『拳』のヒーローアカデミア!   作:岡の夢部

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拳の壱 寄り添う者

 翌日。

 一佳はモヤモヤしたものを抱えたまま、登校する。

 教室に入るとすでに戦慈も登校しており、席に座っている。

 その周りではヒソヒソとクラスメイト達が何やら噂話していた。

 

「おはよ。どうしたんだ?」

「あ、おはよ。一佳。拳暴、またケンカしたらしいよ」

「……いつ?」

「昨日の夜だって。先生達が「またか」って話してたらしいよ」

「それ、ケンカじゃないよ」

「へ?」

 

 顔を顰めている一佳の言葉に友人や周囲の者が目を向ける。

 

「知ってるの?」

「私も現場にいた。っていうか、関係者だよ」

「マジで!?」

 

 目を見開いて驚く友人。

 一佳は真剣な顔をして頷く。

 

「ゴロツキに襲われてる女の人がいてな。私も思わず駆けつけたけど、人質に取られちゃって動けなくなったところを拳暴が助けてくれたんだ。拳暴はケンカなんかしてないよ」

「……嘘ぉ」

「ついでに警察にも話を聞いた。拳暴は自分本位のケンカをしたことはないってさ。昨日みたいに誰かを助けるためばかりだって。だから謹慎にも退学にもならないんだよ。人助けしてただけなんだから」

『……』

「警察の人が言ってたよ。拳暴のおかげでこの街の事件被害者が少なくなったってな。早くヒーローになって欲しいって」

 

 一佳の言葉にクラスメイト達は口をあんぐりと開けて、戦慈に目を向ける。

 戦慈は頬杖を突きながら、我関せずと窓から外を眺めている。少し不機嫌なオーラを発しているように見えるが。

 一佳は鞄を置いて戦慈に近づく。

 

「昨日はありがとな。助かったよ」

「別にてめぇを助けたわけじゃねぇ」

「あの女の人だよな。分かってる」

「ふん」

 

 戦慈は一佳と目を合わせようともしない。それに周囲は顔を顰めるが、一佳は苦笑するだけで気分を害した様子はなかった。

 昨日の事でぶっきらぼうな態度を取る理由は、想像だが理解したつもりだ。巻き込まないために突き放す言い方をしているのだと、一佳は思っている。

 

 それ以上は声を掛けず、席に戻る一佳。

 戦慈は変わらずに外を眺めている。やはり周囲は一佳の言葉とは言え、すぐに信じることは出来なかった。

 

 予鈴が鳴り、担任が教室に入ってきた。

 

「おっし!じゃあ、まずは昨日の進路希望のプリントを回収するぞー」

 

 その言葉に生徒達はプリントを後ろから回して、教師に渡す。

 その後、簡潔に連絡事項を伝えると、再び担任は戦慈を睨む。

 

「拳暴!昨日もまた暴れたらしいな!この後、職員室に来い!」

「待ってください」

 

 一佳が手を上げる。

 それに担任が目を見開いて驚く。

 

「け、拳藤?どうした?」

「昨日の事はケンカではなく人助けですし、私も当事者の筈です。なんで拳暴だけ注意されるように呼び出されるんですか?」

「そ、それは……」

「警察から聞きました。あいつは警察から表彰されるくらい人助けしてるって。断ってるらしいですけど。でも、それは校長先生に伝えてるって。なんで先生方はまるでケンカしたように周囲に言うんですか?」

「っ……!」

「確かに暴力で解決したかもしれないけど、それは警察やヒーローに通報して駆けつけるまで間に合わないからだって言ってました。事実、昨日も通報が届いて警察が駆けつけるまで、拳暴が来なかったら襲われてた人も、そして私もこうしてここにいられませんでした。それを何でケンカで片付けるんですか?」

 

 一佳の言葉に冷や汗を流しながら後ずさる担任。

 

「け、拳暴の行動は違法行為だからだ!」

「それは人助けをケンカと言いふらしていることとは関係ありません」

「ぐぅ!」

「拳暴は注意されることはしてません。もし呼ぶなら私も呼んでください。私が不用意にゴロツキに声を掛けて、あいつが戦わないといけないようにしたんですから」

 

 一佳のまっすぐな目で見つめられ、担任は顔を顰めて何も言わずに足早に教室を出ていく。

 

「ふぅ」

「だ、大丈夫なの?あんなこと言ったら内申点に響くかもよ?雄英受けれなくなるよ?」

「間違ったことは言ってないし、別に雄英でなくてもヒーロー科はあるからさ。問題ないよ」

「一佳……」

 

 一佳はすっきりした顔で笑う。

 友人やクラスメイト達は一佳を心配そうに見つめる。

 戦慈も一佳を見ながら、仮面の下で眉を顰めるのであった。

 

 

 その後、教師達は何も言わなくなり、一佳の話が一気に校舎内に広まった。

 しかし、それで戦慈への風当たりが変わるわけではなかった。

 1人を除いて。

 

 

 放課後。

 

「……戦慈」

「あ?」

 

 帰り支度をしていた戦慈に声を掛ける者が1人。

 里琴である。

 その姿に一佳を始めとするクラスメイト達も目を見開いて驚く。

 

「あの子って……」

「隣のクラスの巻空さんだ」

「確か一佳にも負けないくらいの才女でしょ?」

「え?なんで拳暴に声かけてんの?」

 

 里琴は周囲の声など聞こえていないかのように戦慈に近づいて行く。

 

「……帰る」

「……声かけんなって言ってんだろうが」

 

 戦慈の言葉に里琴は一佳に目を向けて、すぐに戦慈に視線を戻す。

 

「……もういい」

 

 里琴は今まで戦慈から学校では近づくなと言われていた。もちろん、それは教師達に目を付けられないようにするためだった。

 一佳の話が広まったから、もう我慢しなくていい。

 そう里琴は言っているのだ。

 

「……ちっ。そうかよ」

「……帰る」

 

 戦慈が舌打ちするが、里琴はグ!と戦慈の裾を引っ張る。

 それに戦慈はため息を吐き、鞄を肩にかけて大人しく歩き始める。それに里琴も続いて行く。

 その姿を一佳達はポカンと見送った。

 

「……え?巻空さんって拳暴と仲いいの?」

「いや……初めて知った」

「だよな。今まで話したところすら見たことないぞ」

「どういう関係だ?」

「もしかして付き合ってんの?」

「まさかぁ」

 

 新しい話題にざわめくクラスメイト達。

 そこに更なる火種が投じられる。

 

「そう言えばさぁ……拳暴も雄英受ける気だって聞いた?」

『え!?』

「あ、巻空さんも受けるみたいよ?先生達の阿鼻叫喚だったわ。『天才児だけじゃなくて問題児まで受けるのか!?』って」

 

 戦慈と里琴が雄英を受験することに驚く一同。

 一佳もまさかのライバル出現に目を見開く。

 

「巻空さんはともかく拳暴は無理じゃね?」

「お前、知らねぇの?拳暴って頭いいぞ?この前の中間試験、クラス2位だぞ」

『マジで!?』

「何で知らねぇんだよ。内申点はともかく、あいつ下手したら拳藤より合格圏内にいるぜ?実技試験の内容によるけどな。だから先生達が慌ててんだよ。問題児……かどうかはもう分かんねぇけど、拳暴だけが受かったら先生達の面目丸潰れだぜ?」

 

 口をあんぐりと開けて固まるクラスメイト達。

 一佳は昨日の戦慈の戦いを見て、戦闘では厳しいと思い顔を顰める。

 

「そういえば拳暴と巻空さんの『個性』って何?」

「知らね。拳暴は身体強化じゃねぇの?」

「一佳は昨日見なかったの?」

「いや……普通に格闘戦だった。それでもすごかったけど」

「じゃあ、身体強化系か」

「巻空さんは聞いたことも見たこともねぇなぁ」

 

 2人の『個性』について話題になる。しかし、誰も知らなかった。

 植蘭中学では『個性』授業はあるが、選択授業だった。拳暴も巻空もその授業は出席していなかった。だから誰も2人の『個性』を知らないのだ。

 

「一佳も頑張らないと!!」

「うん!」

 

 一佳は友人の応援にグ!と両手を握って気合を入れる。

 

 

 

 

 そうして数日が過ぎ、3年生達は戦慈の噂よりも自身の受験に集中し始めていた。

 教師達も一佳の反撃から戦慈への敵意を潜めている。これには里琴が戦慈と行動を共にするようになったのもある。3年で最も有名な才女2人が戦慈を庇う立場にいるので、教師陣も強く出られなくなったのだ。

 もちろん今まで卒業生で数名雄英に進学した者もいる。今年は一佳と里琴が確実に受かると思われており、保護者内でも注目されている。

 戦慈に関しては教師陣はどうにか受験させないように出来ないかと模索していたが、里琴が「……一緒。……絶対」と『戦慈と一緒じゃなければ絶対雄英を受けない』と断言し、頭を抱えることになった。

 更にようやく校長が腰を上げて「彼の受験を君達の都合で邪魔することは許さん」と教員会議で宣告した。

 

 里琴は完全に戦慈とべったりになり、登校・昼休み・放課後は戦慈の傍に一目散にやってくるようになった。

 噂好きの学生達が後を付けて、2人が同じ施設で暮らしていることが判明し、納得するも揶揄い辛い話題となった。

 

 戦慈のヴィジランテ活動は頻度は減るも続いており、先日に地元新聞が戦慈の事を取り上げた。

 『違法かもしれないが、傷ついた人を助けようと動く姿は否定出来るものではない』『彼の行動で救われた人は多く、犯罪が減っている』『彼は自身の行動を決して自慢せずに、警察の表彰を断り続けている』『それが一部の大人達によって、捻じ曲げられている』など細かく記されていた。

 インタビューの中では一佳が巻き込まれた事件で助けた女性などの言葉もあった。

 

「拳暴。お前の事、記事になってるぞ?」

「あぁ?……誰だ?鞘伏の野郎も関わってやがんな」

「それにうちの生徒もインタビュー答えてるよな」

「余計なことしやがって……」

「いいじゃん。これで変な誤解も解けるしさ」

「……いいこと」

「うっせぇ」

 

 一佳が昼休みに新聞を見せると、盛大に顔を顰める戦慈。

 それに一佳は笑い、里琴も頷く。里琴は相変わらず無表情だが。

 

 これがトドメになり、教師陣は完全に戦慈への敵意を収めざるを得なくなったのだった。

 

 

 その数日後。

 その日は珍しく一佳も戦慈達と一緒に下校していた。

 

「なんで付いてくんだよ?」

「方向が一緒なんだよ」

「並ぶ必要性はねぇだろうが」

「クラスメイトだろ。冷たいこと言うなよ!それに一緒に雄英受ける仲だしさ」

「ライバルだろ?36人しか受からねぇんだぞ?」

「分かってるよ。当日はそうだけど、それまでずっといがみ合うのも面倒だろ?」

「……負け」

「うるせぇ」

 

 里琴の言葉に舌打ちする戦慈。

 一佳は何だかんだ里琴の歩くペースに合わせている戦慈に、改めて「本当にいい奴だな」と納得する。

 その時、戦慈達の前を塞ぐ集団が現れる。

 

「……なんだ?お前達」

「……復讐だろ。俺が殴り飛ばして捕まった連中の」

「っ!?」

「分かってんじゃねぇか!ガキがいい気になりやがってよぉ!!」

 

 両腕が岩のようにゴツイタンクトップの2m半ほどの大男が戦慈を見てニヤニヤとする。

 

「ちっ。だから嫌だったんだよ」

「……拳暴……」

 

 戦慈は舌打ちしながら、鞄を地面に投げ捨てる。

 それに一佳はどうするべきか考える。逃げるにしても、この人数相手には厳しいし、周囲に被害が拡大するだけの可能性が高い。

 

「どっか行け。邪魔だ」

「でも……!」

「……下がる」

「巻空!?」

 

 一佳の腕を引いて下がる里琴に目を見開く一佳。

 

「……通報」

「え?あ!わ、分かった!」

「……したら逃げる」

 

 里琴の端的な言葉に一瞬ポカンとするが、ハッとして携帯で通報する一佳。

 それを見て、ゴロツキ達は一佳達に攻撃しようとするが、

 

「おい。よそ見してんなよ」

「っ!?」

 

 戦慈が前に出て、注意を引く。

 

「はん!女を庇う騎士…いや、ヒーロー様ってかぁ?この人数相手に勝てると思ってんのか?」

「てめぇらこそ頭大丈夫か?」

「……あ?」

「雑魚を集めた所で雑魚だろうが。数が多いくらいで俺に勝てるとでも思ってんのか?」

「いい度胸だ!!クソガキィ!!」

 

 岩腕男がキレて腕を振り被ると、戦慈も右腕を振り被る。

 それに一佳は戦慈の拳が砕ける光景しか浮かばなかった。

 

「「おらぁ!!!」」

 

ガアァン!!

 

 2人の拳がぶつかり、里琴以外の誰もが戦慈が潰されたと思った。

 

「ぎゃああああ!?」

『!?』

 

 しかし腕を抱えて悲鳴を上げたのは岩腕男だった。男は拳の岩が完全に砕けて血が噴き出している。指もグニャグニャに曲がっており、明らかに折れていた。

 対して戦慈は少し血が流れる程度だった。

 

「流石に()()()()硬ぇな」

「はぁ!?」

「あいつ!硬化系の『個性』持ちか!?」

「はぁ!!」

「ごはぁ!?」

 

 戦慈が右脚を振り抜き、岩腕男の腹に蹴りを突き刺す。男はくの字に吹き飛んで、後ろにいた仲間数人巻き込んでいく。

 

「「「「ぎゃあ!?」」」」

「て、てめぇ!」

「だから言ってんだろうが。雑魚が集まろうが雑魚だってよ」

「かかれぇ!!」

 

 ピエロみたいな顔をした男がナイフを抜いて、号令を出す。それに周囲にいたゴロツキ達が戦慈に向かって突撃する。

 

「け、拳暴!」

「……通報は?」

「した!警察とヒーロー両方!だから私達も!」

「……いらない」

「なんで!?」

「……負けない」

「……巻空」

 

 全く表情が変わらないがはっきりと言葉にする里琴に、一佳は構えを解いて戦慈を見つめる。

 戦慈は近づいてくるゴロツキ達を殴る蹴るで倒していく。

 

「くらえやぁ!!」

 

 両腕が大砲に変わった男が戦慈に向かって砲撃する。戦慈は避けようとするが、背後の民家に気づいて両腕をクロスして砲撃を受ける。

 2発の砲弾は戦慈に直撃すると爆発を起こす。

 

「拳暴!!」

 

 流石に声を上げて戦慈の名前を呼び、駆け出そうとする一佳。

 それを里琴が一佳の制服の引っ張って止める。

 

「せ、巻空!?何で止めるんだ!?」

「……邪魔」

「邪魔ってやられてんだぞ!?」

「……大丈夫」

 

 フルフル首を横に振る里琴に訝しむ一佳。

 しかし、里琴はいつもと変わらぬ無表情で、まっすぐと戦慈がいるところを見る。

 

「……あの程度。……頑丈」

「あの程度って……」

「ぎゃあ!?」

「!?」

 

 言葉足らずな里琴の言葉に困惑していると、叫び声が聞こえる。

 慌てて戦慈に目を戻すと、一佳の視界に飛び込んできたのは、大砲男の顔を右手で掴み、右腕1本で体を持ち上げる服がボロボロの戦慈の姿だった。

 制服は破けているが、目立つ負傷はしていなかった。

 

「ま、マジ……!?」

「は、放ぜぇ!?」

「いいぜ。振り回しながらだけどなぁ!!」

「ぎゃ!?」

「ぐえ!?」

「ぶ!?」

 

 一佳は目を見開いて固まる。

 大砲男は顔の痛みに腕を戻して暴れる。戦慈はそのまま大砲男を振り投げて、近くにいた男達に叩きつける。

 そこに更に火の玉や棘、粘液のようなものが戦慈に浴びせられる。

 

「は、ははは!どうだ?流石に堪えただろ!?」

「何がだよ?」

「「「ひぃ!?」」」

 

 直撃した煙の中から戦慈が飛び出し、高速で拳の乱打を放ち、遠距離持ち達に浴びせる。

 

「しゃららららららぁ!!!」

「「「!!?!?」」」

 

 男達は悲鳴を上げることも出来ず、拳の壁と住宅の壁に挟まれて撃沈する。

 

「はあああぁぁ……!」

「ば、化け物……!?」

「拳暴……!?棘が!」

 

 男達は顔を真っ青にして後ずさる。

 しかし、戦慈の脇腹と左太ももに棘が刺さっており、上半身の服は原形を留めていないほどボロボロになっている。

 戦慈は棘を掴んで大雑把に抜く。抜くと同時に血が噴き出すが、戦慈は気にも留めずに男達を睨みながら一歩ずつ近づいて行く。

 

「……本当にどんな『個性』なんだ?」

「……《強靭》」

「え?」

「……戦慈の体」

「強靭?それだけ?」

「……他にもある」

「あるのかよ!?」

 

 もはやコントになっている2人の会話。

 その間にも戦慈はゴロツキ達を殴り飛ばしている。

 

「お、女だ!女共を狙え!」

「ちぃ!」

 

 戦慈は顔を顰めるが、他のゴロツキ達が突撃してくる。

 腕を蛇に変えた男がその隙に一佳達に向かって走り迫る。

 

「くそ!」

「しゃははははは!!」

 

 ズム!と両手を巨大化させた一佳。

 前に出ようとした一佳の裾を再び里琴が右手で引っ張る。

 

「巻空!?」

「……邪魔」

 

 一佳と代わるように前に出る里琴。

 

「……やー」

 

 そして抜けた掛け声を出しながら、左腕を振るう。

 すると2人の目の前に竜巻が発生し、蛇腕男に迫る。

 

「え!?」

「しゃ!?しゃあああああ!?」 

 

 蛇腕男は竜巻に巻き込まれて、吹き上げられた。

 そして戦慈の元に飛んでいく。

 

「ふん!」

「へびぃ!?」

 

 戦慈は後ろ回し蹴りを蛇腕男の脇腹に浴びせて壁に叩きつける。

 

「す、すごい……!」

「……ブイ」

「《竜巻》の『個性』なのか」

 

 一佳の言葉にコクリと頷く里琴。そして左手に小さな竜巻を生み出す。

 

「それで拳暴の援護を!」

「……いらない」

「はぁ!?」

「……出来上がった」

「出来上がった?」

 

 里琴の言葉に首を傾げながら、戦慈に目を向ける一佳。

 そして戦慈を見て、目を見開いて驚く。

 

「おおおおおぉぉぉ……!」

 

 戦慈の体は一回り膨れ上がり、髪が逆立っている。

 更に湯気か何かが体から湧き上がっており、少しだけ体が歪んで見える。

 

「な、なんだ?……あれ」

「……温まった」

「温まった?」

「……体」

「いや、温まったってレベルじゃないぞ」

 

 戦慈は右拳を握り、ゆっくりと振り被る。

 

「耐えろよ?」

『ひぃ!?』

 

 戦慈がニイィと口端を吊り上げる。

 それにゴロツキ達が顔を真っ青にして後ずさる。

 そして戦慈が腰を捻って右腕を振り抜いて突き出す。

 

ドッバアアアァァン!!

 

『ぎゃああああ!?』

 

 空気が爆発したように音を立てながら衝撃波が放たれて、ゴロツキ達を吹き飛ばす。

 道路に合わせて吹き飛ばしたので、建物に被害はなかった。

 

「……なんて奴……」

「……まだ来ない」

「え?あ、警察か」

 

 唖然としていた一佳は、里琴の言葉にハッとして「そういえば……」と通報したことを思い出す。

 しかし、

 

「ぐ……げ……」

「うぅ……」

「いってぇ……」

 

 もはや立っているゴロツキはいなかった。

 こうなるともはや戦慈が悪役である。

 

「……もう全員倒しちゃったな」

「はぁ……だから騒がれたくなかったんだよ」

「……おつ」

「ここか!」

「警察だ!」

「と!ヒーローだ!」

 

 上半身裸になっている戦慈が顔を顰めながら里琴達の元に歩み寄ると、ようやく警察やヒーローが駆けつける。

 警察達は倒れて呻いているゴロツキ達を見て唖然とする。しかし、すぐさま捕縛に動き出し、ヒーロー達も警戒に努める。

 戦慈達には鞘伏が近づいてきた。

 

「ひでぇナリだな」

「遅く来といて一言目がそれかよ」

「すまん。奴ら、他にも待ち伏せしてやがってよ。お前らの竜巻や衝撃波で気づいたんだよ」

「使えねぇ。って、そうだ。てめぇ、新聞に俺の事話しやがったな?そのせいだぞ」

「……すまん。取材に答えたのは俺の部下だ。俺も新聞見て知ったんだよ。やべぇと思って、動いた矢先にこれだ」

 

 鞘伏もうんざりしながらも頭を下げる。

 それに戦慈は「ふん」と鼻を鳴らし、腕を組む。

 

「怪我はしてねぇか?」

「そうだ!拳暴お前!棘が刺さったところは!?脇腹と左脚!」

「もう治ってんよ」

「なんでだ!?」

 

 鞘伏の言葉に一佳が思い出して慌てて戦慈の体を確認する。

 しかし、すでに傷口は塞がっており、一佳が目を見開く。

 

「本当にどんな『個性』なんだよ」

「ケンカに強えぇだけだよ」

 

 もはや呆れるしかない一佳に戦慈は肩を竦めるだけだった。

 

「はぁ……制服が跡形もねぇ。仮面が無事だったのが奇跡だぜ」

「……お前の体……」

「今更かよ」

「……にぶちん」

「うるさいな!」

 

 戦慈の上半身は傷だらけだった。ヒーローでもここまで傷だらけの体になることは少ないだろう。中学生が持つ体ではない。

 

「全部『個性』が弱かった時の古傷だ」

「……何をしたらそうなるんだよ……」

「さぁな」

 

 話す気はないという言葉にため息を吐く一佳。

 

「で?俺らはどうすりゃいいんだ?」

「パトカーで送る。戦慈は後日謝罪に……」

「いらねぇから仕事しやがれ。またこんなことあったら、殴り飛ばすぞ」

「……分かっとる。元々お前に頼ってたツケだからな」

「ならいい」

「ただ学校には謝罪させてもらうぞ?それとそこのお嬢ちゃんの家にもな」

「あぁ、うちもいいですよ。今回はしょうがないって分かってますし、私も雄英目指してるんで、これぐらいは慣れていかないと」

「申し訳ない」

 

 一佳の言葉に鞘伏が頭を下げる。

 

 その後、3人はパトカーで家に送ってもらい、今回の騒動について戦慈達の名前は一切公表されることはなかった。

 

 しかし、流石に現場付近で動画などが撮られており、ネットで戦慈の事が広まってしまう。動画を見た者達が『戦い方がもうオールマイトじゃん!』と騒がれ、一気に注目されることになっていった。

 

__________________

 

拳暴(けんぼう) 戦慈(せんじ)

 

 誕生日:8月1日 身長:192cm AB型

 好きなもの:コーヒー、チョコ、白米

 

 黒のミディアムウルフカット。

 赤いヴェネツィアンマスクで顔の上半分を隠している。非常に引き締まった体つきをしている。

 

 施設で暮らしている一匹狼。

 非常に誤解されやすい性格と見た目で、本人は諦めている。

 しかし授業はサボったこともないし、勉強も出来る。

 コーヒーが好きで、豆から挽くほどのこだわり。

 

 『個性』:《戦狂(いくさぐるい)

 《強靭》《自己治癒》《筋力増強》の複合型。

 体が非常に頑丈で、肩や股関節などが強く、アドレナリンが出れば出る程パワーが上がる。

 なので戦えば戦うほど、殴られれば殴られるほど、強くなっていく。パワーが一定以上溜まると、全身の筋肉が膨れ上がり、また強くなる。最大まで溜めると『某伝説のサイヤ人さん』並みの体格になり、動くだけでも衝撃波が飛び交う。

 全力で溜まったエネルギーを衝撃波として放つと、体とパワーは元に戻る。

 

 

 

巻空(せんくう) 里琴(りこ)

 

 誕生日:9月1日 身長:141cm O型

 好きなもの:裁縫、トマト、カフェオレ(戦慈が淹れたものだけ)

 

 おかっぱショートパーマの黒髪。Bカップ。

 基本無表情で短文で話すが、声には比較的感情が宿っている。

 

 施設で暮らしている不思議ちゃん。

 戦慈と小学1年から共に暮らしている。

 いつの間にか戦慈の部屋に入り込んで世話を焼いている。

 体は小さいが運動神経は良い。頭もいい。

 

 『個性』:《竜巻》

 全身から竜巻を生み出す。

 大小調整可能で、小さい竜巻であれば操ることも可能。そのため一定時間飛行することも可能である強個性。

 使い過ぎると酩酊状態になる。

 

 

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