『拳』のヒーローアカデミア!   作:岡の夢部

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今回は映画のストーリーほぼそのままとなります。
映画をまだ見ていない方はネタバレとなるので、ご注意ください。


拳の四十八 衝撃の事実

 メリッサと緑谷は最上階に続く非常階段で重なるように倒れていた。

 

 もちろん緑谷が下である。落ちる際にメリッサを庇ったのだ。

 メリッサは慌てて体を起こして、緑谷の上から降りる。

 

「デク君、大丈夫?」

「だ、大丈夫です。メリッサさんは?」

「うん、大丈夫。かすり傷程度」

 

 後頭部を擦りながら起き上がり、メリッサを心配する緑谷に、メリッサも笑みを浮かべて頷く。

 そして、周囲を確認するとあることに気づく。

 

「あら?里琴さんは?」

「え?」

 

 緑谷も当たりを見渡すが、里琴の姿が見当たらなかった。

 突撃する前に離れた記憶はない。

 共に突っ込んだはずだ。

 すると、階段を上がった先から、

 

「ちぃ!!クソガキがぁ!」

「……くそジジイ」

 

 ビュン!ビュン!と鋭く風を切り裂く音と共に、里琴と男の声が聞こえて来た。

 緑谷とメリッサは顔を強張らせて、すぐさま階段に向かう。

 

 階段を上がった先では、里琴と両腕を刃物にした男、ソキルが戦っていた。

 里琴はアクロバットのようにバク転や三角跳びと《竜巻》を組み合わせながら、軽やかに躱している。反撃したいが、やはり80階のヴィラン同様、あまり隙が無く、反撃が容易ではなかった。しかも狭い通路では下手に竜巻を使うことは出来なかった。

 そして、ソキルは苛立ちで顔を顰めながら腕を振るっている。

 

「巻空さん!!」

「……遅い」

「ちぃ!」

 

 緑谷が構えて参戦する。

 ソキルは舌打ちをして緑谷に斬りかかるが、背中を見せた隙を見逃さずに里琴が細い竜巻を放つ。

 

「ぐっ!」

 

 ソキルは体を捻り仰け反る様に躱す。

 その瞬間、緑谷は壁に飛び掛かって壁を蹴り、三角跳びの要領でソキルに殴りかかる。

 

「スマーッシュ!!」

 

 ソキルは体勢を崩していたため避けれずに、左頬に緑谷の拳がクリーンヒットする。

 

「ぐはぁ!?」

 

 フルガントレットのおかげで普段以上に力を出すことが出来る。

 ソキルは錐揉み状態になり、吹っ飛ぶ。

 そこに更に里琴が天井近くまで飛び上がって、両手で天井を押して勢いよく落ちて、両足を合わせて伸ばして吹き飛んできたソキルの顔に叩きつける。

 

「……そいや」 

「ぶぺぁ!?」

 

 顔から床に叩きつけられたソキルは変な声を上げて、白目を剥いて気絶する。

 里琴は更に蹴り飛ばして、ソキルを壁際に追いやる。

 

「……え、えげつない……」

 

 緑谷は里琴の仕打ちに顔を引きつかせて、メリッサは苦笑いしか出来なかった。

 すると、緑谷は里琴の右上腕に切り傷が出来ていることに気づいた。

 

「巻空さん……!傷が……」

「……かすり傷。……さっさと行く」

「う、うん!」

 

 里琴は何でもないように答えて走り出す。

 緑谷とメリッサもすぐに顔を引き締めて、後に続いた。

 階段を上がると、2人のヴィランがライフルを構えて待ち構えていた。

 

「来たぞ!!」

 

 ヴィランは里琴達を目にした瞬間、ライフルを連射する。

 緑谷はメリッサを庇って下がり、里琴は飛び上がって竜巻を高速で放ってヴィラン達を壁に叩きつける。

 

「……突撃」

「うん!」

 

 緑谷は壁を跳び跳ねて、一瞬でヴィラン達の目の前に移動して殴り飛ばす。

 ヴィラン達は壁にクレーターを作って叩きつけられて気絶する。

 

 そして、ようやく緑谷達は最上階の200階に到達する。

 通路に出た3人は、敵の姿に細心の注意を払いながら移動する。

 ここはヴィランも絶対に守りきりたい場所であり、下手に被害を出せない場所だ。それは緑谷達も同様であり、出来る限り戦闘は避けたい。

 

「メリッサさん。コントロールルームは?」

「中央エレベーターの前よ」

 

 3人は一気に角まで走り、周囲を確認する。

 すると、コントロールルームとは反対方向にある通路の先に開いた扉があり、その中に人影が見えた。

 

「誰かいる」

 

 緑谷の言葉に出来る限り身を顰めるメリッサだが、部屋の中の人影にハッとする。

 

「パパ……?」

「……本当だ!」

 

 部屋の中にいたのはデヴィットだった。

 真剣な顔でコンソールを操作しており、他に人影は見当たらなかった。

 

「どうして最上階に……?」

「……あの部屋は何があるの?」

 

 メリッサが訝しむと、里琴が声を掛ける。

 

「え?あそこは保管室よ。貴重な物質や危険な発明品を管理しているの」

「ヴィラン達の狙いは保管室にあるもの?それを博士に取り出させてる?」

 

 メリッサの答えに緑谷が顎に手を当てて考え込む。

 それにメリッサが心配で顔を歪める。

 

「救けないと……!」

「はい」

 

 メリッサの懇願のような声に緑谷も頷き、慎重に動き出す。

 

 

 

 部屋の壁がブロックのようなボックスになっており、それは天井まで敷き詰められている。

 デヴィットはヴィランに連れて来られてから、ずっと作業を続けていた。そして、遂にプロテクトの解除が出来、顔に笑みを浮かべる。

 

「コードを解除出来た。1147ブロックへ」

 

 デヴィットの嬉しそうな声に、助手のサムが急いで短い階段を駆け上がり、壁のボックスに向かう。

 すると、サムが近づいたボックス壁の一角から何かが動く音がして、サムの目の前にボックスが飛び出してくる。

 サムは飛び出してきたボックスを開けると、中にアタッシュケースが置かれていた。それを取り出して、デヴィットに向き直る。

 

「やりましたね!博士!」

 

 デヴィットはサムに駆け寄る。

 サムはアタッシュケースを開けて、中を見せる。

 中にはデータが入ったケースと小さめの丸いものにフックがついている装置が入っていた。

 

「全て揃っています」

「……ああ、遂に取り戻した。この装置と研究データだけは、誰にも渡さない。渡すものか……」

 

 デヴィットは装置を見つめて、覚悟を決めた顔で拳を握り締める。

 サムは一瞬複雑な顔をしたが、すぐに表情を戻してデヴィットに語りかける。

 

「プラン通りですね。ヴィラン達も上手くやっているようです」

「……ありがとう。彼らを手配してくれた君のおかげだ、サム……」

 

 サムの声にハッとして、デヴィットは礼を言う。

 その時、

 

「……パパ……?」

 

 強張っているが、聞き間違えようのないここで聞こえるはずがない声にデヴィットとサムは驚いて、声の方に振り返る。

 そこには目を見開いて顔を強張らせているメリッサ、その後ろには同じく驚いて戸惑っている緑谷と無表情の里琴がいた。

 

「メ……メリッサ……!」

「お嬢さん、何故ここに?」

 

 デヴィットとサムの声にメリッサは答えることなく、ふらつきながら足を進める。

 

「手配したって……なに?」

「……」

「もしかしてこの事件、パパが仕組んだの?」

「……」

「その装置を手に入れるために?」

 

 メリッサの問いに、デヴィットも答えられない。

 しかし、メリッサはその反応で自身の問いが真実であると理解してしまう。

 それでも父からはっきりと答えてもらわなければ納得出来なかった。

 

「……そうだ」

 

 デヴィットはきつく目を閉じて、両手を握り締めながら呻くように答えた。

 否定してほしかったメリッサは、完全に身を強張らせてしまう。

 オールマイトや島の全員、そして自身より年下の緑谷達に命がけで戦わせた原因が、自分の父でありオールマイトの親友であるデヴィットだった事実はメリッサに深く突き刺さった。

 

「博士は奪われた物を取り返しただけです。機械的に『個性』を増幅させる、この画期的な発明を……!」

 

 デヴィットを擁護しようと声を上げたサムの言葉に、メリッサと緑谷は眉を顰める。

 

「『個性』を増幅……!?」

「ええ、まだ試作段階ですがこの装置を使えば薬品などとは違い、人体に影響を与えずに『個性』を増幅させることが出来ます。しかし、この発明と研究データはスポンサーにより没収。研究そのものを凍結させられた。これが公表されれば、超人社会の構造が激変する……。それを恐れた各国政府が圧力をかけてきたのです。だから博士は……」

 

 サムは顔を顰めながら、理由を語る。

 

 確かに画期的な発明だが、未だに超人社会となったことによる弊害、つまりヴィランと言う存在がひしめく中では更に混乱が増す可能性が否定できない。

 しかし、デヴィットはそれでもこの研究は有益なものだと訴えても、各国政府は耳を貸さなかった。

 結局、研究は奪われてしまった。

 再び研究を始めようにも、各国の圧力でスポンサーも団体も見つからなかった。ヴィラン団体でさえも。

 その結果、デヴィットのラボから人はどんどんいなくなり、残ったのはサムだけだった。

 

 絶望と諦観に襲われたデヴィット。

 そこにサムが今回の計画を提案し、デヴィットもある思いを胸に頷いたのだ。

 

「なんで……なんで!?私が知ってるパパは絶対にこんなことしない!どうして……どうして……?」

 

 メリッサは取り乱したように叫び、顔を俯かせる。

 その姿にデヴィットは秘めていた覚悟が揺るぎそうになる。苦し気に顔を歪め、絞り出すように声を出す。

 

「……オールマイトのためだ……」

 

 デヴィットが上げた名前に緑谷は目を見開いて驚く。

 

「お前達は知らないだろうが、彼の『個性』は消えかかっている……」

 

 衝撃の事実にメリッサは唖然と立ち尽くし、里琴も僅かに目を見開く。

 その横で緑谷は今にも崩れ落ちそうな感覚に襲われる。

 

「だが、私の装置があれば元に戻せる。いや、それ以上の能力を彼に与えることが出来る。No.1ヒーローが……平和の象徴が……再び光を取り戻すことが出来る!また多くの人達を救うことが出来るんだ!」

 

 オールマイトの思いを知っている。その覚悟の重さを隣で見てきた。

 自分の親友で憧れであるオールマイトのためならば、平和の象徴が再び立ち上がるためならば、喜んで汚名を被る。

 デヴィットはそう決めたのだ。

 

 その覚悟と想いに、緑谷は改めて《ワン・フォー・オール》を受け継いだ重さを思い知る。

 オールマイトは『無個性』だったと聞いた。そして、もうまともに戦える体ではないことも。それは自分が《ワン・フォー・オール》を受け継いでから、更に顕著になった。

 それがデヴィット博士の絶望を深め、今回の事件の原因となったことに緑谷は両手を強く握り締める。

 

 緑谷の様子に気づかず、デヴィットはアタッシュケースを抱えてメリッサに叫ぶ。

 

「頼む!!これをオールマイトに渡させてくれ!もう作り直している時間はないんだ!その後でなら、私はどんな罰でも受ける覚悟が……」

「命がけだった……!」

 

 デヴィットの言葉を遮って、メリッサは緑谷や里琴を手で指して叫ぶ。

 

「捕らわれた人を救けようと、デク君や里琴さん、クラスメイトの皆が、ここに来るまでどんな目に遭ったと思ってるの!?」

 

 デヴィットはその叫びに、ようやくメリッサや緑谷、里琴の姿を冷静に見ることが出来た。

 メリッサも所々汚れており裸足で、緑谷も右袖が破れており、里琴も裸足で所々傷があった。

 デヴィットは困惑する。

 

「ど、どういうことだ……?ヴィランは偽物、全ては芝居のはず……」

 

 デヴィットは困惑したまま、サムを見る。

 サムは気まずげにサッ!とデヴィットから顔を逸らす。

 その直後、デヴィットや里琴達の耳に高圧的な声が届く。

 

「もちろん芝居をしてたぜ。偽物ヴィランという芝居をな」

 

 バッ!と全員が声がした方向を見る。

 保管室の入り口には、ニヤリと笑いながら保管室の扉に触れているウォルフラムと眼鏡の男が立っていた。

 

「あいつは……!」

 

 会場にいたヴィランだと気づいた緑谷はすぐさま殴りかかろうと、全身に《ワン・フォー・オール》を巡らせる。

 里琴も足裏から竜巻を放って、飛び上がる。

 しかし、それより先に、扉に触れていたウォルフラムの手が光る。

 直後、保管室の手すりがメキメキと外れ、生き物のように動き出す。そして緑谷と里琴に襲い掛かる。

 

 緑谷は躱そうとするが手すりの方が速く、体を絡めとられ壁に叩きつけられて、さらに縫い付けられる。

 

「デク君!」

 

 メリッサが緑谷に駆け寄る。

 

 里琴は空中を飛び回って、襲い掛かってくる手すりを回避する。

 

「……くたばれ」

 

 里琴は回転して飛びながら、ウォルフラム達に竜巻を数本放つ。

 

「ちっ」

 

 ウォルフラムは舌打ちして、更に『個性』を発動する。

 今度は床から鉄壁がせり出てきて竜巻を防ぐ。さらに鉄柱が数本飛び出し、手すりのように里琴に襲い掛かる。

 

 里琴は更にスピードを上げて飛ぶ。

 竜巻を放って鉄柱を壊していくが、次々と鉄柱が襲い掛かってくる。

 

「……っ!」

「さて、いつまで耐えられるかな?」

 

 里琴は僅かに眉間に皺を寄せ、ウォルフラムはニヤリと笑って里琴を狙い続ける。

 緑谷が拘束を解こうともがくが、全く外れない。口も塞がれているので、声も出せなかった。

 

(金属を操る『個性』……!マズイ!限界容量がない種類だ!)

 

 緑谷はウォルフラムの『個性』を見抜きながら、里琴を見る。

 里琴はまだ躱せているが、明らかに紙一重になりつつある。

 

「……邪魔が多い」

 

 里琴はメリッサやデヴィット達がいるため、全力で竜巻を放てない。そのため、躱すのと僅かに砕くので精一杯だった。

 そして、どんどん逃げ道がなくなっていく。

 

「これで終わりだぁ!!」

 

 ウォルフラムが叫ぶと、全方向から鉄柱が飛び出す。

 里琴は回転しながら竜巻を纏って防ごうとするが、防ぎきれずに鉄柱が竜巻を突き破って里琴に直撃する。

 

「……っ!?」

 

 里琴はそのまま壁に叩きつけられて、鉄柱と挟まれる。

 

「里琴さん!!」

 

 メリッサが叫び、デヴィットや緑谷が目を見開く。

 里琴は背中から床に落ちて、そのまま倒れ伏す。気絶したのか、そのまま起き上がらなかった。

 

「ようやく静かになったな」

 

 ウォルフラムは立ち上がり、デヴィットに顔を向ける。

 すると、サムがデヴィットからアタッシュケースを奪い取り、ウォルフラムに駆け寄る。

 

「こ、これです!」

「よくやった、サム」

「……サム?」

 

 サムとウォルフラムの会話にデヴィットは唖然として、少しずつ事態を把握する。

 

「……ま、まさか……最初から装置をヴィランに渡すつもりで?」

 

 デヴィットの声にサムは振り返る。

 

「だ、騙したのはあなたですよ。長年、あなたに仕えてきたというのに、あっさりと研究は凍結。手に入る栄誉、名声……全てなくなってしまった。せめてお金くらい貰わないと割りに合いません……!」

 

 サムは今まで塞き止めていたものを吐き出すかのように言った。

 その両目には涙が浮かんでおり、あまりにも弱々しかった。

 その姿にデヴィットは苦しんでいたのは自分だけではなかったことに気づいた。研究に心血注いでいたのは自分だけではなかったのに。

 そして、サムをあそこまで堕としたのは、間違いなく自分である。今回の作戦に乗らなければ、違う形で苦しめていたかもしれないが少なくとも今のような事態にはならなかっただろう。

 全て自分の弱さが原因だったのだ。

 

「じゃあ、これが謝礼だ」

 

 ウォルフラムの声にサムが振り返ると、目に入ったのは銃口だった。

 直後、なんの戸惑いもなく発砲され、サムの肩に命中する。

 

「あ、がぁ!?」

 

 血を噴き出して倒れるサム。

 それにデヴィットやメリッサが目を見開いて驚く。

 

「な、何故……約束が違う……」

「約束ぅ?ヴィランに何言ってんだ、お前」

 

 肩を押さえて痛みに耐えながら、ウォルフラムに目を向ける。

 ウォルフラムは愉快そうに銃口を向けたまま言い放つ。

 

「お前は装置を守るためにヴィランに立ち向かうも、反撃されて殺される勇敢で哀れな研究員だよ。よかったなぁ、名誉を手に入れられて。ただし……名誉の死って奴だがな」

 

 そう言い放ったウォルフラムは躊躇なく引き金を引く。

 パァン!と銃声が響き、血が撒き散る。

 目に入った光景に緑谷とメリッサは目を見開く。

 

 撃たれたのはデヴィットだった。サムを庇って胸から血を流しながら倒れる。

 サムは呆然と血を流すデヴィットを見つめ、メリッサがデヴィットに駆け寄ろうと走り出す。

 

「パパ!ああっ!?」 

 

 しかし、その前でウォルフラムがメリッサを容赦なく殴り飛ばす。

 床を転がるメリッサにデヴィットが痛みも忘れて起き上がろうとするが、ウォルフラムが背中を踏みつける。緑谷は相変わらずもがいているが、一向に拘束は外れない。

 デヴィットは痛みに呻き、ウォルフラムは終始ニヤニヤしてデヴィットを見下ろす。

 

「諦めろ。どんな理由があろうと、あんたは悪事に手を染めた。俺達が偽物だろうと、本物だろうと、あんたの悪事は消えない。俺達と同類さ。あんたはもう科学者でいることも、研究を続けることも出来ない」

 

 ウォルフラムの言葉に、デヴィットは後悔の念に押し潰されそうになる。

 

「今のあんたに出来ることは俺の元で装置を量産するか、そのまま命で償うことくらいだ」

 

 ウォルフラムはそう言いながら、デヴィットの襟首を掴み上げて持ち上げ、銃のグリップを首に叩きつけて気絶させる。

 そして、眼鏡の男に「連れていけ」と指示を出す。

 

「パパを……返して……!」

 

 その時、メリッサが這いずりながら呻くように叫ぶ。

 ウォルフラムは振り返り、ニヤリと笑みを浮かべて銃口を向ける。

 

「そうだな。博士の未練は……断ち切っておかないとなぁ……!」

「や゛め゛ろ゛ぉ~!!」

 

 緑谷は渾身の力を籠めて、叫びながら鉄の拘束を振り解く。

 そのまま壁を蹴って飛び出し、ウォルフラムに殴りかかる。

 

「スマーッシュ!」

 

 ウォルフラムは素早くしゃがんで床に手を触れる。

 そして、緑谷の目の前に鉄の壁が出現し、緑谷の拳をクレーターを作りながらも受け止める。

 緑谷は眉を顰めると、メリッサに目を向ける。

 メリッサは力強い緑谷の目を見て、何を伝えたいのか理解する。

 

「……!」

 

 メリッサは涙を拭って、足をもつれさせながら立ち上がって走り出す。

 

「逃がすな!」

 

 ウォルフラムが叫ぶと、眼鏡の男が走り出してメリッサを追いかける。

 緑谷はすぐさま眼鏡の男を追いかけようとすると、次々と鉄の壁が出現する。それを緑谷は壁から壁を高速で跳ねて一気に飛び越えて、眼鏡の男の前に降り立つ。

 

「行かせない!」

「調子に乗るなぁ!!」

 

 ウォルフラムが苛立ちながら叫ぶと、鉄柱が襲い掛かる。

 緑谷は腕で受け止めるが、あまりの威力に背中から壁に叩きつけられる。歯軋りをして必死に耐えるが、どんどん重量が増えていき、じりじりと押されていく。

 

 その間にメリッサはコントロールルームに駆け込む。

 コンソールの前に座ったメリッサは素早く、正確に設定を変更していく。

 少しすると、非常事態を示していた赤い表示が元の緑色に戻っていく。そして、タワー内の明かりが戻り、隔壁が上がっていく。さらに警備マシンも機能を停止して待機モードに戻る。

 

 

 それにサーバールームで戦っていた一佳達は一瞬唖然とする。

 

「止まった……?」

「ということは……」

「緑谷くん達、やってくれたか!」

 

 切奈が首を傾げ、一佳は肩で息をしながら見渡し、警備マシンが止まったことに飯田が笑みを浮かべる。

 それに八百万達も一佳達も笑みを浮かべて座り込んで一息つく。

 

「大丈夫ですか?」

「何とかね」

「ん」

「息を整えたら、上を目指そう!まだヴィランもいるから、気を抜かないように!」

 

 飯田の号令に頷く一佳達。

 そして、10分ほど休憩して、すぐに駆け出すのだった。

 

 

 

 レセプション会場でも突如照明がつき、プロヒーロー達の拘束が解除された。

 それにヴィランの部下達が慌てるが、一瞬でプロヒーロー達が詰め寄り撃退される。

 あっという間に拘束されたヴィラン達の姿に、パーティー参加者達が歓声を上げる。

 

「やってくれたか皆……!」

 

 オールマイトも立ち上がり、僅かに咳込みながら笑みを浮かべる。

 そして、すぐさまウォルフラムを探しに駆け出すのであった。

 すると、携帯が鳴り、相手を確認するとメリッサからだった。

 

「どうした、メリッサ!」

『マイトおじさま!パパがヴィランに連れていかれて、デク君が後を追って……!』

 

 泣きそうで切羽詰まったメリッサの声に、オールマイトは体に力を籠める。

 

「大丈夫!私が行く!!」

 

 メリッサを励ますオールマイトの顔はいつもの笑みだが、その目は冷たく鋭かった。

 

 

 

 

 手足を縛られたデヴィットを肩に抱え、片手にアタッシュケースを持ったウォルフラムは眼鏡の男を従えて屋上ヘリポートへと上がる。

 ヘリポートにはすでにヘリコプターが止まっており、ウォルフラムはヘリコプターに近づく。

 

「警備システムが再起動しきる前に出るぞ」

 

 ウォルフラムは部下に指示を出しながら、後部のドアを開けてデヴィットとアタッシュケースを放り込む。

 操縦席には待機していた部下と眼鏡の男が乗り込み、エンジンを急いで起動する。

 そして、ウォルフラムも乗り込もうとした時、

 

「待て!!」

 

 顔だけで後ろを振り向くと、入り口のところに息を荒くしながら緑谷がウォルフラムを睨んでいた。

 緑谷はウォルフラムを鋭く睨みながら叫ぶ。

 

「博士を返せ!」

 

 デヴィットは運ばれている途中で意識を取り戻しており、緑谷の姿を見て目を見開く。

 ウォルフラムは馬鹿にするような顔を緑谷に向ける。

 

「なるほど。悪事を犯したこの男を捕えに来たのか?」

「違う!!僕は博士を救けに来たんだ!!」

 

 緑谷は叫びながら、《ワン・フォー・オール》を全身に巡らせて飛び出す。

 ウォルフラムも地面に手をついて『個性』を発動する。

 

「犯罪者を!?」

 

 鉄柱を生み出して緑谷に襲い掛からせる。

 緑谷は鉄柱を跳んで躱しながら、ウォルフラムに向かう。

 

「僕は皆を救ける!!ぐぅ!!博士も救ける!!」

「お前、何言ってんだぁ!?」

「うるせぇ!ヒーローはそうするんだ!困ってる人を救けるんだ!」

 

 緑谷は激情のまま叫びながら、次々と襲い掛かってくる鉄柱を躱したり、殴り壊していく。

 しかし、ウォルフラムはその様子を嘲るように笑いながら拳銃をデヴィットに向ける。

 

 緑谷は目を見開いて動きを止めて、悔し気に顔を歪めて降り立つ。

 両手を握り締めてウォルフラムを睨む緑谷の姿に、ウォルフラムはふてぶてしく笑う。

 

「まったくヒーローってのは不自由だよなぁ!たったこれだけで身動きが取れなくなる」

 

 そして緑谷の正面から鉄柱をぶつける。まともに受け止めた緑谷の上からも鉄柱が襲い掛かる。緑谷はギリギリで躱すが、直後真下から鉄柱が飛び出し、空中に押し上げられる。緑谷はジャンプして逃げようとしたが、左右から鉄柱が襲い掛かってきて挟まれる。トドメとばかりにまた真下から鉄柱が突き上げてきて、空中に放り投げ出される。

 

「がはっ!」

 

 口から血を吐き出し、背中から地面に叩きつけられる。

 

「どっちにしろ、利口な生き方じゃない。出せ」

 

 ウォルフラムが吐き捨てながらヘリに飛び乗る。

 直後にヘリが浮き上がり、飛び立っていく。

 緑谷はすぐさま起き上がり、全力で駆け出す。そして、空へ伸びている鉄柱を駆けのぼり、ヘリに向かって思い切りジャンプする。

 ヘリの車輪にしがみつく。それにガクンと揺れて、操縦席でパイロット達もむち打ちになる。

 緑谷は揺れるヘリに必死にしがみついて、振り落とされまいとする。そして、必死に腕を伸ばして後部へとよじ登る。

 

「……君は……!」

 

 デヴィットは緑谷の姿に目を疑うことしか出来なかった。

 その頃、メリッサがヘリポートにやってきて、ヘリにしがみつく緑谷の姿を見つける。

 

「デク君……!」

 

 緑谷はデヴィットに手を伸ばす。

 

「もういい。逃げろ、ミドリヤ君……!」

「メリッサさんが……メリッサさんが待ってます!」

 

 必死にデヴィットに呼びかける緑谷。

 愛する娘の名前と緑谷の姿に熱いものが込み上げてきた。

 その時、

 

「確かにお前はヒーローだ。馬鹿だけどな」

「「!!」」

 

 ウォルフラムが銃を緑谷に向ける。

 ハッとしたデヴィットが縛られた脚を振り上げて銃を蹴り、直後に発砲される。狙いがズレた銃弾はフルガントレットに当たり、弾かれるがその衝撃でヘリの外に飛ばされてしまう。

 

「ああ!?」

 

 ヘリから手を放して落ちてくる緑谷の姿にメリッサが叫ぶ。

 緑谷は必死に手を伸ばすも、もちろんヘリは離れていく。頭の中で考えるも、無情にも距離は開いて行くばかりだった。

 その時、緑谷の横を高速で何かが通り過ぎる。

 

 通り過ぎた何かはヘリの前に移動して、竜巻を発生させて壁を作る。

 再びヘリが大きく揺れる。

 必死に操縦桿を握るパイロットの目には、無表情で空中に浮かぶ少女の姿が映る。しかし、少女の体からは明らかに怒りのオーラが噴き出していた。

 

「里琴さん……!」

 

 メリッサは里琴の姿にホッとする。保管室では怪我の状況を確認する余裕がなかったからだ。

 その時、ズドオォン!と音を立てて、クレーターを作って緑谷がヘリポートに叩きつけられて、メリッサは慌てて駆け出す。

 

 里琴はヘリが方向を変えようとした瞬間、高速で移動して竜巻の壁を生み出す。

 そのままヘリの周囲を飛び、ウォルフラムの姿を確認する。

 ウォルフラムは顔を顰めて、銃を里琴に向けて発砲する。

 里琴は素早く避けて、ヘリの真下に移動する。そして、ヘリを囲う様に竜巻を放つ。

 

「……っ!」

 

 里琴はヘリの中にデヴィットがいるのを確認していた。そのせいで再び攻撃したくても出来なかった。

 里琴は下を見て、緑谷の姿を確認する。

 緑谷は座り込んで、悔し気にこっちを見上げていた。

 

「……やるなら助けろ」

 

 里琴は苛立たし気に呟いて、竜巻を維持する。

 

 

「くっそおおおおぉぉ!!!」

 

 

 緑谷の叫び声が聞こえてくる。

 それに里琴は一か八か被弾覚悟でヘリに突っ込んでデヴィットを救出しようと足裏の竜巻を強めようとした時、

 

 

「こういう時こそ笑え!緑谷少年!」

 

 

 世界で一番頼りになる声。聞くだけで安心感が湧き上がってくる声が聞こえた。

 直後、タワーの中腹から何かが飛び出してきて、タワーの壁を捲り上げながら弾丸のように急上昇してヘリの上空で止まる。

 衝撃波が吹き荒れ、里琴は竜巻を解除する。そして、ヴィラン達も唖然として、それを見上げる。

 

 

「もう大丈夫。何故って!?」

 

 

 筋骨隆々とした巨体で、威風堂々としたNo.1ヒーローが現れた。

 

 

「私が来たぁ!!!」

 

 

 

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