『START!!』
開始の合図と同時に、爆豪が後ろを爆破して飛び出す。
戦慈も両腕を構えて、前に出る。
「っらぁ!!」
爆豪は右腕を振り、戦慈に叩きつけようとする。
戦慈は避ける素振りも見せずに前に出る。そして、右拳で爆豪の顔に、次いで左拳で爆豪の右肩に、鋭くジャブを叩き込む。
「づっ!?」
爆豪は顔と右肩が後ろに下がったことで、右腕が空振りする。
戦慈は腰を捻ることもなく左脚を振り上げて、爆豪の右脇腹に蹴りを叩き込む。爆豪は左に僅かによろけて、バランスを崩す。
そこに戦慈が拳の乱打を叩き込む。
「オララララララララララァ!!」
「ぐっ!ぶぁ!?ぎ!」
そして、最後に左フックを爆豪の鳩尾に突き刺す。
「ごえっ!?」
爆豪は嘔吐して、後ろに吹き飛ぶ。
『拳暴のラッシュウウ!!爆豪、防ぐことすら間に合わねええ!!』
『パワーばかりに目が行きがちだがな。一番重要なのは、なんでそのパワーが出ているかってことだ』
『というと?』
『拳暴の『個性』は《超パワー》ではなく、体の《強靭》が根幹にある。つまり、無理な体勢からでも鋭い攻撃が出来るし、ジャブも普通の人の数倍の速さと威力になる。その強靭さ故に、あのパワーが出せるんだ』
相澤とブラドの説明に、観客達は戦慈の印象を変える。
戦慈は爆豪に歩み寄りながら、声を掛ける。
「まぁ、そういうこった。俺は別に体がデカくなることに固執しちゃいねぇ。それどころか邪魔なことが多かった。だから、この状態でとっとと敵を倒せるように鍛錬することを一番大事にしてる。この状態で満足に戦えねぇ奴が、体がデカくなっても戦えるわけねぇしな」
路地裏などで戦うことが多いため、下手に衝撃波を撃てなかったことも多かった。
なので、基本的に筋肉が膨れる前に勝つことを常に意識してきたのだ。
爆豪は吐き気を耐えながら蹲っている。それでも戦慈から目を離していない。
「俺がてめぇに興味を持ってねぇように思ってるように見えてるけどよ。仕方がねぇだろ?下手に張り合って気が高まれば、興奮してアドレナリンが出ちまう。だから俺は出来る限り、他に興味を持たねぇように意識してきたんだよ」
「っ……!」
「てめぇのことはスゲェと思ってるぜ?強いとも思ってる。だからこそ、てめぇのケンカを買うわけにはいかなかった」
怒ったり、興奮すればアドレナリンが出る。
そうなれば力の発散が大変になる。だから戦慈は今まで他人に興味を持とうとしなかった。ライバルなんてもっての外である。張り合い、競い合うのは嫌でもアドレナリンが出る。アドレナリンが出ないようにするなんて出来ないのだから。
それが戦慈が人との関りが少なかった理由である。
戦慈は爆豪の目の前に立つ。
その瞬間、爆豪の両手から閃光が弾ける。
「閃光弾!!」
「!?」
爆豪は飛び上がり、お返しとばかりに両腕を振り、連続で爆発を戦慈に叩き込む。
「オラオラオラオラ!!オオォラアアァ!!」
その威力は徐々に上がっていく。
戦慈の姿は爆煙で見えなくなる。
『爆豪の反撃ぃ!!ぶっちゃけ、やっちまえぇ!!』
『おい』
その瞬間、爆煙から手が飛び出し、爆豪の顔を掴んだ。
「ぐむ!?」
「威力を上げるのが遅ぇ」
さらにもう1本の手で爆豪の右腕を掴む。
煙が晴れていくと、オールマイト並みの体に膨れている上半身裸の戦慈がいた。
ところどころ火傷をしているようで、白い煙が立ち上がっている。
「うるっせえぇ!!」
爆豪は体が持ち上げられた瞬間、叫びながらフリーの左腕を振り、最大火力で爆破を放つ。
戦慈は目の前での最大火力に流石に堪えきれず、爆豪から手を放して後ろに飛ばされる。
「ちぃ!」
「俺はぁ!!てめぇがどれだけ強かろうが!!理由があろうが!!絶対に勝つんだよぉ!!」
爆豪が叫びながら、即座に戦慈に飛び迫る。
その顔は不敵な笑みを浮かべている。
「決勝なんだ。どれだけ手を痛めようが、もう関係ねええええ!!」
今度は右手で最大火力を放つ。
戦慈は耐えながら後ろに右腕を伸ばして、指を弾いて衝撃波を放ち、場外を防ぐ。
リングに降り立った戦慈に、爆豪が再び迫ろうとすると、
「オオオオオオオオオオ!!!」
戦慈が叫んで、地面にクレーターを作り、周囲に衝撃波を放つ。
「っ!!来やがったなぁ……!!」
戦慈の体は更に膨れ上がっており、最大規模までパワーを上げていた。
『轟戦でも見せた超マッチョ形態だぁ!!』
ドォン!!
戦慈が一瞬、前に傾いたと思った瞬間、爆音を響かせ、クレーターを大きくして、爆豪の腹に右ラリアットを叩き込んでいた。
爆豪は再び口から胃液を吐き、くの字に体が曲がるも、戦慈の腕を右腕で抱えるように掴んで、左手で爆破をしながら勢いをつけて背負い投げの体勢になる。
「緑谷の……!」
「けど、それって……!」
「駄目だ!かっちゃん!!」
観客席から緑谷が叫ぶ。
戦慈が掴まれた腕で爆豪のジャージを掴む。そして腕を引き、爆豪を引き寄せる。
爆豪はあまりの力に全く抵抗できず、引っ張られてしまい、直後背中に強烈な衝撃が叩き込まれる。
戦慈の右膝である。戦慈は爆豪の背中に膝蹴りを叩き込んだのだ。
「ごぉ……!?」
超パワー+衝撃波の威力に、爆豪は一瞬意識が飛び、腕を放して前に吹き飛ぶ。
「緑谷の時でさえ、今よりパワー低かったんだぜ?緑谷よりも非力なてめぇに、今の俺が投げれるわけねぇだろが」
爆豪は数回跳ねるように地面を転がって、地面に爆破を叩き込むことで真上に飛び、場外を防ぐ。
そして真横に爆破を放ち、リングの中ほどに戻る。
「はぁ!…はぁ!…はぁ!…はぁ!…はぁ!……」
口元は吐物で汚れ、荒く息を吐く爆豪。それでも戦慈を鋭く睨みつけており、その目は全く諦めてはいなかった。
(パワーも、速さも、耐久力も、やっぱ桁違いだ……!オールマイトは……これ以上ってことかよ……!オールマイトを超えるには、こいつに余裕で勝たないといけねぇってこと……!)
「勝つ……!俺は……敗けねぇ!!」
口元を拭い、胸を張って叫ぶ。
それに戦慈は笑うこともなく、一切油断することもなく、再び地面を砕きながら飛び出す。
爆豪は真横に爆破を放って、ギリギリで戦慈のタックルを躱す。戦慈が通り過ぎるとソニックブームのような衝撃波が飛び交う。
その衝撃波を突き破るように後ろに爆破を放って、前に飛び出して戦慈の背後に回る。
「くたばれやぁ!!」
戦慈の背中に両手を突き出し、再び最大火力での爆破を放つ。
「オオオオ!!」
戦慈は振り返りながら、右裏拳を振り上げる。下から衝撃波が飛び、爆風を逸らす。
「っ!?」
爆豪は目を見開いて、後ろに下がる。
両手はすでにズキズキと痛みが走っている。
「そろそろ限界なんじゃねぇか?あんな火力、何度も出せるもんじゃねぇだろ」
「うるせぇよ。限界なんざ知るか!」
爆豪は戦慈の言葉に笑みを浮かべて強気に言い返す。
しかし、その両手は震えているように見える。
『爆豪ネバーギブアップ!!けど、実力差は絶望的かぁ!?』
「だからなんだぁ!!」
プレゼントマイクの言葉に、爆豪は血走らせた目を見開きながら叫ぶ。
「俺はぁ!!オールマイトを超えるヒーローになる!!!」
そして再び宙に高く舞い上がり、爆破をしながら回転を始める。
「だから俺は!!誰にも敗けねぇ!!敗けられねぇ!!自分にそう、誓ってんだよおおお!!!誰に何と言われようが、俺がそう決めたあああ!!!」
「……やっぱ強ぇな。てめぇは」
俺はそんなこと言えねぇ。
戦慈はそう思った。これは自分だけではないはず。
多くの者が『オールマイトに憧れている』『オールマイトのようになる』とは言ってはいるが、『オールマイトを超える』と言う者は少ない。
エンデヴァーも言ってはいるが、方向性は間違っていると思うので、爆豪と比べるのは失礼だろう。
純粋に己の力のみで、目指している。
それを口にした以上、簡単に諦められなくなったのだろう。もちろん、本当にそうなりたいと思っているからだ。けれど口にした以上、周囲の者達はオールマイトを超えようとしている者として、爆豪を見続ける。
諦めれば『やっぱりな』と笑われるだけ、続けたら続けたで『もう諦めたら?』と言われたのだろう。周りの者達は最後には冗談のように聞いていたに違いない。
それでも目指し続けている。
襲撃事件でオールマイトの戦いを見ても、目指し続けている。
どれだけの者が、それを為せるだろうか。
爆豪が周囲にケンカ腰なのは、その思いが原因なのだろう。
常に自分を追い込んでおり、常に他人と己を比べ続けている。
No.1を目指すのだから、肩を並べる者などいてはいけない。故に全員が超える相手なのだ。踏み台にするつもりの相手と仲良くするのは、普通ならばおかしい。
爆豪は常に示しているだけだった。
お前ら全員が、俺のライバルで超えるべき相手だ、と。
常にそう思っているから、協調性が出せない。
No.1で不器用なだけだった。
「……俺が言えることじゃねぇか」
戦慈とて不器用だ。他人を拒絶してきた。
雄英に入ってからは、それを壊してくる連中が多すぎるが。
けど、嫌な気分ではなかった。
恐らく爆豪も、そう思っているはず。
だからこそ、怖いのだろう。
抱えている決意が鈍るのではないかと。
「オオオオオオオオ!!!」
戦慈も叫んで、両腕を振り被って力を籠める。
爆豪は里琴の時より回転を強めて、両手を戦慈に叩き込む。
戦慈はそれと同時に両腕を全力で振り抜く。
「ハウザァ・インパクトォオ!!」
「ギガントォ・ブロォオ!!」
ドオオオオオォォォン!!!
本日、数回目の大爆発。
爆風と爆煙がスタジアムに吹き荒れる。
リングも粉々に割れていた。
『やっぱこうなるのね!?さぁ!!どっちに勝利の女神は微笑んだぁ!?』
「かっちゃん……!」
緑谷達は固唾を呑んで、爆豪の勝利を祈り。
その隣では一佳達が同じく固唾を呑んで、戦慈の勝利を祈る。
そして土煙が晴れた先では、
リングの上で片膝を着き、荒く息を吐いて両腕をダラリと下げている戦慈と、場外の壁にもたれ掛かって座り、顔を俯かせている爆豪の姿があった。
それが示すものは、
「爆豪君 場外!!! 拳暴君の勝利!!!」
ミッドナイトが鞭を持つ腕を力強く振り上げて、直後ビシィ!と戦慈を指した。
ワアアアアアアアアアアア!!!
その瞬間、大歓声が巻き起こる。
『YEAHHHHH!!たった今を持ってぇ、全ての競技が終了!!今年度、雄英体育祭1年!!優勝はぁ……巻空の宣誓通りぃ!!B組 拳暴戦慈!!!』
戦慈は大きく息を吐いて、ゆっくりと立ち上がる。
視線の先では爆豪がハンソーロボで運ばれていく。どうやら気絶しているようだ。
「拳暴君も医務室に行ってきなさい。表彰式までしばらくあるから」
「ああ」
戦慈はミッドナイトの言葉に頷いて、リカバリーガールの元に向かう。
「お前さんねぇ。何回、同じことすれば気が済むんだい?両腕が折れてるじゃないか」
「俺に言うな。相手が勝手に盛り上がって、全力ぶつけてくるんだからしょうがねぇだろが」
「まぁねぇ。簡単に治療しとくよ。後は勝手に治るだろ?」
「ああ、それでいい」
小言をもらいながら、治療をしてもらう戦慈。
医務室のベッドにはまだ爆豪が気絶して、横になっている。両手には包帯が巻かれていた。
治療を終えて医務室から出ると、丁度B組とA組が仲良くやって来た。
物間は宍田に担がれている。
「お!!拳暴!!やったな、この野郎!!」
「やっぱすげぇよ、お前!!」
「お見事でした」
「ん」
鉄哲を皮切りにクラス関係なく、優勝を祝われる戦慈。
「……おつ」
「おう」
里琴がジャージを渡してきたので受け取って、それを羽織る。
「怪我は大丈夫なのか?」
「俺の治療は終わった。爆豪は中でまだ寝てるぜ」
戦慈は一佳の問いに頷き、A組の面々に声を掛ける。
それに頷いた切島や上鳴などが中に入っていく。
緑谷が戦慈に近づいてくる。
「おめでとう。拳暴君」
「おう」
「……かっちゃんはどうだった?」
緑谷の質問に、その場にいた全員が戦慈に注目する。
戦慈は腕を組んで、医務室の扉に目を向ける。
「強ぇ奴だな。『オールマイトを超える』って言うだけのことはある。そう言い続けられるように常に追い込んでんだろうな。口の悪さはそれが原因だろうよ。次、戦うときには、結果は分かんねぇ」
「……そっか」
「まぁ、少し勝つことだけに固執し過ぎてるがな。それが直れば……本当にNo.1ヒーローになるだろうな」
戦慈の言葉に聞いていた里琴以外の全員が目を見開く。
ここまで戦慈が人を褒めることなど見たことがないからだ。
「まぁ、あれは筋金入りみてぇだけどな」
「あははは……」
戦慈の言葉に緑谷は苦笑するしかなかった。
その後、爆豪も目が覚めたようで、医務室から怒鳴り声が聞こえた。
それに緑谷達も顔を出しに行き、戦慈達は移動を開始する。
そして、表彰式。
スタジアム内には生徒達が集まり、その後ろにはマスコミがカメラを構えている。
その生徒達の前には表彰台があり、そこには3人の生徒の姿があった。
「それではこれより!!表彰式に移ります!!」
ミッドナイトの進行で進む。
表彰台を見上げる生徒達は微妙な気持ちだった。
「誰1人、喜んでねぇな」
誰かの声に内心で全員が頷く。
3位の里琴は相変わらずの無表情で、戦慈を見上げている。飯田は早退のため欠席。
2位の爆豪は顔を俯かせて、顔を歪ませている。試合中の叫びからすれば、仕方がないかもしれない。
そして1位の戦慈は腕を組んで、静かに立っている。もちろん仮面で表情は分からない。
「まぁ、鬱陶し気だよな」
「ん」
「ぶっちゃけ似合わない」
「それね」
「アハハ……」
一佳は苦笑して、唯がそれに同意する。柳は辛辣は言葉を放つも、切奈も頷いて、ポニーも苦笑するしかなかった。
事実、戦慈は仮面の下で顔を顰めており、「早よ終わらせろ」と念じている。
「飯田君がこれほどいてほしいと思った時はないね」
「うん……。インゲニウム、無事だろうか……」
麗日は早退した飯田の名前を上げて、緑谷は頷くもインゲニウムのことを思い浮かべて、眉を顰める。
ネットではまだニュースにはなっていない。それが酷くもどかしい。
「メダル授与よ!!今年メダルを贈呈するのは、もちろんこの人!!」
「ハーッハッハッハ!!」
スタジアムの上から、どこかで聞いた笑い声が響く。
屋根の上に人影が見える。
その声と人影に観客達は盛り上がる。
その人影は屋根から飛び出し、表彰台の前に降りてくる。
「私が!!メダルをもってき『我らがヒーロー!!オールマイトォ!!』」
オールマイトの決め台詞とミッドナイトの紹介が被る。
一瞬、全員がシーンとするが、2人揃って咳をして仕切り直す。
「巻空少女、おめでとう!君の言うとおりになったな!それに君も素晴らしい戦いだった!」
「……ブイ」
里琴は無表情でピースをして、オールマイトにメダルを首にかけてもらう。
「これからも頑張ってくれよ!」
そしてオールマイトが里琴の肩をポンポンとすると、
「……セクハラ親父」
「え……」
と言われて、固まるのだった。
その後、一瞬ガックリとするが、すぐに切り替えて爆豪の前に移動する。
「爆豪少年!!おめで『要らねぇ』え……」
再び固まるオールマイト。
爆豪は顔を俯かせたままだ。
「俺が欲しかったのは1位だけだ。そうじゃねぇならビリと変わらねぇ。だから要らねぇ」
「……爆豪少年。その志は物凄く尊いし、素晴らしい。そんな君に超えるべき壁と言ってもらえることに、私は誇りを感じるよ。だからこそ言おう。このメダルを受け取っとけよ。君の次へのスタートとなる『傷』として。この『傷』を忘れないようにな」
「要らねぇっつってんだろが!!」
「まぁまぁ」
爆豪に無理矢理メダルを掛けるオールマイト。
爆豪は顔を顰めるが、オールマイトの言葉もあり、外すことはなかった。
そしてオールマイトは戦慈の前に立つ。
「さて、拳暴少年!!巻空少女、そしてクラスの仲間の期待に見事に応えたな!!おめでとう!!」
「別に応えてねぇ」
「ハッハッハッ!そう照れるなよ!」
「聞けよ」
「けど、緑谷少年や轟少年に掛けた言葉は、君の心からのものだろ?」
「……」
「他者を蹴落とすことばかりだった競技で、君は相手を気遣い、救いの手を差し伸べた。君のその姿は多くの人を勇気づけたと、私は思うぞ!」
「……ふん」
「ハッハッハッ!この照れ屋さんめ!!さぁ、受け取れ!これが君の金メダルだ!」
オールマイトは高笑いしながら、戦慈にメダルを掛ける。
それに頷くと、オールマイトは後ろを向く。
「さぁ、今回は彼らだった!しかし、皆さん!この場にいる誰もがここに立つ可能性はあった!!ご覧いただいた通りだ!!競い!高め合い!そして助け合い!さらに先へと登っていくその姿!!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!」
オールマイトの言葉に、鉄哲達は更なる成長とリベンジを誓う。
そしてオールマイトは右手を上に掲げる。
「てな感じで、最後に一言!!皆さんご唱和ください!!せーの!!」
「プルスウ……!」
「プルスウルト……!」
「お疲れ様でした!!」
「プル…え!?」
「プルスウルぅ!?」
「そこはプルスウルトラでしょ!?オールマイト!!」
「ああ、いや……疲れたろうなと思って……」
「締まらねぇなオイ」
「……お馬鹿」
「あははは……」
こうして体育祭は微妙な終わりを迎えたのであった。
その後、制服に着替えて、一度教室に戻る。
「皆、今日1日よく頑張ったな!!結果を残した者、残せなかった者といるだろうが、体育祭が終わった以上、その反省は明日からに活かすことに志向するようにな!!」
『はい!』
「明日、明後日は休校となる!この休みの間にお前達に指名が来ると思われるので、休み明けには伝えられるようにはしておく。まずはしっかりと休んでくれ!では、気をつけて帰るように!!」
解散となり、それぞれが今日の事で盛り上がりながら、帰宅していく。
戦慈、里琴、一佳達も帰路に就き、のんびりと歩いて行く。
校門を出ようとしたところで、鞘伏が顔を出した。
「おう。お疲れ」
「鞘伏さん!差し入れありがとうございました!!」
「気にすんな。頑張ってる連中を労うのが大人の役目だ」
「休みか?」
「いんや。一応、お前らの警護」
「え?」
鞘伏の言葉に首を傾げる一佳。
今日は雄英にはプロヒーローがかなりの数、警備に入り、観客にもプロヒーローがいた。わざわざ警察の、それも管轄地域外の鞘伏が警備に出る理由が思い浮かばなかった。
鞘伏は、苦笑しながら説明を続ける。
「一般客の方に潜んでる連中とかがいるかもしれねぇからな。で、何かあったときにはお前らの事を知っている俺がいた方が、お前らのフォローしやすいからだとよ。まぁ、結局休みと変わらんかったがな」
「なんか上から気を遣われてんのか?」
「あぁ~……最近、あのゴロツキ事件や雄英襲撃事件で休みなく動いてたかんな。それだろうな。お前らの後見引き受けてんのも知ってるだろうしよ」
「……おつ」
「ま、今日は気楽だった。オールマイトもいるしな。で、優勝祝いだ。焼き肉行くぞ。食い放題だけどな」
クイッと親指で背後の車を指す鞘伏。
「そこは普通の焼き肉にしろよ」
「……ケチ」
「やかましい。ただでさえ動きまくったお前らに、普通の焼き肉なんざ無理に決まってんだろ。ほれ、さっさと行くぞ。マスコミに囲まれたくねぇだろ?」
「……いんのかよ」
「あれだけ派手にやれば当然だろうが。明日からは外出したら、どこでも言われるぞ?」
「だりぃ」
「……めんどー」
「勝った者の宿命だよ。諦めな」
そして、再び4人で食い放題の焼き肉店へ。
もちろん戦慈と里琴の大食いが発動し、前回以上の量を食べていく。今回は一佳も動いたので、一佳も食べる。
すると、店員が戦慈達に気づいて、サービスで半額にしてくれるが、戦慈と里琴は元々奢りだったので、ひたすら食べ続ける。
「拳暴はともかく、里琴はいったいどこに消費されてるんだ?」
「さぁなぁ」
里琴は相変わらずリス状態である。
この時だけは無表情が崩れて見えるので、面白いと言えば面白いが。
一佳と鞘伏はすでにデザートも食べ終えて、のんびりと2人を眺めている。
「いよいよお前らにもプロヒーローからの指名が来るのか。早いのやら長かったのやら……」
「拳暴と里琴は凄いことになるだろうなぁ」
「だろうな。けど、お前さんにも来るだろうよ。トーナメントまでは出てんだからな」
「けどなぁ、拳暴達におんぶに抱っこだったからなぁ」
「あの試合見て、運で来たわけじゃないって気づく奴はいるだろうさ。俺にだってわかったんだしな」
「だといいけど……」
ただ指名をもらっても、それがいつ役に立つのかが分からないので、何とも言えない一佳だった。
その10分後、「あの……そろそろ在庫が……」と店員に言われて、食事を切り上げる。
鞘伏に家の近くまで送ってもらい、そこから歩いて帰る3人。
「しかし、本当に優勝するなんてな~」
「……だから言った」
「まぁ、俺に有利なルールだったしな。場外が無ければ、まだ分かんなかっただろうぜ」
「そうか?」
「……戦慈が1位」
戦慈の言葉に結果は変わらないと思う里琴と一佳。
それに戦慈は肩を竦めるだけで、それ以上は何も話さなかった。
その後、戦慈の家でコーヒーを飲み、帰宅する一佳。
「ふぅ~……なんでだろ?襲撃事件よりも疲れてる気がする」
着替えてベッドに座り、一息つく。
そして思い出すは、戦慈の顔と過去の話。
「……何か出来ないかって、考えちゃうな」
何も思い浮かばないが、それでも考えてしまう。
いい奴であると分かった。ぶっきらぼうだが優しい男だと、今日だけでも十分に理解できた。
一佳はもっと前から知っている。
「……そうか。だから里琴はあんな強引に……」
戦慈が優しい人だと教えたい。
戦慈が凄い人だと教えたい。
戦慈にもっと楽しんでもらいたい。
戦慈にもっと笑ってもらいたい。
だから無理矢理に、無茶苦茶な理論で一佳達と関わらせてるのだ。
体育祭でも無理矢理注目させた。
その結果、緑谷、轟、爆豪…は微妙であるが、今まで関わらなかった連中と深く関わっていった。
「けど……笑ったのは数回だ」
思い出せば、普段笑ってる姿なんて見たことがない。
それは……とても歪だと思った。
「笑ってほしいな」
無意識にそうつぶやいた。
しかし、その言葉で自分の思いに気づく。
「そうだな。あれだけ苦しんで、傷ついて、頑張ったあいつが笑えないなんて、絶対に間違ってるよ」
それに、
「あいつを支えられないで、どうしてヒーローになれるんだ……!」
一佳は決心する。
「私はあいつを支えたい。あいつに笑って生きてほしい」
だから戦慈や里琴に置いて行かれないように、もっと努力をしなければ。
一佳は「よし!」と気合を入れる。
その後、入浴に向かった一佳の足取りは、とても軽やかだった。
……今の爆豪君を死柄木は狙うのだろうか?
と、思ってしまいましたw