切奈達の試験が始まろうとしていたところに、唯と泡瀬がモニタールームに入ってきた。
その後ろからは宍田に円場、鱗も現れる。
「お、宍田。耳は大丈夫なのか?」
「リカバリーガールに治療してもらったので大丈夫ですぞ」
「よかったぜ」
骨抜の言葉に宍田が頷き、鎌切も安心したように頷く。
その横では一佳とポニーが唯とハイタッチをしていた。
「お疲れ、唯!凄かったよ!」
「ん」
「……ん」
唯と里琴はグッ!と親指を立てる。
そして唯は戦慈にも顔を向ける。
「ん」
「あ?……まぁ、今の実力からすれば、いい戦い方は出来たんじゃねぇか?瓦礫もうまく利用できてたしな」
「ん」
戦慈の言葉に頷く唯。そしてモニターに顔を向けるが、その顔はいつもの無表情っぽかったが、小さく満足感のようなものが浮かんでいた。
それに誰も気づくことはなく、他の者達もモニターに顔を向けていた。
そこには、採掘現場とみられるステージに切奈と回原が足を踏み入れている姿が映っていた。
「相手はミッドナイト先生か……」
「ん」
「《眠り香》だっけか。近接タイプの回原には不利だよな」
「取陰が遠距離からの攻撃で隙を作って、回原がゲートに飛び込むのが理想か」
一佳が腕を組んで眉を顰めて、唯が頷く。
その横で泡瀬も腕を組みながら唸り、骨抜が作戦を推測する。
「けど、取陰が体をバラバラにして、一気に行けるんじゃないか?」
「流石に体のパーツだけゲートを抜けても駄目だろ。少なくとも上半身が抜けないと脱出したとは言えなくね?」
「そうなると流石にミッドナイトも妨害してくるだろ。《眠り香》の範囲が分からねぇから、何とも言えねぇが」
鱗が首を傾げながら疑問を呈する。それに骨抜と戦慈が否定的な意見を出す。
「取陰さんは空中に浮かぶことが出来るし、口と鼻を分離させることも出来る。ステージ的には取陰さんが有利だな」
「っていうか、取陰に不利なフィールドが逆に少ない。最初の戦闘訓練みたいに狭い屋内でもない限り、取陰を押さえ切るのは難しいだろ」
庄田の言葉に再び骨抜が声を上げる。
「あの2人の場合は、回原がどう動くか、取陰がどうサポートするかってことだな」
戦慈の纏める言葉に一佳達も頷く。
『回原・取陰チーム 演習試験レディ・ゴー!』
そして試験がスタートした。
切奈と回原はとりあえずゲートに向かって走り出す。
「見渡しがいいかと思ったけど、思ったより隠れる場所あるな」
「だね。これじゃあ逆に体切り離しても目立っちゃうな」
周囲は荒野のように開けているが、所々に人一人が隠れられそうな岩がある。
ミッドナイトの場合は先に見つけないと、香りを放出されたら一瞬で全滅する可能性がある。
「隠れてそうな場所は迂回してでも避けるべきだね」
「だな。可能性が高いのはゲート前だけど……」
「それは間違いないと思う。けど、風の流れによっては出向いてくるかも」
今は風上にいる。
なのでそう簡単には切奈達まで香りが飛んでくることはないが、一瞬でも風の流れが変わればどうなるか分からない。
「ミッドナイト先生の効果範囲が分からないのがなぁ。分かってるのは肌が露出すればするほど効果が上がることと、女より男の方が効くってことだけ」
「俺が息を止めて殴りかかっても危険か?」
「回原の《旋回》は気を付けるべきかも。その指とか体に巻いてる奴って硬いから抉れるんでしょ?」
「そうだな」
「だから下手すると、ミッドナイト先生のタイツ破りまくりそうなんだよね。そうなると『個性』もヤバくなるし、回原がセクハラで捕まっちゃう」
「……マジか」
「まぁ、ミッドナイト先生の裸見たいならいいかもだけどね。元々露出狂っぽいから訴えられることはなさそうだし」
切奈はケラケラと笑いながら回原を見る。
回原は顔を赤くしながら否定する。
「勘弁してくれ!そうなると今後の学生生活が終わる」
「だろうね。だから回原のアタックはギリギリまで我慢して貰うしかない」
切奈は苦笑しながら、方針を決めていく。
回原も頷いて、周囲を警戒しながら進んでいく。
そして、ゲートが見え始めたところで切奈が足を止める。
「どうしたんだ?」
「流石にそろそろ迂回するにも限界だしね。居場所を把握したいなって」
切奈は回原に説明しながら体を切り離していく。
そして両目だけを上空に飛ばして、観察に向かう。口元以外の肉片も地面を滑るように移動を始めて、あっという間にステージに散っていく。
それを見送った回原は、
「本当にトカゲみたいな動きするなぁ……」
「どっこかな~♪どっこかな~♪」
「……口だけ浮いて、しかも話すって怖いな。って言うか、どうやって声出るんだ?肺とかもバラバラなのに」
回原は陽気に歌う切奈の口元や這うように動くパーツを見つめながら、首を傾げる。
そのまま身体の神秘に首を傾げながら色々と考えていると、
「お!みっけ!」
「!!」
「ゲート正面の岩場の陰だね。なんか鞭持ってるけど。私のパーツには気づいてるけど、目は見つけられてないね。上向いてキョロキョロしてる」
切奈からの情報を聞いて腕を組んで、どう動くかを考える回原。
そこに切奈の左目と左耳だけが戻ってきて、口元と合体する。
「俺が隠れながら近づくことは出来そうか?」
「う~ん……出来なくはない。けど、私のパーツが暴れれば警戒されると思うから、あんまり意味ないかもね」
「そうか……」
「とりあえず、一度仕掛けてみるよ」
「分かった」
回原が頷いたのを確認した直後、地面を這いまわっていた切奈のパーツが、一斉にミッドナイトが隠れていた岩場に飛び掛かる。
「!!やっぱりバレてるわね!」
ミッドナイトは岩場から躍り出て、切奈のパーツに鞭を振るって叩き落とす。
「取陰さんの《しっぽ切り》って厄介よね!正直、私じゃない気がするのだけどっ!」
ミッドナイトはボヤキながら鞭を振るって、パーツを弾いて行く。
「パーツは30個ほどで、5分くらいが限界だったわね。今までの傾向からすれば、必ずいくつかのパーツは時間切れ前に体に戻しているはず」
ミッドナイトは近づいてくるパーツではなく、離れていくパーツを探す。
踊るように鞭を振るい、手や足も振ってパーツを弾く。すると、いくつかのパーツがある方向に向かって地面を這うように移動する。
「あった!ってことは取陰さんはあっちにいるのね!」
パーツが戻る方向から切奈が潜んでいるおおよその位置を把握し、次に回原の動きを推測する。
「一番やられる可能性があるのは回原君。だから息を止めるとしても、私の不意を突かない限り仕掛けてはこないはずよね」
ミッドナイトはパーツを追いかけることはせず、その場で回原の不意打ちとパーツがゲートに向かわないかに集中する。
動きながら《眠り香》を発動し、周囲に展開する。
特に反応はない。
「まだ近くにはいないようね。となると、取陰さんがハンドカフスでも手に持たせて飛んでくるかしら?」
考えられる手段を一つずつ上げながら、未だに突撃するパーツをいなしていく。
「なんか私の方が耐久試験受けてるみたいじゃないの!」
ミッドナイトは不満を叫びながら鞭を力いっぱい打ち付ける。
その時、近くの岩の陰から回原が飛び出してくる。
「んん!!」
息を止めている回原は、右腕を回転させながらミッドナイトに殴りかかる。
「いくら何でも甘く見過ぎじゃないかしら!?」
ミッドナイトは軽やかに躱し、《眠り香》を放ちながら鞭を振るう。
回原は全身で回転しながら鞭を弾くと、そのまま走り去っていく。
「まぁ、離脱しないと息出来ないものね!」
ミッドナイトは嗜虐的な笑みを浮かべながらも追撃はしない。
「私をここから引き剥がしたいのかしら?取陰さんなら、そうしたいわよね!」
ミッドナイトが上を見上げると、そこには首元から上だけで浮いている切奈がいた。
「確かに顔だけでは脱出は認められないわ!けど、
「ちぃ!バレた!」
切奈は顔を顰めて悔しがるが、直後ニヤァといやらし気な笑みを浮かべる。
「な~んてね♪」
「!!」
切奈の言葉に訝しむように目を細めるミッドナイト。
直後、ミッドナイトの眼鏡が弾かれて、視界が何かに覆われる。
「な!?」
「ハイ、しゅーりょー」
「これは……手!?」
「そ、私の手~」
切奈の両手がミッドナイトの両目を覆っている。
「くっ!この隙に回原君がゲートを抜けるかハンドカフスを掛ける気ね!だったら……!」
ミッドナイトは両腕のタイツを破って、《眠り香》を全力で放つ。
ミッドナイトを中心に半径10mの範囲に《眠り香》が充満する。
「これで……!」
『回原・取陰チーム 条件達成!』
「え!?」
ミッドナイトが驚くと、切奈の手が離れる。そして、ゲートに目を向けると、そこには回原の姿があった。
「どういうこと!?《眠り香》は確かにゲートまでを覆っていたはず……!」
「これですね~」
切奈の声に上を見上げると、そこには切奈の体がアーチ状の橋のように浮かんでいた。
「取陰さんの体を足場に上を……!」
「そ、回原は最初の戦闘訓練で同じことやらせましたからね~。すぐに分かってくれました」
「気が引けたけどな」
回原は切奈の手がミッドナイトの視界を封じた直後に橋のように並んだ切奈のパーツを見て、すぐに意味を理解した。
出来る限り息を止めて飛び移っていき、息がきつくなった時はパーツが集まって回原の体を押し上げて《眠り香》の範囲外まで運び、そこから一気に飛び降りたのだ。
「……これって俺は合格になるのか?」
「ミスはしてないし、大丈夫っしょ」
不安に首を傾げる回原の横で、パーツを回収して足りない部分を再生しながら肩を竦める切奈。
「回原があそこで飛び出したことで、ミッドナイトは地上を意識されてたからね。あれがなかったら空中にまで《眠り香》が来てたと思うよ?」
「なら、いいけどさ……」
「大丈夫だって!回原が脱出したのは事実だし!」
不安が解消されずに眉を顰めている回原の肩を、ポンポンと叩いて安心させるように笑みを浮かべる切奈。
ミッドナイトも近づいてきて、回原に声を掛ける。
「チームワークは出来てたし、私の《眠り香》に引っかからなかったんだから問題ないわよ。あまり活躍出来なかったってだけで赤点にはしないわよ。どっちかって言うと評価される方よ」
「そうなんですか?」
「活躍したくて無理に前に出て、迷惑かけるヒーローもいるんだもの。いくら生活が懸かってても、それで被害を増やすなんて論外よ。だから不得手な相手に対して、無謀な突撃をせずに役割に徹するのは大事なことなの。あなたはそれが出来てたんだから、不安に思うことはないわ」
「はい!」
ミッドナイトの言葉に回原は笑みを浮かべて頷く。
それにミッドナイトは内心「青!春!」と悶えていたが、表には出さなかった。
モニタールームで、一佳達は安堵の笑みを浮かべる。
「安定の切奈だな……」
「まぁ、回原もあれが限界だろ。ずっと口を塞ぐわけにはいかないし」
「ん」
一佳と骨抜の言葉に唯や庄田達も頷く。
すると戦慈が茨に顔を向ける。
「そろそろ俺達も行くぞ」
「はい」
戦慈が扉に向かい、その後ろに茨が続く。
「頑張れよ!2人とも!」
「ん!」
「……殺せー」
「ファイトデス!」
「オールマイト相手なんだから無理すんなよ」
一佳、唯、里琴、ポニー、骨抜の言葉に戦慈は右手を上げるだけで応え、茨は振り返って頭を下げる。
そして戦慈達はモニタールームを後にする。
「……負けるなよ」
「ハンデがあって手加減してくれるだろうけど……やっぱオールマイトだからなぁ」
「っていうか、ハンデがあっても絶望的だけどな」
一佳が祈るように呟く。
それに泡瀬と骨抜も顔を顰めて、戦慈達の難易度の高さに呻く。
他のクラスメイト達も不安げに眉を顰める。
「塩崎も厄介だからなぁ」
「正々堂々に拘るときがあるからな」
「悪いわけではないけど、オールマイト相手には無謀でしかないね」
鱗が腕を組んで唸り、それに泡瀬と庄田も同意するように頷く。
一佳も茨の性格を知っているので、恐らく正面から挑むつもりだろうと推測する。
「拳暴が上手く説得できればいいけど……」
「今までの感じだと無理そうだよな」
「それにそれどころじゃなくね?オールマイト抑えるのは、拳暴じゃなきゃ無理だろ」
「敵連合のバケモン以上だからなぁ。自分がやられねぇようにするだけで精一杯だろぉ」
一佳の言葉に骨抜、円場、鎌切が否定的な言葉を告げる。
戦慈が強いのは分かっているが、相手はヒーローの頂点にいる男。分が悪いという言葉すら生ぬるいだろう。
「オールマイトは拳暴氏の完全上位互換ですからなぁ」
「フルパワー状態でやっとハンデ状態のオールマイトと五分に届くかどうかって感じだもんな」
宍田の言葉に泡瀬も頷く。
それにやはり全員が顔を顰める。
その中で里琴はいつも通りの雰囲気だった。今は仮面をしているので表情は分からないが、どうせいつも通りの無表情だろう。
「里琴は心配じゃないのか?」
「……何を心配?」
一佳の質問に首を傾げる里琴。
「何ってオールマイトに勝てるかどうかってことに決まってるだろ?」
「……負けない」
「え?」
「……戦慈が最強」
一切の迷いもなく言い切る里琴に、一佳達は唖然とするしかなかった。
里琴はモニターに顔を向けて、柳と吹出の姿を見つめる。
「……戦慈は倒れない」
確信している言い方に、本当にそう思えてきた一佳達。
「……本当に拳暴の事になると凄いなぁ。里琴は」
「ん」
一佳は感心とも呆れとも言えない表情で苦笑する。それに唯も頷き、周囲の者達ももはやなにもツッコめなかった。
「まぁ、まずはレイ子達の応援だな」
「ん」
「あ、忘れてた」
「おい」
一佳と唯もモニターに顔を向ける。泡瀬は完全に吹出達の事を忘れており、鱗が呆れる。
その後、鉄哲に凡戸、そして何やらげっそりしている物間も合流し、何だかんだでモニタールームに全員が揃いつつあった。
柳と吹出のステージは
ステージの中央に向かう柳と吹出の周囲には、火災ゾーンや水害ゾーンなど様々な災害を模した演習場が存在する。
「13号先生の《ブラックホール》は厳しいよね。ゴウゴウ吸い込まれちゃうよ」
「なんでも吸い込むからね。それは吹出の《コミック》の擬音も吸い込まれちゃう」
吹出は『厳しいよね』と表示しながら腕を組む。
「遠距離技も効かない。けど、近づくのも危険」
「だから、どうにかしてスパッ!と逃げるしかないか」
「問題はどう逃げるか。ぶっちゃけ2人で一緒に動くのもウラメシい」
2人は物理遠距離攻撃型だが、13号には最も防ぎやすいタイプである。
そして、その吸引力で捕縛を得意とするヒーローでもある。
「私の《ポルターガイスト》は人の重さは無理」
「ってことは?僕がゲートにドピュンする感じ?」
「ん~、13号先生がどっちに来るか分からないから。来た方が全力で足止めする感じで」
「了解!任せろ!」
『任せろ!』と表示して吹出が頷く。
そして、ステージ中央に立つ。
『吹出・柳チーム 演習試験レディ・ゴー!』
開始と同時に2人はバラバラに駆け出す。
柳は土砂崩れゾーンと倒壊ゾーンがある方に、吹出は水害ゾーンと大雨ゾーンのある方に向かう。
柳はゲートを目指す前に土砂崩れゾーンを目指す。
「とりあえず武器ほしい」
柳が現在浮かせられるのは50Kgほどが限界である。なので岩や瓦礫はそこまで大きなものは無理だが、ないよりはマシである。
「重さを選択するべきか、数を選択するべきか」
大きいものを選べば脅威は増すが、数が少なくなるので13号相手には牽制になりえない。しかし、数を増やせば一つ一つが小さくなるので、威力はない。
柳は土砂崩れゾーンに入り、岩陰に隠れながら両手で抱えるくらいの大きさの石を選んで浮かせていく。
10個ほど浮かせた柳は、周囲を確認して13号の姿を探す。
見える範囲では13号の姿は確認出来なかった。
「やっぱ、ゲート前だよね。13号先生足遅いし」
柳はうんざりとした表情を浮かべる。
このステージのもう1つの関門はゲートまでの道である。ゲート前は階段になっており、階段の周囲は森になっている。高さもあるため、柳はどうやっても真正面から階段を上るしかない。
しかし、階段の上に13号がいたら、お手上げでしかない。迂回が出来ない以上、柳の攻撃手段が無くなったら終わりである。
「吹出が隙を突いてくれればいいけど……」
柳はため息を吐いて、階段を目指して走り出す。
反対側に目を向けるも吹出の姿は見えなかった。
「なら……!」
柳は浮かせた石群の半分をゲート付近に向けて飛ばす。
すると階段の上から13号が現れる。13号は右人差し指を伸ばし、指先部分をパカッと開く。直後、飛んでいた石が13号に向けて吸い込まれていき、塵になって指の中に消えていく。
柳はそれを見た瞬間、残りの石を13号の全方向から襲う様に飛ばして襲い掛からせようとする。
しかし、13号の背後に回らせようとした石は、その前に13号の吸引力に負けて吸い込まれていく。
「っ!やっぱ近づかせると負ける……!」
「この程度じゃ僕の吸引力には勝てないぞ!」
柳の《ポルターガイスト》は自身から離れるとコントロールが落ちる。近づけば近づくほど威力が増す13号相手には不利である。
柳は走り出して、弾の補充のために倒壊ゾーンに向かう。
しかし、突如体が後ろに引っ張られる感覚に襲われて、実際に前に進めなくなった。
「!?」
「残念だけど、その距離でも捕まえることが出来るんだ!」
13号を見ると、親指以外の4本の指先が開いており、そこに向けて風が吸い込まれていく。
柳は顔を顰めて足を踏ん張るが、少しずつ吸い寄せられて行く。足を前に出そうにも、力を抜けば一瞬で後ろに体が浮きそうだった。
「マズイ……!」
「さぁ、どうする?」
「『ゴロゴロ』!!」
「「!!」」
『ゴロゴロ』と形作られた巨大な岩が、勢いよく転がりながら階段を上っていく。
13号は柳から転がってくる擬音に右手を向ける。擬音は13号に当たる直前に塵になって吸い込まれていく。
「柳!大丈夫!?」
「ありがと吹出!もう一回出せる!?」
「任せて!『ゴロゴロ』!」
駆け寄ってくる吹出に、柳は礼を言ってすぐに問いかける。
それに吹出も頷いて、再び擬音を飛ばす。
「次に小さいのなんか出せない!?出来ればたくさん!」
「うえぇ!?う~んと……う~んと……コ、『コロコロ』!」
柳の無茶振りに吹出は慌てて考えて、思いついた擬音を具現化する。
吹出の口元から『コロコロ』と小さい石のような擬音が転がり出る。
「これでいい!もっと出して!」
「頑張る!」
「コロコロコロ……」と経を唱えるように擬音を吐き出す吹出。柳はそれらをすぐさま操って13号に向かって飛ばしていく。
「それと!」
「まだあるの!?」
吹出は柳の無茶振りに慄く。
しかし柳はお構いなしに作戦を説明する。
「行ける!?」
「た、多分!」
「急いで!こっちに吸引が向いたらキツイ!」
話している間にも『ゴロゴロ』の擬音はすでに吸い込まれており、柳が飛ばす『コロコロ』の擬音もドンドン吸い込まれていく。
吹出は息を吸い込んで、顔を真上に向けて最初の言葉を叫ぶ。
「『ピッカーン』!!」
叫んだ直後、USJの天井付近に『ピッカーン』と太陽の如く光り輝く擬音が飛び出す。
「うぅ!?」
13号の《ブラック》は光も吸い込むとはいえ、流石に一瞬視界は光に覆われる。
柳は瞼を力一杯閉じて下を向き、眩しさを躱す。
その一瞬の隙に、吹出は次の言葉を叫ぶ。
「『ドッカァン』!」
続いて吹出の口から『ドッカァン』という擬音が13号に向かって飛んで行く。
13号は右手を向けるが、吸い込まれる直前に『コロコロ』の小石が『ドッカァン』に当たる。
その瞬間、爆発が起こった。
「うわぁ!?」
爆発の衝撃も煙もほとんど吸い込んだが、目の前で爆発が起こって驚かないのは難しい。
「い、一体何を……!?」
柳と吹出は一向に階段を上ってくるわけでもなく、距離を取るわけでもない。
「光も爆発も注意を逸らせるためじゃないのか?……っ!?しまった!」
13号は一瞬首を傾げると、すぐさま2人の作戦に気づいて周囲を見渡す。
そのとき、ガシャン!と右足首に何かが掛かる。
慌てて下を見ると、ハンドカフスが右足首に嵌められていた。
『吹出・柳チーム 条件達成!』
「やっぱり、あれは柳さんのハンドカフスを隠すためか……。ブラド先輩に注意しろって言われてたのにな~」
13号は『個性』を止めて、項垂れる。
13号の推測通り、柳は最初の『ピッカーン』の時にハンドカフスを操って、階段横の森を通して回り込むように飛ばしていたのだ。
そして『ドッカァン』の爆発と同時に、13号の真後ろに移動させて一気に足に掛けたのだ。
階段の下では、柳が大きく息を吐いていた。
「……なんとかうまくいった」
「やったね!柳!」
「運が良かった」
ぶっちゃけ柳はハンドカフスが13号の後ろにちゃんと飛ばせたか分からなかった。
なので右足首にかかったのは、まさしく運任せだったのだ。
「吹出の擬音が完璧で助かった」
「本当にね!僕自身ドッキドキだったよ!上手くいってタッタラーだね!」
伝わるようで伝わらない吹出の表現に、柳もとりあえず頷く。
モニタールームでは一佳達も安堵の息を吐く。
「ふぅ~。ちょっと焦ったな」
「ん」
「……無理矢理」
「ちょっと行き当たりばったりだったな」
「まぁ、上手くいったんだから結果オーライだろぉ!!」
「だな」
「コングラチュレーション!」
一佳が両手を腰に手を当てて苦笑し、唯が頷き、里琴は呆れたような雰囲気を醸し出す。
骨抜も同意するが、鉄哲が右手を握り締めてとりあえず2人のクリアを称える。それに円場が頷き、ポニーが両手を上げて笑顔で叫ぶ。
そこに切奈と回原がやってきた。
「あらら。皆いるじゃん」
「だな」
「まぁ、次はいよいよだからね」
「だな!もちろん皆のも気になってたけどよ!こればっかりはな!」
切奈と回原が苦笑すると、物間が肩を竦めて、鉄哲が右手を更に握り締めて物間に同意する。
他のクラスメイト達も苦笑して、モニターを見上げる。
そこに映っているのは、ゆっくりとした歩みでステージに足を踏み入れる戦慈と茨。
「……いよいよだ」
「だな」
里琴を除く全員の緊張感が増す。
「B組……いや、1年ヒーロー科最強の拳暴と、ヒーロー最強のオールマイト。ハンデありとはいえ、この対戦カードが気にならない奴なんていないさ」
「だな!」
「問題は塩崎だな」
「だねぇ。普通に考えるなら、拳暴が戦っている隙に茨は身を隠しての拘束か、ゲートに向かうかだけど……」
「嫌がるだろうな。茨は」
「けど、塩崎の《ツル》でオールマイトを拘束できるなんて楽観的すぎるよな?」
「ああ。身を隠しての不意打ちでも怪しいだろ」
「それを真正面からなんて厳しいってレベルじゃないよなぁ」
物間が両手を広げてカッコつけて、鉄哲がそれに反応する。鉄哲は両手を握り締めて、まるで自分が戦うかのような気合の入りようである。
その横で円場が腕を組んで不安そうに呟き、切奈が眉を顰めながら一般論を語るが、一佳がそれを否定する。
そこに泡瀬が更なる不安要素を言い、それに回原と鎌切も頷く。
「つまり全ては拳暴次第、というわけだね。拳暴がオールマイトを抑え込めれば良し。駄目ならば……語るまでもないね」
物間が肩を竦めて結論を語る。
それに骨抜達も頷き、固唾を呑んでモニターを見つめる。
そして、
『拳暴・塩崎チーム 演習試験レディ・ゴー!』
ついにゴングが鳴らされた。
正直、切奈の相手が違う気がしてならない(-_-;)けど、クラスメイトとの組み合わせ的にはこうなってしまう。
A組で言う梅雨ちゃん的立ち位置と思うしかない。梅雨ちゃんも「課題らしい課題がない優等生」と言われてましたし。なのでお許しを(__)
長らくお待たせしました!
次回、いよいよです!