一夏の友人は常識人の夢を見る   作:hggj

38 / 42
第三十七話

 沈んで行く。

 破壊されたゴスペルが、破片と共に夜凪の闇の底に墜ちて沈む。

 

「・・・」

 

 雨が止み、雲も散った夜空には月だけが輝いて四人を照らしていた。

 それぞれ大いに傷付いた機体で留まり、息も荒く戦いの余韻に浸る。

 全てが終わったのだと、そうラウラが確信して背を向けた瞬間、静かの海に浮かぶ月を割って一条の光線が襲いかかった。

 

「ラウラっ!!」

 

「っ!?」

 

 俯瞰して見ていたシャルロットが声を上げた。

 ラウラは咄嗟に身体を捻りながら頭から降下する。

 光線はラウラを捉えようとするが、一瞬の判断が明暗を分け、僅かにレーゲンの右肩を掠めながら

雲の無い夜空に消えて行く。

 

「!!」

 

 海面に光の影が映りだして波立った。

 水面が荒れ狂いながら持ち上がり、その中から銀色に光るゴスペルが姿を現す。

 

「再起動だと!?有り得るのか!?こんなISが!?」

 

 海面上に浮かんだままで動かないゴスペルを前に、箒が思わず声を荒げた。

 ここにオタクが居れば思わず反応してしまいそうな台詞を発して、動揺を顕わに眼下のゴスペルを睨む。

 

「・・・第二ラウンドって訳ね」

 

 一筋、頬に大粒の汗が流れ落ちる鈴は、静かに言いながら双天牙月を握り直す。

 

「大丈夫?ラウラ」

 

「問題ない」

 

 降下した後、ラウラは海面スレスレを飛んで距離を取り、それからシャルロットの直ぐ近くに移動した。

 そんなラウラにシャルロットが心配そうに声を掛けるが、ラウラはゴスペルから視線を外さずに返す。

 

「・・・姿が変わっているな」

 

「セカンドシフト・・・だね」

 

 静かに佇むゴスペルの姿は先程までとは、一見すれば別の物と見紛う物だ。

 全体的に装甲に覆われた箇所が増え、機体のサイズも一回りか二回り大きく成り、IS特有の大きく特徴的な脚部は、むしろ小さく細く変貌し、特にその足先は剣の如く鋭く薄く成っている。

 腕も短く成って全身の形状の比率が人間に近づき、指先は長く鋭い。

 そして一番に目を引くのは大きな翼だ。

 機械的な風貌から一転して、今のゴスペルの背中には天使の様な巨大な四枚の翼が輝いており、まるで本物の翼の様な柔らかく揺れ動く。

 

「・・・」

 

 四人が固唾を呑んで眼下に浮かぶゴスペルを眺める中、ゴスペルもまた身動ぎ一つせずに佇む。

 一瞬、もしかすれば暴走が解けたのかとも思えたが、しかし、漂う緊張感がその淡い期待を否定する。

 

『避けて下さいませ』

 

 不意に、セシリアから通信が入る。

 そして、その次の瞬間、ラウラの背後からゴスペルに向けて光線が二条突き進んだ。

 

「!!」

 

 直撃の寸前、ゴスペルは顔を上げて反応を示すが、回避しようとは一切せずにセシリアからの攻撃を受ける。

 

「っ!?」

 

 多少なりともダメージはあるかと、ラウラは期待して結果を待ったが、その期待はもろくも打ち砕かれてしまう。

 セシリアの放った光線は、ゴスペルに命中する直前に、何か見えない壁にでも阻まれるかの様に弾かれて進路を変えた。

 AICの様に止めるのでも無く、装甲の様に受けて阻むのでも無く、その軌道を曲げられて光線を無力化したのだ。

 

「アンチ・ビーム・シールド・・・」

 

 シャルロットが戦慄に震えながら呟く。

 対光学兵器障壁、各国の軍や研究機関が研究しながらも、未だ実用段階にある物は一つとして存在していない最強の盾。

 レーザーやビームと言った光学兵器やエネルギー兵器が開発されて以降、各国ではその研究が進められており、ISでの運用から今後は通常兵器への搭載が見込まれている。

 そうなると当然の事として、ビーム兵器やレーザー兵器に対する備えと言う物を考え出すが、今の所、光学エネルギー兵器に対する防御方法はコレまでと同じく装甲防御に頼った物と成っている。

 だが、日進月歩の光学エネルギー兵器は将来的には実弾兵器を圧倒する破壊力や貫通力を備えると考えられており、そうなれば、今後、物理的な装甲では防ぐのが難しく成る。

 単純装甲を厚くすれば強力に成っていく光学兵器にも対抗は出来るかも知れないが、兵器に搭載できる装甲には限りがあり、将来の強力な光学エネルギー兵器に対抗可能な軽量の装甲、若しくは防御方法を欲している。

 そして、その答えが今、目の前に存在していた。

 

「・・・果たして、我々の矛は、未来の盾にどれ程通用するのか」

 

 ラウラはそう呟いて自嘲する。

 セシリアのスターライトはISに搭載されるビーム兵器としては強力な部類に入るが、それをいとも容易く防いで見せたゴスペルは正に脅威だ。

 

「!!」

 

 次の瞬間、ゴスペルが大きく翼を広げて飛び立った。

 一瞬にして、ゴスペルは高度を上げてラウラ達を飛び越して上昇していく。

 

「っ!?」

 

 ゴスペルの加速力と速度に、ラウラは舌を巻き、それから直ぐに追い縋る。

 当然、シャルロットと鈴、箒もゴスペルを追って上昇するが、それでも誰一人として追い付くことは出来ない。

 

「!!」

 

 ゴスペルがラウラ達の方を振り向いた。

 

「っ!!」

 

 ラウラは直ぐに右に逸れて回避行動を取る。

 ラウラの判断は実に正しく、回避した次の瞬間には、同じ場所を光線が通過して行った。

 

「!!」

 

 ゴスペルはラウラが回避したと見るや、今度は一気に急降下する。

 

「くっ!!」

 

 ゴスペルの機動に着いて行く事が出来ずに置いて行かれる形で擦れ違うラウラは、小さく呻きながら追尾を試みるが、そうしている間にも、ゴスペルは更に加速してラウラとの距離を離し、そして、箒に襲い掛かった。

 

「!!」

 

 箒に攻撃を仕掛けたゴスペルは、先程までと同じく右の貫手を繰り出した。

 

「っ!!はああ!!」

 

 箒はゴスペルの早さに驚きを顕わにし、しかし、直ぐに切り換えて空裂を構えて応じる。

 そして、空裂の刃とゴスペルの指先が激突すると、箒に凄まじい圧力が掛かる。

 

「っ!!ぐう!!」

 

 刀と指の鍔迫り合いは、互いに火花を散らしながらもゴスペルが優勢で圧倒する。

 

「っは!!」

 

 一瞬、箒はゴスペルからの圧に屈する様に下がると、直ぐに刀をズラしてゴスペルを受け流した。

 

「!!」

 

「ハアッ!!」

 

 ほんの一瞬でゴスペルと体勢を入れ替えた箒は、空裂を上段から振り下ろして攻撃に転じる。

 

「!!」

 

 これに対して、ゴスペルは僅かに期待を浮き上がらせながら右手をスクリューブローの要領で捻らせて貫手で返す。

 振り下ろされる空裂に敢えて向かう事で打点をずらし、空裂の刃の右側に掠める様にし右手を打ち上げる。

 

「っ!?」

 

 箒の振り下ろした空裂は、ゴスペルを捉える前に右手で弾かれ、逆に無防備の状態で突きを見舞われる。

 眼前に迫るゴスペルの指先に箒は咄嗟に首を左に動かして躱すしか無かった。

 

「くっ!!」

 

「!!」

 

 攻撃を寸でで躱されたと見るや、ゴスペルは直ぐに腕を抜いて、左手で追撃に移る。

 

「くっ!」

 

 箒は呻きながら刀を振り、何とか突きを弾いて躱す。

 さっきまでよりも更に冴え渡るゴスペルの妙技の前に、箒は舌を巻かざるをえなかった。

 

「ハアアア!!」

 

 箒がゴスペルの攻撃に対して防戦一方と成る中、その隙に乗じて鈴が背後から襲い掛かる。

 

「貰ったあああ!!!」

 

 双天牙月を確りと構えた鈴は、一気にゴスペルの背後から横凪ぎに振り抜く。

 実に気持ちの良い胸の空く様なフルスイングは、気が付いていた箒も、放った鈴も決まったと確信した。

 

「!!」

 

 だが、ゴスペルはそんな二人の考えを裏切る様に、背後から迫る青竜刀の刃を左手で受け止めて見せた。

 

「っ!なっ!?」

 

 盾で防ぐなり、武器で受けるなり、拳で弾くなり、そう言った事ならば鈴もある程度は予想が着いていた事だ。

 だが、事もあろうにゴスペルは防ぐのでも受けるのでも弾くのでも無く、左手の指で挟んで止めたのだ。

 コレには流石に驚きを隠す事は出来なかった。

 

「ぐっ!!こっおのおおおおおお!!!」

 

 双天牙月を止められた鈴は、叫びを上げて渾身の力を込める。

 まるで万力にでも絞められているかの如く、ゴスペルに止められた刃はビクともせず、押す事も引く事もままならない。

 

「凰!!そのまま動くな!!」

 

 ゴスペルの意識が鈴に向いた。

 これぞ好機とばかりに今度は箒がゴスペルに襲い掛かる。

 

「ちぇすとおおおお!!!!」

 

 勢いの乗った箒の一撃は、自身に取っても会心の一撃だった。

 

「!!」

 

 しかし、ゴスペルは箒の一撃すらも右手だけで受け止めて見せる。

 

「ぐっ!!っぬう!!!」

 

「あああああああ!!!」

 

 鈴と箒は渾身の力を振り絞ってゴスペルに対抗しようとするが、その二人の力を持ってしても尚、ゴスペルは押し返して優位に立ち続けている。

 

「っつあああああ!!」

 

 箒は更に力を込めて空裂を押し付けようとする。

 スペック上、最も出力のある紅椿が全力を発揮する事が出来るならば、今のゴスペルにも充分に対抗が出来る筈だ。

 だが、箒の操縦者としての技量が全力の発揮を妨げる。

 

「ぐうう!!!」

 

 箒は姉によって託された愛機の力を十全に使ってやれない事が歯痒くて溜まらない。

 嘗て、これ程までに自分の思い通りに成らない事は、経験として一度も無かった。

 力を尽くして、それでも届かずに居るのでは無く。

 力を尽くす事すらも許されず、追い縋る事も出来ない。

 これ以上の屈辱は無い。

 

「糞があああああ!!!」

 

 鈴もまた出来うる限りの力を振るう。

 全身全霊を掛けて目の前の敵に対抗しようとする。

 しかし、目の前の敵は余りにも強大すぎた。

 

「ぐぎぎぎぎぎ!!!」

 

 歯を食いしばって、機体の持てるほぼ全ての力を出して要るにも関わらず、ゴスペルは全く動じずに抑え続ける。

 技量ならば、成長で追い付く事も出来ただろう。

 経験の差ならば、創意工夫と言った物で補えただろう。

 だが、コレはただただ単純な機体のスペックと言う、個人では如何ともする事は出来ない事だった。

 だが、この二人の攻撃は決して無駄では無かった。

 今、この瞬間にゴスペルは完全に足を止めてしまっている。

 それは、彼女にとっては絶好のチャンスだ。

 

「二人とも避けろ!!」

 

 ゴスペルの真正面からラウラがレールカノンを放った。

 動きを完全に止めた状態の避ける術のないゴスペルは、ラウラの砲撃が直撃するのに抵抗など一切出来ない。

 

「っ!!」

 

「ぬっ!!」

 

 直撃の寸前、鈴と箒は手にしている刀から抑える力が抜けるのを感じた。

 その直後には爆発が起きて、爆風に二人は後に飛ばされる。

 

「まだまだ!!」

 

 ラウラの砲撃の後、更にシャルロットが25mmを撃ち込む。

 曳光弾の混じった機関砲弾は、夜の闇の中に赤い光の流星群を生み出して、爆煙の中に吸い込まれて消えていく。

 その間、鈴と箒は距離を取って二人の攻撃を見守っていた。

 普通のISが相手ならば、コレだけで充分に倒しきれただろうが、この場の全員がこの程度では無理だと確信していた。

 

「!!」

 

 その四人の期待に答えるかの如く、射撃の止んだ煙の中から白銀に輝く卵形の球体が姿を現した。

 その球体は、見ればゴスペルが自分の翼で護るように包み込んだ体勢の様で、ゆっくりと翼を広げると、

ゴスペルの本体が姿を現す。

 

「嘘でしょ・・・」

 

「無傷・・・か・・・」

 

 信じられない事に、レールカノンの榴弾と多数の25mm砲弾を受けても、ゴスペルには傷一つ付いていない。

 まるで悪夢でも見ているかの様な光景に、ラウラも珍しく動揺してゴスペルを見詰める。

 

「・・・」

 

 本当に信じられない光景だった。

 コレは悪い夢なのだと、直ぐに覚めて欲しいと全員が思った。

 レーザーをねじ曲げられ、近接戦で圧倒され、榴弾も徹甲弾も通用せず、何もかもが圧倒的な程に負けている。

 何一つ勝てる要素が存在しない。

 存在その物が反則だった。

 

「・・・」

 

 ゴスペルは何もしてこない。

 ただ呆然としているだけの四人に対して、何もせずに、興味を失った様に見向きもせずに明後日の方を向いている。

 最早、ゴスペルに取っては四人は脅威ですら無く、取るに足らない木石の様な物でしか無い。

 

「何なのよ・・・一体何なのよ!!アレは!!」

 

 鈴は激昂した。

 目の前に理不尽に対して声を荒げて吼えた。

 

「諦めないわよ・・・!私は!!絶対に諦めないわよ!!!」

 

 鈴は再びゴスペルに向かった。

 双天牙月を構えてゴスペルに向かって突っ込んで行く。

 

「鈴!!」

 

「止せ!凰!!」

 

 突然の鈴の蛮行に、シャルロットとラウラが静止の声を上げた。

 

「ぬえりゃああああ!!!」

 

 右上段に双天牙月を構えてゴスペルに斬り掛かる。

 何時も通り、訓練通りの全力を込めた一撃で斬り掛かる。

 向かってくる鈴に対して、ゴスペルは迎撃の構えを取る事すらしなかった。

 

「・・・」

 

 ただ振り下ろされる青竜刀を右手で弾いて、それから小蠅でも払う様に翼で打って鈴を退けた。

 

「っ!!」

 

 だが、それでも鈴は諦めなかった。

 諦めずに青竜刀を振り続けて、ゴスペルに向かい続ける。

 そして、その度にゴスペルに簡単にあしらわれても払われるが、それでも諦めずに挑み続けた。

 

「凰・・・もう・・・無駄だ・・・」

 

 箒は力無く鈴を止める言葉を放つ。

 

「五月蠅い!!」

 

 だがそれでも鈴は双天牙月を振り続ける。

 

「鈴・・・」

 

「・・・」

 

「五月蠅い!!五月蠅い五月蠅い!!」

 

 呼び掛けるシャルロットの言葉も聞かずに攻撃の手を弛めない。

 

「諦めてらんないのよ!!この程度で!!」

 

「・・・」

 

「止まってらんないのよ!!こんな所で!!」

 

「・・・」

 

「負けてらんないのよ!!こんな奴にいいいいいい!!」

 

 叫びながら振り続けた双天牙月を真横からフルスイングして、それを受け止められても決して力は抜かない。

 

「勝てない位で諦めてたら・・・何も出来なくなんのよ!!アイツの隣に居られなくなんのよ!!私が!!自分を許せなく成るのよ!!ここで諦めたら、アイツの隣で笑ってられ無く成るのよ!!ヘラヘラしてる自分にムカつくのよ!!」

 

「っ!?」

 

「私はねぇ!!アイツの事が本気で好きなのよ!!だから、簡単に諦めて!!泣いてんのが!!大っ嫌いなのよおおおおお!!!」

 

 鈴は吼えながら、牙を剥きながら、目を一杯に見開きながら、ゴスペルに挑み続けていた。

 抑えられた双天牙月は全く動く気配は無い。

 それでも諦めずに押し続けた。

 そこにあるのは、ただひたすらに意地だけだった。

 

「良く言いましたわ!」

 

 不意を付くようにセシリアの声が響くと同時にゴスペルにレーザーが放たれた。

 

「先程は弾かれましたが、それなら近づいて撃つだけの事」

 

 スターライトの物の他にビットから放たれた物を含めた五条の光線がゴスペルに向かって突き進む。

 そして、その全てがゴスペル本体に当たる事無く、弾いて流される。

 

「わたくしも、決して諦めませんわ!」

 

 セシリアは更に射撃を続けるが、そのどれもが一撃たりとも掠りもしない。

 それでもセシリアは引き金を引き続けた。

 

「絶対に、絶対に、絶対に、絶対に諦めませんわ!」

 

 表情を歪め、髪を乱して、優雅さの欠片もない姿でも諦めずに撃ち続けた。

 

「わたくしが負けたと思うまで、負けではありませんわ!だから、わたくしは絶対に負けません!!」

 

 レーザーがダメならばと、ミサイルを撃ち込んでみるが、それも一切効果を上げない。

 それでも全く諦めずに撃ち続ける。

 ライフルの銃口が熱で赤く焼けてしまっても、それでもセシリアは全く諦めようとはしなかった。

 

「わたくしは誇りある英国の淑女として、最期まで意地を張って見せますわ!!」

 

 猛々しく、しかしその姿は何とも美しい。

 

「・・・不可能と言う文字は愚か者の辞書に存在する」

 

「何?」

 

 不意に、シャルロットが呟いた言葉にラウラが反応する。

 

「僕はまだ愚か者には成りたくないかな・・・まあ、さっきまでなりかけだったんだけどね」

 

「・・・」

 

「でも、まだ間に合うよね」

 

 シャルロットの問い掛けの様な言葉に、ラウラは一度上を見上げてから口を開く。

 

「真に価値無きは、自らを無価値と思う者・・・」

 

 そう言葉にして、ラウラはシャルロットに顔を向けて笑みを浮かべた。

 

「ドイツ軍人として後退の二字は有り得んな」

 

 そうして、また二人が戦いに身を投じた。

 一度は挫けた二人は、再び起ち上がって、そして立ち向かって行く。

 限りなく無駄に近いと知りながらも、それでも二人は先の二人の後に続いて攻撃に参加する。

 そんな姿を箒は、ただただ見詰めている事しか出来ないでいた。

 

「・・・」

 

 箒とて、一度は武に邁進し、道を歩いてきたと言う自負はある。

 その思いは、今も尚、彼女の中で燻り続けていて、あの四人と共に戦えと叫んでいる。

 だが、箒は指一つ、眉一つ動かす事が出来ないでいた。

 

「・・・無駄だ」

 

 嘗て歩いてきた道が無駄だったと、捧げてきた思いが汚れてしまっていたのだと、そう気が付いたあの時から、箒は一歩たりとも進む事が出来ないでいる。

 自分の全てが泡沫の物だったのだと悟ってしまった。

 絶望的なまでの虚無感を味わってしまった。

 故に、箒の身体は拒否してしまう。

 もう一度歩き出す事を拒否してしまう。

 更なる絶望を知る事を恐れて、再び空虚を味わう事を恐れて、全身全霊が拒否してしまう。

 

「・・・」

 

 だからこそ、箒は一夏に惹かれていた。

 恋い焦がれて、憧れて、追い求めて、そして妬んだ。

 決して変わる事無く、澄み渡った清流の如く、何物にも染められずに、自由で、真っ直ぐで、輝き続けていた。

 箒は変貌してしまった自身に失望し、変貌しない一夏に憧憬を抱いき、自分の持つ事の出来なかった物を持っている一夏に強く引き寄せられた。

 もう一度、自分も戻れるかも知れないと言う、微かな希望胸に抱いて一夏を欲した。

 そして、箒は気付いてしまった。

 あの時、力を手に入れた自分は何も学ばなかったのだと言う事を、一夏への愛の全てが醜い欲望と自己愛から来るものだと、気が付いてしまった。

 故に、箒は動く事が出来ない。

 今一度、自身に失望してしまったから。

 三度目の絶望の味を恐れてしまったから。

 これ以上、自分に失望して自分が傷付きたく無いから。

 

「っつう!!」

 

「くっ!!」

 

「うあ!!」

 

「っ!!」

 

 四人がゴスペルに容易く弾き飛ばされた。

 

「・・・」

 

 何とも滑稽で無駄な足掻きをしたものだと箒は嗤う。

 

「・・・いや・・・滑稽なのは私か・・・」

 

 顔を伏せた箒は、今度は自分を嗤う。

 

「・・・」

 

 箒の手から空裂がスルリと抜けて海へと落ちて行く。

 虚無に支配されて戦う意味を失ってしまった箒には、刀を握っている事が出来なくなってしまった。

 せめて、嘗て剣の道に邁進した者として、これ以上は刀を汚さぬ様にと箒は嗤う。

 空っぽの抜け殻に成ってしまった。

 箒の恋が今、二度目の終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落とし物だぞ?箒」

 

 だから篠ノ之箒は、三度、織斑一夏に恋をした。




ヤベぇ・・・強くしすぎた。
これ、勝の無理じゃ無いですかねぇ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。