『拳』のヒーローアカデミア!   作:岡の夢部

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拳の二十八 俺の心よ鋼を超えろ!

 職場体験6日目。

 本日で職場体験は終わりを迎えるため、鉄哲と切島は気合を入れていた。

 

 もちろんフォースカインドから初日にヒーローとしての話を聞いたことも関係しているが、それ以上に2人に気合を入れているのは、やはり保須と広島の事件である。

 

「ぬおおおお!!」

「おりゃああ!!」

「「ふん!ふん!ふん!ふん!ふん!ふん!ふん!ふん!」」

 

 2人は今、事務所待機中で揃って筋トレをしていた。

 普段は気が合う2人だが、こういう時になると自然と競争が始まる。

 今は腕立て伏せで、先に崩れ落ちた方が負けというのが自然と始まっていた。

 

 その様子をフォースカインドも筋トレをしながら、呆れて見ていた。

 

「あいつら……この後パトロールに出るって分かってんのか?まぁ、仕方がねぇのかもしれんが……」

 

 フォースカインドも保須と広島の事件についてはもちろん情報収集をしていた。

 今もヒーローネットワークを利用して、捜査状況などを確認している。

 雄英生が狙われた可能性がある以上、自分も他人事ではない可能性があるからだ。

 

「どうした切島ぁ……!もうヘバってんのかぁ……!?」

「へっ!馬鹿言うんじゃねぇよ鉄哲ぅ……!俺はこれからだぜぇ……!」

「俺もだよぉ……!!」

 

 2人は汗を滝のように流して、両腕をプルプルさせながら互いを挑発する。

 そして再びスピードを上げようとした瞬間、2人の後頭部に衝撃が走る。

 2人は腕を下げたときだったので、額を床に打ち付ける。

 

「「あでぇ!?」」

「馬鹿野郎。まだまだ業務があるんだ。適度で済ませろ」

「「フォ、フォースカインドさん……!?」」

 

 2人は顔を上に向けると、フォースカインドが水とタオルを持って仁王立ちしていた。

 鉄哲と切島は横に目を向けると、水のペットボトルが転がっていた。どうやら先ほどの衝撃は、ペットボトルを落とされたことによるものだったようだ。

 2人は体を起こして床に座り、ペットボトルを手に取る。

 

「友達が重大事件に巻き込まれて、気になるのは分かるがな。それで自分の業務が疎かになったら、本末転倒だろうが。こういうときこそ平常運転でいれるようになることも、ヒーローの資質として求められる」

「「……はい」」

「声が小さぁい!!」

「「押忍!!!フォースカインドさん!!!」」

 

 2人は一瞬で正座になり、背筋を伸ばして返事をする。

 そして、2人は言われた通り休憩を取ることにした。

 

「はぁ~……ちくしょ~。やっぱまだまだだなぁ、俺ら」

「だなぁ」

 

 2人は汗を拭いて、水を飲みながら項垂れる。

 やる気が空回りしていることを自覚しているが、どうにも落ち着かないのだ。

 

「拳暴達はもう大丈夫そうなのか?」

「おう。もう退院してるみてぇだ。ただコスチュームも壊れて、状況が状況だからトレーニングくらいしか出来ねぇそうだ」

「まぁ、そうだよな」

「そっちはどうなんだ?飯田とか緑谷とかはよ」

「緑谷は今日退院で、飯田と轟も昨日には退院したみてぇだ」

「とりあえず全員無事ってことか」

「そうだな」

「「……はぁ~」」

 

 仲間が無事なのは嬉しい。

 なのに、2人がそれを喜び切れないのは、

 

「情けねぇぜ……!拳暴や轟達が羨ましいと思っちまった……!」

「俺もだ……。置いてかれた感じがして悔しいって思っちまった」

 

 鉄哲が顔を顰めて、右手を握り締める。それに切島も顔を顰めて頷く。

 犠牲者も出て、仲間が傷ついた事件だと言うのに、命を懸けて戦っていたと言うのに、2人は一瞬その経験が羨ましいと思ってしまったのだ。 

 2人はそれに自己嫌悪しているのだ。それによって、必死に追いかけている戦慈達の背中が、更に遠のいたように感じてしまった。 

 

「これじゃあ、ヒーロー以前の問題だぜ……!」

 

 鉄哲は自身への苛立ちが抑えられなかった。

 それは切島も同じ思いなので、どう声を掛けていいのか分からなかった。

 

「お前ら!!シャワー浴びろ!!パトロールに行くぞ!!」

「「っ!?は、はい!!」」

 

 フォースカインドの声に、2人は慌てて駆け出す。

 その後ろ姿を見ていたフォースカインドは、腕を組んでため息を吐く。

 

「まぁ、若いからこその壁って奴か。初日の話も合わせて、変に追い込まれちまってるな。ああいうのは自分で乗り越えねぇと続かねぇんだよなぁ」

 

 雄英は特に生徒同士の競争を意識させられる。 

 体育祭で多くの者に注目されるし、今回の職場体験もその影響を受けている。

 ヒーロー飽和社会であり、競争が激しい中でヒーローとして生き残っていくには仕方がないとは思う。他者との比較は常にされている以上、いつかは羨望と嫉妬を乗り越えないといけない。

 しかし、それが高校に入ったばかりの鉄哲達に、すぐに乗り越えろというのも酷過ぎることも事実である。

 

「はぁ~……これも先達の役目ではあるが。どうしたもんか……」

 

 フォースカインドは顔を顰めて悩みながら、シャワーへと向かうのだった。

 

 

 

 

 コスチュームに着替えて、パトロールに出る鉄哲達。

 その顔はやはり険しく、雰囲気もピリピリしている。

 

 フォースカインドは2人を振り返る。

 

「おい、お前ら。もう少しその雰囲気どうにかしろ。そんな顔険しくしてたら、警戒態勢かと勘違いされるだろ。ただでさえ俺は強面で子供に評判悪いんだぞ」

「「……すいません」」

「……はぁ~……ちょっと休憩するぞ」

 

 フォースカインドは鉄哲達を連れて、コンビニに寄り飲み物を買う。

 そして駅前でベンチを見つけて座る。

 

「どうせ拳暴達が事件を経験して羨ましいとか思ってんだろ?」

「「っ!?」」

「安心しろ。俺も思ってる」

「「え!?」」

 

 フォースカインドの言葉に、鉄哲達は目を見開いて、フォースカインドを見る。

 

「当たり前だろ?まだ高校生のガキが、あんな大事件で活躍して称賛されてよ。『個性』だって、俺より半端なく強ぇ。羨ましいに決まってんだろ?」

「「……」」

「事件が起きるのは嫌だがな。やっぱ活躍出来るのは嬉しいもんさ。現場で働けば、尚更そう思っちまう」

「……けど」

「そんな自分がヒーローになれるかって?まだ仮免も取れてねぇ奴が決めつけんなよ。資格を取りに行くのはお前らだがな、お前らがヒーローにふさわしいか決めるのは教師や公安の連中で、資格を取った後にお前らがヒーローにふさわしいかを決めるのは一般人だ。それを待ってからでもいいだろ。本来ヒーローって言うのは、なりたくてなれるもんじゃねぇんだ」

「「……」」

 

 フォースカインドの言葉に、鉄哲達は考え込むように俯く。

 

「『個性』がありふれた社会で、その『個性』に依存し始めたからこそ、他人との差が明確になっちまった。運動能力や知識は時間がかかろうとも勉強すれば追いつけるかもしれねぇ。けど『個性』はそうはいかねぇ。俺達ヒーローは『個性』が最大の武器だからな。その差は嫌でも見せつけられる」

 

 フォースカインドの『個性』は《四本腕》。

 パワーが大きく上がるわけでもなく、炎や水を出せるわけではない。

 だからオールマイト、エンデヴァー、ホークスなどのトップヒーロー達の活躍が羨ましくなる。

 彼らのような活躍がしたくて、ヒーローになったのだから。

 

 だから鉄哲達の悩みもよく分かる。

 

「ただ覚えておけよ。ヒーローになったからには絶対に譲っちゃいけねぇもんがある」

「……譲ってはいけないもの?」

「それは自分で気づかねぇとな」

 

 フォースカインドの言葉に2人は再び考え始める。

 

「休憩は終わりだ!!パトロール再開するぞ!」

「「は、はい!!」」

 

 フォースカインドが立ち上がったのを見て、2人も慌てて水を飲み干して立ち上がるのだった。

 

 

 

 

 鉄哲達がパトロールを再開して1時間ほど経った時。

 

キキイィイ!!

ドガァン!!

 

「きゃあああ!?」

「うわぁ!?」

「誰かああ!?」

 

 少し先で大きな音が響き渡り、直後に悲鳴が聞こえてきた。

 

「行くぞ!!」

「「はい!!」」

 

 鉄哲達は走り出し、現場へと向かう。

 向かった先では、車がビルの壁に突っ込んでおり、その周囲には覆面をした男達がなにやら慌てていた。

 

「何で事故ってるんだよ!?」

「うるせぇな!パンクするような車用意するからだろうが!!」

「ケンカしてる場合か!!早く逃げねぇとヒーローに追いつかれるぞ!」

「早く荷物出せ!」

「ちくしょうが!!」

 

 どうやら強盗して逃走中に事故を起こしたようだ。

 

「お前らは周囲の人の避難誘導をしろ!!」

「「は、はい!!」」

 

 フォースカインドの指示に従って、鉄哲と切島は周囲の人の避難を手伝う。

 すると鉄哲は事故った車のすぐ近く、覆面をした大柄な男の背後に妊婦が蹲っているのを見つけた。

 足を押さえており、どうやら事故から逃げようとして、足首を挫いたようだ。

 

 それを見た鉄哲は考える前に駆け出す。

 

「お、おい!?鉄哲って、あれは!?くそっ!?」

 

 切島も遅れて妊婦を確認して、鉄哲の後を追う。

 フォースカインドもその動きに気づいて、覆面連中の注意を自分に向けるようにする。

 

「おらぁ!!ヒーローだ!!大人しくしろぉ!!」

「げっ!?」

「もう来たのか!?」

「くそっ!近くに居やがったのか!」

「ついてねぇなぁ!!」

 

ガァン!

 

「きゃ!?」

「あん?」

 

 フォースカインドの登場に慌てる覆面達。 

 大柄の男が苛立って車の扉を殴ると、後ろで悲鳴が聞こえた。

 男は後ろを振り向くと、妊婦が震えながら蹲っているのを見つけた。

 

「はっはぁ!ラッキー!!」

 

 男は歓喜の声を上げながら、妊婦に手を伸ばそうとする。

 妊婦は足を痛めているのと恐怖で、震えながら近づいてくる手を見つめていることしか出来なかった。

 

「させるかよおお!!」

 

 そこに鉄哲が滑り込むように、妊婦の前に立ち塞がる。

 

「あぁ?なんだぁ?このガキィ!!」

 

 鉄哲の登場に顔を顰めた男は、右腕を振り被る。

 鉄哲は構えて耐えようとすると、突如男の肘先が膨れあがり、巨大な腕に変化する。

 

「な!?」

「おらぁ!!」

「ぐぅ!?」

 

 鉄哲は目を見開きながらも、両脚で踏ん張り全身を鉄に変えて、男の攻撃を耐える。

 

「っつぅ!(拳藤と似た『個性』!けど、そこまでパワーはねぇ!)」

「ってぇ!?こいつ、鉄みてぇな体してやがる!?」

 

 大柄の男は顔を顰めて、右手を振る。

 鉄哲はその隙に取り押さえようとしたが、大柄の男が両腕を巨大化させて構えるのを見て、動きを止める。

 

「ヒーロー気取りのクソガキがぁ!!」

「ちぃ!」

「おらぁ!!」

「っとぉ!んどりゃ!」

「でぇ!?」

「切島ぁ!?」

 

 男が右腕を振り被った時、横から切島が男に殴りかかった。

 しかし、男は紙一重で躱して、左腕を振り切島を殴る。

 切島は《硬化》で防ぎ、鉄哲の横まで下がってくる。

 

「こいつも硬ぇな!?」

「馬鹿野郎!!あいつ殴る前に後ろの人連れてけよ!」

「わりぃ!つい!」

 

 鉄哲は切島に怒鳴るが、切島も顔を顰めて自省する。

 男は再び両腕を振り被り、2人に殴りかかる。

 

「クソガキ共が!!」

 

 男は連続で2人に殴りつける。

 鉄哲と切島は両腕で頭部を守りながら、耐え続ける。

 

「でっ!?くっそぉ!?」

「ぐぅ!?」

 

 2人は体を硬くしたまま、ただただ耐える。

 

(ぜってぇに倒れねぇぞ!後ろの人には指1本触れさせねぇ!!)

 

 鉄哲は攻撃を耐え続けながら、男を睨み続ける。

 

「くそっ!」

 

 フォースカインドは鉄哲達の元に向かおうとしたが、今度は覆面男達がフォースカインドの邪魔をし始めた。

 そこにようやく他のヒーローも駆けつける。

 

「追いついたぞ!!」

「げっ!?」

「おい!!人質取るなら急げよ!」

「そのガキ共でもいいじゃねぇか!!」

「わぁってる!このガキ共は大人しくさせねぇといけねぇんだよ!!」

 

 男は仲間の声に攻勢を強める。

 鉄哲と切島は歯を食いしばって、男の巨大な拳を耐え続ける。

 

「へばんじゃねぇぞ切島ぁ!!」

「ったりめぇだ鉄哲ぅ!!」

「このガキ共がぁ!!いい加減うざいんだよぉ!!」

 

 男は苛立ちに叫びながら両腕を振り被り、大きく踏み込んで2人の顔に叩きつける。

 

「「ぐべ!?」」

 

 鉄哲と切島は後ろに仰け反り、倒れそうになる。

 

(くっそぉ……!こんな奴にまで……勝てねぇのかよ……!?) 

 

 己の情けなさに心の中で苛立ちながら、鉄哲は背後の妊婦に目を向ける。

 目にしたのは、涙を流して両手を組んで鉄哲達を見つめていた妊婦の姿。

 それを見た瞬間、鉄哲の中で何かが湧き上がる。

 

『俺は手の届く誰かを確実に救える力を得るためだけに雄英に来た』

 

『ヒーローになったからには絶対に譲っちゃいけねぇものがある』

 

 その言葉が何故か頭の中に響く。

 しかし、それで鉄哲はようやくフォースカインドが伝えたかった事を理解する。

 

(拳暴に敗けるのはいい。他の連中に敗けるのもいい。けど……ヴィランにだけは敗けられねぇ!!)

 

 仲間に敗けるのはもちろん悔しいが、それはまた勝てるように努力すればいい。

 

 けど、ヴィラン退治に『次』はない。

 

 ここで倒れれば、後ろに妊婦が傷つく。そしてその傷は、一生消えることはない。

 

 それだけは許してはいけない。

 

 弱き者を傷つけないために、ヒーローは体を張っているのだから。

 

(俺は拳暴みたいなパワーはねぇ。巻空みたいな竜巻も、拳藤みたいな頭の回転の早さも、骨抜や取陰みたいな器用さもねぇ!!)

 

 自分には足りないモノばかりだ。

 

 己が誇れるのは『鉄の体』と『気合』のみ。

 

 鉄の体には限界はある。だから雄英に来た。

 

 では気合は?気合は……心は己次第だ。

 

 ならば答えは決まってる。

 

 

 心は絶対折らせない。

 

 

 己の心は砕かせない。

 

 体は『鉄』。

 

 ならば心は『鋼』よりも硬くしろ!

 

(俺は……倒れねぇ!!)

 

 鉄哲は足を後ろに下げて、踏ん張る。

 ふと、横を見ると切島は今にも倒れそうだった。

 

(俺だけじゃ駄目だ!!仲間も支えろ!!雄英生は限界を超えていく!!)

 

 鉄哲は歯を食いしばって、体に力を籠める。

 そして、

 

 

 右腕を切島の背中に伸ばして、切島の右肩を掴んで倒れるのを防ぐ。

 

 

「ぬううう!!」

「て……つてつ……!?」

「いい加減、倒れろやぁ!!」

 

 切島は鉄哲の行動に、朦朧としていた意識が戻って目を見開く。

 そこに男がトドメとばかりに右腕を振り、鉄哲の顔を殴る。

 

「ぐぅ!?」

 

 今度は鉄哲は耐えきれずに後ろに体が傾き始める。

 

 そこに切島が左腕を伸ばして、鉄哲の背中に腕を回して、鉄哲の左肩を掴む。

 

 そして鉄哲の体を押し上げて、倒れるのを防ぐ。

 

「気張れ鉄哲ぅ!!」

「おうよ切島ぁ!!」

 

 2人は肩を組んだ状態で、1歩だけ足を踏み出して前のめる。

 それを見た男は、2人の気迫に慄き、恐怖を振り払う様に巨大化した両腕を振り被る。

 

「こ、このヤローー!!?」

 

 その時、

 

バララ!!バララ!!

 

 銃撃のような音が響き、男の背中に衝撃が走る。

 

「いっでえ!?」

 

 男は突然の衝撃に腕が縮み、僅かに仰け反る。

 

「今だ!!鉄哲!!切島!!」

 

 2人の耳に聞き覚えのある声が届く。

 しかし、今は目の前の事に集中すべきと、すぐに思考を切り替える。

 

 

「「オォラアアアア!!!」」

 

 

 鉄哲と切島が同時に叫んで、肩を組んだまま駆け出し、男の腹部に頭突きを浴びせる。

 

「ずぉ!?」

 

 男は一瞬息が詰まり、後ろに下がる。

 

 そこに鉄哲と切島は、互いの肩から腕を放して、今まで溜め込んだものを爆発させたように拳の乱打を浴びせる。

 

「「オラオラオラオラオラオラオラァ!!!」」

「ぐえ!?が!?ぶ!?ご!?」

 

 《鉄》と《硬化》の拳の衝撃に、男はもはやされるがままとなる。

 

「レッドォライオットォ!!」

「リアルゥスティールゥ!!」

 

 互いのヒーロー名を叫んで、鉄哲は右腕を、切島は左腕を振り被る。

 そして同時に振り抜く。

 

「「オオォラアアァ!!!」」

 

 2人の渾身の拳が、男の鳩尾に突き刺さる。

 男はくの字に体を曲げて、そのまま呻きながら後ろに下がる。

 

「ごぉえ!?ご……おぉ……」

 

 そして男は背を丸めたまま前に倒れていき、尻を突き出した形で倒れ伏す。

 

「「よっっしゃあ!!!」」

 

 鉄哲と切島は大きく息を吐いて叫ぶ。  

 そしてガキィイン!!と音を響かせて、腕相撲をするように握手をする。

 

 しかし、そこにフォースカインドの怒責が飛ぶ。

 

「よっしゃあじゃねぇ!!先に男を取り押さえろ!!」

「「す、すいません!!」」

 

 2人は慌てて男の腕を捻り上げて、取り押さえる。

 そこにもう1人駆けつけてきて、男の捕縛を手伝い始める。

 鉄哲は駆けつけた者に目を見開く。

 

「鱗!?」

「おう!やったな、お前ら!!」

 

 現れたのは鱗だった。

 それで鉄哲達は先ほどの攻撃と声が誰なのかを理解する。

 

「さっきのはお前だったのか!すまねぇ!!助かったぜ!!」

「あんがとな!!」

「気にするなよ。間に合ってよかったぜ」

 

 鱗は2人の礼に笑いながら、男の捕縛を終える。

 鉄哲達は周囲を見ると、他の覆面男達もヒーロー達に押さえつけられていた。

 

 妊婦は大事を取って、救急車で病院に行くことになった。

 救急車に乗る直前まで、鉄哲と切島に何度も頭を下げて礼を言っていた。

 2人はそれがむず痒かったが、助けた人に礼を言われるのは達成感があって嬉しかった。 

 

 救急車を見送って、覆面男達も警察へ引き渡し終わる。

 鉄哲と切島は緊張が解けて、その場に座り込んでしまう。

 すると、2人の頭に拳骨が落ちてきた。

 

「「いでぇ!?」」

「馬鹿野郎共が!!無茶しやがって!!あそこは下手に耐えるより、離脱することを意識して動かねぇか!!」

「「は、はい!すいませんでした!!」」

 

 フォースカインドの叱責に2人は謝罪する。

 フォースカインドは大きくため息を吐いて、拳骨を解いて2人の頭をクシャリと撫でる。

 

「だがまぁ、よく耐えたじゃねぇか。立派なヒーローだったぜ。よくやったな」

「「っ!!お、押忍!!」」

 

 鉄哲と切島は思わず涙が流れそうになり、慌てて腕で目を拭う。

 その後、他のヒーローや警察からも褒められて、更に達成感を感じるのであった。

 

 

 

 その後、事務所に戻るために移動を開始する。

 鱗とは軽い挨拶をして、すぐに別れてしまったが、すぐに学校で会えるので特に気にならなかった。

 

「少しはすっきりしたか?」

「「はい!」」

 

 鉄哲と切島は清々しい表情で頷く。

 それにフォースカインドも笑みを浮かべて頷く。

 

「拳暴達を羨ましがっても、力が手に入るわけじゃねぇ。活躍を妬んでも、俺は馬鹿で弱ぇから、あいつらみてぇに活躍も出来ねぇっす」

「鉄哲……」

「……」

 

 鉄哲の言葉に切島は心配そうに見つめ、フォースカインドは黙って聞く。

 鉄哲は右手をグッ!と握り締める。

 

「だから、俺はまず絶対に譲れねぇことを決めて、それに対して出来ることを全力でやる!!」

 

 今回ならば妊婦を守ることだった。

 倒す力がないなら、体を張って守る。

 それが体が頑丈な自分に出来ることだった。

 

 今後もそうだ。

 敵を倒すために突入するなら、頑丈な自分が前に出る。

 誰かを守るためなら、頑丈な自分が体を張って壁になる。

 

 ただそれだけでよかったのだ。

 

「もちろん、これからもっと強くなって、勉強もする!!そんで出来ることをドンドン増やしていきゃあ、多くの人を守れる!!」

「そうだな!!頑張ろうぜ!!」

「おうよぉ!!」

 

 鉄哲の気合に、切島も右手を握り締める。

 2人の暑苦しさにフォースカインドは苦笑するが、内心では心地よく感じていた。

 

(現場に慣れちまうと、こういうのが一番羨ましくなっちまう。だから、若い奴に手を伸ばしたくなるんだろうなぁ)

 

 自分の限界を感じてしまったからこその羨望。

 才能とかではない。

 その元気さが羨ましくなるのだ。

 

「おら!まだ事件があるかもしれねぇ!!気を引き締めろ!!」

「「押忍!」」

 

 フォースカインドの言葉に鉄哲達は力強く頷く。

 

 こうして鉄哲は新たに気を引き締めて、ヒーローを志すのであった。

 

 

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