一夏の友人は常識人の夢を見る   作:hggj

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第三話

「あら・・・逃げずに来ましたのね」

 

「デュフフフwww吐いた唾は飲み込めませぬからなwww」

 

 歩いてアリーナの中央まで出て来たオタクに対して、セシリアは本当に来たのかと言う風に反応し、それからオタクの格好を見て眉をひそめた。

 

「所で貴方・・・まさか生身で戦う等と仰るおつもりですの?」

 

「wwwそんな訳無いで御座るwww常識的に考えて欲しいで御座るwww」

 

 相も変わらず相手を煽っていくスタイルを崩さないオタクだったが、セシリアの反応というのは、オタクの予期していた物よりも幾分マイルドな物で、憑きものの晴れた様な表情をしている様に見受けられた。

 

「一夏氏と何か有った様で御座るなwwwチョロイン乙で御座るwww」

 

「良いから早く準備をして下さいませ」

 

「オッフwww無視はひどいで御座るwww」

 

 仕方が無いと言うように、オタクはセシリアに促されて自身のISを纏うための準備に入る。

 足を肩幅に開いて胸を張ると、何時になく真面目な表情をして、セシリアを見据える。

 

「行くで御座るよ」

 

「っ・・・!」

 

「・・・ファイナルフュージョーン!!」

 

「真面目にやれぇぇえええ!!」

 

 最早何処で見ていたのかと言うほか無い一夏の突っ込みが響く中、オタクは眩い光に包まれながら僅かに中に浮遊した。

 途中回転しつつ、何処からか新幹線と飛行機のエンジン音が聞こえてくる気がしつつ、光が治まると同時にオタクが遂にその姿を現し、そして叫んだ。

 

「それはw最強の破壊神wwwそれはw勇気の究極なる姿www我々が辿り着いたw大いなる遺産wwwその名はwww勇者王wwwジェネシックwwwガオガイガーwww」

 

 全体的に角張った四角い機体は安っぽい茶色に塗られており、肩や足などには何処かで見た事のある通販サイトのロゴマークが描かれている。

 まさに夏休みの工作クオリティーな見た目の胸に描かれた六文字のアルファベットが眼を引く。

 その姿を見た瞬間に、見ていた全ての人間が絶句し唖然とし、観客席に出て来た一夏が叫ぶ。

 

「ガオガイガーじゃねぇ!!段ボールじゃねぇか!!」

 

 この瞬間、善くぞ言ってくれたとばかりにクラスメイト達の視線を一身に浴びる一夏は、突っ込みが終わると友人の戦いを見るために席に着いた。

 

「な・・・何なんですの!その巫山戯た姿は!」

 

「デュフフフwww拙者の専用機で御座るwwwその名もダンボールで御座るwww」

 

 余りにあんまりな姿に言葉を失うセシリアを余所に、オタクは自身の言葉が本当である事を証明するために中に浮いて見せた。

 

「この通り飛べるで御座るwww」

 

「・・・本当にIS でしたのね・・・と言うか飛べるんですのね・・・まあ、良いですわ」

 

 疲れた様に言うセシリアは、一つ溜息を吐いてから表情を引き締めてオタクに言った。

 

「降参するのなら今ですわよ?」

 

「www拙者にも意地はあるで御座るwww」

 

「そうですか・・・それならば踊りなさい!わたくしのブルー・ティアーズとロンドを!!」

 

「拙者、ロックの方が好きで御座るwww」

 

 互いの宣言が放たれるとほぼ同時に、セシリアがライフルを撃ちながら右方向へと飛び去った。

 それに対して、オタクは後に仰け反ってバク転の要領で地面へと下降していく。

 

「ブルー・ティアーズ!」

 

 最初から本気とばかりにセシリアが四機のビットを放つと、地上スレスレのオタクに対して集中砲火を掛ける。

 

「当たらなければwww如何と言う事は無いwww」

 

 ここで、オタクはまさかの回避能力をセシリアに見せ付ける。

 連続で放たれた八本の光線をスケートの様に地上を滑走しながら躱すオタクは、途中で明らかに必要の無い回転を交えて笑った。

 

「トリプルアクセルで御座るwww」

 

「っ!この豚ぁ!!」

 

 オタクの煽りに耐えられなくなったのか、セシリアは顔を真っ赤にして激昂しながら更に攻撃を集中させた。

 

「オッフwww最近の若者はキレ易いで御座るwww」

 

 猶も余裕を見せて笑いながら地上を滑走するオタクは、セシリアの攻撃の合間を縫ってセシリアの方を向く様にバックの姿勢になると、武器を取り出した。

 

「シャキーンで御座るwww」

 

 全長約3m程のライフルは、ややクラシカルなライフルグリップにバットストックとハンドガードが一体になった物で、本体の右側に手動操作用のボルトとエジェクションポートが備わっている。

 

「反撃の時間で御座るwww」

 

 引き金を引く度に撃発するセミオートマチックのライフルから吐き出された三発の20mmの砲弾は、秒速1200mの高初速で上空のセシリアに向かって飛翔した。

 

「っ!」

 

 オタクがライフルを取りだしたと同時に、セシリアは即座に回避行動を取る。

 それまで滞空しながらビットの操作に集中していたのだが、手に持ったライフルの射撃に切り換えて、オタクを中心にして右に水平移動し始めた。

 

「デュフフフwww少し掴めたで御座るwww」

 

「何をっ!!」

 

 オタクは小さな回転半径でセシリアに向かい続け、それに対してセシリアは高速で大きく回転半径を取りながら飛ぶ。

 高低差は在る物の、まるでボクシングのアウトボクサーとインファイターのジャブの差し合いの様相を呈して来た二人の戦闘は、開始から五分経っても尚、互いにノーダメージのまま推移して行く。

 連射能力と言う点に置いてはオタクの持つライフルの方が勝る物の、二十発の弾倉で在るが故にリロードと言う弱点が在った。

 それに対して、セシリアの持つスターライトは一撃の破壊力でオタクを圧倒し、また、リロード不要と言う利点を生かして連続して射撃を浴びせ続ける。

 傍から見れば高高度を維持して射撃を続けられるセシリアの方が有利で在るように見えるのだが、常に高速で飛行を続ける為に狙いの正確性が低下してしまい、少ない動きで安定した射撃姿勢を取り続けられるオタクは高度的な有利を持つセシリアにも対抗する事が出来ていた。

 

「くっ!しぶといですわね!!」

 

 現状に焦り、思わずじれったい思いを口にした瞬間、オタクが動いた。

 

「ミッソー!ミッソー!」

 

 セシリアの射撃の隙を突いて急激に方向を転換して右に一瞬スライドすると、背中から二発のミサイルを発射した。

 

「なっ!?」

 

「デュフフフwww武器はライフルだけでは無いで御座るwww」

 

 高速で飛翔するミサイルに驚きつつ、セシリアは直ぐに回避行動に移る。

 射撃を止めて姿勢を水平にして高速飛行に入り、アリーナの内壁スレスレを飛びながら背後に迫るミサイルを目視で確認した。

 

「は、早いですわ・・・!」

 

 振り切る事が出来ないと判断したセシリアは、隠して置いたミサイルを使って迎撃する事を決める。

 セシリアの目論見通り迎撃に成功するが、合計四発のミサイルが空中で爆発すると、直ぐ近くで爆風と破片の直撃を受けたセシリアは、僅かにダメージを受けながら弾き飛ばされ、地面にぶつかる寸前で体勢を立て直して着地した。

 

「何処に・・・っ!」

 

 ミサイルを放った張本人は何処かと、本能的に首を降って確認しようとしてしまうが、その動きは明らかな無駄だった。

 ハイパーセンサーで360度を確認できる以上、その動きは僅かな隙を作るだけでしか無く、敵が居ない方にも向いてしまうのは次の行動へのタイムラグとなってしまう。

 そして、セシリアはもう一つのミスを犯してしまっていた。

 

「っ!!?」

 

 敵を見失った状態で動きを止めた上に、上方への警戒を最後に回してしまったセシリアは、上空からの射撃をもろに受けて左側のアンロックユニットを喪失してしまう失態を犯した。

 

「デュフフフwww」

 

 オタクの笑い声を耳に聞きながら、セシリアは唇を噛んで悔しさに顔を滲ませて、右方向へと水平移動を開始した。

 

「ブルー・ティアーズ!」

 

 二機減ったしまったビームビットを放ってオタクに牽制しながら、セシリアは機体の高度を上げてオタクを見据える。

 

「最早、容赦はしませんわ!!」

 

 今度は、オタクの方がビットに追われながら回避飛行を取る番になり、本気で落としに掛かったセシリアの攻撃に、数発の被弾を許してしまった。

 

「オッフwww拙者、そろそろ不味いで御座るwww」

 

 折角のダメージアドバンテージを直ぐに覆された挙げ句に、状況としても完全に劣勢に立たされたオタクに、見ている全員が勝負は決まったと確信した。

 

「そこですわ!」

 

 オタクが寸での所でビットから放たれた光線を回避した所に、一瞬だけビットの制御を手放してスターライトを構えて引き金を引くと、オタクは、全く対応できずに強力な一撃の直撃を受けた。

 

「ぐうっ!!」

 

 巫山戯る余裕すら無く撃たれたオタクは、直撃の反動でアリーナの障壁に高速でぶつかり、激しくクラッシュしながら地面へと叩きつけられた。

 

「オッフwww・・・ミンチになるところで御座ったwww」

 

「コレでチェックメイトですわ」

 

 辛う自でシールドエネルギーが残ったオタクが土煙の中で立ち上がると、直ぐ後にセシリアがスターライトを構えて降り立った。

 

「降伏なさい」

 

 冷たく言い放つセシリアは、油断無くライフルを構えて銃口を後頭部に向ける。

 そんなセシリアに、オタクは動かずに言った。

 

「セシリア氏」

 

「?何ですの?」

 

『獲物の前で舌舐めずりは三流のする事だぞMissオルコット』

 

「なっ!?」

 

 いきなり流暢な英語で言ったかと思えば、オタクの機体からスモークが撃ち出されて、煙に包まれてしまう。

 驚きながら留めを刺すためにスターライトの引き金を引いたセシリアだったが、手応えは無く。

 仕留め損ねたセシリアがスラスターを噴かして右にスライドして煙から出た瞬間、目の前にライフルを構えたオタクが現れた。

 

「この距離なら外さんで御座るよwww」

 

 迎撃にしようとするセシリアに、無情にも20mmの徹甲弾が続けて撃ち込まれ、その内の一発がセシリアの手に握られていたスターライトの銃身を撃ち抜いて破壊した。

 

「インターセプター!!」

 

 銃を失ったセシリアは近接用の武装の名を叫んで展開し、不得意ながらも接近戦に持ち込もうとした。

 しかし、それと同時にオタクが銃口をセシリアに向けながら叫ぶ。

 

「着剣!」

 

 長銃身のオタクのライフルの銃口の下に刃渡り50cm程度の片刃が現れ、それと同時に槍の様に突き出した。

 

「大和魂を見せてやるwww」

 

 片や短剣を持って向かうセシリア、片や銃剣を突き出して迎えるオタク。

 オタクのダンボールのシールドエネルギーは既に雀の涙と言う所に達しており、オタクに取ってはコレが最後の攻撃のチャンスだった。

 

「っ!」

 

 オタクの繰り出した銃剣は、ブルー・ティアーズの残っていた右側のアンロックユニットに突き刺さり、大きくシールドエネルギーを削るが、留めを刺す程には至らなかった。

 

「ブルー・ティアーズ!!」

 

 セシリアが叫ぶと、二機のビットがオタクのライフルに向かって体当たりして、銃を弾き飛ばすと、そのままセシリアは無防備のオタクに肉迫して短剣を振るった。

 

「試合終了!勝者セシリア・オルコット!!」

 

 戦いの終わりを告げる千冬の声がアリーナに響き、模擬戦の様子を見ていたクラスメイトから歓声が上がる。

 

「デュフフフwwwこんなに激しくおにゃのこ様からアタックされたのは初めてで御座るwww」

 

「貴方・・・もう少し真面目に出来ないんですの?」

 

「サーセンwww」

 

 終わってみれば、セシリアのシールドエネルギーは20パーセント程を残しており、序盤から中盤に掛けて余力を残しながら戦っていた事や、最後の降伏勧告の事なども考えれば明らかなセシリアの圧勝と言えた。

 しかし、オタクが全く初心者らしからぬ戦闘能力を見せた所も事実であり、担任の千冬としては非常に実りの多い模擬戦であった。

 

 

 

 

 

 

 試合終了後、控え室に戻ったオタクはベンチに腰掛けると独り溜息を吐いて項垂れた。

 

「ああ・・・疲れた・・・」

 

 汗の染みこんだバンダナを取り、用意されていたタオルで滴る汗を拭うオタクは、全身を包み込む倦怠感に身を委ねてベンチに寝そべろうとするが、近付いてくる足音に気付くと、直ぐにバンダナを巻いて何時もの様に振る舞う用意をした。

 

「小田~!!」

 

 オタクの名を呼びながら入ってきた一夏は、オタクの姿を認めるなり勢い良く飛び付いた。

 

「オッフwww一夏氏w熱いハグで薄い本が厚くなるで御座るwww」

 

「小田!お前凄ぇよ!セシリアとあんなに戦えるなんて凄ぇよ!」

 

 自身よりも白熱した戦いを繰り広げた友人に称賛の言葉を浴びせる一夏は、興奮して彼に抱き付いたまま飛び跳ねた。

 

「い、一夏!何をやっているんだ!」

 

 開け放たれた扉から二人を見た一夏の幼馴染みの箒は、声を荒げて一夏につめよった。

 

「男か!?男が良いのか!?」

 

 箒の叫んだ言葉を聞いて興味を持ったらしい女生徒の幾人かが部屋の中を覗うと、イケメン少年が汗だくの大男に抱き付いて興奮し、その様子に怒りと共に抗議を上げる女生徒と言う何とも言えない光景が繰り広げられていた。

 

「わ、私そう言うの嫌いじゃ無いから!」

 

 誰が叫んだか、一人の女生徒の叫び声が廊下に木霊し、騒ぎを聞きつけた女生徒達が顔を覆う振りをして指の間から様子を覗い、黄色い声を上げながら鼻血を拭った。

 

「オッフwww凄い勘違いをされている予感www」

 

 騒ぎを聞きつけた千冬が女生徒を解散させ、一夏×オタクかオタク×一夏か等と考えていたオタクの頭に出席簿が叩き込まれるまでの三分間、この狂乱は続いた。

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