一夏の友人は常識人の夢を見る   作:hggj

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第三十四話

 オタクの愛機であるダンボールは、元々第一世代の技術実証機と言う側面を持って開発された機体だ。

 その技術は現在において使用される自衛隊の装備に生かされている。

 非常に強固な複合装甲と単純な平面系を貼り合わせた構造、奇をてらった様な無駄もデザイン性も一切を排除した実に自衛隊らしい外観となっているが、一番自衛隊らしい部分としては、その助長性だろう。

 非常に大きく取られた助長性は、後発の装備資機材の導入にも問題なく対応しており、それ故に、オタクは学園に来てから数々の装備を換装して戦ってきた。

 だが、それでもダンボールは第一世代なのだ。

 

 

 

 

 

 

「一夏っ!!」

 

 ダンボールは御世辞にも高機動とは言い難い機体だ。

 幾ら直ぐに追い掛けたと言えども、学園最速の白式には追い付くことは出来なかった。

 そして、漸くオタクが現場に到着したとき、そこでは紅に身を包む箒が悲痛な悲鳴を上げて、白に染まる一夏が黒煙を噴いて墜ちていく瞬間だった。

 

「っ!!」

 

 オタクは一挙に加速した。

 有らん限りの出力を振り絞って、墜ちる一夏に追い付いた。

 

「一夏!!」

 

 海面に叩きつけられる寸前、オタクは何とか間に合って一夏と白式を引き上げる事に成功する。

 そして、オタクは一夏に向かって呼び掛ける。

 だが、一夏からの反応は何も返らず、力無くグッタリとしているだけだ。

 

「っ!!篠ノ之!!」

 

「イヤアアアアアアアアア!!!!」

 

 篠ノ之箒は、最悪を想像した。

 それは、一瞬で箒の脳裏を駆け巡り、全ての思考がその一点に染まってしまう。

 その瞬間、箒は思考も行動も放棄してしまった。

 

「クソッ!!」

 

 吐き捨てながら、オタクは一夏を担いだ状態で箒に近寄る。

 だが、この時はオタクも気が動転していて、彼らしくないミスを犯していた。

 

「・・・」

 

 敵はまだ去ってはいない。

 彼等はまだ戦場に居る。

 

「篠ノ之箒!!確り・・・!!」

 

 オタクの言葉は福音によって掻き消された。

 その死を告げる福音は強い殺意を込めて羽となって殺到する。

 それは、正に堕落した人類に裁きを下す天使その物だった。

 

「っ!!篠ノ之!!」

 

 オタクは、一夏を担いだ状態でありながら、見事な操作技術でシルバー・ベルでの攻撃を掻い潜る事が出来た。

 だが、完全に動きを止めていた箒が、攻撃を躱すことなど出来るはずも無い。

 ただ、幸運だった事と言えば、それは箒の纏う機体が非常に高性能であった事と、不自然なまでに攻撃の密度が薄かった事だろう。

 結果として、箒は数発が掠めただけで事なきを得ており、その掠めた衝撃で気を取り直した。

 

「っ!!一夏!!」

 

「一夏は無事だ!!まだ死んでない!!」

 

 我に返った箒は直ぐさま一夏とオタクの側に寄った。

 

「一夏!一夏!!」

 

「落ち着け!!」

 

 気を取り直して尚、箒は錯乱して一心に一夏を求め続ける。

 

「このっ!!」

 

 オタクは最後の手段に出た。

 余りにも錯乱して仕様が無い箒を、右脚で蹴り付けて強引に静かにさせる。

 

「黙れ!!一夏はまだ死んでいない!!この先はお前次第だ!!」

 

「っ!!」

 

「良く聞け。一夏を助けたければ先ずは冷静になれ」

 

「冷静に・・・」

 

「そうだ・・・機体のダメージを把握しろ」

 

「紅椿は・・・問題ない」

 

「なら、此奴を引き取ってくれ」

 

 箒の機体、紅椿に異常が無いと聞いて、オタクは直ぐさま一夏と白式を押し付ける。

 

「直ぐに撤退しろ」

 

「何っ!?」

 

「無駄な問答は必要ない。今すぐに一夏を連れて撤退しろ。手遅れになる前にだ」

 

「・・・!」

 

 箒は、恐らくは今の今までオタクの事を侮っていただろう。

 確かに一度戦った時は箒は負けはしたが、それでも箒はオタクの事を侮っていた。

 それは実力云々では無く、容姿や、普段の生活態度などを見て、だらしのない男らしくない適当な人間だろうと見下していたのだ。

 ISの勝負で無ければ負けはしない。

 あの勝負は実力では無い。

 卑怯な事をしなければ勝てないのなら、それ程の実力では無い。

 そう言う風に思っていた。

 だが、この瞬間、オタクの真剣で剣呑な雰囲気と言葉に、箒はコレまで侮っていた男に完全に気圧されて、従うと言う事意外の選択肢を思い浮かべる事が出来なかった。

 

「早く行け!!」

 

「っ!!」

 

 箒はオタクの檄に従った。

 オタクに背を向けて最速で飛び去った。

 そして、後にはオタクと、シルバリオ・ゴスペルだけが残された。

 

「・・・」

 

 ゴスペルは身動き一つ取らずにオタクと箒の遣り取りを眺めていた。

 

「・・・おい」

 

「・・・」

 

「コレはパイロットに向けて言う事じゃないと断っておく。俺がコレから言うのは、そのセンサーの向こうでニタニタしてるクソウサギに対してだ」

 

「・・・」

 

「・・・その内ぶっ殺してやるよ。見てろよ。人間の意地と今生を見せてやるよ」

 

「・・・」

 

 なんの反応も返ってこない。

 その事こそが、篠ノ之束がオタクの言葉を聞いていたと言う証拠だとオタクは確信する。

 

 

「ゴスペルのアビエイターさん・・・あ~日本語じゃ通じないか・・・」

 

「・・・」

 

『私は日本国の自衛隊に所属いたしております。貴官におかれましては、この度は大変に遺憾な事と存じ上げ、お悔やみを申し上げます』

 

「・・・!」

 

『残念ながら、小官には貴官をお助けいたします能力は無く、我が身の無力を呪う次第で御座いますが、ただ。一心に、全力を傾けて、任務を遂行いたします』

 

「・・・」

 

『任務と言えば、我が自衛隊の最上の使命は人名の救助に他なりません。どうか、貴官の無事をお祈りいたします』

 

 そう言ってオタクは装備を展開する。

 右手にガトリングを、左手には剣を取り出してゴスペルに相対する。

 さっきはあんな事を言っていたが、オタクには、全く勝つ自信というのは無かった。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 恐らく、オタクは逃げることは出来なかっただろう。

 箒と一夏の撤退の時間を稼ぐと言う事もあるが、何よりも束が逃げるのを許さなかった。

 実の所、束はアメリカと日本の思惑を看破していた。

 そして、現時点でシルバリオ・ゴスペルの完全な掌握にも成功している。

 それはオタクも気が付いている事で、オタクは今この瞬間に、唯一、政府の思惑を達せられる立場にいた。

 オタクは逃げる事が出来ない。

 何故ならば、オタクは政府に属す人間で、旧友から聞かされた話は、完全に母国に対して利になる事だったからだ。

 

「www草しかwww生えねぇwww」

 

 そして、オタクは飛び出した。

 箒の向かったのとは逆の方に飛び出した。

 その背中に嬲るようなゴスペルを引き連れたまま。

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

 箒は無事に帰還出来た。

 近くの病院の駐車場に直に着地して一夏を病院に預け、そして直ぐさま向かってきた千冬に全ての報告を済ませた。

 報告は淡々としていて、それを受けた千冬も表情一つ崩さずに最後まで聞いて去って行った。

 

「・・・っ!」

 

 箒に掛けられる言葉は、どれもこれもが優しく温かい言葉で、その事が一層に箒を苦しめる。

 いっそ罵ってくれれば、詰ってくれれば、責めてくれれば、どれ程良い事か、そう思いながら箒は静かに涙を流す。

 

「・・・まだここに居たか」

 

 千冬が箒に声を掛けた。

 

「一夏は山は越えたようだ・・・後は安静にしていれば大丈夫だろう」

 

「・・・」

 

「・・・お前の考えている事は分かる。だが、私はお前の求めている言葉をくれてやるつもりは無い」

 

「っ!?」

 

 箒は、千冬の言葉を聞いて驚いて顔を上げる。

 しかし、箒は直ぐに顔を下げて俯いた。

 そんな箒に千冬が更に声を掛ける。

 

「どうせ、お前は責められたい。罵られたいと思っているのだろうが・・・私はそんな事はせんぞ」

 

「・・・何故、ですか?」

 

 箒は尋ねた。

 それに対して千冬は直ぐに答える。

 

「お前が許せないからだ」

 

 そう言われて、箒は千冬の顔を見上げた。

 

「・・・」

 

 千冬の顔は普段通りの仏頂面だった。

 普段通りの、きわめて平常の表情だった。

 だが、箒には別な風に見える。

 まるでなんの感情も無い仮面を見ている様な表情で、その眼の奥の怒りを必死に押し止めている様に見えた。

 否、それはそう見えたのでは無く、間違いなくそうだったのだ。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 千冬は間違いなく怒りを覚えていた。

 この世に唯一存在する自身の肉親を危機にさらされて、千冬はコレまでに無い程に怒っていたのだ。

 だが、それでもその怒りを身のうちに留めておくのは、彼女が教師であり大人だからこそだろう。

 千冬に取って、一夏は弟であり生徒であるが、箒もまた自身に取っての生徒であり、古くからの友人の妹であるのだ。

 千冬は、間違いなく怒りを覚えながら、自身の立場と、箒との関係から怒りに身を任せるわけには行かなかった。

 

「・・・ここで、お前を罵倒してみて、これ以上甘やかせる程、私は甘くは無いぞ。篠ノ之箒」

 

「・・・」

 

「ここで立ち上がるか・・・それともそこに寝転がったままで居るか・・・そこが分かれ目だ」

 

「・・・」

 

 そう言って千冬は箒に背を向けた。

 そのまま去るのかと箒が思うっていると、千冬が何かを口にする。

 

「・・・あの豚だが」

 

「・・・」

 

「まだ、帰ってきていない」

 

「えっ!?」

 

「反応も何も無い」

 

「・・・それは」

 

「最悪も想定した方が良いだろうな・・・まあ、あの豚に限っては有り得んだろうな」

 

 それだけ言うと今度こそ千冬は立ち去った。

 

「・・・」

 

 オタクが戻らないと聞いて、箒は直ぐに死を思い浮かべた。

 それに対して千冬は問題は無いだろうと言い切った。

 何故、その様に思えたのか、箒にはそれが気になった。

 そして、顔を上げたままで惚けていると、騒がしい足音が近づいてきた。

 

「アンタ!こんな所に居たの!?」

 

「・・・凰」

 

「ちょっと来なさい!」

 

 鈴は強引に箒を立たせた。

 

「ちょっ!なんだ!!」

 

「アンタも手伝いなさい」

 

「何を!」

 

 箒が声を上げると、鈴は一旦脚を止めて振り向くと、箒の胸倉を掴んで言った。

 

「一夏の敵討ちよ!!文句あんの!!?」

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