唯:【ルール】:恐らく『定規』っていう意味から?
柳:【エミリー】:恐らくホラー映画の題名から?
庄田:【マイン】:これは分かりやすい。
全く当たりませんでしたw次回からはこちらに変更します。
ただ……ポニーは?
手を組み合っている戦慈とオールマイト。
「塩崎少女を説得できたみたいだね!」
「してねぇよ。互いに反省しただけだっよ!」
戦慈は右脚を振り上げる。オールマイトは顔を仰け反らせて躱す。
しかし、衝撃波が襲い掛かり、手を放して後ろに下がる。
「くっ!凄まじいな!」
「てめぇに言われたくねぇよ」
戦慈はすかさず距離を詰める。それにオールマイトが左ストレートを放つ。
戦慈は左ストレートを半身になって躱し、両腕で掴む。
「オラァ!」
そして一本背負いを仕掛ける。
オールマイトの両足が地面から離れる瞬間、
「オクラホマ・……」
「!?」
オールマイトが体を捻り、戦慈は引っ張り上げられる。そのままオールマイトは高速で回転し、戦慈を振り回す。
「スマッシュ!!」
戦慈は地面に背中から勢いよく叩きつけられる。
「がっ!?カアッ!!」
「!?」
くの字に叩きつけられた戦慈は、すかさず両腕を広げて背中を仰け反らせる。背中から衝撃波を放ち、勢いよく飛び跳ねる。
そのままオールマイトに掴みかかり、仕返しとばかりに全力で体を捻ってオールマイトを背中から叩きつける。
「ぬぅ!?はあ!!」
しかし、オールマイトも叩きつけられた直後に、腹筋に力を入れて戦慈に掴まれたまま起き上がる。
戦慈は手を放して、一度後ろに下がり、右腕を振り被って殴りかかる。
オールマイトも素早く立ち上がり、同じく右ストレートを放って拳を合わせる。
拳がぶつかり合った瞬間、地面が吹き飛びクレーターが出来る。
「ちぃ!」
戦慈は舌打ちをし、腰を捻って左アッパーを放つ。オールマイトは顔を背けて躱そうとするが、いきなり左アッパーが止まり、右ミドルキックが飛んでくる。
「ぬぅ!」
オールマイトは素早く腰を屈めて左腕でガードする。その瞬間、戦慈は高速で両肩を回転させて、拳の乱打を放つ。
「ヅララララララララララァ!!」
「ハハハハハハハハ!!!」
オールマイトは笑いながら、戦慈の拳を全て両拳で弾く。衝撃波が襲い掛かっているはずだが、オールマイトもインパクトの瞬間に同じく衝撃波を放ち相殺していた。
それを感じた戦慈は歯軋りして、目の前にいる男の強大さを知る。
オールマイトは余裕そうに笑みを浮かべて高笑いしているが、戦慈を見つめる目は冷静で恐ろしく鋭い。隙を一切感じさせない力強さに、戦慈は茨が上手く動けているか気にする余裕など持てなかった。
ここで手を抜けば、一瞬でやられる。
そう確信していた。
「ツァ!!」
戦慈は鋭い左前蹴りを放つ。
オールマイトは半身になって躱し、一瞬で戦慈の懐に潜り込んで腹部に右アッパーを突き刺す。
「ガハァ!?」
戦慈はくの字になって動きが止まる。
オールマイトは更に左フックを戦慈の脇腹に叩き込む。
「ヅウゥ…アアアア!!」
横に吹き飛びそうになるが、叫びながら全身に力込めて耐え、無理矢理腰を捻って左フックを放つ。
オールマイトは右手で弾こうとするが、直前に拳が開かれて右手首を掴まれる。
「!!」
「カア!!」
戦慈は左腕を引いてオールマイトの右腕を引っ張りながら、左ミドルキックを振り抜いてオールマイトの背中に叩きつける。
オールマイトは体勢を崩されていたのと、蹴りが当たった瞬間の衝撃波に吹き飛ばされてしまう。
「ぬうう!!ニューハンプシャー・スマッシュ!!」
オールマイトは前方に向かって右腕を振り抜いて衝撃波を放つ。その勢いで背後に飛び戻り、振り返りながら一気に戦慈へと迫る。
「くっそがぁ!!」
戦慈は吐き捨てながら、両腕を振り被る。そしてオールマイトが近づくと、再び拳の乱打を放つ。
オールマイトも拳の乱打を放ち、全ての拳を突き合わせてくる。
絨毯爆撃でもされたかのような衝撃音が響き、地面や近くのビルが崩壊する。
「世紀末かよ!?」
「殴り合いだよな!?」
「フルパワーの拳暴の攻撃を全部潰してるよ……」
「あれがNo.1ヒーローかよぉ……」
「負けんな拳暴オオオ!!」
「あれでハンデありなの?」
「これはこれは……」
泡瀬と円場が余りの苛烈さに目を見開き、凡戸と鎌切がオールマイトの実力に慄き、鉄哲が叫ぶ。
その横で切奈と物間は顔を引きつかせるしか出来なかった。
「オールマイト……ちょっと張り切り過ぎだよ。昨日の反省はしてないのかね」
リカバリーガールも呆れて戦いを見ていた。
「けど、まだ耐えれる!」
「ん」
「……もち」
「後は茨……!」
一佳、唯、里琴はまだ戦慈が負ける事はないと思い、茨がどうしているのかをモニターで探す。
そして、モニターにはゲートに最も近い路地裏から、茨が飛び出す姿を捉えた。
「行ける!」
「ゴー!」
一佳とポニーは勝利を確信して、笑みを浮かべる。
その時、
「そうはさせないぞ!」
茨の姿を確認したオールマイトは戦慈との殴り合いを止めて、猛スピードで茨に向かって走り出す。
戦慈は一瞬見失ってしまい、出遅れてしまう。
「くそ!!」
茨はゲートに走っていると背筋に悪寒が走り、後ろを向く。
そこにはオールマイトが両腕を広げて迫っており、その距離は3mもなかった。
「っ!!」
「そこまでだ!!」
「横に跳べえええ!!」
「「!!」」
茨はツルを伸ばして防ごうとした時、戦慈の声が響く。
茨はほぼ反射的に右に飛び込むように体を投げ出す。
直後、戦慈が猛スピードでオールマイトに突撃し、オールマイトを掴んで押し飛ばす。
「ヅアアア!!」
「くっ!」
戦慈が通り過ぎるとソニックブームが如く衝撃波が吹き荒れて、茨も5mほど飛ばされる。
戦慈とオールマイトは揉み合いになりながら地面を転がる。
オールマイトが戦慈を投げ飛ばして、壁に叩きつける。戦慈は背中から叩きつけられるが、すぐさま壁を蹴ってオールマイトに殴りかかる。
「ラァ!」
「ぬぅ!」
オールマイトも素早く立ち上がり、戦慈の右ストレートを横に跳んで躱し、左腕を振り被る。
戦慈は空中で無理矢理左脚を振り抜いて、オールマイトの左ストレートとぶつけ合う。
2人は互いに弾かれて、大きく後ろに下がる。
オールマイトは地面を滑り、戦慈は空中を回転しながら下がる。
互いに倒れる事はなく、オールマイトはゲートのほぼ正面で止まり、戦慈は茨の目の前に着地して片膝をつく。
戦慈の体は2段階目まで縮んでおり、全身から白い煙を噴き出していた。
戦慈は全力で両脚から衝撃波を出して、弾丸のように飛び出したのだ。猛スピードで迫りながら【ドラミング・ドープ】と体に叩きつけられる風圧で体を膨らませながらオールマイトに飛び掛かったのである。
「はぁ!……はぁ!……バケモンにもほどがあんだろ。敵連合はよくこんな奴殺そうと考えるぜ」
「拳暴さん……!」
「無事か?」
「はい……!しかし、拳暴さんが!」
「まだ大丈夫だ」
戦慈は息を整えながら立ち上がり、オールマイトを見る。
オールマイトは全く消耗を感じさせずに、仁王立ちしていた。
「本当に恐れ入ったよ。拳暴少年。凄いな、君は!」
「余裕そうな顔で言われても嬉しくねぇよ」
「ハーハッハッ!すまないな!ヴィラン役とはいえ、戦う時は笑みを絶やさないって決めてるんだ。ヒーローが不安な顔を見せるのは、人を不安にさせるからね!」
「そうかよ」
戦慈はオールマイトの言葉に呆れるように返事しながら、再び胸を殴り始める。
「ヅアアアア!!」
そして一気に最大まで体を膨らませる。
「……その姿は力の制御が出来ておらず、負担が大きいと聞いてるよ」
「ああ、今も《自己治癒》で治しては骨にひびが入ってるぜ。正直、俺も緑谷に偉そうなことはもう言えねぇと思ってるさ」
「……そうだね。私も身を滅ぼすような戦い方は、少しトラウマだよ。昨日も見せつけられたしね」
「そりゃ、てめぇが試験官に向いてねぇだけだろ。No.1ヒーローがガキの相手してんだ。身を滅ぼす覚悟でもなけりゃ届かねぇだろ」
「ぐはぁ!?」
戦慈の言葉がグサリ!!と胸に突き刺さるオールマイト。
「それに、ヒーローは身を滅ぼす戦い方するもんだろ。てめぇだって、必要に迫られれば自分の怪我なんざ気にしねぇだろ。え?No.1ヒーロー様よ」
「……そうだね。けど、ここは必要な場かな?」
「ああ。必要だ」
「……」
戦慈はオールマイトの問いかけに、力強く即答する。
その力強さにオールマイトも一瞬気圧される。
「俺はな、あんたみてぇに一瞬で長距離を跳ぶことも出来ねぇ。それに塩崎みてぇに自在に相手を縛れる術も、里琴みてぇに空を飛ぶ術も、鉄哲みてぇに怪我をしねぇ体にする術も、宍田みてぇに匂いや音で人の居場所を把握する術もねぇ。俺に出来るのは、ただただ体を張って、傷を作って、誰かの壁になるか、相手を倒すだけだ」
戦慈は両手を強く握り締める。
「だから俺はあんたや他の連中みてぇに多くの人を救けたいとは思わねぇ。出来ねぇからな」
「……そんなことはないさ。君は多くの、たくさんの人を救うことが出来る」
「出来ねぇよ。自分の親を傷つけて、犯罪者に堕とした俺が、そんな大層なこと望めるわけがねぇ」
「……拳暴少年」
「だから、俺はヒーローとして戦うと決めた以上、絶対に目に映る人を救けるって誓った。この手が届くだけの、この背中に背負えるだけの人は絶対に傷つかせねぇと誓ってんだ。それがヒーローであっても、俺はそいつの前に出て、体を張る」
ゆっくりと腰を屈めて構え、オールマイトを見据える。
「ヒーローは誰よりも前に立ち、誰よりも傷つき、しかし最後まで立ってないといけねぇ。そんなこたぁ分かってる。けど、今の俺は1人じゃねぇ。俺が倒れても、塩崎がいる」
茨は戦慈の言葉に目を見開いて、両手を強く握り締める。
すると、戦慈の体が僅かに膨れ上がり、露出している腹や皮膚が赤くなっていく。
その変化にオールマイトや一佳達は目を見開く。
「だから、俺はこの体が動く限り殴りかかってやるぜ。
力強く己に再び誓う様に宣言する戦慈。
それを聞いたオールマイトは不意に、戦慈の横に緑谷と爆豪の顔が思い浮かんだ。
(っ!!……そうか。彼は……どちらかではなく、両方に似ていたのか……)
己がどれだけ傷つこうとも、救けたい人を救けるために動く緑谷。
それが彼が追いかけたいヒーローだから。
己がどれだけ傷つこうとも、勝ちたい人に勝つために戦う爆豪。
それが彼が追い抜きたいヒーローだから。
戦慈は別に多くを救けたいとは望んでいない。それに最強になりたいとも思っていない。
ただひたすらに、自分の背中にいる人を救けるために、目の前の敵に敗けないようにしたいだけ。
けど、そこに込める思いは2人にも劣らない。今の所はむしろ勝っている。
「あんたがNo.1ヒーローだろうが、正直どうでもいい。俺は……目の前の敵を倒す。ただ、それだけだ。だから……」
戦慈が一瞬深く屈んだと思った瞬間、ドパン!!と音がして地面を砕いて姿が消える。
そして右腕を振り抜いた状態で、オールマイトの目の前に現れる。
オールマイトは目を見開いて、両腕を顔の前で交えて腰を据える。
「てめぇをブッ飛ばす!!!」
叫びながら右腕を振り抜き、オールマイトの両腕に拳を叩きつける。
オールマイトは堪えることが出来ずに、後ろに吹き飛ぶ。
「ぬおおお!!」
オールマイトは地面を数回跳ねて、手足を地面に突いて堪える。
そして顔を上げると、すぐ目の前に両手を組んで振り上げている戦慈の姿があった。
「っ!?」
「ヅゥルルァアアアア!!!」
獣の如く叫びながら腕を振り下ろす戦慈。
オールマイトは片膝立ちになり、頭の上で両腕を組んで受け止める。
スドォン!!と地面が1m近く沈んでクレーターを作る。
「くっ!オオオオオ!!」
オールマイトは雄叫びを上げて、全力で両腕を振り上げながら立ち上がる。
戦慈は両腕が上がり、腹部をがら空きにしてしまう。
「デトロイトォ・スマッシュ!!!」
戦慈の腹部にオールマイト渾身の右ストレートが突き刺さる。
(っ!しまった!?)
オールマイトは力を籠め過ぎたことに内心焦る。
戦慈はくの字に体を曲げて、吹き飛ぶかと思われた時、
オールマイトの右腕を戦慈の両手が掴む。
「!? なっ!!」
「ヅゥルアアアア!!」
戦慈は吹き飛びながら、体を仰け反りながら両腕を振り上げて、オールマイトを上空へと投げ飛ばした。
戦慈は体勢を整えて、すぐさま地面に手足を突いて滑りながらゲートの前で止まる。
そのすぐ後ろに、茨が走っていた。
「走り込め塩崎ぃ!!!」
「はい!!」
茨は戦慈の変化や戦いに一瞬気を取られていたが、すぐさま駆け出してゲートを目指していたのだ。
「飛び込め!!」
「もう2分もねぇぞ!!」
「頑張れー!!」
「いっけー!!」
「ん!!」
モニタールームでも全員心臓が爆発しそうな程興奮して叫んでいた。
上空に投げられたオールマイトも体勢を整えて、ゲートを見据える。
「ここまでとはな!!だが、ここまで来たら、そう簡単には行かせないぞ!!ヒーロー共!!」
オールマイトは体を回転させて、後ろに左腕を振り抜いて衝撃波を出して、一気にゲートへと飛ぶ。
戦慈はそれを見て、右腕を構えて両足に力を籠めて飛び上がる。
最後となろう戦慈とオールマイトの衝突に、一佳達は息を止めて見届ける。
その時、唯1人、徹頭徹尾戦慈の勝利を疑わなかった者の声が響く。
「……やっちゃえ、戦慈」
その声が聞こえたかのように、戦慈が右腕を振り抜きながら轟き叫ぶ。
「ヅゥアアアアアアア!!!」
ドッッッッパァアアアアアアン!!!!
右腕のコスチュームと籠手を弾き飛ばして、巨大な衝撃波が放たれる。
「テキサスゥ・スマァッシュ!!!」
オールマイトも右腕を全力で振り抜いて、衝撃波を放つ。
2つの巨大な衝撃波が激突し、周囲に台風が如き暴風が吹き荒れる。
「ぐぅ!」
「ぬぅ!」
空中にいた戦慈とオールマイトは流石に堪えようもなく吹き飛ばされる。
戦慈は衝撃波を放ったのもあり、後ろに勢いよく飛ばされる。
後ろを振り返ると、ゲートをくぐろうとしていた茨の背中があった。
「塩崎!!」
「はい?っ!?」
茨は振り返ろうとした瞬間、体に何かがぶつかり、何かに包まれながら転がる感覚に襲われるのであった。
暴風に巻き込まれたオールマイトは再び腕を振り抜いて、衝撃波を出そうとしたら、
バキン!
「え?」
右腕から音がして目を向ける。
そこにはヒビが入ったり、完全に砕けている重りが目に入った。
「……あ~……ちょっとやりすぎちゃったかなぁ……」
オールマイトは冷や汗を流して、壊れた重りを眺める。
そのまま背中からビルの壁に叩きつけられる。
「イダイ!?」
ビルに突っ込んで仰向けに倒れるオールマイト。
その時、
『拳暴・塩崎チーム 条件達成!』
アナウンスが流れて、試験終了が告げられた。
茨は転がる感覚が収まり、目を開けると目の前に戦慈の顔があった。
「拳暴……さん?……っ!?」
目を見開いて周囲を見渡すと、包まれていたのは戦慈の腕で、今も倒れている戦慈の上に乗っていた。
茨は慌てて戦慈の上から降りて、戦慈に声を掛ける。
「拳暴さん!拳暴さん!」
「……聞こえてんよ」
戦慈は呻くように声を出す。
それに茨はホッと息を吐くと、改めて周囲を見る。
どうやらゲートの外のようだった。
「私達は……」
「ま、なんとかクリアしたみてぇだな」
戦慈は寝転んだまま、茨に頷く。
茨はポカンとして、未だに実感がなかった。戦慈に巻き込まれながらゲートをくぐったので仕方がない事かもしれないが。
そのためか、茨は戦慈の体の方に気を取られる。
「拳暴さん?体の方は……」
「無茶し過ぎたみてぇだ。力が入らねぇ。最後はいつも以上に力が出たから、その反動だろうがな。俺はどうなってた?」
「体が僅かにですが更に膨れて、顔が赤くなってましたが……」
「そうか」
どうやら広島での力を少しは引き出せたようだ。正直無意識だったので、今はもう使える気はしないが。
戦慈はどうやったのか思い出そうとしていると、突如茨が戦慈の頭を抱えて膝枕をする。
「……何してんだよ」
「ハンソーロボが来るまで、そのままというのも」
「別に構わねぇよ。なんだったらお前のツルで運んでくれればいい」
「それはいけません。あれだけの貢献をした拳暴さんに、そのような所業……。鞭で打たねばなりません。ただでさえ、すでに私は鞭を打たれるべきだというのに……」
「過激すぎるわ。それに言っただろうが。どっちかが勝てば、両方の勝ちだってな。どっちが貢献したとかじゃねぇよ」
「……はい」
茨は小さく微笑んで頷く。それでも膝枕はやめなかったが。
結局ハンソーロボが来るまで、茨に膝枕される戦慈だった。
唯一の救いはハンソーロボは膝枕など気にせず、モニタールームはカメラが壊れて映らなかったことであった。
茨は戦慈がハンソーロボに運ばれる間も傍に付き添い、治療中も両手を組んで見守っていたのであった。
そして、オールマイトは突っ込んだビルの中でアナウンスを聞いていた。
「……これは完敗だね。最後の方は重りがあったとはいえ、少し本気を出さざるを得なかったし。ゴホッゴホッ!」
オールマイトは立ち上がり、咳込む。
口元を押さえた手には血が付いていた。
「……緑谷少年といい、爆豪少年といい、そして拳暴少年といい、本当に素晴らしい卵が現れてくれたよ。それに……倒れても仲間がいる、か」
オールマイトは血を見下ろしながら呟く。
先ほどの戦慈の言葉が、色々と胸に突き刺さっていた。
「そうだね。私も……彼らの事を叱れない。今まさに身を滅ぼすことをしているのだから」
少しずつ戦える時間が短くなっている。
なのに世間では敵連合の脅威が高まっている。
普通に考えれば、もしもの時に備えて力を温存するのがベストである。ただでさえ《ワン・フォー・オール》は緑谷に渡したのだから。
もう回復することはない。ただ衰えていくのみである。
それでもオールマイトはNo.1ヒーローとして立ち続けている。
「……緑谷少年が無茶する原因は、私への憧れ…か」
あらゆる敵を倒し、多くの人を救うNo.1ヒーローだからではない。
血を吐くほどボロボロの体で、それでも笑って平和の象徴としていようとするNo.1ヒーローに憧れている。
「……本当の私を知るからこそ、彼は無茶をする。ボロボロの自分になることを厭わない」
けど、己とて今更止まれない。
ボロボロであろうと、ボロボロになろうと、戦えるなら戦いたい。
そう思ってしまう。
「しかし、この背中を追わせるのは違う。緑谷少年や拳暴少年に同じ道を進ませるわけにはいかない……!」
ボロボロになってまで戦うのは、自分だけで十分だ。
彼らには仲間がいる。必要以上に泣かせるわけにはいかない。
そう誓う。
「っと、拳暴少年達は大丈夫かな!?」
あれだけボコボコにしといて忘れていた。
慌ててゲートに向かうが、ハンソーロボが迎えに来ており、丁度運ばれるところだった。
そこにミッドナイトがやってきて、治療終了後に反省会となった。
オールマイトはトゥルーフォームに戻って、控室に入る。
そこには恐ろしく目を鋭くして睨みつける相澤がいた。
「あ……相澤君……?」
「……やりすぎでしょう。ステージ半壊に、重りまで壊して。それに最後の方、本気だったでしょ?拳暴は体を壊さないような戦いを意識させるのも課題だったのに、初っ端の一撃はともかく、後半は何おもいっきり殴ってんですか」
「うぐっ!?」
「拳暴は、また、右腕の骨折に左腕にヒビ。肋骨も2本折れて、腹部は強い打撲。広島ほどではないですが、筋肉酷使。昨日の緑谷よりボロボロにしてどうするんです?」
「うぅ!?」
相澤の言葉に冷や汗を流して、後ずさる。
それにミッドナイトやセメントス達は苦笑する。
「まぁまぁ、落ち着きなさいよ」
「拳暴君に関しては、彼自身が仕掛けたのもあります。それにあの猛攻では、オールマイトとて抑えきるのは容易ではなかったでしょう」
「……はぁ」
ミッドナイトとセメントスの言葉に、相澤は顔を顰めてため息を吐く。
「まぁ、もっと叱らないといけない奴もいるんで、これくらいにしときます」
「マイクの事ね」
「まぁ……2日連続で気絶させられてますからね」
「騒ぐばっかでトレーニングサボってるからこうなるんだ」
ミッドナイトと13号が呆れながらプレゼントマイクの事を思い出す。
ちなみにプレゼントマイクは現在、校長とエクトプラズムの2人がかりで反省会をさせられている。流石にハンデありとは言え、プロヒーローが撃退させられるのは少し問題だった。
この試験の条件達成は『ゲートからの脱出』か『ハンドカフスを掛ける』こと。教師は気絶させられないこと前提である。それが2日連続で気絶しているのだ。説教にもなるだろう。ただでさえ有利な相手と戦っているのだから。
「ちゃんと感想戦で、拳暴には注意しといてくださいよ。拳暴がボロボロになられると、緑谷への説得力が無くなる」
「……はい」
「まぁ、林間合宿でもそこを課題にするつもりですが」
相澤の全く信用されていない視線を向けられて、肩を落としながら頷くオールマイト。
それに続く相澤の言葉にミッドナイトは首を傾げながら尋ねる。
「いけるの?広島で見せた暴走状態の力も少し使え始めてるみたいだけど」
「しないよりはマシです。せめて今行ける範囲は負担を無くしたいところですね」
「衝撃波が入り乱れるのだけでも何とかしたいですね」
「そうだな」
13号の言葉に相澤も頷く。
ブラドは現在、生徒達に労いと今後の予定を伝えに行っている。と言っても今日は解散だが。
こうして期末試験は終わりを迎えた。
校舎内の保健室には、B組全員が戦慈の見舞いに来ていた。
「全員で来るなよ……」
「そう言わないでよ。それだけ心配したし、興奮したんだよ」
「そうだぜ!!あのオールマイトにあそこまで粘ったんだからな!!」
「ハンデありだったけどね」
「物間は黙ってようぜ。1人だけ捕まったじゃん」
「あははは!言うなよぉ!」
戦慈は包帯を巻かれながら呆れて全員を見る。
切奈が手をパタパタしながら笑って、鉄哲が右手を握り締めて未だに興奮している。
そこに物間がいつも通り水を差そうとするが、泡瀬にツッコまれて笑って誤魔化すことになる。
「ほい、終わったよ。それにしてもお前さん、本当に《自己治癒》してんのかい?緑谷より回数多いね」
「言われなくても自覚してる。けど、それだったらオールマイトにも苦情出しといてくれ」
「当たり前さ。あのバカは本気で一回ぶん殴らないといけないね」
「やっといてくれ」
「お前さんも殴ってやりたいよ。全く」
「……お馬鹿」
「あはは……」
リカバリーガールと戦慈のやり取りに、里琴がツッコみ、一佳も苦笑いしか出なかった。
そこに茨が前に出て、改めて戦慈に頭を下げる。
「申し訳ありません。私が未熟なばかりに……」
「お前さんが謝る必要はないよ。前半はともかく、後半の殴り合いはこの子とオールマイトの自業自得さね」
「しかし……」
「やめてくれ、塩崎。リカバリーガールの言う通り、最後の方は俺の意地だっただけだ。お前に偉そうなこと言っときながらな」
「そんなことはありません。私の意地で拳暴さんがそうなったのですから」
互いに責任を引き受け合う戦慈と茨。
そこに切奈が声を上げる。
「あー、やめやめ!2人で戦ったんだから、どっちも良くて、どっちも悪かったってことでいいじゃん」
「そうだよ。互いに反省する点があるなら、これから直していけばいいさ」
「物間も見習えば?」
「あははは!」
切奈の言葉に一佳も頷き、それにかこつけて柳が物間に標的を移す。
物間は全く言い逃れ出来なかったので、笑うしか出来ない。
「……はい」
「まぁ、もうオールマイトみてぇな奴と戦いたかねぇけどな」
「そりゃそうだ」
「俺らも嫌だわ」
「っていうか、あの戦い見てただけでも死ぬかと思った」
「そうだよね!ドドンって感じで、ドガガガーンって凄かったもん!」
「分かりづらいですぞ」
茨はまだ納得しきれていない様子で頷き、戦慈は肩を竦める。
それに円場と回原、鱗、吹出が同意し、吹出の表現に宍田が首を捻る。
「ほら!終わったから、もう帰った帰った!明日も学校はあるんだよ!」
リカバリーガールの言葉に全員で保健室を後にし、更衣室に向かう。
制服に着替えて、その後下校する。
未だに試験の興奮は冷めず、各々試験の感想を語り合いながら下校していく。
もちろん戦慈はいつも通り、女性陣に囲まれて下校する。
「それにしても、やっぱプロヒーローって強いね~」
「ハンデありとは思えなかった」
「ん」
「それにあんまり動いてなかったしな」
切奈が試験でプロヒーローとの差を実感して、しみじみと話す。
それに柳と唯も頷き、一佳も眉間に皺を寄せながら頷く。
「けど、皆さんクリアしたデス!」
「そういや、そうだね。赤点ってどうなるんだろ?」
「物間が一番怪しい」
「捕まったからなぁ」
「ってなると、里琴も怪しいがな」
「……マジ殺す」
「「物騒になった!?」」
ポニーが嬉しそうに語ると、切奈が首を傾げ、柳が物間の名前を出す。
一佳も悩まし気に頷くと、戦慈が隣を歩く里琴を見下ろす。
すると里琴が無表情ながら黒いオーラを出して、物騒な言葉を呟き、一佳と切奈が驚く。
その間も茨は両手を組んで、深刻そうな表情を浮かべていた。
それを一佳達は心配そうに横目で見ながら、戦慈に目を向ける。
「……俺にこれ以上どうしろってんだよ」
「分かってるけどさ。一番元気づけられるのはお前だと思うんだよ」
「そうそう」
「ん」
「……男を出せ」
気持ち小声で戦慈が呟くと、一佳も小声で答える。
切奈や唯達も頷き、里琴も謎の言葉をかけてくる。
それに戦慈はため息を吐いて、茨に顔を向ける。
「塩崎、まだ悩んでんのか?」
「……はい。結局、私はどうすればいいのでしょうか?」
間違ってないとも言われたが、間違っていたとも言われた。
そして、戦っていないし、最後は拳暴のおかげとも言えるので、戦わずにゲートを目指すという行動が正しかったのか分からないのだ。
だから、これから自分が何を目指していけばいいかが分からなくなってしまった。
「今まで通りでいいだろ、別に」
「……え?」
「正々堂々と戦うことを目指して何が悪いんだよ」
戦慈はあっけらかんと言い放つ。
それに茨は眉間に皺を寄せながら俯く。
「しかし……」
「オールマイトが言いたかったのは、正々堂々と戦うための優先順位を間違うなってことだ」
「優先順位……」
「救けるべき人を放置するなってことさ。気兼ねなく正々堂々と戦いたいなら、一般人や怪我人をさっさと逃がしたり、火事やら爆弾やらをどうにかして、相手に嫌でも自分と戦わせるように仕向ければいい。ただし、相手が自分より強かったら、どうするのかってのも考えておくべきだがな。今回はそこを考えずに前に出たから言われただけだ」
戦慈の言葉に顔を上げる茨。
「だから、お前が……俺らがやることは強くなることだ。強くなれば自然と出来ることは増えて、人も救けられるし、その上でヴィランを倒せる。弱いままでどんだけ悩んだって、答えは出ねぇよ。出来ねぇんだからな」
「……」
「迷うことなんてねぇよ。目指すところも変える必要もねぇ。ただ、その時々でヒーローとしてやるべきことを、まずは考えれるようになればいい。それだけだ。難しいことか?」
「……いいえ」
茨は首を横に振る。
何故なら、そのために雄英にいるからだ。嫌でも学んでいくことになる。
「お前は間違ってねぇよ。これからも頑張っていけばいい」
ヒーローとして学び出して半年も経っていない。
自分の考えが間違っているなんて、簡単には決められない。
少なくとも戦慈は『正々堂々と戦って悪を倒す』と言う信念が、間違っているとは思わない。
だから大事なのは、その信念をどう貫くかである。
今回はその信念
戦慈はそう思っている。
「……はい」
茨はようやく笑みを浮かべて頷く。
一佳達も笑みを浮かべて、戦慈は肩を竦めて背を向けて歩き出す。
茨は戦慈の背中に頭を下げる。
「ありがとうございます。拳暴さん」
「気にすんな。お前ならいずれ自分で気づいただろうよ」
「……照れ屋」
「ん」
「何がだよ」
「あははは!」
いつも通りの雰囲気に戻る戦慈達。
茨は頬笑みを浮かべて、戦慈の背中を見つめる。
「もし、次があるのなら……」
誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
「貴方の背中ではなく、貴方の隣で戦いたい。この願いも……間違っていませんよね?」
もちろん答えは返ってこない。
返って来てほしいとも思っていない。
自分を支えてくれた人を、支えたい。
その思いが間違っているかどうかなんて、聞くまでもないことだろう。
茨は新しく芽生えた願いを両手で包んで、胸元に添えるのだった。
高校一年生に対して本当にスパルタですよね。
雄英高校って。まぁ、倍率考えれば仕方がない事なのかもしれませんがw
さて、次回からはちょっと頑張って、ほのぼの日常と林間合宿までの夏休みを描いて行きたいと思います!