そしてまさかの日間1位!?
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
が、頑張ります。
戦慈は控室に向かって歩いていた。
すると、目の前の曲がり角から炎を纏った男が現れた。
No.2ヒーロー エンデヴァー。轟の父。
先ほど緑谷から色々話を聞いた直後なので、内心で舌打ちをする戦慈。妙に高揚していたので尚更戦慈は機嫌が悪くなった。
「おっ。おぉ、いたいた」
「あん?」
エンデヴァーは戦慈を視界に捉えて、近づいてくる。
それに戦慈は訝しむ。
「君の活躍は見せてもらった。素晴らしい『個性』だね。あの風圧に、身体能力。オールマイトに匹敵する力だ」
「何が言いてぇんだよ」
「……うちの焦凍にはオールマイトを超える義務がある。君との試合はテストベッドとして、とても有益なものとなる。くれぐれもみっともない試合はしないでくれたまえ」
「……くだらねぇ」
エンデヴァーの異常としか言えない言葉に、戦慈は思わず本音が飛び出す。
立ち去ろうとしていたエンデヴァーはその声を聞いて、足を止めて振り返る。
「なに?」
「くだらねぇって言ってんだよ。自分じゃオールマイトに敵わねぇって気づいたからって、自分のガキに押し付けるって情けなくねぇか?」
「……貴様に何が分かる……!」
「じゃあ、てめぇに轟のことが分かんのかよ?」
「っ!」
エンデヴァーは顔を顰めて、戦慈を睨みつける。
今度は戦慈がエンデヴァーに背中を向けて歩き出す。
「安心しな。あんたのくだらねぇ息子は、俺が叩き潰してやるよ。オールマイトに届く前にな」
戦慈の背中をエンデヴァーは苦々しく睨みつける。
戦慈は視線を感じていたが、それに一切取り合うことなく控室へと入って行った。
「……あれがヒーローがする顔かぁ?そりゃあ、息子も歪むわなぁ」
緑谷の言葉と轟の様子を思い出して、ため息を吐く。
あの執念とずっと共にいれば、母親とて壊れるだろう。轟には十分同情する思いはある。
しかし、だからと言って今の轟の考え方を認めるわけにもいかない。
「はぁ……めんどくせぇこと聞いちまった」
ため息を吐いて、顔を顰める戦慈。
しばらく座っていると、突如扉が開く。
入ってきたのは頬にガーゼを貼り、ボロボロになっている麗日だった。
「あ、ご、ゴメン!」
「構わねぇよ。お前が終わったんなら、次は俺だ。俺が出ていく」
戦慈は椅子から立ち上がって、両手をポケットに入れて扉へと向かう。
「……ありがとう」
「礼を言われることじゃねぇ」
戦慈は控室を出て、リングへと向かう。
ゆっくりと入って行くと、反対側からも轟が現れる。
『お~っとぉ!早くも選手入場だ!けど、修繕完了までもう少し待ってくれな!』
戦慈と轟はそれを無視してリングに上がる。
そしてリングの中央付近で向かい合う。
「……ようやくお前と戦える」
「あ?そりゃあ、あれか?親父殿の期待に応えるためか?No.2の息子さんよ」
「っ!……親父は関係ない……!」
「あ?それにしちゃあ、さっき控室の前で親父殿に声を掛けられたぜ?オールマイトへのテストベッドだってな」
「……そんなことはどうでもいい……!」
「そうか?それにしちゃあ、随分と顔が険しくなってるぜ?それに随分と舐めた戦い方してるじゃねぇか。炎も使わずに勝つつもりか?」
「……ああ、勝つ」
「……はぁ、やっぱてめぇ、エンデヴァーの息子だな。よく似てるぜ。その他人を踏み台程度に見てる目つきがよ」
「っ!!!……おまえぇ……!!」
戦慈の言葉に、轟は顔を歪め目を血走らせて睨みつける。
戦慈もポケットから両手を出して、まっすぐに睨み返す。
『な……なんか物々しい雰囲気になってるぜ?どしたのお2人さん』
轟と戦慈の間の雰囲気に、プレゼントマイクや観客席は戸惑いの顔を浮かべる。
特に緑谷は冷や汗を流し、心臓がバクバクしているほど緊張して2人を見ている。
「や……やっぱり話したのマズかったかな……!?」
「な、なんかヤバい事になっとるね……!?」
「あ、麗日さ……どうしたの!?その目!?」
麗日の目が腫れ上がっていた。それに緑谷や飯田がパニックになるが、麗日は目を擦って笑みを浮かべる。
「大丈夫!もう何でもないから!」
「そ、そう?」
「うん。ところで……あの2人何かあったの?」
麗日は誤魔化すように笑いながら緑谷の隣に座り、リングの2人を心配そうに見る。
それに緑谷も頷いて、顔を強張らせてリングに視線を戻す。
「まだ何もない……はずなんだけど」
「なにか話していたからな。挑発するようなことでも言ったのだろうか?」
「でも、拳暴君ってあんまり挑発するイメージはないけどな……」
一佳達も戦慈の様子に首を傾げる。
「なんか機嫌悪いの?さっきは機嫌よさそうに出ていったのにさ」
「分からない……機嫌は悪いんだろうけど……それだけじゃないような……」
「……わざとっぽい」
「わざと?あの轟をわざわざ試合前にキレさせなくてもいいだろうに……」
切奈の言葉に一佳も戸惑いながら答え、それに里琴が呟く。その内容に鱗が呆れる。
里琴も何があったのか分からないので、これ以上の推測のしようがない。
しかし、
「……機嫌が悪いなら、それでいい」
「え?」
「……怒りはアドレナリンを出す」
里琴の言葉に全員が戦慈に目を向ける。
リングでは未だに2人は睨み合っていた。
「なんだよ?ムカついてんのか?けどよぉ……」
戦慈が両手を握り締めると、戦慈の体が一回り膨れ上がり、髪が逆立つ。
それに轟は目を見開く。
「それは俺もだって分かってんのかぁ?てめぇら親子の気晴らしのためによぉ……俺はここにいるわけじゃねぇんだよ……!」
「っ!」
『な、なんかヤバげだな!?じゃあ、ちゃっちゃとやっちゃおう!!ある意味、決勝戦!?拳暴 バーサス 轟!!START!!』
『『おい』』
プレゼントマイクの投げやりな開始に相澤達がツッコむが、戦慈と轟にはどうでもよかった。
轟は開始と同時に氷結を放つ。
戦慈は腕を振り抜いて、衝撃波を放って砕く。それと同時に飛び出して、轟に迫る。
轟は風圧に耐えながら、すぐさま再度氷結を放つ。
それを戦慈は右斜め前に飛び出し、足裏に衝撃波を放って、更に加速して氷結を躱しながら轟に迫る。
「っ!?」
「ふん!」
轟は戦慈に氷結を広げようとしたが、戦慈は左手指を弾いて衝撃波を出して氷結を砕く。
「っ!?緑谷の!?」
「オラァ!!」
戦慈は右腕を振り被って轟に右ストレートを放つ。
轟は右に飛んで躱し、地面に手を突きながら氷結を発動して、戦慈の体を覆っていく。
「舐めんなあああ!!!」
バッキイイィン!!
戦慈は力を振り絞って、全身の氷を砕く。ジャージも破れて、皮膚からも血が噴き出すが、すぐさま白い煙が噴き出して治っていく。
そして轟に両手を伸ばして飛び掛かる。
轟は右手で戦慈の腕に掴みかかろうとするが、その瞬間に戦慈は両腕を開いて轟の手を弾く。そして左前蹴りを轟の腹部に突き刺す。
「ごぉ!?」
『入ったあぁ!!本日、轟初ヒットおお!!』
轟は後ろに吹き飛び、地面を転がる。氷結で体を止めることで場外を防ぐ。
「オオオオ!!」
「っ!?んのぉ!!!」
起き上がろうとしていた轟に、戦慈が走り迫る。
それに歯軋りをしながら轟は大規模の氷結を生み出して、戦慈を飲み込もうとする。
戦慈は両腕を高速で動かし、氷結を連続で殴りかかる。
「オォララララララララララララ!!!」
拳の壁を作る戦慈を氷結が覆い、リングに巨大な氷が生まれる。
『飲み込まれたああ!!これは決まったかぁ!?』
『……いや』
『は?』
『見ろ!氷が割れる!!』
ブラドが叫んだ直後、巨大な氷が弾けるように砕けた。
轟は目を見開いて驚いていると、目の前に巨人が現れ、左の脇腹に衝撃が走る。
「が!?」
轟は右に吹き飛び、地面を転がる、意識が飛びそうになりながらも、再び氷の壁を生み出して場外を防ぐ。
そしてふらつきながらも素早く体を起こし、戦慈を見る。
「ハアアアァァ……!」
「……っ!?」
戦慈は体が更に膨れ上がっており、オールマイトやエンデヴァーよりも大きくなっている。全身から白い煙を立ち上げながら、仁王立ちして轟を見つめている。
上半身は裸になっており、凄まじい筋肉と傷痕が露わになっている。
しかし、轟や他の者達が一番注目しているのは、そこではなかった。
全員が息を呑んで見ているのは、戦慈の顔。
そこにはあったはずの赤い仮面がなくなっていた。
誰もが気になっていたはずの仮面の下の素顔。
それが露わになったはずなのに、誰もリアクションが出来なかった。
何故なら
そこには轟以上の火傷の痕があったから。
両目の周囲に額と広範囲に火傷の痕があり、眉毛はない。
「……お前……は……」
「あん?……ちっ。仮面が割れてんのか。ま、別に大したことじゃねぇだろ?テメェだって左目火傷してんじゃねぇか。まぁ、気味が悪いなら我慢してもらうしかねぇがな。とりあえず、続きやんぞ」
戦慈は轟の視線で仮面がないことに気づいて、舌打ちする。
しかし、気にするなと声を掛けて、拳を構える。
それに轟は完全に唖然として、固まっていた。
『いやいや……流石に無理があんだろぉ……』
「……里琴……あれは……なんでだ?」
「……私からは言えない」
「里琴!!」
「……あれは私と会う前から。……私は話す資格がない」
「っ!!」
一佳が両目に涙を溜めながら、里琴に詰め寄る。
しかし、里琴はいつもの無表情のまま首を横に振る。
それに一佳は悔し気に顔を顰めて、戦慈に目を向ける。
轟は立ち上がりながら、困惑したように戦慈に問いかける。
「……その火傷は……戦いでか?」
戦慈は僅かに顔を顰めるが、困惑している姿にため息を吐いて構えを解く。
「ちげぇ。これはな……親に油を掛けられて火をつけられたからだ。4歳くれぇの時だ」
『っ!!?』
戦慈の言葉に里琴以外の全員が目を見開いて固まる。
「俺の『個性』は突然変異型だ。両親のどちらとも違う」
「……」
「俺がこの力を発現したのは、生まれてすぐだったそうだ。なぁ、轟。この力を生まれたての赤ん坊がコントロール出来ると思うか?」
戦慈は右手のひらを見下ろしながら、轟に問いかける。
それに轟は答えられない。
「答えはもちろん『ノー』だ。俺はただ泣き叫び、ただ暴れた。俺の力は暴れれば暴れるほど強くなり、リセットするには力を振り絞って吐き出すしかねぇ。いくら赤ん坊とはいえ、溜めに溜めた力を放出すれば大人であろうとタダじゃあ済まなかったんだろうな」
戦慈は右手を横に向けて、ピン!と指を弾く。それだけでバン!と衝撃波が飛ぶ。
「両親は暴れまくり、壊しまくる俺に限界だったんだろうよ。そしてある時、親父が叫びながら俺の顔に油を掛けて、お袋が火をつけた。俺は熱さと痛みに叫びながら暴れて、外に飛び出した。たまたま冬で、外に雪が積もってたからな。それでなんとか消火した。《自己治癒》が働いてたおかげでな、なんとか失明まではしなかったが、ご覧の痕が残った」
「……」
「もちろんそんなことして、騒ぎにならねぇはずはねぇ。両親は警察に捕まって、俺は病院で治療を受けた後は施設に入った。けど、俺の力が暴走し続ける限り、俺はまだまだ人を傷つけちまう。だから、俺はがむしゃらに鍛えた。崖から落ちたり、建物の屋根から落ちたり、ケンカに巻き込まれたりして毎日ボロボロになった。そのせいで、まぁ、周囲からは気味悪がられたがな」
戦慈の話に全員が聞き入る。
「けど、そんな時にあるヒーローだと思われる人に救われた。そのヒーローに自分の事を相談した。このままじゃ、親父達に申し訳が無いってな」
「……両親に?……お前に火をつけたのにか?」
「それは俺が原因なんだ。当然だろうよ。だから、俺は両親を恨んじゃいねぇ。むしろ謝っても謝り切れねぇくらいの罪悪感がある」
「……」
「だから俺は、ヒーローを目指すことにした。両親を苦しめたこの『個性』でヒーローになって、両親が生んだ子供は化け物じゃねぇと証明することに決めた。ただ、これは不純な動機だ。それを助けてくれたヒーローに言ったら、こう言ってくれた。『誰かのためになりたいって思いが、間違いの筈がない』。だから、俺が両親のためにヒーローを目指すことは、間違っていないはずだってな。その後からは会ってねぇし、調べても分かんないままだがな。けど、それで十分だった。十分俺は救われた」
戦慈はまっすぐ轟を見る。
轟は思わず一歩後ずさる。
「なぁ、轟よぉ。てめぇは今、誰かに胸を張って『ヒーローになる』って言えるか?エンデヴァーを見返すためだけに力を振るって、そこに立ってるてめぇに。今日、てめぇが蹴落とした連中に言えるか?」
「っ……!?」
「本当にそっくりだぜ?オールマイトを追うエンデヴァーと、そのエンデヴァーを追うてめぇの顔はよ」
戦慈の優しく諭すような声色に、轟は自分の中の何かを揺さぶられた。
「左を使えや、轟。教えてやるよ。左を使った程度で勝てる相手じゃねぇってことをよ」
戦慈はそう言って、両腕を顔の前で交えて、少し腰を据える。
そして、
「オオオオオオオオオオ!!!」
腕を広げて、上を見上げながら叫ぶ。
戦慈を中心にクレーターが出来、スタジアムに暴風が吹き荒れる。
轟は背後に氷結を生み出して、風圧に耐える。
戦慈は両腕を引き締めて、左脚を踏み出す。
「その震えて凍り始めた体でぇ!!止められるたぁ思うなよオ!!」
「っ!!」
ドォン!!
戦慈がいたクレーターが更に抉れ、一瞬で轟の目の前に右腕を振り被って現れた。
轟は氷の壁を作ろうにも氷結の勢いは弱く、それに気づいて逃げようにも体の動きも鈍っていた。
戦慈は右腕を振り、ラリアットのように轟に叩きつける。
轟は左腕で防ぐも、全く勢いは弱まらず、更に衝撃波が飛び出して吹き飛ばされる。
ドォン!!
そのまま場外かと思われたが、なんと戦慈は再び爆発音を轟かせて、一瞬で轟の背後に回り込んだ。
「カァ!!」
今度は左蹴りを叩き込んで、轟が地面に叩きつけられて、更に跳ね上がりながら反対側に吹き飛ぶ。
『クレイジー!!轟、絶体絶命ー!!』
『パワーもスピードも上がってる。轟の氷結じゃあ抑えられんな』
『あれが襲撃事件を乗り切ったパワーだ。まさしくオールマイトでもなければ勝てんだろうさ』
「キレてねぇだけマシってところか?」
「手加減は出来てるみたいだ」
「けど、あのパワーは変わらないよねぇ」
「流石に轟も勝てねぇか」
「あははは!!最強はB組さ!!」
骨抜が唸りながら襲撃時と比べ、それに庄田が頷く。凡戸が戦慈のパワーに慄き、円場が腕を組んで改めて戦慈の実力に唸り、物間が高笑いする。
物間の高笑いに周囲は呆れるが、確かに調子に乗っても仕方がない実力差だった。何故、物間が調子に乗るかは分からないが。
A組にも衝撃が走っていた。
「あの轟が……」
「手も足も出ねぇ……!?」
「本当にオールマイトみたいじゃんかよおお!?」
「けど……なんか氷の勢いも弱くねぇか?」
瀬呂が唖然として、上鳴が慄き、峰田が叫ぶ。
しかし、切島が轟の異変に気づき、首を傾げる。
そこに緑谷が声を上げる。
「……『個性』だって身体機能だ。轟君自身、冷気に耐えられる限度があるんだ。……そうか。だから左の炎……!!」
「どういうことだ?」
緑谷の言葉に飯田が首を傾げる。
「エンデヴァーは炎を使い続けると、体に熱が溜まる。もし、それが轟君も同じなら……!熱が溜まれば、右の冷気で!身体が冷えれば、左の炎で!轟君はそれぞれのデメリットを自分で解決できるんだ!」
緑谷の言葉に全員が目を見開く。
「なら、早く炎を使えよ!」
「いえ……轟さんは戦いでは左は使わないと……」
「言っていたな」
「なんで!?」
「……」
瀬呂が轟に向かって叫ぶ。それに八百万が困惑したように声を上げて、飯田も頷く。芦戸が理解できないと目を見開き、その言葉に緑谷は顔を顰めて俯く。
(ここまで来ても……まだ君は……!)
緑谷は轟に全力で戦ってほしい。ただそれだけだった。
轟は何とか氷結で場外を免れる。
しかし、もはや体は震え、まともに体が動かなかった。
「……どうすんだ?その体たらくでオールマイトに勝つ気か?」
「……っ!」
戦慈の言葉に轟は何も言い返せなかった。
「……てめぇは何のためにエンデヴァーを見返すんだ?てめぇの母親のためか?」
「っ!?……なんで……!?」
「世話好きな奴から聞いた。わりぃとは思うがな。てめぇのその火傷は母親なんだろ?なんで母親じゃなくてエンデヴァーばっか恨んでんだ?」
轟は怒りとも悔しさとも言えぬ歪んだ顔になる。
「……親父のせいで!お母さんは……!」
「だとしても、その傷は母親だろ?その母親はてめぇを守らなかったのか?」
「守ろうとしてくれてたに決まってる……!」
「その母親が今のてめぇを見て、喜んでくれるのかよ?復讐してくれとでも言ったのか?なんて言ってたんだよ。壊れる前は」
戦慈の言葉に轟は限界まで目を見開いて固まる。
(お母さんは……!)
『嫌だよ、お母さん……僕、お父さんみたいになりたくない……!』
『……でも、ヒーローにはなりたいんでしょ?オールマイトみたいな』
『……うん』
『なら、いいのよ。お前は……』
「本当にてめぇの事が憎いならな。言わねぇんだよ。『左側が』なんてよ。てめぇは俺とは違げぇ。てめぇは……愛されてるはずだぜ?その『個性』も含めてな」
その言葉でようやく思い出した。
母の優しい笑顔と、頭を撫でてくれる手の温もりと、自分が頑張ってこれた言葉を。
『お前は、血に囚われることなんてない』
『なりたい自分に、なっていいんだよ』
その瞬間、熱いものがこみ上げてきた。
「!?」
戦慈は突如、周囲の空気が急激に熱くなっていくことに気づいて、飛び下がる。
それと同時に轟からゴオ!!と炎が噴き荒れる。
『これはぁ!?』
「使った……!」
「轟君……!拳暴君……!」
轟は左半身に炎を纏う。それにより右半身の霜が消えて、震えも止まる。
その熱に戦慈は顔の火傷がピリつくのを感じる。
「……さっさと倒せばいいのに……何、敵に……塩送ってんだよ……!ちくしょう……」
轟は泣き笑いの顔で、戦慈を見つめる。
「俺だって……ヒーローに……!」
「……はっ!だったら、俺を倒せや……!」
戦慈も思わず笑みを浮かべる。
その時、
「焦凍ォオオ!!」
エンデヴァーが笑みを浮かべて叫びながら、観客席最前まで歩いてきた。
「やっと己を受け入れたか!!そうだ!!いいぞ!!」
ドォン!!
するとエンデヴァーに向かって衝撃波が襲い掛かる。
「!?」
衝撃波はスタジアムの壁に当たり霧散する。
放ったのはもちろん戦慈。戦慈は右手をエンデヴァーに向けていた。指を弾いたのだ。
「邪魔すんな外野。俺と轟の戦いだ!!すっこんでな!!」
「っ!?」
戦慈はギロリとエンデヴァーを睨む。
その気迫にエンデヴァーは一瞬飲まれてしまう。
「……わりぃ」
「気にすんな。ここで俺以外を見やがったら、その瞬間ぶっ飛ばすだけだ」
「……そうだな。……行くぞ。加減は知らねぇ。どうなっても知らねぇぞ」
「ハハァ!!上等だああ!!行くゾオオオオ!!!」
ドドオォン!!!
戦慈が緑谷との試合の時と同様、左脚を踏み出して、右腕を振り被る。
違うのは踏み出した時と振り被った時に、衝撃波が走り、地面に亀裂が走る。
轟も右脚を力強く踏み出して、氷結を放つ。
戦慈が地面を吹き飛ばしながら飛び出す。それだけで周囲に衝撃波が走り、氷結を砕く。
轟はそれを気にせず、左腕を突き出して炎を集めていく。
「轟ィイイイ!!!」
「拳暴ォオオオ!!!」
轟が炎を放つ瞬間、戦慈も右腕を全力で振り抜く。
それを見た里琴は観客席の前に全力で竜巻を放つ。
「里琴!?」
「……伏せる」
「え!?」
「っ!?円場!!あんたも壁出して!!物間もコピー!!爆発するよ!!」
『!!?』
一佳が驚き、切奈が即座に行動の理由に気づいて、周囲に叫ぶ。
それに全員が慌てて行動に移す。
その直後、
ドオオオオオォォォン!!!
緑谷戦の時とは比べ物にならない爆発と爆風が吹き荒れる。
再びミッドナイトは吹き飛ばされる。
「きゃああああ!?」
観客席にも爆風が襲い掛かり、B組近辺は里琴の竜巻のおかげで被害が抑えられる。
竜巻が消滅し、爆風が収まると、全員がリングに目を向ける。
リングはほぼ完全に砕けており、未だ煙が立ち込める。
『何今の……今年の1年マジで何なの?』
『散々冷やされた空気が瞬間的に熱されて膨張したんだ』
『そこに拳暴のパワーが加われば、こうなるのは必然だな』
『マジかよ!?ったく、何にも見えねぇよ!!おい!コレ勝負はどうなって……!?』
煙が晴れる。
そこにあったのは、
左半分の服が破れて唖然と立っている轟に、轟の胸に腕を振り被った姿勢で右拳を当てている戦慈の姿だった。
戦慈の体は元に戻っていた。
『これは!?ってか、どっちも吹き飛ばされてねぇのかよ!?』
「……ちぃ。あれを相殺されんのかよ。ムカつく野郎だぜ、ホントによ」
「……すまねぇ」
「……緑谷からだ。『それはエンデヴァーの力でも、お母さんの力でもない。轟の力だ』『それを否定するために使い、否定するために使わないなんて、凄くもったいない』『それがどうしようもなく悔しくて、悲しくて、納得出来ない』……だとよ」
「っ!!」
轟は顔を歪めて、両手を握り締める。
戦慈は拳を離し、姿勢を正して轟を見る。
「どうすんだ?俺はまだやれるぜ?」
戦慈の言葉に、轟は壁に叩きつけられて後頭部を擦るミッドナイトに顔を向ける。
「……ミッドナイト」
「イタタ……え?」
「……俺の負けだ。降参する」
「え!?」
轟の降参にミッドナイトやエンデヴァー、観客達は驚く。
「いいの?」
「ああ。……この先に行くには、清算しなきゃならないものがまだある」
轟は俯いているが、どこか迷いが晴れた顔をしていた。
それを見たミッドナイトは、
「青!春!大好きよ!!轟君 降参!!拳暴君 三回戦進出!!」
それと同時に大歓声が巻き起こる。
『マジでグレートフルなバトルだったぜ!!これが決勝じゃないなんて信じられるか!?』
戦慈は腰に両手を当てて、大きくため息を吐く。
「はぁ~……ったく、やっぱ似合わねぇお節介はするもんじゃねぇなぁ。身の上話までしちまった」
「……わりぃ」
「気にすんな。てめぇに関しちゃ、緑谷から聞いちまった事もあるしな。この試合の苦情は緑谷に言えよ。俺はあいつに頼まれただけだ」
「……分かった」
戦慈は轟に背を向けて、リングを出ていく。轟もそれを見送って、リングを後にする。
戦慈は新しいジャージを受け取り、本日2回目の着替えを行うために更衣室に向かう。新しい仮面も取りに行かなければならない。
すると更衣室前に里琴と、思い詰めたような顔をしている一佳が待っていた。
「……怪我」
「今回はねぇよ」
「……ん。……お腹は?」
「減ってるに決まってんだろ。流石にそろそろ厳しいな」
「……」
里琴はいつも通り声を掛けて、戦慈もいつも通りに対応する。
一佳はずっと顔を顰めて、戦慈を見つめていた。
「どうしたんだよ?」
「……いや……ちょっと自分が情けなくてな」
「はぁ?」
「……拳暴があそこまでの思いでヒーロー目指してるのに、私は何やってるんだろってな」
「馬鹿か。ヒーローになる理由なんざ人それぞれだろうが。そこに優劣なんて付けんなよ。結局ヒーローってのは、どれだけヴィラン倒して、人を助けるかが重要なんだからよ。志が高かろうが、何も出来なきゃ意味ねぇだろ。緑谷みてぇによ」
「……まぁ、あいつはあいつで良いところはあるだろ」
「分かってんじゃねぇか」
「え?」
「人によって良いところも悪いところもある。けど、それで人の価値は決まらねぇ。それと同じでヒーローになりたい理由程度で、ヒーローの価値は決まらねぇよ」
戦慈の言葉に一佳は少しだけ救われた気持ちになる。
戦慈は肩を竦めて、一佳を見る。
「ヒーローになるために雄英に来たんだ。もし駄目なら、この3年間で客観的に見せつけられるだろうよ。入学して半年も経ってねぇのに、決めつけるには早ぇよ」
「……それもそうだな」
「で、着替えていいか?仮面も着けてぇしよ」
「ああ!?わ、悪い!!」
一佳は慌てて、戦慈を更衣室へと向かわせる。
さっさと戦慈は着替えて、仮面を身に着けて、更衣室を出る。
そして観客席に向かう。
「……何か食べる?」
「流石に時間がねぇだろ」
「何か買ってくるか?」
「お前は試合を見てやれよ。残りもB組出るんだぜ?」
茨、里琴、鉄哲の試合が続く。流石に空腹だからと見ないのは問題だろう。
とりあえず観客席に戻ろうとすると、A組の席にいる緑谷と目が合う。
「あ、拳暴君」
緑谷の言葉に他のA組の者達も目を向ける。その視線の中に妙な同情的なものを感じて、少し顔を顰めるが、とりあえず緑谷に声を掛ける。
「とりあえず、てめぇからの話はこなしたぜ」
「あ、う、うん!ありがとう!……ごめん、お願いしちゃったから」
「顔の事は気にすんな。どうせ、どっかでバレることだ。それよりもてめぇらは轟を気にかけてやれや」
「……そうだね」
「あぁ、それと。てめぇが俺に話したってことは轟に伝えたかんな。ちゃんとてめぇも話付けろよ」
「ええ!?あ、うん。そうだよね……」
緑谷は戦慈が口を開く度にコロコロオドオドと表情を変える。
それに戦慈はため息を吐きながら、歩き出す。
緑谷はその後ろ姿に頭を下げて、周囲から首を傾げられる。
戦慈がB組の席に戻ると、
「拳暴おお!!」
鉄哲が盛大に涙を流しながら、駆け寄ってきた。
「なんだよ。暑苦しい」
「お前があんな辛い過去があったなんてよぉ!!それなのに負けずにヒーローを目指すなんて……!!やっぱりお前はスゲェ奴だ!!お前が仲間であることが俺ぁ誇らしくてたまらねぇ!!これからは俺達もいるからなぁ!!何でも言ってくれぇ!!」
「だから暑苦しい」
鉄哲の後ろに目をやると、他の者達も涙を流していた。
それに戦慈はもはや呆れるしかなかった。
「はぁ。本当に似合わねぇことするんじゃなかったぜ」
「……似合ってる」
「あん?」
戦慈のボヤキに里琴が反応する。
戦慈は里琴に目を向けると、里琴はまっすぐに戦慈の顔を見上げていた。
「……戦慈はずっとヒーローだから」
「……そうかよ」
「……ん」
「あ!!そうだ!拳暴!さっき前に来た警察の人が来て、差し入れくれたぞ!!」
「ものすげぇ量だけどな」
里琴の言葉に肩を竦めて答えると、鉄哲が席に積み上げられた大量の袋を指差す。
その量に回原が呆れるが、それを見た一佳は苦笑する。
中は屋台で売られているタコ焼きやお好み焼きだった。間違いなくクラスの人数分より多い。
「ちゃんと分かってくれてる人が他にもいるじゃないか」
「……ふん」
「……食う~」
「だな」
「皆にも分けろよ」
「分かってんよ」
その後、差し入れの7割を戦慈と里琴でペロリと平らげて、クラスメイト達を唖然とさせることになるのだった。
それを一佳はどこか嬉しそうに見つめながら、唯達とタコ焼きを分けて食べるのだった。
今後の悩み。
職場体験どうしよ(-_-;)
Q:戦慈と里琴が別々の所に行くと思いますか?
A:思いません
Q:この2人を受け入れてくれるヒーローがビルボードチャート10位以下ってありえる?
A:可能性は低いですよね
Q:じゃあ、誰だろう?
A:エンデヴァー、ホークス、ベストジーニストは駄目。エッジショット?合わなさそう。ギャングオルカ?……う~ん。リューキュウ?ねじれいるしなぁ。他の者たちも合わなさそう。
Q:じゃあ、どうする?
A:困ってる(-_-;)