轟は顔を俯かせて、考えながら歩く。
すると目の前から熱を感じて、顔を上げる。
そこには腕を組んで顔を顰めながら仁王立ちをしているエンデヴァーがいた。
「……」
「焦凍。何故棄権した?お前ならば、まだ十分戦えたはずだ」
「……」
「……まぁいい。ようやくだ。左のコントロールはベタ踏みでまだまだ危なっかしいもんだが、子供じみた駄々を捨てて、お前はようやく完璧な俺の上位互換となった!」
「……捨てられるわけねぇだろう」
笑みを浮かべて腕を広げて喜びに浸るエンデヴァー。
それに轟は冷や水を浴びせる。
「そんな簡単に覆るわけねぇよ。ただ……あの最後の一瞬は、お前を忘れた」
「っ……!」
「……それが良いのか、わりぃのか、正しい事なのか……少し、考える。それに……てめぇより先に向き合わなきゃいけねぇ人がいる。そうじゃねぇと俺は……拳暴や緑谷達に、ヒーローになるって言えねぇ」
轟はそう言ってエンデヴァーの隣を横切る。
その後ろ姿にエンデヴァーは何も言えずに見送るしか出来なかったが、どこか息子の背中が遠く感じて、謎の喪失感に襲われるのであった。
轟は新しいジャージに着替えると、A組の観客席へと足を向けた。
トーナメント開始以降、1人で行動していた轟の出現にクラスメイト達は目を見開く。
特に緑谷は緊張で冷や汗が流れ始める。轟がジィーっと緑谷を見ているのも緊張している理由でもあるが。
ちなみに飯田は控室に移動している。
「と、とと、轟君……!?」
「……隣、いいか?」
「へ!?う、うん!どうぞどうぞ!!」
緑谷は轟の言葉にキョドりながらも頷き、緑谷の隣に轟が座る。
その光景に麗日を始め、全員が思わず固唾を呑んで緊張する。
「あ、あの……轟君……!」
「拳暴に話したことなら、気にしなくていい。むしろ……感謝してる」
「へ!?」
謝ろうとした緑谷の言葉を遮って、逆に礼を言う轟。
それに緑谷はパニックに陥ってしまう。
轟は横目でそれを見ながらも、マイペースで話を続ける。
「お前の言う通り、俺は親父しか目に入ってなかった。お前らに勝つとか言っときながら、お前らと向き合ってなかった。親父の鼻を明かすことばかり考えて……一番向き合わなきゃいけねぇ人を忘れてた」
「……轟君」
「拳暴に言われた。母親が本当に俺を憎んでいるなら、『左側』なんて言わねぇって。……そうだよな。そんな簡単なことにも気づかなかった」
「……仕方がないと思うよ。それだけ追い詰められたお母さんを見てきたんだから。拳暴君だからこそ、気づいたんだと思う」
「……かもな。だから、俺はお前らに……お母さんに『ヒーローになる』って言えるように、まずは向き合って救けるって決めた。例え望まれなくても。……お前らみたいに」
「……うん。今の轟君ならきっと出来るよ。なんて、拳暴君に勝手にお願いした僕が言えることじゃないけどね」
緑谷は苦笑いを浮かべる。それに轟は首を横に振る。
いい感じの雰囲気の2人に麗日達はホッと息を吐く。
その時、
「けっ!!」
爆豪は勢いよく立ち上がり、顔を顰めながら歩き出す。
切島が首を傾げて、声を掛ける。
「どうしたんだよ?爆豪。まだお前の番には早いぞ?」
「うるせぇクソ髪。こんなクソったれな仲良しこよしなんざ聞いてられっかよ。胸糞わりぃ!」
「そ、そんな言い方すんなよ……!?事情が事情なんだからさ」
「黙れや!俺はトップになるためにここにいんだよ!無様に負けたクソナードも、やる気無くした舐めプ野郎もどうだっていいんだよ!!勝手に俺の周りで盛り上がりやがって……!!」
爆豪は轟と緑谷を鋭く睨みつける。
緑谷は今までの条件反射でビクついてしまい、轟はただ静かに爆豪を見返す。
その反応に更に苛立つ爆豪。
「俺が仮面野郎を倒して、トップに立つ!!そうすりゃあ……俺が最強だ!!」
爆豪はギラつきながら、歩き去っていく。
それに切島や周囲の者はため息を吐く。
「イラついてんなぁ……」
「まぁ……拳暴とは因縁もあるしな」
「爆豪の一方的な奴だけどな」
「けどさ……確かに拳暴や巻空に轟に比べると、話題性では劣るよね。入試3位ではあるけど、障害物競争でも騎馬戦でも拳暴達には届かなかったし。トーナメントではあの戦いだもん」
「まぁなぁ」
切島がどうしたものかと腕を組むと、瀬呂がイラつく原因を推測する。それに砂藤がツッコむが、耳郎が爆豪の状況から仕方がないと同情し、切島も頷く。
特に爆豪は普段から緑谷を敵視し、轟とはA組のツートップとも言われているくらいだった。
その2人がどっちも拳暴に敗北し、しかも何やら成長しているように見えるのは色々と複雑かもしれない。
「爆豪はこの後、勝ったら常闇か巻空だ。気も張るだろう」
「そういやぁ、そうだな」
「どっちも強敵だよねぇ……」
障子が爆豪のフォローをすると、上鳴や耳郎も仕方がない事だと改めて頷く。
『待たせたな!!リングの修繕終了だ!!じゃ、次行くぜぇ!!』
「お、始まった!」
『今、気づいたけど!二回戦はA組 VS B組だ!!ある意味クラス対抗戦になってんな!!気合入れろぉ!!』
『余計な敵意を煽るな』
リングに茨と飯田が上がる。
『二回戦第二試合!!A組 飯田 バーサス B組 塩崎!!START!!』
飯田は開始と同時にふくらはぎから火を噴いて、猛スピードで駆け出す。
茨は両手を組んで、ツルを背後に網のように展開する。
「ぬ!!」
「拳藤さんの戦いを無駄にはしません」
茨はツルを飯田の両側から手のように束ねて襲い掛かる。
飯田は下がって避けるが、茨は追撃する。
それにB組観客席は盛り上がる。
一佳は右手を握り締める。
「いいぞ!茨!」
「いや……」
「え?」
「背中のツルの動きが鈍った」
戦慈が茨のツルの動きに気が付くのと同時に、飯田が再び加速して一気に茨の後ろに回る。
それに茨がツルを動かそうとしたが、その前に飯田が後ろから茨の肩を掴んで、一気に駆け抜ける。
「うぅ~!!」
「おおおおお!!」
そして茨はリング外まで押し出される。
「塩崎さん 場外!!飯田君 三回戦進出!!」
塩崎は悲し気に目を閉じて、両手を組んで空を見上げる。
「申し訳ありません。頂いたチャンスを活かせませんでした」
一佳達は拍手をしながら眉尻を下げる。
「やっぱ速いな」
「背中を注意したのはいいけどな。ラインまで下がらなかったのは油断したな」
戦慈の言葉に頷く一佳。
その後、再び観客席から飛び出す里琴。
『さぁ、続いてはA組 常闇 バーサス B組 巻空!!START!!』
開始と同時に常闇は黒影を出現させ、里琴は上空に飛ぶ。
里琴は黒影に竜巻を蛇のように飛ばす。
「イデ!?」
黒影は竜巻に弾かれて下がる。
それを見た瞬間、里琴は常闇の真上に移動して3本の竜巻を放つ。
「くっ!」
常闇は黒影を戻して、黒影で竜巻に殴りかかって弾いて行く。
里琴は黒影の逆から常闇に襲い掛かるように、竜巻を放つ。
常闇は横に飛び避けながら、なんとか黒影で防ぐ。
『流石の常闇も防戦イッポー!!』
『竜巻をある程度操れるのが大きいな』
『黒影も物理的に限界があるようだな』
常闇は顔を顰めながら、里琴を睨みつける。
「くっ!(数が多い……!黒影だけでは抑えきれん!)」
「……頼り切り」
里琴は竜巻を纏いながら、常闇に特攻を仕掛ける。
それに常闇は目を見開くも、黒影を飛ばして里琴に殴りかかる。
殴られる瞬間、里琴は纏っている竜巻を解き放って、黒影を弾く。その隙に常闇の目の前に降り立つ。
「ギャン!?」
「なっ!?」
「……てやー」
里琴は下から掬い上げるように腕を振り、竜巻を放つ。
もちろん足元で生まれた竜巻を常闇に防ぐ術はなく、上空に高く打ち上げられる。
「くっ!黒影!」
「……あまーい」
「ぬおおお!?」
黒影を伸ばしてリングに戻ろうとすると、里琴が追撃の竜巻を放つ。
常闇と黒影は吹き飛ばされて、場外へと飛ばされる。
「常闇君 場外!!巻空さん 三回戦進出!!」
里琴は再び空を飛んで、戦慈の肩の上に飛び降りる。
「……ブイブイ」
「普通に戻って来れねぇのか」
「……これが普通」
「普通じゃねぇよ」
「ホントに相変わらずだな」
里琴は両手をピースして、戦慈の顔の前に突き出す。それを戦慈は鬱陶し気に払う。
一佳は2人のやり取りに苦笑する。
里琴は戦慈の隣に飛び降りて座る。
「次は鉄哲だな」
「相手は爆豪か……」
「どうだろうな~」
泡瀬や骨抜が腕を組んで、次の試合に思いを寄せる。
他の者達も腕を組んで唸る。
「麗日戦の火力を考えると、あれを喰らえば鉄哲でも厳しいと考える」
「だねぇ。速攻メインかなぁ?」
「物間はコピーしたんでしょ?どんな感じだったの?」
庄田が麗日戦で見せた大爆破を思い出して、僅かに眉を顰める。それに凡戸も頷いて、切奈が物間に声を掛ける。
物間は不敵に笑みを浮かべながら答える。
「そうだね……彼の爆破は汗腺からだ。だから酷使すれば手に痛みが走る。恐らくは麗日戦で見せたのが最大火力だと思うよ?」
物間の言葉に頷くB組一同。
「なら、ズバッ!と短期決戦だね!!ボッコボコにしちゃえ!!」
「けどよぉ、爆豪は普通の身体能力も高けぇぞ?」
「だな。爆破で体を浮かせて、そこから攻撃を仕掛けられんだ。かなり使い慣れてるぜ」
吹出が両手を握り締めて叫び、鎌切が腕を組んで懸念を口にして、それに鱗も同意する。
そして、全員が戦慈に目を向ける。
それに戦慈は仮面の下で僅かに眉間に皺を寄せる。
「……身体能力は爆豪の方が上だろうな。しかも汗腺から爆破を行うなら、時間が経てば汗が溜まって威力も上がりかねねぇ。だから鉄哲は速攻で行くしかねぇ。鉄哲は金属疲労が出る前に倒せれば勝ちだ」
「分は悪いですな」
「爆豪の戦い方は荒っぽく見えるが、かなり精密だぜ?手にダメージが行き過ぎねぇように、爆破の威力をコントロールしてやがる」
『さぁ!!次はぁ!A組 爆豪 バーサス B組 鉄哲の試合だぁ!!』
リングに爆豪と鉄哲が上がる。
爆豪は顔を顰めており、鉄哲は歯を剥き出しにして睨みつけている。
「俺が勝ぁつ!」
「ねぇわボケ」
爆豪の言葉にカチン!と来た鉄哲は、青筋を浮かべて爆豪を睨みつける。
それに爆豪も睨み返す。
「俺は竜巻女も、仮面野郎も倒してトップに立つ!さっさと倒れろや、鉄モブ」
「やってみろよおお!!」
『START!!』
「オラアアァ!!」
開始と同時に鉄哲が叫びながら駆け出して、爆豪に殴りかかる。
爆豪は僅かに腰を据えて、右腕を振り被る。
「死ねやぁ!!」
鉄哲が腕を振り抜こうとした瞬間に、右腕を振り強めの爆破を放つ爆豪。
しかし、鉄哲は鉄化して左腕で庇いながら、爆煙から飛び出す。
「効かねぇなぁ!!」
「ちっ!」
鉄哲の拳を上体を逸らして躱し、次は左手を鉄哲の脇腹に向けて爆破を放つ。
鉄哲は歯を食いしばりながら耐え、よろけることもなく左フックを爆豪の脇腹に突き刺す。
「づぅ!?」
『カウンターのカウンター!!爆豪、これは効いたかあ!?』
爆豪は僅かによろけるも両手で爆破を放ちながら、鉄哲から距離を取る。
「どりゃああ!!」
鉄哲はそれに一切怯むこともなく、爆豪に迫り連続で拳を振る。爆豪は躱すのに専念して、爆破が放てなかった。
「ちぃ!(流石に固ぇだけじゃねぇな)」
「どうしたぁ!?そんな攻撃じゃあ、拳暴の拳にゃ届かねえぞぉ!!」
顔を顰める爆豪に、鉄哲は猛攻を仕掛ける。
「行けえ!!鉄哲ぅ!顎だぁ!!」
「昨日の敵は今日の友ってか?」
「爆豪ぉ!!お前も気張れぇ!!」
「どっちかに決めろよ」
切島が鉄哲と爆豪の両方に声援を送る。
それに瀬呂と上鳴が呆れる。
爆豪は両手で後ろに爆破を放ち、浮かびながら鉄哲に迫る。
「来いやあ!!」
鉄哲は叫びながら右腕を振ると、爆豪は直前で爆破を起こして、更に僅かに浮き上がり鉄哲の上を飛び越える。
爆破によって視界が光と爆煙で覆われたため、鉄哲は爆豪を見失ってしまった。
そして鉄哲の背中に左手、その反対側に右手を伸ばし、同時に爆破を起こす。
「っでぇ!?」
背後からの不意打ちに鉄哲は衝撃までは耐えられず、前にバランスを崩す。
爆豪はすぐさま右腕を振り、鉄哲の右腕を掴む。直後にジャンプをして、左手で連続で爆破をして勢いを付けながら回転し、右手でも爆破を放ち鉄哲の腕にダメージを与える。そのまま勢いを利用して、右腕を振り被り、鉄哲を投げて地面に叩きつける。
「がっは!?」
『何だ今の動きー!?器用過ぎるだろバクゴー!!』
『今のは初回の戦闘訓練で見せた動きだな』
『爆破の調整からタイミング、それに合わせた体の動かし方も完璧だな』
「鉄哲ぅ!!」
「立てぇ!!」
「……センスの塊だな。こりゃ鉄哲は接近戦でも分が悪いな」
「物間。お前、とんでもない奴にケンカ売ったな」
「……いやいや」
骨抜と泡瀬が叫び、戦慈が腕を組んで唸り、一佳がニヤつきながら物間に声を掛ける。
それに物間は笑って手を振るが、少し顔色は悪かった。
爆豪は地面に倒れている鉄哲に右手を叩きつける。鉄哲は横に転がって躱し、慌てて起き上がる。
そして鉄哲は鉄化したまま、頭から爆豪に向けて突撃する。
「敗けねええ!!」
「くたばれやぁ!!」
爆豪は両手を上から叩きつけながら爆破する。
頭の上から衝撃を受けた鉄哲は歯を食いしばって足を踏ん張る。
「オラアア!!」
そして叫びながら体を起こしながら、右アッパーを爆豪の顎に叩き込む。
「っ!?」
『決まったああ!!根性の鉄哲アッパー!!』
爆豪は仰け反って後ろにたたらを踏む。
鉄哲は更に拳を叩き込もうとすると、爆豪は仰け反りながら両手だけを突き出して大規模の爆破を放つ。
「ぬおおお!!敗けねえええ!!」
鉄哲は後ろに吹き飛ばされながら、手足を地面に着けて転ばないように耐える。
ピキ
鉄哲の耳に小さな音が届く。
目を向けると、両手の指先がヒビ割れていた。
「っ!?金属疲労が……!?」
「終ぉわりだああ!!」
「!?」
爆豪が爆破しながら猛スピードで、鉄哲に迫っていた。
鉄哲は両腕を顔の前で交えて、腰を据える。
「づあああああ!!」
ボボボボボボボボボォン!!
爆豪が両腕を振り、連続で鉄哲を爆破する。
鉄哲は歯軋りしながら耐えるが、腕の皮膚にもヒビが入った。
「くぅたばれやぁ!!」
そしてトドメとばかりに右腕を振り抜いて、強めの爆破を放つ。
「ぐぅ……!」
鉄哲は鉄化が解除され、腕や手から血を流しながら、後ろに倒れていく。
それに爆豪が笑みを浮かべて、構えを解こうとした時、
「オアアアアア!!」
「!?」
鉄哲が叫びながら体全体で前に飛び込み、がむしゃらに爆豪に殴りかかる。
爆豪は目を見開きながらも、横に飛んで躱す。
鉄哲はそのままうつ伏せに倒れ込む。
爆豪は鉄哲の横で、固まったように鉄哲を見下ろす。
そこにミッドナイトが駆け寄り、鉄哲の状態を確認する。
「鉄哲君 気絶!!爆豪君 三回戦進出!!」
『鉄哲ううう!!お前の気合にクラップユアハーンズ!!』
『よく最後動いたぞおお!!』
『やかましい』
観客から拍手が巻き上がり、鉄哲の健闘を称える。
「うおおおお!!鉄哲ぅ!!」
切島が涙を流して感動する。
それに他の者達は呆れるが、それでも確かに鉄哲の根性は見事なものだったと感じている。
爆豪は両手を握り締めて、悔し気に顔を歪める。
「……くそがぁ……!」
勝利を確信したのに、そこから反撃された。
それは何よりも屈辱だった。
爆豪は顔を顰めたまま、リングを後にする。
『これでベスト4が出揃ったぁ!!まだまだ目が離せねー!!小休憩挟んだら、早速行くぞぉ!!』
骨抜、泡瀬、円場はリカバリーガールの所に鉄哲の様子を見に行った。
鉄哲はすでに目覚めており、指や腕に包帯を巻いてもらっているところだった。
「お、もう起きてたのか」
「おしかったな」
「腕は大丈夫なのか?」
「おう!金属疲労で皮膚が少し割れただけだ!ありがとな!」
鉄哲はニカッ!と笑って、骨抜達に礼を言う。
その様子に骨抜達はホッとする。
「ちっくしょ~……!もう少しで巻空や拳暴と戦えたのによ~」
鉄哲は治療を終えると悔し気に顔を顰める。
「こればっかりはな」
「爆豪、お前の最後の攻撃に驚いて唖然としてたぜ?」
「それだけでも一矢報いたろ」
骨抜達は苦笑しながら鉄哲を慰める。
それに渋い顔で鉄哲は頷いて、観客席に向かうことにした。
切奈達は観客席で鉄哲達を待っていた。
「これでB組は拳暴と里琴だけか」
「ん」
「まぁ、これは順当じゃないか?」
「ここからだな!まずは拳暴!!ここまで派手にやったら優勝だぜ!」
「やるだけはやる。じゃ、行ってくる」
切奈が戦慈達に顔を向け、鱗が頷く。
回原が右手を握り締めて、それに戦慈は肩を竦めて立ち上がる。
戦慈はリングに向かう途中、骨抜に支えられながら歩く鉄哲に会う。
「もう動けんのか?」
「ったりめぇよ!」
「無茶すんなよ」
「大丈夫だって!俺は拳暴達を応援してぇんだ!!」
鉄哲はニカッ!と笑いながら、拳暴に拳を突き出す。
「頑張れよ!!お前なら優勝できるぜ!!」
「……まぁ、やるだけやってくるさ。次は勝ち残って来いよ」
「ったりめぇよぉ!!」
戦慈は軽く拳を合わせて、横を通り過ぎる。
鉄哲達はそれを見送って、観客席に戻る。
「鉄哲!もう大丈夫なのか?よかった」
「おう!ありがとうな!拳藤!そしてわりぃ!!敗けちまった!」
「鉄哲が全力を出し切ったのは見てたよ。誰も責めやしないさ」
「俺達はそれ以前だかんなぁ」
「物間に関しては策略して負けてるもんな~」
「おいおい」
一佳がホッとしたように声を掛け、それに鉄哲が頭を下げる。
切奈が苦笑しながら慰め、鎌切が頷きながら鉄哲に親指を立てる。鱗が物間をいじって、物間が苦笑しながら肩を竦める。
温かく迎えてくれる仲間に、鉄哲は思わず涙が溢れそうになる。
「おまえらぁ……!」
「ブラド先生も褒めてましたぞ」
「ほれ、敗北者席に行くぞ。応援しねぇとな」
「おう!!」
宍田が声を掛けて、骨抜が苦笑しながら席に連れていく。
その様子に一佳は笑みを浮かべながら見守り、リングに目を向ける。
『さぁ、いよいよ準決勝だ!!盛り上がれよオーディエンスにマスメディア!!』
こうして体育祭もいよいよ佳境に入っていく。