『拳』のヒーローアカデミア!   作:岡の夢部

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拳の四十二 アトラクション!

 戦慈達はエキスポ会場を歩き回った。

 

「ちょっと休憩したいね」

「そうですね」

「カフェでも行こうか」

「ティータイム!」

 

 ということで、一佳達はカフェを目指すことにした。

 ちなみに里琴は途中から戦慈の肩に乗っていた。どれだけ戦慈が投げ捨てても、すぐに肩に戻ってくるので諦めた。

 里琴が戦慈の肩に乗ったので、戦慈の隣が空いたところにさり気なく唯が立つようになっていたが、誰もツッコまなかった。

 

 戦慈達がカフェを見つけて近づいて行くと、オープンスペースの席に見慣れた姿と意外な姿を見つけた。

 近づいて行くと、向こうも一佳達に気づいて、笑みを向けてくる。

 

「あ、拳藤さん!」

「よ。八百万」

「け、拳暴君にB組の……!」

「緑谷も来てたんだ」

「う、うん」

 

 いたのはコスチューム姿の八百万、耳郎、麗日、そして初めて見る眼鏡に金髪の女性。その隣のテーブルに同じくコスチューム姿の緑谷が1人で座っていた。

 緑谷は目を見開いて、戦慈達の姿に驚いていた。

 金髪の女性は八百万に声を掛ける。

 

「この子達も雄英生?」

「はい。隣のクラスの方達です。拳藤さん、彼女はメリッサさん。ここのアカデミーに在籍されている方で、今回のエキスポにも作品を展示している素晴らしい方ですわ」

「メリッサ・シールドです。アカデミー3年生よ。よろしくね」

 

 頭を下げるメリッサに一佳達も自己紹介をしていく。もちろん、里琴は戦慈の肩の上からである。

 一佳達は呆れて注意するが、メリッサは楽しそうに笑って許してくれた。

 そんな中で柳が首を傾げる。

 

「シールド……?デヴィット・シールドの関係者?」

「ええ、デヴィット・シールドは私の父よ」

 

 メリッサの答えに一佳達は目を見開いて驚く。

 デヴィット・シールドの話をしていたこともあって、まさかの人物の登場には驚くしかなかった。

 その反応に緑谷が首を傾げる。

 

「拳藤さん達もデヴィット博士のことを知ってるの?」

「さっき、拳暴のコスチューム改良で博士の名前が出てたんだ」

「拳暴君の?」

「オールマイトのパワーに耐えられるコスチュームなら、拳暴のコスチュームもそう簡単に壊れないんじゃないかってさ」

「ああ……なるほど」

 

 一佳と切奈の説明に、緑谷や八百万達は納得したように頷く。

 メリッサは首を傾げて、戦慈に顔を向ける。

 

「彼のコスチューム?」

「拳暴はパワータイプの『個性』で、オールマイトみたいに衝撃波を放てるんです。ただ、最大威力で放つとコスチュームが耐えられないんですよ。だからオールマイトのコスチュームと同じ作りなら、耐えられるかなって」

「……なるほどね」

 

 メリッサが頷いて、なにやら考え込むように顎に指を当てる。

 その間に戦慈と里琴は緑谷と同じテーブルに、一佳達は他のテーブルに分かれて座る。

 

「お待たせしました」

「あ、どうも。って、その声……」

 

 すると、緑谷の前に飲み物が置かれる。

 緑谷は聞き覚えがある声に顔を上げると、そこにはウェイター姿の上鳴と峰田がいた。

 

「上鳴君!」

「と、峰田君!?」

「あんたら何してんの?」

 

 驚く耳郎達に上鳴と峰田はサムズアップをする。

 

「エキスポの間だけ臨時のバイトを募集してたから応募したんだよ」

「休憩中にエキスポ見学出来るし、給料もらえるし、可愛い女の子と素敵な出会いがあるかもしれないからな!!」

「不純ですね」

 

 胸を張って答える峰田に、茨が両手を組んで切り捨てる。

 しかし、2人はそんなことを一切に気にせず、メリッサに目を向ける。

 そして緑谷に絡んで、メリッサとの関係を質問し始めるが、そこにコスチューム姿の飯田が猛烈な勢いで迫ってきた。

 

「なにを油を売っているんだ!?バイトを引き受けた以上、労働に励みたまえーーー!!!」

「「いぎゃああああ!?」」

 

 飯田の余りの勢いに上鳴と峰田は悲鳴を上げながら飛び退き、飯田は風を巻き起こしながら戦慈達の間を駆け抜けて、2人に喉チンコが見えるまで迫る。

 

「飯田君!?」

「来てたん?」

 

 緑谷と麗日が目を見開きながら、飯田に声を掛ける。

 飯田は振り返って、カクカクブンブン!と腕を振りながら答える。

 

「うちはヒーロー一家だからね。招待状が届いたんだ。家族は予定があって、来たのは俺1人だが」

 

 その答えに納得した緑谷達は和やかに会話を続ける。

 メリッサが翌日の一般オープンでも案内役を買って出ると、八百万達は喜び、上鳴と峰田が「俺達もぉ!!」と詰め寄って飯田が怒鳴りつけたりしていると、

 

ズドン!!

 

 と、大きな破壊音が響いた。

 緑谷達が慌てて立ち上がって、音がした方向を振り返ると、近くの会場から大きな土煙が上がっていた。

 飯田と緑谷が駆け出して、会場に向かう。

 

「あれは!?」

「確かあそこは……『ヴィラン・アタック』アトラクションだったかしら?」

 

 八百万達やメリッサも2人を追う。

 一佳達も付いて行こうと立ち上がり、戦慈と里琴もとりあえず付いて行く。

 

「あそこってアトラクションだったよね?」

「ああ、確かタイムアタックが出来るところだ」

「ん」

「じゃあ、安全?」

「誰かが暴れただけだろ」

「……人騒がせ」

 

 危険性はないと判断した一佳達は、小走りで追いかけることにした。

 

 

 

 緑谷達が慌てて駆けつけたのは、オープン会場になっている観客席だった。

 

 そこで目にしたのは土煙が巻き上がっている大きな岩山で、所々でロボットが壊れて倒れている。

 ここはヴィランを模したロボットを倒していくタイムアタック・アトラクション『ヴィラン・アタック』。

 

 会場に立っているMCと思われる女性が、笑顔で声を上げる。

 

「クリアタイム33秒!!第8位です!!」

 

 その言葉と同時にモニターに映し出されたのは、コスチューム姿の切島だった。

 

「切島君!?」

「え?デク君。あの人も?」

「はい、クラスメイトです」

 

 驚く緑谷に、メリッサが首を傾げながら声を掛ける。それに緑谷は頷き返すも、未だ衝撃から回復出来なかった。

 飯田や麗日達も目を見開いている。

 しかし、更に驚かされる出来事が起きる。

 

「さぁ、次なるチャレンジャーは……!?」

 

 MCの女性は盛り上げながら、ある方向を手で指す。

 その方向には通路の入り口があり、そこから新しい人影が現れる。

 

「っ!!?か……かっちゃん……!?」

 

 現れたのは爆豪だった。もちろんコスチューム姿である。

 悠々とスタート地点に歩いて行く爆豪の姿に、緑谷達は唖然と見ていると、戦慈達も横に現れる。

 そして切奈達も爆豪の姿に首を傾げる。

 

「あれ?爆豪じゃん」

「なんで?」

「……くたばれ」

「里琴。まだ何も言われてないから」

 

 里琴は未だにプールでの言葉を根に持っていた。一佳も内心まだ許せてはいないが、とりあえず里琴を宥める。

 もちろん里琴は相変わらず戦慈の肩に乗っている。

 

「それではぁヴィラン・アタック!レディ……ゴー!!」

「はっはぁ!!」

 

 スタートの合図と同時に勝気な笑みを浮かべながら、両手で爆破を放ち、一気に上昇する。

 連続で爆破を放ちながら、次々とロボットを爆砕していく。

 

「死ねぇ!!」

 

 そして、最後のロボットに向かって、生き生きした笑みを浮かべて叫びながら爆破を放つ。 

 

(死ね?)

 

 物騒なはずなのに余りにも清々しい笑顔で叫ばれた言葉に、緑谷は言葉の意味が一瞬あやふやになった。

 麗日達や戦慈達も呆れた顔で、爆豪を見つめる。

 

「相変わらず過激な奴だな」

「あそこまで行くと、もう清々しいね」

「ん」

 

「これはすご~い!!クリアタイム15秒!トップです!!」

 

 MCから称賛の言葉がかけられるも、爆豪はつまらなさそうな顔でスタート地点に戻り、少し離れた先にいる切島の元に向かう。

 その時、切島が緑谷達に気づく。

 

「あれ?あそこにいるの緑谷達じゃね?」

「あぁん?」

 

 切島が指差した方向に顔を向けると、頬を引きつかせながら乾いた笑みを浮かべる緑谷を見つける。

 その瞬間、再び爆破して観客席の手すりまで一気に飛び、緑谷の目の前に迫った。

 

「ひぃ!?」

「なぁんでテメーがここにいるんだぁ!!」

 

 引きつった悲鳴を上げながら後退る緑谷だが、爆豪はお構いなしに叫ぶ。

 

「や、やめなよ、かっちゃん。人がいるし……」

「だからなんだっつーんだ!!」

 

 緑谷がビビりながらも宥めようとするが、もちろん逆効果でしかなく、更に叫ぶ爆豪。

 今更人の目を気にする自分ではなく、それ以上に何故緑谷がここにいるのかが重要だった。

 そこに飯田が間に割って入る。

 

「やめたまえ爆豪くん!!」

「テメーに用はねぇんだよ!!こんなところでまで委員長ヅラすんじゃねぇ!!」

「委員長はどこであろうと委員長だ!!」

 

 飯田にも噛みつく爆豪。

 その姿にメリッサは首を傾げる。

 

「あの子、どうして怒ってるの?」

「いつものことです」

「男のインネンってやつです」

 

 呆れた耳郎と悟った顔の麗日が答える。

 話にならないと、八百万は下にいる切島に声を掛ける。

 

「切島さん達も招待されたんですの?」

「いや、招待されたのは爆豪。体育祭優勝したB組の拳暴が行くから、A組からは準優勝した爆豪を行かせることになったんだってよ。で、俺はその付き添い。なに?皆もこれから挑戦すんの?」

 

 切島は八百万や戦慈達を見ながら言ったつもりだったが、その言葉が聞こえた爆豪は緑谷を睨んで吠える。

 

「やるだけ無駄だ!俺が上に決まってんだからな!」

「うん、そうだね、うん」

 

 緑谷は波風を立てないように顔を引きつかせながらも、挑発を受け流そうとする。

 しかし、

 

「でも、やってみないとわからないんじゃないかな?」

 

 と、麗日が独り言のように呟いた。

 それが緑谷の耳に届いたのか、

 

「うん、そうだね、って……」

 

 と、相槌を打ってしまった緑谷。

 失敗に気づいた時には、もう遅かった。

 爆豪が更に目を吊り上げながら、柵を乗り越えて緑谷に詰め寄る。

 

「だったら、早よ出て惨めな結果出してこいや!!クソナードがぁ!!」

「は、はい!!」

 

 緑谷は顔を引きつかせて頷くしか出来なかった。

 更に戦慈に目を向ける爆豪。

 その顔は緑谷に対するのと違って、鋭かった。

 

「テメーはどうすんだ?ここなら、まだやれんだろ。また逃げんのか?」

「……はぁ。タイムアタックはなぁ……」

「……戦慈が1位」

 

 戦慈は挑発を受け流してため息を吐くと、頭の上から以前にも聞いたフレーズが聞こえてきた。

 もちろん里琴である。

 全員が里琴に目を向ける。

 

「……戦慈が勝つに決まってる」

「……上等だぁ。だったら見せてもらおうじゃねぇか!!あぁん!!」

「……なんで俺が……」

「まぁ、諦めろって。ここでやっておけば、しばらくは絡まれないだろうしさ」

 

 ケンカを買ったのは里琴の筈なのに、何故か自分が出場することになり納得出来ない戦慈。一佳が苦笑しながら、戦慈を納得させるように声を掛ける。

 ここまでなると、結果はともかく一度でも受けて立つ方が穏便に終わると思ったからだ。

 戦慈は大きくため息を吐いて、歩き出す。

 

「おい、里琴。てめぇもやれよ。てめぇもケンカ買ったんだからな」

「……ヤー」

 

 里琴も頷いて、肩車されたまま連れていかれる。

 

 そして、緑谷がスタート地点に立つ。

 

「さて!飛び入りで参加したチャレンジャー!一体どんな記録を出してくれるのでしょうか!?」

 

 緑谷は顔を強張らせていたが、覚悟を決めて腰を落とす。

 

(ワン・フォー・オール……フルカウル!)

 

 全身に力込めて、エネルギーを全身に巡らせる。体から緑のスパークが走り、軽く腕を振ると軽い衝撃波が飛び、風が舞う。

 

「それでは!!ヴィラン・アタック!レディ……ゴー!!」

 

 合図と同時に勢いよく飛び出し、猛スピードで岩山を駆け上がっていく。

 あっという間に頂上近くまで登り、ロボットを破壊していく。

 その光景にメリッサや一佳達は目を見開いて驚く。

 

「あそこまで速くなったのか……!」

「瞬発力ならフルパワーの拳暴に敗けてないよ?」

「ん」

「ウラメシ」

「凄まじい成長ですね」

「グレイト!!」

 

 そして瞬く間にロボットを次々と粉砕し、その結果にMCが叫ぶ。

 

「これも凄い!!16秒!第2位です!!」

 

 結果は爆豪と1秒差。

 観客も緑谷の動きにどよめき、メリッサも目を見開いたままMCに褒められて照れている緑谷を見つめる。

 

(凄い瞬発力と破壊力……。まるでマイトおじさまみたい……。でも……)

 

 メリッサは緑谷の戦いを見て、何かが引っかかり僅かに眉間に皺を寄せる。

 その横で麗日や八百万達が盛り上がり、爆豪はほぼ変わらない結果に顔を顰めて歯軋りをする。

 

 そして、緑谷と入れ替わるように戦慈がスタート地点に向かう。

 どうやら待機している間に体を動かしていたようで、体が二回り膨れ上がり、髪が逆立っている。

 

「あれ?彼ってあんなに大きかったっけ?」

「あれがあいつの『個性』なんです。パワーが上がるごとに体が大きくなるんですよ」

「へ~……体つきはマイトおじさまそっくり」

「あれで驚いてちゃ駄目ですよ」

「え?」

「すぐにわかります」

 

 一佳と切奈の説明にメリッサは首を傾げて、戦慈に目を向ける。

 すると戦慈はスタート地点に着く直前で足を止める。

 MCや観客が首を傾げると、突如戦慈が両拳で胸を乱打し始める。

 

 いきなりの行動にMCはもちろん、メリッサやA組の面々も目を見開く。

 

「なに!?」

「いきなり何を……!?」

「あぁ、大丈夫だから」

 

 一佳が問題ないと声を掛ける。

 その直後、戦慈の体が更に膨れ上がる。それでも殴り続けて、一気にフルパワーまで力を溜める。

 

 

オオオオオオ!!

 

 

 緑谷以上の衝撃波と風が巻き起こり、地面がひび割れる。クレーターが出来ないのは、流石の最先端技術である。

 

「ひぃ!?」

 

 戦慈の変貌と衝撃波に、MCが尻餅をつく。

 メリッサも思いっきり目を見開いて、口も開けて唖然としている。

 

 戦慈はゆっくりとスタート位置に着き、MCに声を掛ける。

 

「わりぃな。少し離れてから始めてくれ」

「ふぇ!?あ、は、はいっ!!」

 

 MCはハッ!として返事をしながら、急いで戦慈から距離を取る。

 

「そ、それでは!ヴィラン・アタック!レディ……ゴー!!」

 

 戦慈は合図の直前に一瞬腰を屈め、スタートと同時にドパン!!と大砲のように飛び出していく。

 ドン!ドン!と連続で足を踏み抜きながら、衝撃波を出して岩山を登っていき、緑谷同様一瞬で頂上まで登った戦慈。

 すぐさま背後に衝撃波を出して、方向転換してロボットに迫り粉砕する。その後も砲弾のように跳び回り、殴ったり、衝撃波を飛ばしてロボットを粉砕していく。

 そして、最後のロボットに対しては、真上から両手を組んで振り下ろして叩き潰す。

 

 ロボットは鉄板と呼べるほどペシャンコになり、地震かと思わせる程地面が揺れて、土煙が盛大に巻き上がる。

 

「ひぃええ~!?」

 

 MCも悲鳴を上げ、八百万達も手すりを掴んで転ばないように堪える。

 

「相変わらず半端ないな……!」

「なんてパワーなの!?」

 

 戦慈はスタート地点に降り立つ。

 

「れ、連続で凄い記録です……!クリアタイム15秒!!1位タイです!!」

 

 戦慈の記録に再び観客席がどよめく。

 一佳達は満足げに頷き、爆豪は盛大に顔を顰める。

 

「わりぃ。もう一回離れてくれ」

「え?」

 

 戦慈がMCに声を掛けて、それにMCは首を傾げる。

 右手を握り締めて、足を踏み出して真上に右アッパーを振り抜く。

 

 

ドッッッパアアアアアアァン!!!

 

 

 戦慈の腕から竜巻のような衝撃波が噴き上がり、空に吸い込まれていく。

 それにMCは再び尻餅をつき、観客達は悲鳴を上げる。

 

「ふぅ……」

 

 体が元に戻った戦慈は、右腕を確認する。コスチュームは破れてはいなかったが、籠手は僅かにひびが入っていた。

 

「ちっ」

 

 戦慈は舌打ちをして、出入り口へと足を進める。

 その入れ替わりで里琴が出てきて、スタート地点に立つ。

 里琴の姿を見たMCは小さく安堵の息を吐いて、すぐに笑みを浮かべて進行する。

 

「さぁ!次は可愛らしいチャレンジャーです!!」

「……むふん」

 

 里琴は腰に手を当てて胸を張るが、仮面のせいで表情は一切分からない。仮面が無くても無表情なのだが。

 

「それではヴィラン・アタック!レディ……ゴー!!」

 

 里琴も開始と同時に空を飛び、一気に岩山の真上に飛ぶ。

 そして見える範囲のロボット達に向けて、両腕を振り竜巻を連続で放つ。結果を確認せずに移動を開始して、隠れていたロボットに竜巻を放つ。

 ロボットは全て竜巻に貫かれて破壊された。

 

「な、なんとぉ!!すごい、すごいです!!クリアタイム14秒!トップに躍り出ましたーー!!!」

「……いえー」

 

 空中でピースをした里琴は、そのまま観客席に降りて、観客席に戻っていた戦慈の肩に降りる。

 

「……ブイブイ」

「……いい加減にしろよな」

 

 体育祭同様戦慈の顔の前にピースサインを出す里琴。戦慈は流石に苛立ち、体を震わせ始める。

 里琴は宥めるように戦慈の頭をポンポンと叩くが、その瞬間戦慈が里琴を掴んで放り投げる。

 しかし、やはりすぐに里琴は戦慈の肩に戻る。その動きは超人的としか思えないほど、素早かった。

 

「てめぇなぁ……!」

「……勝者を称えろ」

「どうどう!拳暴、落ち着けって!」

 

 一佳が戦慈を宥めて、唯達も戦慈の腕や背中を宥めるように撫でる。

 

 その横で緑谷達は苦笑するしかなかった。

 

「凄いのになぁ……」

「まぁ、爆豪もそうだしなぁ……」

 

 そう呟く切島の横で、爆豪は歯軋りをして戦慈と里琴を睨みつけていた。

 

「くっそがぁ!!クソデクとも1秒差なのもありえねぇのに!!俺が負けるなんて我慢出来るかぁ!!もう1回だぁ!!」

 

 爆豪が我慢の限界を迎えて、再び吠える。

 そして、再度挑戦をしようとした時、会場からガガガ!と音がして、肌寒さを感じた。

 目を向けると、岩山に巨大な氷が出現しており、その氷の始点には白い息を吐きながら地面に手を触れている轟の姿があった。

 

「すごい!さっきからこればっかりですが、すごーーい!!クリアタイム14秒!!再びトップタイ!!」

 

 MCはやけっぱちになったのか、興奮して飛び跳ねながら叫んでいる。

 

「轟君!?」

「え?彼もクラスメイトなの?」

「はい」

 

 驚きの声を上げる緑谷に、メリッサが聞く。

 それに八百万が答える。

 

「本当に皆すごいわね!流石ヒーローの卵!!」

 

 メリッサは素直に感心する。もはや驚きすぎて、そういう反応しか出来なかった。

 それに八百万達が嬉しくも恥ずかしそうに頬を赤く染めて、顔を見合わせて微笑み合う。

 その時、爆豪が爆破を行い飛び出し、轟に詰め寄っていく。

 

「てめぇ!!この半分野郎!!」

「来てたのか、爆豪」

 

 いきなり爆ギレして現れた爆豪に全く動じることもなく、声を掛ける轟。

 その余裕の対応にストレスがマッハで溜まり、一瞬で噴火した爆豪は更に詰め寄る。

 

「いきなり出てきて、俺スゲーアピールかコラァ!!あぁ!?」

「緑谷に拳暴達も来てんのか」

 

 それでも轟は特に反応することもなく、観客席に目を向ける。

 

「無視すんな!!大体、なんでテメーがここにいんだよ!?」

「してねぇ。親父の代理だ」

 

 サラリと返事を返す轟。

 険悪なムードだが、それでもMCは頑張って、されどおずおずと声を掛けた。

 

「あ、あの……次の方が待って……」

「うっせぇ!!次はもう一度俺だぁ!!」

 

 もはや怒りが止まらない爆豪はMCにも吠えかかる。

 それに飯田も流石に我慢出来ず、観客席から飛び降りて爆豪に走っていく。

 

「皆!!止めるんだ!!雄英の恥部が晒されてしまうぞ!!」

「う、うん!」

「お、おう!」

 

 緑谷と切島も飛び降りて、爆豪を押さえにかかる。

 

「だー!!なんだ、てめぇら!!放せ!!燃やすぞ!!」

「かっちゃん、落ち着いて!」

「これ以上、恥を晒すのはやめたまえ!」

「誰が恥だぁ!!」

「ここは悟ろうぜ、爆豪」

 

 未だに暴れる爆豪に一佳達も呆れるようにため息を吐く。

 

「流石に物間でもここまでじゃないぞ……」

「あいつは口だけだからね」

「……どっする?」

「……はぁ、塩崎」

「はい」

 

 戦慈は隣で両手を組んで憐れみの目を爆豪に向けていた茨に声を掛ける。

 茨は戦慈に顔を向けて、僅かに首を傾げる。

 

「お前のツルで纏めて引っ張り上げちまえ」

「分かりました。周囲の迷惑になっている彼らに裁きを」

「いや、そこは爆豪だけにしてやれ」

 

 戦慈の言葉に真剣な表情で頷く茨。流石に飯田達を爆豪と同じ括りにするのは可哀想だと思った戦慈。

 しかし、茨は聞こえていないようで、目を鋭くして髪のツルを蠢かす。

 そして、一気に伸ばして飯田達ごと爆豪を縛って、包んでいく。

 

「えぇ!?」

「な!?」

「あぁん!?」

「うお!?」

 

 爆豪達は突然の事に目を見開いて、ツルに呑み込まれる。

 茨は一気にツルを引き戻して、観客席の空いているところに放り投げる。

 

「うわあ!?」

「ぬぅ!」

「ちぃ!」

「おわぁ!」

 

 4人とも上手く着地する。

 

「なにしやがる!ツル女ぁ!!」

「塩崎茨です。ツル女ではありません」

「うっせぇ!!んなこと聞いてねぇんだよ!!」

「名前を正しく呼ぶのは大切なことです。正しく名前を呼ぶことから、信頼が生まれるのです」

 

 爆豪はすぐさま茨に怒鳴るが、茨は言い返すポイントが違っていた。

 それを馬鹿にされたと思った爆豪は再び噛みつくが、大真面目に返されたことで話が合わないとすぐに悟って黙り込む。

 

 八百万達は恥ずかしそうに手すりにもたれ掛かって俯き、それを一佳や切奈が慰めていた。

 さきほどメリッサが褒めてくれたばかりなので、ダメージが大きかった。

 そのメリッサは手で口を押さえて肩を震わせていた。

 

「雄英高校って、楽しそうね」

 

 本当に楽しそうに言うメリッサに、八百万達は考え込むように唸って、未だに言い合っている爆豪と飯田達を見て、

 

「少なくとも、退屈はしてないですわね……」

「「タシカニ」」

「ん」

「「あははは……」」

 

 良くも悪くも目まぐるしく日々が過ぎていく。

 それは傍から見れば確かに楽しいかもしれない。傍から見れば……。

 

 

 

 

 戦慈達がヴィラン・アタックにいた頃。

 

 エキスポのメイン通りから離れた埠頭にある倉庫で、顔に傷がある男とその部下と思われる男達が船舶で運ばれた荷物を受け取っていた。

 それを確認した顔に傷がある男は、携帯を取り出して通話の相手に仕事の1つが終わったことを伝える。

 

「……ブツは予定通り受け取った」

 

 男の近くには不自然に曲がった鉄の棒で拘束された警備員が数名倒れていた。

 気絶はしていないようで、拘束を外そうともがいているが、鉄ではビクともしない。

 

 その時、通話の相手から聞き逃せない情報が届いた。

 

「……なに?オールマイトが……。うろたえるな。それはこちらで対応する。問題はない」

 

 電話の相手は動揺しているようで、男は安心させるように声を掛ける。

 そして通話を切る。

 

「このタイミングでオールマイトが……。まぁ、可能性はあったか」

 

 男は小さく呟いて、すぐに行動を開始した。

 

 少しずつ、I・アイランドを影が侵食し始めていた。

 

 

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