一夏の友人は常識人の夢を見る   作:hggj

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第三十九話

 夜の海の上空の闇の中で、一夏は不敵に笑って友人達の前に現れた。

 

「落とし物だぞ?箒」

 

 そう言って箒に空裂を差し出した。

 悪戯っぽいような笑顔で、一番の幼馴染みに刀を手渡す。

 

「一夏・・・」

 

 箒は自然と涙を流した。

 無事でいた事に涙した。

 

「一夏!!」

 

 一夏の直ぐ側に鈴が飛んできた。

 セシリアも、ラウラも、シャルロットも、皆一様に一夏の復帰を喜んで笑顔を見せる。

 

「待たせたな」

 

「待たせすぎよ!バカァ・・・!」

 

「悪い」

 

 片目を閉じて鈴に謝りながら、一夏はシルバリオ・ゴスペルに意識を向けた。

 

「・・・まあ、男としては、負けっぱなしじゃ居られないだろ?」

 

 精悍な男らしい顔付きでゴスペルを見上げるその横顔に、思わず鈴も箒も見とれて惚ける。

 

「・・・」

 

 白銀の余りにも美しい死の天使を前に、一夏は畏れもせずに見詰め続ける。

 

「行くぜ?」

 

 挑むような仕草で宣言すると同時に、一夏は一気にゴスペルに向かって飛び掛かる。

 一瞬でトップスピードにまで加速して、雪片二型を構える。

 

「・・・!」

 

 ゴスペルは一夏が動き出すのとほぼ同時に、迎え撃つ構えを取った。

 自身に向かってくる一夏に対して、ゴスペルは雨霰の如くに光の雨を浴びせる。

 

「っ!」

 

 一瞬、一夏は逡巡する。

 が、直ぐに迷いを斬り捨てて真っ直ぐにゴスペルへと向かった。

 弾丸の嵐の中を突き進み、最小の動きで敵の攻撃を躱し続け、肉弾の届く所を目指す。

 

「・・・!」

 

 ゴスペルのAIが一夏の判断を見て驚愕した。

 何の策も無い我武者羅な突進に、一瞬だけ硬直した。

 それを見た一夏が不敵に笑う。

 

「っつああ!!」

 

 ほんの一瞬、ほんの僅かな、瞬きほどの間だった。

 瞬時加速で一気に距離を詰めた一夏は気合いと共に雪片を一閃させた。

 

「!!」

 

 だが、ただで一刀を受けるほど、ゴスペルも甘くは無い。

 一瞬のフリーズから脱すると、直ぐに右の手刀を振るって雪片の刀身を弾いて流し、それから左手で返しの貫手を放つ。

 

「っ!」

 

 ゴスペルの貫手に対する一夏の反応は的確だった。

 ほぼノータイムでゴスペルの貫手を雪片で受け流し、そこからゴスペルの懐に入り込んで雪片の柄の頭を胸に突き込んだ。

 

「ったああ!!」

 

「!!」

 

 ダメージとしては大した物では無い。

 だが、この戦闘に入ってはじめて、ゴスペルは無防備のままで攻撃を受けた。

 ゴスペルは、目の前の一夏に対して警戒を最大限に引き上げた。

 

「・・・」

 

 一夏も一連の攻防からゴスペルの大まかな実力を感じ取った。

 その上で、一夏はゴスペルに対してのその強さを認めつつも、ラウラ達ほどには過剰に恐れは抱かない。

 何故ならば、一夏にとって、強力な相手、格上の相手と戦うと言うのは、何時だって当たり前の事だったからだ。

 学園に入ってから、学園に入る前から、一夏には目標がある。

 自分の目の前の道の遙か彼方を進むその背中を何時かは追い抜くと言う、細やかながら果てしない夢を追い掛けている。

 敵は常に自身を超える強者ばかり、対する自分は何時だって力不足。

 そんな一夏だからこそ、圧倒的な相手に対しても一分も恐れも気負いもしない。

 

「はあっ!!」

 

 刀を手元に引いて、担ぐ様な体勢から、一挙に斬り掛かる。

 一夏らしく真っ直ぐで迷いの無い剣は、迎え撃つゴスペルの指先と打つかり合って火花を散らした。

 ゴスペルの両の貫手に対して一刀のみの一夏は手数では劣る。

 にもかかわらず、一夏はゴスペルを圧倒して優位に立っていた。

 その様子を眺める四人はただただ驚くばかりだ。

 

「何故・・・一夏がアレほどに」

 

 一番信じられないのは箒だろう。

 箒でさえ、片手間のゴスペルとの撃ち合いに打ち負けたと言うのに、それでも一夏は余裕を持ってゴスペルの打ち合いを制しつつある。

 箒は開いた口も塞がらないと言う風に呆然とするしかなかった。

 

「っ!!」

 

 一夏の頬を汗が伝う。

 一夏自身、平静を保とうとしていたが、しかし、その実、見た目以上に消耗している。

 一夏は手数と攻撃の精度で勝る相手との打ち合いに対して、必死の思いで食らい付き、無理をしてでも攻撃に出続けている。

 箒がゴスペルの手刀、貫手を受けていなそうとしていたのに対して、一夏は無理矢理に先手を打ち続けて相手の攻撃の出足を潰し続ける。

 

「くっ!!」

 

 言うは易いが、しかし、実行するとなれば生半可な事では無い。

 だが、一夏は分かっているのだ。

 格上に対して守りに回ってもただジリ貧になるだけだと、コレまでの経験で熟知している。

 そして、一夏にとって、打ち合う事、相手の出足を潰す事、それが出来ている時点で普段から想定している相手よりも格段に劣る相手なのだ。

 

「うおおおおお!!」

 

 一夏は更に攻勢を強めた。

 この程度の相手に勝てなければ、一生掛かっても追い付かない。

 ゴスペルと戦う最中に、一夏はその先の相手に意識を向け始めたのだ。

 そこに幻想するのは、常に最強だった姉の姿。

 世界最強の背中を追い続け、その背の頼もしさと速さに己の未熟さを確認する。

 一夏にとって、本当に挑むべきは何時だって、目の前の相手では無く、常に先を行く背中だった。

 

「!?」

 

 ゴスペルのシステムに負荷が掛かる。

 言語化する事も出来ず、データにもグラフにも表す事の出来ない正体不明のバグがシステムに圧を掛け始めた。

 

「!・・・?」

 

 蓄積され始めたバグが、一瞬、ゴスペルの動きにラグを発生させる。

 その刹那の瞬間を一夏は見逃さない。

 

「っ!・・・そこだぁあああ!!」

 

 胸を狙った一夏の突きは、硬直から解けた直後

のゴスペルには完全に対処する事は出来なかった。

 

「!!!」

 

 闘いが始まって初めて、ゴスペルに対しての有効打が決まった。

 

「もう一丁!!」

 

 突きを放った姿勢から、直ぐに刀をひいて、今度は右からの横殴りの一撃を放つ。

 

「!!」

 

 しかし、流石に、コレにはゴスペルも対応して見せて、一夏の一撃は素気なく左手で弾かれる。

 

「チッ!!」

 

 攻撃が弾かれるや、一夏は、直ぐにゴスペルから身体一個分引いて体勢を立て直した。

 対するゴスペルも、不用意に追い掛けはせず、様子を見る様に一夏を睨む。

 

「スゴい・・・」

 

 シャルロットが思わずと言う風に言葉を漏らす。

 

「・・・」

 

 その隣で同意する様にラウラが一夏を眺めて頷く。

 二人とも決して一夏を侮っていた訳では無い。

 客観的に自身と一夏の強さの差と言う物を判定して、その上でゴスペルの強さには敵わないと判断していた。

 その筈なのに、一夏は、厳に目の前でゴスペルと互角の戦いを見せている。

 それは、本当に驚くべき事で有り、一瞬、ラウラは本当に本物の一夏なのかと疑った程である。

 

「っ!!」

 

 ゴスペルが動き出した。

 一瞬で間を詰めたゴスペルからの鋭い手刀に、一夏も直ぐさま反応して刀で弾く。

 一度の瞬きの間に幾度も繰り出される両者の剣と拳に、一度は加勢するかと考えたラウラ達は、直ぐにその考えを棄てた。

 

「っ!!」

 

 ゴスペルに一呼吸置かせたのは一夏のミスだった。

 それまで先手を取り続けた一夏は、一度互いに動きを止めてしまった所為で、ゴスペルに先手を譲ってしまった。

 

「くっ!」

 

 辛うじで、雪片を振るってゴスペルの攻撃を防ぐ一夏だが、その旗色が徐々に悪くなり始める。

 防戦に回った瞬間に、一夏の反撃の目を潰されて技量で勝るゴスペルに圧倒され始めたのだ。

 

「クソッ!!」

 

 苛つき紛れの言葉を吐きながら、一夏は現状を打開する案を考える。

 だが、怒濤の勢いのゴスペルの連撃が、一夏の思考を著しく阻害して、手を動かそうとする一夏を妨害した。

 

「っ!!しまっ!!」

 

 一瞬だった。

 ゴスペルが胸を狙った右の貫手を放った瞬間、一夏はガードのために刀を構える。

 だが、その動きはゴスペルの狙う所で、直ぐに手を引いて今度は一夏の顔面に左の貫手を出してきた。

 フェイントに掛かった一夏には、ガードは間に合わず、最後の足掻きに一夏は首を振って見せた。

 

「!!」

 

 一夏の眼前にゴスペルの指先が迫るが、次の瞬間に、激しい衝突音と共にゴスペルが弾き飛ばされた。

 

「大丈夫!一夏!」

 

「鈴!」

 

 一夏を救ったのは鈴だった。

 

「助かったよ」

 

 礼を言いながら一夏は鈴によって弾き飛ばされたゴスペルに向き直る。

 

「アンタ、身体大丈夫なの?」

 

 一夏と同じように、青竜刀を構えた鈴が言った。

 

「実はガタガタなんだ」

 

 笑いながら一夏が答えると、鈴はゴスペルから視線を外さずに返す。

 

「なら、病人は寝てなさい!!よっ!!」

 

 言いながら、鈴がゴスペルに突っ込む。

 上段から振り下ろした一撃は、しかし、容易くゴスペルに受け止められ、ゴスペルはそんな鈴に直ぐに反撃に出ようとする。

 

「この程度!!屁でも無いさ!!」

 

 だが、鈴の後から一夏が現れてゴスペルの攻撃を弾いた。

 

「なら泣き言言ってんじゃ無いわよ!!」

 

 直ぐさま鈴が一夏に合わせてゴスペルに再び双天牙月を振るった。

 横凪の一撃を、ゴスペルは後に宙返りするように躱して見せるが、再び鈴の姿を捉えた時、そこにもう一人の姿が無い。

 

「もうちょっと優しくしても良いだろ!!」

 

 次の瞬間、ゴスペルを背後からの一撃が襲った。

 

「!!?」

 

 あの一瞬でゴスペルの背後に移動していた一夏が、後から斬り付けたのだ。

 コレには、ゴスペルも反応できず、ほぼ無防備で一夏の雪片の一撃を受けた。

 

「帰ったら優しくしてやるわよ」

 

「そうかい・・・なら、無事に帰らないとな」

 

 一夏と鈴が並んで刀を構えた。

 

「!!」

 

 相対するゴスペルは、鈴に対する戦力評価を書き直す。

 明らかにさっきまでの鈴の動きとは違っているとゴスペルは判断するが、しかし、何故、いきなり見違えるほどに強化されのかが、ゴスペルには分からない。

 

「行くぞ!!」

 

 再び一夏と鈴がゴスペルに向かう。

 

「!!」

 

 二人の接近を嫌ったゴスペルは、直ぐさま対応策を講じる。

 背中の翼を広げると、二人に集中してシルバ-・ベルの射撃を見舞った。

 

「っ!」

 

「んのお!!」

 

 出鼻を挫かれた二人は、直ぐに回避行動を取ろうとするが余りにも間が無かった。

 

「ッハア!!」

 

 直撃の直前、一夏は咄嗟に鈴を護ろうと前に躍り出た。

 自分の身を楯にしてでも鈴を護ろうとした咄嗟の行動は、しかし、無駄に終わる。

 

「嫁よ、大事ないか?」

 

 寸での所でラウラが一夏とシルバー・ベルのエネルギー弾の弾幕の間に身体を滑り込ませ、右手を掲げてAICを発動させた。

 

「・・・ああ!ありがとう」

 

 接近を防いだゴスペルの目論見は中った。

 だが、この場に居るのは一夏達だけでは無い。

 

「つぇああああああ!!!!」

 

 箒がゴスペルの頭上から斬り掛かる。

 

「!!」

 

 意図していなかった頭上からの強襲は、ゴスペルのシステムに負荷を掛ける。

 その負荷によって鈍ったゴスペルは、僅かに遅れて反応して右手で攻撃を防ぐが、箒はそれが狙いだった。

 

「そこだぁぁぁあああ!!」

 

 気合いを込めた叫びと共に、箒は左手で雨月を抜き放って二撃目を見舞った。

 

「!!」

 

 ゴスペルは一瞬身を引いてこの攻撃を躱すと、今度は自分から手刀を繰り出して箒に反撃に出る。

 

「そこぉ!!」

 

 だが、箒も然る者。

 先程までの一夏の戦い方を見て学習した箒は、繰り出そうとしたゴスペルの手刀を空裂で潰し、更に雨月を上段から振り下ろす。

 

「!?」

 

 やはり、鈴同様にさっきよりも動きの良い箒に、ゴスペルは再び戦力評価を書き直しながら振り下ろされる刀を右の手刀で受ける。

 手刀と刀が打つかって火花が散り、ゴスペルの動きが僅かに鈍る。

 

「はあっ!!」

 

 一撃を受け止められた箒は、そこで動きを止めずにゴスペルに蹴りを見舞う。

 

「!!」

 

 予想外の箒からの蹴りに、ゴスペルは咄嗟にスラスターを噴かして躱し、そのまま距離を取ろうとした。

 

「逃がさないよ」

 

 ゴスペルが箒から逃げ様とすると、今度はシャルロットがゴスペルに向かってライフルで牽制する。

 夜空を切り裂く25mmの砲弾は、ゴスペルの眼前を通って闇に溶ける。

 それと同時にゴスペルは直ぐに反転して軌道を変更する。

 だが、それはシャルロットに取って思う壺だ。

 

「計画通り」

 

 シャルロットは、剣呑な目付きで口許を歪ませ、顔に似合わない邪悪な笑みを浮かべる。

 それと同時に、背中のコンテナを解放した。

 金属製の縦長のコンテナが開くと、中から表れたのは、剥き出しのジェットエンジンだった。

 

「それじゃ・・・逝くよ?」

 

 甲高い音と共にエンジンが始動すると、青白い炎がノズルから噴き出してラファールを強引に加速させる。

 

「っ!!」

 

 凄まじいGがシャルロットの身体を襲った。

 ISの機能によって軽減されて尚、体重の何倍もの重力が彼女の身体を押し潰して意識を奪おうとする。

 その極限の中にあっても、シャルロットは笑みを浮かべていた。

 

「!!」

 

 ゴスペルは危険を感じた。

 AIが恐怖を感じた。

 それと同時に最高速度で夜空に飛び出した。

 音を超えた速度で星の海の中を飛び回って、シャルロットを振り切ろうとした。

 しかし、背後から迫るジェットの甲高い音は、徐々に近付いている。

 その事実が、ゴスペルを心底恐怖させる。

 

「逃がさないって・・・言ったよね?」

 

 仄暗い微笑みを讃えたシャルロットの両手には、何時の間にか手斧が握られている。

 

「何故、フランス人って言うか知ってる?」

 

 シャルロットから逃れる為にゴスペルは急降下して海面ギリギリに向かう。

 

「元々フランス人はフランク人って言うんだよ?」

 

 だが、二発のターボファンエンジンで加速したラファールは容易くゴスペルに追い付いてしまう。

 

「!!?」

 

 今度はゴスペルは上昇し、フェイントを織り交ぜながらきりもみ飛行を試す。

 

「じゃあ・・・なんでフランク人って言うのかは分かるかな?かな?」

 

 それでも、シャルロットは完全にゴスペルの背後を取り続けた。

 

「答えは・・・フランキスカを使うからだよ!」

 

 そして、シャルロットは背後からゴスペルの翼にフランキスカを叩き付けた。

 

「!!!!」

 

「っ!僕は!!本当に!!怒って!!るんだから!!ね!!!」

 

 深々とめり込んだフランキスカを左手で掴んで支えにして、シャルロットは怨嗟の言葉を叫びながら右手のフランキスカを振るい続ける。

 

「シルバリオ・ゴスペルなんて、大層な名前で!!君にはレクイエムがお似合いだよ!!!」

 

 まるで毟り取るように、シャルロットはゴスペルの背中の翼の内の一つを破壊した。

 

「シャル!!」

 

 シャルロットに掴まれた状態で跳ぶゴスペルの前に、一夏が出た。

 

「一夏ぁ!!」

 

 シャルロットは、一夏に気が付くと直ぐに、ゴスペルの機体を掴んで、そのままエンジンを噴かして一夏の方へと無理矢理向かわせる。

 

「逝くよ!!一夏!!」

 

「来い!!!」

 

 一夏は雪片を構えた。

 姉と同じ最強の刃を剥き出しにして、超音速で向かってくる目標を狙った。

 

「っ!!」

 

 シャルロットがゴスペルを放して離脱すると、そのまま体勢を崩したゴスペルと一夏が交差する。

 交差する刹那、一夏は刀を振るってゴスペルの胸を刃で撫でる。

 零落白夜による絶大なダメージがゴスペルのAIをクラッシュさせ、そのまま海面に叩き付けられると水切りの様に海面でバウンドして、操縦者の保護機構が作動する。

 

「・・・」

 

 考えられる限りで最大のダメージを与えた。

 何だかんだで、一夏の方も消耗が激しく、最後の零落白夜の使用でエネルギーはほぼゼロに近い。

 また、かなり無茶な事をしたシャルロットのラファールも、機体全体にかなりのダメージを負っており、他の面子もエネルギーはギリギリだ。

 

「・・・頼むからお約束は無しで頼むぞ」

 

 一夏が冗談めかして呟いた瞬間、一番ダメージの少ないセシリアが一夏の側に寄って口を開く。

 

「やりましたの?」

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