試験3組目。
骨抜と庄田はステージに入り、所定位置を目指していた。
「僕はどう動くべきかな?」
「そうだなぁ。セメントス先生の対処は俺じゃないと無理だもんな。けど、俺1人だと完璧には抑え切れないから……」
「確保が流れになるかな?」
「そうだな。問題はどうセメントス先生に近づくかってことなんだよなぁ」
位置に着いた2人は腕を組んで唸る。
その時、
『庄田・骨抜チーム 演習試験レディ・ゴー!』
試験がスタートしてしまう。
それに骨抜はしゃがみ込んで、地面を一部柔らかくして拳大の団子状に固め直して、庄田に渡す。
「骨抜?」
「投げるだけでも牽制にはなるだろ。それに《ツインインパクト》を合わせれば、隠れて投げたりすれば撹乱にもなるだろうしな」
「分かった」
庄田は固め直されたコンクリートを受け取って、腰のポーチに仕舞う。
「どうする?二手に別れるかい?」
「……いや、先生を見つけるまでは一緒に動こうぜ。多分、ゲート近くの見渡せる場所にいるはずだしな」
「了解」
2人は駆け出してゲートを目指す。
試験前。
「庄田は身体能力もあるし、判断力もある。しかし『個性』の性質上、やはり遠距離戦闘では一歩劣ってしまう。特に骨抜や塩崎のように拘束も出来る『個性』相手にどう動くか、どう役割を見つけるかが課題となる」
「それで俺ですか」
「そうだ。そして骨抜。推薦入学と言うこともあり、頭の回転も早く、『個性』の使い方もよく考えられている。『個性』も強力で、コントロールもよく出来ている。なので、骨抜も己の『個性』と相性が悪い相手に対してどう動くか、同じく相手と相性が悪いペアとどう動くかが課題となる」
ブラドの言葉にセメントスは頷く。
骨抜と庄田は大通りを走る。
「路地には入らなくていいかな?」
「先に見つけられたら、一瞬で周りの建物が向こうの武器だ。そうなると俺の『個性』じゃ防ぎきれないかもしれない。相性は悪いしな」
骨抜の『個性』《柔化》は柔らかくするだけだ。
セメントを操るセメントスの『個性』には一歩及ばない。柔らかくしても、また操られたら意味はないからだ。更に柔らかくされた物を柔らかくしても意味はない。
「まずは見つけないと駄目だな。じゃないと二手に別れても、各個撃破されちまう。向こうはヴィランなんだ。被害なんて気にしない」
骨抜の言葉に庄田は納得するように頷く。
そして、大通りを進むと、
「っ!!いた!」
「堂々と立ってやがるな」
セメントスは大通りのど真ん中に立って、2人を見つめていた。
「来たね。二手に別れるかと思っていたけど、やはり俺の『個性』を警戒したか」
セメントスはしゃがんで地面に手を付ける。
それを見た骨抜は、
「先手必勝!!」
一気にセメントスの足場までを柔らかくして、セメントスを地面に沈みこませる。
「上手くいってくれよ!」
そこに庄田が骨抜から渡されたセメントの塊を取り出し、軽く殴りつけてからセメントスに向かって投げつける。
セメントスは沈み込んだ両手で『個性』を発動して、真下のセメントを固めて柱のようにして、せり出させて地面から抜け出す。それと同時に骨抜と庄田の周囲に壁を生やし始める。
庄田が投げた玉は、セメントスの左側を抜けようとしていた。
「頼むぞ!《ツインインパクト》ファイア!!」
パァン!と音を立てて、玉は左後ろ斜めに弾かれるように軌道を変え、セメントスの目の前を飛んでいく。
それを見た庄田は壁の隙間から連続でセメントスに向かってコンクリートの玉を投げる。
「それは少しギャンブルが過ぎないかい?」
セメントスは自分の目の前に壁を生み出して、玉を防ぐ。
その隙に骨抜は周囲の壁に触れて回り、柔らかくして崩していく。更に崩した小さな塊に触れて硬くして、庄田の玉をドンドン補給する。
「セメントスの周囲に投げ続けてくれ!!『個性』は発動せず、スタンバイで!!」
「分かった!!」
庄田は殴りつけては投げ、殴りつけては投げるを繰り返す。
セメントスは場所を変わりながら地面を操り、庄田と骨抜を取り囲んで飲み込もうとする。
骨抜はせり上がった壁を崩し続けて、常に逃げ道を確保する。
(キリがねぇな!やっぱり俺が一歩遅れる!けど、こうしていれば先生は壁を作り続けるしかねぇ!それに先生は俺が崩したセメントまでは、すぐには利用できないはず!流石に見えねぇところまでは操れねぇだろ!だから……!)
骨抜は壁を崩しながらも、地面を柔らかくしてセメントスを沈め込ませようと狙う。
そして庄田が10個近く投げつけたのを確認したところで叫ぶ。
「解放!!」
「《ツインインパクト》ファイア!!」
庄田が発動した瞬間、セメントスの周囲に転がっていた玉が四方八方に弾き飛ぶ。
無規則に飛び舞うコンクリートの塊の幾つがセメントスに迫り、流石に回避と防御に集中せざるを得ない。その間にも上から玉が降って来ていて、セメントスは地面から手を放して動いて回避する。
「くっ!これが狙いですか!」
セメントスは顔を顰めて、すぐに両手を地面に着けて『個性』を発動する。
そして再び2人がいた場所を取り囲むようにドーム状の壁を作る。しかし、今度は全く反撃が無かった。
「っ!?さっきの庄田君の乱射のときか!!」
セメントスは左右の路地に壁を作り出して塞ぎ、奇襲に備える。
その時、再びセメントスの足元が柔らかくなり体が沈む。
「ぐ!?」
セメントスはすぐに柱を作って逃げ出そうとするが、すぐに柔らかくなって、また体が沈む。
「まさか地面の中に!?」
骨抜のコスチュームには酸素ボンベが備え付けられている。
と言っても、地面の中なので全く前は見えない。そのため、ハンドカフスを付ける余裕もなく、ただただ『個性』を使いまくって、セメントスの行動を阻害し続ける。
セメントスは全力で『個性』を発動して、一帯の地面を盛り上げる。
すると、骨抜も押し流されるように地面の中から姿を現す。
「やっぱ向こうが上か……!」
「そう簡単には敗けられないよ」
「けど……十分稼いだだろ」
「なんだって?」
『庄田・骨抜チーム 条件達成!』
セメントスが骨抜の言葉に眉を顰めていると、アナウンスが響く。
「……庄田君か。なるほど。あの隙にゲートに向かわせていたのか」
「そう言うことですね」
セメントスの言葉に骨抜が頷く。
庄田は路地裏を走り抜けて、ゲートを目指していたのだ。
「少し力技だったけど、達成は達成だ。それに俺も止めきれなかったしね」
「どうもっす」
こうして骨抜と庄田は無事に合格した。
モニタールームでも鉄哲と泡瀬が盛り上がっていた。
「よっしゃあ!!」
「流石だぜ、骨抜!!」
切奈は少し呆れるように苦笑する。
「少し危なっかしかったねぇ」
「まぁ、相手がセメントスなら仕方がねぇだろ。硬くするのも柔らかくするのも出来んだしな。セメントがある限り、制限がねぇみてぇだしな」
「……卑怯」
「ん」
「さて、次は一佳だね」
戦慈が肩を竦めて、里琴と唯も同意する。
そして、切奈が一佳の名前を上げると、里琴が翻して出口へ向かう。
一佳達の次はいよいよ里琴の試験である。
「里琴、ちゃんと物間の奴と連携しろよ」
「……ん」
戦慈が声を掛けると、里琴は頷いて部屋を後にする。
「不安だねぇ」
「ん」
「絶対ケンカすると思う」
「流石ァにテストでそこまァでは……」
「あの2人だよ?」
切奈達も里琴と物間のチームに不安を覚える。
「まぁ、赤点になった方がいい薬になるかもな」
戦慈は肩を竦める。それに切奈達も内心同意するが、流石に頷いたりはしなかった。
モニターには一佳と鎌切がステージに現れていた。
ステージは工事現場。土の地面でゲートまでは見通すことが出来る。しかし、パワーローダーの姿はどこにもなかった。
「これはちょっと厳しそうだね」
「遮蔽物も何もないね」
「しかし、パワーローダー先生はどこにいるのでしょうか?」
切奈、柳は一佳達の苦戦を予想する。そして茨はパワーローダーの姿が見えないことに首を傾げる。
戦慈は予想は付いていたが、試験が始まればすぐに分かるだろうと思って、特に声を上げなかった。
『鎌切・拳藤チーム 演習試験レディ・ゴー!』
そして、一佳の試験が始まった。
一佳と鎌切はステージを眺めて、眉間に皺を寄せていた。
「確実に地面の中だよなぁ?」
「だろうな。問題は地中からでも場所が分かるのかってことだけど……」
一佳は話しながら足元に転がっている石を手に取って、ステージの真ん中目掛けて投げる。
石が地面に落ちた瞬間、土埃が高く舞い上がり、地面に穴が開く。
「音もバッチリ把握している、か」
「けど、今の見えなかったぜ?」
「だなぁ。かなりの速さとパワーみたいだ。それにパワーローダー先生はサポート科も兼任してる。もしかしたら何かアイテムを使用してるかもな。この学校の建築関係もパワーローダー先生が担当しているし」
一佳は顎に手を当てて、作戦を考える。
パワーローダーの『個性』は《鉄爪》。
それだけであそこまでのパワーは出ないと考える。なので、やはり何かしらサポートアイテムを使用している可能性が高い。
恐らく地面の上の音を察知しているのも、そのアイテムによるものだろう。
あと把握したいのは、地中での移動速度と音の判別精度。方法は思いついているが、成功しても失敗しても使えるのは一度きりと考えるべき程度のものだと一佳は考える。
更に嫌な予感がするのは。
「普通に見える地面でも、実際は下が空洞の可能性があるんだよな」
「落とし穴ってことか?」
「ああ。穴を掘れるんだ。それくらいお手の物だろうな。だから迂闊に進めない」
「それじゃあ、どうするんだよ?」
「時間をかけても捕獲をメインに動くべきだね。もちろん隙が見つかれば、ゲートに飛び込むけどな!」
一佳はニィ!と笑いながら、方針を語る。それに鎌切をニィ!と笑って頷く。
そして2人は行動を始める。
2人は大量の石をかき集めて、その石を一佳が両手を巨大化して乗せる。
一佳はまず右手に乗せた石達をステージに向かって、全力で撒き散らすように投げる。直後、左手の石達も投げる。
地面に落ちた石に反応して、また土埃が舞い上がり、また別の場所で土埃が舞い上がる。土埃が舞い上がった場所の地面は陥没して、穴が開く。
直後、穴が開いた間の地面も所々崩れていく。
「やっぱり地下は穴だらけみたいだな!鎌切、次の石と一緒に投げるよ!」
「了解ぃ!!」
一佳は再び左手に石を乗せて、右手には鎌切を乗せる。
「穴が開いた場所に!!そこなら落とし穴はない!!でも、攻撃には気を付けろ!」
「わぁってんよ!!」
一佳は左手の石を投げて、少し間を開けてから鎌切を放り投げる。
今度は石が落ちた場所に穴が開くことはなかった。
鎌切はすでに穴が開いた場所に落ちたが、そっちにも攻撃はなかった。
「流石に気付かれたよな。……ちょっと仕掛けるか」
一佳は駆け出して、まだ無事な地面に足を踏み入れる。
すると一佳の足元が崩れて、穴が開く。
一佳は右手を巨大化して、縁に捕まって体を引き上げる。
「穴ばっかりか。ゲート前で待ち伏せしてるかもしれないな……」
一佳は鎌切に目を向けると、壁に刃を突き刺して登り始めていた。
背後の穴に目を向けると、深さは5m近くあった。
「私は落ちたら登れそうにないな。けど、進まないと鎌切のフォローも出来ない。一度合流するか?」
一佳は壁をよじ登った鎌切に手を振って、進んだ先に置かれている重機を指差す。
頷いた鎌切は重機を目指して走り出した。
一佳も合流を目指して、移動を開始する。
ある程度進む度に一佳は巨大化した手で地面を叩いて、落とし穴がないかを確認する。地面が揺れていないかも確認しながら、出来る限り音を出さずに進み続ける。時々、大きめの石を穴が開いていない地面に投げて、撹乱することも忘れない。あまり効果はないと思うが。
(今までの試験から考えれば……地面に潜った、つまり手が出せない相手に対して、どう対処するかってのが課題のはず)
どのように引っ張り出すか、どのように攻撃するか、どのように逃げるか。
恐らく一佳に求められてるのは『少ない手段でどう戦略を組み立てるか』と『地中への敵の対処』というところだろう。鎌切は『不安定な足場での戦闘』と『地中への敵への対処』が課題だと一佳は予測する。
(『個性』を考えると、私より鎌切の方がパワーローダー先生に攻撃が届く可能性がある。けど、時間もあと半分くらいだ。逃走も考えないとな)
自分の役目を確認した一佳は、作戦を考えながら重機に到着する。
重機は丁度ステージの真ん中にある。その横に大きめの岩があり、その上に鎌切がしゃがんでいた。
「襲われなかったみたいだな」
「ああ。やっぱ待ち伏せてやがるなぁ」
「だな」
一佳は腕を組んで、周囲を見渡す。
「拳藤。この重機を押したり、投げたり出来ねぇのか?」
「押すことは出来るかもだけど……落ちたら終わりだぞ」
「だよなぁ。これならパワーローダーでも、そう簡単には砕けねぇと思ったんだけどなぁ」
鎌切の言葉に、一佳はふとあることを思い浮かんで、もう一度周囲を見渡す。
そして、目的の物を複数確認できた一佳は、顎に手を当てて考え込む。
「これなら行けるか……?」
「何かあるなら試そうぜ。時間もねぇ」
「……そうだな。やろう」
一佳は頷いて、作戦を説明する。
それを聞いた鎌切はニイィ!と悪人にしか見えない笑みを浮かべる。
「面白れぇじゃねぇか。それなら俺もパワーローダーを斬れるぅ」
「斬るなよ」
冗談を交わしながら準備をする2人。
モニタールームでは切奈達がハラハラしながら見ていた。
「もう後10分もないよ……!?」
「ハリィアー!!」
「諦めてはいけません……!」
「けんどー!!鎌切ー!!」
切奈がソワソワと焦り、ポニーが叫び、茨も両手を組んで応援する。
その横で鉄哲が両腕を掲げて叫ぶ。
戦慈は腕を組んだまま、モニターを見つめる。
「……問題なさそうだな」
「ん?」
「そう?」
戦慈の言葉に唯と柳が首を傾げる。
戦慈は肩を竦めて、唯達に顔を向ける。
「動きに迷いがないしな」
「迷いがないって言っても、デカい岩を2つも重機の上に置いただけだぞ?」
泡瀬が首を傾げながら、モニターを見る。
モニターには一佳が背丈と同じくらい大きな岩を両手で抱えて、重機の上に2つ並べていた。
それに切奈達も首を傾げる。
「あれが全てだろ」
『え?』
戦慈は一佳達の作戦内容に気付いているようだ。
それに切奈達も改めて考えるが、やはり思いつかなかった。
しかし、すぐに目に映った光景に唖然とすることになるのだった。
一佳は重機の上に並べた岩2つを眺めて頷く。
「よし!!行くぞ!!」
「おうよぉ!!」
一佳は巨大化した両手で岩の1つを掴んで、思いっきり腕を振り上げて、ゲートに体を向ける。
「おぉりゃあああ!!!」
そして全力で岩を投げる。
直後、もう1つの岩を掴んで、同じく振り被る。それになんと鎌切が飛びついて手足から刃を生やして岩に突き刺して固定する。
「おおぉりゃああああ!!!」
一佳は身体を投げ出す勢いで両腕を振り、鎌切ごと岩を投げる。
鎌切が乗った岩はまっすぐにゲートへと向かって飛んでいく。
その時、ゲート前の地面からパワーローダーが飛び出して、1つ目の岩を砕いた。
「くけ!?岩だけ!?」
目を見開いたパワーローダーは、もう1つ岩が迫ってくることに気づき、それに鎌切が乗っているのを目にする。
鎌切は両手を岩から離して、手首から刃を生やす。
「けひゃひゃひゃ!!斬り刻んでやるぜぇ!!」
ハイテンションで叫びながら、鎌切が構える。
パワーローダーは一度地面に降りて、もう一度跳び上がる。
鎌切は踏み込んで、岩をパワーローダーに向けて蹴り落とす。
パワーローダーは岩を背中のマシンで砕くが、その瞬間に鎌切が腕を振り、マシンの腕を斬り飛ばす。
「ひゃっはぁ!!」
鎌切は体を回転させながら勢いを維持して、そのままゲートに飛び込んだ。
『鎌切・拳藤チーム 条件達成!』
アナウンスが響き、一佳は大きく息を吐く。
「ふぅ~。何とかなったか」
「くけけ!まぁ、少し強引だけど、手段が少ない中でよくやったよ」
「ありがとうございます」
一佳はパワーローダーにゲートまで運ばれながら、内心では顔を顰めていた。
(もう少し手がなかったのか……。確かに力技過ぎたよなぁ)
制限時間がある中ではアレが精一杯だったとは思う。
しかし、合格したからと満足は出来なかった。
「やっぱり、もっと色々考えないとな」
「次でようやく半分だなぁ」
「あ!?里琴!!」
鎌切の言葉で、次は里琴の試合であることを思い出した一佳は、走ってモニタールームに向かう。鎌切も試験を終えたのと里琴の試験が気になり、一佳の後ろに付いていくことにした。
期末試験はようやく折り返しを迎えようとしていた。