中から出ようとも、回避行動を取ろうともせずに機関砲を目鞍に撃った。

 それは、視界の無い中で相手に居場所を教える様な愚行だった。

 

「そう言う時は身を隠すんだ!!」

 

『っ!?』

 

 オタクは、既にゴーレムの懐に入り込んでいた。

 モニターの向こう側の束の視界に忌々しいオタクの姿がアップで映されて、その右手、痛々しい傷だらけの右手に何か大きな物が握られているのが分かった。

 

「おらぁあっ!!」

 

 大きな筒状のそれは、恐るべき事にダンボールの機体とほぼ同じサイズであり、オタクがそれをゴーレムに叩きつける様に宛がうと轟音が鳴り響いた。

 その轟音と共に、筒の先から大きな杭が撃ち出されてゴーレムの装甲に当たり、装甲を撃ち貫いたばかりか、その奥の機械部分を衝撃で破壊し、反対側の装甲を内側から押し上げて弾き飛ばして吹き飛ばした。

 

「っつ~!!!」

 

 使った方のオタクは直ぐにその杭打ち機を取り落として右腕を押さえて苦悶し、使われた方のゴーレムⅡ改は、機能を全て止めて地面に倒れた。

 

「・・・首洗って待ってろ。この、クソッタレが」

 

 吐き捨てる様に言うオタクに対して、束からの返答は無く、ボロボロの勝者は残骸を踏みつけながら、近づいてくる三つの存在に気が付いて空を見上げた。

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