『拳』のヒーローアカデミア!   作:岡の夢部

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拳の三十七 演習試験その6(前)『大きすぎる力』

 戦慈と茨のステージは、入試でも使った市街地だった。

 

 2人はスタート地点のステージ中央に向かって歩いていた。

 

(相手はオールマイト。どう考えてもヒット&アウェイで行くべきなんだがなぁ)

 

 戦慈は仮面の下で眉間に皺を寄せながら、隣を歩く茨を横目で見る。

 茨は胸の前で両手を組んで、まっすぐに前を見つめていた。その歩みは堂々としており、不安は感じられない。

 

 戦慈は盛大にため息を吐きたくなるのを必死に耐える。

 

 理由はステージに入る直前のやり取り。

 戦慈は再び作戦を考えようと声を掛けたのだった。

 

 相手はあのNo.1ヒーロー。

 正面から戦うのは得策ではない。だから、戦慈が前面に出て注意を引いている間に、茨が身を隠して地中からツルを伸ばして拘束するか、ゲートを目指す。これが最も安全策だと。

 しかし、

 

「悪を倒すためとはいえ、謀るのは悪に通じます。故に正義は正々堂々裁かねばなりません」

 

 両手を組み、まっすぐな瞳を戦慈に向けて断言された。

 

 その言葉を戦慈は思い出して、再び眉間に皺を寄せる。

 

(厄介ではあるが……まぁ、俺のやることは変わらねぇか) 

 

 茨が堂々としていようと、隠れてくれようと、戦慈はオールマイトの前に出るしかない。

 なので、戦慈は切り替えて気合を入れ直すのだった。

 

 

 

 モニタールームでは一佳達の間に緊張感が漂っていた。

 

 そこに突如、扉が開く。

 目を向けると、柳と吹出が息を乱して駆け込んできていた。

 

「はぁ……はぁ……間に合った?」

「お疲れレイ子。ギリギリだね」

「間に合ったぁ。これを見逃すのはガッカリだもんね!」

 

 切奈が苦笑しながら声を掛け、他の者達も簡単に2人を労う。

 柳と吹出もそれに文句もなく、すぐに観戦の輪に入る。

 

「勝てると思う?」

「ま、厳しいでしょ」

「拳暴がどこまでオールマイトに食い下がれるか、だな」

 

 柳が首を傾げて尋ねると、切奈は肩を竦める。

 そして骨抜が頷きながらポイントを語り、一佳や鉄哲達も頷いていると、

 

「それは難しいかもね」

 

 椅子に座っているリカバリーガールが声を上げる。

 一佳が代表して質問する。

 

「どういうことですか?」

()()()()()さ。それをあの子が自覚しているかどうか、それに対応できるかだね」

「「「弱点?」」」

 

 戦慈の弱点という言葉に、里琴を除く全員が首を傾げる。

 

「おや、気づいてなかったのかい?」

「なんかありましたっけ?」

「あるもなにも、()()()()()()()()よ」

「「「え!?」」」

 

 目を見開いてモニターを見つめる一佳達。

 しかし、モニターに映る戦慈は特に異変はなさそうだった。

 首を捻る一同だったが、一佳はすぐに思い至ったのか声を上げる。

 

「あっ!?」

「何、一佳?分かったの?」

「確かお前さんは中学から一緒なんだっけね。だったら聞いたことがあるかもね」

「何だよ拳藤!?拳暴の弱点ってよぉ!」

「見てればすぐに分かるさね」

 

 リカバリーガールの言葉に、鉄哲は渋々と引き下がるも、すぐにモニターを食い入るように見つめる。

 他の者達も鉄哲に倣い、一佳は不安を隠せずにモニターを見て、そして里琴を見る。

 

「り、里琴……」

「……モーマンタイ」

「本当か?」

「……言った。……戦慈が最強」

 

 いつも通りの里琴の言葉に、一佳は頷いてモニターに目を移す。

 しかし、不安が消える事はなかった。

 

 

『拳藤・塩崎チーム 演習試験レディ・ゴー!』

 

 

 開始が告げられて、戦慈と茨は歩き出す。

 

 その反対側ではオールマイトがゲート前で仁王立ちしていた。

 

「さて……いよいよだね。拳暴少年」

 

 顔にはいつも通りの笑みを浮かべているが、纏う雰囲気はとてつもなく鋭い。

 

「さぁ……」

 

 オールマイトはゆっくりと左腕を構える。

 

 

脅威()が……行く!!」

 

 

 言葉と同時に腕を振り抜く。

 

 

ズゥドオオオォォン!!

 

 

 衝撃波が放たれて、目の前の道路や周囲のビルが吹き飛んでいく。

 その衝撃波は戦慈と茨の目の前まで迫り、2人の周囲のビルも吹き飛んでいく。

 

「「!!?」」

 

 2人は腰を据えて風圧に耐える。

 戦慈はすぐさま茨の前に出て、構えながら茨に叫ぶ。

 

「一度、路地裏に飛び込め!!」

 

 茨は戦慈の指示の意図を尋ねようとすると、

 

「正面から来るなんて随分と余裕じゃないか。拳暴少年、塩崎少女」

 

 戦慈の右横、そして茨の正面に、突如オールマイトが腰を屈めて現れる。

 

「くっ…そが!!」

 

 茨は目を見開いて固まってしまうが、戦慈はすぐさま左拳を握り、オールマイトに殴りかかる。

 オールマイトは戦慈の左フックを容易く右手で受け止める。

 すかさず戦慈は右脚を振り上げるが、それも左手で受け止められる。

 

「軽いな!」

 

 オールマイトは右膝蹴りを戦慈の腹に向けて放つ。

 戦慈は右腕で受け止めようとするが、まったく意味をなさなかった。

 

「ぐふ!?」

「拳暴さん!」

 

 ようやく再起動した茨がツルを伸ばして、オールマイトを拘束しようとするが、オールマイトは戦慈を掴んだまま前に飛び出して躱す。

 それでもツルの一部が追いつき、オールマイトの両腕にツルが巻き付く。それにより戦慈を放してしまうが、すぐさま左拳を握り振り被るオールマイト。

 

「デトロイトォ・スマァッシュ!!」

 

 しかし、オールマイトはツルの拘束など、気にも留めずに腕を振り抜く。

 オールマイトの豪速左ストレートが戦慈の腹部に突き刺さる。それと同時に巻き付いていたツルが弾け飛ぶ。

 

「ごぉえっ!!」

 

 戦慈はくの字に体を曲げて後ろに吹き飛び、ビルに突っ込む。直後、突っ込んだビルは完全に崩れてしまう。

 

「拳暴さん!?」

「人の心配をしている場合かい?」

「っ!?」

 

 一瞬戦慈の方に顔を向けた茨のすぐ近くで声が響く。

 目を向けると、目の前でオールマイトが仁王立ちしていた。

 普段なら嬉しさなどが込み上がる状況だが、今のオールマイトの瞳は恐ろしく鋭い。逆に笑みを浮かべていることが、更に恐怖を煽る。

 そして何より、今にも押し潰されそうな威圧感。

 

 茨は無意識に後ろに下がりながら、ツルを伸ばす。

 オールマイトは避ける素振りすら見せずに、体をツルが締め付けていくが、

 

「緩いな」

 

 バァン!と両腕を広げて、簡単にツルを引き千切る。

 茨はすかさず再びツルを伸ばすが、オールマイトの姿が消える。

 

「!?」

 

 茨は目を見開く。すると背後から怖気が走る気配を感じて、とっさに背後にツルを伸ばす。

 

「遅いな!」

 

 しかし、伸ばしたツルが全て掴まれて引っ張られる。

 茨は無我夢中でツルを切り離して、前に駆け出す。そして背後を振り返る。

 

「いい反応だ。けど、私の前では数歩遅い。特に初動が見える時点で、予測するのは容易い」

「……っ!」

 

 茨はオールマイトの挙動を見逃すまいと、鋭く睨みつける。

 

「拳暴少年は言わなかったかい?正面戦闘は避けるべきだと。彼は自分の弱点を理解しているようだしね」

「……拳暴さんの弱点?」

「そうさ。彼の弱点。それは……『速攻に弱いこと』さ。彼は素の状態が最も非力だ。つまり開始直後に全力で必殺技を浴びれば耐えきれないのさ!しかも相手が格上であるほど、致命的だ」

 

 オールマイトの言葉に茨は目を見開く。

 

 普通ならば戦えば戦うほど、人は消耗してパワーが落ちる。

 戦慈の『個性』《戦狂》はその真逆。戦えば戦うほどパワーが上がる。

 

 しかし、それは同時に言えば初っ端に叩き込まれれば、《強靭》の耐久力を超える攻撃を、《自己治癒》を上回るほどの攻撃を一気に叩き込まれれば戦慈はあまりにも無力なのである。

 

 戦慈が素の状態での戦闘力の向上を意識している最大の理由がこれである。

 初っ端の猛攻に耐えるため。

 そのため、戦慈は周囲から引かれるほどの猛特訓を続けてきた。

 

「もし雄英襲撃の時に、最初から脳無が投入され、脳無が全力で攻撃を仕掛けていたら、拳暴少年は敗けていただろう。体育祭での轟少年との試合でも、怒りで体が膨れていたから氷結に対抗できた。しかし、私はそう甘くはないぞ!」

 

 脳無はディスペが出し惜しみ、更には脳無が人形同然の思考回路しかなかったから。

 轟との試合は、轟やエンデヴァーへの怒り、それまでの試合でアドレナリンが出ていたから。

 だからこそ、戦い抜けた。

 

 実は素の戦慈の戦闘力は、ビースト化した宍田に一歩劣る。

 最初の戦闘訓練では鉄哲を最初に狙って、2人に仕掛けるまでに無駄に動き回っていたから宍田を圧倒出来た。

 

 しかし、オールマイトは全てが規格外。

 

 素の状態であろうと、フルパワー状態であろうと、戦慈のパワー、スピード、耐久力の全てがオールマイトに届いていない。

 速攻を仕掛けられれば、絶対に勝てないのだ。

 

「そして、塩崎少女。君の『個性』は確かに強い。しかし、拳暴少年同様、大きすぎる力の前には無力となってしまう」

 

 ズン!とオールマイトが一歩踏み出すと、茨は一歩下がる。

 

「何より!《ツル》を操るのは君自身だ。しかし、君の肉体が強くなるわけじゃない。私の速さについて来れなかった時点で、君はもう敗けているのさ」

 

 さっきはハンデの重りのおかげで、ギリギリ反応が間に合っただけ。

 ハンデが無ければ何が起こったのか分からないまま、気絶していただろう。

 

「だが、一番重要なのは、君の正々堂々という信念に隠れている『慢心』さ!」

「っ!?そ、そのようなことは……!」

 

 オールマイトに突きつけられた言葉に、茨は大きく動揺して、すぐさま否定しようとする。

 

「ならば何故、この状況に陥っているんだい?」

 

 オールマイトは両腕を広げて、周囲を示す。

 

「たった一撃でこの被害だぜ?これ以上被害を出さないためにも、なりふり構わず迅速に捕縛するか、応援を呼びに行くべきじゃなかったのかい?」

 

 茨はオールマイトの言葉に反論できなかった。

 

「正々堂々が悪いわけじゃない。むしろ尊いものだ。しかし!それは全ての被害が自分だけに振りかかるならな!他に傷つく者が出るのであれば、それは唯の足枷でしかないんだ」

 

「そうでもねぇだろ」

 

「!!」

 

 オールマイトの左横に、体が二回りほど膨れ上がり左腕を振り被っている戦慈が現れる。

 

「ヅゥアアア!!」

「ぬぅ!」

 

ドッパアアアァン!!

 

 戦慈は叫びながら左ラリアットを放つ。

 オールマイトは両腕を交えてガードするが、直後衝撃波が放たれて吹き飛ばされて、戦慈が突っ込んで崩れたビルに叩き込まれる。

 

 戦慈の体は戻り、オールマイトを確認することなく、すぐに茨に駆け寄って茨の腕を引いて、反対側の路地裏に駆け込む。

 

 茨は困惑した表情で戦慈に為されるがまま付いて行く。 

 

 戦慈の仮面はひび割れており、口元からは血が流れている。さらに左手の籠手は砕けており、腹部は破れている。

 その姿を見て、オールマイトに言われた言葉が胸に突き刺さるのだった。

 

 

 

 

 戦慈と茨が路地裏に駆け込んだ直後、崩れたビルからオールマイトが飛び出す。

 

「ふぅ!少し話し込み過ぎてしまったかな!それにしても、むやみに飛び出さずに見事に隙を突いてきたね」

 

 ポンポン!とコスチュームの汚れを払いながら、先ほどの戦慈の攻撃を振り返る。

 

「結構本気で殴ったんだけどな。ツルのせいかな」

 

 オールマイトはゲートの方を向く。

 戦慈達の姿は見つからない。

 

「少なくとも拳暴少年はもうさっきのようにはいかないな。塩崎少女は……拳暴少年次第、か。期待したいものだ」

 

 笑みを深めて、ゲートに向かって駆け出す。 

 

「それにしても……拳暴少年は誰かに似ているな。誰だ?緑谷少年と比べても現実的で突発的に飛び出さないし、爆豪少年ほどギラギラしてないしな」

 

 どこか既視感を感じるオールマイト。

 しばし考えるも答えは出ず、今は試験だと気を切り替えるのだった。

 

 

 

 モニタールームの空気はもはや通夜のようだった。

 

「拳暴が一瞬で殴り飛ばされて……茨のツルも全く効果がないなんて……」

 

 一佳が唖然とモニターを見つめて呟く。

 

「あれが拳暴の弱点か……」

「確かに衝撃波も出せないなら、抑えようはあるよな。まぁ、俺らだと戦闘技術で敗けるから厳しいんだろうけど」

「だからこそ気づかなかったんだろうね」

 

 切奈、骨抜が腕を組んで呻き、物間も顎に手を当てて頷く。その顔は真剣でいつもの人を嘲笑うものではなかった。

 

「塩崎は大丈夫か?オールマイトに結構ストレートに言われてたけど」

「なんか今もオロオロしてる感じだもんな」

 

 モニターには明らかに混乱しかけている茨に、戦慈が声を掛けている様子が映っていた。

 オールマイトの最初の攻撃でカメラがいくつか壊れ、映像が映っていてもマイクが壊れているものもあった。

 今はカメラは無事だが、声は聞こえない状態だ。

 

「あの子にとっちゃ、ここが分岐点かもね」

 

 リカバリーガールの言葉に、一佳達は心配そうにモニターを見つめるしか出来なかった。

 

 

 

 戦慈と茨は路地裏で息を整えていた。

 

「はぁ……はぁ……塩崎、怪我は?」

「私は大丈夫です。しかし、拳暴さんは……」

「安心しな。ほとんど治ってる。けど、治ったところでオールマイトに勝てるわけじゃねぇ。それはもう嫌でも実感した」

「……はい」

 

 茨は組んでいる両手に力を籠めて俯く。

 

「私のツルでは……止められません」

「まぁ、俺はそのおかげで助かったがな。問題なのはヒット&アウェイじゃ、オールマイトを縛るだけの隙が作れねぇってことだ」

「では?」

「俺が全力でオールマイトを抑える。その隙に塩崎が動いてくれ。拘束するでもいいし、ゲートに向かうでもいい」

 

 戦慈の言葉に茨は目を見開く。

 

「それでは拳暴さんだけ負担が大きすぎます!私が間違ったばかりに、こうなったのですから……!」

 

 茨は今にも泣き出しそうな程に顔を歪める。

 それに戦慈は小さくため息を吐いて、茨の肩に手を置く。

 

「俺は正々堂々が間違ってるとは思ってねぇ。それに塩崎が慢心してたとも思わねぇ」

「……しかし……」

「ヒーローが正々堂々で戦うなんて当然だろ。あれだけ観客がいんだ。下手な戦い方してたら、変なこと言われちまう。俺は気にしねぇけどな」

 

 正直、戦っている所を録画したり、避難しないのがおかしい。それだけヒーローを信頼しているのかもしれないが、戦う側からすれば気が気でない。

 

「ただな、それが常に一番前に出んのは違うとは思う」

「常に一番前に……?」

「ああ、ヒーローが戦う状況ってぇのは、毎回違う。今回は周囲に誰もいないが、本来は一般人がいる。そんな中で正々堂々を唱っても意味は少ねぇ」

 

 茨はその言葉に顔を俯かせる。

 

「だから、それは根っこにするもんだ」

「……根っこに?」

「正々堂々と戦いてぇなら、そうなるようにまずはどうするのかってことだ。お前の『個性』みてぇなもんだ」

「私の?」

「塩崎っていう根っこがあって、そこからツルが動く。けど、そのツルの形は決まってねぇだろ?時には一般人を救けて、時には敵を捕縛して、時には敵を打ちのめし、時には盾になる。お前の思いを叶えるために、ツルの形はその時々で変わる。けど、塩崎って言う根っこは変わらねぇ」

「……」

 

 戦慈の言葉を聞いて、茨は両手を強く握り締める。

 

「それとな、塩崎……」

 

 

 

 

 

 オールマイトはゲート前で再び仁王立ちしていた。

 

「時間はあと半分しかないぞ?ヒーロー達」

 

 そう呟いた時、少し先の路地裏から影が飛び出してきた。

 影はオールマイトの正面で止まり、オールマイトと向かい合う。

 

「……まさか正面から戦うつもりかい?拳暴少年」

 

 オールマイトは目を鋭くして、戦慈を睨みつける。

 周囲に目配せするが、茨の姿はなかった。

 

「なるほどな。君が戦っている間に、塩崎少女が隙を突くつもりか。けど……さっきやられたことを忘れたとは言わせないぞ?」

「わぁってんよ。正直、俺が一番慢心してたぜ。ハンデがあるとはいえ、あんた相手に何もせずにぶつかろうとしてたんだからな」

「……なに?」

 

 オールマイトは僅かに口角が下がり、訝し気に声を上げる。

 戦慈は両手を握り締めて、両腕を広げる。

 

「正直、あんまり好きじゃねぇんだ。けどよ、()()()()()()()()()()()、俺が出し惜しみするのも違ぇよな」

 

 戦慈はグッと胸を張る。

 オールマイトが僅かに腰を据えて構えた直後、

 

 

「【ドラミング・ドープ】」

 

 

 ズドォン!と両拳を()()()()()()()()()()

 

「!?」

 

 その行為にオールマイトやモニタールームで見ていた一佳達は目を見開く。

 

 戦慈はその後も連続で胸を殴り続ける。

 

 

「ウオオオオオオオオ!!!」

 

 

 叫びながら胸を殴り続ける。交互に、時には同時に。

 その行為はまさしく、

 

「ゴリラかよ!?」

「なにしてんだ!?」

 

 円場と泡瀬がツッコむが、その答えはすぐに出る。

 

 戦慈の体が膨れ、髪が逆立った。

 

 それでも叩き続ける戦慈。

 

 さらに体は膨れ上がる。

 

「まさか……!」

「自分で殴ることでアドレナリンを無理矢理出してんのか!?」

「まさしくゴリラだね。無茶をする子さね」

 

 戦慈の胸からは白い煙が立ち上がる。《自己治癒》が発動しているのだ。

 

「ウオオオオオオオオ!!ヅアアアアア!!」

 

 戦慈は叫び、更に強く殴りつける。

 

 その体は更に膨れ上がる。

 

「……全く君って奴は……」

 

 オールマイトは呆れとも感嘆ともとれる声を出す。

 

 そして、

 

 

オオオオオオ!!!

 

 

 フルパワーまで高めた戦慈がドラミングを止めて、叫ぶ。

 地面が砕け、周囲に風が吹き荒れる。

 

「フルパワー来たぁ!!」

「やり返せええ!!拳暴おお!!」

 

 回原と鉄哲も勢いにつられて叫ぶ。

 

 オールマイトは笑みを深めて、暴風を体で受け止める。

 

「ここからが本番ってわけだ!」

 

 吹き荒れる風をものともせず、戦慈に向かって歩き出す。

 

 戦慈もオールマイトをまっすぐに見据える。

 

「行くぞ!ヒーロー!」

「後悔すんなよ」

 

 2人は同時に飛び出し、5m以上あった距離を一瞬で縮めて両手を組み合う。

 

 2人の足元が砕けてクレーターが出来る。 

 

「ぬぅ!想像以上だな!」

「てめぇ、脳無に少し手古摺ったんだろ?そう簡単には押し負けねぇよぉ!」

 

 互いに一歩も引かない。

 

「負けんなよぉ!!」

「頑張れ!」

「ファイトデェス!」

「ん!」

「ってか、茨は?」

「あ。あそこ!」

 

 鉄哲、一佳、ポニー、唯達は前のめりになって応援する。

 その横で切奈が冷静に首を傾げ、庄田がモニターを指差す。

 

 そこには路地裏から様子を伺っている茨の姿があった。

 

「茨……!」

「……ここは拳暴に任せてゲートに行くところだけど」

 

 切奈と骨抜は不安げに茨を見つめる。

 その時、

 

 茨が身を翻して、路地裏の奥に走り出す。

 

「茨……!!」

「塩崎が……我慢した!!」

「走れ!!塩崎!!」

 

 茨の行動に全員が一瞬目を見開いて驚き、すぐに笑みを浮かべて応援する。

 茨の顔は今にも不安で押し潰されそうな程歪んでいる。それでも脚は止めない。

 

「茨……頑張れ!!」

「……走れ」

 

 一佳と里琴も茨を応援する。

 

 茨は今も悩んでいる。

 

「それでも……!」

 

 茨は戦慈に告げられた言葉を思い出す。

 

 

『それとな、塩崎。俺も間違ってた』

『え?』

『俺とお前はチームだ。なのに、俺も自分のことばっかだった』

 

 戦慈は右手のひらを見つめていた。

 

『チームを組んだ以上、互いの失敗も成功も一緒だ。今の俺達は2()()()1()()()()()()()だ』

『……』

『お前の正々堂々は、俺がやる。俺は絶対にオールマイトを止め続ける。だから、お前はゲートを目指してくれ。そうすれば、お前も正々堂々勝ったって言えるんだ。仲間で勝ったんだからな』

 

 戦慈の言葉を胸に刻むように、茨は目を閉じる。

 ただでさえボロボロの戦慈を、再び戦わせる。なのに、己は自分が望む戦いをすることに拘っている場合なのか。

 元はと言えば、己の力が未熟だったからこうなった。自分でオールマイトを押さえ込める力があればよかったのだ。

 それが出来なかった自分に、未熟な自分に、己の意志を突き通す資格はないと考える。

 

 だから、今は己を優先するべきではない。

 

 戦慈が止めると言って、使いたくない技を使って戦っている。

 

 ならば、己は意地を押し殺して、仲間のために走るのみ!

 

「未熟な私に鞭を……!この罪を償うために……!」

 

 茨は全力で走る。

 

 戦いの音と衝撃は、小さくなるどころか激しくなっている。

 

 茨は歯を食いしばって、ゲートへと向かう。

 

 

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