事件翌日。休校日。
戦慈は遊びに行く気にもならず、とりあえず朝にランニングをした後は家でのんびりとしていた。
もちろん里琴も戦慈の部屋にいる。
しかし部屋着ではなく、外出を意識した服装だった。
「……ニュースになってる」
「そりゃ、なるだろ。襲撃を前に出せば、その前日のマスコミ騒動を掻き消せるとかもあるだろうしな。マスコミ共は」
「……うざ」
戦慈の言う通り、マスコミは雄英襲撃事件を『雄英の防犯体制に問題あり?』というところに論点を当てて、報道している。
ネットなどでは『前日のマスコミ騒動もヴィランのせいじゃね?』『じゃあ、マスコミが一番やらかしたんじゃない?』という声が上がっているが、ニュースや報道では一切語られていない。
マスコミが出来る唯一の防衛策は、論点のすり替えによる責任転嫁だった。
ピンポーン
「あん?」
「……来た」
チャイムが鳴り、それに戦慈が訝しんでいると、里琴が素早く立ち上がってドアへと向かう。
里琴がドアを開けると、そこには一佳がいた。
「おはよ」
「……ん」
「拳藤?なんか用か?」
「え?聞いてないのか?3人で買い物に行くって、昨日里琴と話してたんだけど」
一佳は戦慈の言葉に不思議そうに首を傾げる。
戦慈は足元にいる里琴を見下ろす。
「……おい里琴」
「……準備」
里琴は戦慈の言葉を無視して、スタスタと部屋の中に戻り、クローゼットから戦慈の服を取り出していく。
その様子に右手で顔を覆う戦慈。一佳は眉尻を下げて、戦慈に声を掛ける。
「なんか……ごめんな。嫌なら別に……」
「あいつがああなったらめんどくせぇんだよ。だったら、諦めた方がまだ気が楽だ」
服を出した里琴はジィーーっと戦慈を見つめ続けている。
戦慈はため息を吐いて、渋々部屋に戻って並べられた服を手に取る。
それを見た里琴は扉を閉めて、一佳の元に戻る。
「話してなかったのか?」
「……ん」
「怒らないか?」
「……いつものこと」
「……駄目だろ、それは」
「……こうでもしないと出かけない」
里琴は特に気にした様子もなく、堂々としている。それに一佳は呆れるも、それ以上ツッコむことはなかった。
一佳は白のブラウス、Gジャン、そして黒のキュロットパンツ。
里琴は黄色のTシャツ、赤の半袖ジップパーカー、黒のホットパンツにニーソックスを履いている。
「まぁ……拳暴が遊びに出かけるイメージはないな」
「……だから付き合わせる」
「なるほどな」
一佳は戦慈が買い物をしているイメージが出来なかった。里琴も同意して、今回のように無理矢理連れ出しているのだと説明し、それに一佳も納得する。
そこに戦慈が面倒くさいオーラ全開で現れる。
戦慈は赤いヘンリーネックのシャツに茶色のジャケット、ジーンズを身に着けていた。
「……なんか新鮮だな」
「あん?」
「いや、拳暴のそういう服を着てるの初めて見るなと思って。中学の時は大抵ジャージとかだっただろ?」
「そうだったか?」
「……ん」
一佳は戦慈の私服姿に一瞬ポカンとして、苦笑する。中学の時は入試間近だったこともあり、会うといっても学校か一緒に特訓する時くらいだった。なので、制服かジャージくらいしか見たことがなかった。雄英に入った後も、基本的に部屋着姿ばかりだった。
なので、戦慈の外出姿を見るのは初めてだった。
3人は並んで歩いて、駅に向かう。
「で?何を買いに行くんだよ?」
「はっきりとは決めてないな。とりあえずショッピングモールでも行って、色々見ようって話だったしな」
「……ん」
「そうか」
「……豆補充」
「あん?あ~……確かにいくつか豆が残り少ねぇか」
里琴の言葉に戦慈も買い物する必要があるものを思い出す。
そして電車で移動してショッピングモールに着いた3人は、ウィンドウショッピングをしながら店を回る。
「……ここ寄る」
里琴が気になった服を見つけて、店の中に入る。一佳もそれに続き、戦慈は店の外で待機しようとするが里琴に引っ張られて連れていかれる。
数点の服を見つけては、戦慈に意見を聞く里琴。
戦慈は面倒オーラを出してはいるが、何だかんだで感想を述べていく。
一佳はそんな姿を苦笑して見つめていたが、一佳も気になるものを見つけては、無意識に戦慈に意見を聞いていた。それに気づいたのは会計時に『優しい彼氏さんですね。あの子は妹さんですか?』と店員に言われた時だった。
少し顔を赤くした一佳は慌てて『雄英の同級生です!』と否定するが、それに店員が更にニヤニヤしたのを見て墓穴を掘ったことに気づく。
店を出た後、しばらく一佳は顔を赤くしていたが、戦慈はそれに気づくことはなかった。
次に戦慈がコーヒー豆の店に行き、豆を選んでいる間に落ち着き、いつもの雰囲気に戻った。
その後、里琴が再び店に入り、今度は戦慈の服を探し始めた。里琴は一佳にも意見を求めて、それに答えていくうちに一佳がバイク好きであることも判明して、戦慈にライダージャケットを着させて、似合っていたため再びドキッ!とする一佳だった。
夕方になり、戦慈達と別れて帰宅した一佳は部屋着に着替えて、ベッドに倒れてハァ~っと息を吐く。
「……なんか凄い疲れた……」
あの店員に言われて以降、妙にドギマギしてしまった一佳。
戦慈達は特に反応してはいなかったが、様子がおかしかったことには気づかれただろう。
「彼氏……かぁ。考えた事もなかったなぁ。そんな場合じゃなかったし」
しかし、言われて意識してしまった以上、どうにも考えてしまう。
けれど、
「あいつはヒーローになるために頑張ってる。それどころじゃないのは、皆一緒だよな」
ただでさえ昨日の襲撃事件があった。
プロの世界を少しだけ味わったことから、まだまだ自分達が学ぶべきものは多い。特に戦慈は一歩も二歩も先に行っている。それに追いつかなければ、ヒーローになっても平凡で終わってしまう。
「あー!よし!今はそんなの無し!!私だってあいつに負けないヒーローになるんだ!」
無理矢理、結論を出して湧き上がってきた気持ちを押し込む一佳。
そして気持ちを落ち着かせるために、口にしたコーヒーは戦慈に淹れられたものだった。ここ最近一息つくときに飲むコーヒーは、戦慈の淹れたコーヒーばかりであることに、一佳はまだ気づいていなかった。
そして、翌日。
学校に登校する生徒達。
「凄いな。本当に1日で色々終わらせたのか」
「まぁ、そうでもねぇとマスコミ共が騒ぎ続けるだろうしな」
「……うざ」
今日は校門前にマスコミはいなかった。
これは学校や警察が、先日のマスコミ騒動もヴィラン達の仕業による可能性があると考えたため自粛を要請したためだ。それに問題を起こした自覚もあるマスコミ陣はそれに従った。その代わり、報道などで雄英の警備体制をこき下ろしたが。
「そういえばニュース見たか?」
「あん?」
「襲ってきた奴ら、敵連合とか名乗ってたらしいよ」
「……しょぼ」
「連合って言うほどの連中か?9割近く捕まったのによ。まぁ、捨て駒みてぇだったが」
「だよなぁ。あの化け物も捕まったし」
戦慈と里琴は敵連合という名前に呆れしか浮かばなかった。連合という割には、生徒にほぼ全滅させられる程度の小物ばかりだった。
脳無達は異常だったが、それも捕らえることには成功した。あれほどの実力者が早々集まるわけはない。ほぼ活動不可能まで追い詰められたと考えるのが普通である。
「まぁ、あのバケモン作った奴が、あそこに来たとは思えねぇがな」
「……テストとか言ってたもんな」
「……面倒」
「次、現れる奴はもっと厄介だろうな。暴走状態にならなかったらヤバかったのによ。クソが……」
うんざりとして吐き捨てる戦慈に、一佳も腕を組んで顔を顰める。
教室に入ると、鉄哲が気づいて声を掛けてきた。
「おっす!拳暴!拳藤!巻空!」
「おう」
「おはよう」
「……おっす」
「拳暴。身体は大丈夫なんか?」
「全く問題ねぇな」
「良かったぜ!やっぱあれだけ派手だったからな!」
鉄哲の言葉に他の者達も安心したように頷く。
席について荷物を置いていると、切奈がスススと一佳に近づいてきた。
「ねぇねぇ、一佳」
「ん?何?」
「昨日、拳暴とデートしてたって本当?」
「してない!里琴もいた!」
「だよね。あー、安心した」
小声で訪ねてきた切奈に、一佳は勢いよく否定する。それに切奈はケラケラと笑う。
そこに唯や柳もやってくる。
「どしたの?」
「ん?」
「いや、昨日一佳達がショッピングモールにいたって友達から聞かされてさ」
切奈の説明に唯と柳はもちろん、一佳も何故バレたのか納得する。
確かに戦慈は目立つし、ネットでも騒がれていた。気づく者がいても、おかしくはなかった。
「妹さんといたとか言ってたから、多分里琴の事だろうな~とは思ってたんだけどさ。やっぱ気になるじゃん?女子として」
「おどかすなよ……」
「ごめんごめん」
少しげっそりとする一佳に、切奈は舌を出しながら両手を合わせて謝る。
そして予鈴が鳴り、ブラドがやってくる。
「おはよう諸君!少しは休めたか?」
『はい!』
「それはよし!しかし!!お前達にはまだ試練が迫っている!」
ブラドの言葉に鉄哲達は目を見開いて、動揺する。
まだ何か敵連合が仕掛けてきたのかと息を呑む。
「試練……それは……雄英体育祭だ!!」
ブラドの言葉に全員が力が抜けて、机に突っ伏す。
「あ~……それがあったな~」
「ビビらせないで下さいよ。ブラド先生」
骨抜が思い出したように呟き、泡瀬がげんなりした顔でブラドに抗議する。
しかし、ブラドは鼻息荒く言葉を続ける。
「何を言っているんだ!!言っただろう!ヒーロー科にとって、雄英体育祭は最初にして最大の関門であると!!ここでお前達の将来が決まると言っても過言ではない!!」
ブラドの勢いに、生徒達は背筋を伸ばして耳を傾ける。
「雄英体育祭は日本中が注目するビッグイベントの1つ!!日本にいるプロヒーロー達がスカウト目的でお前達を見る! 特に!!学生でありながら、ヴィランとの戦いを乗り越えた1年ヒーロー科はすでに目玉とされている!!つまり……今年の体育祭はお前達が主役だ!!」
『!!』
「ここで名のあるヒーローに見込まれれば、得られる経験値も世間からの注目も高まる。ヒーロー飽和社会においては、これは最大のチャンスだ!本来なら3年生にその目は集まるが、今年はお前達が話題を掻っ攫った!ここで気を抜くわけにはいかんのだ!」
ブラドの言葉に鉄哲はやる気に燃える。
他の者達もやる気を出して、手を握り締める。
「水を差すけど……ヴィランが来たばかりですけど?テレビでもかなり取り上げられてましたし」
物間が盛り上がりに水を差す。しかし、その内容は無視出来るものではない。
「そうだよねぇ」
「批判とか出ません?」
凡戸も頷き、円場がブラドに尋ねる。
それにブラドも想定済みである。
「もちろん批判は出るだろう。なので、今回は警備を例年の5倍に増やすことが決まった。セキュリティも強化したこともある。しかし、ここで屈してはそれこそ雄英の名を貶める。それはあの戦いを乗り越えたお前達を否定する!それは許されん!屈することは出来ない!」
「先生……!」
鉄哲が感動に震える。
「お前達は我々教師が必ず守る!!だからお前達は体育祭に向けて全力を注げ!!体育祭に限っては、A組はもちろん、普通科やサポート科!そしてB組の者同士もライバルとなる!!やるからには、トップを目指せ!!」
『はい!!』
ブラドの熱い言葉に力強く返事をする一同。
こうして雄英は体育祭に向けて動き出した。
そして昼休み。
もはや戦慈は文句も言う気力もなくなったようで、黙ってテーブルの端で食事をする。もちろん同じテーブルにいるのは女性陣である。
「体育祭か~。毎年、内容は違うんだよね?」
「ん」
「楽しみですネー!」
「決勝戦は大抵1対1」
「だから、問題は予選だな」
「……面倒」
「ああ……己のために他者を蹴落とさなければならないとは」
もちろん話題は体育祭。
切奈がカレーを食べながら首を傾げると、そばを食べている唯が頷き、ハンバーグを食べながらポニーが笑みを浮かべ、柳がボンゴレを食べながら補足し、シチューを食べていた一佳が悩まし気に眉尻を下げる。それにかつ丼を食べていた里琴が呟き、茨はスパゲティとパンセットを食べて何やら嘆いていた。
戦慈は生姜焼き定食を食べながら、横で聞いていた。
「基本的には全員にチャンスがあるようにするだろうぜ。だから戦闘メインは少ねぇだろ。ヒーロー科だけじゃねぇんだし」
戦慈の言葉に一佳達は納得して頷く。
体育祭はヒーロー科、普通科、サポート科、経営科全てが参加する。戦闘ばかりではヒーロー科が勝つに決まっている。
なので、少しでも全員がチャンスを掴めるような種目になるはずである。さらにあくまで体育祭。体育祭種目から連想できない内容は来ないと予想できる。
「それって油断したら、ヒーロー科でも危ないってことだよね」
「そうだろうな」
「ウラメシい」
「ん?」
「怖いなって」
「『ウラメシや』を怖いとかわかんないよ。レイ子」
そして午後の授業も終わり放課後。
それぞれが帰宅しようとすると、教室の前に大勢の生徒の姿があった。
「おお!?何だ!?」
「すげぇ人だな」
泡瀬が目を見開いて驚き、鱗は廊下を埋め尽くす人の数に唖然とする。
戦慈と里琴は特に気にすることなく教室を出ようとし、それに一佳や唯達女性陣も続こうとする。
戦慈が扉を開けると、廊下がざわつく。中にはスマホなどを向ける者もいた。
それを気にすることなく、戦慈は人垣に近づいて行く。
近づいてくる戦慈に人垣が割れていく。その後ろを里琴達が付いて行く。
「便利」
「ん」
「しかし、これはいったい何でしょうか?」
「まぁ、敵情視察みたいなもんじゃない?」
「そのためにここまで?」
「……暇人」
「スゴイ人気デース!」
柳は戦慈の一番槍に微妙な感想を述べるが、それに唯が同意する。茨が周囲を不思議そうに眺め、その理由を切奈が推測する。その言葉に一佳が呆れながら周りを見て、それに里琴も頷く。ポニーだけは嬉しそうに笑っていた。
戦慈は人垣を掻き分けながら、その会話を聞いていた。
(マジで最近、こいつらの番犬みてぇになってねぇか?まぁ、結局掻き分けなきゃ帰れねぇけどよ)
しかし、何か納得が出来ない戦慈だった。
戦慈達は校門を出る。
「けど、思ったより普通科も気合入ってんな~」
切奈は先程の人数を思い出す。
「そういえば……」
「拳藤サン?」
「普通科って体育祭の結果とかで、ヒーロー科に編入出来るって聞いたことある」
「なるほどなぁ。ヒーロー科受からなかった奴は、普通科にごまんといるだろうしなぁ」
「下剋上?」
「ん」
一佳の言葉に切奈達はようやく理由に思い至る。
戦慈と里琴は興味なさげに歩いて行く。
そこに鉄哲が走ってくる。
「拳暴!」
「あん?」
「戦闘訓練のリベンジだ!今回こそ俺はお前に勝ぁつ!!じゃあな!!」
一方的に宣戦布告して走り去っていく。
「……拳暴の答えは聞かないのか……」
「鉄哲は熱い男だけど、少し暴走気味だよねぇ」
一佳と切奈は鉄哲の行動に苦笑する。
「けど、私も一佳にリベンジしたいね」
「私も巻空さんに私の成長をお見せしたいです」
「皆、元気」
「ん」
「私だって負けないよ」
「……頑張れ」
鉄哲に感化されたのか。切奈と茨も一佳と里琴にリベンジ宣言をする。
一佳は笑みを浮かべて頷き、里琴は他人事のように声を掛ける。
それを戦慈は先頭で聞きながら、僅かに口角を上げるのだった。
その後、体育祭までいつも通りで、どこか緊張感がある日常が続く。
戦慈、里琴、一佳も特訓を始めていた。
戦慈はベンチプレスやランニングなどの筋トレを、里琴は竜巻を長時間発生させて操作性の向上と酩酊に耐える特訓、一佳も手を巨大化させた状態で筋トレをする。
そうしてあっという間に時間が過ぎ、体育祭当日となった。
校門には入場検査を受けているマスコミが並んでおり、中では出店やそれに並ぶ人で盛り上がっている。
戦慈達はすでにジャージに着替えて、控室で待機していた。
「おおお……!緊張してきたぁ……!」
「やってやるぜぇ!」
「せっかくだし、A組に一泡吹かせたいんだよね。話乗らない?」
「謀は悪。裁かねばなりません」
「めんどい」
「ん」
泡瀬が武者震いしており、鉄哲は気合を入れるように叫ぶ。
物間は周囲に打倒A組の作戦を話すが、茨達に切り捨てられる。それを一佳は呆れながら眺めており、壁際には戦慈と里琴が椅子に座っている。
そして一佳が時計を見て、立ち上がる。
「皆!そろそろ時間だ!行くよ!」
「よっしゃ!」
「あ、誰か気合の掛け声出そうぜ?」
「ここは鉄哲一択っしょ」
「任せろ!!」
立ち上がった骨抜がせっかくだからと提案し、円場が鉄哲を推薦する。
それに鉄哲が頷いて、全員を見て、不敵に笑う。
「俺たちは仲間だけど、ライバルだ!!どんな結果になろうと、誰が勝とうと恨みっこ無し!!ただ全力でてっぺんを獲りに行くぞ!!1年B組!!気合入れろぉ!!」
『おう!!』
「行こうぜぇ!!」
鉄哲の号令に応えて、会場に向かう一同。
そして入り口に近づくと、大きな歓声とプレゼントマイクの声が響いてくる。
『群がれマスメディア!!目ん玉見開け大観衆!!雄・英・体育祭!!ヒーローの卵達が、我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!』
プレゼントマイクの司会に更に歓声が高まり、マスコミはカメラを構える。
『どうせ、てめーらアレだろ!?こいつらだろ!?ヴィランの襲撃を受けたにもかかわらず、鋼の精神でそれを乗り越えた奇跡の新星!!』
そして入り口から生徒達が現れる。
『1年!!ヒーロー科だろぉぉ!?』
A組、B組が同時に入場する。
それと同時に大歓声が起き、カメラのシャッター音が響き渡る。
その雰囲気に泡瀬達は飲み込まれる。
「うおおお……!?すっげぇ人だ……!」
「うぅ~!いいとこ見せるぞ!」
「ドッキドキのワックワクだね!」
「それは分かる」
円場が周囲を見渡し、回原が言い聞かせるように声を出し、吹出が『ドッキドキ!』と表示して、骨抜が同意する。
その後ろでは里琴と戦慈は気だるげに歩く。
「……うるさい」
「だりぃ」
「相変わらずだな。ほんと」
「ん」
2人の呟きに一佳が苦笑いし、唯が頷く。
そして普通科、経営科、サポート科も整列する。
壇上に立っているのは、露出が激しく見える女性教師。18禁ヒーロー、ミッドナイトだ。
ミッドナイトは鞭を振って、音を響かせる。
ピシャン!!
「選手宣誓!!」
「あれはいいのかよ?」
「立ってるからいいんじゃないか?」
「……エロ」
「確かに」
生徒達の声にミッドナイトは怒鳴りながら、鞭を鳴らす。
「うるさいわよ!!選手代表!!1-B 巻空里琴!!」
「「「え?」」」
「……何故」
「入試1位だからじゃねぇか?」
ミッドナイトが告げた名前に、B組全員が目を見開いて里琴に目を向ける。
里琴自身も驚いており、その理由を戦慈が推測する。
「巻空さん!出てらっしゃい!」
「……むぅ」
里琴は無表情ながらも不本意感全開の声を出して、前に出る。
そして壇上にあるマイクの前に立つ。
「……せんせい?」
「そうよ!」
「……宣誓」
ミッドナイトに確認して、里琴は改めてマイクに向かって声を出す。
そしてB組は里琴の宣誓を固唾を飲んで見守る。ちなみにブラドも教員席で前のめりになっている。
「……戦慈が1位」
『おい!!?』
全員がツッコむ。戦慈は怒鳴る気力もなく、ただ空を見上げる。
まさかの他人の1位宣言だった。
そしてほぼ全員の視線が呼ばれた戦慈に向く。
もちろん戦慈は苛立つだけである。
「……あのバカが……!」
「まぁ……うん……頑張れな」
流石に一佳もそう言うしかなかった。
里琴は無表情のまま、戦慈の元に戻り、
「……ブイ」
「何がだテメェ!?」
得意げにピースをした。
こうして体育祭は波乱の幕開けを迎えた。