『拳』のヒーローアカデミア!   作:岡の夢部

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昨日、いきなり『お気に入り』登録数が100件/日を超えて、「どした?急に」と思ったら、ありがたきことに日間ランキング18位でした!
ありがとうございます!
これからもビクビクしながら頑張ります!


拳の十 第一種目

 里琴が選手宣誓でやらかして、雰囲気がぶち壊されたが、ミッドナイトはお構いなく進行する。

 

「さーて!それじゃあ早速第一種目行きましょう!!」

 

 ミッドナイトの後ろにスクリーンが展開され、ドラムロールが鳴る。

 

「いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者がティアドリンク!!さて、運命の第一種目!!今年は……コレ!!」

 

 ミッドナイトがビシッ!とポーズを決めて、スクリーンを指す。

 そして表示されたのは、

 

「【障害物競争】よ!!」

 

 その内容に全員の顔が引き締まる。

 

「計11クラスの総当たりレースよ!コースはこのスタジアムの外周4km!わが校は自由さが売り文句!ウフフフ……コースさえ守れば何をしたって構わないわ!」

 

 ミッドナイトの説明に戦慈達は顔を顰めながら、スタジアムの一角にあるスタートラインを目指して歩き始める。

 

「妨害もありってか」

「サポート科はなんかアイテム装備してるぞ?」

「……うらやま」

「ん」

 

 そしてスタートラインを見つめる戦慈は生徒を見渡して、あることに気づく。

 

「いきなりスタートから嫌がらせかよ……」

「え?」

「ん?」

 

 一佳と唯が首を傾げる。

 戦慈は腕を組んで、スタートラインを顎で示す。

 

「あのスタート直後の通路。あの狭さで200人以上同時に通れると思うか?」

「……無理」

「……そういうことか」

「さて……どうすっかねぇ」

 

 戦慈は対策を考え始める。

 そこに後ろから声を掛けてくる者がいた。

 

「お前……」

「あん?」

 

 戦慈達が振り返ると、そこには右髪が白く、左髪が赤い男子生徒が鋭い目つきで戦慈を見つめていた。

 

「誰だ?」

「……轟焦凍。1-Aだ」

 

 轟の名前に一佳は目を見開く。

 推薦入学者にして、エンデヴァーの息子である。かなりの実力者であるとも噂になっている。それは共に推薦入試試験を受けた骨抜も認めていた。

 

「なんのようだよ?」

「……お前には悪りぃが、勝たせてもらう」

「……だから、なんで俺なんだよ。里琴が入試1位だぞ?」

「その入試1位がお前を指名した」

 

 轟の宣戦布告に、戦慈はイラつきながら里琴を指差す。

 しかし轟はその里琴が原因だと答える。

 その答えに里琴は、

 

「……むふん」

 

 胸を張って得意気にする。

 それに戦慈はため息を吐いて、轟を見る。

 

「まぁ、勝手に頑張れや」

「っ……!」

「そろそろスタートよ!位置に着きまくりなさい!」

 

 戦慈の言葉に、轟は一瞬苛立ったように顔を顰めたが、ミッドナイトの合図にスタートラインに向かっていった。

 

 その光景を爆豪は少し離れた所から顔を顰めて眺めていた。

 

「っ……あの野郎ぉ……!」

 

 轟も戦慈も自分の事をまるで眼中にない。

 それがとてつもなく不愉快だった。

 背中を追いかけてくる存在の出現も相まって。

 

 もちろん戦慈達はそんなことなど知る由もない。

 

「厄介なことしやがって……!」

「……負けるの?」

 

 戦慈は里琴を睨むが、里琴は無表情で戦慈を見上げながら尋ねる。

 その質問に一佳や唯達は息を呑む。

 それに戦慈は「ふん!」と吐き捨てながら、

 

「順位には興味はねぇ。けど……負けんのはムカつくからな。勝つに決まってんだろ」

 

 戦慈の勝利宣言に里琴は頷き、一佳達も思わず笑みを浮かべる。

 なんだかんだで負けず嫌い。それを知っているからだ。 

 

「……なら同じ。……戦慈が1位」

「てめぇもちゃんとやれよ」

「……もち」

「さて……ふるいをかけてぇなら、蹴散らせてもらうか」

 

 戦慈はスタートラインに近づいて、軽くストレッチをする。

 それに里琴や一佳達は習い、準備運動をする。

 すると、里琴が一佳に近づく。

 

「里琴?」

「……戦慈の後ろに付く」

「え?」

「……すぐにわかる」

 

 一佳は首を傾げるが、スタートゲートにランプが点灯したのを見て、意識を切り替える。

 周囲の者達も準備をして、構える。

 

 そして最後のランプが点灯する。

 

『スターートーー!!!』

 

 一斉に走り出す生徒。

 すると、

 

「オラアアアアア!!!」

 

 戦慈が吠えながら、右肩を突き出して全力で突進して、進行方向の生徒達を吹き飛ばして薙ぎ倒していく。

 

「ひぃ!?」

「うわぁ!?」

「きゃあ!?」

「……楽ちん」

「……なんか申し訳ないな」

「ん」

「でも、確かに楽」

 

 戦慈の真後ろを里琴達が走る。一佳や唯は少し困惑するが、どっちにしろ押し合いながら進まなければならないので、結果は変わらないかとも思う。

 

「敗けねええ!!」

「どけぇ!斬り刻むぞ!」

「ですなああ!!」

 

 戦慈の姿を見て、鉄哲、鎌切、宍田を筆頭にB組も声を上げて突っ込んでいく。

 その姿を物間は苦笑しながら見つめていた。

 

「やれやれ、乱暴だねぇ。まだまだ先は長いのに」

「あいつらにそんな器用な真似出来るかねぇ」

 

 物間の横で切奈が呆れながら走る。切奈は物間の作戦に協力することにした。

 理由は面白そうだからである。

 他にも何人かは物間の作戦に参加している。近くには円場や回原などもいる。

 

「でも、どうして急にA組を?」

「ニュース見たかい?」

「そりゃね、それが?」

「中身のほとんどがオールマイトのことだ。それは当たり前。じゃあ、次は? A組なんだよね。オールマイトと同じ所にいただけなのに」

 

 切奈は物間に理由を尋ねる。

 物間は前を見ながら、襲撃事件の報道の内容について語る。

 

「おかしくない?僕達B組だって、拳暴だってボロボロになるまで戦ったのに。まるでA組のおまけ扱いだ」

 

 物間の言葉に切奈や円場達は少しだけ目を見開く。

 つまり物間はB組のために、この作戦を考えたということだ。普段の言動からはあまり想像が出来なかった。確かにあの襲撃以降、挑発的な言動は少なくなった。それでもズバズバと言いにくいことを発言して、呆れてはいるが。

 

「確かに僕達はクラス関係なくライバルさ。でもね、だからって共に苦難を乗り越えた人が、不当な評価を受けるのを見逃すのは納得が出来ないよね。それは僕だって不当な評価を受けていることになる。僕が在籍しているクラスがA組のおまけ?それは我慢出来ないのさ」

 

 だからA組や周囲に思い知らせる。

 B組の凄さを。

 物間はそう言いたいのだ。

 

 それに切奈達は物間の印象を少しだけ修正する。

 そして……その言葉には大いに同意する。 

 

「なら、気合入れないとね」

「俺、もう一回他の連中に声かけてくる」

「あ、俺も」

「頼む。でも、それに気を取られて予選落ちとかやめてね。全員突破。それは絶対条件だ」

「「もち!」」

 

 回原と円場は物間に感化されて、他のB組の元に行く。

 こうして物間の作戦は現実味を帯びてきたのであった。

 

 その間にも全員が通路出口を目指す。

 

 すると、出口付近に氷が張り始める。

 それに後ろにいた生徒達は足が凍り、動けなくなる。

 氷を生み出しているのは轟だった。

 

「足止めのつもりか?くだらねぇ」

「……とう」

 

 戦慈は構わず走り抜けようとすると、里琴が戦慈の背中に飛びつく。

 戦慈は凍り付いた足を無理矢理引き剥がしながら走る。一佳達はその後ろを走ることで氷結を防ぐ。

 

「大丈夫なのか?」

「皮膚が剥がれるくれぇ、すぐに治る」

「……相変わらずだなぁ」

「ん」

『さー実況していくぜ!!アーユーレディ!?ミイラマン!』

『無理矢理呼んだんだろが』

 

 他にも氷結を躱して、轟を追いかける生徒が続出する。

 戦慈は速度を落として、先頭グループの中盤辺りを維持する。

 一佳達とは少し距離が開く。

 

「まぁ、こればっかりは仕方ねぇか」

「……ん」

「お前は走れよ」

「……駄目じゃない」

 

 確かに誰かに掴まってはいけないとは言われてはいない。

 足扱いされている戦慈からすれば、全く納得できないが。

 ちなみに戦慈がゆっくり目に走っている理由は、『全力で走り続けるとパワーが溜まりすぎる』からである。発散できるかどうかわからないので、下手にパワーを溜められないのだ。

 

 そして走っていると、先頭集団が足を止める。

 その先には、入試で戦ったロボット集団が道を塞いでいた。しかも巨大ロボばかりが。

 

『さぁ!いきなり障害物だ!まずは手始め!第一関門!ロボ・インフェルノ!!』

 

 ロボットの姿に戦慈が顔を顰める。

 

「いきなりかよ……!」

「……どっする?」

「……足止めるのもだりぃ。やるか」

「……いえー」

 

 戦慈は足を止めるどころか、スピードを上げる。

 すると、轟がしゃがんで一気に氷結を放ってロボットを凍らせて、その下を進み始める。

 戦慈はそれを避けるように脇のロボット目掛けて走る。

 その横では轟が通った道を行こうとする生徒達が見られる。

 その中には鉄哲がいた。

 

「逃がさねぇぞ!」

「やめとけ。不安定な時に凍らしたから……倒れるぞ」

「うおおお!?」

 

 轟の言葉通り、凍ったロボットが傾き、轟音を響かせて倒れる。

 鉄哲はロボットの下敷きになってしまう。

 

『1-A 轟!!攻略と妨害を一度に!!こいつぁシヴィー!!!』

 

 轟はそのまま先に進もうとするが、

 

「オオォラアアァァ!!!」

「……てやー」

 

 戦慈が左右のロボットの脚を殴り、脚を浮かしてロボット達のバランスを崩す。そこに里琴が大きめの竜巻を左右に放ち、ロボット達を吹き飛ばして道をこじ開ける。

 それに轟はもちろん、足を止めていた生徒達は目を見開く。

 

「ふ、吹き飛ばした!?」

「あの2人は入試でも吹き飛ばしてた奴らだ!当然だろ!」

「バケモンかよ!?」

「あれが……ヒーロー科……!?」

 

『1-B 拳暴!同じく巻空!!入試ツートップはものともしねぇー!!このコンビ反則だろぉ!?』

 

 戦慈は里琴を背負ったまま、轟を追いかけて走り出す。

 

 その後ろでは一佳達もロボット達と向き合っていた。

 

「拳暴の道!」

「ん!」

「ラッキー」

「行きマース!」

 

 一佳は手を巨大化して、小さいロボットを掴んで、迫ろうとしている巨大ロボットの顔面にぶん投げる。

 そして戦慈と里琴が開けた道へと走り込む。

 それと同時に鉄哲が押しつぶされたロボットを砕いて、飛び出す。

 

「A組の野郎!!俺じゃなかったら死んでたぞ!!」

「敗けるかー!」

 

 その横から赤髪の男子生徒も鉄哲同様飛び出してくる。

 

「「あ」」

『1-A 切島!1-B 鉄哲!揃って潰されてたー!出方も一緒ー!ウケる!!』

「「『個性』ダダ被りかよ!?」」

 

 鉄哲と切島は嘆きながら、同時に駆け出す。

 行動も似ている2人だった。

 

 その後ろでは他の生徒達も協力して動き出す。

 すると、爆豪が《爆破》でロボットを飛び越え、他にもそれに続く者達が続出する。

 茨はツルでロボットを縛って動きを止めたり、骨抜は地面を柔らかくしてロボットを沈めるなど、すぐさま動く。

 

『A組、B組ヒーロー科が飛び抜けていくぜ!その間に先頭は第二関門に到着してるぜ!』

 

 轟達は第二関門の攻略を開始しようとしていた。

 

『第二関門はコレ!落ちればアウト!それが嫌なら這いずりな!ザ・フォール!!』 

 

 地面に大きな穴が掘られており、その中に柱が乱立している。柱の間を縄で結んでおり、綱渡りしなければ反対側には行けない。

 戦慈と里琴は第一関門を突破してから、またスピードを落として走っている。その間に上空を爆豪が飛び越えていき、鉄哲や切島などが追い抜いて行く。

 

「本当に面倒だな」

「……どっする?」

「ご丁寧に縄を渡るのも面倒だな。それにもう半分は来ただろうしな。行くか」

「……いえー」

 

 戦慈は崖が迫っているが、さらに速度を上げる。

 そして縄を渡ろうとしている鉄哲達の横を通り過ぎる。

 

「拳暴!?」

「落ちるぞ!?」

「……1つ?2つ?」

「1つ。3m先」

 

 鉄哲達は目を見開くも、戦慈はお構いなく飛び出そうとする。

 そこに里琴が声を掛けて、戦慈が指示を出す。

 そして全力で右脚で踏み込んで、前に飛び出す。

 誰もが落ちていく光景を思い浮かべる。

 

「……てやー」

 

 すると、里琴が小さな竜巻を放ち、戦慈の足元に飛ばす。

 竜巻が小さいが、その回転はかなり強めである。

 

 その竜巻の上に、なんと戦慈は左足を乗せる。

 

 そしてまた踏み込んで、前に飛び出して柱に飛び移った。

 

「はぁ!?」

「マジかよ!?」

「なんて型破りな……!」

 

『おいおい!?拳暴・巻空コンビ!無理矢理にもほどがあんだろ!?』

『簡単に恐ろしい事やりやがる。一瞬でもタイミングや強さを間違えれば、真っ逆さまだぞ』

 

 里琴は竜巻の強さや大きさを間違えれば、戦慈が踏み抜く事は出来ない。そして戦慈は正確に竜巻を踏まなければ、見当違いな方向に吹き飛ばされるし、バランスを崩せば飛ぶどころではない。

 恐ろしく精密なコンビネーションが求められている。

 

 しかし、2人はそんなことを一切感じさせることはなかった。

 

「次、2つ。3mと5m」

「……ヤー」

 

 今度は2つ放ち、その上を飛び跳ねていく戦慈。

 それを続けて、ドンドンと先に進み、轟と爆豪に迫っていく。

 戦慈の後ろでは茨がツルで体を持ち上げて柱を移動したり、骨抜や鉄哲達は全力で走り渡る。

 

「ぬぅ!わ、私の重さで縄が揺れる!?」

 

 宍田は獣化して渡ろうとするが、体が大きくなったせいで縄が激しく揺れてしまい、スピードが出せなかった。

 一佳や物間達も大人しく縄を渡っていく。

 

「B組は機動力が低い奴が多いか」

「こればっかりは仕方がないっしょ」

「君が言うなよ」

「体力使うんだよ」

 

 切奈は足を切り離して浮かび、それを腕で抱えて柱を飛び交う。

 その横ではポニーが角に飛び乗って渡っている。

 

 そして轟達は第二関門を突破する。

 

『先頭が抜けて、下は団子状態!上位何名が通過するかは公表してないから、安心せずに突き進め!!』

 

 そして轟が次に入った関門は、

 

『そして早くも最終関門!その実態は……一面地雷原!!地雷の場所はよく見りゃ分かる仕様になってんぞ!目と脚を酷使しろ!ちなみに地雷は威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!?』

『人によるだろ』

 

 戦慈達も地雷原に近づいてきた。

 

「おい、里琴。てめぇ、いつまで張り付いてる気だ?」

「……心行くまで」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ」

「……じゃあ行く」

「さっさと行け」

 

 里琴は戦慈の背中から飛び降りる。

 そして前方を確認した。

 

 

 

 轟は下を注視しながら、地雷を避けて走っていく。

 

「氷を張れば後続に道を作っちまう。確かに先頭に不利な障害だな……」

 

 すると、

 

「はっはー!!俺には……関係ねぇー!!」

「!?」

 

 爆豪が両手を爆破させて飛び、ついに轟に追いついた。

 

「半分ヤロー!!てめぇ!宣戦布告する相手を間違ってんじゃねぇよ!!」

 

『ここで先頭が変わったー!!喜べマスメディア!おまえら好みの展開だ!ってぇ、おおお!?来たあああ!!』

 

 轟が爆豪の腕を掴み、それを爆豪が振り払うなど引っ張り合いを始めた直後、2人の真上を影が通り過ぎる。

 

「「!?」」

「……お先」

 

 里琴である。

 無表情のまま足裏に竜巻を生み出して空を飛んで、一気に轟達を抜いて行った。

 

『シー キャン フラーイ!!今まで人の背中に引っ付いておきながら、ここであざ笑うかのように飛び去ってトップに出たー!!この小悪魔め!拳暴フラれたざまあみろ!!』

『おい』

 

「ちっくしょ!」

「ちぃ!」

「……いえー」

 

 轟と爆豪は慌てて追いかけようとするが、里琴は両手から弱くも大きい竜巻を後ろに放つ。

 それにより轟や爆豪を始めとする、後続の生徒達は飛ばされないように、そして地雷を踏まないように足を止めてしまう。

 

 唯1人を除いて。

 

ドンドンドンドォン!!

 

 突如轟達の後ろ、地雷エリア中盤辺りにて連続で地雷が爆破する。

 前方からは突風、後方からの爆風に轟と爆豪は後ろに目を向ける。

 

「どうした?その程度で止まるのかよ?」

「拳暴……!」

「来やがったなああ!!」

 

『ここで更に拳暴おお!!風をものともせず!!爆破もものともせず!!轟達に追い迫るー!!恐えぇな!?フラれた怒りかぁ!?』

『いい加減にしろ』

 

 戦慈は爆破で周囲を牽制しながら、轟達の真後ろに迫る。その体は膨れ上がり、髪が逆立っていた。

 轟と爆豪は戦慈を攻撃しようと、手を向ける。

 そこに更に事態が動く。

 

ドオオオオオォォン!!!

 

「「「!?」」」

 

 戦慈が起こした爆破よりも、更に巨大な爆発が地雷エリア入り口で起こる。

 

『後方で大爆発!!なんだ!?』

 

 戦慈達は爆発に目を向ける。

 爆煙の上から何かが飛び出し、戦慈達に迫る。

 

 それは鉄板に乗った緑髪のモジャ毛の男子生徒だった。

 

『1-A 緑谷!!爆風で猛追ー!!』

 

 そして、緑谷は先ほどの里琴のように戦慈達の真上を越えていく。

 

『抜いたアアア!!』

 

「デクァ!!!!俺の前を行くんじゃねええ!!」

「緑谷……!!」

「無茶苦茶しやがんな……!?」

 

 爆豪と轟は戦慈から意識を外して、緑谷を追いかける。

 もちろん戦慈も追いかける。

 緑谷は失速してバランスが崩れ、前に投げ出される。

 

 その隙を逃さずに戦慈達は緑谷に迫る。

 すると緑谷は脚を振って、体を起こしてケーブルで繋がれた鉄板を地面に向かって振り下ろす。

 もちろんその下には地雷。

 

ドオオォン!!

 

 再び爆発が起こり、丁度追いついていた戦慈達はモロに爆破を浴びる。

 緑谷は再び爆風に乗って、前に出る。

 

『緑谷、間髪入れずに後続妨害!!更に地雷原即クリア!!』

 

 緑谷は数回地面を転がるが、すぐに起き上がって全力で走り出す。

 

「はぁ!はぁ!はぁ!今のうちに!!駆け抜ける!!」

「そりゃあ、舐め過ぎだぜ」

「っ!?」

 

『クレイジー拳暴!!緑谷の爆破もものともしねぇー!!バケモノー!!』 

 

 戦慈は一切怯むことなく緑谷に追いつき、そして追い抜いて行く。

 

「そんな……!?っ!負けて…たまるかぁ!!」

 

 緑谷は愕然とするが、すぐに切り替えて力を振り絞って走る。

 その後ろからは再び轟と爆豪が迫って来ていた。

 しかし、戦慈は緑谷との差を広げていく。

 

 その時、スタジアムでは。

 

『さぁ、帰ってきたぁ!!』

 

 プレゼントマイクの言葉の直後、高速で飛行しながらゴールを通過する里琴の姿があった。

 

ワアアアアアア!!!!

 

『他人が1位になるとか言っておきながら、そいつを踏み台にする鬼畜!!後続を一切引き付けねぇ圧倒的1位ー!!小悪魔戦闘機!!巻空里琴ーー!!』

 

「……不本意」

 

 里琴は呟きながら真上に飛び上がる。

 

 そして、5分後。

 

『続いて第2位!!ロボットを殴り飛ばし!!谷を飛び越え!!地雷原を正面突破!!こっちは暴走戦車だな!!拳暴戦慈ーー!!』

 

 戦慈がゴールを駆け抜ける。

 

「ふぅ。ギリギリだったか」

 

 戦慈は緑谷の爆破に巻き込まれながら地雷原を駆け抜けた時、脚から衝撃波を放ち、スピードを上げていたのであった。

 それで1回溜まったパワーをリセットしたが、すぐにまたパワーが溜まってしまった。

 すると里琴が上空から、戦慈に肩車する形で落ちてきた。

 

「……てめぇ……」

「……おつ」

 

『そして第3位ー!!これは誰が予想できた!?序盤一度として輝くことはなかった地味男!!緑谷出久の存在をー!!』

 

 続いて緑谷が息を荒く乱しながらゴールする。

 その直後に轟、そして爆豪がゴールする。

 

「はぁ!はぁ!はぁ!くそ……!3位……!」

 

 緑谷は悔し気に俯いて、両手を握る。

 

(1位はあの時すでに駄目だった……!だから2位!なのに……あそこまで圧倒的だなんて……!)

 

 緑谷は戦慈に目を向ける。

 自分と……オールマイトにも匹敵しそうな超パワーの持ち主。

 先日の襲撃でもオールマイトを追い詰めた脳無と似た奴を倒したとも聞いた。

 

「これじゃあ……!オールマイトに選んでもらったのに……!」

 

 緑谷は溢れそうになる涙と弱気を必死にこらえる。

 そして轟、爆豪は戦慈、里琴、緑谷の3人を悔し気に見つめる。

 

「くっ……!」

「また……くそ!……くそが……!」

 

 続々とゴールする生徒達。

 戦慈は相変わらず里琴を肩車しながら、体を休めていた。

 

「そろそろ降りろ」

「……疲れた」

「俺もだよ」

「……か弱い」

「てめぇ、最初の数m程度しか走ってねぇだろうが。何がか弱い女だよ」

 

 里琴は全く降りようとしない。

 それにため息を吐いて、ゴールしてくる者達を見る。

 すると鉄哲や骨抜、茨が近づいてきた。

 

「やりやがったな!」

「吹っ飛ばされちまった」

「荒々しくも猛々しかったですね」

「わりぃな」

「気にすんな!けど次は勝つ!!」

「おう」

 

 その後も続々とゴールしてくる。

 一佳達もゴールして、戦慈達の元に近づく。

 

「ふぅ。ギリギリかな?」

「さぁな」

「……おつ」

「ん」

「そのままゴール?」

「ちげぇよ」

「……捨てられた」

「おめぇが1位だろうが」

 

 一佳の言葉に戦慈は肩を竦める。

 里琴は戦慈の肩の上から、唯達を労う。柳は首を傾げて、2人に質問する。

 戦慈がそれを否定すると、里琴が誤解を招く言葉を呟いたので、すぐさま否定する。

 そこに切奈達もゴールした。

 

「いや~……思ったより順位低かったな」

「大丈夫なのか?切奈」

「40位には入ってるし、大丈夫だと思うよ」

「物間も?」

「ああ、B組は全員40位内に入ってるよ」

「ん」

 

 切奈は頭を掻いて苦笑いしながら、近づいてきた。

 一佳は心配そうに声を掛けるが、切奈は手をパタパタとしながら軽く答える。

 

「物間の作戦に付き合うこともないと思うけどなぁ」

「今回は結構真面目な理由だよ。だから他の連中も付き合ってる」

「というと?」

「ん?」

 

 切奈の言葉に首を傾げる柳と唯。

 切奈は物間の言葉を一佳達に伝えると、一佳達は目を見開いて物間を見る。

 

「どうしたんだ?あいつ」

「ん」

「一佳の手刀で壊れた?」

「そこまではしてない!」

「まぁ、言い方がへたくそってことなんだろうね。プライドが高いってのもあるんだろうけどさ。でも、今回は付き合ってもいいかなってね」

「なるほどなぁ」

「まぁ、第二種目が何かにもよるけど」

 

 切奈は肩を竦めて苦笑する。

 それに一佳達も少しだけ物間の評価を変える。

 

「さぁ!結果が出たわ!予選通過は上位42名よ!御覧なさい!!」

 

 ミッドナイトが壇上に立ち、スクリーンを示す。

 

1位:B組 巻空里琴

「……ブイ」

 

2位:B組 拳暴戦慈

「ふん」

 

3位:A組 緑谷出久

「次は……負けない!」

 

4位:A組 轟焦凍

「……」

 

5位:A組 爆豪勝己

「くそが!」

 

6位:B組 塩崎茨

「もっと己を顧みなくては……」

 

7位:B組 骨抜柔造

「こんなもんかね」

 

8位:A組 飯田天哉

「ここまで遅れを……!」

 

9位:A組 常闇踏陰

「奮励努力」

 

10位:A組 瀬呂範太

「ちくしょー」

 

11位:B組 鉄哲徹鐵

「まだまだぁ!!」

 

12位:A組 切島鋭児郎

「まだまだぁ!!」

 

13位:A組 尾白猿夫

「もっと頑張らないと」

 

14位:B組 泡瀬洋雪

「中途半端だなぁ」

 

15位:A組 蛙吹梅雨

「ケロ」

 

16位:A組 障子目蔵

「……」

 

17位:A組 砂藤力道

「拳暴やべぇな」

 

18位:A組 麗日お茶子

「次も頑張る!」

 

19位:A組 八百万百

「はぁ……」

 

20位:A組 峰田実

「いい尻だった」

 

21位:A組 芦戸三奈

「くやしー」

 

22位:A組 口田甲司

「……」

 

23位:A組 耳郎響香

「ちょっと不甲斐ないかな」

 

24位:B組 回原旋

「低すぎたか?」

 

25位:B組 円場硬成

「こんなもんじゃね?」

 

26位:A組 上鳴電気

「情けねー」

 

27位:B組 凡戸固次郎

「皆凄いねぇ」

 

28位:B組 柳レイ子

「ウラメシい」

 

29位:C組 心操人使

「やっぱヒーロー科はすげぇな」

 

30位:B組 拳藤一佳

「次は頑張らないとな」

 

31位:B組 宍田獣郎太

「不甲斐ないですな」

 

32位:B組 小大唯

「ん」

 

33位:B組 鱗飛竜

「くそ……!」

 

34位:B組 庄田二連撃

「やはり機動力が課題か……!」

 

35位:B組 鎌切尖

「次は斬ってやるぜぇ」

 

36位:B組 物間寧人

「ま、こんなところかな」

 

37位:B組 角取ポニー

「頑張るデス!」

 

38位:A組 葉隠透

「ギリギリだった……!」

 

39位:B組 取陰切奈

「次が本番だね」

 

40位:B組 吹出漫我

「くっそ~……」

 

41位:H組 発目明

「フフフ……!」

 

42位:A組 青山優雅

「輝……はうっ!?」

 

 以上、42名が突破。

 

 

 

 

 結果を見て、教師席はそこそこ盛り上がっている。

 

「ヒーロー科はやはり全員突破ですね」

「当然だな。あれくらいで負けては困るぞ」

 

 宇宙服を着たヒーロー、13号。そしてガンマンスタイルのヒーロー、スナイプが当然とばかりに頷く。

 13号の隣では金髪の骸骨のような男が座っていた。

 

「緑谷少年……」

 

 その男は悔しそうにしている緑谷を見て、心配そうにしていた。

 

「どうしたんですか?オールマイト。気になる生徒でも?」

「いや……何でもないよ、13号。それを言ったら皆、気になる生徒さ」

「やはり拳暴君は気になるのでは?あなたにそっくりな『個性』ですからね」

「……そうだね」

 

 骸骨の男、オールマイトは13号の問いかけに笑みを浮かべて首を振る。

 先ほどの表情を見ていなかった13号は戦慈の名前を上げる。

 それにオールマイトは戦慈に目を向けて、頷く。

 

(確かに私に……緑谷少年とほぼ同じ。いや……扱えている分、圧倒的に拳暴少年の方が、緑谷少年より上!彼と競うことは間違いなく君の糧になるはずだ。だからめげるなよ……緑谷少年!)

 

 オールマイトは心の中で緑谷を激励する。

 するとスナイプの横に座って、前のめりで観戦していたブラドが顎を擦りながら唸る。

 

「む~」

「どうした?ブラド」

「いや……やはりA組と比べると機動力が課題なのは事実だが……下位で通過した連中が妙に手を抜いているように見える」

「ふむ。まぁ、まだ予選は続くんだ。それを見越してじゃないのか?」

「かもしれんか……。裏目に出ないといいが」

 

 スナイプの言葉にブラドは頷くも、妙に嫌な予感がするのであった。

 

「それにしても巻空と拳暴の連携は凄まじいな」

「巻空は少し拳暴に依存気味なのがな。他の者と協力できないわけではないが……」

「まぁ、昔馴染みと言うのは大きいだろ。特にあの2人の場合は。それにそれで見事な結果が出せている。今すぐ問題があるわけでもないだろ」

「ああ」

 

 施設でずっと共に暮らしてきている。気心が知れている者と一緒にいるのは不思議なことではない。

 

「さて、ここからどう見せてくれるのか」

「楽しみだな」

 

 教師達も期待を膨らませて、第二種目の行く末を見守るのであった。

 

 

 




第一種目はこんな感じかなと。
ここからは変わっていくので、しっかりと考えていきたいと思います。

ただですね。早く唯、柳、庄田の『個性』を見たい!

と、思っているので、少々お時間くださいm(__)m

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