リングの整備が終了し、第二試合が始まろうとしていた。
戦慈はB組の観客席に座っていた。もちろん体がデカいので後方の席。隣にはもちろん里琴、その隣には一佳が座っている。
『さ~て!!初っ端からぶっ壊れるというド派手な展開でお送りしてるぜぇ!!これからも可能性があるから、飛んでくる瓦礫・突風などにご注意ください!!』
『ファールボールみたいに言うな』
隣のA組の席には、緑谷が松葉杖をつきながらフラフラと現れる。
それに気づいた麗日がてててて!と緑谷に駆け寄る。
「あ!デク君!!もう大丈夫……に見えないね!」
「あ、麗日さん。うん……歩けるまでにはしてもらえたよ」
緑谷は一番後ろの席に座る。その横に麗日と飯田も座る。
「これから第二試合なんだね」
「ボッコボコになっとったからね」
「……次は轟君か」
緑谷は控室で宣戦布告されたこと、そして騎馬戦終了後の身の上話を思い出す。
轟の抱える闇を教えてもらい、自身も宣戦布告した。しかし、その前に呆気なく負けてしまった。
申し訳なさと悔しさと……ほんの少しの怒りと悲しみ。
これをどうするべきか、緑谷は頭の中でずっとグルグルと渦巻いていた。
『それじゃあ行くぜ!!』
『優秀!優秀なのに拭いきれない地味さはなんだ!?A組 瀬呂範太!!』
「ひでぇな」
『バーサス!!同じく優秀!!優秀で恐ろしくイケメン!!A組 轟焦凍!!』
「……」
瀬呂は緊張した顔で手を解しており、轟は静かに立っている。
『START!!』
開始の合図と同時に瀬呂が両肘からテープを射出して、轟の体を手足ごと拘束する。
そして引っ張り、場外へと振り投げていく。
その直後、
キイィン!!
巨大な氷がスタジアム内に出現する。
A組、B組の観客席の目の前に氷の壁が出現する。
それに戦慈や里琴も流石に少し目を見開き、それ以外の者は唖然と口を開けて驚く。
もちろん対戦相手の瀬呂は顔以外が凍り付いて動けなくなる。
「瀬呂君 行動不能!!轟君 二回戦進出!!ハックシュン!!」
ミッドナイトが震えながら宣言して、轟が左手で氷を溶かし始める。
それに観客席からドンマイコールが沸き起こる。
「……やっぱり推薦入試は伊達じゃないか」
一佳は冷や汗を流しながら轟の実力に慄く。
「氷を溶かせるって事は、やっぱ炎も使えんのか。騎馬戦で見えたのは気のせいじゃなかったんだな。……なんで使わねぇ?」
戦慈は次の対戦相手でもあるため、轟の戦い方を推測する。
しかし、もちろん理由なんて思いつかない。
そこに、
「け、拳暴君」
「あん?」
後ろを振り返ると、緑谷が顔を強張らせて立っていた。
「もう歩けるまでにはしてもらえたのかよ」
「うん。……少しいいかな?話したいことがあるんだ」
「……」
戦慈は少し考え込むように黙るが、緑谷の顔を見て立ち上がる。
「他にはいねぇ方がいいか?」
「……うん。ありがとう」
「ってことだ。大人しくしてろよ」
「……ん」
緑谷は戦慈に礼を言うが、その顔は物凄く思い詰めていた。
その様子に里琴や一佳も頷く。
戦慈と緑谷は少し離れた関係者用の通路で向かい合う。
「で?なんだよ?」
「……轟君のことなんだ」
緑谷は未だに話していいかどうか悩んでいた。
しかし先ほどの轟の様子を見て、頼めるのは戦慈しかいないとも思っていた。
そして緑谷は顔を顰めたまま、捻り出すように語り出す。
宣戦布告されたこと、轟が個性婚で生まれた事、エンデヴァーのオールマイトへの執着、それによって起きた母親との悲劇。
そして轟はエンデヴァーを否定するために戦っており、戦いでは炎を使う気がないということ。
それを戦慈は腕を組んで壁にもたれ掛かり、黙って聞いていた。
聞き終えた戦慈はしばらく黙っていた。それを緑谷は固唾を呑んで見つめていた。
「……これを俺に伝えてどうしてほしいんだ?俺にはぶん殴ることしか出来ねぇぞ?」
「……分かってる。というか……そうしてほしいんだ」
「あ?」
緑谷の言葉を戦慈は訝しむ。
緑谷は自身の腕に巻かれているギプスを見つめる。
「……君が言ってたように僕はまだまだ『個性』もまともに使えないし、それ以外の所でも未熟なところしかない。けど、だからって期待してくれた人の声を無視することも僕には出来なかった。他の皆だって、それぞれの目標のために全力で戦ってる」
「……」
「けど、轟君は一度も全力を出していない。それも否定するために1番になろうとしてる。僕は……それがどうしようもなく悔しくて、悲しくて、納得できないんだ」
「……それはてめぇが弱ぇからか?」
戦慈は違うとは思っているが、聞くことにした。
緑谷はガバ!と顔を上げて、力強い目で戦慈を見つめる。
「違う!……例え嫌な思い出しかない力でも、それはエンデヴァーの力でも、お母さんの力でもない。轟君の『力』だ!それを……否定するために使い、否定するために使わないなんて……凄くもったいないって、思ったんだ。僕なんかよりもよっぽど凄いヒーローになれる力なのに……」
緑谷は歯を食いしばって下を見る。
緑谷の言葉に、戦慈は自分を助けてくれた人と先ほどの一佳の言葉を思い出していた。
『誰かの為になりたいっていう思いが、間違いの筈がない』
『余計なお世話が出来るってのはさ。ヒーローにとって大事なことだよ、きっと』
「……なら、誰かのための『余計なお世話』を引き受けるのも、間違ってねぇよな」
「え?」
戦慈の呟きを聞き取れなかった緑谷は首を傾げる。
それに戦慈は肩を竦めて、緑谷に背を向けて歩き出す。
「あ……」
「ま、気には留めといてやるよ。けど、あいつが全力出す前に、俺が倒しちまったらそこは知らねぇ」
「……うん。ありがとう」
緑谷の礼に戦慈は足を止めて、振り返らずに言葉を続ける。
「ふん。物好きなのはいいがよ。てめぇはまず自分のことに集中しろや。言ったはずだぜ?自分の事をないがしろにするヒーローに助けを求める奴は少ねぇってな。今度は人に頼らず、自分で言えるようにしろや」
「……分かってる」
戦慈の言葉に力強く頷く緑谷。
戦慈はそのまま歩き出して、観客席に戻っていく。
緑谷はその背に改めて頭を下げるのだった。
戦慈は観客席に戻る。
里琴の横に一佳の姿はなく、茨が前の席に座っていた。
「塩崎はもう終わったのか?」
「……瞬殺」
「機会を無駄にせずに済みました」
茨の対戦相手はA組の上鳴。放電する『個性』だったと戦慈は記憶している。
なので茨が瞬殺する手段を考えるならば、
「ツルで相手を縛って覆ったか?」
「そこまでは。あの方を縛って、ツルを盾にして切り離すことで防がせて頂きました」
「なるほどな」
どうやら上鳴の放電は指向性はないようだ。
それならば茨のツルの方が優位だろう。
ということで次は四回戦。
一佳の試合である。
『さぁ四回戦だ!!今の所、意味不明なタコ殴りか、どんまいな瞬殺か、ウェイな瞬殺しかねぇ!!もう少し楽しめる戦いを期待するぜ!!』
『どんな注文だよ』
『生徒達の努力を否定するな』
プレゼントマイクの言葉に担任2人がツッコむ。
そしてリングに一佳と飯田が立つ。
『四回戦は委員長対決だ!! 大きな両手の姉御委員長!!B組 拳藤一佳!!』
『バーサス!! 厳正一直線ターボ委員長!!A組 飯田天哉!!』
一佳は手のひらに拳を打ち付け、飯田はフシュー!と鼻から息を勢いよく噴き出す。
「……どう見る?」
「あん?……パワーは拳藤だが、スピードは飯田だな。だから拳藤はどう飯田を捕まえるか。飯田は拳藤の隙をどう突くか、だな」
戦慈の言葉に頷くB組一同。
『START!!』
開始の合図と同時に飯田が走り出す。
一佳はそれに右手だけを巨大化して、手を広げた状態で薙ぎ払う。
ブォン!!と音を立てて、勢いよく飯田に迫る。飯田はギリギリで足を止めて躱すが、直後に突風が襲い、止まろうと後ろに体重をかけていた飯田は後ろにバランスを崩す。
「ぐ!な、なんてパワーだ……!?」
一佳はすぐさま手を戻して駆け出す。飯田に迫りながら両腕を広げて、両手を巨大化させながら飯田を挟み込むように腕を閉じる。
飯田は後ろを向いて、ふくらはぎのエンジンを吹かして走る。
直後、飯田の真後ろで一佳の両手がバヂィン!と閉じられる。
『ビッグハーンド!!』
『飯田の道を塞ぐように上手く巨大化を使ってるな』
『ああ。しかし、飯田のスピードには追いつけてはいない。そこをどう攻略するかだな』
飯田はすぐさま横に向いて、一佳の周囲を旋回するように走る。
それを見た一佳は飯田から目を離さず、後ろ向きに走る。
「拳藤……!?」
「何を狙ってんだ?」
鉄哲は一佳の行動に驚き、鱗が首を傾げる。
それに戦慈が答える。
「背後に回らせねぇためだ」
「背後?」
戦慈の言葉に泡瀬が首を傾げる。
「基本的に背後は絶対の死角で、確実な隙だ。飯田のスピード相手じゃ背後に取られた瞬間に敗けだ。騎馬戦でのあのスピードを出されたら俺でも厳しい。だから……」
「場外ラインを利用して、それを盾代わりにするつもりなんだろうね」
戦慈の説明を切奈が引き継ぐ。
その言葉通り、一佳は場外ラインギリギリまで下がる。それに飯田は顔を顰めながら反転し、足を止めずに走り続ける。
一佳は鋭い目で飯田を見つめ続け、飯田に合わせて両手の位置を動かす。いつでも対応できるように。
「これで飯田は奇策か、力押ししかねぇ」
「けど一佳からすれば、その奇策と力押しに警戒すれば隙は少ない。何より……一佳は時間をかければかける程、思いつく限りの奇策に対策を講じるだろうね。力押しなら一佳も前に出ればいい」
「拳藤の巨大化した手は間合いが広い。飯田の蹴りやら攻撃が届く前に対処できるだろうよ」
『やや膠着状態!!この2人をどう見る!?担任共!!』
『飯田は頭もいいし、判断力もあるが、少し頭が固いところが弱点だな。1つの事に固執して、周りが見えなくなることがある』
『拳藤はあまり目立たないかもしれんが、頭の回転は早いし、思考は柔軟で咄嗟の判断力もある。正直2人にあまり実力差はないだろうな』
戦慈と切奈の解説に、他の全員が納得したように頷いてリングに目を戻す。
飯田は力押しでいくことにしたのか、一佳の右斜め前から走り迫る。
一佳は手を巨大化せずに腰を据えて、両腕を少し開いて待ち構える。
(力押しで来た。私の右後ろは場外。なら、考えられるのは直前での超加速か、左に移動してからの突撃の2つ!なら!!)
一佳は左手だけ巨大化する。
それを見た瞬間、飯田は左を向いた。
「トルク・オーバー!!レシプロ・バースト!!」
ドバン!とふくらはぎから黒い煙を噴き出して、高速で前進する。
「真横に!?何を!?」
一佳は突撃のアドバンテージを捨てた行動に目を見開いて、慌てて飯田を見失わないように左に体を向ける。
すると、いつの間にか飯田が両手を突き出して、目の前にいた。
一佳は更に目を見開いて、右手を巨大化して飯田を掴みかかろうと手を動かす。
その前に飯田の手が一佳の肩を押す。
一佳は両足で踏ん張り、後ろに仰け反りながらも飯田の体を掴む。そして、そのまま後ろにバックドロップするように両腕を持ち上げて、飯田を場外へと投げる。
「でやああああ!!」
「ぬおおおお!?」
飯田は場外に投げ飛ばされてうつ伏せに落ちる。そして一佳もそのまま背中から倒れて仰向けになり、上半身が場外に出る。
『うおおお!?これはどっちだ!?』
『普通なら飯田だが……』
「拳藤さん 場外!!飯田君 二回戦進出!!」
「「えっ!?」」
ミッドナイトの宣言に、飯田と一佳はもちろんほぼ全員が驚く。
その宣言に鉄哲が立ち上がる。
「なんでだよぉ!?今のはどう見たって拳藤の投げ勝ちだろぉ!!」
「差別かな!?教員も差別するのかな!?」
物間も嫌らしい笑みを浮かべて叫ぶ。
A組の面々も複雑そうに顔を顰めて、リングを見つめていた。
「確かに今のは飯田の方が先だよな?」
「ああ。髪が場外に着いているようにも見えなかった」
するとB組の席から声が響いた。
「仰け反ったときに、拳藤の頭が場外ラインを越えたんだろうよ。上空にも適用されんだろ?ラインは」
その声は戦慈だった。
その言葉に鉄哲達やA組の面々は「そう言えば……」とルールを思い出す。
「拳藤さんの頭が先にラインを越えていたわ!残念だけどルール上、先に場外に出たのは拳藤さんとなります!!」
その言葉を後押しするようにミッドナイトの言葉とスクリーンに、判定シーンが表示される。
確かに肩を押されて仰け反った際に、サイドテールと後頭部の一部がラインを越えていた。
それに拳藤は右手で顔を覆い、ため息を吐く。
「わ、忘れてた……」
そして飯田に顔を向ける。飯田も納得出来ていないのか、腕を組んで唸っている。
「これは私のミスだよ。ルール忘れてたしな。だから気にしないでくれよ」
「しかし……あれはどう考えても俺が……」
「あのラインが壁だったり、罠だったら、そうも言えないだろ?ルール内で負けた以上、負けは受け入れないとな」
「……分かった!!その気持ち、ありがたく受け取ろう!!」
飯田は両腕をカクカクと振り、一佳に礼を言う。
その動きに少し引く一佳だが、なんとか笑って頷く。
『複雑かもしれねぇがぁ!!ルールである以上、こういうこともある!!これから戦う奴らは、それを受け入れろよぉ!!いつでも納得出来る評価をしてもらえるわけじゃねぇぞ!?』
『そういうことだな』
『拳藤!!この敗北を次に活かせ!!お前なら出来る!!』
「はい!」
ブラドの言葉に一佳は力強く頷く。
一佳は観客席に戻る。
そして苦笑して両手を合わせる。
「悪い。最初に負けちゃった」
「気にすんなよ! 俺は拳藤の勝ちだと思うぜ!」
「ルールだから仕方がないでしょ」
「ん」
「頑張った」
鉄哲が右手を握り締めながら叫び、切奈は苦笑して慰める。それに唯や柳達も頷く。
戦慈は肩を竦めて、里琴は無表情で親指を立てる。
一佳は戦慈の横に座って、深く息を吐き、先ほどの試合を思い出す。
「ふぅ~……そういえば、飯田って最後どうやったんだ?」
「ああ、かなり無理矢理なことしてたぜ」
「というと?」
戦慈の言葉に首を傾げる一佳。
「地面に左手を着いて、それを軸に無理矢理旋回しやがった」
「……なるほど」
「あのスピードじゃ、お前のデカい手が逆に目隠しになったな。まぁ、そうでなくても厳しかっただろうけどよ」
「そこまでか?」
「回転した遠心力もギリギリ利用してたかんな。スピードが下がるどころか上がってたぜ。見えてても、あれは不意を突かれたんじゃねぇか?」
戦慈の説明に納得する一佳。
確かにそんな方法ではすぐに対応できていたとは思えない。結果はあまり変わらなかったということだろう。
『さぁ!!次の試合だぁ!!』
「あれ?里琴?お前の番じゃないのか?」
一佳が里琴に顔を向ける。
それに里琴は頷くと、突如尻の下に竜巻を出して、その場でフワリと浮かぶ。
「……戦慈」
「そのまま行けよ」
「……行ってきますの投げ」
「意味分かんねぇよドアホ」
「……へたれ~」
「行ってきますのキス」のような謎の発言をして、戦慈に切り捨てられる。
それに里琴は無表情のまま言い返し、足裏に竜巻を生み出して、観客席からリングに飛び出る。
リングに降りる直前に、再び小さく竜巻を生み出してゆっくりと着地する。
『ド派手な登場~!!流石1位!!』
里琴の登場に会場が沸き、普通に出てきた芦戸の存在が掻き消される。
芦戸は苦笑いしながらリングに上がる。
『第五回戦!!頑張れな!A組 芦戸三奈!!』
『バーサス!!予選1位!!騎馬戦1位!!スゲェ!!でも半分は拳暴の肩の上!!B組 巻空里琴!!』
芦戸は腕をストレッチして構え、里琴は無表情で突っ立っている。
芦戸は全く表情が変わらない里琴に内心では戸惑っている。しかし、その実力は本物である。空も飛べるし、壁も作れる。
対して芦戸の『個性』は《酸》。竜巻は防げないし、空も飛べない。
正直、勝てる策が思いつかない。
「それでもやるっきゃない!!」
『START!!』
気合を入れて構え直す芦戸。
そして開始の合図と同時に、芦戸が飛び出して里琴に酸を放つ。
里琴は足裏から竜巻を放ち、高く飛び上がって躱す。それと同時に左腕を振り、蛇のように竜巻が放たれる。
芦戸も足裏に酸を出して、スケートのように滑って躱そうとする。
「……てやー」
「げっ!?」
そこに里琴が右腕からもう1本竜巻を放ち、芦戸に襲い掛かる。
芦戸は慌てて竜巻に向かって酸を放つも、何も起こることはなく、芦戸はそのまま竜巻に飲み込まれる。
「いや~~~!!」
芦戸は回転しながら吹き飛ばされて、尻から場外に落ちる。
「ぎゃん!?」
「芦戸さん 場外!!巻空さん 二回戦進出!!」
『圧勝おお!!これは仕方ねぇかぁ!?』
『まぁ、相性が悪かった』
里琴は空中からそのまま飛び、観客席に戻る。
そして空中で姿勢を整え、戦慈の肩に飛び降りる。
「……ブイ」
「うるせぇよ」
里琴が戦慈の顔の前にピースした手を突き出す。それに戦慈は顔を顰めながら、肩の上の里琴を掴んで隣の席に降ろす。
一佳達は苦笑して、里琴の勝利を祝う。
それに里琴は無表情で再びピースで答える。
「よっしゃあ!!次は俺だな!!」
「気張れよ。鉄哲」
「おうよ!」
「ぶん殴って来い!」
「任せろぉ!」
「任せてはない」
鉄哲は気合を入れながら胸を張って、控室を目指す。
そしてリングでは次の試合が始まろうとしていた。
『第六回戦!!漆黒の使徒!!A組 常闇踏陰!!』
『バーサス!!ちょっと成績がパッとしてねぇな!A組 八百万百!!』
常闇は鋭い目つきで立っており、八百万は少し顔を強張らせている。
「常闇はあの影の生き物で、八百万は物を作る『個性』だよな?」
「……ん」
「あの女の創造が早いかどうかで決まるだろうな」
戦慈達の言葉にB組の面々は試合の動きに集中する。
そして試合が始まる。
『START!!』
開始直後に常闇が黒影を出現させ、八百万に突撃させる。八百万は腕に盾を作り出すも、後ろに弾かれる。
その後も連続で黒影が攻撃を仕掛けて、八百万は防戦一方のまま押され、あっという間に場外に押し出される。
「八百万さん 場外!!常闇君 二回戦進出!!」
八百万は茫然と立っており、常闇は涼しい顔で礼をして、リングを去っていく。
「あの黒影って結構厄介だよな」
「あれを封じる策がいるかもな」
「……面倒」
「まぁ、本体狙いが無難だな」
「八百万はなんか不調だったな」
「作るもんの選択が定まらなかったんだろうよ」
続いては鉄哲と切島の似た者同士対決。
『第七回戦!!『個性』ダダ被り対決!!B組 鉄哲徹鐵 バーサス A組 切島鋭児郎!!』
紹介が適当であるが、2人は気にせず、揃ってポキポキと指を鳴らして、不敵に笑いながら睨み合っている。
『『個性』がそっくりだが、どうみる!?両担任!』
『性格も似てるみたいだしな』
『僅かな『個性』の特性の違いが勝敗を分けるか、我慢比べだろうな』
鉄哲と切島は揃って、拳を構える。
『START!!』
開始の合図と同時に駆け出して、揃って右フックで顔面を殴り合う。
ガッキイィン!!
殴り合いなのに金属音が響く。
2人は倒れることなく、踏ん張って耐える。
「効かねええぇ!!」
「お前もなあぁ!!」
鉄哲が再び右フックで切島の顔を殴る。切島はすぐさま顔を起こして、鉄哲の頭を上から殴る。
鉄哲は下を向くが、顔を上げると同時に左アッパーで切島の顎を殴る。仰け反った切島は歯軋りをしながら、体を起こして右ストレートを鉄哲に叩き込む。
『壮絶な殴り合いーー!!』
『まぁ……』
『こうなるだろうな』
「どりゃあ!!」
鉄哲は後ろにたたらを踏むが、すぐに前に駆け出して、右腕を振り被って飛び込みながら切島の額を殴る。
「ぐっ!んのおおお!!」
切島は吠えながら左フックを、鉄哲の顔に叩き込む。
「「どりゃあああ!!!」」
ガン!ギィン!ガァン!
2人は拳をぶつけ合ったり、クロスカウンターのように殴り合う。
実力は互角のようで、やったらやり返す状態である。
それに観客達は盛り上げる。
泡瀬達も興奮して「そこだ!」「いけ!」と盛り上げる。
「「はぁ!……はぁ!……はぁ!……」」
息を荒くして、鼻血を流しながら拳を構えて向かい合う鉄哲と切島。
「「おおおおお!!!」」
そして互いに右腕を振り被り、同時に互いの左頬を殴る。
たたらを踏んで、後ろに倒れそうになる2人。
その時、
「敗ぁけぇるぅかよおおお!!!!」
鉄哲が大きく叫びながら無理矢理体を起こして、フォームも何もなく、ただただ全力で切島に右拳を振り抜く。
それは切島の左頬に再び当たり、切島は仰向けに大の字に倒れる。
「はぁ!……はぁ!……拳暴のぉ!……拳に比べりゃあ!……はぁ!……痛くねえええ!!」
鉄哲はふらつきながらも、拳を構えながら叫ぶ。
切島は倒れたまま起き上がらなかった。
「切島君 ダウン!!鉄哲君 二回戦進出!!」
『ダダ被り組殴り合い対決を制したのは!!B組 鉄哲だああ!!』
『最後は気合だったな』
『いい勝負だったぞ!!』
鉄哲は少しふらつきながらも、B組の観客席を見上げる。
そして右人差し指を指す。
「拳暴おおおおお!!!」
鉄哲は全力で戦慈の名前を叫ぶ。
「俺はあぁ!!今度こそ、お前に勝あぁつ!!!」
『宣!戦!布告ー!! 気合の
鉄哲の宣戦布告に更に沸きあがる観客。
戦慈は特にリアクションはなかったが、近くにいた一佳や切奈達は戦慈から感じる圧が濃くなった気がした。
そして戦慈に目を向けると、戦慈の口がゆっくりと歯をむき出して三日月形に変化していく。
一佳達は戦慈の笑みと溢れる圧に目を見開く。
戦慈がここまで感情を剥き出しにしたのは初めて見るからだ。
ライバルなんてどうでもいい。
そう言っていた戦慈が、明らかに鉄哲の宣戦布告に楽しんでいる。
戦慈が笑っていることに気づいているのかどうかは分からない。
それでもこの変化はきっといいことである。
一佳はそう思った。
里琴も何も言わずに、ただ足をプラプラさせる。少し嬉しそうだなと一佳は微笑むのだった。
そして一回戦最後。
戦慈は次の試合のため、控室に向かっていった。
戦慈が去ったことで里琴以外の全員が「ふぅ」と息を吐く。
「驚いたぁ。食われるかと思った」
「ん」
「熊?」
「暴走してなくてもハンパねぇな……」
「けどまぁ、鉄哲の宣戦布告が受け入れられたのは結構デカくね?」
「それは同意」
切奈がパタパタと手で顔を扇ぎながら呟き、それに唯が頷く。柳が戦慈を熊に例えて、切奈達が苦笑する。
円場が少しげっそりとして呟き、泡瀬が戦慈の様子に笑みを浮かべて、物間も頷く。他の者達も少し嬉しそうに頷く。
「鉄哲に教えるか?」
「やめとこうぜ。もっと暑苦しくなる」
「それもそうだな」
鱗が笑いながら鉄哲の事を上げると、骨抜が肩を竦めて内緒にしておこうと提案する。
それに回原が頷いて笑う。
そこに鉄哲が戻ってきて、全員が妙にニヤニヤしながら鉄哲を迎える。
それに首を傾げる鉄哲だが、最後の試合が始まり、全員が集中する。
少しずつ様々な関係が変化していくのを、内心で感じていく一佳達だった。
爆豪VS麗日戦が残ってしまいました(-_-;)
どうしましょうかね。
戦慈VS轟の試合を考えた文字数の結果で考えます(__)