『拳』のヒーローアカデミア!   作:岡の夢部

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主人公達を暴れ終わらせたので、ここからは他のB組達を!
最初はやはりこの子でしょう!



拳の二十六 私は度胸!

 職場体験4日目。

 朝6時。

 

 当然の如く、世間は保須、広島の事件についてのニュースで持ち切りだった。

 

 一佳は昨晩から眠れなかった。

 

「……広島で凶悪ヴィラン。……ミルコ達の活躍で、短時間で退けることに成功」

 

 一佳は随時更新されるネットニュースを、常に確認していた。

 もちろん最も確認していたのは広島のニュース。

 

「……襲撃犯の中に雄英を襲撃した敵連合の一味と外見的特徴が似ている者が確認出来た。……職場体験に来ていた雄英生2人も、撃退に大いに貢献した。……広島、ミルコ、2人の雄英生……!拳暴……里琴……!!」

 

 一佳はニュースを見ると顔を歪めて、メールを起動する。

 そして里琴に安否確認のメールを送る。

 

 里琴にメールしたのは、一夜明けたとはいえ電話出来るか分からないからなのと、戦慈ならば里琴を必ず守っているはずだと思ったからである。

 

 そこまで頭が回るのに、時間について気が付かなかったのは、やはり動揺しているようである。

 しかし、里琴はすぐさま返信してきた。

 

「!!」

 

 一佳は食い入るように画面を見つめて、メールを開く。

 

『もうすぐ退院。リカバリーガールが来た。戦慈も回復してる。もーまんたい』

 

 簡単な文章ではあるが、要点を押さえており、最後に安心させるように平仮名で書かれた言葉。

 それに一佳は安堵して、大きく息を吐いてベッドに倒れ込む。

 

「……よかったぁ」

 

 すると、再びスマホが震える。

 急に襲ってきた眠気に耐えながら、画面を見る。

 メールのようで、送信元の名前は、

 

「っ!?拳暴!?」

 

 一佳は戦慈の名前に眠気が吹き飛んで、飛び起きる。

 慌ててメールを開くと、

 

『こっちは問題ない。今は自分の事に集中しろ。変な奴に付いて行くなよ』

 

 ぶっきらぼうではある。しかし、その言い方に一瞬で抱えていた不安が吹き飛んでいくのを感じた。

 

「……だから……幼稚園児じゃない……!」

 

 溢れそうになる涙を堪えて、届くはずもない文句を言う。

 

 一佳は立ち上がって、パァン!!と両手で頬を叩く。

 

「っ~!!……ふぅ……頑張る……!!」

 

 一佳は気合を入れて、さっぱりするためにシャワー室へと向かう。

 しかし、それでも目の下の隈と両頬の手形が消えず、集合した際に八百万は慌て、ウワバミがニヤニヤと一佳を見てきたときは失敗したと後悔したのであった。

 

 

 

 

 なんとか頬の腫れが引き、目の下の隈はウワバミに化粧をされて目立たなくされる。

 

「ウフフ♪広島のお友達のことかしら?」

「……仲間なので」

「そうよねぇ。仲良さそうだったもんねぇ」

「……」

 

 色々と含みを感じるウワバミの言葉に、苦笑いで誤魔化す一佳。

 このままではマズイと思い、一佳は八百万に話題を振る。

 

「そ、そういえばさ!保須の方はどうだったんだ!?た、確か飯田とか轟もいたんだろ!?」

「え、ええ。皆さん数日で退院出来るようですわ」

「ヒーロー殺しに良く無事だったわよねぇ。エンデヴァーが備えてて、正解だったわね」

「はい」

 

 一佳の露骨な話題変更に、八百万もウワバミも何も言わずに乗る。

 それに小さくホッと息を吐いた一佳は、八百万の言葉に頷いて笑みを浮かべる。

 

「無事ならよかったよ。飯田って、あれだろ?お兄さんがヒーロー殺しに引退させられたんだろ?」

「えぇ」

「無事だったならインゲニウムも一安心でしょうね」

「はい!それで……本日の予定はどのようなものでしょうか?」

 

 八百万は少し不安そうにウワバミに質問する。

 その言葉にウワバミは何かを思い出したように、テレビを点ける。

 

 そこに表示されたのは、初日撮影されたCMだった。

 

「仕事早いわよね~。これ、デモだから1か月後くらいにはCMで流れるわよ」

「……テレビ出ちゃったな」

「……ヒーロー……私達はヒーロー……」

 

 一佳はマスクを顔に巻きながら苦笑いし、八百万は顔を青くして、言い聞かせるように呟く。

 ウワバミが椅子から立ち上がり、ドアへと向かう。

 

「じゃあ、パトロール行きましょうか」

「「は、はい!!」」

 

 ウワバミの言葉に一佳達は笑みを浮かべて後を追う。

 

 

 

 外に出たウワバミ達は街を練り歩く。ウワバミの頭の蛇達は絶えず、キョロキョロとしている。

 

(……あの蛇で索敵してるのか。そうなると……やっぱり私じゃ難しいなぁ)

  

 索敵のイロハを学ぼうにも、やはり『個性』由来の索敵だと一佳にはどうやっても真似出来ない。

 

「ウワバミさん」

「なに?」

「索敵とか諜報活動時に気を付けることって何かありますか?」

「気を付ける事?」

 

 一佳の質問にウワバミは首を傾げる。そして、顎に指を当てながら少し考える。

 

「そうねぇ。一番は標的にバレないことよ。そしてバレた場合の逃げ道も確保しておくことね。逃げ道って言うのは物理的なものと捕まった時の言い訳のことね」

「逃げ道……」

「索敵や諜報はね、あくまで前準備なのよ。やってる本人からすれば本番だけどね。作戦からすれば、突入と捕縛の成功率を高めるための前段階でしかないわ」

「……なるほど」

 

 ウワバミの言葉に頷く一佳と八百万。

 するとウワバミは何かに気づいたような声を上げる。

 

「ああ……もしかして拳暴君達を意識しちゃったの?」

「うぇ!?ち、違います!!」

 

 ウワバミの言葉を一佳は慌てて否定する。しかし、それが逆に図星であると教えてしまうことになった。

 ウワバミは楽し気に口に手を当てて笑う。

 

「若いわねぇ。確かに拳暴君達と比べちゃうとね。気持ちは分かるし、戦闘でダメならって感じかしら?」

「うっ……」

 

 完全に見抜かれて、顔を赤くする一佳。

 八百万は何やら目をキラキラさせて、2人の話を聞いていた。

 

「これが……恋バナ……!!」

 

 と、1人で盛り上がっていた。

 ウワバミは一佳に声を掛ける。

 

「確かにマルチに出来るのはいいことだけどねぇ。やっぱりせっかくの『個性』は活かさないとね」

「そうですけど……」 

 

 一佳はウワバミの言葉に理解を示すが、やはり納得はし難い思いがある。

 ただでさえ戦慈達は危険な目に遭ったばかりだ。やはり出来れば力になれるようになりたいと思う。

 

 なんの疑問も持たずに、戦慈達と共に戦うためにどうすればいいのかを意識していることには誰もツッコまなかった。

 

 すると、ウワバミのスマホから着信音が響く。

 

「はい、ウワバミ。……えぇ……えぇ……構わないのだけど……」

 

 チラリとウワバミは一佳達を見る。

 それに一佳達は「またCMか?」と内心怯える。

 

「雄英生が2人いるの。職場体験なの。それでもいいかしら?……えぇ……もちろん無理はさせないわよ……ありがとう。じゃあ、後で」 

 

 ウワバミは通話を終えて、一佳達に顔を向ける。

 それに2人は背筋を伸ばして、唾を飲んでウワバミの言葉を待つ。

 

「警察からの協力要請よ。内容は逃亡中のヴィランの索敵と捕縛。作戦会議は1時間後よ」

 

 ウワバミの言葉に一瞬目を見開くも、すぐに真剣な表情に変える一佳と八百万。

 

「2人も参加を許可されたわ。もちろん私と一緒に行動することが条件だけどね。行きたいでしょ?」

「「はい!!」」

 

 一佳と八百万は力強く頷く。

 それに笑みを浮かべたウワバミは事務所に連絡して、車を用意させる。それに乗り込んでウワバミ達は作戦会議の場となっている警察署に向かう。

 警察署の会議室に入った一佳達は案内された席に座る。他にもヒーローが何名か参加しており、椅子に座って待機していた。

 

 するとそこに、

 

「あ!骨抜!」

「お、拳藤か」

 

 骨抜が入ってきた。もちろんその前にはヒーローがいた。

 高跳びヒーロー『バネトビ』。

 緑の短髪で目元には鳥型のマスクをして、赤いタンクトップに黒の鳶ズボンを履いている。

 

「おう、ウワバミ。お前さんのとこは2人かい」

「えぇ、指名出してたからね」

「なるほどな」

 

 ウワバミの隣の席に案内されたバネトビが座りながら、声を掛ける。

 

「ここは公式の場だから、ちゃんとヒーロー名で呼び合ってね」

「す、すいません!」

「名前つけたばっかなんだろ?慣れていきゃあいい」

「はい」

 

 そして30分後に責任者と思われる警察官が数名入室してくる。

 一佳達の前に資料が配られ、室内が少しピリつく。

 

「本日は急な要請に集まって頂き感謝する!早速だが、本題に入らせて頂く!」

「あまり時間はなさそうな感じね」

「だな」

 

 簡単な挨拶だけで、本題に入る様子にウワバミとバネトビが目を鋭くして、資料に目を向ける。

 

「今回の相手は指定敵団体の下部組織の摘発だ!今回、警察の調査でその組織が、大量の武器とブースト薬をビルに運び込んだのが判明した!」

「武器にブースト薬……」

「ただでさえ監視されている指定敵団体が……厄介なことを企んでいるのは確かみたいね」

「そのビルに摘発に入り、武器と薬は押収出来たのだが……。数名の構成員に包囲網を突破されてしまった」

「おいおい……」

「逃げたと思われる場所は?」

「板羽区のビル街だ。そこは少なくとも6つの廃ビルがある。周囲には住宅街やオフィス街もあり、下手に逃すとそちらに逃げられる可能性がある」

「そういうことね」

 

 説明を受けたウワバミ達は呆れとも納得とも言えない表情を浮かべる。

 そこに呼ばれたヒーローの1人が、声を上げる。

 

「しかし、この人数で6つのビルを調べるのか?ウワバミがいるとは言え、人手が足りなくはないか?」

「君達にお願いしたいのは6つの内の2つだ。残りの4つは他の警察署とヒーローが担当する」

「分けたのか」

「ああ、地図を見てくれ」

 

 警察官の言葉に、全員が資料の中の地図を見る。

 そこには赤い印をつけられたビルが3グループに分かれていた。廃ビルは2つは集まっているが、残りの4つからは離れている。他の廃ビルも2つが集まっているが、他の4つからは離れており、三角形を描くように配置されている。

 

「このようにビルがそれぞれ離れている。なので、それぞれで作戦を立てて動くことになった」

「……大丈夫か?当たり外れがあるのなら、手柄の取り合いにならないか?」

「基本的に報酬は出る。そこに捕獲したチームに報酬が上乗せされる形だ」

「……それなら……」

 

 少し不安もあるが、決まっている以上やるだけやるしかないと諦めるヒーロー達。

 

 作戦会議が終わり、移動を始める一佳に骨抜が近づいてくる。

 

「広島の事、なんか知ってるか?拳暴と巻空のことだろ?あれ」

「ああ、2人とも戦ったけど無事だ。リカバリーガールが来てくれたらしい」

「そっか。なら、よかったぜ」

 

 一佳の言葉に骨抜は頷く。

 その後はそれぞれに分かれて、現場に移動する。

 

 一佳達は骨抜達や他のヒーローと共に6階建ての商業ビルを調べることになった。

 一度、ビルから見えない場所に集まり、ビルの見取り図を広げて、忍んでそうな場所を考える。

 

「入り口は表口と裏口が1つずつ。非常階段もビル内にあるタイプだな」

「裏口は目立たない場所にあるな。夜なら出入りもしやすいな」

「隠れやすいけど、逃げにくくもあるわね。裏口は窓からは見えないか」

「ウワバミは裏口から行け。バネトビもな。俺達が表から近づいて様子を見る」

「「了解」」

 

 すぐに分担して、遠回りして裏口に回る一佳達。

 

「あなた達は後から来てね」

「「「はい」」」

 

 バネトビを先頭にウワバミが続き、一佳達が後ろから付いて行く。

 

「どうだ?」

「……少なくとも2階まではいないわ」

「なら、ゆっくり2階まで上がるぞ。音は立てないようにな」

 

 バネトビの言葉に頷く一佳達。

 ゆっくりと階段を上り、2階に上がる。2階に人の気配はないが、部屋の鍵がどうなっているのかを調べることにした。

 一番近い部屋の扉に近づき、ドアノブを捻ると簡単に開いた。

 

「部屋は入り放題ね」

「なら、一応全部の部屋を確認しよう。荷物を隠している可能性もあるしな」

 

 バネトビの言葉に頷いて、2階の全部屋を確認する。

 特に何もなく、抜け穴も見つけられなかった。

 

 そして3階に上がり同じく部屋を確認するが、何もなかった。

 続いて4階に上がったところで、

 

「っ!!いたわ。5階よ」

 

 ウワバミの言葉に全員の緊張感が高まる。

 

「部屋は?」

「……ここ」

 

 バネトビが広げた地図を見て、ウワバミが指差したのは正面側から3番目の部屋だった。

 

「なるほど。非常階段から来れば正面から逃げて、正面から来ればこっちに逃げれるようにってか」

「っ!?騒いでるみたいだわ。多分、正面のヒーロー達に気づいたわ」

「ってことは、こっちに来るな。一気に上がる!!」

 

 バネトビが走り出す。

 それにウワバミ達も追従して駆け上がる。ウワバミはメールで正面にいるヒーロー達にも突入するように伝える。

 

 そして、5階に入った途端、

 

パァン!!パン!パン!

 

「!?止まれ!!」

「隠れなさい!!」

 

 発砲音と銃痕を確認して、慌てて角に隠れるバネトビ達。

 

「やっぱ銃は全部押収出来てねぇか!!」

「薬まで持ってたら厄介ね!」

 

「ちっくしょう!!もう来やがったのかよ!?」

「馬鹿野郎!無駄撃ちすんな!」

「どうすんだよ!?」

 

 ヴィラン達は興奮しているようで、怒鳴り合っているのが聞こえてくる。

 

「やおよ……クリエティ。デッカイ盾って作れるか?」

「え?けんど……バトルフィスト?」

「私が盾を構えて、突っ込みます。バネトビはその後ろから……」

「アホ言ってんじゃねぇ!!ガキを盾に出来ると思ってんのか!?」

「でも、このままじゃ!!」

 

 一佳の突然の提案に、残りの全員が目を見開く。バネトビがすぐさま怒鳴るが、一佳は引き下がらない。

 

「ここで捕らえないと、逃げられるかもしれない!!そうなったら周りに被害が出るかもしれません!!」

「落ち着きなさい!バトルフィスト!だからって、それは余りにも無謀よ!」

「そうですわ!相手の銃がどれくらいあるのかも分からないのに!!」

「けど、拳暴達なら……!!」

 

 ウワバミや八百万の制止にも耳を貸さない一佳。

 バネトビやウワバミは無理矢理撤退することを考え始めたとき、

 

「落ち着けよ、委員長」

 

 骨抜が一佳の頭に軽く拳骨を落とす。

 

「ほ、骨抜?」

「マッドマンだよ。って、それは今はいい。一度落ち着け。お前は拳暴や巻空じゃないし、あいつらは呼んでもここには来ない」

「そんなことは……!」

「分かってるなら、あいつらを参考にしても仕方がないだろ?()()()()()()()()()()()()()()()。俺は知ってる」

「……」

「戦闘訓練でペアを組んだ時のお前は、そんな作戦考えなかったぞ?周りを見ろよ。委員長」

「……」

 

 骨抜の諭すような言葉に、一佳は考え込むように俯かせる。

 その様子にバネトビ達は少し様子を見ることに決めた。

 

「なんで拳暴や巻空が委員長にお前を選んだと思ってんだ?」

「それは中学でも……」

「あいつらがその程度で推薦するかよ。それに俺達だって、あいつらが推薦したくらいじゃ認めねぇよ」

「え……?」

「お前には拳暴達にだって負けないモン持ってんだ。無理にあいつらを追うなよ。お前はお前にしかなれねぇんだぞ?」

「……骨抜」

「だからマッドマンだ」

 

 骨抜の顔はヘルメットで見えないが、親指をグッ!と立てる。

 それに一佳は一度大きく深呼吸をする。

 そして、

 

パァン!!

 

 と、頬を両手で叩く。

 八百万は目を見開くが、ウワバミやバネトビは小さく笑みを浮かべる。

 

「ありがとな。マッドマン」

「気にすんなよ。バトルフィスト」

 

 一佳は骨抜に笑みを浮かべて礼を言う。

 それに再び親指を立てる骨抜。

 一佳はもう一度、深呼吸をして、思考を開始する。

 

(聞こえた声は3人。十分捕らえられる人数差はある。けど、相手は拳銃を持っている) 

 

「ウワバミ。相手は3人ですか?」

「ん?いいえ、5人よ。全員、廊下に出てるわ。ちなみに拳銃持ちは2人」

「あいつらが出てきた部屋の扉は閉まってますか?」

「……ええ、閉まってるわ。それがどうしたの?」

 

 ウワバミは首を傾げて一佳を見る。

 一佳は再び思考に耽る。

 

(人数差はない。正面からのヒーロー達もゆっくりと上がってきているはず。けど相手もそれは分かってる。……そういえばさっき「無駄撃ちはするな」って言ってたな。つまり銃弾は多くはない)

 

 一佳は骨抜とバネトビに顔を向ける。

 

「いいですか?」

「なんだ?言っとくが変なこと言ったら、もう撤退するぞ」

「多分大丈夫ですよ、バネトビ」

「本当か?マッドマン」

「とりあえず聞きましょうよ」

「じゃあ……」

 

 一佳は2人に思いついた作戦を伝える。

 バネトビは腕を組んで唸り、マッドマンは納得したように頷く。

 一佳は八百万にも顔を向ける。

 

「やお……クリエティ。聞きたいことがある」

 

 一佳は八百万にある物を作れるかどうか質問する。

 その内容に八百万は目を見開きながらも頷く。

 

「え?は、はい」

「ウワバミ、正面側のヒーロー達は?」

「4階まで来てるわ」

「……なら、いける」

 

 一佳は勝利を確信する。

 一佳はもう一度考えた作戦を伝える。

 

「……いいんじゃない?今、考えられる中では十分だと思うわ」

「……確かにな。……仕方ねぇか。バレた以上、時間はかけれねぇしな」

「俺は問題ないです」

「私も」

「なら行くぞ」

「「「はい」」」

 

 こうして一佳の作戦が始まった。

 

 

 

 

 一佳は準備が整うまで、緊張を解そうと深呼吸をする。

 

(骨抜の言うとおりだな。拳暴や里琴のようには出来ない。だから他の分野で追いかけたくなったんじゃないか) 

 

 当たり前の事だ。

 だけど、それを忘れていた。

 それだけ2人の存在が一佳にとって大きかったのだ。

 

(分かってたことじゃないか。たった1週間しかない職場体験。それだけで得たモノなんて、所詮きっかけだ。すぐに実戦で使えるわけがない。私は視野を広げたかっただけの筈なのに……!)

 

 戦いでは届かないから、ウワバミを選んだはずなのに。 

 

(1人で出来る事なんて高が知れてる。それを体育祭で思い知ったばかりじゃないか。ホント……何やってるんだろうな)

 

 一佳は苦笑する。

 

(1人で出来ないなら皆で……!無いモノを強請ってもしょうがない!今あるモノで最善を考えるしかないじゃないか!!)

 

 一佳は両手を握り締める。

 

(常に考えろ!周囲を見て、味方を見て、相手を見て……私の手に何があるかを常に考えるんだ!!)

 

 ようやく一佳は自分がやるべきことを理解する。

 

(私は『バトルフィスト』!それは殴るためだけじゃない!!あらゆる『手』を探り、手繰り寄せ、掴むためにある!!)

 

 己が本当に込めたかった意味を見つけた。

  

 だから、もう迷わない。

 

 考えはしても、迷わない。

 

 

(私は度胸!!)

 

 

 いつか呟いた言葉を、もう一度思い起こす。

 

 

 

「バトルフィスト。用意が出来たわよ」

「……はい!」

 

 ウワバミの言葉に一佳は顔を鋭くして頷く。

 

(大丈夫。雄英の時よりもヒーローが多いし、ヴィランも少ないんだ。必要以上に怖がるな!)

 

 一佳は自分に言い聞かせて、作戦を開始する。

 

 八百万に創ってもらった『モノ』を手にして、ヴィラン達に向かって投げつける。

 

「っ!?なんだ!?」

「爆弾!?」

「アホ言え!ヒーローだぞ!?」

「早く逃げ……!!」

 

 ヴィラン達が慌てて逃げようとした瞬間、それは弾けて強力な閃光を生み出して、廊下を埋め尽くす。

 

「ぎゃあ!?せ、閃光弾!?」

「やべぇ、目が!?」

 

 ヴィラン達は間近で閃光を浴びて、視力を封じられる。

 

 その時、ヴィラン達が潜んでいた部屋の扉から、バネトビが勢いよく飛び出してきた。

 部屋の扉は粘土のように柔らかくなっており、下手に視界を遮ることなく奇襲に成功した。

 

 バネトビは目の前にいたヴィランを殴り、拳銃を持っているヴィラン達に跳び迫った。

 バネトビの『個性』は《バネ脚》。両脚をバネのように変化させて、勢いよく跳ぶことが出来る。 

 

「いいぞ!マッドマン!!」

「どうも」

 

「ヒーロー!?どこから!?」

「くそ!まだ目が!?」

「撃つなよ!?俺らに当たる!!」

 

 ヴィラン達は目を細めながら混乱していた。

 すると今度は正面玄関に繋がる階段から、待機していたヒーロー達が駆け上がってきた。

 

「ここまでだ!!」

「大人しくしやがれ!!」

 

 ヒーロー達がヴィラン達を押さえにかかる。

 

 一佳はそれを角から見つめていた。

 

(よし!いいぞ!これで押さえられるなら良し!もし駄目なら……)

 

「やべぇ!?ぎゃっ!?」

「くっそがぁ!!」

「こっちだ!!」

 

 すると3人のヴィランが倒れた仲間を見捨てて、一佳達がいる非常階段に向かって走り出す。

 

(そうだよな。逃げるならこっち。けど……()()()()()()()()()!!)

 

 ヴィラン達が一佳達の所まで2mと迫ろうとした時、突如廊下に足が沈んで床が粘土のように崩れ落ちて穴が開く。

 

「「なあああ!?」」

「んな!?っんだよぉ!?」

 

 先頭にいた2人は落ちたが、その後ろにいた1人は仲間を踏み台にして穴を飛び越えようとする。

 

 そこに一佳が拳を構えて、角から飛び出してヴィランの前に立ち塞がる。

 

「!?」

 

 ヴィランは目を見開くが、空中にいるのでどうしようもなかった。

 一佳は右拳を巨大化して、全力でヴィランを殴る。

 

「おりゃあああ!!!」

「ぶへりゃ!?」

 

 ヴィランは体をくの字にして後ろに吹き飛び、バネトビ達の間を抜けて反対側の壁に叩きつけられ気絶する。

 

「ふぅー」

「下はどうだ!?」

「完璧ですわ!!」

 

 一佳は息を吐くと、バネトビが穴に近寄り声を掛けると、下から八百万の声が響く。

 一佳も穴を覗き込むと、落ちたヴィラン2人が捕獲ネットに雁字搦めで締め付けられて吊り上げられている。

 

 一佳の作戦は以下の通り。

 

「クリエティに閃光弾を創ってもらって、私が投げます。連中が目をやられている間に、連中の部屋からバネトビが、正面階段からは待機してるヒーロー達が突撃してもらいます」

「連中の部屋からって、どうするのよ?」

「マッドマンの『個性』で4階から。柔らかくしてよじ登り、さらに扉を柔らかくすれば行けるはずです」

「なるほど」

「そりゃあ面白れぇな。けど、こっちが手薄になるぞ?」

「はい。なのでもう1つ、罠を仕掛けます。こっちに通じる通路の床をマッドマンに柔らかくしてもらって、クリエティには4階の天井に捕獲ネットを張ってもらいます」

「……なるほど。そうすれば、無理にバネトビ達が捕らえきれなくてもいけますわね」

「穴を跳び越えられたら?」

「相手は5人。バネトビ達から逃れられるのは、良くて銃を持ってない3人。で、いきなり床が抜け落ちたら、飛ぶ『個性』でもない限りそう簡単に対処は出来ない。穴を跳び越えられるのは良くても1人だろ?それくらいだったら、私が奇襲で殴りかかれば倒せる」

 

 であった。

 

 見事にヴィラン達は、一佳の作戦通りに動いたのであった。

 

「やれやれ、さっきまでは危なっかしいだけの小娘だったのによ。なんだよ。こんなに上手くいくなら、もっと早くマッドマンに怒らせればよかったぜ」

「本当ね」

「あははは……」

「勘弁してくださいよ」

 

 警察が駆けつけ、捕縛している様子を見ていたバネトビとウワバミが、一佳を見て揶揄う。

 一佳は苦笑するしかなく、骨抜は肩を竦める。

 

「まぁ、吹っ切れたみてぇならいいか」

「そうねぇ」

 

 移送準備も終了し、撤収となる。

 

「拳藤」

 

 事務所に戻ろうとしていたウワバミの後ろにいた一佳に、骨抜が声を掛けてきた。

 

「骨抜、さっきはありがとうな」

「しっかりしてくれよ委員長。俺はクラスの連中を纏められる気なんてしないからな」

「おい!」

「カッカッカッ!じゃあな。また学校で」

「ったく……ああ、学校で。頑張ろうな!」

「おう」

 

 コン!と拳を合わせて、骨抜はバネトビの所に戻って行った。

 

 一佳もウワバミ達の所に戻る。

 

「お疲れ様。どうだった?現場は」

「……情けないことばかりでした。皆にも迷惑をかけてしまいましたし」

「初陣なんてそんなものよ。けど、最後はそれを帳消しにしたじゃない」

「そうですわ。完璧なオペレーションでした!」

「ありがと。けど、おかげで色々気づけました。それだけで参加できてよかったです」

「そう。そう言えるなら良かったわ」

「はい!」

 

 一佳は清々しい笑みを浮かべて頷く。

 

(もう焦らない。今はただ学べるものを学んでいく!)

 

 一佳は両手を見下ろして、両手を握る。

 

(この手に集めるだけの知識と経験を集める。そして常に使えるモノを考えろ!)

 

 戦慈や里琴の隣に立てないならば、せめて2人が気兼ねなく暴れられる場を整えてやればいい。

 常に近くにいる事が『共に戦う』ということじゃない。

 そう気づいた一佳。

 

(頑張るぞ!!)

 

 一佳は新たな目標を得て、職場体験へ再度気合を入れ直すのであった。

 

 




こうして一佳は八百万に負けない作戦参謀になっていきます。

次回は忘れられかけている物間、次々回は鉄哲のメイン回です!
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