一夏の友人は常識人の夢を見る   作:hggj

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第三十話

 臨海学校の日がやって来た。

 朝早くから一年生の生徒達は学園の正面に集合し、現れた大型バスに乗り込んで出発する。

 若干眠気の残る一夏は、ふとオタクは何処かと思って空席の自身の隣から周囲へと視線を見回した。

 

「?」

 

 しかし、何処を見回してもオタクの姿は無い。

 一クラス毎にバスに乗り込んだのだから他のバスにと言う事も考えにくく、一夏は姉に向けて質問を飛ばす。

 

「千冬姉!小田が居ないぞ?」

 

「織斑先生と呼べ。・・・アイツなら現地で合流する」

 

 千冬の明快な答えに、今度はシャルロットが反応する。

 

「如何してタクだけ?」

 

「アイツの見た目を見れば分かるだろう」

 

「そんな!幾らタクの見た目が悪くて、千と千尋に出て来そうだからってあんまりです!」

 

 千冬から帰ってきた言葉に対して、シャルロットは抗議の声を上げた。

 お前も随分な事を言っていると一夏は思いつつ、まあ、あの身体じゃ乗るところは無いかと納得しながら千冬の言葉に耳を傾けた。

 

「・・・単純にデカすぎて乗れないだけだ」

 

「・・・」

 

 そう千冬が静かに返すと、シャルロットはゆっくりと顔を伏せて黙る。

 

「シャルロット・・・」

 

「言わないで・・・」

 

「・・・」

 

 隣に座るラウラの言葉を遮りながら、シャルロットは顔を覆って耳まで赤くなった顔を隠した。

 

「あの豚は自力で移動すると言っている。・・・縛り上げてトランクに詰めようとしたが逃げられてしまった」

 

 どいつもこいつも酷ぇと一夏は心の中で思いながら、微睡みの中で瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

「あらピエールったら、こんなところでそんなものをまるだしにして~」

 

 何時の間にか眠りに着いていた一夏は、聞いた事のある歌声で眼を覚ます。

 

「・・・ん?」

 

 カラオケマシンで歌っているのがシャルロットだと気が付いた一夏だが、聞いている内にその歌詞のひどさに頭痛がしてきた。

 

「これ・・・ピエールとカトリーヌか」

 

 良い色だのぶっといだの固いだのと続く、カトリーヌ役のシャルロットとピエール役のラウラの掛け合いは、あくまでもフランスパンを歌った物であり、決して卑猥な物では無い。

 仰向けが普通のやつだとかイッたとか、恥ずかしげも無く歌う二人に逆に聞いている方が恥ずかしくなってくるが、あくまでもフランスパンの歌である。

 

「ねえ・・・この歌って」

 

「間違いなく・・・」

 

 何人かの耳年増な思春期真っ盛りの生徒が、変な邪推をするが、あくまでもフランスパンの歌である。

 そうして歌が終わったかと思うと、次の歌が始まった。

 誰も歌わないならとラウラが入れまくった結果、目的地に着くまでの間、ラウラとシャルロットの独壇場になり、最後の曲の勝手に侵略が終わった頃、漸く目的の旅館に着いた。

 

「・・・なあ、ラウラ」

 

「ん?如何した嫁」

 

「あの選曲は・・・」

 

「アレか?アレはクラリッサに教わった日本の曲だ。それと曹長にも幾つか教わった」

 

「そうか・・・」

 

 取り敢えず、オタクが来たら顔面を殴っておこう。

 そう心に固く誓いつつ、一夏は海に繰り出した。

 旅館の直ぐ近くの海は、それはそれは青く輝いていた。

 ダイビングアニメが伊豆を舞台にするのが多いのも納得の美しさである。(作者は伊豆には行った事は有りません)

 生徒達は皆はしゃいで年相応に騒ぎ、一夏を前にした水着コンテストやビーチバレー大会に発展するが、一向にオタクは現れない。

 

「・・・遅いな小田」

 

 結局、その後もオタクが姿を見せることは無く。

 一夏達は浜を離れて旅館に戻った。

 旅館に戻ると風呂と食事だと生徒達はやはり元気にはしゃぐが、そんな彼女達の声を掻き消すようにエンジン音が響いた。

 

「なに?」

 

「なんだ?」

 

 一体何事かと思って一夏達が道路の方に視線を向けると、一代のトラックが現れて旅館の駐車場に入る。

 トラックは一度駐車場を回るようにして方向を変えると、大型車両の駐車スペースに一度切り返しながら綺麗に駐車した。

 

「デュフフフwww待たせたな!」

 

 何かと思って生徒達が集まる中、ドアを開けて運転席から降りて来たのは、一夏の友人のオタクだった。

 

「小田ぁ!?」

 

 一夏が驚いて声を上げると、オタクは運転席を閉めて近寄って来た一夏に向く。

 

「いやはやwww遅くなったで御座るwww」

 

「いや、遅くなったって・・・てか、このトラックはなんだ?」

 

「デュフフフwww実は拙者が昔お世話になった社長に仕事を頼まれてしまいましてwww」

 

「・・・」

 

「漸く到着したか豚」

 

「www織斑女史wwwただ今到着したで御座るwww」

 

「遅刻扱いだ馬鹿者」

 

 色々と聞きたい事が有るのだが、取り敢えず一夏はシャルロットとラウラ、セシリアの欧州組が物珍しそうに眺めているトラックの事を聞いた。

 

「あのトラックは?」

 

「アレは社長の会社の物で御座るよwww」

 

「・・・アレって」

 

「デュフフフwww所謂デコトラで御座るwww」

 

 大きくせり出したキャデラック型のフロントバンパーにやや控え目のバイザー、シックに決めた黒い車体、全体的な電飾は控え目ながらシートキャリアには大きく朝日を模した様な電工パネルが掲げられている。

 大型のウィングコンテナには鮮やかな色使いの歌舞伎絵が描かれ、迫力の有る書体の一番星の文字が躍る。

 

「社長の車両で御座るよwww」

 

 三菱扶桑のスーパーグレートをベースに、26L520馬力V型10気筒のエンジンに載せ替えたカスタム車両。

 マフラーは態々高い位置に伸ばした煙突形のダブルマフラーで、エンジンの拭かせば迫力満点のサウンドと共に黒煙を高々と噴き上げる。

 ありとあらゆる意味で持ち主の社長の趣味が光る逸品だ。

 

「あの社長は何時も無茶ばかり言うで御座るwww川越で車両を受領して荷受けが気仙沼で送り先が京都を半日はキツかったで御座るwww」

 

 グーグルマップの最短距離で17時間掛かる道程である。

 

「詳しくは分からないけど、凄く無茶そうなのは分かるな・・・」

 

「弟さんの二人目の出産祝いで入り用と言っていたで御座るwww元川越市長の割に金欠なのはあの人らしいで御座るなwww」

 

 本人はキャデラック乗りで弟はシルビア乗りで嫁は元ヤン暴走族らしい。

 

「まあ、合流できて良かったよ・・・俺一人で肩身が狭かったんだ」

 

「遅れてすまなかったで御座るwwwそれで、ご飯はのコッエイルで御座るか?」

 

「丁度飯の時間だよ」

 

「それは重畳www」

 

 丸半日一切何も口にしていないオタクは、空腹が限界に達しており、さっさと食事にしようと言わんばかりに一夏の肩を抱いて旅館へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「はあ~食ったで御座るwww」

 

「・・・スゲぇ」

 

 オタクが満足そうに声を上げ、一夏が感嘆の声を上げる。

 

「・・・まるで豚のようだ」

 

「はえ~・・・凄い食欲だったね~」

 

 一体どれ程胃に流し込んだのか、空になったお櫃の山を見ながらクラスメイトが声を漏らした。

 

「デュフフフwww食べ過ぎたで御座るwww」

 

 さて、食事も済んで風呂にも入って夜も更けたとなれば、やることは一つだけで有る。

 

「っはあ~・・・生き返るなぁ~」

 

 晩酌である。

 オタクと千冬は揃って一夏の居なくなった部屋で晩酌を始めた。

 

「良い飲みっぷりで御座るwwwささ、もう一杯www」

 

「すまんな」

 

 日頃の疲れや鬱憤が溜まっていたのか、千冬はオタクの進めるままに酌を受けて、ビールを煽る。

 かなりペースが速く、何だかんだと三十分ほどで二人とも2Lはビールを胃に流し込んでいる。

 並の人間ならば好い加減に酔いが回り始める頃合いである。

 

「・・・そろそろコイツでは物足りなくなってきたな」

 

「wwwそwれwなwらw良い物があるで御座るwww」

 

 そう言ってオタクが取り出したのが、呑兵衛の友達、ロシア人御用達のウォッカである。

 

「ささ、グイッと!」

 

 通常はショットグラスで飲む物を、オタクはそのままジョッキに注ぎ始める。

 恐ろしいのは千冬も全く止めたりせずに注がれるままに受ける。

 そうして、千冬のジョッキがウォッカで満たされると、オタクも自分のジョッキにウォッカを注いだ。

 一応記すが、間違ってもウォッカはジョッキであおる飲み物では有りません。

 ウォッカを呑むときはショットグラスで楽しく煽りましょう。

 

「それではwww杯を乾すと書いて!」

 

「乾杯と読む!」

 

 本日何度か目の乾杯をしてジョッキの中身を煽る二人は、見事に酔っぱらって明日訪れる地獄の事など、完全に忘れていた。

 そんな二人の飲み会場と化した部屋の扉が引き開けられた。

 

「www一夏氏www枕投げは終わったで御座るかwww」

 

「・・・うん?一夏か・・・お前も来い!」

 

「完全に出来上がってやがる・・・」

 

 呟きながら、一夏は言われるままに二人の側によって座った。

 

「www一夏氏は何を呑むで御座るかwww?」

 

「いかんぞ・・・一夏は未成年だ・・・アルコールはいかんぞ・・・」

 

「それじゃ烏龍茶で」

 

「www分かったwwwで御座るwww」

 

 一夏のリクエストに応えて、オタクが茶色い液体の注がれたジョッキを一夏に渡した。

 

「さあwww一気に呑むで御座るwww」

 

「・・・?」

 

 何か気になりつつ、一夏はジョッキの飲み物を一気に煽り、中身を三分の一程呑んだ所で咽せて吐き出した。

 

「グホッ!・・・ガハッ!・・・一体・・・なんだこりゃ・・・っ!」

 

「www地元の大学生に教わった烏龍茶で御座るwww」

 

「はっはっはっ!!なんだ一夏。茶も飲めないのか!どれ・・・お前は水でも呑んでいろ」

 

 そう言いながら、今度は千冬が一夏に透明の液体の注がれたグラスを差し出した。

 

「・・・」

 

 千冬から渡されるままにグラスを受け取った一夏は、怪訝な表情でテーブルに置くと、オタクのライターを取り出してコップの口に近づけて火を着けた。

 

「おい・・・」

 

 水であれば火が着くはずの無いその透明の液体は、あろう事か青白い炎がグラスの口からたっえいる。

 

「なんで火が着くんだ?」

 

「www可燃性なんで御座ろうwww色は水だから大丈夫で御座るよwww」

 

「火が着く時点で大部分がアルコールだ!!お前らは色でしか飲み物が判別できないのか!!」

 

「www」

 

「ハッハッハッ!」

 

 最早、千冬もキャラ崩壊著しい程にアルコールに溺れてしまっている。

 一夏も、先程呑んだ烏龍茶(酒)の所為で酔いが回り、誰も止める物の居なくなった室内はカオスの権化と化した二人によって混沌の度合いを増して夜が更けていった。

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