一夏の友人は常識人の夢を見る   作:hggj

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第六話

「それで、結局一夏氏が主人公的な感じで終わらせたで御座るかwww」

 

「笑い事じゃねぇよ・・・ほんとに死ぬかと思ったんだぞ?箒も変な時に出てくるし・・・」

 

「www」

 

「草生やしてんじゃねぇよ」

 

 オタクがアリーナに着いた時には、全ては終わっていた。

 一夏と鈴の二人が共闘する事で、アリーナに現れた不明ISを撃破する事に成功し、閉じ込められた生徒達も解放された。

 ただ、一夏だけは最後の一撃とばかりに放たれたレーザーの直撃を受けてしまい、今は医務室のベッドに寝ていた。

 

「何か入学してからこんなんばっかだ俺って」

 

「それが一夏氏の運命で御座るwww」

 

「こんな運命冗談じゃ無いよ」

 

 幸いにも、一夏の怪我はそれ程酷いものでは無く、一晩安静にすれば大丈夫だとの事で、周囲の人間は皆胸を撫で下ろした。

 

「それで、幼馴染みのおにゃのこ様とは仲直りは出来たで御座るか?」

 

「ああ、まあ、何とか」

 

「それは良かったで御座る」

 

「ただな・・・」

 

 オタクの言葉に続いて、一夏は何か腑に落ちない様に言う。

 

「どうしたで御座るか?」

 

「いや・・・結局、鈴が酢豚にパイナップルを入れる派か入れない派かは分からなかったんだ」

 

「オッフwそこは重要で御座るなwww」

 

「だろ?なのに、鈴の奴聞いても答えなかったんだぜ?」

 

 間違いなくそこは重要じゃ無いと言う部分で無駄に盛り上がる二人は、暫くの間、酢豚談義に花を咲かせるが、徐にオタクが座っていた椅子から立って一夏に別れを告げた。

 

「では一夏氏、また明日で御座るwww」

 

「おう、また明日」

 

 医務室を出たオタクは、扉を閉めて周囲に誰も居ない事を確認すると、廊下を歩いて学園の外を目指した。

 

「・・・」

 

 シリアスな表情で歩くオタクは、もしも知り合いが見れば二度見して驚いた後に、人違いかと思う程に、普段とは異なる雰囲気をしており、何も言わずに駅に向かった。

 誰も居ないモノレールの中で、独り黄昏れた様に窓の外を眺めながら到着を待ち、それから駅に着くなりオタクはモノレールを降りて真っ直ぐに目的地へと足を向ける。

 既に、太陽は稜線の向こう側へと沈み、駅前では人が足早に行き交って、様々な人間模様を生み出している。

 そんな中をオタクは、迷う事無く歩みを進めて繁華街のネオンへと入り込んでいった。

 特に入る店と言うのは決めていなかったオタクは、暫く歩いた末に一軒の居酒屋にの暖簾を潜ると、空いていたカウンターに腰を下ろした。

 

「いらっしゃいませ!ご注文はお決まりでしょうか!」

 

「生大一つと唐揚げ、馬刺し、砂肝」

 

「はい喜んで!」

 

 威勢の良い店員に注文を頼むと、直ぐに出されたビールのジョッキを掴むと、オタクは豪快に喉を鳴らして煽った。

 

「っつー・・・!」

 

 ジョッキの半分ほどを一気に呑んで、口を離すと、思わずと言う風にオタクは越えに成らない叫びを上げて久し振りのビールの味に酔った。

 

「お待たせいたしました!ご注文は以上でよろしかったでしょうか!」

 

 オタクが、ビールを呑み終えた頃に注文していた料理が届き、店員が確認をすると、オタクはビールの追加とレンモンサワーを追加して、唐揚げにかぶりつく。

 ニンニクとショウガの利いた醤油味の唐揚げは、噛めば油の滴る柔らかくジューシーな味わいで、そこに届いたビールを再び煽れば、全ての疲れから解放されたかの様な気分になる。

 

「・・・俺は今、生きている」

 

 訳の分からない事を呟くオタクだが、そんなオタクを気に掛ける様な人物は誰一人おらず、オタクは次に砂肝に手を出した。

 串に刺さった二本の砂肝は、シンプルに塩胡椒のみの味付けで、噛めばコリコリとした食感と、ジワリと染み出してくる鶏の味がビールを誘う。

 

「すいません」

 

「はい何でしょうか!」

 

「ビールおかわりで」

 

「はい喜んで!」

 

 本日三杯目の生大を待ちつつ、砂肝を食べつつレモンサワーで口を直すと、今度は馬刺しに眼を向けた。

 濃い赤色のソレを一切れ箸でつまみ上げると、ニンニクを溶いた醤油につけて口に運ぶ、ガツンとしたニンニクの香りと肉本来の淡泊な味が口に広がり、思わず辛めの芋を頼みたくなるが、それは堪えてレモンサワーで我慢する。

 それからオタクはビールを更に二杯追加しつつ、頼んだ料理を平らげると、さっさと会計を済ませて店を後にした。

 このまま帰るのかと思うと、オタクは学園とは反対方向の繁華街の奥へと進み、一軒のBARの前で立ち止まる。

 

「ここか」

 

 誰に言うでも無く呟いたオタクは、ベルを鳴らしながら扉を開けて店内へと入った。

 

「いらっしゃ・・・」

 

「来たで御座るよwww」

 

「ああ・・・良く来たな」

 

 マスターと一言交わしたオタクは、カウンター席に着くが、そんなオタクに声が掛けられる。

 

「お、小田君!?」

 

 自身の名を呼ばれて左側の端の席を見ると、そこには副担任の山田真耶と担任の織斑千冬の二人が、座っていた。

 

「・・・真耶氏ではござらんかwww奇遇で御座るなwww」

 

「えっ!?いや、小田君は・・・」

 

「拙者25歳で御座るwww」

 

「私より年上ですか!?」

 

「www」

 

「真耶、少し落ち着け」

 

 千冬に窘められた真耶は少し落ち着きを取り戻して、オタクの年齢に改めて驚く。

 

「は~先輩と同じ歳だったんですね」

 

「私も聞いた時には驚いたがな」

 

 二人は場所を移動して、オタクの隣の席に移り、オタクと千冬が隣り合って座る。

 

「注文は?」

 

 マスターが三人に注文を尋ねると、三者三様の答えが返った。

 

「では、私はモスコミュールで」

 

「私はジンライムを貰おう」

 

「オタクは?」

 

 二人の注文を聞いたマスターは、親しげにオタクに顔を向けて注文を尋ねた。

 

「マスタ-・・・ジョン・ダニエルズを頼む・・・」

 

 と、ハードボイルドを気取って頼んだオタクに、真耶からの突っ込みが入る。

 

「ジョン?ジャック・ダニエルズじゃ?」

 

「いえ、ジョンで良いんで御座るよ。拙者と彼は付き合いが長居で御座るからw」

 

 オタクがそう言うと千冬は口許を歪ませて笑い、マスターも笑顔でグラスにジャックダニエルズのモノグラムを注いだ。

 

「?拙者が頼んだのはオールドの方で御座るが?」

 

「良いんだよ・・・俺の奢りだ」

 

 そう言ってマスターは、店の奥に行ってしまった。

 

「お知り合いなんですか?」

 

 真耶がオタクに尋ねると、オタクはストレートのソレを一口煽って答えた。

 

「まあ、昔行っていた学校の友達ですかな・・・」

 

「学校ですか?高校には・・・」

 

「卒業していないだけで御座る」

 

 オタクがそう言うと、千冬は少し考えてから静かに言った。

 

「まさか高等工科学校か?」

 

「デュフフフwww当時は少年工科学校と言う名前で御座った」

 

 陸上自衛隊少年工科学校、簡単に言えば自衛官をやりながら高校生もやると言った感じだが、未来の陸上自衛隊の中核となるべき人材を育成するために存在していた機関であり、現在は高等工科学校に改編されている。

 オタクは嘗て、その少年工科学校に通い、自衛官として訓練をしながら高等教育を受けていた。

 

「wwwまあ、拙者は途中で落伍した半端物で御座るがwww」

 

「と言うことはマスターさんも?」

 

 真耶が言うと、丁度、奥から戻ってきたマスターが言った。

 

「学校に三年、その後は習志野に五年居ました」

 

「知り合いに、この店を出したと聞いたので来たので御座る」

 

「・・・気になっていたが、その気持ち悪い話し方は如何したんだ?」

 

 マスターがオタクに言うと、オタクは少し黙り込んで、それから一口グラスのダニエルズを煽ってから静かに口を開いた。

 

「・・・まあ、生徒はいないし、織斑先生にはバレているから良いか」

 

「・・・普通に喋ってる・・・」

 

「あんなキャラが素の奴が居るわけ無いでしょう・・・」

 

 意外そうに呟いた真耶に、静かに突っ込むオタクは、再びグラスに口を着けて飲み干すと、マスターに空のグラスを差し出した。

 

「次はオールドで良い。ダブルだ」

 

「・・・あいよ」

 

 モノグラムを注ごうとするマスターに言い含めて、ブラックラベルのストレートをダブルで頼むと、少し不満そうな、少し嬉しそうな複雑な表情でマスターが黒いラベルのジャックダニエルズを注いだ。

 グラスの中の琥珀色の液体を見て、オタクは一つ溜息を吐くと一口口に含んで味わう様にして呑み込み、熱い息を吐いた。

 

「良い飲みっぷりですね」

 

「まあ、昔から呑んでるしな」

 

 真耶の言葉に答えながら、オタクは懐から銀色のつつを取り出すとマスターに尋ねた。

 

「ここは禁煙か?」

 

 そうするとマスターは口許を歪ませて笑って言った。

 

「冗談だろ?禁煙にしたら俺が吸えないじゃねぇか」

 

「だろうな・・・」

 

「ただ、今日は隣にレディが居るんだ。この店が禁煙かどうかは二人に聞くんだな」

 

 冗談めかして言ったマスターの言葉に、オタクは笑いながら、千冬と真耶の方を向いた。

 

「許可を頂けますかな?先生?」

 

「・・・まあ、良いだろう」

 

 千冬が答える背後で真耶も笑顔で頷くと、マスターが灰皿とシガーレストを差し出して、オタクに聞いた。

 

「マッチはいるか?」

 

「いや、此奴がある」

 

 そう言ってオタクが懐から取り出したのは、鈍く輝くジッポーだ。

 それをみて、マスターが一言苦言を呈す。

 

「優雅さと気品に欠けるな・・・素人か?」

 

「へっ・・・中身はガスユニットが組み込んである」

 

 そう言うなり、オタクはチューブの中から一本の葉巻を取りだすと、慣れた手付きで吸い口をフラットにカットして遠火で炙るように葉巻に火を着けた。

 

「・・・ふう」

 

 ゆっくりと深く煙を吸い込むと、肺に流さない様に鼻から抜ける様に吐き出してシガーレストに葉巻を置く。

 そして、その余韻が残る内に、グラスを手に取って琥珀の液体を煽る。

 

「コレが生きるって事だな・・・」

 

 実に堂に入った仕草に、真耶は少しだけ憧れる様な視線を送りながらカクテルを傾ける。

 それに対して、千冬は自身も懐に手を伸ばしてシガレットケースから一本取り出して口に咥えた。

 

「使うかい?」

 

「・・・助かる」

 

 千冬はタバコを咥えたのは良いが、ライターを忘れたらしく、ポケットの中を探っていたが、見かねたオタクがジッポーを差し出すと礼を述べて火を着けた。

 

「織斑先生もタバコを吸うんだな」

 

「たまにな・・・普段は一夏が五月蠅いから余り機会が無い」

 

 愚痴る様に言う千冬はカクテルを飲み干すと、からのグラスをマスターに渡した。

 

「次は何になさいますか?」

 

 グラスを受け取ったマスターは笑顔で千冬に次の注文を尋ねた。

 

「隣の馬鹿者と同じ物を・・・オンザロックで頼む」

 

「あ、じゃあ、私はソルティドッグを御願いします」

 

 二人の注文を聞いたマスターは、千冬の前にオンザロックのジャックダニエルズを出し、真耶に出すソルティドッグを作り始めた。

 

「その葉巻は・・・」

 

「ホヤ・デ・ニカラグアだ。ゲームが好きなんだよ」

 

「オタクと言うのも、あながちキャラ作りだけでは無いようだな」

 

「まあ、サブカルチャーは大好物だ」

 

 静かに語りながら、オタクと千冬はグラスの中身を煽る。

 ペースの速いオタクが直ぐに飲み干してしまうと、次を頼む前にマスターが瓶を差し出して来た。

 

「奢りだって言っただろ?」

 

「・・・生意気な」

 

 そう言いながらも、オタクは遠慮無くグラスにジャックダニエルズを半分程度まで注いだ。

 同じく、中身が無くなって氷りだけになったグラスを見詰めていた千冬のグラスにも注ぐと、千冬はオタクに向いて礼を言う。

 

「すまん」

 

 礼を言って千冬は酒の注がれたグラスを持ってオタクに向けた。

 その意図を察したオタクもグラスを持って千冬に向くと、軽くグラスをぶつけて、気障な風に顔をキメて言う。

 

「君の瞳に乾杯」

 

「・・・小僧がボガートの真似など十年早い」

 

「同じ歳だっての」

 

 そんな二人の遣り取りをソルティドッグをちびちびと舐めながら見ていた真耶が言う。

 

「ボガートって?」

 

 その言葉を聞いたオタクは、信じられないと言った風に真耶を見詰めて言葉を返した。

 

「ボガートって言うのは、往年の名優、ハンフリー・ボガートの事で、さっきの言葉は名作カサブランカの中の台詞の一つだ」

 

「はあ・・・あの言葉って元ネタが在ったんですね」

 

「俺はあの映画のボガートに憧れて、同じタバコの摘まみ方をしたり、トレンチコート買ったりしたもんだ」

 

「そうですか・・・映画が好きなんですね」

 

 少し引き気味の真耶が言うと、オタクが食いついて話を始める。

 

「ええ、映画は俺の人生の半分と言っても良い。基本的にはアクションや戦争映画が多いが、ロマンスやドラマも素晴らしい作品がある。特にカサブランカは・・・」

 

 等とクドクドと話が続き、気が付けばオタクはジャックダニエルズの瓶を一瓶丸々空けてしまっていた。

 そして、それに付き合わされた千冬と真耶の二人も随分と呑んだ物で、好い加減にしろと店を追い出された頃には、三人ともグダグダに酔っ払って三人四脚の様相を呈していながらも、ネオンの中へと消えて行ってしまった。

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