一夏の友人は常識人の夢を見る   作:hggj

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最早、誤字が間違い探し状態な件


第二十八話

 狭い一室でオタクと一夏が無言で向きあい、一夏がオタクに呼び掛ける。

 

「・・・」

 

「・・・小田」

 

「・・・」

 

 一夏の呼び掛けに対してオタクは何も答えず、ただ、気まずそうに目線を逸らした。

 そんなオタクの態度に、苛立ちを募らせて言葉を紡ぐ。

 

「如何してこんなっ・・・!」

 

「すまないでござる・・・」

 

「っ!!」

 

 絞り出すようなオタクの謝罪の言葉に、一夏は剣呑な目付きで詰め寄って胸倉を掴んだ。

 

「・・・すまない」

 

「クソッ・・・!」

 

 再度のオタクの謝罪に、一夏はやるせなさを押し殺す事が出来ずに吐き捨てる。

 そんな一夏に対しても、オタクは何も声を掛けることが出来なかった。

 

「こんな事って有るかよ・・・っ!こんな・・・」

 

 一夏は酷く悲しんでいた。

 最初に怒りを覚え、無情感が湧き出し、憎み怨み絶望し、有る瞬間を過ぎた所で楽になるが、それから強い悲哀が津波のように押し寄せて溢れた。

 

「俺がっ!俺が何をしたって言うんだよ!!なんでこんな事に成るんだよ!!・・・チクショウ・・・」

 

 項垂れながら慟哭を撒き散らす一夏の事をオタクは見ていられないと言う気持ちで目を反らしたくなる。

 しかし、それは出来ない事だった。

 一夏が嘆くその理由が自身にあるからこそ、オタクはそれ以上、無様で恥知らずな事は出来なかった。

 

「・・・もう終わったんだ」

 

 オタクは思わず慰めようとして声を掛けた。

 しかし、そのオタクの言葉に一夏が直ぐに反応する。

 

「まだ終わっちゃいない!!何も!!・・・俺に取っちゃ続いたままなんだ!!」

 

「・・・」

 

「護るために戦った!けど護れなかった!そしてやっと次の日になってみれば、教室ではクラスメイト達が妙な視線を向けてきた。変態だ性倒錯者だってな!!」

 

 一夏の叫びは尚も続く。

 

「アイツらにそんな事を言う資格があるのか!?誰一人男がどう言う物かも知らないで!俺を責める資格があるのか!!」

 

「・・・誰にも辛いことはある。慣れろ」

 

「あんたはな!!俺は違う!!」

 

 オタクの下手な慰めなど何の意味も成さなかった。

 より燃え上がった一夏の思いが、更に弾けてオタクに叩きつけられる。

 

「中学の頃の男子達には仁義があった。仲間も居た。互いに助け合っていた・・・だけどここには何も無い!!」

 

「・・・」

 

「アッチじゃエロ本も手に入った!ビデオも借りられた!100万再生の動画だって自由に再生できた!!それがここに来てみればグラビア誌も視られやしない」

 

 先程までの勢いは何処へやら、一夏は急にトーンダウンして床に尻餅を着くように座り込んだ。

 顔を伏せて、手で目許を多いながら涙ながらに言葉を続ける。

 

「惨めすぎる・・・こんな・・・みんなどこへ行った・・・?畜生、何処へ・・・」

 

「・・・」

 

 オタクは黙って一夏を見下ろした。

 そして、静かに一夏の肩に右手をそえた。

 そえられた右手に、一夏は縋り付くように手を重ね、そしてオタクを見上げながら口を開く。

 

「バ○キ○を覚えているか?アレのお陰で友人とウマが合って、ピンナップとか好きなバイクの話を良くしていた。赤いY○M○H○のドラ○グ○ターでビンビンに飛ばそうって・・・」

 

 赤いド○スタは如何だろうかと思いつつ、取り敢えずオタクは頷いて見せた。

 そんなオタクに一夏は更に続ける。

 

「あの日、シャワーから上がったら千冬姉が入ってきて『コレは何だ』って言ってきたんだ。俺は抵抗したんだけど何も出来なかった。俺が意識を失っている間に千冬姉が爆発したんだ」

 

「・・・」

 

「本のページがバラバラになって俺の身体に降り注いだんだ!何とかしようとしたけど何ページか無くなってどうにも成らなかった!俺は泣きながら、家へ帰りたい。PCのHDDの中身を覗きてぇよ!って」

 

 その場面を想像すると、余りの惨状に身震いがして、涙が出てくる思い出、オタクは話を聞き続けた。

 

「無くなったページを探したけど見付からなかった・・・その光景が、一週間も前の事なのに毎晩夢に見る。夢か現実か、ここが何処かさえ分からなくなる。そんな事がもう一週間も続いてる・・・もう、どうにもならない」

 

「一夏氏」

 

「助けてくれ・・・」

 

「・・・まだだ」

 

「え?」

 

「まだ諦めるには早すぎる」

 

 オタクの言葉に、一夏は呆気に取られたように見上げたまま固まった。

 そんな一夏にオタクは尚も続けて口にする。

 

「このまま諦めて項垂れるには、拙者達は若すぎるで御座る」

 

「なにを・・・」

 

「喪った悲しみは計り知れない・・・でも、また手に入れれば良い。何度でも諦めずに挑戦すれば良いので御座る」

 

「だけど・・・もう時間が」

 

 現在時刻午後四時三十分頃、コンビニから成人向け雑誌が消えて早二年余り、オタクの言わんとする事を実践に移すには余りにも障害が多かった。

 

「なら・・・なら、一夏氏は諦めるので御座るか?」

 

「っ!!」

 

「テキサス大学アメリカンフットボールコーチ、ダレル・ロイヤルは言った」

 

「・・・」

 

「フィールドで戦う誰もが、必ず一度や二度屈辱を味わわされるだろう。打ちのめされたことがない選手など存在しない。ただ一流の選手は、あらゆる努力を払い速やかに立ち上がろうとする。並の選手は少しばかり立ち上がるのが遅い。そして敗者は、いつまでもグラウンドに横たわったままである」

 

「・・・それって」

 

「一夏氏はどれで御座るか?」

 

 最早、一夏の腹は決まった。

 決心した男の顔で立ち上がって、オタクを正面から見詰めた。

 そして、言った。

 

「やろう。ああ、やってやろう。千冬姉に男の意地を・・・魂を見せてやろう」

 

「www言い表情で御座るよ一夏氏」

 

 二人の行動は決まってしまえば早かった。

 即座に部屋を飛び出して寮の外を目指す。

 廊下を疾風の様に走り抜ける最中、一夏がオタクに尋ねた。

 

「それで、何処に行くんだ?」

 

「取り敢えず駅に行くで御座る!」

 

 学園内にはコンビニなどは無く。

 そう言った買い物をするには学園から出なければならない。

 唯一の学園からの脱出手段はモノレールであり、その為には駅に行かなければならなかった。

 

「確かあっち側の駅前にはコンビニがあった筈で御座る!」

 

「コンビニ!」

 

 所謂ビニ本の入手方法として、多くの男子達に取って最も手軽な方法がコンビニでの購入である。

 勿論、制服で購入すると言う愚策は犯さない。

 成るべく大人っぽい服装で、仲間内の中で一番の老け顔の者に買いに行かせるのだが、その際に

店員が若い女性だと高確率でトラウマを作る事になる。

 

「拙者が買えば誰にも文句は言われないで御座るよ!」

 

 オタクは男子高校生ではあるが、年齢は二十五歳で在る。

 成人向け雑誌を買っても何の問題も無い。

 オタクと一夏は息を弾ませて駅へと走った。

 

 

 

 

 

 

「無い・・・だと・・・っ!?」

 

 モノレールで揺られる事数分、本土の駅に着いた二人がコンビニに入って、奥の本棚を見ると、そこには求めていた物は無かった。

 

「ど、どう言う事で御座るか・・・」

 

「そう言えば・・・」

 

 全国のコンビニに先だった大手チェーンの発表により、全国の全てのコンビニエンスストアは、成人雑誌の取り扱いの停止を表明。

 コレにより、オタク達の目論見は崩れ、世の数割の男性は膝を屈する事態へと発展した。

 

「こ、こんな事ってぇ・・・!」

 

「まだで御座る・・・」

 

 地面に手を着いて慟哭する一夏に、オタクが声を掛けた。

 

「まだ終わっていないで御座る」

 

「っ!?」

 

「コンビニでの取り扱いが終わったのなら・・・書店に行けば良いので御座る」

 

 その言葉に、一夏は直ぐに反応して立ち上がった。

 

「近くの書店は確か・・・!」

 

 一夏の瞳に希望の光が宿り、力が漲ってくる。

 だが、神は時として余りにも残酷な運命を突き付けてくる。

 

「何処へ行こうと言うんだ」

 

 一瞬、ほんの一瞬で一夏の希望は刈り取られ、オタクのは絶望の淵に叩き落とされた。

 

「ち、千冬姉・・・」

 

「何故ここに」

 

 一夏の姉にして世界最強の女、織斑千冬が二人の前に立ちはだかった。

 

「お前達の行動など簡単に想像が着く。・・・全く馬鹿なことをしでかしてくれる」

 

「・・・」

 

「今なら説教だけで許してやろう。さっさと学園に帰れ」

 

 有無を言わさぬ迫力を纏う千冬の恫喝に、一夏の心が折れそうになり、思わず頷いて従ってしまいそうになる。

 しかし、その直前で一夏は思い出して留まった。

 姉の今までの理不尽な行動に、どれ程苦しめられてきたか、コレまでの苦汁辛酸を一夏は鮮明に思い出し、人生で始めて姉に反旗を翻した。

 

「・・・ほう」

 

 下げかけた頭を戻して、真っ直ぐに見返してくる一夏の眼を見て、千冬は感心した様な声を出して挑発的に睨み返す。

 その千冬の眼光を受けて尚、一夏は真っ直ぐに受けて立って気迫を見せた。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 何時の間にかにオタクが消えた通りの一角で、二人の姉弟は睨み合い、独特の雰囲気を形成した。

 

「・・・っ!」

 

 形勢は圧倒的に一夏の不利だ。

 ただにらみ合うだけなのにもかかわらず、一夏の額には大粒の汗の雫が浮かんで流れ落ちる。

 一夏は早くも姉に立ち向かった事を後悔し、何処かへと逃げた友人を怨んだ。

 

「・・・あきらめろ」

 

 千冬が一言一夏に言葉を掛けた。

 一夏は直ぐにでも膝を屈してしまいそうになる。

 だが、そこに、一夏の直ぐ側に一台のタクシーが現れて扉が開いた。

 

「乗るで御座る!!」

 

「っ!小田!!」

 

 一夏は直ぐにオタクの言葉に反応して飛び乗った。

 

「出せ!!」

 

 オタクが運転手に向かって叫ぶ。

 

「OK!Rock'n'roll!!」

 

 小粋な音楽と共に、黄色いアメ車のタクシーがタイヤから白煙を巻き上げて走り出した。

 

「逃がすか!!」

 

 しかし、流石の千冬だった。

 咄嗟に走り出した車に飛び付いてトランクに掴まり、車体の後部から一夏を睨む。

 

「覚悟しろ」

 

 気のせいか千冬の眼が赤く光ったように感じた一夏は、オタクに懇願する。

 

「どうにかしてくれ!!」

 

「運転手さん!!」

 

 オタクが運転手に叫ぶと、その直後に車がドリフトして後部に居た千冬を振り下ろす。

 普通ならば重傷を負う所なのだが、千冬が普通の人間と同じな筈など無く、全くの無傷で立ち上がって走って追い掛け始めた。

 ヒールがアスファルトに突き刺さっている様に見えるのは、通行人の気のせいである。

 

「ターミネーターの様だ・・・」

 

「HAHAHA!!ありゃスゲぇや!なんだい!?あの女は!!未来から来たロボットかい!?」

 

 妙にハイテンションなアフロのドライバーが笑いながらバックミラーを覗いて叫ぶと、すかさずオタクが返す。

 

「似たようなもんだ!!違いと言えばシュワちゃんじゃないところだけだ!!」

 

「Foooooooooooo!!」

 

「段々、千冬姉が人間離れしてきたな」

 

 一夏は自身の姉の規格外さを改めて思いしり、そして友人の破天荒さも確認した。

 流石の千冬も、高速で走る車に走って追い付くのは無理だったようで、五分も経った頃にはバックミラーから姿を消した。

 

「振り切ったか・・・」

 

「身体の一部とか着いてないで御座るか?」

 

「俺の姉を何だと・・・有り得そうだ」

 

「お前の姉ちゃんスゲぇな!!アメリカ軍にも勝てるんじゃねぇか!?」

 

 グッタリとシートにもたれる一夏は、ドライバーの言葉に内心で同意して、この後の事を考える。

 結局の所、目的を達して学園に帰ろうとも、そこにはあの人類最強が待っているわけで、如何あろうとも結果は決まっていた。

 

「このまま何処か遠くに逃げてしまいたい・・・」

 

「・・・織斑女史が逃がすとでも?」

 

「・・・」

 

 この後、最終的に学園へと帰った二人は、待ち構えていた千冬によって折檻を受けた。

 しかし、後日、一夏は友人の五反田弾からの支援物資を受け取る事に成功し、より厳重に保管した。

 

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