『拳』のヒーローアカデミア!   作:岡の夢部

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拳の参 1年!B組!

 高校生活初日。

 戦慈、里琴、一佳は今まで同様3人で登校していた。

 制服は変わっているが、雰囲気は今まで通りだ。戦慈はネクタイを緩めて着用しており、里琴や一佳が注意しても直さなかった。

 

「2人もB組?」

「ああ」

「……ん」

 

 3人とも同じクラスだったようだ。

 

「腐れ縁だな」

「うるせぇよ」

 

 そして雄英の校門を潜り、教室を目指す。

 

「やっぱり広いし、大きいよなぁ」

「ここまでデケェ奴なんていんのか?」

「……『個性』許可」

「ああ、学内で『個性』使っていいのか」

 

 巨大化系の『個性』持ちの事を考えているのかと納得する一佳。

 戦慈は「それにしては逆に狭くねぇか?」と内心思っていたが、口には出さなかった。

 

 そして【1-B】と書かれた巨大な扉がある教室に着き、一佳が扉を開ける。

 中では骸骨のような顔をした男子、顔がカマキリみたいな男子、髪の毛が茨になっている女子など個性的な見た目の者達がいた。

 戦慈達は自分の席を確認する。

 

「一番後ろ端か」

「……隣」

「私は拳暴の前だな」

 

 戦慈は廊下側の一番後ろ、里琴はその隣、一佳は戦慈の前だった。

 席に着いた3人を周囲も注目していた。

 

「後ろの2人が入試実技TOP2か……」

「やっぱり雰囲気があるな」

 

「やっぱ注目されてるな」

「どうでもいいわ」

 

 一佳がニヤニヤしながら声を掛けると、戦慈は頬杖をついて顔を顰める。

 その後も続々と教室に生徒が集まり、予鈴が鳴る。

 

 その直後に入ってきたのは赤いコスチュームを身に纏う男。プロヒーローのブラドキングだ。

 

「ブ……ブラドキングだ……!」

「本当にプロヒーローが担任なのか」

 

 ブラドキングの登場に騒めく生徒達。

 戦慈と里琴は特に興味なさげに眺めていた。

 

「諸君。ようこそ雄英高校ヒーロー科へ!俺が君達B組の担任を務めることになったブラドキングだ。少し長いからな、ブラドと呼んでくれ」

 

 教壇に立ったブラドはさっそく自己紹介を始める。

 その後、簡単にガイダンスの説明を始めるが、その時隣の教室から人が大勢出ていく気配がする。

 

「え?まだ入学式の時間じゃ……」

「イレイザー……早速か」

「どういうことですか?」

 

 生徒の数名が首を傾げていると、ブラドが目を細めて腕を組んで唸る。

 それにバンダナを巻いた男子生徒が声を上げる。

 

「雄英は入学式やガイダンスなどは教師の判断で出る出ないが決められる。A組の担任のイレイザーヘッドは合理性の塊だからな。恐らく『個性』把握テストを行うつもりだな」

「『個性』把握テスト?」

 

 黒髪ロングの女子生徒が首を傾げる。

 

「『個性』を使用した体力テストのことだな。それで得意不得意を把握し、今後の改善点や伸ばすべきところを自身で把握することが出来る」

 

 ブラドの説明に理解して頷く生徒達。

 それに黒目が小さく灰色髪の男子生徒が手を上げる。

 

「先生!!俺達もすぐにやりましょう!!」

「落ち着け。確かに迅速に動くことは重要だが、焦って動くことは危険が伴う。俺はお前達には時間を有効に使い、されど堅実に成長してもらいたい」

「せ……先生……!!」

 

 ブラドの言葉に手を上げた男子は感動して目を潤ませる。

 

「……すでに暑苦しい空気が出来てやがる」

「……面倒」

 

 戦慈と里琴はその様子を呆れながら見つめる。その言葉に一佳も苦笑する。

 悪いわけではないが、初日からというのは勘弁してほしいというのが本音である。

 

 B組も入学式には出ず、カリキュラムの説明やヒーロー基礎学における注意事項を説明するブラド。一つ一つ質問を受け付けて、生徒達に今後の活動に明確なイメージを持たせる。

 

「お前達にとって、まずは明日から早速始まるヒーロー基礎学での各訓練。そして体育祭が大きな関門になるだろう」

「体育祭……!!」

「そうだ。ヒーロー科にとっては、ここでの成績が今後の学校生活にも大きく響くことになる。推薦だろうが入試実技1位だろうが関係ない!体育祭こそがヒーロー科にとって本当の順位付けとなると言ってもいいだろう!」

 

 ブラドの言葉に数人の生徒が気合を入れるように両手を握る。一佳も高揚してグッ!と両手を握る。

 

 こうして初日は終了し、明日に備えて下校となった。

 戦慈、里琴、一佳は校内の施設を見学しようと回ることにした。

 

「体育館だけで何個あんだよ」

「校内にバスがあるぞ?」

「……広すぎ」

「まぁ、普通科やサポート科とかまでカバーするとこうなるんだろうな。部活もあるらしいしさ」

「金掛けてやがんなぁ」

「だからこそ、倍率300以上で最も難しいって言われてるんだろうな。こんな施設を使わせてもらって鍛えられたら、そりゃあ有名にもなるよ」

「……食堂」

「食堂もプロヒーローがいるんだっけか?」

「本当に贅沢だよな」

 

 改めて雄英の凄さを確認して、帰宅する戦慈達。

 

 戦慈はすぐに着替えると、ガチャっとドアが開く。

 もちろん里琴である。

 里琴も制服から着替えて、黄色のTシャツに白のホットパンツと身軽な格好だった。右手には大根などが見えるバッグを持っていた。

 

「……だから鍵はどうやって開けたんだよ」

「……合鍵」

「いつの間に持っていきやがった!?」

「……初日」

「返せ!」

「……返した」

「複製したのかよ!?」

「……ブイ」

 

 無表情ながら得意げな雰囲気でピースをする里琴に、戦慈は仮面の額を右手で押さえてため息を吐く。

 里琴は勝手知ったるという感じで台所に向かい、バッグを置き、冷蔵庫から食材や調味料を取り出していく。ここに引っ越してからは何も言わずとも里琴が戦慈の部屋にやってきて手料理を振るまっていた。

 戦慈も当初は顔を顰めたが、作り始めたのをわざわざ止めるのももったいないし、作らなくていいと言っても無視されたのでもはや何も言わなくなった。

 

 晩御飯を食べて、のんびりしているとチャイムが鳴る。

 戦慈が立ち上がる前に里琴が立ち上がり扉に向かい、扉を開ける。

 そこにいたのは一佳だった。

 

「……やっぱりこっちにいたのか」

「……当然」

 

 呆れながら里琴を見下ろす一佳。里琴はそれを恥じることなく、堂々と頷く。

 戦慈が里琴の後ろからユラリと現れる。

 

「で?何しに来たんだよ?」

「晩御飯のおすそ分けだよ。今日、うちに親が来てたんだ」

 

 一佳はビニール袋に入れられたタッパーを掲げる。

 それを里琴が受け取り、中を確認して冷蔵庫に仕舞う。

 

「それにしても里琴は相変わらずだな」

「合鍵までいつの間にか複製してやがったからな」

「……そっか」

「……これ」

「「ん?」」

 

 戻ってきた里琴が一佳にタンブラーを渡す。

 一佳は首を傾げ、戦慈は顔を顰める。

 タンブラーを受け取った一佳は蓋を開けて、中を見る。

 

「コーヒーか?」

「……戦慈の」

「拳暴が淹れた?」

 

 一佳の言葉に頷く里琴。

 

「お前、コーヒーなんて淹れるのか?」

「わりぃか?」

「違う違う。私もコーヒー好きだからさ」

「てめぇの好みの豆や焙煎かは知らねぇけどな」

「けど、このタンブラーは?」

「予備の奴だろ?」

 

 戦慈の問いに里琴はコクリと頷く。

 

「予備?」

「俺は豆でタンブラー変えてんだよ。洗っても匂いが残ることが多いかんな。匂いが混ざったりするのが嫌なんだよ」

「こだわってんなぁ」

「料理と同じだ。うめぇもんにはこだわるべきだろうが」

「そりゃそうだ。サンキュ。頂くよ」

 

 一佳は笑顔を浮かべて、帰っていく。

 見送った戦慈は、里琴に顔を向ける。

 

「なんでいきなりコーヒーなんだよ?」

「……思い出した」

「コーヒーが好きだって?」

「……ん」

 

 里琴の答えに戦慈はため息を吐き、部屋に戻る。 

 里琴も部屋に戻り、いつ間にか持ってきていたクッションに座る。

 

 再びのんびりした空気が流れる部屋だった。

 

 

 

 翌日。

 1,2限は普通教科で、本日の3,4限は『個性』把握テストとなった。ヒーロー科は週2回3,4限は演習・実習が行われるとのこと。

 B組一同はジャージに着替えるために更衣室に向かう。

 

 戦慈はジャージに着替えていると、後ろから声を掛けられる。

 

「拳暴。お前、凄い体つきしてんな」

「あん?」

 

 声を掛けてきたのは、昨日ブラドの言葉に感動していた灰色髪の男子生徒だった。

 

「俺ぁ鉄哲徹鐵ってぇんだ。よろしくな!」

「おう」

 

 ニカ!と笑って自己紹介する鉄哲に戦慈は軽く相槌するだけで答える。

 そこに他の男子生徒達も近づいてくる。

 

「俺、骨抜柔造。よろしくな」

「回原だ」

「私は宍田獣郎太と申しますぞ」

 

 次々と自己紹介を始める男子達。

 それに少し鬱陶しさを感じ始めた戦慈だったが、

 

「あれれれれぇ!?入試2位さんは随分と余裕だねぇ。僕達は眼中になさそうだねぇ?」

 

 金髪の優男が嫌味全開で戦慈に声を掛けてきた。

 

「そう言えばヴィジランテ活動してたんだっけ?もうヒーロー気取りってわけぇ!?カッコいい仮面はその表れかな!?」

「なんだテメェは?」

「僕は物間寧人。眼中にないだろうけど、君のクラスメイトさ」

 

 物間の言い方に鉄哲達も顔を顰める。

 

「なんでお前はそんなにケンカ腰なんだ?」

「ケンカなんてとんでもない。僕はただ優秀な彼から話を聞きたいだけさ!」

「そんな風には聞こえねぇよ」

 

 なんだこいつ。と戦慈を除く全員が物間の言動に少し引いている。

 戦慈はもはや我関せずと着替え終えて、更衣室を後にしようとする。

 

「あれ?無視かい?ヒーローを目指しているのに人の声を無視するのかい?」

 

 戦慈はそれも一切無視して更衣室を後にする。

 それに物間は肩を竦めてため息を吐く。

 

「やれやれ。孤高の狼気取りかな?」

「本当に何だお前」

 

 鉄哲達も物間の言動に呆れて、移動を開始する。

 物間はそれを全く気にする様子もなく、後に続く。

 

 グラウンドにはブラドと四角い顔をしたセメントスというヒーロー教師が並んで立っている。

 

「全員集まったな。では、これから『個性』把握テストを開始する。50m走、ソフトボール投げ、握力、持久走、立ち幅跳び、反復横跳び、長座体前屈、上体起こしの8つだ。これら全てを己の『個性』を活かして記録を出してもらう」

「中学での『個性』禁止での結果と比べることで、通常と『個性』使用時の明確な差を把握してもらって、それによって自分の『個性』の特徴を理解するのが目的だよ。同時に中学の時と変わらない種目においては、そこをどうやってカバーするかを今後の訓練やコスチューム改良で創意工夫してもらいたいってことさ」

 

 ブラドとセメントスの説明に頷く一同。

 第1種目は50m走。

 

 出席番号順で行っていくことになり、一佳はカマキリ顔の者と走る。

 

「私、拳藤一佳。よろしくな」

「俺は鎌切尖だ」

 

 そして合図と共に走り出し、ゴールまで駆け抜ける。

 タイムは6秒71。中学よりは少し速くなっている。

 

「ふぅ。ぶっちゃけ、私の『個性』じゃなぁ」

 

 一佳の『個性』は両手を大きくすること。シンプルではある分、今回のようなテストのようにあまり活かせないことが多い。

 

「次!拳暴!小大!」

 

 次にスタート位置に着いたのは戦慈と黒髪ボブの女子生徒。

 2人は特に会話をすることなく、スタート準備をする。そして周囲は戦慈の記録を見ようと注目する。

 

 スタートの合図と同時に戦慈は両脚に力を入れて駆け出す。そのパワーにスターティングブロックが吹き飛ぶ。

 戦慈は低姿勢のまま両脚を高速で回して、一気に駆け抜ける。

 

「4秒01!」

「ちっ。体が温まってねぇとこれくらいか」

 

 戦慈は舌打ちをして不満を露わにする。

 周囲は戦慈の記録に腕を組んで唸る。

 

「身体強化にしても速いよな」

「速いし、あのパワーだろ?やべぇな」

「ふん。やるじゃないか。さて……誰のがいいかな?1位さんも気になるな」

 

 物間は余裕気に笑いながら、周囲の者を見渡している。

 戦慈はグルグルと右肩を回しながら下がる。

 

「流石だな」

「体が中々温まらねぇからな。あんなもんだ」

「あぁ~、お前の『個性』はなぁ。あ、唯もお疲れさん」

「ん」

 

 一佳は戦慈の言葉に納得するように頷いて、戦慈の後ろから近づいてきた女子生徒に声を掛ける。 

 小大唯。

 里琴同様表情が希薄で、基本的に「ん」しか話さない。

 一佳は先ほど更衣室で挨拶して、ある程度性格を把握している。なんとなく里琴に似ている部分もあって、すぐに仲良くなった。

 

 そして里琴の番になり、里琴がスタート位置に着く。

 里琴はスターティングブロックに足を掛けて、スタートの姿勢になる。

 

「あれ?あいつ、『個性』使わないのか?」

「使うに決まってんだろ」

 

 一佳が首を傾げる。

 スタートの合図と同時に里琴の足裏から竜巻が発生して、ロケットのように高速で前方に飛んでいく。そのまま低空飛行で一気にゴールまで飛行する。

 

「2秒26!」

 

 里琴の記録に騒めくクラスメイト達。

 里琴はそのまま飛んで戦慈の腕に掴まって着地する。

 

「……こんなもん?」

「だろうな」

「いやいやいや。速いよ十分」

「ん」

「……ん」

 

 首を傾げて戦慈を見上げる里琴に、戦慈は頷く。それに一佳が突っ込んで、唯も同意するように頷く。

 それに里琴が首を傾げて、唯の口癖を真似する。

 そこに物間が笑いながら近づいてくる。

 

「あははは!いやぁ凄いね!流石1位さんだよ!」

「なんだこいつ?」

「知らねぇ」

「……うざ」

「ん」

「僕は物間寧人。よろしく。巻空さん」

 

 訝しむ一佳達を無視して、里琴に右手を差し出す物間。どうやら握手を求めているようだ。

 それを里琴はジィーと見て、

 

「……きもい」

 

 と、手を握ることはなかった。

 

「あははは!手厳しいねぇ!」

「本当になんだこいつ」

「だから知らねぇって言ってんだろ」

「拳暴くん。君は巻空さんと仲が良いみたいだね」

「ガキの頃から一緒だかんな」

「幼馴染って奴かい?」

「違わねぇけど違ぇよ。施設が一緒って意味だ。俺らは親に捨てられた身だかんな」

 

 腕を組みながらめんどそうに答えた戦慈の言葉に、物間はまた嫌味を言おうとしたのか、楽し気に口を開こうとして固まる。一佳や唯、そして何気なく聞き耳を立てていた全員が目を見開いて固まる。

 物間はパクパクと口を開閉させるが、言葉が上手く出ないようだったが、徐に頭を下げる。

 

「デリカシーが足りなかったようだ。申し訳ない」

「気にすんな。別に隠してたつもりはねぇしな」

「……慣れてる」

 

 謝罪する物間に戦慈は肩を竦め、里琴も頷く。

 頭を上げた物間は真剣な顔で、また里琴に右手を伸ばす。

 

「ということで、今後とも仲良くやろう!」

「……帰れ」

「真面目な奴なのか、嫌味な奴なのかどっちなんだ?」

「嫌味に真面目な奴なんだろ」

「あぁ……」

「ん」

「本当に手厳しいな!」

「いい加減何を企んでるか話しやがれ」

「……本当に手厳しいね」

 

 なんとなく物間の性格を理解してきた一佳達。

 それでもまだ退く様子のない物間に、戦慈が目を鋭くして睨む。それに物間は肩を竦めて苦笑する。

 

「僕の『個性』は《コピー》。触れた相手の『個性』を5分間使うことが出来るんだ」

「……強い」

「なんでそんな『個性』なのに挑発的な言動なんだよ」

「ん」

「それで里琴の『個性』を使いてぇってことか」

「そうだね」

「……嫌」

「だそうだ。それとテメェの番だぞ」

「……仕方ないな」

 

 物間の残念な性格に呆れながら、不敵に笑いながらも明らかに気落ちしている物間の背中を見送る。

 嫌味さえ言わなければ、握手くらいは出来たかもしれない。

 凄いはずなのに残念な奴。

 物間の印象が確定した瞬間だった。

 

 続いて、握力。

 一佳は65Kg、戦慈は108Kg、里琴は32Kg。

 

「力も強いのか!怖いなぁ拳暴は。拳藤さんは僕を殴るのだけはやめてくれ」

「うるさい!」

「カフっ!」

「……お見事」

「ん」

 

 物間がさりげなくすり寄ってきて、一佳の記録を見て、また嫌味を言う。

 それに一佳が物間の首に手刀を叩き込み、物間はその場で崩れ落ちる。

 鮮やかな手刀に里琴と唯が称賛するように拍手をする。

 

 これが物間の最初のお仕置きだった。

 

「手はデカくしなかったのか?」

「……デカくしたら握れないんだよ」

「……ドンマイ」

 

 3種目は立ち幅跳び。

 一佳は2m35、戦慈が5m12、里琴が無限。

 

「飛べるのって、やっぱずるいよな」

「ん」

「……ブイ」

 

 4種目。反復横跳び。

 一佳は55点、戦慈が102点、里琴が62点。

 

「竜巻を反動に使うなんて……」

「……ブイ」

「ちっ。休み休みで力が上がらねぇ」

「十分な記録だ」

「ん」

 

 5種目。ソフトボール投げ。

 一佳が69m、戦慈が701m、里琴が2791m。

 

「本当にすごい『個性』だな」

「ん」

「……ブイ」

「ちっ」

 

 6種目。上体起こし。

 一佳が37回、戦慈が61回、里琴が32回。

 

「ここでも竜巻の反動が使えるなんて……」

「……ブイ」

「本当に器用な奴だな」

「ん」

 

 7種目。長座体前屈。

 一佳は47cm、戦慈が62cm、里琴が32cm。

 

「手の巨大化は駄目だったのか?」

「伸びるわけじゃないしな」

「……ドンマイ」

「ん」

 

 8種目。持久走。

 一佳は3分56秒、戦慈が2分46秒、里琴が1分22秒。

 

「里琴は飛んでるから当然として、拳暴も全然スピードが落ちないな」

「……ブイ」

「俺は走れば逆にパワーが上がるんだから当然だろうが」

「そりゃそうだ。やっぱりすごいよ、お前らは」

「ん」

 

 こうして全ての種目が終了。

 結果、里琴が1位で拳暴が2位。一佳は13位だった。

 

「やっぱあの2人が飛び抜けているな」

「拳暴くんは極端でもないが全体的に身体能力が高い。巻空さんは『個性』の微調整と使いどころが見事ですね。元々強力なのもありますが、それに胡坐を組んでいるわけでもない」

「拳暴は持久走を見ていると、かなりのスロースターターのようだな」

「そうですね。個性届では『アドレナリンが出れば出るほどパワーが上がる』とありましたね」

「ああ、恐らくそうなるとこの記録は全て塗り替えられるんだろうな。事実、入試ではロボットを吹き飛ばしたわけだしな」

 

 ブラド、セメントスが2人の結果を見ながら話す。

 

「午後の戦闘訓練が楽しみですな」

「怖くもあるがな」

 

 ブラド達は午後のヒーロー基礎学を思い浮かべて笑みを浮かべる。

 

 

 

 戦慈は制服に着替える。

 そこに鉄哲達が興奮しながら戦慈に話しかける。

 

「やっぱスゲェぜ!拳暴!」

「推薦入学したのに悲しくなるぜ」

「ってゆうか拳暴はなんで推薦受けなかったんだ?あと巻空も」

「俺は暴れまくってて内申点最悪だったかんな。里琴の奴は知らん」

 

 戦慈の言葉にバンダナを巻いた男子生徒の泡瀬が思い出したようにポン!と手を叩く。

 

「あぁ、そういえばネットに教師に目の敵にされて不良扱いされてたって書いてたな」

「ひでぇ教師だな!」

「そうでもねぇだろ。実際、俺がやってたのは犯罪なんだからよ。警察や他の連中が中学生ってことで見逃してくれてただけだ」

「人助けして不良っておかしいだろ!?」

 

 鉄哲が戦慈の中学教師の事で両手を握り締めて歯軋りまでして悔しがる。

 そこに物間が肩を竦めて悟ったように語る。

 

「暴力は暴力ってことだよ。ヒーローでもない奴が人助けしても誰もが褒めてくれるわけないさ」

「間違ってないけど、君が言うのは何か違う気がする」

 

 小太りの男子生徒、庄田が物間を呆れた目で見ながら、はっきりと告げる。

 その後ろで鎌切と頭部が液体チューブの形状の男子生徒、凡戸が頷いている。

 何だかんだで仲良くなっていく男子達だった。

 

 

 

 

 女子の方も人数が少ないのもあり、仲良くなっていた。

 

「巻空と拳藤って中学一緒?」

「そうだよ。あと、一佳でいいよ」

「……里琴」

「私も切奈でいいよ」

 

 着替えながら黒のロングヘアでややきつめの顔をしている女子生徒、取陰切奈が一佳達に話しかける。

 切奈の質問に頷いていると、頭に角が生えた女子生徒、角取ポニーが首を傾げる。

 

「拳暴サンもデースか?」

「施設一緒って言ってたんだし、そうじゃない?」

「ん」

「そうだね。私は同じクラスだったよ。里琴は隣」

「……ズル」

「何がだよ!?」

 

 そして髪の毛がツルになっている女子生徒、塩崎茨が胸の前で両手を組む。

 

「困難を乗り越えて、雄英に2人揃って入学。素晴らしい絆です」

「……ブイ」

「でも、なんで推薦受けなかったのさ?おかげで私は助かったけど」

 

 推薦入学の切奈が里琴に尋ねる。

 

「……嫌」

「は?」

「あ~っと……拳暴が一緒じゃないと嫌だった?」

「……ん」

「ん」

「ややこしい」

 

 里琴の言葉を一佳が通訳する。

 里琴と唯の頷きに片目を髪で隠している女子生徒、柳レイ子がツッコむ。

 

「拳暴も推薦行けたんじゃん?」

「いや、拳暴は教師達に嫌われてたからな。私だって拳暴の人助けの事知ったの、中3の春だったしな。学校ではケンカばかりの不良って言われてた」

「いつの世も真の正義は理解されない……悲しい事です」

「かわいそ」

「ん」

「あいつもそれが分かってたんだろうなぁ。里琴が学校で拳暴に近づかなかったのって、それが理由だろ?」

「……ん。……言われた」

 

 一佳の言葉に里琴は頷く。

 それに切奈達は悲しそうな顔を浮かべる。

 良い事をしているのに認めてもらえず、それによってずっと一緒にいた人に近づくなと言われるのは辛いことだと思ったのだ。

 

「仮面で表情分かんないし、ぶっきらぼうな感じだけどいい奴なんだな」

「ん」

 

 しかし、それは風評から里琴を守るためだったというのも分かる。

 そんな戦慈の優しさに尊敬の念を覚える切奈達。

 

「それで今雄英トップですネー!」

「……ブイ」

「一佳は大変だな」

「もう諦めた」

 

 切奈の言葉に一佳は苦笑する。

 その後もワイワイと話しながら教室に戻ると、里琴が早足で戦慈の元に向かっていく。その姿を一佳達は苦笑して見送る。

 

 そして昼食となり、戦慈、里琴、一佳、唯、柳の5人で食堂に向かう。

 

「……俺は外した方がいいんじゃねぇのか?」

「……嫌」

「ってことだ」

「ん」

「がんば」

「……そうかよ」

 

 小さくため息を吐く戦慈。それに一佳は少し申し訳なく思ったが、その時戦慈の左手にタンブラーが握られているのを見て、あ。と思い出す。

 

「拳暴。昨日のコーヒー、すっごく美味しかったぞ。タンブラーは帰りにでもいいか?」

「いつでもいい」

「……おかわりは?」

「え?」

 

 里琴が何故か一佳に次はどうするのかと質問する。

 それに一佳が首を傾げると、戦慈が里琴に顔を向ける。

 

「今日は豆がちげぇよ」

「……気にするの?」

「別にそこまで豆に拘ってないけど……」

「……じゃあ、おかわり」

「なんで里琴が決めてんだよ」

「……自慢」

「なんのだよ」

 

 戦慈は呆れながらツッコむが、里琴は相変わらずの無表情でスルーする。

 それに戦慈はため息を吐いて、それ以上口を開くことはなかった。

 

「……面白いかも?」

「ん」

「あはは……」

 

 柳が2人のやり取りの微笑ましさを面白がり、唯も同意するように頷く。

 一佳は苦笑するが、内心では柳の言葉に同意している。戦慈は里琴が絡むと途端に硬派なイメージが崩れて、まるで保護者のような雰囲気になるのが面白いのだ。

 

 5人は学食に入って、メニューを選ぶ。

 戦慈はビーフシチュー定食、里琴はカレー、一佳はアジフライ定食、唯はそば、柳はサバの味噌煮定食を注文した。

 

「今日からヒーロー基礎学かぁ」

「何するの?」

「んーん」

 

 一佳達は午後の授業について考える。

 入学して最初の授業。いよいよヒーロー目指して本格的に始動するのだ。

 緊張するのは当然である。

 

「頼んだコスチュームの試着じゃねぇのか?」

「ああ。それがあったな」

「ん」

 

 ヒーロー科は被服控除で入学前にコスチュームをデザインして依頼していた。

 頼んだコスチュームはまさしく己が描く己のヒーロー像そのものだ。だから楽しみなのである。

 

 食事を終えて、のんびりとお茶やコーヒーを飲んでいると、周囲から視線を感じた戦慈達。

 

「あの仮面の男とその隣の小さい女子が今年のヒーロー科トップ2らしいぜ?」

「それにあれでしょ?推薦でエンデヴァーの息子もいるんでしょ?」

「凄いわねぇ。今年の1年」

「あの人が……」

「緑谷くん。そろそろ行くぞ」

「あ、うん」

 

 周囲の視線と声に、口をへの字に歪めながらタンブラーに口を付けてコーヒーを飲む戦慈。里琴は相変わらずの無表情で無反応だった。

 

「大変だな」

「トップなんて毎年いるだろうが……」

「あのロボットを吹き飛ばしたのは久しぶりだってさ。それに知ってる?2年ヒーロー科、去年1クラス全員除籍されたらしいよ?だから今年の1年生って結構いろんな意味で注目されてるんだよ」

「めんどい」

「ん」

「それにさっきも聞こえたけど、エンデヴァーの息子がいたり、拳暴やヘドロ事件の奴がいたりと注目されてるからな」

「……自業自得」

「ん」

「……はぁ~」

 

 里琴と唯のトドメの言葉に戦慈は項垂れる。

 それに一佳は苦笑しながら、ヒラヒラと手を振る。

 

「いいじゃん。そう言う注目される奴は有名になるって言われてるしさ。ヒーローになったら嫌でも注目されるんだぜ?」

「俺はマスコミに興味はねぇよ」

「だろうな」

 

 戦慈はため息を吐きながら立ち上がる。

 一佳達もそれに続いて教室に戻る。

 

 階段を上がると、そこである男子生徒と対面する。

 戦慈は気にせず歩いていたが、相手は戦慈を見て足を止める。

 

「あ?……てめぇは」

「あ、お前。ヘドロ事件の」

 

 一佳はその逆立ったベージュ髪の男子生徒に見覚えがあった。

 

「黙れや、ザコ」

「いきなりケンカ腰過ぎるだろ!?」

「こわ」

「ん」

 

 いきなり罵倒される一佳。それに柳と唯もドン引きする。

 しかし、その男子生徒は戦慈を睨みつける。

 

「てめぇだよなぁ?……正義面した2番様はよ」

「人に尋ねるのかケンカ売ってんのか知らねぇが、せめて名乗れや。それに2番にケンカ売るなら、1番にまずケンカ売れよ」

「……こらぁ」

「うん、里琴。それはお前じゃ向いてないよ」

「ん」

「……残念」

 

 戦慈は足元にいる里琴を指差す。それに里琴がイキるが全く迫力もないし、イキっているのかも分かりづらい。それに一佳がツッコんで、何故か落ち込む里琴。

 それに男子生徒は顔を顰めて、イライラオーラを噴き出す。

 

「馬鹿にしてんのか。ぶっ殺すぞ」

「てめぇがケンカ売ってきたんだろうが。さっさと用があんなら言いやがれ」

「はっ!その余裕面……いつまでも出来ると思ってんじゃねぇぞ。すぐにその仮面剥いでやる……!」

「俺はてめぇなんざどうでもいいんだよ。順番が欲しけりゃやるよ。俺も里琴も別に目指してなったわけじゃねぇしな」

「……ん」

 

 戦慈はどうでも良さげに答えながら、男子生徒の横を通り過ぎる。里琴も戦慈の言葉に頷きながら後に続く。一佳達も一触即発な雰囲気に若干顔を引きつかせながら通り過ぎる。

 男子生徒は少し怒りに震えながらも振り返って戦慈達を睨みつけるが、それ以上は話しかけてはこなかった。

 

 

 

「はぁ~……まさかあんなにケンカ腰の奴だったなんて」

「拳暴の方がマシ」

「ん」

「……当然」

 

 一佳達は男子生徒の事を思い返しながら愚痴りながら教室に戻る。

 戦慈は席に座って、鞄から新しいタンブラーを出す。

 

「まだあったのかよ」

「予備だ。はぁ、しばらくは多めに持ってきとくか。ストレスが溜まりそうだ」

「ドンマイだな」

 

 苦笑して同情する一佳。1位は里琴だが、目立つ見た目やネットニュースのせいで戦慈の方が注目されてしまう。それにいきなりケンカ腰の宣戦布告をされればストレスも溜まるだろう。

 雄英では戦慈のことを怖がる者は少ない。中学と違い、戦慈を恐れず声を掛けてくる連中ばかりで、今までの学校生活と違うのもストレスの原因だったりする。

 

 そうして昼休みが終わり、いよいよ午後の授業。

 妙にソワソワするクラスメイト達。

 そこにブラドが教室に入ってきた。

 

「諸君!いよいよヒーロー科本番だ!ヒーロー基礎学!!単位数も最も多い!気を引き締めて臨むように!」

『はい!』

「それでは今日の授業は……【戦闘訓練】だ!」

 

 いきなり本格的な内容にざわつく一同。

 

「そしてそれに伴い、お前達にコスチュームに着替えてもらう!」

「来たぁ!!」

「待ってました!」

 

 ブラドが手元の機械を操作すると、教室前方の壁の一部がせり出す。

 

「出席番号のトランクの中にお前達が要望したコスチュームが入っている!それに着替えて、演習場γに集合だ!!」

 

 いよいよ初めての訓練が始まる。

 

 

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