一夏の友人は常識人の夢を見る   作:hggj

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第四十話

 セシリアが回復呪文を唱える十分ほど前、横田基地内の病院の一室をある男が尋ねていた。

 病室には女性が一人ベッドに寝かせられていて、その女性は、人の気配に気付いたのか、眼を覚まして上体を起こす。

 

「・・・貴方は?」

 

 病室の主である女性は、暗い部屋の中に佇む

一人の見慣れない日本人に声を掛けた。

 

「貴女の同盟国の人間ですよ。Missファイルズ」

 

「噂に聞くナカノスクールの人・・・かしら?」

 

 女性、ナターシャ・ファイルズの問い掛けに対してて、訪問者は苦笑して答える。

 

「その名前は少し古い。・・・まあ、同盟国の誼で名前だけでも名乗りましょう」

 

「不躾な人ね」

 

 不満げなナターシャに男は告げる。

 

「私は平内と申します」

 

「ヒラナイ?」

 

 ナターシャは今自分が何処に居るのかは正確には把握していなかったが、何となくは分かっていた。

 状況から察して、日本国内の米軍病院の何処か、恐らくは横田当たりだろうと考えていた。

 それ故に、目の前の男が何故居るのかが分からない。

 もっと言えば、海軍の人間も誰も居ない事が気掛かりで成らなかった。

 そんな彼女の疑念に答える様に、平内はアルカイックスマイルを浮かべて口を開く。

 

「疑問は有るだろうが・・・まあ、アレだ」

 

「?」

 

「知る必要の無い事って奴だ。アンタの立場なら分かるだろう?」

 

 そう言うと、ナターシャは短く嘆息する。

 

「何時から私は、クライムサスペンスの登場人物になったのかしら・・・」

 

「残念。現実は非情で有る。ってね」

 

 平内は、嗤いながら頷いて見せて、ナターシャに近づいて行って、ベッドの側の椅子に腰掛けた。

 それから、黒いバッグから紙束を取り出して読み上げる。

 

「ナターシャ・ファイルズ。階級は中尉、アメリカ海軍航空隊IS実証部隊所属、シルバリオ・ゴスペルのパイロット・・・」

 

「アビエイターよ」

 

「失礼」

 

 ナターシャの指摘に、平内は苦笑して訂正する。

 

「ゴスペルのアビエイター。出身はアイオワ州デモイン、母親は実業家、父親は上院議員。ハイスクール卒業後にアナポリスに入校、その後はパイロットを志す。ミス・アナポリス三年連続受賞、チアリーディングのキャプテンを二年務め、本格的に部隊配属後は美人過ぎる戦闘機乗りとして雑誌の表紙を飾る。過去には嘉手納、横田、三沢にも配属経験有り。去年からISのテスト操縦者になる」

 

「・・・それで?」

 

「まあ・・・何というか、絵に描いた様なエリート様って感じだな。・・・将来は大統領選にでも出るのかい?」

 

「それは私の決める事じゃ無いでしょう?」

 

 平内の嫌味に答えて、ナターシャは目の前の日本人を睨んだ。

 

「そんなに見詰めないでくれ。照れちまうよ」

 

「下手なジョークは言わないでちょうだい」

 

「・・・アメリカ人はジョークが好きって聞いたんだがな」

 

 残念そうな風にして口を尖らせた平内は、手にしていた紙の束をカバンにしまって、ナターシャを正面から見据える。

 

「中尉」

 

「何かしら?」

 

「あそこで何が有った」

 

「あそこ?」

 

「・・・何故中尉がここに居る」

 

「どう言う・・・」

 

 雰囲気の変わった平内は、ナターシャをやや避難げに追求して、質問を浴びせ掛けた。

 

「・・・何故君がここに居るのにゴスペルが動き続けている。一体、何が有ったんだ?」

 

「・・・」

 

 ナターシャは一瞬眼を伏せた。

 それから、窓の外に顔を向けて、暫し夜空を見上げる。

 それから意を決した様に口を開く。

 

「マスターチーフに助けられたわ」

 

「マスター・・・曹長か・・・て事は、小田が?」

 

「オタって言う名前なのかしら?」

 

 マスターチーフ、より正確にはMaster Chief Petty Officerと言い、正確な日本語訳は最先任上級曹長となる。

 某宇宙的なヒーローの事では無い。

 と言うか、オタクの階級は曹長なので、英語訳はSergeant Majorとなり、マスターチーフは誤りで有る。

 

「詳しい事は私にも分からないわ。・・・ただ、あの子が彼を気に入ったからかもしれないわね」

 

「気に入った?」

 

 平内は首を傾げた。

 知識としてISと言う物は理解しているつもりだったのだが、しかし、本当の所の細かいニュアンスにまでは理解が及んでいない。

 平内を始め、殆どの人間に取ってはISと言うのは、単なるパワードスーツの延長でしか無いのだ。

 

「あの戦闘の時・・・あの子のコアが異常に反応を示した」

 

「反応?」

 

「ええ・・・何と言うか・・・子供が初恋の男の子に会った時みたいな感じかしら」

 

「余計に分からん」

 

「・・・そうかも知れないわね」

 

 ナターシャは他人には分からないだろうと、少し寂しそうに笑う。

 

「まあ良い・・・それで、小田は何処に居るんだ?アイツだけまだ見付かってないんだ。空母の中は探し尽くしたし、何らなら海保に出動要請を出さなきゃ行けないんでね」

 

「・・・あの子・・・シルバリオ・ゴスペルは何処に居るの?」

 

「ああ?・・・まだ太平洋上だ」

 

「そう・・・ならそこに居るわ」

 

「どう言う・・・」

 

 平内には嫌な予感がしてきていた。

 ナターシャの言わんとしている事の意味が、理解できてしまったのに、それを拒もうと必死に頭を巡らせる。

 だがそんな平内の努力を吹き飛ばす言葉が、ナターシャの口から放たれた。

 

「今、あの子の操縦をしているのは、オタ曹長よ」

 

 

 

 

 

 

「デュフフフwww」

 

 不敵に笑ってみせるオタクは、視界に迫る二発のミサイルを見て確信した。

 

「どうにもwww何ねぇwww」

 

 自分の意志では全く機体を操る事は出来ない。

 全てはゴスペルに搭載されたAIがコントロールしており、オタクはただ何も出来ずに操り人形になるしか無かった。

 

「てか・・・なんでこんな事に?」

 

 実を言うと、オタクの意識が戻ったのはつい先程の事だ。

 丁度一夏によってゴスペルが撃墜された後、そこで漸く意識の戻ったオタクは、自分がどう言う状況にあるのかも分からないままに沈んで行く機体を浮かび上がらせた。

 そして、目の前に一夏とセシリアの姿を見付けた瞬間、年の離れた友人達に呼び掛けようとしたのも束の間に、自分がロックされた事を告げるアラートが鳴ったのだ。

 その時は、瞬時に回避行動をと思って右に飛ぼうとしたのだが、そんな自身の意志を無視する様に、機体は急上昇して一気に加速した。

 この段階で漸く、自由が利かない事と自身がゴスペルを纏っている事に気が付いた。

 

「www笑うしかねぇやwww」

 

 諦めたように笑うオタクは、それでも懸命に機体をコントロールしようと藻掻く。

 だが、そんなオタクの抵抗を嘲笑うかの様に、ゴスペルは自由気ままに夜空を切り裂いて飛翔した。

 

「ってか・・・今のミサイルは?」

 

 疑問に思った事を口にすると、視界の中にHUDが表示された。

 

「AAM4?」

 

 99式空対空誘導弾。

 国産の中距離空対空ミサイルの事で、ニッポンの面妖な技術者達の創造性と技術の粋を集めて造られた変態ミサイルである。

 

「コレは・・・平内の言っていた奴か?」

 

 オタクは友人の平内の言っていた事を思いだして、現状を想像する。

 現在、暴走状態にあるゴスペルに対して、自衛隊は出動を決定し、行動を開始していた。

 三沢基地の302飛行隊と松島に移動していた303飛行隊が出撃し、現在はF-15装備の303飛行隊がゴスペルに対しての初撃を放った所だ。

 自衛隊側の作戦としては、303のF-15が攻撃を行った後、302がF-35のステルスを生かして接近、両隊による波状攻撃を実施してゴスペルに高度制限を掛ける。

 その後、海上自衛隊の護衛艦かがを飛び立った戦闘機隊による攻撃を実施し、航空と海上の飛行隊の連携でゴスペルを低空に縫い付けつつ護衛艦隊の方へと誘導、最後は護衛艦からも速射砲と艦対空ミサイルによる集中攻撃で撃破を狙う。

 そして、ゴスペルは順調に自衛隊の戦略に嵌まりつつあった。

 

「っ!!」

 

 ゴスペルの機動は素晴らしいの一言に尽きる。

 恐らくは前IS中でも最高峰の機動力だろう。

 だが、そのゴスペルの機動力を持ってしても、複数方向から飛んでくるミサイルを避けきる事は出来なかった。

 

「くっ!!」

 

 ゴスペルの白銀の装甲が直撃するミサイルで黒く煤けて、衝撃でパーツが弾き飛ばされる。

 

「・・・最強の兵器かwwwこの程度で最強かwww」

 

 オタクは自嘲した。

 ゴスペルのAIは必死になってミサイルの発射母機を特定しようとした。

だが、100km以上も離れた彼方を、音速に近い速度で飛び回る戦闘機を捉える能力は、ゴスペルにも、ましてや他のISにも備えられて居るものでは無かった。

 世界最強の兵器を名乗ってきたインフィニット・ストラトスと言う人形は、いざ実際に戦ってみれば、たった一機の旧世代の戦闘機すらも捕捉する事も叶わないでいる。

 

「俺の言った事は正しかったな・・・」

 

 嘗てクラスメイト達に向けて放った一言は、今、自分自身が纏った状態で証明されようとしていた。

 その事をオタクは嗤った。

 

『ピンポンパンポーン!やあやあ!ブタ君元気にしているかな?』

 

 無常感に包まれていたオタクに声が掛けられた。

 

「ッチ・・・」

 

『どうやら元気ないみたいだね~!いや~!愉快愉快!!』

 

 篠ノ之束は、オタクが危機に陥っている事に対して愉快だとのたまった。

 その事がオタクの神経を逆なでて、酷く不快にさせる。

 

「何の用だよ・・・」

 

『いや~!最後に君に面白い事を教えてあげようと思ってね』

 

 何かと問えば、束は実に嬉しそうに答える。

 

『実を言うとね~束さんの目的は最初から君の抹殺だったんだよ!』

 

「あん?」

 

『兼ねてから君の事が邪魔で邪魔で仕方が無くてね~。このために態々アメリカの大統領さんの思考誘導までしたんだよ!どう?凄いでしょ』

 

「・・・マジかよ」

 

 とんでもない事を言い出す束に、オタクは戦慄して言葉を漏らす。

 その反応が気に入ったのか、束は更に得意げになって言う。

 

『安心してね!君が死んだ後は束さんが責任を持って、君に関わった人達をデリートしてあげるから!』

 

「は?」

 

『束さんの理想の世界には君みたいな害虫は要らないからね!君に関わりがあるならそれも同じ害虫だもんね!』

 

 オタクは束の言っている事を理解するのが億劫になった。

 束は自分の理想の世界を造ると言っている。

 自分に従わない者、自分追いにそぐわない者、自分の気に入らない者、その全てを消し去って自分の理想郷を造ると言っている。

 そんな狂人の言葉を聞いて、オタクの中にふつふつと怒りが湧いてくる。

 

『君の所為でいっくんも箒ちゃんも変に成っちゃったし、チーちゃんも汚されちゃったし。皆を元通りにしなきゃいけないから大変だよ』

 

 この瞬間に、オタクは真の意味で篠ノ之束と言う天災を理解してしまった。

 この天災にとって自分以外の全ての物事は取るに足らない事であり、愛していると言って憚らない人物達も、それは愛用の玩具を指して言っているのと変わりが無いのだと。

 束は、何の矛盾も無く、無意識の内に自分の事を神の様に考えているのだ。

  それを分かってしまったオタクは、人生で感じた事の無い程の怒りを覚えた。

 

「巫山戯るな!!貴様は人を!!世界を何だと思っているんだ!!」

 

『何を言ってるのかな?束さんにとってはそんなのどうでも良いんだよ?コレだから理解力の無いゴミは』

 

「お前は!!お前は子供だ!!人形の手足をもいで遊ぶ子供と同じだ!!」

 

 こんな女に世界は滅茶苦茶にされたのかと、そう思うとオタクの身の内に怒りと無念が込み上げって止まらない。

 オタクは思ったのだ。

 篠ノ之束を野放しにしてはいけない。

 生かしておいて良い存在では無い。

 存在その物を許してはいけない。

 コレは生存競争なのだと直感する。

 人類と篠ノ之束と言う天災の、存亡を掛けた戦いなのだと、オタクの本能が感じた。

 

『何だか束さん疲れちゃった・・・君みたいに頭が悪いのと話した所為だね』

 

「貴様っ!!」

 

『じゃあね~』

 

 それを最後に通信が一方的に切られた。

 

「くっ!!」

 

 その直後にゴスペルにミサイルが直撃した。

 

「クッソ!!」

 

 オタクは怒りと遣る瀬なさを感じて、懸命に機体をコントロールしようとする。

 だが、どれだけ無理矢理に身体を動かそうとしても、ゴスペルは全く言う事を聞かない。

 

「っ!!」

 

 オタクは無い頭を振り絞って考える。

 その内にある疑問が浮かぶ。

 今、自分がゴスペルを纏っているなら、ダンボールはどうなっているのかと言う事だ。

 

「・・・一か八か」

 

 コレがダメなら諦めるしか無いと考えて、オタクは最後の賭に出る。

 

「強制停止!!」

 

 オタクは望みを託してISの強制停止を実行する。

 とどのつまり、待機モードに移行させる為の強制命令を出した。

 

「うおっ!!」

 

 オタクは賭けに勝った。

 展開されていたシルバリオ・ゴスペルが解除されて、オタクは生身のままで夜空に放り出された。

 この時一番驚いたのは、攻撃していた自衛隊のパイロット達である。

 目標のゴスペルが突如としてレーダー上から影も形も無くなってしまったのだから、かなり驚いた。

 ステルス機能も何も無いと聞かされていたが故に、パイロット達は不測の事態を恐れて空域を離脱する方向で動き出す。

 その結果、オタクは本当に誰も居ない夜空に一人でノーロープバンジーを決める事に成った。

 

「うおおおおおおおおお!!!!」

 

 この時のオタクの心境は、第一に寒い、第二に痛い、第三に怖いの3つで、オタクは空気の壁が身体を殴り付けられながら極寒に震えて、何時海面に叩き付けられるかと言う恐怖に耐えた。

 そんな状況で、オタクは懸命に時間を数える。

 自衛隊のレーダーから逃れるには、直ぐにISを展開するわけには行かず。

 海面ギリギリで展開するしか無い。

 その海面までの到達時間を懸命に数え続けた。

 早すぎれば、再び攻撃に晒され、遅ければ海の藻屑と消える。

 

「っ!!動けぇえええ!!!」

 

 叫ぶと同時に、オタクは自身の愛機を呼び出す。

 身体が光に包まれて、身体を打つ空気の壁が取り払われると、直ぐにオタクの身体を浮遊感が支配する。

 

「っ・・・!」

 

 閉じていた瞼を開けば、ISの機能によって明るく写し出された視界が、直ぐ足下の海面に気付かせる。

 

「・・・」

 

 一先ず命は助かった。

 そう安堵するオタクは、直ぐに緊張感に襲われた。

 果たして機体は言う事を聞いてくれるのかと、オタクの背中を冷や汗が伝う。

 

「・・・」

 

 意を決したオタクは右手を前に出してみる。

 そうすると、オタクの思った様に右手が動き、それからオタクは愛用のライフルを格納領域から取り出す。

 

「成功・・・か?」

 

 機体は完全に制御下に有った。

 AIはシャットダウンされ、煤けてボロボロに成った白銀の天使は、完全にオタクの意志通りに動いている。

 この瞬間に、ありとあらゆる情報が錯綜し、思想や思惑の交差した福音事件は終息した。

 そう感じたオタクは安堵の溜息を漏らして、それから通信回線を開く。

 

「一夏氏www拙者wwwオタクで御座るwww」




何だか、最後が適当な感じになって申し訳ない。
正直、話を広げすぎて収拾が付かなくなりました。
あと、好い加減に飽きました。
今回の失敗は完全に時間を掛けすぎた所為で、勢いを失ってしまった事に有るでしょう。
やはり、続き物の時は短期間で一気に走り抜けた方が良いですね。
読んで頂いてありがとう御座いました。
次回からは普通に戻ります。


PS ぐらんぶるの実写化が愉しみな様な、恐ろしいようなwww
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