『拳』のヒーローアカデミア!   作:岡の夢部

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バレンタインデー?
チョコなんて知らない。だって、本来はチョコじゃないんだから。

なので、この話が私からのバレンタインデーw



拳の三十九 また1人

 期末試験を終えた翌日の土曜日。

 

 戦慈の傷も一晩で治っていた。

 

「戦いが終わると《自己治癒》は凄いって思うな。終わった後だけど」

「……お馬鹿」

「うるせぇよ。別にリカバリーガールほど強いわけじゃねぇんだよ」

 

 一佳は呆れながら戦慈を見る。里琴も無表情で頷いている。

 それに戦慈は顔を顰めながら歩く。

 

「今日赤点かどうか分かるんだよな?」

「だろうな」

「……モーマンタイ」

「お前はどうだかな」

「……モーマンタイ」

 

 根拠が謎の自信を見せる里琴に、戦慈と一佳はジト目を向けるのみであった。

 

 教室に入り、鉄哲や唯達に挨拶して、いつも通り和やかな時間を過ごす。

 もちろん各々「赤点かも?」という不安はあったが、やるべきことはやったという思いもあるので、特に話題に上がることはなかった。

 

 そして予鈴が鳴り、全員が席に座るとブラドが入ってきた。

 

「おはよう、諸君!昨日はよく頑張ったな!」

『おはようございます!』

「早速だが、今回の期末試験についてだが……」

 

 いきなり本題を話し始めるブラドに、全員が背筋を伸ばして唾を飲む。

 

「筆記は赤点はいなかった。そして演習試験に関しては……惜しいことに1人、赤点が出た」 

 

 1人と言う言葉に、全員が物間に注目する。

 すると、物間は顔を引きつかせながら、周囲に顔を向ける。

 

「あれれれれぇ!?なんで僕を見るのかなぁ!?先生は僕だなんて言ったぁ!?言ってないよねぇ!なのに、決めつけるって酷くないかなぁ!!これで違ったら、どうしてくれるんだい!?」

「赤点は物間、お前だ。だから、大人しくしろ」

「あははは!!……はい」

 

 物間は揚げ足取りをしたように笑って、周囲を煽る。

 しかし、すぐさま呆れ顔のブラドから自身の名前を告げられたことで、物間はやけくそ気味に笑うとガックリと肩を落とす。

 

 その姿に一佳達は流石に憐れみの目を向ける。

 しかし、1人だけ違う反応を示す。

 

「……むふん」

 

 里琴が無表情ながら得意げに胸を張って、戦慈を見る。

 それに戦慈はため息を吐いて、呆れ顔を向ける。

 

「てめぇのパートナーが赤点出したのに、誇ってんじゃねぇよ」

「……奴のミスは奴だけのミス」

「アホ言ってんじゃねぇよ」

 

 相変わらずの暴論にすかさずツッコむ戦慈。

 それに一佳達も思わず頷いて、呆れる。

 その時、円場があることを思い出す。

 

「あれ?ってことは、林間合宿は物間だけ行けないってことか?」

「え」

 

 流石の物間も素で固まる。

 それにはブラドが首を横に振る。

 

「それは嘘だ。お前達の気を引き締めるためのな」

 

 その言葉に物間はホッと息を吐く。

 それ故に、

 

「えええぇぇ!?学校がそんな嘘をついていいんですかああ!?」

 

 と、反撃に出るが、

 

「だが、補習は嘘じゃない。赤点の者は食事に風呂、睡眠時間以外の自由時間は補習の時間に費やすからな。ぶっちゃけ学校に残った方が楽だと思うが、頑張るように」

「……」

 

 一瞬で撃沈されるのであった。

 物間は高笑いの顔で固まり、周囲から再び呆れられるのであった。

 

「って、俺達もかなりきついってことじゃん」

 

 泡瀬がうんざりしたように眉を顰める。

 

「当たり前だ!!元々、林間合宿は強化合宿!!更なる成長を促すためのものだ!優しく楽しいだけなわけがないだろう!!そのために、演習試験ではお前達に苦難を強いたのだ!!」

 

 ブラドが叱責するように声を荒らげる。

 それに一佳達は背筋を伸ばし直す。

 

「今日の午後は、昨日の演習試験の感想戦を行う!!そこで告げられたこと!!そして試験を受けて、自身で感じた反省点を受け、林間合宿で徹底的に鍛える!!1学期で味わった屈辱を2学期に持ち込ませるな!!そのために俺達雄英教師は、お前達に最高の環境を作り上げるつもりだ!!」

「先生……!!」

 

 ブラドの言葉に鉄哲が感動する。

 

「それでは林間合宿のしおりを配っておく。足りないモノは早めに購入して準備をしておくように。それともう1つ、夏休みについてだ」

「夏休みについて?」

 

 切奈が首を傾げる。

 その言葉に頷いたブラドは腕を組んで、少しだけ申し訳なさそうに眉間に皺を寄せる。

 

「あまり、こういうことは言いたくなかったのだがな。お前達は敵連合に狙われた。もちろん、我々とて何もしていないわけではないが、それでも危険が取り除けたわけではない。なので……出来る限り長期の外出は控えてもらいたいんだ。あくまで要請だがな」

「あぁ~……」

「なるほどですなぁ……」

 

 鱗と宍田が納得の表情を浮かべる。

 そして、今度は戦慈と里琴に視線が集まる。

 

 戦慈は肩を竦める。

 

「まぁ、俺らは遠出するところがねぇしな。帰省するところもねぇし、そんな金もねぇよ」

「……同情するなら金をくれ」

 

 クラスメイトだからこそ、今の里琴の言葉が冗談だと分かるが、それでも戦慈の言葉と相まって笑いにくい。

 

「おっほぉん!まぁ、強制ではない。ただし、今お前達の家周辺を警護してくれている警察やヒーロー達は、県外までは警護は出来ない。それを理解してほしい。流石に家族旅行で制服を着ていくわけにもいかないだろうし、わざわざ旅行先にいるヒーローに警護を頼むのも難しいと思われる」

「そりゃそうですよね」

「ポニーとか大丈夫なの?」

「ノープロブレム!グランパ達はジャパンに来てくれる予定デス!」

 

 ブラドがわざとらしく咳をして、理由を補足する。

 それに骨抜が頷き、切奈が留学生のポニーに声を掛けるが、ポニーは笑顔で頷く。

 ちなみに同じく留学生の鱗は、小学生の頃から家族ごと日本に住んでいるので何も問題はない。

 

「では、今日も頑張って行くぞ!」

『はい!』

 

 そして、今日も授業が始まった。

 雄英に試験休みはない。何故なら来週から夏休みだから。

 

 

 

 

 放課後。

 授業を終えて、それぞれ帰宅の準備をしている。

 一佳は林間合宿のしおりを開いて、買うべきものを確認する。

 

「結構大荷物になりそうだ」 

「そりゃあ、一週間だもんね」

「ん」

「着替えとか多い方がいいかも」

「……足りん」

「いくつか買いに行かねばいけませんね」

「けど楽シみデェス!」

 

 女性陣が話している中で、戦慈は鞄を肩に担いで教室を出ようとする。

 すかさず里琴がベルトを掴んで引き止める。

 

「……待て」

「犬じゃねんだよ……」

「そだ!ねぇねぇ!また皆で買い物行こ!明日休みじゃん!東京観光の続き!」

「いいな!」

「ん!」

「どこ行く?」

「買い物もあるし……お台場とか行く?」

 

 戦慈が顔を顰めて苦情を言った直後、切奈が両手を合わせて提案する。

 それに一佳と唯が笑顔で同意し、柳が行き先を尋ねて、切奈が提案する。

 唯や柳は文句はなく、一佳達も問題なしと頷く。

 ということで、

 

「じゃ、拳暴もそれでよろ~」

「……なんで俺まで……」

「そりゃあ里琴の付き添いと……番犬?」

「……守れ」

「いいじゃないか。どうせ、いつか買い物には行かなきゃいけないんだしさ」

「ん」

 

 切奈が戦慈の背中を軽く叩きながら、参加を決める。

 戦慈は顔を顰めるが、冗談交じりに返され、里琴がベルトを強く引く。

 それに一佳と唯も微笑んで誘う。その横で茨や柳、ポニーも頷いている。

 

「………………はぁ」

 

 戦慈は大きく間を開けて、諦めたのかため息を吐いて小さく頷く。

 それに一佳達はすぐさま予定を立て始め、その様子を戦慈は右手で仮面を覆って肩を落とす。

 

 男性陣はその様子を見ていた。

 

「最初は羨ましかったけどさ。あそこまで周りを固められると、逆に不憫に感じるな」

「まぁ、巻空がいるからしょうがねぇのかもな」

「前、絡まれたんだろ?今回も絶対絡まれるだろ」 

「拳暴にケンカ売るか?俺は逃げるぞ」

「俺も」

 

 回原、骨抜、円場、泡瀬、鱗が小声気味に会話する。

 最初は女性陣に囲まれて羨ましいと内心で思っていたが、女性陣の性格が分かってきた最近では逆に可哀想に思えてきた男性陣だった。

 

「ヒーロー科に来るだけあって我が強いというか、強気な面があるからなぁ」

「2、3人だけならともかく、7人全員は無理だな」

「しかも巻空がべったりだからな」

 

 戦慈の状況を自分に置き換えると、耐えられる気がしなかった。

 なので、最近ではむしろ尊敬し始めてさえいる。

 

「じゃ、俺らは俺らで。むさ苦しく行こうぜ」

「だな」

「鉄哲とかも呼ぶべ」

「むしろ男子集めようぜ。拳暴は無理だろうけど」

 

 こうして骨抜達は男子は男子で遊ぶことにするのだった。

 

 

 

 

 そして、翌日。

 戦慈は既に諦めて、自分から外出用の服装に着替えていた。

 

「……ゴー」

「……はぁ」

「まぁ、ここまで来たら楽しもうって。昼ご飯くらいは奢るしさ」

 

 一佳は戦慈の背中をポンポンと叩きながら励ます。

 そして新宿駅で全員と合流する。

 

「もう少し、人が少ねぇところで集まらねぇのか?」

「ここが一番集まりやすかったんだよ」

「現地集合だとそれはそれでねぇ」

「ん」

 

 本日は夏日であることもあり、タンクトップやキャミソールなど夏服の女性陣に囲まれる戦慈。

 ちなみに戦慈は白のタンクトップの上に茶色の薄手ジャケットに茶色のロールアップズボンである。

 

「拳暴ってワイルド系なのに、服は結構カジュアル系だよね。ギャップ狙い?」

「仮面に合わせてんだよ。それにジャケットは里琴が渡してきたんだよ」

「……ジャージで来る気だった」

「そこまで里琴に尻に敷かれてんの?」

「拳藤も不満げだったな」

「……流石になぁ」

 

 2人揃って「違う方がいい」と言われれば、グチグチ言われないように着替えるしかない。

 結果、いじられているが。

 

 里琴は黄色のシャツの上に白のシャツワンピースにショートジーンズ。

 

 一佳は青のTシャツに白のGジャンと黒のホットパンツ。

 

 唯は白のブラウスに赤茶のリボン付きのギャザースカート。

 

 柳は黒のタンクトップの上に紫の半袖パーカー、茶色のカーゴパンツ。

 

 茨は黄緑の七分袖Tシャツに、緑のジャンパースカート。

 

 切奈は迷彩と白のタンクトップを重ね着して、水色のショートパンツとサングラス。

 

 ポニーはオレンジのキャミソールのへそ出しに、ロールアップジーンズにサングラス。

 

 切奈とポニーは似た服装だが、日本人と外国人で見事に印象が違った。

 

「じゃ、行こか」

「イエー!」

「……イエー」

「いえー」

 

 切奈の号令にポニー、里琴、柳が右腕を上げる。

 そして、やはり戦慈を先頭に歩き出す一同。

 

「……流石に今日はそこまで番犬しねぇぞ」

「分かってるさ」

「何度も変な奴に捕まる気はない」

「ん」

「今回は皆さん一緒に見て回ろうと話し合いました」

「なら、助かるがよ」

「もちろん拳暴の買い物にも皆で付き合うよ?皆でね」

「……はぁ」

「……戦慈は適当に選ぶ」

 

 完全に切奈におもちゃにされ始めているが、里琴達も乗ってくるので戦慈は早々に抵抗を諦めた。

 今回は特に騒がれることなく移動出来たが、それでも明らかに雄英生だと気づいて目を向けてくる者もいた。

 

 電車に乗った一佳は戦慈に顔を向ける。

 

「前みたいに変な視線はないのか?」

「あるに決まってんだろ。てめぇ、自分が何したのか忘れてんのか?」

「え?」

「……シュシュっと一吹き」

「あ……」

 

 立っている戦慈が呆れながら隣に立っている一佳に目を向け、一佳は首を傾げる。

 それに里琴がフレーズを呟き、一佳は思い出して顔を引きつかせる。

 

 今のフレーズは職場体験で出演したCMのものだった。

 

「ぶっちゃけ、拳暴よりも一佳の方が有名になってるかもね~」

「一佳はテレビだもんね」

 

 切奈がニヤニヤしながら、柳がスマホを見ながら揶揄う。

 一佳は顔を赤くして右手で顔を覆う。

 

「……忘れてた」

 

 というより、思い出さないように心掛けていた。

 それをある意味最悪のタイミングで教えられた。

 

「ってことは、一佳のファン?視線の主は」

「半分はそうだろうな。拳藤と視線が行き来してる感じだ」 

「残りの半分はなんでしょうか?」

「前と同じ雄英嫌いの連中か……女に囲まれていることへの嫉妬だろうな」

 

 切奈と茨の言葉に、戦慈はもはや諦観の雰囲気を醸し出しながら話す。

 それに一佳達は流石に戦慈に対して申し訳なさを感じた。

 戦慈は肩を竦める。

 

「今更気にすんなよ。どうせ、ヒーローになればもっと注目されんだろうが。睨まれるのは慣れてるしな」

「……むしろケンカ売られてた」

「うるせぇな」

 

 戦慈と里琴のやり取りに一佳達は苦笑して、切り替えて楽しむことに決めた。

 

 お台場に着いた戦慈達は、最初に昼食を摂ることにした。

 ショッピングモールの飲食街に向かった一佳は、バイキングにすることを提案する。 

 

「それなら拳暴達も満足するまで食べられるだろ」

「で、バイキングなら私らでも奢れるね」

「ん」

 

 ということで、店を決めて入る。

 そして、一佳にとってはよく見た、切奈達にとっては初めて見る光景を目にすることになる。

 

「……ここまで食べるんだ」

「凄」

「ん」

「巻空さんまで凄いですね」

 

 戦慈と里琴は2人で別テーブルを占拠して、大量の料理が盛られた皿を大量に並べられている。

 周囲の客や店員は唖然と2人を見つめている。

 切奈達は体育祭で戦慈と里琴が大食いであるとは知っていたが、ここまで食べるとは思っていなかった。

 一佳はもはや慣れたもので、切奈達と同じテーブルでマイペースに食べている。

 

「ねぇ、一佳。2人っていつまで食べるの?」

「ん?ん~……多分、今出てる分は食べきれるんじゃないか?いつも焼き肉とかの食べ放題だと肉がないからって止められてたし」

「……ワァオ」

「里琴が意外過ぎる」

「ん」

 

 戦慈は数回料理を盛りに行き、その料理を里琴が掻っ攫う。

 相変わらず里琴はリスのように頬を膨らませ続けている。

 

「……おかしいなぁ。里琴に奢ったつもりはないんだけど……」

「一番食べてるのは巻空さんですね」

「ん」

「てか、私達の分が無くなる」

「あ、やば!?」

 

 切奈達も料理に舌鼓を打つ。

 そのまま15分もすると、

 

「……申し訳ありません。誠に、誠に申し訳ないのですが……そろそろ勘弁してくださいぃ」

 

 最後の方は涙目になりながら、戦慈と里琴に頭を下げる店長。

 会計の際、店長に小さく頭を下げる一佳達だった。

 

 ということで、店を後にする戦慈達。

 

「逆によく普段我慢出来るね?」

「慣れてるからな」

「里琴はどこに食べてる分消えてるの?」

「……美貌」

「アホ言ってんじゃねぇよ」

 

 色々と身体の神秘を見た切奈達は、買い物前に海を見に行くことにした。

 

「やっぱ暑いなぁ」

「オーシャンで泳ぎたいデスねぇ!」

「旅行じゃないなら、海とか行っていいんじゃない?」

「行く?」

「ん」

 

 流石に海に足を入れたりはしなかったが、海岸沿いの手すりにもたれ掛かってのんびりする一佳達。

 そうなるとやはり海水浴が話題に挙がる。

 切奈達は乗り気だが、一佳は眉間に皺を寄せ、戦慈はあからさまに面倒オーラを出している。

 

「正直なぁ……今の感じだと行ったら面倒な気しかしないな。今でも少し視線が……」

「まぁ、一佳は確実に絡まれるよね」

 

 一佳も流石に視線を集めていることに気づき始めた。買い物に来ただけで、この状況ならば、海水浴などに行けば変な奴に絡まれる気しかしない。

 それに切奈達も同意して苦笑する。

 

「流石にそこまでは付き合わねぇぞ」

「海嫌いなの?」

「ん?」

「あんな人目がある中でわざわざ傷晒す気はねぇ」

「あ」

 

 柳と唯が首を傾げるが、続いた言葉に戦慈の顔や体の傷の事を思い出した一佳達。

 確かにあの傷は海水浴などでは悪目立ちしかしないだろう。

 

「……戦慈は泳ぐのが苦手」

「へ?泳げないの?」

「泳げるわ。ただ『個性』の関係か体脂肪が低くてな。沈むんだよ」

「なるほど……」

 

 里琴の暴露に切奈が意外そうに戦慈を見るが、戦慈は顔を顰めて反論する。

 その理由に一佳達も納得する。

 その時、一佳があること思い出す。

 

「そういえば……」

「どうしましたか?」

「八百万が学校のプールの使用許可を申請してたんだよ」

「学校の?」

 

 一佳はたまたま学校で八百万とすれ違った時に、挨拶しながら簡単に会話したのを思い出した。

 それに切奈と柳が首を傾げる。

 

「何で学校?」

「確か……遠出出来ないから、学校のプールで女子で集まろうってなったとか……」

「なるほど」

「私達モ、それやりマしょう!」

「そうだね。海じゃないけど、それなら変な奴に絡まれることないし。まぁ、水着は学校指定のだろうけど」

「泳げるなら別にいいよ。お金かからないし」

「ん」

 

 一佳の理由を聞いたポニーが両手を上げて提案し、切奈も乗っかる。

 水着に関して頓着がない柳と唯はスクール水着で問題ないと頷く。

 話がまとまりそうなところで、里琴が戦慈のズボンを握る。 

 

「……ってことで」

「学校だったらお前らだけで行けよ」

「けど、学校だったら別に水着になってもいいじゃん。私達は傷の事知ってるし」

「そうだな」

「別に俺はプールに興味ねぇんだよ……」

 

 何故か自分も行く前提であることに必死で抵抗する戦慈。

 買い物や観光なら、まだ我慢出来るが、行き慣れている学校のプールまで付き添う理由が戦慈にはない。

 別に泳ぎたいとも思っていない。

 

 しかし、女性陣は逃がさない。

 

「プールって筋トレにもなるしさ。いいじゃないか」

「そーそー。別にプールバレーに参加しろとか言わないし、似合うとか思ってないし」

「……抵抗は無駄」

「……なんでだよ……」

「里琴がいるから?」

「ん」

 

 戦慈は心の底から抵抗を諦めて、肩を落とす。

 それに一佳達は苦笑するも、すぐに日程を決め始める。

 その様子を横目で見ながら小さくため息を吐く戦慈なのであった。

 

 

 

 1時間ほど海岸沿いで話し合った一佳達は、ようやく本来の目的に戻る。

 

「さて!!じゃ、色々見て回ろうか!」

「靴見たい」

「ん」

「私はスポーツウェアを」

「ミートゥー」

 

 それぞれ買うべきものを上げていき、目に留まった店に入って探していく。

 戦慈はやはり里琴に引っ張られて、付き合わされている。

 

「でもさ、水着ってあったけど。学校のじゃ足りない?」

「どうなんだろうな?……う~ん、ちょっと高いな」

「1週間だよ?そんな連日使う?あ、これ良くない?」

「予備はあってもいいかもしれませんが……。露出が多くて破廉恥です」

「ん」

「……ビキニ?」

「それは駄目っしょ。あ~、部屋着とかもいるかぁ」

「これキュートです!」

 

 ワイワイとTシャツやら動きやすいズボンなどを手にしながら、会話する女性陣。

 もちろん女物売り場に集まっているため、戦慈が手にするものなどなく、気だるげに横に立っている。

 しかし、暇かと聞かれればそうでもなかった。

 

「……ん」

「あん?……おめぇとは合わねぇんじゃねぇか?」

 

 里琴がピンクのホルターネックキャミソールを見せてきて、

 

「なぁなぁ拳暴。これ、どう思う?」

「あん?……合宿で体動かすんだろうから、ブラウスとか要らねぇだろ」

 

 一佳が黄色のブラウスを見せてきて、

 

「ん」

「あん?……まぁ、部屋着にはいいかもしんねぇが、男子や教師がいることも考えとけよ」

 

 唯が白のショートパンツを見せてきて、

 

「拳暴さん。これは運動に適しているでしょうか?」

「あん?……まぁ、汗は吸収するだろうけど、おめぇの髪で穴が開きそうだな」

 

 茨がスポーツTシャツを持ってきて、

 

「これ、どう思う?」

「あん?……悪くはねぇが、暑くなった時邪魔にならねぇか?」

 

 柳が黒のパーカーを掲げ、

 

「ねぇねぇ、これどう?」

「あん?……痴女の汚名被りたいならいいんじゃねぇか?」

 

 切奈がニヤニヤしながら、ネグリジェを持ってきて、

 

「キュートデス!!」

「あん?……そうかもしれねぇが、合宿にはどうだ?」

 

 ポニーが笑顔で白いレース付きのオフショルダーブラウスを持ってきた。

 

 戦慈は何故か女性陣に次々と意見を求められ、めんどくさそうにしながらも何だかんだで答えていた。

 

「ああいうところが、地味にポイント高いって気づかないのかね?」

「里琴のせいでマヒしてるんじゃないか?」

「ああ、なるほど」

 

 切奈と一佳が小声で話す。

 その間にも里琴や唯が戦慈の声を掛けては、意見を求めている。

 その光景から何時も里琴がああしていることは、すぐに理解出来た。

 

「なるほど。里琴にいつも聞かれてるからか」

「多分、里琴以外の女子と買い物行ったことなんてなかったろうしな」

「6人増えてるのにねぇ」 

「まぁ、悪い気はしないからさ」

「そりゃあねぇ」

 

 2人は苦笑しながら服を選んでいく。

 

 その後も靴やら小物やら買っていき、ようやく戦慈の服を見に行く。

 しかし、そこでも女性陣で戦慈の服を選んでいく。しかも、明らかに合宿に関係ない服まで手を伸ばしている。

 

「……これ」

「お、いいな」

「けど、体が大きくなったら破れそうじゃない?」

「ん」

「ノースリーブパーカーは合わないと思う」

「これはクールデス!」

「髑髏なんて……いけません」

「……俺は動きやすくて破れてもいいシャツだけでいいんだよ……」

 

 しかし、戦慈の声は届かない。

 その後も着せ替え人形にされながらも、目的の物を購入する戦慈。

 目的の物を買って、そこそこ手荷物が多くなった戦慈達は、サービスカウンターで荷物を送ることにした。

 

 その後は普通に買い物を楽しみ、喫茶店で休憩することにした。

 

「いや~拳暴って着せ替えがいがあるね」

「喜ぶとでも思うか」

「……思え」

「ざけんな」

「まぁ、似合うんだからいいじゃないか」

「ん」

 

 やや不貞腐れてコーヒーを飲む戦慈に一佳達は苦笑する。

 その時、ネットを見ていた柳が声を上げる。

 

「あ」

「どうしたんだ?」

「……木椰区のショッピングモールに敵連合の1人が出たって。しかも、雄英生が接触した」

『!!』

 

 柳の言葉に一佳達は目を見開き、戦慈は目を鋭くする。

 

「……これ……緑谷?A組が遭遇したっぽい」

 

 柳は野次馬が撮った写真を漁って、緑谷の姿を見つけた。

 

「……あいつもよく遭遇すんなぁ……」

「保須市に続いて3回目ですか……」

「被害はないのか?」

「なさそう。遭遇しただけ」

「……偶然?」

「だろうね」

「雄英襲撃犯の主犯だって」

「ってことは、USJにいた奴か」

「オゥ……」

 

 顔を顰める一同。

 

「けど、偶然ってことなら、連中の拠点は近くにあるのかもな」

「確かにね」

「まぁ、警察も動いてんだし、大丈夫だろ」

「私らも早めに解散しとこうか」

「それがよさそうですね」

「残念」

「ん」

「また来ればいいじゃん」

 

 一佳が腕を組んで推測し、切奈も頷く。それに戦慈が肩を竦めて、切奈が大事を取って早めに解散することに決める。

 

 その後、どうしても気になった店だけ見て回り、夕暮れ前に解散となった。

 

 戦慈、里琴、一佳の3人は寄り道せずに家に帰る。

 

「拳暴」

「あん?」

「これ」

 

 すると、一佳が手に持っていた袋を渡す。

 それを受け取った戦慈は中を覗く。

 

 入っていたのは手引きのコーヒーミルにマグカップだった。

 

「何だよ急に?」

「いや……あの……毎日コーヒー貰ってるのに、まともにお礼したことないなぁって思ってさ……」

 

 頬を掻いて恥ずかしそうに理由を語る一佳。

 それに戦慈は納得する。

 

「……今更」

「うぐ……分かってるよ。けど、だからって礼をしないわけにもいかないだろ?」

「……ん」

 

 里琴が揶揄うが、事実なので一佳は顔を赤くしたまま顔を逸らす。

 

「まぁ、よく使うもんだから、ありがたく貰っとくぜ」

「ああ」

 

 そして、今日も戦慈の部屋でコーヒーを飲んでから帰る一佳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。とあるビル。

 

「それで?お前さんも敵連合に参加したいって?」

「ああ、敵連合は雄英も標的にしてるんでしょ?」

 

 人気のない事務所にて、ソファで向かい合っているのは2つの人影。

 

 1人はスーツを着て、丸眼鏡をかけた中年の男性。煙草を咥えており、前歯が1つ欠けている。

 

 その反対側にはガスマスクを被った学生服を着た少年。

 

「『マスタード』。《有毒ガス》を操る『個性』だったな」

「流石は闇ブローカー。よくご存じで」

「そりゃあな。で、雄英の名前を出したってことは、お前さんの狙いは雄英か?」

 

 闇ブローカーの問いかけに、マスタードは頷いて背もたれにもたれて天井を見上げる。

 

「やっぱさぁ、納得出来ないんだよねぇ。大したこともないのに学歴だけでヒーローになれてさぁ、チヤホヤされてるのって」

「まぁなぁ」

「だからさぁ、ちゃんと教えてあげないとね。この社会は間違ってるって。それを知らしめるのに年齢も学歴も関係ないってさ」

 

 マスタードの言葉に闇ブローカーは共感するように頷く。

 

「息苦しいよなぁ。今の社会はさ、俺達もそうだよ」

「でしょ?別に雄英だけしかやらないなんて言わないさ。ボスの命令には従うよ」

「だったら、紹介はしてやる。流石に向こうの方が決定権あるしな」

「しょうがないね。だったらさ、1つ伝えてくれない?」

「なんだ?」

 

 マスタードはポケットから写真を取り出して、闇ブローカーに見せる。

 

「こいつは……」

「もし雄英を狙うなら、こいつは僕にやらせてほしいな。無理なら……せめて死ぬとこが見たい。それが条件」

「ふぅん。なんか因縁でもあんのかい?」

「ちょっとね。ま、向こうは忘れてるだろうけどさ」

「いいだろ。伝えといてやるよ。向こうが興味を持ったら、また連絡する」

「よろしく」

 

 マスタードはソファから立ち上がり、事務所を後にする。

 

 闇ブローカーの目の前に置かれたままの写真には、戦慈が写されていた。

 

 敵もまた1人、また1人と動き出している。

 

 




服のイメージって書き辛い(-_-;)そして、B組女性陣の私服イメージが難しい。冬服っぽいのはコミックでも描かれてましたけどね。夏服は書いてなかった。切奈と柳が特に難しい。

マスタードと戦慈の因縁は、体育祭直後あたりを思い出していただければw
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