I・アイランドの中心に大きくそびえ立つ建物がある。
セントラルタワー。
I・アイランドの警備システムのコントロールルームがあり、研究施設、研究データ、開発アイテムなどが集められている正にI・アイランドの要である。
その中にある診察室に2人の人影があった。
1人は眼鏡をかけた壮年の男性で、モニターを眺めながらコンピューターを操作している。
彼の名はデヴィット・シールド。天才発明家にして、メリッサの父。そして何より、オールマイトのアメリカ留学時代からの相棒にして親友である。
そして、もう1人はその近くのカプセル型診察機に、パンツ一丁で横になっている金髪で骸骨のような顔をした男。
オールマイトである。
オールマイトはメリッサに招待状をもらって、緑谷と共にI・アイランドにやってきたのだ。
着いて早々デヴィットと再会して、メリッサと緑谷をエキスポに送り出したのだが、その直後にマッスルフォームを維持出来なくなった。それを心配したデヴィットは、オールマイトの状態を調べるために診察室に来ていたのだ。
ちなみにデヴィットは、トゥルーフォームの事は知っていても《ワン・フォー・オール》の事は知らない。
オール・フォー・ワンとの戦いやその時に負った傷の事も知っているが、『個性』の因縁は知らない。再び戦いに巻き込みたくないからだ。
今、オールマイトが入っているカプセルは『個性』の力を数値で表すことが出来る。
ピーッと音がして、デヴィットは表示されたモニターに目を向けると、その結果に衝撃を受けて愕然とする。
天才と呼ばれた発明家であっても、その結果は受け入れがたいものであり、何より理由が分からなかった。
デヴィットは今にも叫びたい気持ちを抑えて、困惑しながらもゆっくりと起き上がるオールマイトに顔を向ける。
「ど、どういうことだ……トシ。何故、ここまで『個性』値が急激に下がっているんだ?」
映し出されたグラフは途中まで緩やかに下がっていたが、途中からガクンと下がっている。それが今回の計測結果を反映させたものだった。
今では全盛期の1/10以下まで下がっている。《ワン・フォー・オール》を知らないデヴィットは原因が分からず、ただただ困惑するしかなかった。
「オール・フォー・ワンとの戦いで大怪我をしたとはいえ、この数値は異常すぎる。一体、君に何があったと言うんだ……!?」
長年研究してきたデヴィットでさえ、ここまで急激に数値が下がって事例は見たことが無かった。
オールマイトの親友であり、相棒であったデヴィットは、余りにも信じられない事実に焦りにも似た感情を表出してしまう。
その親友の姿にオールマイトは咳込みながら、気軽に答える。
「ゴホッ……長年ヒーローをしていれば、あちこちガタも出るさ」
デヴィットは、オールマイトが自分に心配かけまいとしているのだと気づいた。俯いてただただ衝撃的な事実を受け入れようとする。
その姿にオールマイトは胸が痛む。
理由ははっきりしている。
緑谷に《ワン・フォー・オール》を継承したから。もう自分には『個性』が残っていないからだ。残った『名残の炎』でオールマイトは戦っている。この炎は二度と燃え上がることはない。
親友には伝えるべきかもしれない。
しかし、オール・フォー・ワンの影がまた見えてきた今、守るべき家族がいるデヴィットを巻き込みたくなかった。
親友を守るために、親友を苦しめてしまう。
どうすればいいのか悩むオールマイトに、デヴィットは呻くように俯いたまま話し始める。
「このままでは……平和の象徴が失われてしまう。日本がヴィラン犯罪発生率を6%で維持出来ているのは、ひとえに君がいるからだ。他の国では軒並み20%を超えているというのに……。君がアメリカの残ってくれればと何度思ったことか……」
未だに自分と同じ思いを持ってくれている親友の思わぬ本音に、オールマイトは驚くと同時に嬉しさも込み上げてくる。
オールマイトは立ち上がって、デヴィットに近づいて声を掛ける。
「……それほど悲観することはないさ。優秀なプロヒーロー達がいるし、君のようにサポートをしてくれる方達もいる!それに私だって、まだ一日数時間はオールマイトとしてかつや……」
「しかし!オール・フォー・ワンのようなヴィランが、どこかにまた現れる可能性も……」
「デイブ」
オールマイトの言葉を遮って、懸念を吐露するデヴィットの言葉を再びオールマイトが遮る。
そして、力強い目でデヴィットを見る。
「そのときのためにも、私は平和の象徴を降りるつもりはないよ」
そして、内心で緑谷のことを思い浮かべる。
自分の力と想いを引き継いでくれた愛弟子であり、新たな平和の象徴を。
「ヒーローだって同じさ。私のようなヒーローが、きっとまた現れるさ」
「……オールマイト……」
確信しているかのように、優しい笑みを浮かべるオールマイトに、デヴィットも微笑みを返すのだった。
その頃、戦慈達は引き続き、緑谷やメリッサ達と行動をしていた。
やはりI・アイランド関係者が案内してくれるのは、捨てがたい魅力だった。
ちなみに爆豪、切島、轟は途中で別れた。轟はエンデヴァーの代理ということで顔を出す場所があるらしい。
「まぁ、お父さんの代理を引き受けるだけ、マシになったってことだね」
「だな」
と、一佳達は「良かった良かった」と頷く。
爆豪に関しては一緒に行動するわけがないと理解しているので、特に何も思わない。
むしろ色々と精神的に落ち着くので、ぶっちゃけありがたかった。
「う~ん。拳暴君の『個性』を制御するには、コスチュームを全面的に変えないとダメかも……」
「そうなんですか……」
「ええ、難しいのは君の場合、デク君と違ってパワーのコントロールが完璧に出来ないってところね。抑えようとしても抑えられるものじゃないでしょ?」
「そうだな。まぁ、パワーをさっさと吐き出せばいいのかもしれねぇが」
「今の所はそれが最善だと思うけど、それじゃあ解決になってないわ。中途半端にアイテムを使うくらいなら、思い切って全部変えるか、拳暴君自身が耐えられる体を作るかね」
「……やっぱそうなるか……」
パビリオンを回りながら、メリッサにコスチュームやアイテムについて尋ねる戦慈と一佳達。
しかし、メリッサの回答はあまり芳しくなかった。
「けど、これは私が知る限りってことだから。流石に全部の研究や開発アイテムを把握してるわけじゃないから、今回展示されてないだけとか、どこかにお目当てのものがあるかもしれないわ」
励ますようなメリッサの言葉に、戦慈や一佳達は頷いて礼を言う。
メリッサと戦慈達の会話を聞いていた八百万は首を傾げて、戦慈に訊ねる。
「蓄積されたパワーというのは、衝撃波でなければ発散出来ないのですか?」
「2,3時間ほっとけば消えるけどな。ただ、段階的には減らねぇんだ。だから待つ位なら、さっさと放出するほうがいいんだよ。アドレナリンで決まるからな。暴れるの止めても、下手したら体が膨れる可能性がある」
「なるほど……」
「けど、それって今まで大変じゃなかったの?中学とか、遊びに行ったときとかさ」
戦慈の言葉に八百万は顎に指を当てて考え込むように頷き、今度は耳郎が質問してくる。
「中学は体育とかは手を抜いてたな。『個性』の授業は選択だったから選んでねぇ。遊びに行くほどの場所も金もなかったしな。まぁ、遊ぶって言っても相手は、こいつくらいだったってのもある」
戦慈は未だに肩車をして、自分の頭の上でだらけている里琴を指差す。
里琴は顎を戦慈の頭に乗せて、もたれ掛かっている。
それを耳郎や麗日が呆れて見ていたが、そこに一佳が思い出すように言う。
「拳暴は体の傷もあるしなぁ。実際、私も中3の仲良くなった後に知ったし、結局卒業まで里琴と私以外拳暴に近づく奴はいなかったなぁ」
「まぁ、事情を知らなかったら、あの傷は怖がる人多いかもね」
「ん」
「仮面もしてるしね」
「え?その仮面、いつもしてるの?それに体の傷って……」
柳と唯が一佳の言葉に頷き、切奈も肩を竦めながら戦慈の仮面を見る。
メリッサも戦慈の仮面を見て首を傾げ、それに切奈達は僅かに顔を強張らせる。
顔を向けられた戦慈は肩を竦めて、答える。
「顔は酷い火傷しててな。体の傷はガキの頃に『個性』の特訓で、無茶しまくっただけだ」
「……そう。ごめんね」
「もう慣れてる。どっかの奴のせいで、テレビカメラが回ってるところで晒したからな」
「うぐっ!?」
メリッサが軽く頭を下げるが、戦慈は何でもないように首を横に振り、緑谷を見て揶揄う様に答える。
正確には轟だが、緑谷も確かに原因の1人なので、戦慈の言葉と視線に罪悪感を覚えて胸を押さえる。
麗日達も苦笑いするしかなく、里琴は揶揄う様に戦慈の頬をペチペチと叩く。
「うぜぇよ」
「……照れんな」
「何がだテメェ」
2人の様子に一佳達は顔を見合わせて笑うのであった。
その後もあちこちのパビリオンを見て回る。
その途中、切奈があることを思い出して、飯田に顔を向ける。
「そう言えば、飯田達に会う前に、飯田のコスチュームをデザインした会社の社長さんに会ったよ」
「そうなのかい?」
「拳暴と里琴が、社長さんの旦那と知り合いでさ。挨拶してくれてた」
切奈の言葉に麗日が驚く。
「拳暴君、社長さんと知り合いなん!?」
「だから、その旦那だ。ブラスタっていうヒーローやってんだよ。広島で助けてもらったんだ」
「えぇ!?ブラスタと会ったの!?」
ブラスタの名前を上げた途端、緑谷が興奮したように声を上げる。
その様子に麗日達A組陣は「あぁ、またか……」と生温かい視線を向ける。
ブラスタのことを知らないメリッサは緑谷に質問する。
「デク君知ってるの?」
「はい!!ブラストヒーロー、ブラスタ!!ヒーロービルボードチャート14位のトップヒーロー!!強力な光線を使い、空も飛べるベテランヒーローです!!強力な『個性』故にコスチュームに依存してしまうのが難点だけど、それを克服すればエンデヴァーやホークスにも匹敵する実力者と言われてるんです!!」
鼻息荒く、目をキラキラさせながら解説する緑谷。
その様子に一佳達は、若干引いてしまう。
「なぁ、八百万。緑谷って……」
「超が付くほどのヒーローオタクですわ」
「もちろん一番好きなのはオールマイト」
「けど、他のヒーローの事もめっちゃ詳しいんよ。それにA組や拳暴君達のこともノートにメモしてたよ」
一佳が小声で八百万に緑谷の事を尋ねると、八百万は少し恥ずかしそうに答える。
それに耳郎が呆れながら補足し、更に麗日が未だに興奮しながらメリッサに力説する様子をどこか平坦な笑顔で眺めながら付け加える。
自分達の事もメモをしているということに切奈達は首を傾げて訝しむ。
「はぁ?私達のメモ?」
「なんで?」
「緑谷くんは知識欲が旺盛でね。人の『個性』と戦い方、そして特徴を考察することで、対策を練ったり、自分に取り入れられる動き方や戦い方を習得したりしているんだ」
「結構戦闘訓練とか体育祭でも活かされてるから、地味に油断出来ないんよね。で、体育祭の騎馬戦とかトーナメントで見れた人のことはノートに書いてたの。多分、拳暴君はもちろん、巻空さん、拳藤さん、塩崎さんはガッツリ書かれとるんやないかなぁ」
「え~……」
飯田と麗日の説明に、一佳達は凄いと思うより引いてしまう。
「……ストーカー?」
「そこまでではない……と、思いますわ……多分」
「凄いんだろうけど、その時の様子が不気味だからなぁ」
「独り言が怖いんだよね」
「「「あぁ……」」」
里琴の呟きに、八百万は否定しようとするが断言はできなかった。その理由を耳郎と麗日が答えると、以前食堂で会った時の事を思い出して、納得する一佳達。
「なるほどな。それで似た『個性』のオールマイトの戦い方に固執してやがんのか」
「それは大きいだろうな」
「最近は拳暴君も参考にしとるよ。動画を探して、ブツブツ分析してたから」
「……まぁ……体育祭で忠告しちまったからな……」
戦慈も流石に少し嫌だったが、体育祭で「自分なりの戦い方を探せ」と言ってしまった手前、何も言えなかった。
その後、ようやく落ち着いた緑谷は、一佳達から少し距離を置かれる。それに何かやらかしたのかと困惑して、大いにキョドるのであった。
八百万達は一佳達の気持ちも分かるし、出来ればあの独り言をやめてほしかったので特にフォローはしなかった。しかし、そこは委員長の義務が発動した飯田が声を掛ける。
「緑谷くん。今度から人の事をメモするときは、許可を貰ってからにするんだぞ!」
「えぇ!?」
「間違ってもねぇけど、そこじゃねぇよ」
「許可を貰いに来られても困るけどな」
「……やっぱストーカー?」
「否定出来ない気がしてきましたわ」
若干ズレた指摘をする飯田に戦慈が思わずツッコミ、一佳も呆れる。
里琴はやはり変態ではないかと首を傾げ、八百万も否定の言葉を言えなかった。
日も暮れ始めたエキスポ会場に、アナウンスが響く。
『本日は18時にて閉園となります。ご来園ありがとうございました』
出口へと向かう来場者を横目に、閉店したカフェの入り口で上鳴と峰田はドッと座り込んだ。
息も絶え絶えで動く気力も出なかった。
結局戦慈達と別れた後も次々とお客が来て、余りの忙しさに休憩時にエキスポ見学に行く余裕も、女性を物色する余裕もなかった。
疲れ切った峰田が呆然と言う。
「プレオープンでこの忙しさってことは……明日からの本番はどうなるんだ……?」
「やめろぉ!!考えたくもない!!」
上鳴は頭を抱えて、明日からの悪夢を振り払う。
今日は入場者数は制限されているはずなのに、かなりの客数だった。では、明日からの一般公開は一体何倍に膨れ上がるのだろう?
それを考えると、ただただ恐怖でしかない。
「上鳴君!峰田君!お疲れ様!」
そこに明るい声が2人に届く。
上鳴と峰田はノロノロと顔を上げると、緑谷達が手を上げて近づいてきた。
戦慈達は少し離れた所で待っていた。この後、八百万から正装を借り受けることになっているからだ。
「2人とも!労働、よくがんばったな!」
上鳴達に労いの声を掛けた飯田は、唐突にカードのようなものを差し出した。
「なにこれ?」
峰田は首を傾げて、差し出された物を見る。
「レセプションパーティーへの招待状ですわ」
八百万が答える。
それに峰田と上鳴は震えながら招待状を受け取る。
「パ、パーティー……?」
「俺達に……?」
感動している2人に麗日と耳郎が苦笑しながら補足する。
「メリッサさんが用意してくれたの」
「せめて今日くらいはってね」
「余ってたから……よかったら使って」
メリッサは控えめに笑いながら、上鳴達に声を掛ける。
それに上鳴と峰田は目を潤ませてお互いに抱き合う。
「「俺達の労働は報われたぁ!!」」
上鳴と峰田が感動をしている姿に飯田は腕を組んで頷くと、一歩前に出て緑谷達に振り返る。
「パーティーにはプロヒーローも多数参加すると聞いている。雄英の名に恥じないためにも正装に着替え、団体行動でパーティーに参加しよう!18時30分にセントラルタワーの7番ロビーに集合しよう!時間厳守だ!!」
飯田の号令に緑谷達は頷いているが、少し離れた所で聞いていた切奈達は首を傾げる。
「これって私らも含まれてる?」
「この後、八百万と動かないといけないんだし、結局一緒になるんじゃないか?」
「ん」
「てか、雄英生多くない?」
「……元々戦慈だけ」
「私達はそうですね」
「もう俺ら行かなくてもよくねぇか?」
「パーティー出たいデェス!」
「正装用意してもらってるしなぁ……」
何故かポニーがやる気を出しており、一佳はわざわざ正装を持ってきてくれた八百万に申し訳ないと思っているので、流石にパーティーに出ないわけにはいかない。
そんな話をしていると、飯田は「では、解散!」と叫んで颯爽と走り去っていった。
その後ろ姿に緑谷は何故かサムズアップして、
「飯田君、フルスロットル!!」
と、叫ぶのであった。
その後、戦慈達は八百万達の泊まっているホテルに行き、正装を渡される。
「拳暴さんはこちらですわ」
「……すまねぇ」
トランクケースを受け取る戦慈は、気乗りはしないが用意してもらったことには礼を言う。
「じゃあ、後でな」
「楽しみにしてなよ~」
「しねぇよ」
戦慈は切奈の揶揄いに取り合わず、先に1人でホテルに戻る。
フロントで鍵を貰い、部屋に行く。
「……ガキを相手に豪華だな」
部屋はシングルルームだが、ミルコの事務所の客室よりも広く豪華だった。
荷物は既に運び込んでくれており、戦慈はコスチュームを脱いで、正装が入ったトランクを開ける。
目に入った正装を目にして戦慈は固まる。
「……俺はどんなイメージを持たれてんだ?」
八百万達に問い詰めたくなり、あまり袖を通したくはないが、これしかないので着るしかない。
戦慈はため息を吐いて、正装を身に着ける。
黒いシャツに黒のネクタイ。その上にグレーのベスト、そしてワインレッドタキシードとパンツを身に着ける。
鏡を見て、またため息を吐く。
仮面に合わしてくれたのだろうと予想するが。
「……どこのマフィアだ……」
どう見ても、マフィアの若頭的な何かである。とてもではないが、高校生には見えない。
これでパーティーに行っても、避けられるだけではないのだろうか?と、戦慈は思う。
色々と諦めて、時計を確認する。
時刻は18時27分を示していた。
飯田が叫んでいた集合時間まで、後3分。
「……まぁ、いいか。あいつらの連絡先なんざ知らねぇし。女子共も絶対間に合わねぇだろ」
戦慈は特に急ぐこともなく、移動を開始する。
再び招待状を見せて、エキスポ会場を通ってセントラルタワーへと向かう。
「あ!!拳暴君!」
セントラルタワーに向かっていると、後ろから正装に着替えた緑谷が走って来た。
「あれ?拳藤さん達は?」
「八百万達と来ると思うぜ」
「あ、そうなんだ」
緑谷は戦慈の言葉に頷いて、右手で頬を掻く。
その右手首に赤いブレスレットが巻かれているのが目に入った。
「時計にしちゃあ独特なデザインしてんな」
「へ?」
「右手首だよ。時計じゃねぇのか?」
「え?あ……」
緑谷は自分の右手首を見て、今気づいたかのように声を上げる。
外そうとブレスレットに触れて、すぐに気付いた。
「……どうやって外すんだろ?」
「はぁ?なんで、んなもん付けてんだよ」
「こ、これはさっきメリッサさんから貰ったんだけど……。付けてくれたのもメリッサさんだから……」
困った表情でブレスレットを見下ろす緑谷。
「なんだ?恋人にでもなったのか?」
「うええぇ!?ち、違うよ!?こ、これ、サポートアイテムだから!!」
戦慈の言葉に緑谷は顔を真っ赤にして、慌てながら必死な表情で弁解する。
「サポートアイテム?」
「う、うん。メリッサさんが開発したもので、全力で殴っても腕が壊れないようにしてくれるらしいんだ。と言っても、数回で壊れるらしいんだけど」
「なるほどな」
「あ、拳暴君も使ってみる?」
「いや、いい。俺は全力で殴れねぇわけじゃねぇし。それに俺の課題は衝撃波っつうか体に溜まったパワーをどう発散するかってことだからな」
戦慈の言葉に、納得するように頷く緑谷。
セントラルタワーが近づいてきたところで、戦慈はさりげなく気になっていたことを質問することにした。
「ところでよ」
「え?」
「てめぇはどうやって招待状を手に入れたんだ?飯田や八百万とは別口で来たんだろ?」
「え!?えっと……そ、そのぉ……」
「それにあの女とどうやって知り合ったんだ?あのデヴィット・シールドの娘とよ」
「うぅ……!」
戦慈の質問に大汗を掻いて、しどろもどろになる緑谷。
その様子を見つめていた戦慈は、ため息を吐いて前を向く。
「言えねぇならいい。ただ、言い訳は考えとけよ」
「……う、うん。あ、ありがとう……」
緑谷はホッとするも、申し訳なさそうな顔をして軽く頭を下げる。
戦慈は肩を竦めるだけで応え、集合場所のゲートへと向かう。
「7番ゲートって言ってたか?」
「うん。え~っと……あ。あそこだね」
戦慈と緑谷はゲートを通って、中に入る。
中には正装に着替えた飯田と轟、そしてウェイター姿の上鳴と峰田がいた。
「ごめん!遅くなって!」
緑谷は慌てて謝罪しながら飯田達の元に駆け寄る。
周囲を見渡すと、他の者達はやはりまだ来ていなかった。
「あれ?他の皆は?」
「まだ来てない。団体行動を何だと思ってるんだ!!」
飯田は腕を組んで憤慨し始め、緑谷が慌てて声を掛けて宥める。
戦慈は若干呆れながら飯田を見ていると、ゲートが開く音がした。
「ごめ~ん!遅刻してもぉ~たぁ」
「「おお~っ!」」
入ってきたのは、ピンクと白の可愛らしくも大胆なドレスを着た麗日だった。
麗日の姿に上鳴と峰田が歓声を上げると、続いて八百万とその後ろに隠れる耳郎。そして一佳達が入ってきた。
「「うぉっひょおおおおお!!」」
上鳴と峰田の興奮が一気に最高潮まで達する。
八百万は黄緑のホルタードレスで胸元が大胆に開かれており、耳郎は上は黒のジャケットにピンクスカートのフレアドレスを着ている。
「おぉ!!拳暴、かっこいいじゃん!」
「ん」
「似合ってるな!」
「……マフィア?」
「うっせぇ」
戦慈のタキシード姿を見て、興奮気味に近づいてくる一佳達も普段とは雰囲気が違っていた。
里琴は黄色と白のフレアドレスで、胸元に赤い薔薇のコサージュが付いている。
一佳は青のワンショルダーのエンパイアラインドレスで、髪型はいつものサイドテールだが青薔薇が飾り付けられたヘアゴムで纏めている。
唯は薄い赤色のホルターネックマキシドレスで、右腰に花を模したリボンが装飾されており、髪は右前髪を上げて紫色の蝶のバレッタで留められている。
茨は緑のAラインロングドレスで、大胆にもストラップレスだ。腹部に花のレースが装飾されており、その上から白のショールを羽織っている。
柳は薄い紫のフリルラップロングドレスに首に黒のチョーカーリボンをしている。いつも通り左目は前髪で隠しているが、右側の髪を後ろに流して青薔薇のバレッタで留めている。
切奈は紺色のホルターネックマーメイドドレスで、背中を大胆に開き、スリットも入っている。髪型も普段下ろしている前髪を斜めポンパドールにセットしており、ウェーブしている髪と相まって妙な色気を出している。
ポニーは上はオレンジ、スカートは白のフレアドレス。ウェスト部分にオレンジのリボン、右サイドに花が装飾されたカチューシャを身に着けており、首には真珠のネックレスをしている。
華やかだが、色気のある服装をした女性陣に囲まれた戦慈。
「で、私達に言うことは?」
切奈がニヤニヤしながら尋ねてくる。
戦慈は腕を組んで肩を竦める。
「似合ってると思うぜ。取陰は少し背伸びし過ぎな気もするがな」
意外にも素直に褒められて、少し顔を赤らめる一佳達。
切奈だけは腰に手を当てて、僅かに眉間に皺を寄せる。
「……私だって、こんなドレスだと思ってなかったよ。八百万は私にどんなイメージを持っているのか、とことん追求したかった」
「ああ、そりゃあ1着しかねぇよな」
「そういうこと。準備してくれたのに、文句なんて言えないっしょ?」
「まぁな。俺も八百万にどんなイメージを持ってんのか、聞きたくなったしな」
「どう見たって、マフィアか大企業の若様だよ」
「ん」
「仮面が変に引き立ててる」
「だなぁ……」
「……ヘイ、ボス」
「アホ言ってんじゃねぇよ」
「けど、カッコいいデス!」
各々思うことはあれど、借りているので文句を言える立場ではなかった。
その様子を少し離れた所から耳郎や八百万は見ていた。
「なんかさ……」
「はい?」
「取陰と並ぶと本当に女を侍らせてるマフィアの若だよね」
「……まぁ、そう見えなくもないですわね」
「あの服選んだのってヤオモモ?」
「……お母さまです」
「あぁ……」
耳郎は期末の時に、八百万の豪邸で勉強会をしてもらった際に、八百万の母に会っている。
少し天然が入っており、気合が空回りするタイプなのだ。
そんな人が選んだのならば、マフィアをイメージさせたのだろうと納得出来る。絶対に八百万の母は、単純に似合うと思って選んだだけなのだ。それが着る人物の性格と年齢を完全に無視していても。
「高校生が着るタキシードじゃないよねぇ」
「しかし……拳暴さんではどれを選んでも、あの雰囲気になると思いますわ」
「……そういや、そうか」
ちなみに2人の後ろでは上鳴と峰田が倒れ伏してピクピクと震えていた。
耳郎のドレス姿を見たときに、
「馬子にも衣裳って奴だな!」
「女の殺し屋みてー」
と、言い放って耳郎の《イヤホンジャック》にやられたのだった。
ちなみに麗日は緑谷に褒められて、顔を赤くして両手をブンブンと振り、飯田と緑谷を慌てさせていた。
戦慈はため息を吐いて、八百万達の方に顔を向ける。
「で?行かねぇのか?もう始まってんじゃねぇのか?」
「そうですわね」
「待ってくれないか!まだ切島くんと爆豪くんが来てない」
「来るの?爆豪が?」
飯田の言葉に耳郎が訝しみ、それに他の者達も同意する。
「切島くんから連れていくと返信があったんだ。だから、来るはずなんだが……」
「あれ?デク君達、まだここにいたの?もう始まってるわよ?」
飯田が顔を顰めると、ゲートから新しい声が響く。
顔を向けると、そこには眼鏡を外して、華やかで大胆なドレスを着たメリッサがいた。
「「ヒョー!!!」」
上鳴と峰田が起き上がって、興奮しながら歓声を上げる。
緑谷や耳郎達も見惚れていた。
「やべーよ、峰田。俺、もうどうにかなっちまうよ……」
「どうにでもなれ」
上鳴の呟きに、耳郎が呆れながらツッコむが上鳴と峰田の耳には届かなかった。
一佳は上鳴と峰田の様子に呆れて、その後チラリと横目で隣の戦慈を見る。
戦慈は特にメリッサのドレス姿に反応していなかった。と言っても、戦慈が誰かに鼻の下を伸ばすとは思っていないが。
「……やっぱ似合ってるなぁ」
一佳は戦慈の正装姿に見惚れて、僅かに顔を赤くする。
並んで立っている姿は、周りからはどう見えるのだろう?
知りたいが、知るのも怖い。
そう思いながら、一佳は高鳴る心臓を落ち着けようと深呼吸する。
そして、いつも通りを意識して、戦慈達に声を掛ける。
「さて、パーティーはどう動く?」
「私達はあくまで拳暴さんの付き添いですからね」
「ん」
「気にしなくてもいいだろ?」
「あんまり拳暴の周りで固まってると、それはそれで拳暴にプレイボーイのイメージが定着しちゃうかもしれないしねぇ」
「そう?」
「……どうせ高校生に見られない」
「うっせぇよ」
切島と爆豪を待ちながら、記念撮影などを始める切奈達。
八百万と戦慈の組み合わせに、耳郎や麗日が「……お似合いかも」と呟いて八百万が顔を真っ赤にしたり、峰田や上鳴が鼻の下を長くして一佳達にタッチしようとして里琴に吹き飛ばされ、耳郎に爆音を叩き込まれるなど、どこか浮かれながら盛り上がるのだった。
今回ほど絵の才能が欲しいと思ったことはない!
一佳達のドレス姿を、私の文才では伝えられない!!申し訳ないです!