一夏の友人は常識人の夢を見る   作:hggj

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第二十二話

 シャルロット・デュノアが女生徒として学園に戻ってから一週間が経った頃、一夏は深刻な表情でオタクに相談を持ち掛けた。

 

「悪いな・・・呼び出しちまって」

 

「www気にしないで御座るwww」

 

 人気の無い屋上のベンチに腰掛けて、一夏がオタクに軽く侘びると、オタクは笑って気にしないと言う。

 二人は一夏の用意した缶コーヒーを一口呑んでから話を始めた。

 

「実は・・・鈴の事なんだけど・・・」

 

「ほう?」

 

「最近、鈴の様子がおかしいんだ」

 

 オタクは一夏の口から出た知人の事を思い浮かべながら話を聞く。

 

「鈴がスマホばかり見ていて、心ここにあらずって感じなんだ・・・」

 

「スマホで御座るか・・・」

 

「ああ・・・鈴の同室の子からも言われたんだけど、夜中もスマホを弄っているそうなんだ」

 

「夜も・・・何をしているのかは分かっているので御座るか?」

 

「いや・・・ただ、時々変な笑い方をしているらしい」

 

 要領を得ない話の内容だったが、オタクにはある一つの可能性が頭に浮かんでいた。

 それを確かめる為に、オタクは一夏に尋ねた。

 

「・・・鈴ちゃん、最近コンビニに頻繁に言ったりしていないで御座るか?」

 

「あ~・・・そう言えば・・・クラスメイトの子が日曜日にコンビニから出てくる鈴を見たって言ってたな・・・」

 

「何を買っていたかは分かるで御座るか?」

 

「そこまでは・・・小さな袋だったとは言っていたな」

 

「小さな袋」

 

 オタクはこの時点で鈴の陥っている状況が把握できた。

 そして、それは彼女の身を破滅させかねない危険な事だとも分かった。

 

「どうすりゃ良いんだ・・・」

 

 頭を抱える一夏に、オタクは肩を叩いて言った。

 

「取り敢えず本人に会ってみるで御座る」

 

 そう言って、オタクは一夏を連れて鈴の下へと向かう。

 まだ取り返しの付かない事に成っていない事を願いながら、教室へ急いだ。

 

「居た」

 

 2組の教室の席で、鈴はただ一人黙々とスマホの画面に向かって居た。

 イヤホンを着けて画面を見詰め、時折指を動かしては緩んだ表情で笑う。

 そんな鈴の様子に、クラスメイト達も異様な物を感じ取って居るのか、誰一人として彼女に近づこうとはせず、遠巻きに見ているだけだった。

 

「一体何が・・・」

 

 一夏が呟くのを背に、オタクは真っ直ぐに鈴の下へと向かうと、不意に彼女のスマホを取り上げた。

 

「ああ!!何すんのよ!!このクソ豚ぁ!!」

 

 スマホを奪われた鈴は烈火の如く怒り、オタクに向かって罵倒しながらオタクが掲げる様に取り上げたスマホを取り返そうとする。

 

「返しなさいよ!!返せ!!返せ!!返せ!!!」

 

「鈴!!」

 

 一夏は鬼気迫る鈴の様子に驚きながらも、彼女に声を掛けてオタクに加勢する。

 

「止めるんだ鈴!落ち着け!!」

 

「五月蠅い!!」

 

 どうにか彼女を落ち着かせようとする一夏だが、鈴には一夏の声など届いてないらしく、一喝してオタクに向かう。

 

「早く!早く返せ!!この豚!!挽肉にすんぞゴラぁっ!!」

 

「・・・」

 

 オタクは何と言われようとも黙って鈴のスマホを取られない様に死守する。

 

「鈴!!」

 

 一夏は遂には暴力を振るおうとする鈴を止めるために、彼女を後から羽交い締めにするが、鈴はそれでも暴れて、ただスマホだけを見詰め続けた。

 

「クソッ!誰か!手伝ってくれ!!」

 

 一夏が教室の生徒達に呼び掛けると、数人が応じて鈴に近づいて彼女を抑える。

 しかし、それでも鈴は暴れて抜け出そうとした。

 

「何を騒いでいる!」

 

 そこへ、千冬が騒ぎを聞きつけて教室に入ってくる。

 

「千冬姉!!」

 

「何だコレは?」

 

「頼む手伝ってくれ!!」

 

 状況が飲み込めない千冬に、一夏が助けを求めると、千冬は困惑しながらも鈴を抑えている一夏に加勢して、鈴を取り抑えた。

 

「キィエエエエエエエエエエエエ!!!!」

 

 千冬に取り抑えられて暫くすると、鈴は奇声を上げて痙攣し、そのまま失神してしまった。

 

「鈴っ!?」

 

「な、何なんだ・・・」

 

 一夏は鈴を心配して呼び掛け、千冬は唖然として呟いた。

 

「やはりで御座ったか・・・」

 

 オタクは自分の推測が当たっていた事にしみじみとして呟き、そんなオタクに千冬が話し掛ける。

 

「一体何があったのか説明しろ」

 

 そう言われて、オタクは千冬に鈴の持っていたスマホを渡して言った。

 

「ソシャゲで御座る」

 

 

 

 

 

 

 ソシャゲ、ソーシャルゲームの省略で、この言葉が使われる場合は、殆どがスマホ専用のゲームアプリである。

 嘗て、スペースインベーダーが登場した当時はゲームとは大型の筐体の物を指して居たが、後にゲームは進化してファミリーコンピューターが登場し、その後、セガ○ターン、プレ○ステー○ョン、任○堂64等の往年のベストセラーを経て、遂にはXB○X○neやP○4と言った最新ハードにまで進化した。

 ゲームは時代を経てプラットホームを変え、パソコンが進歩してからはパソコン専用のゲームが開発され、インターネットが普及してくるとインターネットゲームが流行した。

 そして、スマートフォンが世に出ると、当然の如くスマホゲームやゲームアプリが登場し、スマホゲームは爆発的に流行した。

 だが、その影では、とんでもない問題が発生していた。

 

「それが課金で御座る」

 

「課金?」

 

「スマホゲームの殆どは、基本無料と謳いながら、実態はユーザーから金を搾取するために有ると言っても過言ではないで御座る」

 

「そうなのか?」

 

 教室での騒ぎから一夏、千冬、オタクの三人は医務室に場所を移し鈴も、ベッドの上に横たわって寝息を立てている。

 目を瞑って深く眠る鈴は、その目の周りに黒く深い隈を作っており、頬も僅かに痩けていた。

 そんな彼女の横で、オタクは千冬と一夏に今回の一件の原因で有るスマホとスマホゲームの説明をしている。

 

「恐らく鈴ちゃんは課金兵に成ってしまったので御座る」

 

「課金兵?」

 

 疑問符を浮かべる一夏に、オタクはスマホの画面を突き付けて言う。

 

「鈴ちゃんがやっていたのは、このスマホ専用ゲーム・・・ドキッ!私の夢の王子様!イケメンだらけの学園天国。で御座る」

 

「何なんだ、その頭の痛くなるタイトルは・・・」

 

 疲れた様に、千冬は額に右掌を当てて言った。

 

「このゲームは主人公の女の子がイケメンだらけの学校で、理想の王子様を見付けると言うストーリーで、特徴的なのは攻略対象の多さで御座る」

 

「何人居るんだ?」

 

「軽く100人はいるで御座るが、その全てが重厚なシナリオと人気声優のフルボイス仕様で、様々なタイプのキャラクターで幅広い層を取り込んでいるで御座る」

 

 そう言って、オタクは少しスマホを操作すると、スマホから音声が出る。

 

『お前の事しか、俺には見えないんだ』

 

「俺!?」

 

「一夏か!?」

 

 スマホから流れた音声は一夏の声で、非常に甘い台詞を吐き出した。

 それに驚いて一夏と千冬が声を上げるが、オタクは説明をする。

 

「この鈴ちゃんの攻略していたキャラクターは、一夏氏と非常に声が似ているので御座る・・・そして、鈴ちゃんは、このゲームのこのキャラの事を知り、攻略のために課金兵に成ってしまったので御座る」

 

「さっきから言っている課金兵って何だ?」

 

 一夏の問い掛けに対して、オタクは目を伏せて、苦しげに説明する。

 

「課金兵・・・いや・・・鈴ちゃんは既に廃課金兵の領域に達しているで御座るな・・・」

 

「廃課金兵?」

 

「射幸心を煽られ正常な金銭感覚が麻痺してしまい、Sレアを見ると体が勝手に動いてしまう悲しきDummy Boy・・・毎月の課金額は5万コインを超える。コンプガチャを安いと思い始める危険な精神状態・・・それが廃課金兵」

 

「真耶?」

 

 医務室の扉を開けて、山田真耶が廃課金兵の説明をしながら入ってくる。

 そんな彼女に、オタクは何かを感じ取って言った。

 

「真耶氏も・・・?」

 

「・・・はい・・・私は、嘗て廃課金兵と言われていました」

 

「一体何処で多々買って?」

 

「・・・プロデューサーでした・・・」

 

「・・・真耶氏もで御座ったか・・・」

 

「小田君も?」

 

「国外追放を受けた身で御座る」

 

「そうでしたか・・・」

 

 妙亜通じ合い方をする二人に、千冬が割り込んでオタクに声を掛ける。

 

「それでだ・・・この社会不適合者になりかけの小娘を如何したら更生出来る」

 

「かなりの荒療治になるで御座るが・・・」

 

「構わん。あらゆる手段を実施しろ」

 

 この千冬の一言により、一夏とオタクによる鈴の更生作戦が開始された。

 その第一段階として、同室の生徒の協力の下、買いだめされていた課金カードを全て没収した。

 カードは千冬の預かりとなり、鈴には一夏とオタク、そしてクラスメイト達による24時間体制での監視が行われる。

 

「ここまでする必要が有るのか?」

 

 一夏の疑問に対して、この作戦を主導するオタクは淡々と答える。

 

「絶対に必要で御座る。鈴ちゃんは今、瀬戸際にいるで御座る」

 

「瀬戸際?」

 

「人として生きていくか、それとも、獣として人外の道を歩くかの瀬戸際で御座る・・・もしも、今、放置すれば確実に道を踏み外してレッドショルダーに成ってしまうで御座る」

 

 レッドショルダー、家計簿が常に赤字で収支グラフが常に右肩下がりの為に、こう呼ばれる人の道を踏み外した存在で有る。

 

「拙者の友人にもレッドショルダーに成ってしまった男が居たで御座る・・・」

 

「その人はどうなったんだ?」

 

「不運と踊っちまったで御座る・・・」

 

 そう言ったオタクの背中には哀愁が漂い、一夏はそれ以上は何も言えなかった。

 そして、翌日、鈴の更生は暗雲の立ち込める始まりだった。

 

「課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金」

 

 朝から一切の課金を禁じられた鈴は、ゲームのストーリーを進める事が出来なくなり、暗い目で譫言の様に呟いて体を前後に揺する。

 

「基本無料なら課金しなくても進められるんじゃ無いか?」

 

 と言う一夏の疑問に、オタクが答える。

 

「このゲームはかなり阿漕な部類の様で御座る」

 

「と言うと?」

 

「次の話に進むにはステージをクリアして、ボスを倒さないと行けないので御座るが、その為にはキャラの好感度を上げて強化しなければ成らないので御座るが、その為にはキャラクターと同じカードをガチャで入手する必要が有るので御座る」

 

「うん」

 

「ガチャは一日一回、無料で回せるので御座るが、そこで手に入るのはノーマルのカード一枚だけで、コレでは到底強化するのんに足りないで御座る。更に言えば、元が強力なSRを揃えなければ幾ら強化してもボスは倒せず、またSRも進化させるためには同じカードが複数必要で御座る」

 

「じゃあ、何度もガチャを回さなければ行けないんだな」

 

「鈴ちゃんのお目当てのキャラはSSR特典以外で手に入る最高峰のカードの一つで、入手確立は通常のガチャではほぼ0パーセント。SRガチャでも1パーセントに満たない位で御座る」

 

「一体何回ガチャすれば良いんだ」

 

「出るまでとしか言い様が無いで御座る・・・それに、ステージも進めるにはゲージを消費して進めなければ成らないで御座るが、このゲージは時間経過で回復するタイプで、大体一日で二度満タンに成る程度で御座る。それに対してステージ攻略には今のレベルでゲージ4本分位が必要で御座る。鈴ちゃんは課金でゲージを回復していたようで御座る」

 

「それって、幾ら金が有っても足りないんじゃ・・・」

 

「正にその通りで御座る・・・このゲームは現代のソシャゲ界における負の面の集大成と言うべきゲームで、人から金を巻き上げるためだけに存在している様な物で御座る・・・これ程悪質なのは拙者も初めてで御座る」

 

 ここに至って、漸く事態の深刻さを完全に理解できた一夏は、幼馴染みを心配そうに見詰めた。

 

「課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金課金」

 

 一夏の心配を余所に、鈴の症状は悪化の一途を辿るばかりで、放課後に気分転換に一夏がアリーナでの自主練に誘うと虚ろな目で頷いて力無く歩き出した。

 そして、アリーナでは、鈴は観戦席に座ってラウラとシャルロットの格闘訓練を見学していた。

 

「・・・」

 

「かなり参っているで御座るな・・・」

 

「何か可哀想になってきたぞ・・・」

 

「駄目で御座る・・・ここまで来て油断すれば取り返しの付かない事になるで御座る・・・」

 

 小声で話す二人を余所に、鈴はアリーナでの訓練を眺めて、ボソリと呟く。

 

「課金・・・」

 

 シャルロットがナイフを取り出し、ラウラも手刀を構えて二人の近接戦の訓練が激しさを増すと、両者の刃が打ち合わされるのに合わせて鈴も呟く。

 

「課金・・・課金・・・課金」

 

「おい・・・鈴の奴、金属音が課金て聞こえてるぞ・・・」

 

「コレは・・・」

 

 オタクは、鈴の症状が予想以上に酷いものだと気が付くと、鈴に近づいてこの場から移動させようとした。

 だが、それは一足遅かった。

 

「鈴ちゃん、移動仕様で御座・・・」

 

「課金!!!」

 

 息なり鈴は起ち上がって叫ぶと、甲龍を展開して暴れ出した。

 

「白式!!」

 

 オタクが鈴の衝撃砲でミンチにされる寸前、一夏が白式を展開してオタクを庇うと、直ぐに鈴から距離を取った。

 

「大丈夫か?」

 

「何とか大丈夫で御座るよ・・・それよりも」

 

 鈴は正気を失った様に唸り声を上げ、周囲の物を手当たり次第に破壊してアリーナを飛び出してしまう。

 

「一夏氏は早く鈴ちゃんを止めに行くで御座る。拙者は避難誘導をするで御座る」

 

 一夏は何も言わずに鈴を追って飛び出した。

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