『オタ曹長聞こえるか』
「聞こえているで御座るよ大尉殿」
『此方も感度良好だ。今回の協力に感謝するぞ曹長』
「デュフフフ構わないで御座るよwww拙者も楽しんでいるで御座るwww」
『そう言って貰えれば助かる』
無線機越しにクラリッサと遣り取りをするオタクは、寮の一夏の私室の前に来ていた。
「では、コレから入るで御座る」
『了解した』
そう言ってオタクがドアノブを掴んで捻るが、扉は開かない。
「鍵が掛かっているで御座る」
当然と言えば当然である。
今日日、田舎の岩手の山奥の家にすら鍵は掛けられているのだから、学園内とは言え、寧ろ鍵が掛けられていない事の方が異常である。
『き、期待させておいて・・・この仕打ちは何ですの!?』
「およ?」
突如として、無線機から聞いた事のある何処かの戦隊長の様な声が聞こえてきた。
「そこにセシリア氏がいるで御座るか?」
『ああ・・・と言うより』
『曹長』
「少佐殿?」
『何故ここにクラリッサが居るのかは分からんが、取り合えず主立った者は全員居る』
「一夏氏はほっといて良いので御座るか?」
オタクが尋ねると、再び無線の向こうの声が変わって答えが返ってくる。
『一夏なら今は織斑先生に掴まってるよ』
「おっふwwwデュノアしまでwww」
花澤ボイスを耳にダイレクトに伝えられたオタクは、余りお見せできない類いの動きを見せているが、彼女達には伝わっていない。
「じゃあ・・・コレから鍵を開けるで御座る」
『じゃあ・・・コレから鍵を開けるで御座る』
「頼んだオタ曹長」
場面は変わり、食堂の一角で何時ものメンバー+クラリッサが無線機を操作して、オタクからの報告を待つ。
その間に、ラウラがクラリッサに尋ねる。
「何故クラリッサが居るのだ?」
「実は陸上自衛隊と欧州軍との合同演習の企画が我がドイツ陸軍で持ち上がっていまして。今回はその事前視察と自衛隊側との連絡のために随行してきました」
「自衛隊と演習だと?」
「はい。今後、陸上自衛隊が活発に海外での活動を増やす事になれば、欧州NATOとの協調が必要不可欠となります」
「そうだろうな」
「しかし、自衛隊は米軍などとの訓練は活発ですが、特に陸上自衛隊と欧州軍の連携不足が以前から指摘されていました」
「確かにな」
「そこで、今回ドイツ陸軍が中心となって陸上自衛隊との連携強化を発案、これにフランス軍とイギリス軍が賛同して日本に打診、陸上自衛隊側もコミュニケーション不足を感じていたようで、中々に好感触でした」
『対テロ戦闘に関して一日の長がある欧州のノウハウを学ぶ機会はとても貴重で御座るからな、単純な連携強化と言うよりも、相互にノウハウの吸収したいと言うのも理由の一つで御座ろうな』
クラリッサとラウラの話し合いに、オタクが割り込んで補足してくる。
「開いたのか?」
箒がオタクに尋ねた。
『www箒氏もで御座るかwww開いたで御座るよwww』
一体どうやって開けたのかと言う疑問が全員の頭に浮かぶが、今は気にしない事にした。
『では、入るで御座る』
全員が唾を呑み込んだ。
それから暫く無言が続き、好い加減に反応が無い事に業を煮やした鈴が、無線を取って呼び掛ける。
「ちょっと!何か言いなさいよ!」
「そうですわ!早く何か情報を!」
『・・・』
二人の呼び掛けの後も聞こえてくるのは僅かなノイズだけだった。
何か有ったのか、失敗したのかと思いかけたその時、漸く無線からオタクの声が聞こえた。
『・・・すまなかったで御座る。少し不測の事態があった物で』
「不測の事態?大丈夫なのか曹長」
『大丈夫だ問題ない』
「なら良いが・・・」
ラウラがオタクの身を按じて声を掛けると、問題が無いと言う返答が返ってきた。
そんな、二人の遣り取りを聞いていたシャルロットが、割り込むように呼び掛ける。
「それで、部屋の中の様子はどう?」
『え~と、綺麗に片づいているで御座るな。男鰥とは思えないで御座る』
オタクの答えが返ってくると、箒と鈴が納得する様に声を出す。
「アイツは昔から掃除片付けが好きだったからな」
「ホント、女子よりも女子力が高いというか」
「あははは、昔っから何だね一夏は」
思わず昔話に花が咲きそうになるが、ここでクラリッサがオタクに向かって命じる。
「ではオタ曹長、先ずはベッドの下を探ってみてくれ」
『了解で御座るwww』
ベッドの下、そのワードが出た瞬間に全員の意識が無線機のスピーカーに集中する。
そこにナニが有るのか、誰もが固唾を呑んでオタクの報告を待った。
「どうだ?何かあるかオタ曹長」
『え~と・・・おっ!?』
反応があった。
「何だ!?ナニが有った!?」
「言いなさい!早く言いなさい!」
一番に飛び付いたのは箒と鈴だった。
若干、必死すぎて痛々しい感じもするが、当の本人達は気にしている余裕など無く、他の者も、何だかんだで気にっていた。
『え~、先ずは・・・』
「先ずは?」
『○イ○チ5月号』
「バ○キ○5月号?何だそれは?」
バ○○チとは言わずと知れたバイク雑誌、主にアメリカンバイク系の情報雑誌である。
『中々渋い趣味で御座るが、確か休刊の筈で御座る』
「そうなの?」
『確か2017年で休刊した筈で御座る。拙者も学生時代に愛読していたで御座る』
「他には無いのですか?」
『え~・・・』
また暫く待つと、再びオタクが声を出した。
『メ○ズ○ン○この春を逃すな、最新最前線トレンド。後は、月○ニュ○タ○プ』
「何か統一感が無いな」
「一夏もファッションとか興味あるんだね・・・タクはそう言うの興味ないの?」
『余りないで御座るな・・・主にスーツ以外はワークパンツかカーゴパンツしか着ないで御座る』
「それだけ?」
『一応チェックのシャツとGパンも持っているで御座るよ』
中々、アレなオタクの私服事情が分かった所で、更なる情報が齎される。
『およ?奥に何か?』
その瞬間乙女達が色めき立った。
コレまでの普通?な雑誌の更に奥に有ると言うことは、もしかするとお宝かもしれない。
そんな期待感を膨らませてオタクからの報告を待った。
『取れたで御座る』
「なんて書いてあるのだ?曹長」
「え~・・・薔○族・・・』
「「「「「ゑ?」」」」」
「ブフッ!」
オタクのやや震えた声が返ってくると、クラリッサが鼻血を吹き出し、残りの五人が呆気に取られた顔をさらした。
「ば、○薇族?」
『・・・1987年2月号で御座るな・・・』
「87年2月号・・・だと!?」
興奮した様子のクラリッサの鼻からは、出てはいけない量の血潮が吹き出している。
しかし、五人にとってそんな事は些末な問題だった。
「薔薇○って・・・あの」
「・・・ゲイ雑誌だな・・・」
「ふ・・・古いのだから・・・最新の物じゃ無いから・・・」
鈴の精一杯の自分に対する言い訳を余所に、オタクから更なる報告が上がる。
『言い辛いで御座るが・・・最新号もあったで御座る・・・』
沈黙が降り立った。
「・・・」
「つ、次に行こう」
「そ、そうね・・・見なかった事にしましょう」
「ですわね・・・」
「だな」
「曹長・・・その本を戻して次に行ってくれ」
『了解・・・拙者はどう言う顔をすれば良いのか・・・』
全員見て見ぬ振りをすると言う事で落ち着いて、それから暫くしてからオタクからベッドの下にはこれ以上は何も無いと言う報告が入った。
ここに来て、彼女達は何処を捜せば良いのかと言う疑問に直面し、頭を悩ませた末にシャルロットが妙案を思い付いてオタクに頼む。
「タク?」
『何で御座るか?』
「タクなら何処に隠すの?その・・・エッチな本って」
『・・・』
再び無線の連絡が途絶えた。
同性ならば分かるのでは無いかと言う質問は、ともすればオタクの隠し場所も露呈する危険の孕んだ遠回しなオタクへの攻撃であり、オタクは自分の隠し場所を露呈することを多いに恐れた。
「・・・なにも言いませんわね」
「ちょっと攻めた質問だったんじゃ無い?」
「よく考えれば、あの豚の秘密を明かせと言っている様な物だしな」
「まあ、アイツの事なんて興味ないけどね」
「・・・」
『・・・見付けたで御座る』
漸く、オタクから再びの報告が入る。
その報告に早速飛び付いたのがセシリアだった。
「それで!どんな本が有ったのですか!?」
『あ~・・・え~・・・先ずは』
「先ずは?」
『二○元ド○ーム○ガジ○とコミ○ク○ン○ア○が何冊かと・・・コ○ックL○もあったで御座る』
○ミッ○L○、その名前が出た瞬間に、セシリアの前身が総毛立った。
「○ミ○ク・・・L○・・・ですの?」
『そうで御座る。L○で御座る』
「なに?そのL○って?」
「何かの省略か?」
この場に置いて、L○に反応したのはセシリアと鼻血を垂らして倒れているクラリッサの二人だけだ。
他の四人は何の事なのか分からない様子で、疑問符を浮かべる。
「曹長、L○とは何なのだ?」
戦慄した。
セシリアは咄嗟にラウラの耳を塞いでオタクに向かって叫んだ。
「ダメですわよ!言ってはいけませんわ!」
『・・・了解で御座る』
今、この場に置いて優位に立っているのはラウラと鈴の二人だ。
本人達が気付いていないだけで、この二人は現状で最も目的に近い存在になってしまった。
それはL○がある特殊な形質の趣向を持った人物を対象にした漫画雑誌だからに他ならない。
その形質に当てはまるのがこの二人なのだから、知られる訳にはいかなかった。
「ほ、他に何か無いんですの!」
『・・・見付けたで御座る』
再びの発見報告に場が色めき立った。
『え~・・・娘○Y○E、わ○い、後は・・・おっ!』
「如何したの?」
『同人誌を見付けたで御座る』
「同人誌!」
クラリッサが起き上がった。
『コレは・・・』
「何ですか?一体何が有ったのですかタク曹長!」
『いや・・・何冊か有ったで御座るが・・・』
「何なんだ一体!ハッキリしろ!」
『・・・○ン○ビ○』
「はっ?何よ?カ○ナ○ス?」
『・・・これ以上は止めよう』
突然、オタクが割とマジなトーンで中止を宣言する。
余りに意味不明な事態だったが、不思議と誰もオタクには逆らわなかった。
『コレで終わりだ』
「・・・」
「取り合えず、ある程度の傾向は見えた・・・のか?」
箒が疑問を口にする中、シャルロットが無線機に向かって話し掛ける。
「と、所でタクは、その・・・どう言うのを読むの?」
『デュノア氏』
「な、何?」
『・・・いや、一夏氏にばかり恥は掻かせられんで御座るな・・・』
オタクは一瞬、逡巡して、無線越しに重々しく口を開いた。
『メジャーどころでは、う○ん○、に○う○房、漸○ラ○ダー辺りで御座る・・・後は○トン、極○色、ぐ○ら○号、ク○ビ○ガー等も愛読しているで御座る。割と一夏氏とは近い趣味で御座るな』
かなり赤裸々に質問に答えたオタクは、それ以上何か言われる前に無線のスイッチを切ってしまい、そこで交信は終了した。
「・・・コレで良いのか?」
ベッドの上に広げられた一夏の愛読書を眺めながら、オタクが言った。
「部屋に入ってアンタが居た時は・・・随分面食らったぞ?」
振り向かずに声を掛けるオタクに対して、その背後の人物が言葉を返す。
「あら、私には巫山戯たキャラ作りはしなくて良いの?」
「・・・生憎と・・・赤旗の下に居る奴とは仲良くしたくないもんでね。職業柄」
「随分嫌われた物ね・・・まあ、貴方の職業なら仕方が無いかな・・・曹長さん」
「何故、こんな事を?幾ら間抜けなチェーカー崩れでも、こんなアホな事は普通はしないぞ」
「・・・知る必要の無い事よ」
オタクの言葉に、背後の声の主が少し不機嫌そうに応えた。
その反応を聞いて、オタクは更に煽る。
「如何した?本当の事を言われてムカついたか?自分の感情も制御できないとは・・・随分と質の落ちた物だな」
「・・・」
室温が氷点下まで降下したと錯覚する程に、冷淡な雰囲気を発してオタクの背後の人物が無言で睨む。
「・・・貴方の腹を切り開いて見れば、臭いまで豚と同じ臭いがしそうね」
「流石は同志のお気に入り、言う事が違うな」
「・・・」
「・・・」
互いに無言で、片や背を向け、片やその背を睨んで佇んだ。
「なあ」
「何かしら」
「好い加減に服着たらどうだ?強がってないで」
「・・・何のことかしら?私は服を着ているわ。ただ馬鹿には見えないだけよ」
「・・・」
「ミスを認めよう・・・な?予想してなかったんだろ?一夏の部屋で、全裸で踊り回っていたら人が入ってくるなんて予想しなかったんだろ?」
「・・・」
「何時までも若い娘が肌を晒すものじゃ無い。好い加減に失敗を認めて服を着なさい。布仏本音さん」
クラリッサの口調が良く分からない問題