一夏の友人は常識人の夢を見る   作:hggj

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第二十一話

 オタクは酷く狼狽えていた。

 普段から余裕を持ったオタクからすれば、異様に珍しく動揺し、身体全身を震わせて平静を失っていた。

 

「・・・」

 

 オタクが狼狽える理由と言えば、それは、今、オタクの目の前に立っているシャルルの姿が原因だ。

 襲ってきたゴーレムⅡ改との戦いを終えて、辛うじで生き残ったオタクの目の前に一夏とラウラ、そしてシャルルが降り立ったのだが、その時にオタクは激しい違和感を覚えた。

 何かが変だ。

 何かが可笑しい。

 オタクの頭の中で、その違和感の正体を探る言葉が反響し、オタクが自身が三人を改めて見回すと、違和感は更に大きくなった。

 先ずは一夏を見た。

 白式の白亜の機体は、僅かに煤と埃で汚れていて着地の失敗を物語るが、それは何時もの事だ。

 次にラウラを見た。

 黒を基調としたカラーリングのシュバルツェアレーゲンは、別れる前に見た姿と殆ど変わりは無く、何も可笑しな所は無かった。

 そして、オタクはシャルルに目を向けた。

 オレンジ色をしたラファールリヴァイブのカスタム機、両手にアサルトライフルを握り、コレも普段通りの姿だったが、オタクはシャルルの姿に違和感を覚えていた。

 一体、何が可笑しいのかとジッとシャルルを見詰め続けた。

 普段通りの機体に、着替える時間が無かったのであろう私服姿は、しかし、大きな違和感を覚える要素など無い筈なのだが、やはり何かが可笑しい。

 オタクが気付いたのは、肩の出た白いワンピースを着ていると言う事と、ラファールの装甲に押し上げられた胸が女性らしい膨らみを持っていると言う事だ。

 ひたすらに現実逃避をして目の前の異常な事態から目を反らそうとするオタクに対して、シャルルが声を掛けた。

 

「・・・その・・・大丈夫?」

 

 普段よりも気持ち高めになった様なシャルルの声に、オタクは少し間を置いて答えた。

 

「だ、大丈夫で御座るよ・・・大丈夫だ。問題は無い・・・大丈夫」

 

 口許は覚束ず、視線はフラフラと定まらない。

 額に冷や汗を浮かべ、手脚が微かに震えて、言葉にも覇気が無い。

 誰がどう見ても大丈夫そうでは無いのだが、余裕が無いのはシャルルも同じ事だった。

 

「・・・えっと、騙すつもりは・・・いや・・・そんなのは言い訳だね・・・」

 

 シャルルは、言い掛けた言葉を告ぐんで、自嘲するように呟いた。

 そして、シャルルはオタクに向けた言った。

 

「僕・・・いや、私は、女の子なんだ・・・」

 

 その言葉はオタクの中で酷く大きく歪に乱反射を繰り返し、オタクは自分の生きてきた中でも五指に入るほどの衝撃を受けて思考を停止させた。

 

「本当はシャルロットって言うんだ・・・」

 

 シャルロットと言う名前だと言う自身の友人に、オタクは何と言って返すべきなのか、以前の千冬の言葉を思い出しながら、ただただ友人の姿を霞む眼で見詰め続けた。

 

「お、小田・・・その・・・シャルを責めないでやってくれ」

 

 一夏がオタクに声を掛けた。

 シャルロットを庇うその言葉に、オタクは、そこで初めて彼女の事を責めると言う発想が思い浮かび、そして、それまで思い浮かばなかったと言う自身の思考に気が付くと、一気に冷静さを取り戻した。

 

「大丈夫で御座るよwww拙者はもう大丈夫で御座る」

 

「タク・・・」

 

 少し心配そうにオタクを見るシャルロットに対して、オタクは笑顔で言った。

 

「さあ、早く終わらせて帰るで御座るwww拙者、猛烈にラーメンが食べたい気分で御座るwww」

 

「うん・・・」

 

「また、一緒に食べに行くで御座るwww」

 

「うん・・・!」

 

 涙を浮かべるシャルロットに言葉を掛けて、オタクはボロボロの機体を引き摺るようにして立ち上がった。

 

「随分酷くやられたな」

 

「デュフフフwww名誉の負傷で御座るwww」

 

 一夏に言葉を返して、オタクは辺りの惨状を見回した。

 

「コレは色々不味いで御座るなwww」

 

 笑いながら言ったオタクに、ラウラが言葉を被せる。

 

「既にフランス軍も動きを掴んでいる筈だ。このままではデュノアの不利になる」

 

 それだけで無く。

 この状況を見付かればオタクの存在や、ドイツ軍の動きも知られる事になり、そうなればフランスは鬼の首を取ったが如く、日本とドイツの両国を激しく追求するだろう。

 事実としてオタクをフランスに送り込んだ事やドイツ軍も秘密工作を行っていた訳だから、フランス国内の実態などを完全に棚上げして両国に対する主導権を取る事が出来る。

 日本とドイツはフランスに対して反論も何も出来なくなるのだ。

 

「どうすんだよ!このままじゃやばいぞ!」

 

 事態を漸く理解した一夏が狼狽える中、オタクはラウラに顔を向けて話し掛ける。

 

「少佐殿」

 

「何だ」

 

「ISコア一個でドイツ軍は納得出来ますかな?」

 

 オタクの突然の発言に、ラウラは少し驚きつつも思案して答える。

 

「・・・少し利が薄いが行けるだろう」

 

 ラウラの返答を聞くや否や、オタクはシャルロットに訪ねる。

 

「お父上はいらっしゃるで御座るか?」

 

 オタクの問い掛けに、シャルロットは直ぐに答える。

 

「うん。父さんなら家にいるよ?」

 

「デュフフフwwwでは、お父上に挨拶に行くとするで御座るwww」

 

「えっ!?」

 

 驚いて固まるシャルロットを余所に、オタクはボロボロの機体に鞭を打って大破したゴーレムに近づくと、その機体の中からコアを抜き取り、そして宙に浮かんだ。

 オタクに続いてラウラも浮き上がり、二人は揃って夜の空に消えて行く。

 一夏も二人に続いて行こうとするが、シャルロットが動こうとしないのに気が付いて動きを止める。

 

「如何したんだ?」

 

 一夏がシャルロットに訪ねると、彼女は俯きがちで一夏に答える。

 

「僕は、このままタクの側に居ても良いのかな・・・」

 

 一夏はシャルロットの言葉を聞いて、自信満々で答えた。

 

「勿論。アイツが細かい事を気にする訳無いだろ」

 

「そうなのかな・・・?」

 

「そうだよ。アイツは、シャルを助けるために密入国までしてきたんだぜ?それが今更シャルが女だった位で変わるかよ」

 

 シャルロットはオタクが密入国してきたと言う事を聞いて驚きを顕わにし、それから今までのオタクを思い出して、頷いて言った。

 

「そうだね・・・僕が馬鹿だったな・・・もっとタクを信じれば良かった」

 

 そう言って笑みを受け下手シャルロットは警戒に宙に舞って一夏に言った。

 

「さあ、一夏!早く行こう!」

 

 今や待ちきれないと言う様子のシャルロットに、一夏は苦笑してその後をおって空を駆ける。

 先に行った友人達が何をしているのかは分からないが、それでも、可笑しな事には成らないだろうとそう思って闇夜を進んだ。

 そして、屋敷に着いて、オタクのいる場所へと辿り着いた一夏は、先程の考えを改めた。

 

「フンぬっ!!」

 

「ぬおおおおおお!!!」

 

 無駄に広い屋敷の一角で、一夏がその部屋に入ると、最初に目に入ったのは半裸で組み合う二人の男の姿だった。

 

「僕は今、何を見ているんだろう・・・」

 

 光を失った瞳で二人の男を見詰めるシャルロットは、笑顔の消えた顔で呟いた。

 

「・・・」

 

 ラウラは、無言で全く身動ぎもせぬままに、男達を見詰め続け、その隣に移動した一夏は、この余りにも混沌とした状況で如何すれば良いのかと頭を抱えた。

 

「ふんっ!!」

 

「おおお!?」

 

 三人を余所に組み合う二人は互いに力を込め、相手を持ち上げ、組み伏せ、圧倒しようと二の腕に血管を浮かび上がらせている。

 片や日に焼けた逞しい巨体と此方長身に程よく鍛えられた色白の男。

 二人の勝負は圧倒的に体格で勝る巨体のオタクが優勢の様に見えるが、色白の男、シャルロットの父アルベールも額に汗を浮かべ、見える範囲の身体の全身に血管と筋肉の筋を浮かび上がらせてオタクに対抗している。

 

「やらせはせん!!やらせはせんぞ!!」

 

「おおおおおお!?」

 

 がっぷり四つ手でオタクに向かうアルベールが叫ぶと、オタクの意表を突いて腰を捻ってオタクを倒そうと動く。

 オタクはアルベールの予想外の力に驚き、右脚を上げてバランスを取るが、アルベールは更に圧力を増してオタクを押し込んだ。

 

「貴様の様なトロルに娘はやらんぞ!!」

 

 アルベールが叫んだ。

 力の限りにオタクに向かって叫んでオタクを押した。

 しかし、オタクはそこで持ち堪えた。

 

「ぬんっ!!」

 

「ぐおっ!?」

 

 持ち上がっていた右脚を強引に地に着けると、逆にアルベールの方が体勢を崩して呻いた。

 

「話を聞け!!」

 

 オタクは叫びながら強引にアルベールを引き離した。

 

「落ち着いて話を聞け!!」

 

 アルベールに落ち着くように促すと、アルベールはオタクに向いて言った。

 

「俺は騙されんぞ!貴様、俺の娘に何をしようと言うのだ!!」

 

「どうもせん!!」

 

「嘘だっ!!」

 

 アルベールの一喝に、オタクは気圧されて口を噤んでしまう。

 その間に、アルベールがオタクに烈火の如く怒りの言葉を吐き出した。

 

「魂胆は分かっているぞジャポネーズ!!貴様、言葉巧みに娘を誑かして、娘に破廉恥な事をするつもりだろう!!」

 

 何かを誤解しているのか、オタクに怒鳴り付ける。

 

「俺は知っているぞ!!貴様の様な醜いトロルの様な奴が、美しい少女をあの手この手で堕落させて、その内ビデオレターを送ってくると!!」

 

「それは同人誌の話だ!!」

 

「騙されんぞ!!くっ!殺せ!!と言う美しい女性を陵辱し、最終的にはアヘ顔ダブルピースでボテ腹の落書きだらけの汚らしいメス豚にした挙げ句、最後には無惨にも捨て置いて他の女の下に行くのだろう!!ゆ、許さんぞ!!俺の可愛いシャルロットにそんな無体は許さんぞ!!」

 

 奇妙な程に偏ったイメージを持ってオタクを糾弾するアルベールに、オタクは何時ぞやを思い出していた。

 

「お前ら欧米人はドイツも此奴も・・・」

 

 苦々しく呟くオタクを余所にアルベールは更にヒートアップして言葉を続けた。

 

「まさか・・・シャルロットのみならず私の炉前だまで・・!!ならん!ならんぞ!!妻をNTR事は断じて許さんぞ!!」

 

「勝手に盛り上がるんじゃねぇ!!」

 

「夏○か!?エ○フか!?ア○ゾ○スかぁ!!・・・まさか・・・にっ○さん○ょうなのかぁ!!」

 

「サークル名叫ぶの止めろ!!マジで止めろ!!」

 

「許さん・・・許さんぞ!!」

 

 勝手に自分で行っていて、勝手に怒りを募らせたアルベールは再びオタクに掴み掛かった。

 アルベールはオタクの後頭部の辺りを左手で掴むと、容赦なしにオタクの顔面を殴る。

 流石のオタクもこのアルベールの攻撃にキレて、同じようにアルベールの顔面を殴り返す。

 その後も二人は高山VSドン・フライ宜しくノーガードで殴り合い、二人とも顔が変形するほどになった頃に崩れ落ちた。

 

「嫁よ」

 

 そんな二人を憮然と眺めていた一夏に、ラウラが声を掛けた。

 

「何だ?」

 

「本部とは既に話が付いた。色々と工作も済ませたから、後は帰るだけだ」

 

「そうか・・・」

 

 この後、何だか締まらない内に一夏はオタクを回収し、後の事後処理を済ませたら学園に戻ると言うシャルロットの言葉を信じて場を去った。

 オタクと束が暴れ回った所為で国連の査察団は有用な証拠を発見できずIS委員会を崩すには至らず、また、所属不明のISの侵入を許したフランス政府の不備をデュノア社が追求した事で、世論が動き、済し崩し的にデュノア社は息をつないだ。

 ドイツとしても、新たなコアを秘密裏に入手すると共に、火事場泥棒的にフランスを非難する事でEU内での発言力を維持する事に成功した。

 そして、シャルロットはこの一週間後に学園に戻って日常が取り戻された。

 尚、アルベールとオタクの顔面は一ヶ月以上も崩壊状態だった。




最後適当に成ってしまいました。
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