戦慈と緑谷がセントラルタワーに入った頃。
セントラルタワーの地下にて。
「警備システムはどうだ?」
顔に傷が入った男が耳に着けたトランシーバーで部下達に声を掛ける。
『順調です』
返答した部下の男は、セントラルタワー内の警備システムを統括しているコントロールルームでコンピューターを操作していた。
その周囲には警備員と思われる者達が拘束されており、フルフェイスのメットを被った男達が銃を突き付けていた。
部下の男の前には警備システムを示すモニターが表示されており、それが少しずつ緑から赤に変わっていく。
部下からの報告に、傷の男は満足げに頷く。
「よし。警備員は殺すなよ。システムに引っかかると厄介だからな」
『了解です』
通信を終えた傷の男は、顔に武骨な仮面を着け、拳銃を握る。
近くにいる部下達もメットを被って、銃を持つ。
「ようやく本番だ。せいぜい演じようじゃないか」
傷の男の言葉に部下達も頷き、嘲るような笑い声を上げる。
傷の男も声を出さずに笑い、振り返る。
それと同時に扉が開いて行き、男達は笑うのを止める。
そして、傷の男は前を向いたまま、部下に言い放つ。
「こちらも動くぞ」
セントラルタワー2階。
パーティー会場では来賓客やプロヒーロー、そして関係者で賑わっていた。
正装に着替えたデヴィットやコスチューム姿のオールマイトもおり、それぞれ人に囲まれて談笑していた。
会場にはバイキング形式の豪華な料理が並べられており、会場奥のステージは大きなモニターがある。
さらにステージ前方の天井は、ガラスを張られた円状の吹き抜けになっており、タワーの高さを感じさせる造りになっている。
「ご来場の皆様、I・エキスポのレセプションパーティーにようこそおいでいただきました」
司会者と思われる男性の声が会場に響く。
「乾杯の音頭と挨拶は、来賓でお越しくださいましたNo.1ヒーロー、オールマイトさんにお願いしたいと思います。皆様、盛大なる拍手を」
直後、周囲から温かい拍手が起こり、オールマイトは笑顔に僅かな困惑が浮かぶ。
「デイブ、聞いてないぞ……」
近くにいたデヴィットに小声で助けを求めるが、デヴィットは苦笑して首を横に振る。
「オールマイトが来たとなったらそうなるさ。諦めろ」
「やれやれ……」
オールマイトは小さくため息を吐くも、すぐさまいつもの笑みを浮かべてステージ向かって歩き出すのだった。
その頃、飯田はまだ来ない切島と爆豪に連絡を取ろうと携帯で電話をしていたが、
「……だめだ。2人とも電話に出ない。メールも既読にならない」
飯田は心配そうに眉を寄せる。
「とりあえず、先に行くしかないんじゃない?全員が遅れるのもマズいっしょ」
切奈が腕を組んで、提案する。
飯田も悩まし気に腕を組んで唸る。
そこに八百万が声を上げる。
「そうですわね。B組の皆さんは先に行って頂いても問題はないかと」
「八百万も来てくれないか?本来呼ばれてるのは拳暴だけだし、それに私達誰もパーティーとか出たことないし……」
一佳は苦笑いを浮かべ頬を掻きながら、八百万に頼み込む。
正直、失敗したときにフォロー出来る自信がない。しかもメンバー的に自分か切奈しか前面に出れそうにない。戦慈も対応できるだろうが、確実にケンカに発展する気がする。見た目がマフィアっぽいので尚更威圧感がある。
一佳の言葉に八百万は笑顔で頷く。
「分かりましたわ。では、B組の皆さんと私達女性陣で先に行きましょう」
快く了承してくれたことに一佳はホッとして、両手を合わせる。
「ごめんな。助かるよ」
「いえ、拳藤さんには職場体験でお世話になりましたので」
ということで、耳郎と麗日、そしてメリッサも一緒に行くことになった。
ちなみにその頃、爆豪と切島は何故かセントラルタワー内で迷っていた。
携帯が通じなかったのは、2人揃ってホテルの部屋に携帯を置いてきたからであった。爆豪はいらないと思っていたからだが、切島は単純に忘れてきただけである。しかもセントラルタワー内はエキスポ中で、ほぼすべての職員がパーティーに出るか休みになっているので、尋ねようにも人に会わないし、案内板もない。
おかげで2人は同じ場所をグルグル回っていたのであった。
そんなことになっているとは、もちろん知らない飯田達は八百万達を見送ろうとしていた。
八百万達がエレベーターのボタンを押そうとしたその時、
セントラルタワー、そしてI・アイランド中にサイレンが響き渡った。
オールマイトはステージに上がり、マイクの前に立つ。
「ご紹介に預かりました、オールマイトです。堅苦しい挨拶は」
挨拶を始めた直後、遮るようにサイレンが響き渡る。
何事かと周囲を見渡すオールマイトや参加者達。
さらにオールマイトの背後のモニターが赤く変わり、エマージェンシーを知らせるマークが表示される。続いて、島内全域にアナウンスが響き渡る。
『I・アイランド管理システムよりお知らせします。警備システムにより、I・エキスポエリアに爆発物が仕掛けられたという情報を入手しました』
一般開放されている商業エリアやホテルエリア、そして島内で暮らしている居住エリアにもアナウンスが届く。
『爆発物』と言うワードに観光客や住民達は、顔を見合わせて不安を露わにする。
その不安を更に後押しするように、警察のように赤いランプを光らせながら、警備マシンが列を成して走り抜けていく。
『I・アイランドは現時刻をもって厳重警戒態勢に移行します。島内に住んでいる方は自宅または宿泊施設に。遠方からお越しの方は近くの指定避難施設に入り、待機してください』
アナウンスが流れる横で、どんどん警備マシンの数が増えていく。
周囲のデパートなどもシャッターが下り始め、足早に移動を始める人で溢れていた。
『今から10分後以降の外出者は、警告無く身柄を拘束されます。くれぐれも外出は控えてください』
10分という言葉に公園や駅にいた人達は、慌てて移動を始める。
しかし、その動きを監視するように大量の警備マシンが周りを囲い始めて、逆に動き辛くなるのだった。
『また、主な主要施設は警備システムによって、強制的に封鎖します』
そのアナウンスの直後、戦慈達がいたセントラルタワーロビーのゲートや窓に重厚なシャッターが下りて入り口が封鎖されたのだった。
会場にいたオールマイト達も動くに動けず、困惑して経過を見守っていた。
その時、会場の左右と正面の扉が開いた。避難誘導の警備員かと誰もが思ったが、入ってきたのはフルフェイスのメットを被りライフル銃を構えた者達だった。
悲鳴が上がり、会場内のプロヒーロー達も動こうとするが銃を構えた襲撃者に二の足を踏む。
そして正面の扉から、仮面を被った白コートの男がステージに歩み寄る。
「聞いた通りだ。警備システムは俺達が掌握した。反抗しようと思うなよ、ヒーロー共。そんなことすれば……」
ステージに上がり、オールマイトの横に立った仮面の男は、モニターに手を上げて向ける。
すると、モニターの映像が変わり、街中の映像が映される。
公園の入り口に警備マシンの集団が待ち構えており、出るに出れなくなった人達が不安そうに立ち尽くしており、駅の様子が映されると電車も止まってしまい、ホームで立ち尽くしていた人達が警備マシンに囲まれている光景がオールマイト達の目に入る。
「警備マシンがこの島にいる善良な人々に牙を剥くことになる」
男は仮面から覗く口が、遠くから見ても三日月形に歪む。
「そう、人質は……この島にいる全ての人間だ。当然お前らもな」
警備マシンは島中にいる。警備システムを掌握されてしまっているということは、島にいる人をヴィランと認識させることも出来るということだ。
しかも警備システムは厳重警戒態勢になると交通機関を止め、主要な道路なども壁が出現し封鎖されている。さらにネットなども使えなくなり、登録していない通信機器は使えなくなる。
そのため、外部に救援を求めることも出来ないのだ。
「やれ」
仮面の男が耳に手を当てて、どこかに指示を出す。
直後、会場の床に穴が開き、そこから機械がせり出る。そして、機械から光の帯のようなものが射出されて、プロヒーローのみを拘束していく。
拘束用のセキュリティ装置のようで、オールマイトにも光の帯が巻き付く。
「いかん!」
オールマイトは力を振り絞り、引き千切ろうとする。
流石に警備システムもオールマイトのパワーを想定して作られてはいなかったのか、徐々に腕が広がっていく。
パァン!
その時、銃声が轟く。
オールマイトと同じくステージ上にいた仮面の男が威嚇発砲したのだ。
「動くな!それ以上抵抗すれば、即座に住民共を殺すぞ」
仮面の男はオールマイトに近づきながら銃口を向ける。
オールマイトは顔を歪めて抵抗を止める。
この会場だけならば、まだ被害なく押さえ込める可能性があったが、島中の全ての警備マシンを止める事は無理だ。
抵抗を止めたオールマイトを見た仮面の男は、笑みを浮かべてオールマイトを蹴飛ばしてステージに倒す。
「いい子だ。そのまま大人しくしとけよ?」
オールマイトを見下ろしながら、笑って告げる。
そして他の会場にいる者達に顔を向ける。
「全員オールマイトを見習って、無駄な抵抗はやめるんだな」
オールマイト同様倒れているプロヒーローに駆け寄っていた者達が動きを止める。
「お前達は……何者だ?何が目的なんだ……!?」
オールマイトが呻くように仮面の男に声を掛ける。
仮面の男はオールマイトを見下ろしながら、愉快そうに肩を震わせる。
「お前達が大好きなヴィランだよ。しかし、そうだな……。名前くらいは教えてやるよ。『ウォルフラム』。No.1ヒーローを転がした男の名だ」
セントラルタワーの7番ロビーに閉じ込められた緑谷や戦慈達は、薄暗い中、各々状況を確認し合っていた。
「駄目だな。こりゃあ壊すにゃ手間がかかるし、そうなると他にも被害が出そうだ」
戦慈は入ってきたゲートのシャッターを拳で軽く殴りながら、首を横に振る。
コンコン!とシャッターから響く音は、分厚さを感じさせる。もはや防壁と言えるだろう。
戦慈の言葉に一佳達も顔を顰める。
「う~ん……窓も駄目だね。内側と外側にシャッターが下りてると思う」
「携帯も圏外だ。情報関係は全て遮断されちまったらしい」
切奈は首と手を切り離して、ゲートの上のシャッターを叩いて同じく音で厚さを確認する。
轟も耳に当てていたスマホを下ろして、首を横に振る。
さらにエレベーターのスイッチを押した耳郎が、首を横に振る。
「エレベーターも反応ないよ」
「マジかよおおおお!?」
ビビった峰田が頭を抱えて叫ぶ。隣で上鳴も僅かに顔を青褪めている。
「それにしても、爆発物があったって情報が入っただけで、ここまで厳重になるの?」
「見つかったわけでもないし、逆に情報が入るタイミングも変」
「ん」
首と手を戻した切奈が、飯田達に顔を向けながら疑問を口にする。
柳も切奈の隣で同じく疑問を呈し、唯も頷く。
その言葉を聞いてか、メリッサが顎に手を当てて考え込む。
「確かに爆発物が設置されただけで、警備システムが厳戒モードになるなんて……」
メリッサまで疑問を口にしたことで、嫌な予感が強くなっていく緑谷達。
戦慈達もメリッサの近くに集まり、疑問を口にする。
「しかも場所はエキスポだろ?ただでさえヒーローも多いし、研究者も多い中で仕掛けたってのか?持ち込むだけでも無茶だろ。それこそ内部犯を疑わねぇと筋が通らねぇ」
「確かにな……」
戦慈の言葉に飯田も頷く。
すると、真剣な表情をしていた緑谷が顔を上げる。
「……パーティー会場に行こう」
「何故だ?」
「パーティー会場にはオールマイトが来てるんだ」
緑谷の言葉に飯田や麗日達は目を見開く。
戦慈、一佳、里琴はブラドから聞いていたので、驚いていない。切奈達も一佳から聞いていたので驚かない。
それどころか戦慈はここに来る前に話した時の緑谷の反応から、緑谷はオールマイトと来たのだと思っていた。
「メリッサさん。どうにか会場まで行けませんか?」
「非常階段を使えば、会場の近くまで行けると思うけど」
緑谷の問いに、メリッサはロビーの隅を指差して答える。
ロビーの隅には重厚感がある扉がポツンとあった。
「案内、お願いします!」
そして、緑谷達は行動を開始した。
パーティー会場は重苦しい雰囲気に包まれていた。
客や拘束されたプロヒーロー達は床に座り込んでおり、その周囲をウォルフラムの部下達がライフルを向けて囲んでいる。
ウォルフラムは会場を歩き回って、変な動きをしている者がいないかを警戒していた。
その時、トランシーバーに部下から通信が入る。
『ボス。例の部屋のロックが開きました』
「……そうか。分かった」
部下の報告を聞いたウォルフラムは近くにいる者を確認して、1人の男に声を掛ける。
「お前、ここの研究者だな?」
「は、はい……」
声を掛けられたのはデヴィットの助手をしているサムという小太りの男だった。サム達、I・アイランドの研究者は胸にプレートを付けていたのだ。
「来い」
「い、いったい何を……」
「連れていけ」
ウォルフラムはサムの質問に答える事はなく、近くにいた部下に指示を出す。
その時、デヴィットが立ち上がり、ウォルフラムに声を掛ける。
「やめろ!」
ウォルフラムは銃を向けてデヴィットを見る。
「あ?」
「彼は私の助手だ。どうするつもりだ?」
「それは……ん?……デヴィット・シールドじゃねぇか。お前も来い」
「……断ったら?」
「この島のどこかで誰かの悲鳴が響くことになる」
デヴィットの問いに淡々と答えるウォルフラム。
それが逆に恐ろしく聞こえたデヴィットは、怯みながらも頷く。
「……分かった。……行こう」
デヴィットとサムは、部下の1人に銃を突き付けられながら会場を後にする。
その時、デヴィットはチラリとオールマイトに顔を向けて、頷く。
それを見たオールマイトは己の不甲斐なさに顔を更に歪め、どうにかして打開策を見つけようと考えていると、視界の端で何かが光るのを感じた。
「ん?」
ウォルフラムに悟られないように気を付けながら天井を見上げると、吹き抜けの天井の上階から緑谷がスマホをオールマイトに向けて光らせていた。
緑谷の姿に目を見開いていると、その隣に耳郎がしゃがみこんで床にプラグを差し込む。
更にその周囲に目玉のようなものが浮かんでいる。切奈の両目である。
オールマイトと目が合ったのを確信した緑谷は、耳郎に目を向ける。
耳郎が頷いたのを確認すると、オールマイトに向かって手を口に見立ててパクパクさせ、耳に手を当てる。
その動作を見たオールマイトは、小声で話し出す。
「聞こえるか?ヴィランがタワーを占拠、警備システムを掌握。この島の人々が人質にされている。会場内のプロヒーロー達も全員拘束されている。危険だ。すぐにここから逃げなさい」
オールマイトの声を聞いた耳郎は、顔を強張らせて緑谷に顔を向ける。
「大変だよ、緑谷……!」
その言葉と様子に緑谷はすぐさま戦慈達の所に引き返す。
非常階段の踊り場で待機していた戦慈達は耳郎の話を聞いて、顔を顰めたり、顔を青くしてうろたえる。
「銃を持った奴らがうじゃうじゃいた。下手に暴れても誰かが撃たれると思う。『個性』も分かんないし」
目だけ切り離していた切奈の言葉も、更に恐怖を煽ることになった。
そこに飯田が声を上げる。
「オールマイトのメッセージは受け取った。俺は雄英校教師であるオールマイトの言葉に従い、ここから脱出することを提案する」
八百万も悔しさに顔を歪めながらも、飯田の提案に同意する。
「私も賛成ですわ。私達はまだ学生。ヒーロー免許もないのに、ヴィランと戦うわけには……」
その言葉に緑谷や一佳達も顔を歪める。
しかし、そこに戦慈が声を上げる。
「脱出って簡単に言うけどよ。どうやって出るんだよ?さっきのロビーからだと、確実に気付かれるし、警備システムに引っかかるぜ」
「そうね。難しいと思う。ここは日本にもあるタルタロスと同じ防災設計で建てられてるから」
戦慈の言葉にメリッサも頷く。
その言葉に飯田や八百万は再び考え込む。
戦慈はメリッサに顔を向けて、質問する。
「ここの警備システムはタワーの中にあるんだよな?」
「え、ええ。タワーの最上階にあるわ」
メリッサは少し困惑しながらも頷く。
すると戦慈はジャケットとベスト、ネクタイを脱ぎ始める。
一佳は困惑しながら、声を掛ける。
「お、おい。拳暴?」
「おめぇらはここにいろ。俺は上を目指す」
シャツの袖のボタンを外しながら答える。
それに里琴以外の全員が目を見開く。
「待ちたまえ!!」
「そうですわ!いくら非常事態でも、私達はヒーロー活動は出来ません!」
飯田と八百万が声を荒らげて止めさせようとする。
「わりぃな。俺はそんな説教聞き飽きてんだ。それで止まるなら、あんな動画流れてねぇし、敵連合なんざに狙われてねぇ」
しかし、戦慈には通じない。
ずっと怒られてきたことだからだ。今更止まる理由にはならない。
その言葉に一佳が一番最初に説得を諦めて、上を見上げる。
「あ~……駄目だ。本当に拳暴には今更だ……」
「拳藤さん……!?」
「おいおい、オールマイトまで捕まってんだぞ!?おいら達だけで救けに行くなんて無理だっての!」
一佳の言葉に八百万が目を見開いて、峰田が震えながら叫ぶ。
「別にてめぇも動けなんて言わねぇよ。ここにいれば警備システムにも引っかからねぇだろ。俺が暴れた隙に、緑谷や轟が壁を壊して外にでも出ろ」
戦慈が歩き出そうとすると、轟が戦慈の前に立つ。
飯田や八百万は止めてくれるのと思ったが、
「……俺も行く」
「轟くん!?」
「轟さん!?」
「……ミートゥー」
「里琴!?」
里琴も戦慈の背中に飛びついて同行を名乗り出る。
轟はチラッと飯田達に目を向けるが、すぐに戦慈に目を戻す。
そして、左手を握り締め、
「余計なことかもしれねぇ。けど、何もしないのも納得出来ねぇ」
「……別にリーダーを張るつもりはねぇ。付いてきたけりゃ勝手に来い」
「ああ」
轟は力強く頷き、そしてずっと黙っている緑谷に顔を向ける。
それに飯田や麗日達も緑谷に顔を向ける。
緑谷は真剣な表情でずっと俯いていたが、ゆっくりと顔を上げる。
「……やっぱり、救けたい」
小さく呟き、そして戦慈達に顔を向けて、今度ははっきりと力強く言葉にする。
「救けに行きたい」
「緑谷さん!?」
「ヴィランと戦う気か!?USJの時で懲りてないのかよ!?」
八百万が驚き、峰田が震えながら叫ぶ。
しかし、緑谷は首を横に振る。
「違うよ!僕は考えてるんだ。ヴィランと戦わずに、オールマイト達を、皆を救う方法を……」
今までの印象とは違う緑谷の言葉に、一佳達も目を見開く。
しかし、流石にそれは都合がよすぎると誰もが思う。
「無理だろうと、探さないと見つからないんだ。今の僕達に出来る最善の方法を」
「デク君」
緑谷の言葉に麗日が胸の前で手を握る。
その時、メリッサが前に出て、声を上げる。
「ヴィランが警備システムを掌握してるなら、認証プロテクトやパスワードは解除されてるはず。私達でも再認証が出来るわ。ヴィランの監視の目を逃れて最上階まで行ければ……皆を救けることが出来るかもしれない」
体は震えながらも力強いメリッサの言葉に、少しずつ可能性を感じ始める緑谷達。
「けど、監視を逃れるって言っても……」
切奈が一番の問題点を指摘する。
「現時点で私達に実害はないわ。ヴィランはまだ警備システムの扱いに慣れていないと思う」
「戦いを避けてシステムを元に戻すか……なるほどな」
メリッサの言葉に轟が納得する。
「で、どうすんだ?そうなると、ここで悩んでる時間はねぇぞ」
「ヴィランがシステムの扱いに慣れちゃうかもね」
「ん」
戦慈が腕を組んで結論を促す。柳がその理由を口にして、唯も頷く。
「しかし、流石に最上階にはヴィランが待ち構えてますわ」
「戦う必要はないんだ」
八百万が最後の懸念を口にすると、緑谷が答える。
「システムを元に戻せば、オールマイト達も解放される。そうなれば一気に形勢は逆転するはず……」
「それは甘すぎるだろ」
戦慈が緑谷の言葉を楽観的だと否定する。
「こんなことが出来た連中だ。そう簡単にコントロールルームを空にするわけがねぇ」
「でも……!」
「だから俺が連中を引きつける。その間にお前らはシステムを戻しに行け」
「拳暴君……!?」
「拳暴!?」
「まさか連中もガキが二手に別れて暴れるなんて思わねぇだろ。元々、俺の図体で隠密なんて向いてねぇんだ」
「だからって!」
「もちろん、出来る限りはバレねぇように動く。どうやってもバレるって時の話だ。俺なら多少やられても、すぐに回復する。俺ほど囮に適してる奴はいねぇ。最悪を想定して動け。そんで、それでもやりきるって覚悟を決めろや」
戦慈はまっすぐに緑谷を見て、言い放つ。
緑谷や飯田は流石に顔を顰めるが、今度は里琴が声を上げる。
「……戦慈は1人で戦わせない」
戦慈の肩越しに、そして無表情だが力強く告げる里琴。
それに一佳はため息を吐いて、切奈達を見る。
顔を向けられた切奈は苦笑して肩を竦めて、唯と柳、茨も力強く頷き、ポニーは両手を握り締めてフンス!と鼻を鳴らす。
一佳も苦笑して、すぐに顔を引き締めて頷く。
そして八百万達に顔を向ける。
「里琴の言う通りだ。拳暴が暴れるときは私達もサポートする」
「ま、拳暴の近くにいれば、安心だしね」
「ん」
「オールマイトと殴り合えるからね」
「私も力になれるでしょう」
「頑張りマァス!!」
「……ん」
一佳達の言葉に里琴も頷く。
八百万や飯田はまさかの一佳の言葉に目を見開く。
「拳藤くん!?」
「悪いな。委員長としては間違ってるんだろうけど……。ここで
苦笑しながらも力強く言う一佳。それに切奈達も頷く。
それに感化されたのか、麗日と耳郎も立ち上がる。
「私も行く!!」
「うちも!」
どんどん風向きが変わり始める状況に飯田、八百万は葛藤するように考え込み、上鳴、峰田は未だにオロオロしている。
「麗日さん……!」
「轟君の言う通りだよ。出来ることがあるのに、何もしないでいるのはイヤだ。そんなのヒーローになるならない以前の問題だと思う」
麗日は力強く緑谷に言う。
それに緑谷も勇気をもらったかのように、笑顔で頷く。
「うん!困ってる人達を救けよう。人として当たり前の事をしよう!」
その様子を見ていた飯田は、緑谷達に毅然と言う。
「これ以上駄目だと判断したら引き返す。その条件が飲めるなら、俺も行こう」
飯田とて皆を救けたかった。
しかし、その思いは時に無謀にしかならず、最悪の事態を招く。保須市での経験は、兄が倒れたことと同じくらいの傷になっている。
緑谷や戦慈のように心赴くままに動きたい。
されど、己は委員長。そして、緑谷の友である。
自分を止めてくれた緑谷に、同じ思いをさせるわけにはいかない。
だからこそ、自分が止める。
「飯田君……」
緑谷は飯田の覚悟をしている顔を見て、決して無謀なことはしないと心で誓う様に頷く。
それを感じ取ったのか、八百万も覚悟を決めた顔で前に出る。
「そう言うことであれば、私も」
「なら、俺も!!」
そこにちゃっかりと上鳴も参加する。
上鳴の裏切りによって、遂に峰田だけが流れに取り残されてしまい、恐怖で顔面蒼白になっていた。
USJの緑谷の横でのヴィランとの戦いへの恐怖を覚えている。それは当然の事であり、何より峰田の『個性』は戦闘向きではない。
なので、自分の身を守る最大の術は、『自分から危険の中に飛び込まない』ことである。
しかし、今の流れではどうやっても逃げれそうにない。このままでは、ここに1人で待つことになる。
そんな時の解決策は唯一つ。
「あーもー!!分かったよ!行けばいいんだろ!行けば!!」
強い者達の傍にいることである。
峰田はやけっぱちで泣き叫び、上鳴や麗日が慰めるように元気づける。
それを横目に緑谷はメリッサに声を掛ける。
「メリッサさんはここで待っていてください」
「ううん。私も行くわ」
真剣な顔で首を横に振り、同行を名乗り出るメリッサ。
その言葉に緑谷はもちろん、他の者達も目を見開く。
「で、でもメリッサさんは……」
「この中で警備システムの設定変更できる人いる?」
「あ……」
緑谷や戦慈達を見渡しながらのメリッサの言葉に、緑谷はポカンと声を上げる。
「私はアカデミーの学生。役に立つと思う」
「でも……」
「連れていくぞ、緑谷」
「拳暴君……!?」
「拳暴?」
緑谷は流石に危険だと思ったが、戦慈が声を上げる。
緑谷は目を見開いて振り返り、一佳も首を傾げる。
「戦いを避けるなら連れていっても問題ねぇだろ。これだけいれば1人くらい守る余裕はあるはずだ。それに俺達じゃタワーの地理もねぇんだ。中に詳しい奴を連れていくのは、戦いを避けるならむしろ必要不可欠だ」
「そうだね。それに携帯も通じないんだから、ここで待たせてコントロールルームに着いても意味ないよ」
「これで誰もシステム扱えなかったら、目も当てられねぇ。だったら多少時間かかって、無理をしても連れていく方がいい」
戦慈と切奈の言葉に、緑谷は考え込むように俯く。
「そもそも無茶しようとしてる俺らが、決めれることじゃねぇよ。本人が覚悟決めてんだぞ。出来ることをやるっつったのは、てめぇだろうが」
「……全員無免許」
ヒーローを目指している緑谷達とはいえ、本来はメリッサ同様大人しくしていなければいけない。
「ヒーロー科じゃねぇからって遠ざけんな。体育祭でも普通科でヒーロー目指してる奴いただろ。それにサポート科の奴もな」
「あ……」
「そいつと俺らは何も変わらねぇだろ。何よりさっき言ってたじゃねぇか。人として当たり前の事をしようってな」
「あ~、言ってたな」
「麗日もヒーローになるならない以前の問題って言っちゃってた」
「えぇ!?」
戦慈の言葉に、緑谷は心操や発目の事を思い出し、更には先ほど麗日との言葉を持ち出されて何も言えなくなってしまった。
一佳と柳も追撃を放ち、麗日が顔を引きつかせる。ぶっちゃけ勢いで言っただけだからだ。もちろん救けたい気持ちは本当だが。
「体力がヤバいなら俺が背負うし、拳藤のデカい手で運べばいいだろ」
「……まぁ、それくらいしか手伝えそうにないし、文句ないけどさ」
「いいじゃんいいじゃん。私なんてまともに『個性』使えないんだよ?」
文句はないが、他人から言われるのは何か釈然としない一佳。
眉間に皺を寄せている一佳を切奈が自虐を言って宥める。ドレス姿では体を切り離すにも限界がある。下手をすると全裸になってしまうからだ。
「だから、メリッサさんの護衛は私や唯達で請け負うよ」
「出来ることが少ない」
「ん」
柳は浮かすものがなければ何も出来ないし、唯も同様である。
八百万の《創造》があるが、限界容量があるので使いどころを考えないといけない。だから、無理に武器を頼めない。
切奈達の言葉に、緑谷も覚悟を決める。
「……分かりました。行きましょう!皆を救けに!」
「ええ!」
互いに真剣な顔で頷き合う緑谷とメリッサ。
その後、緑谷が再度オールマイトの様子を見に行って、オールマイトに自分達で動くことをどうにかして伝える。
そして、改めて全員で顔を見合わせて、飯田が声を上げる。
「行くぞ!!」
『おう!』
I・アイランド編4,5話くらいかな?と思っていましたが、ようやく事態が動き出しました(-_-;)
そして8人追加って隠密出来るんか?って、ツッコみたくなってしまいましたが、後悔はしていません。ハーレム連れてきた時点で、こうなる運命だったんだから(笑)