一夏の友人は常識人の夢を見る   作:hggj

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さあ、久し振りの間違い探しです。
間違いが無いのが一番なのですが


第三十三話

「www」

 

 夏真っ盛りと言う風な青空と太陽の下で、オタクは海を眺めて一人笑う。

 

「・・・何やってんだ俺は」

 

 誰も居ないのにキャラを作り続ける事に、虚しさを感じたオタクが独り言ちる。

 何となく、ここ最近ペースが速くなってきたタバコでも噴かそうかと懐に手を差し伸べるが、そこで気が付いて動きを止める。

 

「置いてきたんだった・・・」

 

 別に吸ってても美味いもんでも無いのだが、ただ何となく口許が寂しく感じて、何となく手元に無い事がムカついてストレスになる。

 スッカリとニコチン中毒になった物だと、自身の無意識の思考を、オタクは笑った。

 

「www・・・はあ」

 

 太陽が照り付けて、肌にジワリと汗の雫が浮いて出てくる。

 時折そよぐ海風が、濡れた肌を撫で付けて、その感覚が心地良く身体のほてりを冷ます。

 

「・・・」

 

 何をするでも無く、ただただ手持ち無沙汰なオタクは暇を持て余していた。

 

「・・・はあ」

 

 今更、十も年下の学生達に混じってはしゃいで回るほど子供には成れず、かと言って、ニヒルに大人ぶった様な態度で青春の風景を眺める様な余裕も無い。

 この臨海学校でやるべき事が何一つ無いオタクは、ただただ暇を持て余し続けた。

 

「・・・」

 

 こうして一人になって黄昏れていると、オタクの脳は勝手に過去の事を回想し始める。

 学園に入学した事、夜間の高校に入り直そうとした事、幾つもの仕事をこなしてきた事、自衛官を辞した事、同期と必死になって三年間取り組んでいた事、どれか一つを切り取っても今のオタクにはなり得ない数々の思い出が、オタクの脳裏を巡る。

 

「よう・・・久し振りだな」

 

 不意にオタクは背後から声を掛けられた。

 声の主が誰なのかは、オタクは直ぐに分かった。

 

「・・・」

 

 だからこそ、オタクは振り向かずに、声の主の方を向こうとはしない。

 

「おい。無視すんなよ」

 

「・・・」

 

 再度、声を掛けられてもオタクは応じない。

 そうしていると声の主がオタクの直ぐ側まで近寄ってきて無理矢理に振り向かせた。

 

「久し振りだな小田」

 

「・・・ああ、久し振りだ・・・平内」

 

 平内とオタクに呼ばれた男は、中肉中背で肌は程良く日焼けしていて、髪型は短く刈り込まれたスポーツ刈りだ。

 

「この間は随分と無茶苦茶をしてくれたな」

 

「・・・フランスの事か?」

 

「当然だろ?・・・あの件は中々に事後の後片付けが手間だった」

 

「元々はお前らに言われた事だ・・・自業自得だろ」

 

「俺としては、もう少し穏便なのを期待していたんだがな」

 

 海を眺めたままで、二人は言葉を交わす。

 雰囲気から、オタクと平内が旧知の仲である事は間違いの無い事なのだが、オタクの平内に対する言葉には、端々に棘があった。

 

「・・・で、何のようだ?」

 

 オタクが鋭い声色で平内に問い掛ける。

 

「・・・何の事だ?俺はただ・・・」

 

「友達に会いに来たなんて、お前らしくも無い気色の悪い事は言うなよ」

 

「・・・まあ、そうだな」

 

 二人の間に沈黙が流れる。

 遠くからはオタクの同級生達の笑い声が届いてくる。

 

「今・・・この海の向こうにはジェラルド・R・フォードが居る」

 

「?・・・アメリカ海軍の空母か・・・それが如何した?」

 

 そこまで口にしたオタクは、何位かに気が付いて更に言う。

 

「ちょっと待て・・・ジェラルドは第三艦隊の所属じゃ無かったか?」

 

「ああ、序でに言えばロナルドは横須賀に停泊中だ」

 

 航空母艦ジェラルド・R・フォードの現在の所属は第三艦隊であり、担当地域は東太平洋及び北太平洋であり、カリフォルニア州サンディアゴを母港としている。

 第三艦隊の空母は第七艦隊や第五艦隊などの空母とローテーションで交代して任務に就くのだが、現在の所、ロナルド・レーガンが第七艦隊での任務に就いたままであり、通常、余程の事が無い限りは一つの任務地域に二隻の空母が存在することは無い。

 

「・・・何が起こってる」

 

 オタクが問い詰めるように平内に剣呑な視線を向けた。

 

「この前・・・ニュースで見たかも知れないが、アメリカの大統領が北朝鮮と交渉に入ると言ってなかったか?」

 

「・・・ああ、言ってたな。今度で何度目だ?」

 

「4度目だ」

 

「それが何の関係がある」

 

「今、あの大統領の支持率は過去最低だそうだ」

 

「それで?」

 

「・・・ここで北朝鮮との融和、南北朝鮮戦争の終結、核兵器の放棄の確約、この辺りを取り付けられたとしたら?」

 

「・・・危機を脱せられるてことか?だが、それには」

 

「交渉材料が足りないか?」

 

 オタクは無言で頷いて答える。

 普通に考えれば当たり前の事であり、コレが本当に普通のことならば、話はそれだけで終わる。

 大統領がまた無駄な事をやらかして世間をザワつかせ、そうして選挙で負ける。

 ただそれだけの筈だ。

 しかし、ここで平内はとんでもない事を口にする。

 

「じゃあ、もしも材料があるとしたら?」

 

「どう言う事だ?」

 

「あの大統領は遂にジョーカーを引き当てたんだよ」

 

 そう言うと、平内は懐からレジュメを取り出して手渡した。

 

「・・・良いのか?」

 

「ああ、お前も大いに関わる事だ」

 

「・・・」

 

 気になる事を言われたオタクは、不承不承と中身を確認する。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「どうだ?」

 

「・・・コレは本当の事なのか?」

 

「そう言うと思ったよ」

 

 レジュメの内容は三枚の書類と一枚の写真だった。

 写真に移っていたのは、アメリカ陸軍の高官と北朝鮮の高官が握手をしている瞬間だった。

 

「アメリカは秘密裏に北朝鮮に対して支援を行い。その見返りとして、北朝鮮の核開発の表向きの停止と廃棄を行う」

 

「・・・」

 

「その後、アメリカと北朝鮮は平和条約を締結し、テレビの生放送で平壌での署名と握手をする様子を放送する・・・その後は、段階的に北朝鮮に対する制裁を解除して行き、大統領は支持率を回復する。そう言う流れだそうだ」

 

「・・・本気なのか」

 

「ああ・・・少なくとも大統領閣下殿はそのつもりらしい」

 

「信じられん・・・」

 

「そのレジュメ・・・もっと良く見ると良いぞ。特に一番最後の奴」

 

 オタクは平内の言葉に従ってレジュメの最後のページに目を走らせる。

 

「コレは・・・目録か?」

 

 目録の内容は、重油、軽油、ガソリン、鉄、レアメタル等の戦略物資に始まり、その他にも米や麦などの穀類、肉類、野菜、砂糖、珈琲等の食糧や嗜好品、更にはウランやプルトニウムなどの核物質などが羅列していた。

 

「・・・コレは!」

 

「気が付いたか」

 

「ISコア・・・?」

 

「大盤振る舞いで二つも贈るそうだ」

 

 オタクの全身から汗が噴き出る。

 暑さの所為では無い。

 身体が震えるほどの寒気に襲われながら、オタクは滝の様に汗を流した。

 

「ど、何処から」

 

 何処からコアを出すのか。

 その問い掛けに、平内が口を開く。

 

「お前・・・学園の襲撃事件の後で、コアがどうなったか分かるか?」

 

 そう言われては、オタクは全ての察しが付いてしまう。

 

「まさか・・・」

 

「ナンバー外の存在しないコア・・・その利用価値は計り知れない物だ。それをあの国が見逃す訳無いだろ?」

 

「・・・」

 

「・・・先月の初め、コアの保管されていた研究所が襲撃を受けた」

 

「・・・」

 

「現地で警備に付いていたCRRは応戦したが、最終的にはコア二つを奪取された」

 

「怪我人は?」

 

「軽傷者が数名だけで、死者重傷者は一人も居ない」

 

 実に怪しいとしか言いようのない死傷者数に加えて、更に平内は続ける。

 

「襲撃は物の30分ほどで終了。現地の警備部隊は現状報告のみで、その後の追跡等は行わず、何一つ証拠も何も見付からないと言う事で、早々に捜査は終了。日本政府はこの事については何の発表も無く、直後に日本領海から一隻の不審な大型の潜水艦が離脱した」

 

「・・・答えはもう出てる様なもんだろ」

 

「まあな」

 

 二人は暫し無言で浜辺の騒ぎ声を聞く。

 

「空母にコアを?」

 

「そう睨んでる」

 

 簡潔な質問に対する簡潔な答え。

 オタクは頭を抱えたい衝動に駆られた。

 そんなオタクに、平内は更に話を続ける。

 

「コレは大統領とその身内の国防長官と国務長官の三人で決めた事らしいが、当然、CIAは黙っちゃいない」

 

「動くのか?」

 

「シナリオは決まってる」

 

 アメリカ海軍の空母でコアを輸送、その名目は大規模な軍事演習となる。

 この演習期間中に極秘に北朝鮮高官に合流し、コア二つを受け渡す。

 CIAはこの軍主導の動きを妨害するために内部の協力を通じて極秘作戦を展開する。

 

「内容は?」

 

「演習中のアメリカ海軍空母が攻撃され、演習は中止となり、どさくさでコアは紛失、この不祥事を理由として何人かのお偉いさんの首が飛ぶって寸法だそうだ」

 

「何処が担当する」

 

「第七艦隊及び海兵隊がCIAに協力する」

 

「・・・」

 

「作戦は間違いなく成功するだろう。あの大統領は嫌われ者だし。国民はそろそろ新しい大統領を欲しているからな」

 

「なんでこんなに詳しいんだ?」

 

「ウチも案外いい線行ってるって事だよ」

 

 そう言って笑う平内に対してオタクは冷たい視線で見詰める。

 

「小金井が何で俺にそんな色々と情報を出す」

 

「そりゃ、お前に仕事があるかも知れないからだよ」

 

「と言うと?」

 

「篠ノ之束」

 

「っ!」

 

「俺らが知らないとでも?」

 

「・・・いや、予想以上にやるみたいだな」

 

「暗部とか言うアマチュアとは違うよ・・・俺達としては、あの天災が何かしでかすと睨んでいる」

 

「そう思うか?」

 

「・・・ほれ」

 

 平内が再び懐からレジュメを取り出して手渡した。

 オタクはそれを受け取って目を通す。

 

「コレは?」

 

「情報本部の掴んだ情報だ。コレによると最近米海軍の最新鋭試験ISに幾つかのハッキングが試みられた形跡がある」

 

「シルバリオ・ゴスペル・・・銀色の福音か」

 

「カンパニーはこのハッキングを利用して、ジェラルド襲撃をこのゴスペルの所為にするつもりだ」

 

 オタクは、無言で水平線に視線を向ける。

 

「操縦者はどうなる」

 

「・・・不幸な事件だ」

 

 暗に操縦者の身体生命は勘定に入っていないと言われて、オタクは眉をひそめる。

 

「優秀で美しいテストパイロットの死亡、暴かれる陰謀・・・彼女の家族に贈られる名誉勲章。世論は急速に大統領の退任を求める方向に動くだろう」

 

 まるで何処かで聞いた事のある様な、綺麗な陰謀の裏話。

 胸くその悪い話を聞かされたオタクは、気を紛らわせようと胸元を探ってタバコを探す。

 しかし、そこにタバコは無い。

 虚しい思いを感じつつ、オタクはダラリと手を下げる。

 

「幾ら天災でもスタンドアローンの機体には干渉は出来ないだろう。既にゴスペルにはカンパニーの職員からのコンタクトがあった筈だ」

 

「・・・こんな事が許されて良いのか」

 

「・・・コレが国を護るって事なんだろ・・・多分な」

 

 オタクの呟きに答えた平内の表情は、冷たくも何処か悲壮で苦しげな物だった。

 

「今から・・・」

 

「?」

 

「日本政府のとある筋からIS学園に要請が出される。暴走中のISの阻止、及び撃墜の要請だ」

 

「それは・・・」

 

「勿論、コレでやられるとは誰も考えていない。暴走中のISは学園生徒の阻止を振り切り、日本近海を航行中の空母、ジェラルド・R・フォードに攻撃、最終的にはISは海上に墜落し、パイロットは遺体となって発見される」

 

「・・・」

 

「お前は如何する?」

 

「・・・本当に意地の悪い。最低のクソ野郎だお前は」

 

「ありがとよ」

 

 平内はそう言い返してオタクから離れていく。

 そして、オタクが海に目を向けると紅白の二機が水平線の彼方へ向けて飛び出していった。

 人生で最大の岐路に立たされたオタクは、ただ黙って自分の愛機を呼び出した。

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