『拳』のヒーローアカデミア!   作:岡の夢部

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拳の三十 期末を目指して

 職場体験から帰って、翌日。

 休みはなく、戦慈達はいつも通り登校していた。

 

 教室に入ると、クラスメイト達が声を掛けてきた。

 

「拳暴、巻空!!無事で何よりだぜ!!」

「大変だったな」

「ん」

「ミルコのところでよかったね」

 

 荷物を置いた戦慈は肩を竦めて、里琴は無表情で親指を立てる。

 

「今回は誰も捕まえられなかったがな」

「……無念」

「しょうがないだろ。動画見たけど、前に拳暴が倒した連中とは桁違いだったぜ?」

「動画出てんのかよ……」

「そりゃ、あれだけ派手だとな」

 

 動画を見たと言う円場の言葉に、戦慈は仮面の下で眉間に皺を寄せる。

 泡瀬も見たようで、円場の隣で肩を竦めている。

 そこに物間も近づいてくる。

 

「僕も動画見たけど、拳暴って前の時よりキレてたよね?なにかあったのかい?」

「それ、俺も聞きたかったんだよ」

「更に体デカくなって、真っ赤になってたよな?」

「……私が殴り飛ばされた」

『あぁ……』

 

 物間の質問に、骨抜や回原も戦慈に声を掛ける。

 それに里琴が答えて、全員が納得の声を上げる。戦慈は不服そうに腕を組むが、事実なので特に否定はしなかった。

 

「けど、それでも倒し切れなかったのかよぉ」

「それねぇ」

「対オールマイトの改造人間って言ってたか?冗談じゃなくなってきてるよな。轟達はヒーロー殺しまで出たらしいし」

 

 鎌切が脳無の脅威に顔を顰めて、凡戸も頷く。

 鱗も腕を組んで悩まし気に唸り、A組の騒動について話題を変える。

 

「飯田君と緑谷君もいたそうだけど、よく無事だったと思うよ」

「そうですな。しかし、そちらはエンデヴァーが捕まえたので、もう大丈夫ではないですかな?」

「ん」

「またニュースではA組の方が注目されてるよね。あぁ、憎たらしい!」

「どこが?」

 

 庄田と宍田の言葉に唯も頷き、A組の話題に物間が謎の敵対心を出して、それを柳が冷静にツッコむ。

 一佳も物間を呆れながら見ており、更に騒ぎそうだったので、いつも通り手刀で黙らせた。

 

「物間も職場体験では少しは活躍したのにな。そこは変わらなかったか」

「そう簡単に性格が変わるものではないと思うよ」

「そういえば、他の皆は職場体験どうだったの?私は他の皆とは会わなかったけど」

 

 円場と庄田が気絶して席まで引きずられていく物間を、見送りながら呆れる。

 活躍と言う言葉に、切奈が反応して、職場体験について尋ねる。

 そしてそれぞれの体験発表会が始まる。

 

「俺は物間、鎌切、庄田とヴィラン団体の拠点に突入したぜ!まぁ、俺はほとんど自衛してただけで、それ以外はパトロールとトレーニングばっかだったけど」

「俺もだなぁ」

「僕もだね」

「俺も似た感じだな。拳藤と一緒に逃亡したヴィラン連中を捕縛するのが山場だったな。拳藤が拳暴の事件のせいで、焦ってたのが面白かったけど」

「う、うるさいな!」

 

 骨抜の暴露に一佳は顔を赤くする。

 それに切奈があることを思い出して、質問する。

 

「一佳ってウワバミのところだったよね?CM撮影とかなかったの?」

「……」

「……女優デビュー」

『マジで!?』

「してない!!ウワバミの後ろで、ちょこっと出ただけだ!!八百万もいた!!」

「出てんじゃん」

「放送いつ?」

 

 切奈の質問に一佳は黙り込んで誤魔化そうとしたが、里琴がすかさず暴露する。

 円場や泡瀬などが目を見開いて驚き、一佳は慌てて否定するが、それもすかさず切奈がぶった切る。

 柳も一佳に放送日がいつか尋ね、更に一佳が顔を赤くする。

 

 互いの経験について盛り上がっていたが予鈴が鳴り、全員はすぐに席に着く。

 予鈴が鳴った瞬間、物間もケロリと何事もなかったかのように起き上がる。

 

 そして、ブラドが教室に入ってくる。

 

「おはよう諸君!!一週間の職場体験ご苦労だったな!」

『おはようございます!』

「拳暴、巻空は無事で何よりだった。雄英でも事件の詳細は把握している。警察とも随時情報交換をしていくことになっているし、学校と生徒達の家周辺の警備も依頼してある。なので、何かあればすぐにヒーローが駆けつける体制は整えているので、お前達は学業に集中してほしい!」

 

 ブラドの言葉に頷くクラスメイト達。

 

「さて、お前達の次の目標は試験だ!中間試験は筆記のみだったが、7月頭の期末試験には演習試験がある!ここで体育祭や職場体験での経験や反省が成果に表れるぞ!今後のヒーロー基礎学で、試験までに納得出来る形に仕上げるように!」

 

 その言葉に気合を入れる鉄哲達。

 こうして、いつも通りの学校生活が始まった。

 

 

 

 職場体験を終えて、1週間が経過した。

 戦慈達は期末試験に向けて、意識を向けていた。

 

 今は昼休みで戦慈と女性陣はいつも通り揃って、食堂で昼食を食べていた。

 

「演習試験が分からないんだよねぇ」

「ん」

「1学期にやったことの総合的内容だそうですね」

「多すぎ」

「……ん」

「筆記も難しいデスネー」

 

 切奈が顔を顰めながらカツ丼を食べ、向かいに座っている唯は頷いてキツネそばを食べている。唯の隣で茨がビーフシチューとパンを食べ、その隣で柳が鯖定食を、茨の向かいでポニーが悩まし気に顔を顰めてながらナポリタンを食べている。

 里琴はポニーの横でカレーを食べており、その横で戦慈は黙々とメンチカツ定食を食べており、戦慈の向かいで一佳はラーメンを食べていた。

 

「一佳って先輩いなかったっけ?」

「いるけど?」

「聞けない?」

「聞けるだろうけど、同じかどうか分からないよ?」

「何も情報が無いよりはマシっしょ」

 

 切奈の言葉に、一佳はスマホを取り出して先輩にメールを送る。

 返信を待ちながら、一佳達は期末試験の話を続ける。

 

「演習も気になるけど、筆記も結構ウラメシい」

「コブンがわかりまセーン」

「ん」

「ヒーロー情報学も難しいですね」

「法律もあるしなぁ」

「……面倒」

「トップ集団が何言ってやがる……」

「ん」

 

 切奈は中間クラス2位。里琴は3位で、茨が4位。一佳は5位。

 戦慈は9位で、唯が7位、柳が11位、ポニーが13位だった。

 

 ちなみに1位は骨抜である。流石の推薦入学組であった。

 ポニーは国語の分野が足を引っ張っており、それ以外では十分な成績を出している。

 

 その時、一佳のスマホが震える。

 

「あ、返信来た」

「お!なんてなんて?」

「……ロボットとの実戦演習だったって」

「……今更ロボットか?」

「だよなぁ」

「ん」

「……余裕」

 

 メールの内容に全員が首を傾げる。

 入試と同じことを今更させられても簡単に決まっている。

 

「救助者がいる設定?」

「……そこは人によって違うらしいけど」

「だったら尚更よく分かんねぇな。救助者がいてもロボを倒せば終わりだろ?」

「ロボットの量が半端ないとか?」

「逃げればオッケーな試験とかあるの?」

「……変」

「ん」

 

 柳が首を傾げたまま推測を語り、一佳はもう一度メールの内容を見て補足する。

 それに戦慈も仮面の下で眉間に皺を寄せる。切奈も推測するが、それを柳がツッコんで、里琴と唯も頷く。

 戦慈達はそれは試験と言えるのかどうかと悩み続けるも、答えは出ずに昼休みが終わる。

 

 戦慈達は襲撃や職場体験で実戦をかなり経験しているので余裕ムードであるが、例年通りであるならば、そこまで実戦経験がある生徒などクラスに5人もいればいい方である。

 そのため、ロボットでの演習試験でも十分な難易度に設定出来ていたのである。

 しかも、本来なら1年の1学期はそこまで厳しくしないのが、教師達の中では暗黙の了解として存在していた。

 

 それを知っているのは、もちろん教師陣のみ。

 そして特にストイックで合理性を求めるA組担任の相澤が、両クラスの状況を見て、例年通りで終わらせる気がないことに気づかないのは仕方がないことであった。

 

 

 放課後。会議室にて。

 

 会議室にはヒーロー科の教師と校長が勢ぞろいしていた。

 

「急に集まってもらってすまなかったね」

「また何かありましたか?」

「いや、今日は皆に期末試験について話がしたくて、集まってもらったのさ!」

 

 校長の言葉に首を傾げる教師一同。

 するとミッドナイトが、校長の話を引き継ぐ。

 

「すでにご存じの通り、先日の職場体験で生徒数名が敵連合と接触。そして戦闘があったわ」

「保須に広島だな」

 

 スナイプの言葉に他の教師陣も顔を顰める。

 

「今回はあまりマスコミは騒がなかったけど、それは警察や体験を引き受けてくれたヒーロー達が生徒達の事を出来る限り隠してくれたおかげさ。でも、今後もそれが出来るとは限らない」

「……確かにそうですね」

 

 校長の言葉に、13号も渋々同意する。

 

「そして、これは2年生、3年生にも当てはまるわ」

「むしろインターンを行っている2,3年の方が気を付けなければいかんな」

「その通り。けど、だからって1年生を今まで通りで過ごさせるのも、違うと思っているのさ」

「そこで今年の1年生には、仮免試験を受けさせることを決定した」 

「マジで!?」

 

 相澤の言葉にプレゼントマイクが目を見開き、他の教員も僅かに目を見開く。

 さらにブラドが説明を続ける。

 

「今後もヴィランの活性化が予測される。もちろん未然に防げれば最善だが、今回のように我々だけでは手が届かない可能性がある。特に拳暴や巻空は明確にターゲットとして襲撃を受けている。今後1年、何もないと思うのは日和見に過ぎる」

「……確かに」

「なので、彼らにも自衛出来る術を与えるべきだと、我々担任は判断した。後3か月という短い時間で、出来る限り叩き込まなければならないので、決して簡単ではない。生徒達にはかなり負担を強いることになる」

「しかし、少なからずこの数か月見てきた限りでは、それに耐えられる生徒達であるとも思ってる」

 

 ブラドと相澤の生徒を信頼する言葉に、他の教師陣も笑みを浮かべて頷く。

 

「それで?期末試験もそれに合わせて、ハイレベルにすんのか?」

「正確には『生徒達に合わせた』レベルにする。実戦経験がある連中に、今更ロボットと戦わせたところで的確な評価は出来ん」

「夏休みの林間合宿。それまでに自身の課題を明確にさせたいと考えている」

「林間合宿では『個性』伸ばしがメインとなる。なので、『個性』を使った戦闘と立ち回りを意識できる試験にしたい」

 

 相澤とブラドの言葉に、プレゼントマイク達は納得したように頷く。

 

「なので、今回の演習試験は『対人戦闘』!生徒には2人1組になって、我々教師と戦ってもらうのさ!」

『!!』

 

 校長の提案に教師陣は目を見開く。

 1年の1学期期末試験にしては、かなり踏み込んだ内容となっている。

 

「我々担任が生徒達の情報をまとめ、ペアと対する教師を決めさせていただく」

「各クラス10人の教師で行う。そのため、2,3年やサポート科の教師にも手を貸してもらうことになる」

「なるほどな」

「なので、今年はA組、B組は日をずらして行う」

「後日、改めて集まって頂く。その時に、ペアと試験内容を伝える」

「と、いうことなのさ!!」

『了解です』

 

 その後はその他の連絡事項を伝えて、解散となった。

 

 相澤とブラドは早速行動に移し、組み合わせを考えていく。

 

 

 

 

 そして、時は流れ、6月最終週。

 期末まで一週間となり、戦慈達は各々追い詰められていた。

 といっても戦慈、里琴、一佳は筆記については、そこまで追い詰められてはいないが。

 

「拳暴って勉強してんだな」

「どういう意味だよ」

「いやぁ毎日時間がある限りトレーニングしてるイメージがあって……」

 

 泡瀬の言葉に戦慈は呆れるが、円場や回原は内心では同意していた。

 

「昔はともかく、今は適切なトレーニングじゃねぇと体が鍛えられねぇんだよ。《自己治癒》でな」

「あぁ……なるほど」

 

 戦慈の言葉に鱗や骨抜は納得な表情を浮かべる。

 根詰め過ぎても、ただ筋肉を傷つけるだけであり、変な付き方をしてしまう恐れがあるのだ。

 

「……暇なときはずっと教科書」

「マジで!?」

「そういえば、テレビとかなかったなぁ」

 

 里琴の暴露に円場が目を見開き、一佳も戦慈の部屋を思い出して呟く。

 それを聞いた切奈は、

 

「私は『なんで拳暴の部屋のこと知ってんの?』ってツッコむべき?」

「微妙」

「ん」

 

 切奈達は一佳が戦慈達の近所に住んでいるのは知っており、コーヒーをもらっているのも知っている。

 だから一度くらい部屋に上がってもおかしくはないと思っている。

 里琴も戦慈の部屋に入り浸っているのは、言うまでもないという認識であり、里琴を尋ねるならば自動的に戦慈の家になるとも理解している。

 ということで、一佳の呟きはスルーされた。

 

 その後、食堂に移動する戦慈達。

 すると緑谷達を発見し、期末の演習試験について話しているのが聞こえた。

 そこに物間がゆらりと近づき、緑谷の頭を肘で小突いた。

 

「君らヒーロー殺しに遭遇したんだってね。また注目を浴びる要素ばかり増えていくよね。ただ君達の注目って拳暴と違って、期待って言うよりトラブルメーカー的なものだよね」

「っ!」

 

 物間の言葉に緑谷の顔が少し強張る。

 それを見た一佳達はゆっくりと物間の背後に近づいて行く。

 

「あー怖い!いつか君達が呼ぶトラブルに僕達もまきこまれるかもしれなフッ!?」

「シャレにならん。飯田の件知らないの?」

 

 調子を上げた物間が嫌らしい笑みを浮かべながら、まくし立て始める。

 そこに一佳が背後から手刀を叩き込んで、黙らせる。その時、物間が持っていたトレイもさりげなく回収して里琴に渡し、それを里琴は返却棚に持っていく。

 

「……そこまでしなくてもいいだろうが」

「……裁きを」

「なんの?」

「ん」

「もったいないよ」

 

 戦慈達が里琴の行動に呆れている。

 その後ろで物間を吊り下げたままの一佳が、緑谷達に謝罪する。

 

「ごめんなA組。こいつちょっと心がアレなんだよ」

「拳藤くん!それに拳暴くん達も!」

「あ、拳暴君」

「おう。無事みてぇだな」

「そっちも大変だったね」

「まぁな」

 

 戦慈は緑谷の言葉に肩を竦めて答える。

 

「あんたらさ、さっき期末の演習試験、不透明とか言ってたね」

「え?」

「入試と同じロボットとの実戦演習らしいよ」

「え?本当!?何で知ってるの!?」

「私、先輩いるからさ。聞いた。ちょっとズルだけど」 

 

 一佳の言葉に緑谷や飯田達は目を見開く。

 

「ズルじゃないよ。……そうだ、きっと前情報の収集も試験の一環に織り込まれていたんだ。何で気づかなかったんだろう?……」

 

 緑谷は突如、ぶつぶつと独り言を呟きながら思考に耽る。

 その異様さに一佳は後退るが、そこに戦慈が緑谷の頭に張り手を浴びせる。

 

「怖ぇよ」

「アイタ!?ご、ごめん……」

「飯田達の様子を見る感じだと、コイツよくこうなんのか?」

『なる』

「……癖で」

 

 戦慈の質問に飯田や麗日は力強く頷く。

 それに緑谷は顔を赤くしながら俯き、戦慈や切奈は呆れたように緑谷を見る。

 

「せめて人前でやんなよ」

「無意識だから無理だと思うわ」

「気味悪いのは物間だけでいいんだよ」

『そうそう』

「頷かれてる!?」

 

 戦慈のツッコミに蛙吹が答え、それに戦慈は物間を見下ろしながら更にツッコむ。

 戦慈の物間を蹴落とす発言に同意する里琴、切奈、唯、柳。

 それに緑谷は戦慄し、同類扱いされることに少しだけショックを受ける。

 

 戦慈は一佳から物間を渡されながら、緑谷を見る。

 

「力の使い方は少しは馴染んだかよ」

「え!?あ、うん。けど、ヒーロー殺し相手でもパワーが足りなくて、最後は少しコントロールがブレちゃったけど……」

「まぁ、体育祭の最後の攻撃の感じだと、半分も引き出せてなさそうだったしな」

 

 半分どころか5%程度しか引き出せないのだが。

 緑谷の『個性』を把握していない戦慈には、そこまでは分からない。

 それに緑谷は誤魔化すように笑う。『個性』の詳細を話せないので、こうするしか思い浮かばなかった。

 

 その間、轟は我関せずと蕎麦を啜っていたが、誰もツッコむことはなかった。

 

 その後、戦慈は物間を食堂の外に放置して、昼食を摂る。

 

「なんで物間はあそこまで煽るんだ?」

「知るかよ」

「……面倒」

「ん」

「あそこまで心が荒んでしまっては、私の愛では救えないかもしれません。無力な己が情けないです」

「いやいや、茨。あれは物間が凄すぎるだけだよ」

「ウラメシい」

「ケンカはだめデス!」

 

 放置してきた物間の話題になる。

 一佳は委員長ということもあって、物間がA組にケンカを売るのをやめさせたいという思いもある。

 もちろん戦慈達に答えられるわけはない。茨が何故か手を組んで無力感に打ちのめされていたが。

 

「A組がトラブルメーカーって、拳暴も十分トラブルメーカーじゃない?」

「俺って言うか、オールマイトだろ?オールマイトを倒すために、連中は動いてんだからよ」

「……面倒」

「ん」

「まぁ、里琴が一番とばっちりだよな」

 

 戦慈は切奈の言葉に顔を顰めながら、とんかつ定食を頬張る。

 その隣で里琴も無表情で不機嫌オーラを噴き出しながらボヤき、それに唯と一佳が同情する。

 戦慈と里琴は襲われているだけなので、実際トラブルメーカーと言われても不本意である。

 特に里琴は戦慈と共にいるから、巻き込まれただけである。

 

 その後、午後の授業では筋トレメインで終わり、下校となる。

 

 鉄哲や骨抜達は勉強会をするそうで、ファミレスに行くらしい。

 戦慈も誘われたが、里琴と一佳に女性側の勉強会に連れていかれた。

 

「お前らは別に勉強会なんざいらねぇだろ」

「分かんないところだってあるんだ」

「……教えろ」

 

 戦慈は顔を顰めながら、食堂に顔を出す。

 女性陣は食堂で勉強会をするようだ。

 

「拳暴って物理得意だっけ?」

「まぁ、文系よりかは出来る」

「誰かコブンリッスンプリーズ!」

「私が教えるよ」

 

 なんだかんだで互いに教え合う戦慈達。

 ポニーは国語で悪戦苦闘しており、唸りながら教科書とにらめっこしている。それを一佳や茨が丁寧に教えていく。

 しかし英語になれば、ポニーが教師となってイキイキとしながら、滑らかな発音で教える。

 下校時間になるころには、互いの苦手なところは教え終わっていた。

 

「今頃、骨抜は四苦八苦してそうだね」

「宍田や鱗もいるし、大丈夫だろ」

「鉄哲や円場は追い込まれてるみてぇだな」

「鉄哲はトレーニングに力入れすぎ。円場は単純に気を抜きすぎ」

「ん」

「筆記でも赤点出せば補習なんだけどねぇ」

「あいつらなら気合でなんとかするだろうさ」

「……気合だー」

 

 下校しながら、男子陣のことを考える。

 鉄哲は演習試験に気合を入れすぎて、気づいた時には筆記で周囲より遅れていることに気づいた。円場は単純にギリギリでも間に合うだろと思っていたら、もう時間が無かったので今更ながらに焦っていた。

 そこに骨抜や宍田が手を伸ばしたのだ。他にも泡瀬や鎌切が地味に追い込まれていたようで、それに便乗した。

 

「林間合宿か。何するんだろうな?」

「想像しても無駄だろ。プルスウルトラとか言って、恐ろしい事無茶振りするに決まってる」

「……苦痛」

「ありそう」

「ん」

「てか、そうなるよね。もはや」

 

 一佳は夏休みの林間合宿について思いを寄せ、それに戦慈が思いっきり冷や水を浴びせる。

 それに里琴も無表情で唸り、柳と唯、切奈も同意する。

 その反応に一佳も顔を歪め、茨やポニーも不安な表情を浮かべる。

 

「まず林間合宿の目的がはっきりしてねぇしな」

「だよね。合宿って言うからには、演習的なものもあるんだろうけどさ」

 

 未だに何も詳細を伝えられていない。

 それがただただ不安を煽るのである。

 

「まぁ、まずは期末をクリアしないとな!」

「……頑張れない」

「赤点取っても取らなくても地獄が待ってそう」

「ん」

 

 一佳が無理矢理気合を入れるが、今度は里琴、柳、唯が冷や水を浴びせる。

 それに一佳はガクリと肩を落とす。

 切奈やポニーが苦笑しながら、一佳を慰める。

 戦慈は集団の先頭で、我関せずと歩き続けるのだった。

 

 

 

 

 会議室。

 

「以上が俺が考えたペアと対戦教師です」

 

 ブラドが会議室にいる教師達に、説明を終える。

 

「いいんじゃないかな」

 

 校長が頷き、他の教師陣も頷く。

 

「では、お願いします」

 

 そして解散となり、会議室を出ていく教師達。

 

 その中に金髪で骸骨のような顔をした男がいた。

 

 男は渡された資料を見て、僅かに顔を顰める。

 

「……緑谷少年と爆豪少年。この2人が組まされるとはね。本当に相澤君は生徒をよく見てるよ」

 

 オールマイトは相澤の観察眼に呆れ笑いしか出来なかった。

 そしてもう1枚の資料も取り出す。

 

「……そして、彼もか。彼とは結局深く話したことはないな……。広島の事件についても塚内君から聞いてはいるけど。実際、彼の実力を肌で感じたことはないからな」

 

 オールマイトは、少し高揚感を感じていた。

 僅かに笑みを浮かべて、相手を思い浮かべる。

 

 

「楽しみにさせてもらうよ。拳暴少年……!」

 

 

 そして戦慈達は期末試験を迎える。 

 

 




ここを逃すとオールマイトが引退してしまう(-_-;)
まさか、ここまでオールマイトと関わらないとは。

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