「俺と小田は同じ部屋じゃないんだな」
「その様で御座るなwww」
真耶から部屋鍵を受け取った二人は、揃って夕食を取った後に寮の自室へと向かう。
一夏もオタクも同じ部屋になるものだとばかり思って居たのだが、用意された鍵には違う番号の書かれた札が付いており、一夏は不満そうな様子で鍵の札を見た。
「男二人なら同室にすれば良かったのにな~」
「デュフフフwww一夏氏はそんなに拙者と相部屋が良かったで御座るかwww薄い本が厚くなりそうで御座るwww」
「んっ?どう言う意味だ?」
「知らないなら気にしなくて良いで御座るwww」
そうして暫く廊下を歩いた後、互いの部屋の分岐点へと到達する。
「じゃあ、俺コッチだから」
「お休みで御座る一夏氏www」
この後、一夏は部屋で鉢合わせた幼馴染みと騒ぎを起こすのだが、そんな事は知らぬオタクは、用意されていた部屋の前へと来ると、扉を開けて中へと入って行った。
「ノックして、もしもーしwww」
一声掛けて中に入るオタクは、ベッドの側まで近寄ると、倒れ込む様にうつ伏せで寝転がった。
「・・・疲れた・・・」
打って変わった様な低い声で呟くオタクは、ノソリと状態を持ち上げると上着を脱いでベッドの側に放り投げる。
「なんでこんな事になったんだ・・・俺が何をしたって言うんだ・・・」
憂鬱そうにベッドの上で胡座を掻くオタクは、暫くの間、呆然と虚空を見詰め続けていたが、扉が開かれる音に気が付いて意識を変えた。
「デュフフフwwwお先に入らせてもらっているで御座るよwww」
「えっ?・・・あ、はい・・・」
部屋に入って来たのは当然の如く女生徒で、小柄なメガネを掛けた少女だった。
「拙者、小田宅と言うで御座るwww宜しくで御座るwww」
「更識簪です」
軽い自己紹介を済ませると、オタクは脱ぎ捨てた上着を持ってベッドから立ち上がり、扉の方へと向かった。
「・・・」
無言のままの少女と擦れ違うオタクは、ぶつからない様に気を付けながら扉の前に立つと、振り向かずに少女に言って扉を開けた。
「拙者は少し出てくるで御座るから鍵は掛けておいて構わないで御座るwww」
そう言って部屋の外へ出ると、オタクは直ぐさま部屋から離れて暫く放浪し、人目に付かない階段下に潜り込んだ。
「・・・ここは地獄だ・・・」
その一言と共に横になって上着を羽織ると、瞼を閉じたオタクは意識を手放して眠りに着いた。
「・・・頼むから夢で有って欲しかった」
意識を取り戻すと同時に現実を否定する事から始めたオタクは、携帯の時刻表示から丁度良く朝食の時間である事を知り、階段下から這い出て背筋を伸ばした。
「何処かに水道は無いか・・・」
そう言って寮の外に出ると、発見した水道に近づいて水浴びを始めた。
「後で買い物に行かないとな・・・」
水の滴る髪をハンドタオルで拭い、朝食を取るために食堂へと足を向けた。
「よお!おはよう小田!」
道中で出会った一夏が元気良く挨拶をすると、オタクは鬱蒼とした気分を取り払って応じた。
「オッフwおはようで御座るwww一夏氏www」
「小田の方の部屋はどうだ?相部屋の人はどんな感じだ?」
昨夜の幼馴染みとのやり取りの説明から今後の生活の不安を吐き出す一夏は、オタクの方の様子を尋ねた。
「デュフフフwww拙者の相部屋のおにゃのこ様は可愛らしい大人しい方で御座ったwww」
「え~、いいなあ~」
「一夏氏の方は大変のご様子www拙者、一夏氏の境遇に涙を禁じ得ませんぞwww」
「笑ってるじゃねぇか」
話しながら歩く内に食堂に辿り着いた二人は、早速朝食の注文を行う。
一夏は和風の焼き魚定食を頼み、受け取り口に向かうが、オタクは注文に少しの時間を要した。
「デュフフフwww拙者はカツ丼大盛りを頼むで御座るwww後、コロッケとサンマと焼きそばとホイコーロー、味噌汁の変わりにラーメンを・・・それと牛乳も付けて下されwww」
周りを存分に引かせる注文に、幾人かの女生徒は食欲が失せたと言わんばかりに列から離れ、漸く食事が届いたオタクは、両手に御盆を乗せて一夏の下へと向かう。
「どこの桜木だよ」
「フヒヒwwwサーセンwww」
一夏の突っ込みを受けつつ、オタクは用意した食事を勢い良く胃の中へと流し込み始めた。
「うわ~・・・豚みたい・・・」
「千と千尋・・・」
「あたし・・・もう良いや・・・」
この後、千冬によってオタクが後頭部を殴られつつ、叱責された生徒達が朝食を済ませて、一斉に教室へと向かった。
「ま、前が見えねぇwww」
「顔は殴られて無いだろ・・・」
オタクもまた、一夏と共に教室へと向かう道中、好奇の視線に晒される中で普段通りに振る舞うが、若干足取りが重かった。
そんな生活を一週間続けている内に、とうとう決闘の日がやって来た。
「手抜き乙で御座るwww」
「誰に言って居るんだ?」
「オッフwww拙者とした事がwww第三の壁を突き抜けてしまつていたで御座るwww」
「お前、時々分かんない事言うよな」
ここ最近でスッカリお馴染みになった二人の遣り取りは、一つ普段との違いを挙げるとすれば、それは、一夏が灰色のISを纏って居る事だろう。
「ご都合主義展開で御座るなwww」
オタクが笑いながら言う横で、若干のシリアスな雰囲気の一夏と幼馴染みの篠ノ之箒が出撃前に二三言葉を交わし、一夏が外へと飛び出して行った。
「それで、拙者は如何すれば良いので御座るか?」
「直ぐに出られる様に準備をしておけ。・・・お前は既に専用機を持っているだろう」
「了解で御座るwww」
そして、オタク以外の全員が去り、残されたオタクは一人になるなり、大きく溜息を付いて座り込んだ。
「ああ・・・一夏君は大丈夫だろうか・・・怪我などしなければ良いが・・・」
ここに来て出来た友人の身を案じるオタクは、普段の人前の態度とは打って変わった素の言葉で独りごちる。
大きな身体を縮こませて己の身の境遇を呪い、この後に始める英国の少女との果たし合いに思いを巡らせた。
「なんで俺がこんな事を・・・なんで誰も常識人がいないんだ・・・本当にここは日本なのか?」
法律上、IS学園では日本国憲法が及ばないとされている物の殆どの生徒が日本人であるのならば日本の常識が通用する筈なのだ。
しかし、いざ来てみれば、全く常識が通用せず、到底日本人の物とは思えない様な、文明人らしからぬ言動ばかりで、オタクは心身共に疲弊していた。
「はあ・・・」
「小田」
項垂れるオタクに不意に声が掛けられる。
「オッフwww織斑女史wwwどうしたで御座るかwww?」
「次はお前の番だ。オルコットは連戦で構わないと言っているから早く行け」
「www了解したで御座るwww」
何事も無かった様に振る舞うオタクは、アリーナの方へと向かって歩き出す。
そんな、オタクに千冬が更に声を掛けた。
「精々、励め。私もオルコットの物言いには思うところがある」
「・・・織斑女史も苦労をされている様で御座るな」
「若造が知った口を利くな」
「拙者、女史とは同い年で御座るよwww夜間高校を受けたら検査を受けさせられたので御座るwww」
珍しく、千冬は驚きを隠せずに口を開け、去って行くオタクの背を見送ってからも、暫くの間凍り付いたままだった。